「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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お久しぶりです、NARです。
ゴールデンウイーク、皆さんは何してますか?僕は大事な初日の半分を寝て過ごしました。
(大後悔)
「これはいかん!」と思い、ダラダラ書いていた最新話を急いで仕上げました。
それでは本編へどうぞ。


魔女の呪い

<鹿目まどか>

 

どうして、良くないことっていうのは、続いて起こるものなんだろう。

 

どうして、私はそれを見ていることしかできないんだろう。

 

 

無力な私には、誰かが壊れていく姿を、ただ見ていることしかできないんだ。

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

 

 

あちこちで逃げ惑う人達の悲鳴や建物の燃える音が響き、思わずそっちの方に目が向いてしまう。

その時、私はどこかへと歩いていこうとする友達の姿を偶然にも発見した。

 

「仁美、ちゃん?」

 

私は仁美ちゃんの姿を見た瞬間、何かがおかしいことに気づいた。街のあちこちで火の手が上がり、明らかに非常時であるというのは誰の目から見ても明らかだ。なのに、仁美ちゃんはそんなことにまるで気づいていないみたいに平然と歩いている。

このままだと仁美ちゃんの身が危ないと察した私は、前を走っていた沢渡ちゃんを呼び止めた。

 

「沢渡ちゃん!待って!!」

「ッ!?どうした、まどか!」

「仁美ちゃんが、私の友達があそこに!」

 

私が指を指した方に沢渡ちゃんの目が向かい、そして目元を険しくさせた。

 

「アイツ……魔女に呪われてるぞ。」

「ッ!やっぱり!__仁美ちゃん!!待って!!」

「なっ!?おい!まどか!!」

 

私は沢渡ちゃんの制止を振り切り、仁美ちゃんへと呼びかけながら駆け寄った。だけど、仁美ちゃんは私の声にも振り向く様子がなく、どこかへと行こうとする仁美ちゃんの肩を掴んで無理矢理振り向かせた。

 

「仁美ちゃん!止まって!私だよ!まどかだよ!」

「ん~……?あら~!鹿目さん、ごきげんよう。」

「仁美ちゃん、どこに行こうとしてたの!?ここは危ないよ!私と一緒に逃げよう!」

「危ない?何のことをおっしゃっているのかさっぱり分かりませんけど、行くなら私良い場所を知っているんですの。」

「良い、場所?」

「まどか!勝手に私から離れるな!!」

 

明らかに様子がおかしい仁美ちゃんの言葉に困惑していると、沢渡ちゃんが追いついてきた。仁美ちゃんは初対面の沢渡ちゃんを見て首を傾げている。

 

「あら?そちらの方は?」

「えっ……と、私の友達の沢渡ちゃんだよ。」

「そう、鹿目さんのお友達なのね。ならあなたも私達とご一緒しませんか?」

「断る。それよりもジッとしていろ。」

「なっ、なにを!?」

 

沢渡ちゃんは仁美ちゃんに近づくや否や、仁美ちゃんの顔を掴んで上へ向けさせた。沢渡ちゃんが理由も無く人に乱暴をするような子じゃないっていうのは分かっているけど、さすがに驚きを隠せなくて沢渡ちゃんを呼び止めた。

 

「沢渡ちゃん!?なにしてるの!?」

「コイツに付いている”魔女の口づけ”を取り除く。」

 

沢渡ちゃんはそう答えると、目を細めて仁美ちゃんの首筋を観察した。そして”魔女の口づけ”を発見したのか、沢渡ちゃんは空いている方の手に魔力を集めて首筋に押し当てた。

だけど次の瞬間、沢渡ちゃんの口から「ウソだろ!?」と動揺した声が漏れた。何か問題があったのかもしれない。

 

「どうしたの、沢渡ちゃん?」

「……一体どうなってる?コイツに付いている呪い、異常なまでに強力だ。ちょっとやそっと干渉した程度じゃ引き剥がせない。」

「そんな!?」

 

沢渡ちゃんは仁美ちゃんの顔から手を離すと、今度は額に指先を当てた。すると仁美ちゃんの身体から力が抜けてその場に崩れ落ち、地面に倒れる前に沢渡ちゃんが仁美ちゃんの身体を受け止めた。

 

