2話目行きます。
※【まどかマギカ】のネタバレがあります。既に履修済みの方はどうぞお進みください。未履修だけどだいたいは知ってるという方も大丈夫でしょう。いずれでもない方はご自身の判断にお任せします。
<暁美ほむら>
キーンコーンカーンコーン……
学校のチャイムが鳴り、午前中の授業が終わった。
クラスメイト達は机の上に広げていた教科書やノートを片付け、お弁当を取り出したり、売店に複数人で連れ立って向かったりと、各々がお昼の時間を過ごそうと動き出す。
静かだった教室が、生徒たちの賑やかな声で騒がしくなった。
「…………」
チラッと後ろに目をやる。
鹿目まどか……まどかは、美樹さやかと、確か……志筑仁美、その二人と喋っている。分かってはいたけど、まだキュゥべえとは接触していないようね。
(場所を変えましょう。出だしからしくじらない為にも、これからの動きについてしっかり計画を練らないと。)
すべては、まどかを……私の友達を救うため。
もう、何度やり直したかも分からないほどに同じ時間を繰り返してきたけれど、
なぜなら、全く想像がつかない
__マキマ先生……見滝原中学校の歴史科目を担当する教師。今年度からこの学校に赴任してきたらしく、また教職に就いたばかりの、所謂新人教師だという女。
彼女がただの人間であるのならば、さほどその存在について慎重になる必要性はない。これまでも、知らない人間がまどかの周りに現れることは何度かあったけれど、魔法少女でないのならば私の計画の支障になることは無い。即ち、いてもいなくても大して変わらない存在だった。
だけど、初めて会った時から、私はあの女に謎の
その違和感は、彼女が担当する授業_歴史科の授業時間になった時に、確信に変わった。
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(なに、これ……?)
教壇に立ったマキマをじっと観察してみると、薄く奇妙な気配を纏っていることに気づいた。
それはドロドロとしていて、いくつもの陰気な気配が混ざり合ったような、不快なものだった。
そしてそれは、魔法少女である私にとって、ひどく覚えのある気配でもあった。
(これは、まさか……
そう、その息の詰まるような重い空気は、魔女と呼ばれる怪物達が纏っているのと同じものだった。それがどういう訳か、複数の気配をあの女から感じられるのだ。
まるで、何十体もの魔女から一斉に呪われているかのような……そうとしか言えない状態に見えた。
だけど、それほどまでの呪詛をただの人間が抱えていて無事でいられるわけがない。たった一体の魔女と同じ空間にいるだけで、普通の人間なら正気を失ってしまうはずだからだ。そしてそれは魔法少女にも言えることで、一般人よりも何倍も魔女の持つ瘴気への耐性を持っているとはいえ、両手で数えられない程の数の魔女から同時に呪いを受ければ、正気の喪失を飛び越えて心の崩壊とともに死に至るだろう。そんな場面に遭遇したことがないから実際はどうなるのかは分からないけど、まともでいられるはずがないというのは容易に想像出来る。
であれば、そんな大量の呪詛を抱えたまま、平然と教壇に立って授業をしている彼女は何者なのか?
その身に纏っている幾つもの魔女の気配に悪寒を感じていた、その時。
私は、恐ろしい結論に至ってしまった。
(まさか、人間に擬態している、魔女、なの?)
ありえない、と即座に否定の言葉が浮かんでくるけれど、魔女の正体でありその出自を考えれば、その可能性は十分ありうるのではないかと思ってしまう。
だとしても、自我を失い、本能のままに絶望を振りまく魔女が人間に擬態、それも教師という社会的地位を獲得した上でのハイレベルな潜伏……そんなことが魔女に可能なのか?
