「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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お久しぶりです、NARです。
大変お待たせしました。最新話の投稿です。

※誤字があったので修正しました。


刺激的なツーリング

<暁美ほむら>

 

魔女__沢渡曰く、銀の魔女というらしいこの魔女の結界は高速で移動している。その速度は、探知範囲が20メートル以上あるソウルジェムが魔女の反応を捕捉するよりも速い。

しかし、高速で移動する結界に対して、その主である銀の魔女は極めて鈍重で動きが歪。まるで魔女と結界の性質が互いに入れ替わったかのように奇妙なバランスで成り立っていた。

 

だけど、違った。魔女はまだ、本気を出していなかったのだ。

 

「なるほど、ここからが本番という訳ね。」

 

ブオンッブオオンッ!!としつこいくらいにエンジンを鳴らす銀の魔女。結界全体を震わせるその音が脳を揺らし、膝を立てるとクラリと一瞬立ち眩みに襲われる。

首に巻き付いた小狐の使い魔を通して、イナリが心配そうに話しかけてくる。

 

『大丈夫か、ほむら?』

「えぇ、自分から後ろに跳んだおかげで、いくらか衝撃は和らげられたわ。このくらいなら魔法で止血しておけば大丈夫。」

『そうか……しかし、ほむら。これは提案だが、私は一度撤退するべきだと思う。』

 

「それはなぜか?」と視線で続きを促すと、イナリは銀の魔女を睨みつけながら理由を口にした。

 

『銀の魔女は特異課が調査をし、その性質や姿、行動範囲、弱点などの情報を緻密に調べ上げていた。だが、まさかヤツに第二形態まであるとは知らなかった。今のヤツの性質はさっきまでと同じなのか?攻撃手段は何か?弱点は?それらの情報が全く役に立たない可能性が高い。お前も少なくない傷を負っている以上、一度退いて態勢を立て直し、情報を集めてからの方が安全だと思う。』

 

なるほど、確かにイナリの言葉には一理ある。私も過去に形態変化をする魔女と戦ったことはあるけれど、いずれも手ごわい相手だった。お菓子の魔女なんかがまさにその例だ。今の私なら問題なく倒すことができるけれど、初見であの大蛇のような姿になって襲ってくるのは私でも反応できるか怪しい。その倒し方も、何度も戦ったことでようやく見つけ出せた攻略法に過ぎない。きっと、この銀の魔女も一筋縄ではいかないはず。

まして私は全身に傷を負っている。ただの人間ならば全治三か月という具合だ。普通に満身創痍と言えるわね。

これらを総括して考えると、イナリの言う通り一度撤退して態勢を立て直すなり、マキマに連絡して増援を寄こしてもらうなりするのが正しいのかもしれない。

 

 

 

だけど、背中を見せて逃げる私を、この魔女は黙って見過ごしてくれるだろうか?

 

 

 

(無理ね。結界を出たところを後ろから追いかけられて、また中に閉じ込められるのがオチね。)

 

まだ何もしていない状況で、魔女に見つかっていないのならばそれで何とかなったかもしれない。しかし、今の私は魔女にチクチクと攻撃をし続け、その果てに本気を引き出すほどに魔女を怒らせてしまっている。怨念をまき散らす魔女が、怒りを買った私を見逃してくれるはずがない。

 

私は静かに首を振った。

 

「残念だけど、それはできないわ。私はこの結界から逃げることすら叶わない。……彼女を見てみなさい。『早くコイツを轢き殺したくて仕方がない』って顔をしているわよ。」

『確かに、すごいな。分かりやすいくらいに怒っているぞ。』

 

ブオンッブオンッ!とエンジンを鳴らす魔女から視線を外さないように気を付けながら、ゆっくりと立ち上がる。穴の空いた傷は完全に塞ぐことはできないけれど、魔法少女であればこの程度、命に係わる傷とは言わない。痛覚を可能な限り弱め、いつものパフォーマンスが発揮できるように簡易的ながら態勢を整える。

 