「何をしたの?」

「大丈夫、ちょっと眠らせただけだから。」

「そ、そうなんだ。あ、それなら仁美ちゃんを家まで運ぼう!安全な場所なら、仁美ちゃんを助けられる方法が見つかるかも!」

「……いや、無い。このままじゃコイツは助からない。」

「えっ!?ど、どうして!?」

 

ハッキリとそう断言した沢渡ちゃんの言葉が信じられなかった。一体どうしてなのかと理由を尋ねると、沢渡ちゃんは険しい表情のまま話し出した。

 

「”魔女の口づけ”は、人間の思考に誘導をかける呪いだ。対象の意思決定過程に介入し、思考の方向性そのものを歪める。つまり、植え付けられた思考があたかも自分の意志であるかのように思い込ませるんだ。だけどこの呪いは、基本的には精神的に衰弱している人間にしか通用しない粗末な呪いでもある。だから魔女と魔法少女としての魔法が両方使える私達魔人に解除できないはずが無いんだ。…………でも、この仁美とかいう奴に掛けられている呪いは異常なほどに強力だ。イナリみたいな長く魔法を使いこなしている魔人なら可能性はあるけど、元々魔法が得意ってわけじゃない私じゃ話にならない。」

「それなら、イナリちゃんに連絡して助けを呼ぼう!」

「残念だけどそれは無理。実を言うと、何故かさっきから電話が使えなくなってる。それに、マキマに念話を飛ばそうにもこっちも繋がらない。要するに、他のやつに助けを求めるのは不可能ってこと。」

「そんな!どうにかして仁美ちゃんを助けられないの?」

「……方法はある。コイツに呪いを掛けた魔女を直接叩く。助けるにはそれしかない。」

 

沢渡ちゃんの言った解決策を聞いて、私はつい胸を撫で下ろした。深刻そうな表情で説明する沢渡ちゃんを見て、もしかすると助けられないんじゃないかと不安になっていたけど、ちゃんと助けられる方法があると知って安心してしまったんだ。

ただその方法が魔女を倒さなくちゃいけないっていう方法だから、私はやっぱり沢渡ちゃんにお願いするしかないっていうので申し訳ない気持ちがあるけれど、背に腹は代えられない。ここは沢渡ちゃんに頼るしかない。

そう思って沢渡ちゃんに頼み込もうと顔を上げた時、私よりも先に沢渡ちゃんの方が口を開いた。

 

「まどか、悪いけど、お前の友達をすぐに助けることはできない。」

「な、なんで?」

「コイツを助けるには、呪いをかけた魔女を倒しに行かなくちゃいけない。だけど私の仕事はお前の護衛だ。護衛対象を危険な場所に連れていくことはできない。だからお前を家にまで避難させて、この騒動が終わるまでは、コイツを呪いから解放してやることはできない。」

「そんな……もし、仁美ちゃんがこのまま呪われていたら、どうなるの?」

「魔女の呪いはほとんどが思考誘導型の洗脳魔法だ。コイツにかかっている呪いも同じタイプのはずだから、すぐに死ぬってわけじゃない。だけど、魔女に呪われたヤツっていうのは何をしでかすか分かったもんじゃない。どれだけ拘束したとしても、無理に暴れたりして自分の身を自ら危険に晒すかもしれない。」

「仁美ちゃんが、そんなこと……。」

「するわけないって思うようなことをさせるのが魔女の呪いだ。絶対無いとは言い切れない。」

「…………。」

 

私達の間に沈黙が落ちる。

沢渡ちゃんの言うことを信じるなら、この騒動が終わったら仁美ちゃんを助けることができる。だけどそれまでは、仁美ちゃんが暴走しないことを祈り続けるしかない。

街の方へ振り返る。すぐ近くで建物が火に包まれ、その向こうでは何かが暴れているような大きな音が聞こえてくる。

どう見ても直ぐに収まるようには見えない。気を失った仁美ちゃんを連れて避難しても、そこで仁美ちゃんが暴れて大変なことになる可能性の方が高いように感じた。

 

(でも、沢渡ちゃんには迷惑を掛けられない。私の勝手な行動で、関係の無い人まで危険に巻き込むわけにはいかない。だけど、それじゃ仁美ちゃんが__!!私はどうしたらいいの!?)