……分からない……あまりにも不確定要素が多すぎる。それに、ここまで挙げた事柄は全て証拠の無い仮説に過ぎない。もしかしたら杞憂の可能性だってあるのだ。
(不確かなことばかりに目を向けていられるほど、今の私に余裕は無い。この問題は一先ず置いておくとして、今は先にやらなければならないことを考えて
「ほむらちゃん」
______ッ!?
意識の外から突然声をかけられて、思考の海に沈んでいてぼんやりとしていた視界がパッと開けた。
はっと目を見開いた私の瞳に映ったのは、こちらを覗き込んでうっすらと笑みを浮かべている、赤髪の女。その同心円状の模様を描く奇妙な瞳に、私の驚いた顔が映り込んでいる。
「______さっきの説明で何か分からないところでもあったかな?」
どうして急に、私に話しかけて?
まさか、私が怪しんでいることに気づかれた?
とにかく、ここは何とか誤魔化さないと........。
「…………いえ、大丈夫です。」
「................。」
無言の沈黙が続く。
こてんと首を小さく傾げた仕草ですら、何か思惑があるんじゃないかと思えて仕方がない。
「........そう?気になることがあったら遠慮なく質問してね。」
「はい。」
しばらく互いに見つめ合っていたが、マキマはニコリと笑みを浮かべて引き下がった。
対して私は、まるで心の奥底を見透かそうとするかのようなあの瞳が忘れられなくて、まだ見つめられているんじゃないかと思ってしまう。
気が付けば、握っていたペンがギチリと音を鳴らした。
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マキマ__彼女は警戒するに値するイレギュラー........。確実に、彼女には何かがある。
まどかを守るためにも、あの女の動向を見張って、適宜対応する必要がある。
(必要とあれば、殺すことも...........。)
とにかく、彼女の正体が何であれ、私のすることは変わらない。
さて、時間も限られていることだし、最大限有効活用していかないと___
「今日のマキマ先生、なんか変じゃなかった?」
席を立とうとしたとき、私の前をクラスメイト達が横切っていく。
話題は、どうやらマキマについてらしい。
気が付けば、教室にいる何人かが、今日の彼女のことについて話しているようだ。
(........情報収集も必要ね。)
私はカバンの中の昼食を探すふりをしながら、クラスメイト達の会話に耳を澄ませた。
「あ、やっぱりお前もそう思った?」
「うん、なんか今日の授業、いつもより静かだったっていうか........。」
「今日の先生、いつもの支配者うんちくを一個も言わなかったよね~。」
「あれ聞くの、思ったよりも面白いから今日も楽しみにしてたんだけどなぁ。用語とか人の名前覚えるだけの授業よりもずっと楽しいし。」
「どっか体調でも悪かったのかね~。」
「う~ん、今朝廊下で会ったときは何とも無さそうだったんだけど........。」
「ですが授業中、手先が若干震えているように見えた気がしますわ。」
「そうなんだ。マキマ先生、大丈夫かな........。」
........思ったよりも、クラスメイト達からの評判はいいらしい。大人しそうなまどかも心配している辺り、よほど生徒たちに慕われている教師のようね。
それにしても、支配者うんちくって…………?
まあ、別に気にするほどのことではないでしょう。
クラスメイト達の雑談から得られる情報はこれくらいかしら……。
あとはこっそり動いて自分の足で情報を集めることにして______
「こんにちは、ほむら___ちゃんはいるかな?」
______ッ!マキマ……あの女、どうしてここに?
噂をすればなんとやらと言うけれど、まさか自分から訪ねに来るなんて、しかも私になんの用で?