「そういう訳だから、このまま戦闘を続行するわ。」

『分かった。私を上手く使え。決して死ぬんじゃないぞ。』

「言われずとも。___コン!」

 

私は右手の指を三本立て、魔女に向けてイナリの爪を召還する。

具現化したイナリの巨大な爪が空を裂き、魔女の銀色のフレームを切り裂こうとする。

 

だけど次の瞬間、魔女はドドドドドドッ!!とエンジンを響かせると、その姿が一瞬にして掻き消えた。

 

「消えた!?」

 

すぐに周囲を見渡し、死角からの攻撃に備える。

 

 

___その時、私の視界の中で眩いライトの光が横に筋を描いた。

 

 

標的を見失い、何も無いところを通り過ぎて奥にあった車数台を紙屑のようにぺしゃんこにしたイナリの腕が、突然破裂したかのように肉を抉られた!

『ぎゃあ!?』とイナリの悲鳴が耳をつんざくが、背筋に氷柱を押し当てられたかのような悪寒を感じ、私の身体は勝手に上へと跳び上がっていた。

直後、私の真下を銀色の影が駆け抜け、立っていた車はゴシャァッ!!と派手な破砕音と共に轢き潰された!

私は近くにあった車の上に着地したが、私の勘が「まだ終わっていない」と警鐘を鳴らしていた。

すぐにまた上へと跳び上がり、隣の車の上へと飛び移る。すると、私の立っていた車がまたスクラップへと変えられた。

 

回避、破壊、回避、破壊、回避、破壊、回避、破壊、破壊破壊破壊破壊破壊____

 

(!?まずい!動きを読まれている!?)

 

次の車の上に着地しようとした瞬間、ヤツは既に目の前にいた。足はまだ車のルーフにつま先が付いたばかりで、身体の自由は未だ空中に縛られたまま。再び跳び上がろうとして膝を曲げている頃には、私は車諸共魔女に轢き殺されているだろう。

 

止むを得ず私は左腕の盾を掲げ、この身に宿った魔法を発動させた。

 

(時間停止!!)

 

 

___瞬間、世界が灰色に塗り替わる。

 

 

何もかもが時を止められ、私に触れている者以外は再び動き出すことは叶わない。

 

そう、私に触れている者以外は…………。

 

「クゥン?」

 

私の首に尻尾を巻き付けていた小狐が困惑した様子で時が止まった世界を見渡していた。

 

「イナリ?」

「……?」

 

小狐は困ったように首を傾げるだけで、私の呼びかけに応える様子は無い。

どうやら時間を止めたせいで本体であるイナリとの接続が切れてしまったらしい。

視線を静止したままの魔女の方へと向ける。

この様子では望み薄であるが、一応試してみるとしましょう。

 

「コン。」

 

………………………………。

 

「やっぱり駄目ね。」

 

魔女は今、時を止められているせいで一切の身動きが取れないため、一方的に攻撃ができる状態である。

この状態で魔女化したイナリの攻撃を当てれば大ダメージを与えられるのだが、同じく静止した時の中に囚われているイナリは攻撃ができないらしい。私の首に巻きついている小狐も意志疎通を図るための端末でしかないようで、使い魔が無事だから本体も動けるという訳ではないようだ。

 

小狐は私の首に巻きついたまま呑気に毛繕いをしている。イナリの制御から離れた使い魔がゼロ距離から襲ってくるのではという不安で背筋が凍るが、今のところ首筋に牙を立てられる気配は無い。

さっさと魔法を解除して時間を動かそうと思い、盾の中から手榴弾を取り出す。そしてピンを抜いて魔女に向かって投げると、手榴弾は魔女に接触する前に空中で止まった。私の手から離れたために、止まった時の中に囚われたのだ。

私は魔女から離れて別の車の上に飛び移った。ここで魔法を解除すれば手榴弾が爆発し、すぐ近くにいる魔女を巻き込んでダメージを与えられるはずである。

もう既に十発以上の手榴弾を投げて攻撃をした。それによって魔女の頑丈な外殻は大量のダメージを蓄積している。おそらく、この一撃で魔女を捕獲可能な状態にまで弱らせることができるはずだ。