 

決断ができない。答えは決まっているようなものなのに、迷いが生じて考えがまとまらない。

 

その時、「まどか」と私に呼び掛ける声があった。

 

ハッと視線を下げると、そこには気を失った仁美ちゃんを横たえた沢渡ちゃんがいた。沢渡ちゃんはバツの悪そうな顔をしながら、私を見上げておもむろに口を開いた。

 

「まどか、私はお前に色々と言ったけど、どうするかはお前が決めていい。」

「え?どうするかって……?」

「魔女を倒しに行くのか、お友達を連れて逃げるのか。まどかが決めて。」

「え、でも__」

「さっき言ったのは、あくまで護衛としての私の意見だ。実際にお前の行動を縛ることは私にはできない。私がするのはお前と、お前の親しい人間達の身の安全を守ることだけだから。何をどうするのかを決めるのは、私の契約者であるまどかの方だ。」

「ッ……いいの?沢渡ちゃんに迷惑をかけるかも。」

「迷惑には慣れっこだ。()()()に比べたらまどかの迷惑は可愛いもんだ。…………ん、アイツって誰だっけ?」

「さ、沢渡ちゃん?」

 

沢渡ちゃんは何故か自分で言ったことに首を傾げているけれど、「ま、いいか。」と開き直って私へ向き直った。

 

「さあ、どうしたい、鹿目まどか?私はお前の契約者として可能な限り力を貸す。」

「沢渡ちゃん……。」

 

私は俯いた。どうすればいいのかをもう一度考えた。

……ううん、答えはもう出ていた。

 

私は目を開けると、沢渡ちゃんの瞳を見つめた。

 

「沢渡ちゃん、私は仁美ちゃんを助けたい。だからお願い、私に力を貸して!」

「…………分かった。お前に私の力を貸してあげる。だけどその代わり、私の言うことを聞くこと、あと私より前には出ないこと、この二つだけは絶対に守って。分かった?」

「うん。約束する。」

「よし、それじゃパパッと済ませよう。まどかはお友達を背負って。私がお前達の事を守るから。」

 

沢渡ちゃんの指示に従って仁美ちゃんを背中に背負った。沢渡ちゃんは私に背負われた仁美ちゃんの首にもう一度触れて、何かを確かめている。

 

「魔力の流れは掴んだ。私について来て。」

「うん、分かった。」

 

どうやら仁美ちゃんに呪いをかけた魔女の居場所を調べていたらしい。前を走り出した沢渡ちゃんの背中を追って、私は再び駆けだした。

 

 

仁美ちゃん、安心して。絶対になんとかなるから!

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

 

〈暁美ほむら〉

銀の魔女を捕獲した私とイナリは、静かな高架道路の真ん中に放り出されていた。

予想以上の激闘を経たせいで、つい体から力が抜けてしまいそうになるけど、私には気を抜いている時間なんて無い。何か良くないことが見滝原市で起こっている中、沢渡がついているとはいえまどかを放っておくことはできない。

とにかく、まどか達と早く合流するためにも、私たちの現在地を把握しないといけない。周囲を見渡すと見慣れない街並みが広がっており、見滝原市からかなり離れてしまっている可能性が高いように思う。

さすがに徒歩で向かうには厳しく、何かしらの移動手段がないとまどか達と合流するまでに多くの時間を要してしまうでしょう。最悪自転車でもいいから、どこかで乗り物を調達できないかと思案を巡らせる。

すると、私の肩にぶら下がっていたイナリが話しかけてきた。

 

『ほむら、アレを見ろ。』

「イナリ?……あれは、バリケード?」

『あぁ、特異課から派遣された部隊が道路を封鎖しているようだ。』

 

ということはやはり、それなりの規模の事件が起こっているのだろう。態々道路を封鎖して一般人の通行を制限し、さらにピリついた雰囲気まで出しているのだから、これで魔女が一体暴れただけでしたとは考えにくい。

そのせいで私の中の嫌な予感がますます膨らむ一方、何が起こっているかを把握しているだろう特異課から情報を聞き出せないかという期待が生まれる。

 

「あそこにいる人達から何か情報を聞くことはできないかしら。」

『出来ると思うぞ!私が話を通してやるから早く行こう!』

 

イナリはそう言うと私の肩から飛び出し、空中でくるっと回って巫女服を着た狐の少女の姿に変身した。そして私の手を取って走り出し、特異課が構えているバリケードへと駆け寄った。

それにしても、何故かイナリの様子に落ち着きが無いように感じるけど、どうかしたのかしら?