(考えても仕方がない。今は、彼女の対応をするしかない。)
「先生、私ならここに。なにか用ですか?」
教室の最前列に席があるのもあって、マキマに見つかってしまう可能性が高い。下手に動いて警戒されるよりかは、素直に出ていくのが賢明ね。
私はなるべく自然体を装って、教室の入口に立っている彼女のもとへと歩く。
すると、彼女は私の姿を目にすると、「ちょっとこっちへ」と、廊下の外に手招きした。
胸に微かな緊張を抱きながらも、逆らうことなく彼女の指示に従う。
2人揃って廊下に出ると、マキマは私に振り返って申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね、お昼ご飯中に。」
「いえ、構いません。それで、私に何の用事ですか?」
「うん、ちょっとね、ほむらちゃ……暁美さんと少しお話をしたいと思ってね。放課後に、職員室に来てもらうことってできるかな?」
「放課後、ですか……。」
そこで一体何を話すというのか、正直言うと気にはなる。私としても彼女について知りたいことは山ほどあるのだから、本当ならこの誘いを断る理由は無い。
だけど______
「すみません、今日は”用事”があって、早く帰らないと行けなくて……。」
そう、私は今日の放課後にやらなければならないことがある。
これまでの統計に倣うなら、今日はまどかと美樹さやかがキュゥべえと遭遇する日……魔法少女という存在を知ってしまう日だ。
コレを潰すことができれば、まどかの魔法少女化を遅らせることができる。キュゥべえに目をつけられている以上、まどかはそれ以降も何度もキュゥべえに接近されるだろうけれど、それでもそもそも繋がりを持たせないように立ち回ることが最も確実と言える手段だ。
だからそのためにも、他のことに時間を割いている余裕はない。
「……そっか、それじゃあ仕方がないね。日を改めることにするよ。時間が合いそうなタイミングがあったら、また教えて欲しいな。」
「分かりました。」
マキマは残念そうに眉を下げると、それだけ言って帰って行った。
(思ったよりも、あっさりと引き下がったわね........。)
もう少し絡んでくるかと警戒していたのだけど........まあ、こちらの動きを阻害されないならなんだっていい。
とにかく今は、すべきことに集中して動くしかないわ。
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___________
<マキマ>
「どうしよう........。」
お昼の時間になり、友達との食事やおしゃべりに夢中な生徒たちの声を聞きながら、私はトボトボと職員室に向かって歩いていた。
さっき、ほむらちゃんと少しお話がしたいから、放課後に時間が取れないかなと声を掛けに行ったのだけれど、残念ながら断られてしまった。
まあ、普通に考えたらそうだよね。ほむらちゃんは今日転校してきたばかりなんだから、家に帰って荷解きの続きしたり足りない物を買いに出かけたりするので忙しいだろうし、いきなり時間が取れないかって聞かれてもそりゃ困るよね~。
(別に嫌われてるから断られたとかじゃないよね........。)
そうじゃないことを祈るしかない、か。
ああ、ほむらちゃんからの印象が悪化してしまう前に、早く改善しておきたいなぁ。
全面ガラス張りで見渡しのいい校舎とは相反して、私の心は人間関係の難しさで不安の影を落としていた。
その時だった。ポッケに入れていた携帯がブルブルと振動し、誰かからの着信を知らせた。
こんな時に誰、などと思いながらスマホを取り出すと、スマホの画面に発信者の名前が表示される。
それを目にした瞬間、憂鬱気味に沈んでいた私の意識がカチリと切り替わった。
周囲に人影が無いことを確認した後、通話ボタンを押して電話に出た。
「私だよ。何かあったかな?................なるほどね、分かった。それじゃ、私が行くまで監視をお願いね。........うん、もしもの時はそっちの判断に任せるから。じゃあ、また後で。」
通話を切り、スマホをポッケにしまい込む。
生徒のことも大事だけど、先にやらなきゃいけない
まずは、そっちを手早く片付けるとしようか。
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<暁美ほむら>
「ここは引きなさい。お互い無駄な争いはしたくないでしょう?」
明かりの無い薄暗い中、巴マミの凛とした声が木霊する。
ショッピングモール内にある改装中の立ち入り禁止の部屋の中で、私は巴マミと、そして彼女の後ろにいるまどかと美樹さやかの3人と睨み合っていた。
........失敗した。
キュゥべえの居場所を突き止め、誰の目も無いこの場所でヤツを始末して、まどかとキュゥべえの最初の遭遇を阻止するはずだった。
だけど、すばしっこい上に的が小さいキュゥべえを狙い撃つのには苦労した。その結果、中途半端に傷つけた程度に終わってしまい、あたかも私が『小動物を甚振る非道な少女』という印象を彼女達に植え付けるだけに終わってしまった。
ここで弁明しようにも、キュゥべえを友達だと思っている巴マミの印象は最悪だろうし、まどかも「そいつ(キュウベエ)に近づくな」という忠告を伝えてからずっと私を恐怖の眼差しで見つめている。誤魔化すことは不可能だし、今までの経験上、ここで何をしても今更遅いと分かっている。
(大人しく、引き下がるしかないわね........。)