 

(だけど、なぜかしら……嫌な予感が頭から離れない。この一撃で終わらないかもしれないという予感が__)

 

そうは思えど、賽は既に投げられた。あとは魔法を解除し、その結果をこの目で確認する以外に出来ることは無い。

きっと大丈夫だと自身に言い聞かせ、私は盾に手を添えて魔法を解除した。

 

 

______時が再び動き出す。

 

 

それと同時に、視界の中にいたはずの魔女の姿が一瞬にして掻き消えた。

そこに残ったのは、標的を見失った手榴弾ただ一つ。私の魔力によって強化されたソレは、近くにあった車2、3台を吹き飛ばしただけに終わった。

 

爆風と粉々になった鉄屑の雨から顔を庇いつつ、すぐに周囲へと視線を走らせる。

すると、高速移動していたはずの魔女の姿は意外にもあっさりと見つかった。

 

彼我の距離、約30mほど。

あれだけ景気よく走り回っていた魔女は、今は唸り声を上げるようにエンジンを轟かせるだけで、それ以上に動く気配が無い。

蜘蛛の目のように並んだライトが怪しく光る。

 

もしかすると、魔女は私の時間停止の魔法を受けて、その違和感を敏感にも感じ取ったのかもしれない。そうでなかったとしても、瞬間移動のように位置を変えた上に、気付かぬうちに爆発を起こした私の行動に警戒心を上げているのかもしれない。

魔女にしては随分と頭が回るじゃない、と内心で皮肉りつつ、魔女の一挙手一投を見逃さないように注意を払う。

さて、ここからどう動こうかと考えを巡らせようとした時、耳元から困惑した声が聞こえてきた。

 

『な、なんだ?今、一瞬だけ使い魔との接続が切れたぞ!?ほむら、大丈夫か!?』

「イナリ?……私は大丈夫よ。」

『そ、そうか。それにしても、お前は今何をしたんだ?さっきまで魔女に轢かれそうになっていたというのに、気がついたらお前の立っている位置が微妙に変わっているし、魔女もあんな遠くに移動しているではないか。もしや、これがお前の固有魔法なのか?』

 

イナリはそう言うと、首を傾げながら私の顔を見つめてくる。

実を言うと、私はあの特異課見学の日に自身の魔法について”ある程度”の詳細を特異課に届け出を出している。故に、イナリは私の魔法が”時間停止”であることは既に知っているはずだが、直に体験するのは今回が初である。戦闘中だというのに興味深そうに声を少し上擦らせているのはそれが理由だろう。

なにもこんな時にテンションを上げなくてもいいだろうと呆れて溜息をつきながらも、私は改めてイナリに魔法の説明を語った。

 

「そうよ。もう既に知っているとは思うけど、私の魔法は”時間停止”。私に触れているモノ以外の時を止める力よ。さっきまで、私とあなたの使い魔以外の全ての時が止まっていた。あなたの言う”使い魔との接続が切れた”という違和感は、私の魔法が原因だと思うわ。」

『なるほど、そういうことか。書面で見た時も思ったが、なかなかのチート能力だな。』

「魔法だけを見れば、ね。私はステータスのほとんどを魔法の性能に振ったような能力の偏った魔法少女だから、巴さんのように攻撃力の高い魔法は使えないわ。だから魔力を込めた武器を使って戦うしかないのよ。」

『う~む、つまり一芸に特化した能力ということか。』

「まあ、そんなところね。」

 

私はそこで言葉を区切り、「さて、お喋りもこれくらいにしましょう」と緩みかけた意識を引き締め直した。

 