 

バリケードの近くにまで行くと、奥からスーツの男が一人出てきた。彼はバリケードに近づいてきた私たちを出迎えに来たようだ。最初は私達の姿を見て驚いていた彼は心配した様子でイナリと少し話した後、「奥に野茂さんがいらっしゃいます。」とイナリに伝え、仮設テントを指さした。

「野茂だと?」とイナリはピンと耳を立てて怪訝な表情を浮かべるが、すぐに表情を消して私の手を引いて歩き出した。

さすがに様子がおかしいと思い、一体どうしたのかと彼女に尋ねた。

 

「イナリ、さっきから様子が変よ。何か気になることでもあるの?」

「……ほむら、もしかすると、見滝原市は私達の想像以上の惨事に見舞われているかもしれない。詳しくは事情を知っている奴に聞くとしよう。」

 

イナリはそれだけ言うと、即席の本部らしいテントの入り口を捲り上げて中に入った。手を繋がれていた私も彼女の後に続く。

中に入ると、スーツ姿のウィッチハンターが五人ほどいた。内一人が頬に傷のついた男に何かを指示され、私達とすれ違うようにしてテントの外に出ていった。すると当然ながら、テントを出ていくウィッチハンターを見送った頬に傷のある男と入り口を通ったばかりの私達は目が合った。

男はまるで古い友人に会ったかのような親し気な様子で口を開いた。

 

「おっ、イナリじゃねーか!なんだ無事だったのか。いくら呼んでも来てくれないから何かあったのかと思ったぞ。」

「何かはあったぞ。さっきまでこの暁美ほむらと一緒に銀の魔女の相手をしていた。」

 

唐突にイナリに名前を出され、私は声をつっかえさせてしまったが、なんとか声を出して自己紹介した。

 

「あ、暁美ほむらです。」

「公安()()2課の野茂だ。よろしくな。」

 

野茂と名乗ったウィッチハンターと簡潔に自己紹介し合った後、イナリが「それで」と話の続きをし始めた。

 

「私達が戦った銀の魔女だが、報告書に書かれていたのとは随分と様子が違ったぞ。魔人である私ですら手を焼かされた。ほむらの機転が無ければ勝てなかったほどだ。そして、特異課だけでなくお前達()()()まで出てくるとは……ここまでの大規模な部隊展開は銃の魔女捕獲作戦以来だ。」

「イナリ、対魔課って何?」

「主に私達魔人で構成された特異課と違い、人間や魔法少女のウィッチハンターを主体に構成された部署だ。魔女と戦うことはもちろんあるが、主に民間人が現場に近づかないように隔離したり避難させたりするのがコイツらの仕事だ。」

 

イナリの説明に私はなるほどと頷く。だがそれと同時に私は首を傾げた。彼ら対魔課の仕事の一つが現場の隔離というならば、ぐるっと魔女のいるエリアをバリケードや人員で囲うのが普通のはずだ。しかし彼らがバリケードを張っていたのは見滝原から離れた街の道路上だ。

 

(一体魔女はどこに現れて、どれほどの規模で動き回っているの?)

 

そんな疑問を抱いていると、イナリと野茂さんが話を再開させた。

 

「教えてくれ、野茂。今、見滝原市では何が起こっている?」

「それなんだが……俺達も詳しいことは何も分かっていない。町全体にジャミングが張られているのか無線は死んでるし、魔人たちの召還もできなくなっているからな。唯一分かることといえば、街中で人目を気にせず魔女達が暴れ回っているということだけだ。」

 

困り果てた様子でそう語った彼の説明は、俄かには信じがたい話だった。

つまり、私達が戦った銀の魔女を含め、何体もの魔女が街中に姿を現し、甚大な被害を出しているということだ。基本的に自身の結界内に閉じこもる習性を持つ魔女には考えにくい行動であり、それが複数体同時ともなると異常と言わざるを得ない。

ともかく、魔女達が活発的に街の人間を襲っているということは、銀の魔女との戦いから逃がしたまどかも魔女に襲われている可能性が高い。沢渡が護衛に付いているとはいえ、今この瞬間にもまどかが魔女に襲われているかもしれないと思うと、いてもたってもいられなかった。

 

(今すぐ見滝原に戻らないとッ!)