私は踵を返して、暗闇の中へと消えていく。
最後に見えたまどかの表情に後ろ髪を引かれながらも、心を無にして足を動かした。
やがて、外へと続く出口が見えてきたと思った、その時だった。
_____ドドドドドドドドドドドドッ!
「!?」
突然、大量のネズミが現れて、私の足元を駆け抜けていった。まるで地鳴りが起こっているかのような足音が絶え間なく響いている。
そして、ネズミの群れは私の行く手を塞ぐように山を作り、見上げるほどの大きさに膨れ上がったところで、蠢くネズミの山の中から静かな声が聞こえた。
「こんにちは、暁美さん。」
「ッ!?」
その声の主はひどく聞き覚えのあるものだった。同時に、全身の毛が逆立つような錯覚に襲われる。
声の主は、バラバラと解けたネズミの山の中から姿を現した。
私はなんとか声を絞り出し、目の前に立ち塞がった彼女に問いかけた。
「マキマ、先生........どうしてここに。」
マキマ__表向きは見滝原中学校の教師であるはずの彼女が、不可解な現象と共にこの場に現れた。その表情は背中に背負った逆光のせいでよく見えないけれど、あの感情の読めない不気味な笑みを浮かべていることだろう。
マキマは右手の甲に乗せていた一際大きい茶色のネズミを自身の肩に乗せると、徐に口を開いた。
「暁美さんの用事って、
「!........やっぱり、魔法少女を知っているのね?」
「うん、知ってるよ。でも、まるで最初から見当がついていたみたいな言い方だね。やっぱり私、どこかで何かボロ出しちゃってたかな?」
「アレで隠していたつもりだったの?”魔女の気配”が駄々洩れだったわよ。」
「え........
マキマは虚を突かれたように目を見開いたかと思うと、次の瞬間には片手で顔を覆って天を仰ぎだした。
「やってもうた........先生にまた叱られる........」
「........答えなさい。マキマ先生........いえマキマ、あなたは一体何者なの?」
私がそう問いかけると、マキマは諦めたような、或いは覚悟を決めたような表情を浮かべたかと思うと、私に向き直って口を開いた。
「バレちゃってたなら仕方ないね。むしろ、話ができるいい機会になったって考えよう。........暁美さん。私はこの町に住む魔法少女である君と話がしたくて、見滝原市にやってきたんだ。」
「........私と話を?」
「そう。君も、私が何者なのか気になっていて、色々と聞きたいことがあるって感じだよね。だから、ちょっと急ではあるけれど、今から私と秘密の個人面談、しよっか。」
マキマはそう言って、私に向かってニコリと笑みを浮かべたのだった。
マキマメモ その2
『支配者うんちく』とは__
授業中、歴史上の皇帝や国王などの統治者がどのような政治体制を取っていたのか、そこにはどのような意図があったのかをマキマ先生が分かりやすく説明してくれる。ただ人の名前や用語を覚えるだけよりも、当時の状況が想像しやすい上にまるで自分のことのように熱く語るマキマ先生が面白いと、生徒たちからは意外と好評であるそうな。
早乙女先生の毎度お馴染み失恋コーナーと並んで、恒例行事と化している。