私は離れた位置にいる銀の魔女と再び睨み合った。

魔女は依然としてエンジンを鳴らすばかりで、こちらに突撃してくる様子はない。まるで、手の内の読み合いをしているかのような緊張感が漂っている。

タラリと汗が頬を伝った。

この魔女は、今までと同じやり方で倒すのは難しいかもしれない。しかも沢渡の話によれば、この銀の魔女はつい最近まで特異課の監視から姿を眩ませていたという。

何もかもが私の知識の外側にいる存在……であれば、同じく私にとって未知の存在ともいえる魔人の力を頼るしかない。

私はイナリに力を借りられないか尋ねてみた。

 

「イナリ、あの状態の魔女に噛みつくことはできるかしら?」

『ふむ、少し距離はあるが十分に射程圏内だ。あとは魔女の肉の歯応えがどれ程かだが……試してみよう。』

「分かったわ。__コン。」

 

狐の頭を象った右手を魔女に向けて構え、イナリの頭を召還する。

イナリの頭は魔女の死角から出現し、その銀色に輝く巨体に噛みつこうとした。

 

だが、………………

 

___ガチンッ!!!

 

イナリの鋭く尖った歯が互いに打ち付け合った硬質な音だけが響いた。

銀の魔女は既にそこにはおらず、先程までと同様に結界内を荒々しく走行し始めた。

距離があったおかげで、私はイナリの噛みつきを回避した魔女の動きを視線で追いかけることができた。魔女はまだこちらへ襲い掛かってくる様子はないが、獲物を前にした蜘蛛のように隙を見定めているのは手に取るように分かった。

魔女から視線を外さないように注意しつつ、足場にする車を乗り換えて位置を調整する。

耳元でイナリの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

 

『すまない、ほむら。私ではあの高速で動く魔女を捉えきれない。仕留めるにはアイツを足止めしなくてはならない。』

「そうみたいね。だけど残念なことに、手榴弾はさっきので全部使い切ってしまったわ。」

『なに!?攻撃手段はもう無いのか!?』

「無い、と言えば噓になるけれど……できればここで全部出し切るようなことはしたくないわね。」

 

私は若干言葉を濁しながらそう答える。

左手に装着した盾の中には、まだまだ使える武器弾薬は残っている。それこそ、残してある武器の大半は手榴弾なんかよりもずっと火力の高いロケットランチャーやミサイルといった兵器ばかりだ。

いずれも暴力団や自衛隊などの武器庫から失敬したものばかりであり、破壊力に関しては確実に銀の魔女を倒すのに十分な火力が揃っているはずだ。

だけど、それらの武器は”最後の戦い”に向けてコツコツと蓄えてきた重要な物資だ。既に国と戦争ができるかもしれないほどの装備が揃っているけれど、それでも”ヤツ”を倒すのに足りるかどうかという不安が残っている。

つまり何が言いたいかというと、「こんなところで物資を消耗するわけにはいかない」ということだ。

 

一応、マキマを介して特異課に武器補充の申請を出すことはできるかもしれない。しかし、戦争でもするのかというほどの大量の物資を、たった一人の魔法少女のためだけに使わせてくれるだろうかという懸念もある。

一応念のため、特異課は武器補充の要望に応えてくれるかどうかをイナリに聞いてみる。

 

「イナリ、一つ聞きたいのだけど、特異課に申請すれば武器弾薬の補充はできるのかしら?」

『武器の補充か。拳銃とかならウィッチハンター達に支給されるし、そのままでも魔女に効く武器なら天使が作ってくれるはずだが……アイツは自分の魔法に引け目を感じているからなぁ。あまり強すぎる武器は作ってくれないかもしれない。ほむらはどういうのが欲しいんだ?』

「ロケットランチャーやミサイルといった兵器よ。」

『…………ほむら、一体何と戦うつもりなんだ?まさか国か?』

「そんなわけないじゃない。」

 

イナリが「今のは聞かなかったことにしてやる。」と謎のフォローを入れてくる。

だから違うと言っているでしょ。全然フォローになってないじゃない。

とにかく、イナリの反応からして十分な武器の補充はあまり望めそうにないわね。なら、温存しておきたい兵器類以外で使ってしまっても構わない武器や道具を上手く活用するしか方法は無い。

 