 

そう思ってテントを出ていこうとする私を、イナリが私の手を掴んで止めた。

 

「離して!まどかの所に行かないと__!!」

「慌てるな、ほむら!お前も知っていると思うが、まどかを護衛している沢渡は腕っぷしには信頼のおけるやつだ。大抵の魔女は丸呑みするだけで終わりだ。よほどのことが無い限り、まどかが危ない目に遭うことは無い。」

「ッ……そうかもしれないけどッ!」

 

イナリの言う通り、沢渡の実力に関して私は疑ってはいなかった。初めて魔女化した沢渡の戦いを見て思ったが、もし敵として蛇の魔女と対峙していたら、私の勝率は3割といったぐらいだと思う。

だけど万が一ということがある。沢渡は攻防において無類の強さを誇るかもしれないが、それでも隙が全く無いという訳ではない。まどかが絶対に無事でいられるという保証は無いのだ。

 

「お願い、行かせて……イナリ。」

 

イナリの手を振りほどこうにも、いくら力を入れてもびくともしないと気づいた私は、イナリの目を見てそう言った。すると、イナリは「馬鹿者」と呆れた様子でため息を吐きだした。

 

「まどかが心配な気持ちは分かるし、ここで油を売るつもりもない。だが落ち着け、ほむら。いついかなる時も頭は回していなければならん。焦って思考を塗り潰してしまえば、助けられる者も助けられないぞ。」

「ッ…………えぇ、そうね。ありがとう、イナリ。」

「今度一緒にお茶するのでチャラにしてやるぞ!」

「……こんな時でも平常運転ね。」

 

ムフフと笑みを浮かべるイナリに思わずそう呟いてしまうが、キリッと表情を切り替えたイナリは野茂さんへ振り返った。

 

「そういう訳だから、車を一台借りていくぞ。」

「いいぜ。貸一な。」

「はぁ、仕方ない。お前は男だしタイプでも何でもないが、今度の呼び出しでは”頭”を使わせてやろう。」

「相変わらず男に厳しいなぁ、お前は。”頭”くらいいつでも使わせてくれよ。」

「何か言ったか?」

「いや何も?」

「早く行くわよ、イナリ。」

 

胡乱気な目つきで野茂さんを睨むイナリの腕を引き、テントの外に出る。

そして黒塗りの車を一台借りて乗り込もうとした時、野茂さんが私達を呼び止めた。

 

「俺らの副隊長がここの近場に応援に行ったばかりだ。街中には魔女がうじゃうじゃいるらしい。道中気を付けろよ。」

「分かったわ。」

 

野茂さんの忠告に頷き返すと、アクセルを踏んで車を発進させた。そして道路を封鎖していたバリケードを開けてもらい、私達は見滝原に向けて急ぎ車を走らせた。

 

お願い、まどか。どうか無事でいて……!

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

 

 

<鹿目まどか>

 

私は魔女に呪われた仁美ちゃんを助けるため、沢渡ちゃんの追跡を頼りに仁美ちゃんを呪った魔女を探しに来た。

そうして辿り着いた場所は、町外れにある小さな町工場だった。最近の見滝原市でもあまり見ないような寂れた雰囲気の漂うそこへ、私達は足を踏み入れた。

工場の中は薄暗くて、埃が空気中に舞っていた。もしかして誰もいないのかと思った時、ブツブツと呟く声が微かに聞こえた。

こちらに振り返ってシーッとジェスチャーをして見せた沢渡ちゃんに従って、私は忍び足になって沢渡ちゃんの後ろに続いた。そして色んな機械が置かれた作業場らしい部屋の中をこっそり覗き込むと、そこにはたくさんの人達が輪になって集まっていた。こんな大変な時に何をしているのかと思い、その人たちの様子をよく見てみると誰も彼もが暗い表情で俯いていて、明らかに様子がおかしかった。だけど、その姿はさっきまでの仁美ちゃんの様子とそっくりで、この人たちも魔女に呪われているのだとすぐに分かった。

 

「沢渡ちゃん、あの人達ってもしかして……。」

「あぁ、魔女に操られた奴らの集会だ。」

「やっぱり……ッ!?沢渡ちゃん!あれ!」

「ッ!」

 

私は指をさして沢渡ちゃんに呼び掛ける。その先には、人々の輪の中心にバケツを置いて、2つのボトルの中身を混ぜようとする人達の姿があった。遠目からだとボトルの中身がよく分からないけど、洗剤の容器のように見えるソレはお母さんが以前に取り扱いを注意してくれた物によく似ていた。つまり、あの2つのボトルの中身を混ぜた瞬間、大変なことが起こってしまうということだ!