盾の中に収納している全ての武器へと意識を集中させ、片っ端から取り出していく。

使い慣れた無骨な拳銃を取り出し、それと同時に時間を止める。私は動きの止まった魔女へと近づき、ゼロ距離から魔力で強化した射撃を叩き込む。バンッバンッバンッバンッと弾倉が空になるまで引き金を引き続け、時間停止を解除する。

しかし案の定と言うべきか、小さな鉛玉を数発撃ちこんだところでは銀の魔女に大した痛痒を与えることはできなかった。

ならばと、魔力で耐久性を強化したゴルフクラブを取り出し、再び時間を止めて魔女に殴りかかる。比較的打撃の通りそうな部位を狙って何度も殴りつける。魔法少女と同様に魂がグリーフシードに宿っている魔女に対して常識が通用するのか分からないけれど、全生物共通である頭部を狙って滅多打ちにする。私の振り下ろしたゴルフクラブが魔女の目なのかライトなのかよく分からない部位に当たり、パリンッとガラスの割れたような音が響く。これには確かな手応えを感じて時間停止の魔法を解除すれば、魔女は傷ついた目を抑えて全身をくねらせてのた打ち回った。

一瞬、効き目があったのかと期待が生まれる。しかし、魔女が両手で覆っていた顔に魔力が集中したかと思うと、割れていたライトはあっという間に治っていた。分かってはいたけれど、やはりパワー不足が否めないようね……。

他に使えそうな武器は無いか、もう消耗を惜しまずに重火器を使うべきかと、グルグルと思考が回る。

 

そうして二の足を踏んでいる間に、攻撃ターンは銀の魔女へと移ってしまった。

私が攻撃の手を止めたのを好機と見たのか、銀の魔女はエンジンを爆発的に響かせながらアクセル全開で突っ込んできた!

先程までよりもうんと速度が上がっている。もはや目で追い切るのは現実的ではなく、魔法で時間を止めながら確実に魔女の猛攻を避けていく。

 

(魔法解除__このままだとジリ貧だわ。もう、こうなったら使うしか___)

 

足場にしていた車が魔女によってスクラップに変えられるのを眺めながら、諦めて盾の中からロケットランチャーを取り出そうとした時だった。

 

ツンと突くような刺激臭が、私の鼻先を掠めた。

 

(この臭いは____)

 

そこでようやく、私は周囲の状況が大きく変化していることに気づいた。

街灯がボンヤリと照らす都市高速を映したような結界は、あちこちで燃え盛っている炎によって明々と照らし出されていた。魔女にスクラップへと変えられた車の破片が真っ赤な炎を纏い、頭上から降り注いでくる。

ニュースで報道されるような大きな交通事故でもここまでならないだろうと言うほどの惨状を目にした瞬間、私の脳は突然の閃きを得た。

 

 

___爆発炎上する車。

 

___周囲に漂う熱と刺激臭。

 

___そして、この光景を生み出した銀の魔女。

 

 

その閃きは、魔女に打ち勝つための打開策を私に与えた!

 

(これなら、いけるかもしれない!!)

 

私は早速行動に移すべく、盾の中に手を突っ込んで”ある物”を取り出そうとした。

その時、危険を告げるイナリの声が私の耳をつんざいた。

 

『ほむら!ヤツの攻撃が来るぞ!』

 

その声に弾かれるように顔を上げれば、爆走する銀の魔女が進路上の障害物を撥ね飛ばしながら私を轢き殺さんと迫っていた。

今までなら、この暴走車を止められる策を持ち合わせていないせいで必死に避けることしかできなかった。だけど、私はあらゆる不安や恐怖を忘れ、むしろ「ちょうどいい」と不敵な笑みを浮かべた。

 

「イナリ、銀の魔女を倒す方法を思いついたわ。」

 

私にさらっとそう告げられたイナリは『なんだと!?』と驚きの声を上げた。そして次に何かを言おうと口を開きかけたイナリだったが、ドドドドッ!と空気を震わす音が彼女の声を遮った。

ギャギャギャッとアスファルトを削りながら、銀の魔女が走り出す。もはや問答する時間も無いと察したイナリは、ただ一言だけを私に告げた。

 

『お前を信じる』と。

 

彼我の距離、約30メートル。

低く重いエンジン音が空気を揺らす。

 

……20メートル。

ライトの光が私を捉える。

 

……10メートル。

身の丈を超える前輪が、進路上にあった車を押し潰す。

 

……5メートル。

風が、吹く。

 

…………1メートル!!

 

「ここ!」

 

私は盾から”ある物”を取り出し、それを銀の魔女に向けて放り投げた!

”ソレ”は魔女の高速回転する前輪に触れてあっという間に破壊され、”中身”を外へと撒き散らした!

パシャッと液体の弾ける音が響き、辺り一帯に異様な刺激臭が振り撒かれる。

しかし、魔女はそんなことなど気に止めずに進撃を続け、すぐさま飛び退いた私の立っていた車はスクラップへと変えられた。

 

そしてそこに、闇を照らす火花が咲き乱れた。

 

次の瞬間、銀の魔女は爆発的の燃え上がった火柱の中に一瞬にして閉じ込められた!

突然、自身の体が燃え出したことに驚いたのか、魔女はバランスを崩して横転し、いくつもの車を巻き込みながら2転3転とバウンドをし、ガリガリガリッ!!と派手にアスファルトの上を転がった!

そうして一瞬の内に窮地に立たされた魔女を見て、イナリが「まさか!」と声を上げた。

 

『ほむら、お前がヤツに投げたのは、ガソリンか!?』

「えぇ、そうよ。私が調達する武器の中には燃料が必要な物もあって、ちょうどそのためのガソリンを持っていたのよ。」

『なるほど、そういうことか!』

 

イナリの口から出る感嘆の声を聞きながら、私は作戦が成功したことに胸を撫で下ろした。

作戦の内容はとてもシンプルなもので………ただ魔女にガソリンをふりかけ、後は破壊される車から出る火花で引火するのを見届けるだけ。盾から取り出したガソリンには私の魔力が込められていたから、銀の魔女には確実に燃焼ダメージが入っている。しかも、ただ闇雲に振り払った程度では火は消えず、全身に浴びたガソリンによってあっという間に高熱の炎に覆われる。

もはや、銀の魔女に炎から逃れる術は存在しない!

 

「さぁ、イナリ。ここからはあなたの出番よ。銀の魔女を捕獲し______」

 

…………ブオンッ、ブオオンッ!!

 

「っ!?コイツ、まだ動けるの!?」

 

フラフラと立ち上がった銀の魔女が、徐々にエンジン音を上げて再び走り出そうと構えている。燃焼ダメージだけでなく、高速で走った勢いのまま転倒したダメージもあり、銀の魔女は既にボロボロの状態だ。それでも尚立ち上がる姿には、執念と言うには生温い強いナニカを感じた。

 

あともう少しで倒せそうだと言うのに……!

そう歯噛みした時、耳元からイナリの自信に満ち溢れた力強い声が響いた。

 

『ほむら、お前は言ったな。「ここからはあなたの出番」だと。私に任せてもらおうではないか!』

「イナリ?……分かったわ。決着をつけて!コン!」

 

イナリの気迫を間近で感じ取った私は、イナリに全てを託して召喚した。

私の頭上に、狐の魔女の巨大な頭部が現れる。そして、顔の至る所にある目玉が怪しく輝いたと思った瞬間、周囲にいくつもの人魂のような青い炎が浮かび上がった!

それは今にも走り出そうとしていた銀の魔女を完全に包囲し、そのまま一気に襲いかかった!