私は思わずボトルを持っている人達を止めようとその場に飛び出そうとした。だけどその前に、沢渡ちゃんが私の肩を抑えて引き留めた。

 

「沢渡ちゃん?」

「言っただろ、私より前に出るなって。まどかはここにいろ。」

 

沢渡ちゃんはそう言うと部屋の中へと飛び込み、ボトルを持っている人達に向かって走った!集まっていた人達は突然現れた沢渡ちゃんに驚きながらも、その行く手を遮ろうと両手を広げて沢渡ちゃんに襲い掛かった。

だけど次の瞬間、沢渡ちゃんが巨大な蛇の姿に変身した。そして壁を作っていた人達の上を飛び越え、ボトルを持っていた人を頭からパクリと齧りついた!?

 

「沢渡ちゃん!?」

『安心しろ、殺していない。』

 

沢渡ちゃんが口に入れた人を吐き出すと、その人は目を回して気絶してしまっていた。どうやったのか分からないけど、持っていた洗剤のボトルは沢渡ちゃんが口の中で回収したらしい。だけど、まだ魔女の呪いで操られた人達が残っていて、巨大な蛇の姿をした沢渡ちゃんに恐れることなく向かって行く。そんな完全に正気を失っている人達に囲まれた沢渡ちゃんはその目を怪しく光らせた。

 

『まどか!隠れろ!!』

「__ッ!」

 

沢渡ちゃんに言われ、私は部屋の入口から出していた顔を引っ込めた。その直後、背筋の粟立つような冷たい風が部屋の中から噴き出てきた。私は仁美ちゃんを背負ったまま、寒くもないのに身体を震わせてその場に縮こまっていた。その時、ジャリッと誰かの足音がすぐ傍で聞こえて、私は「ヒッ」と喉を引くつかせながら誰かの方へ目を向けた。

だけどそこにいたのは、魔人の姿に戻った沢渡ちゃんだった。沢渡ちゃんは気まずそうに頬をかきながら、私にそっと手を差し伸べた。

 

「ごめん、びっくりさせちゃったか。もう終わったから、出てきて大丈夫だ。」

「あ、う、うん。あの、沢渡ちゃん、さっきの人達は…………?」

「少し脅かしたから、今はぐっすり眠っている。」

 

沢渡ちゃんに手を引っ張られて立ち上がり、部屋の中の様子を見る。すると中には、顔を真っ青にしてビクビクと痙攣している人たちが倒れていた。全員気を失っているようだけど、中には口から泡を吹いて大変なことになっている人もいた。

 

「さ、沢渡ちゃん、なにしたの?」

「ちょっと睨んだだけだ。大したことはしていない。」

 

「睨んだ」と言う沢渡ちゃんの言葉を聞いて、頭の中に「蛇に睨まれた蛙」の姿が浮かんだ。つまりはすっごくビビらせて気を失わせたということらしい。

倒れている人達の事がちょっと気の毒に思いつつも、私達の目的である魔女の姿を探そうと、沢渡ちゃんの背中について行こうとした。

 

だけどその時、視界がグニャリと歪んで不気味な笑い声が部屋の中に木霊した。

 

「これって!?」

「まどか!私から離れるなよ!どうやらわざわざ出迎えに来てくれたらしい。」

 

私達の周りに並べられたテレビがパッと明かりを灯す。いつの間に囲まれていたのかと思う内にテレビの光は強くなり、あまりの眩しさに目を瞑った。そして再び目を開けると、私達は魔女の結界内に取り込まれていた!

明るい水色の結界はメリーゴーランドのお馬さんみたいなものがグルグルと周囲を回っていて、片翼の天使の人形ような使い魔が空から私達に襲い掛かってきた。私はなるべく沢渡ちゃんから離れないように気を付けながら使い魔の群れを見上げると、巨大な蛇の尻尾が使い魔たちを粉々にして薙ぎ払った。

 

『邪魔だ。さっさとボスを出せ。』

 

横を見れば、そこには一瞬にして魔女化した沢渡ちゃんの姿があった。沢渡ちゃんは向かって来る使い魔を大きな尻尾で何度も薙ぎ払い、やがて使い魔たちは突撃を止めて高い場所に留まり始めた。

 

「な、なに?」

 

不気味なほどに静かになった使い魔たち。だけど突然使い魔たちが動き出したかと思うと、そのまま輪になって私達の上を飛び回り始めた。

ピッタリと揃った動きで形作られた円の中心に、四角い姿が浮かび上がる。

 

白い羽を生やした、ブラウン管テレビそのもののような姿をしたナニカ。それは二体の使い魔に支えられながら私達の真上にゆっくりと降りてきた。

 

『ようやくお出ましか。』

「アレが、仁美ちゃんを呪った魔女……。」

『大丈夫だ、まどか。私がすぐに片づける。』

 

私にそう言った直後、沢渡ちゃんは体を上へ伸ばして魔女へと襲い掛かった。沢渡ちゃんの大きな口がガパッと開き、そのまま魔女を丸呑みにしようと近づいていく。

そんな光景を見て、私は沢渡ちゃんの勝ちを確信した。沢渡ちゃんが負けるわけないとも思っていた。だって、ほむらちゃんに逃がしてもらってからここに来るまでに、私は何度も沢渡ちゃんに助けてもらった。ほとんどの魔女を一撃で倒していたんだ。沢渡ちゃんがとても強い魔人だっていうのはよく理解していたんだ。

 

 

だから、沢渡ちゃんがあと一歩というところで突然動きを止めたのを見て、私は何が起こったのか分からなかった。

 

 

「沢渡、ちゃん?」

『……あ、なんだ、それはッ、いや違う、私は……』

 

沢渡ちゃんは口を閉じてジッと魔女を見続けている。テレビの姿をした魔女の画面に映る何かを凝視しながら、譫言のようなことを時折口にし、苦しそうに息を吐いている。

 

『そうだ……私は、あの時……なんで、私は忘れて……』

「沢渡ちゃん?沢渡ちゃん!?どうしたの!?」

『あぁああ、なんで、忘れていたんだ……こんな大事なこと、忘れちゃ、いけなかったのに!』

「沢渡ちゃん!?お願い、返事をして!!」

『私のせいだ。私のせいで”アイツ”は死んだんだ。私が……殺したんだ。』

「沢渡ちゃん!!!__きゃッ!?」

 

沢渡ちゃんは尻尾を振り回し、周囲を薙ぎ払った。私はその風圧で倒れ、頭の上をすれすれで尻尾が通り過ぎていく。

突然暴れ出した沢渡ちゃんを見上げる。沢渡ちゃんは群がる使い魔を全身をくねらせて弾き飛ばし、テレビの姿をした魔女をその大きな口で捕まえていた。

 

『あああああアアああぁぁあアァアあああぁアアアあぁああアあああ!!!!』

 

沢渡ちゃんはめちゃくちゃに暴れた。天使のような使い魔を潰し、結界に大きな罅を刻み、捕まえていた魔女を噛み砕いた。

 

結界の主が消え、空間が壊れていく。

 

そして、世界は新しい色に塗り替えられた。

 

 

 

 

___どうして、良くないことっていうのは、続いて起こるものなんだろう。

 

___どうして、私はそれを見ていることしかできないんだろう。

 

 

___無力な私には、誰か(沢渡ちゃん)が壊れていく姿を、ただ見ていることしかできないんだ。

 

 

 

 

「そんな……沢渡ちゃんッ……。」

『私に、生キル権利なんカ無い……幸せニなる権利なんてナイ…………

 

 

 

 

 

…………だってワタシは、”魔女”なんダカラ。』

 

 

 

 

 

 

 

20時05分13秒、見滝原市工場区内にて__

 

 

__蛇の魔女の暴走を確認。




____更なる混乱が少女を襲う。



2週間経つ前に投稿できました。(なお、あと3日しかなかった模様)
なんか色々書きたかった気がするのですが、忘れちゃったので今思いついたことを書きます。

「感想よろしくお願いします!」ってガッツリ言っちゃっていいんですかね?他の方々の投稿見てると言っちゃってるんで良いのかなって思うんですけど........。
という訳で、これからは前のめりに感想求めていきます。思いついたらでいいのでよろしくお願いします。
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