 

「___ッ!?!?!?」

 

赤い炎から青い炎へと変わった瞬間、銀の魔女が声にならない絶叫を上げた。どうやら、イナリの魔力で具現化した炎が銀の魔女に効果的なダメージを与え、唯ならぬ痛みを与えているらしい。銀の魔女を包む火柱も一回り大きくなり、尋常ではない熱さの熱風が吹き荒れた。

 

ドシャッとその場に崩れ落ちた銀の魔女。

私はその全身を右手で作った狐の口の中に収めた。

 

「なかなか刺激的なツーリングだったわ。だけど、あなたまず教習所からやり直してきなさい。運転免許は没収よ。」

 

私がコンと唱えれば、銀の魔女は狐の魔女の口の中へと消えていった。特異課に行って、しっかりと反省してきなさい。

 

こうして、私とイナリのコンビによる初めての魔女戦は、私達の勝利という形で幕を閉じたのだった。

 

 

_________

______

___

 

 

 

結界の主が戦闘不能になってイナリに捕獲されたことで、闇夜の首都高速を映していた結界は崩れ去った。

”ヤツ”ほどではないとはいえ、過去に類を見ないほどの強敵の戦いで無自覚のうちに消耗していたのか、外の空気を胸いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出した。

 

しかし、私にはリラックスしている時間なんてない。今、見滝原市では何か良くないことが起こっている気がする。

マキマからメールで伝えられた『魔女の複数体同時消失』。そして行方知れずとなっていたはずの魔女の一体、銀の魔女の出現。今までの時間軸を振り返ってもこんなことは初めてだけど、これだけは分かる。

 

こういう時、悪い予感というのはよく当たるということを。

 

不意に、身体を貫くような爆発音が響いた。音のした方へ眼を向けると、闇夜を照らす街の光の中に火柱が立ち昇ったのが見えた。

 

「まどかッ……待っていて。私がすぐに行くから!」

 

抑えがたい不安と恐怖を理性で押し留め、私はまどか達の下へ急ぐべく行動を起こしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

鹿目まどかと沢渡は、あちこちで悲鳴や破壊音が響く街の中を駆け抜けていた。暴走した魔女達が見滝原に住む人々を襲い、街を破壊しているのだ。

まどかは沢渡の誘導に従い、家族の待つ家への道を急いでいた。道中で耳にした誰かの悲鳴に何度も足を止めそうになったが、沢渡の説得を受けて後ろ髪を引かれる思いで走る足を動かし続けた。

 

(私には、魔女と戦う力なんて無いッ……私が助けに行こうとしても何の意味も無いのッ……でも、沢渡ちゃんが言ってた。ウィッチハンターの人達が魔女から街の人達を守ってくれるから、何も心配はいらないってッ!)

 

まどかは無力感に苛まれながらも何度も自身にそう言い聞かせ、後ろを振り返りそうになる顔を前へと向け続けた。

しかし、ある者の姿を目にした瞬間、まどかの脚はその場に縫い付けられたように止まり、呆然とした表情で目を見開いた。

 

「仁美、ちゃん?」

 

まどかがそこで目にしたのは、薄翠の艶髪を長く伸ばした少女_志筑仁美。

人気の無くなった夜の街で、ふらふらと覚束ない足取りでどこかへと向かう、自身の親友の姿だった。

 





___悪夢はまだ、始まったばかりである。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
やらなきゃいけないことや他にやりたいことなどに時間を使っていたことで、中々続きの執筆ができませんでした。また、今回の銀の魔女戦での結末にも納得がいくシナリオが書けなかったので、何度も書き直していたというのも理由にあります。
それもこれも、構想段階では銀の魔女戦は全く違うキャラクターが戦うという内容だったので、書きながらシナリオの修正もやっていたので結構大変でした。
その結果、ちょっと都合のいい決着の仕方になった気もしますが、ほむらの取った作戦は気分転換に遊んでいたバイオハザードの影響を受けていたりします。

という訳で、「ガソリンが燃えたくらいで魔女がやられるわけないやろ!」という声に対しては、「でもバイオではドラム缶を撃っただけで爆発するし、魔力も込めてあったからアリでしょ!」と返させていただきます。

最後に、タグに付けましたがこの二次小説は不定期更新でやっていきます。次回の内容は前から決まっていて、多分その通りに書くので更新は早くできると思いますが、断言はできませんのでご了承ください。
それでは、また次回に。
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