ちょっと間が開きましたが、最新話投稿です。
ここらでシリアスは終わらせておきたい今日この頃。書くの難しいです。
それはそうと、アンケート回答ありがとうございました。投票の結果、「じゃあとりあえず一話だけ投稿してみよっかな。」となって出してみました。
「今のところ連載の予定はありません。」と注意書きを書いたためか、いまいち覗きに来てくださった方々の反応が分からなかったですが、出したい欲は発散できたので良かったです。今書いているのが完結するか、1章2章みたいに区切りをつけた時にちょろっと連載できたらいいなって感じですね。
雑談もこれくらいにしまして……。
それでは、本編へどうぞ。
<マキマ>
眠い。
眠い。
身体が、重い。
瞼が、重い。
頭が痛い。胸も痛い。
お腹から喉にかけて不快なものが駆け上がり、今にも全身が張り裂けてしまいそう。
(このまま、ずっと眠っていたい。)
眠っていれば、怖いことは何も無い。辛い思いをすることも無い。
このまま永遠に、ずっと、全てが消えてしまうまで、眠っていたい。
眠い……。
眠い…………。
『___。』
ぅん?なに?
誰か、いるの?
『___。』
よく聞こえないよ。なんて言ってるの?
『__て。起_て。』
「起きて」?なんでさ。私は今とっても眠いんだよ。
「起きて。起きて。」
ん~~。ん~~~。もう!私は眠いって言ってんじゃん!
さっきから誰なの、うるさくしてんのは!
「いいから寝かせてよ!誰も邪魔しないで!!」
喉を震わせ、「起きて」と呟く声を掻き消した。
だけどそのせいで、私は飛び起きてしまった。眠気なんか、どっかに飛んで行ってしまったのだ。
胸の中は無理矢理起こされたせいですっごくもやもやしている。だから私は「もっかい寝ちゃえ」と思って目を閉じようとした。
だけど、開いた視界に映った景色を見て、私は「え?」と声を漏らしたまま言葉を失った。
子供の遊ぶスペースや、高さの低いテーブルが置かれた広い部屋。
板張りの床にはおもちゃが散乱していて、顔を黒く塗りつぶされた子供たちが遠くで遊んでいる。
幼稚園のように見えるが、ちょっと大きい民家のような雰囲気の空間。
ここは、私が育った、児童養護施設だ。
これ、もしかして夢?
いや夢だよね。私の体めっちゃ小さいし、天井がすごく高く感じる。うわー子供の視点ってこんな感じだったっけー!?大人になってから見ると不思議な気分だー!!
それにしても、また随分と古い記憶だな~。ここってこんな綺麗な建物だったっけ?全然覚えてないな~。成り行きで公安に就職してから一度も帰ってないから分かんないや。
「やっと起きたね。」
「え?」
頭上から聞こえた声に反応し、顔を上げる。
すると、後ろから私を見下ろすエプロン姿の”大人の私”の顔があった。
え?なにこれ?
よく見たら私、さっきまでエプロンを着た”大人の私”に膝枕されてた感じ?
いやどんな夢だよ!子供になって大人の自分におねんねさせられるってどういうプレイだよ!いやこれはプレイなのか!?分からん!こういうタイプのプレイを他で聞いたことが無いんですけど!
「確かに、今の君は私と同じ顔だから、自分で自分を甘やかしているっていう変な構図になっちゃうね。」
「変を通り越して変態の域だよ。何が悲しくて自分に甘やかされなきゃいけないの?まあ、今の私はマキマさんボディだから正直眼福ではあるんだけど。」
「そんなに良かったの?ならもっと甘えてきていいよ。」
「やったー!マキマさんだっこしてーーーってちょっと待て。」
”大人の私”の胸を手で押し返して抱っこを強制的に止める。
いやおかしくない?なんで夢の中でこんなスムーズにコミュニケーション取れてるの?
「おや、気づいたみたいだね。」
「そりゃ気づくでしょ。明らかに違和感がスゴイもん。っていうか今更だけどナチュラルに私の思考を読んでくるじゃん。」
「当然だよ。ここは君の夢の中だもの。」
「だとしたらおかしいよ。私、普段はこんな寂しい夢見ないもん。私の支配の力が機能してないよ。」
私の支配の力は他人や物に限らず、自分自身にも能力を及ぼすことができる。それを利用して、私は怖い夢や寂しい夢を見ないように支配の力で制御しているんだ。とはいえ、
私はエプロン姿の”大人の私”を見上げ、目を細めて鋭く睨んだ。
「ねえ、君、一体何者?私に何をしたの?」
すると、私の警戒マシマシの視線を受けた”大人の私”は、なぜかニコリと微笑んだ。
「私は支配の悪魔だよ。」
「は?支配の悪魔は私ですけど?」
「私も支配の悪魔なんだ。」
「そんなわけないでしょ!一つの概念につき悪魔は一体ずつっていうのが常識なんだよ!」
「それは分かってるし、だからこそ私たちの存在がイレギュラーだというのも理解している。これにはちょっとした事情があるんだけど、とにかく私は君と同じ支配の悪魔なんだ。」
「そんなの信じられるわけないじゃん!私が本物の支配の悪魔だもん!」
「私も本物の支配の悪魔だよ。」
「だから、私が本物だってば!」
「私達は二人とも本物だよ。」
「さっきから何言ってんの!?」
納得のいかないセリフにプンスカと怒っていると、”大人の私”は諭すような口調で言った。
「よく聞いて。私達の体には二つの魂が宿っている。一つは私の魂、もう一つは外から流れてきた君の魂。それが肉体と結びついたから、私達は二人とも同じ、本物の支配の悪魔なんだ。」
「ふーん、そこまで言うなら、何か証拠とかあるの?」
「あるよ。私にも当然”支配の力”が存在する。見てて。」
そう言うと、”大人の私”は私の目を見て呟いた。
「右手を挙げなさい。」
「……?うわっ!?いつのまに右手が!?」
”大人の私”が”命令”をした瞬間、私の右手に支配の鎖が絡みついて、勝手に持ち上がったではないか!
「次は左手も挙げなさい。」
「わー!?左手も勝手にー!?」
「そのままバンザイの姿勢を維持しなさい。はい、コチョコチョコチョ~。」
「あひゃひゃひゃッ!?手が!手が降ろせないぃ!分かった!本物って分かったから!コチョコチョやめて~!!」
「分かったのならよろしい。」
「自由にしていいよ」と言われた瞬間、私の両手に絡みついていた支配の鎖が溶けるように消えていき、動かなかった両手に自由が戻った。くすぐり地獄から解放された私はそのまま糸が切れた人形のように床にへたり込んだ。
ひ、ひどい目に遭った…………。だけど、これではっきりした。さっき私の腕を縛っていたのは間違いなく支配の悪魔の力だ。この私が見間違えるはずがない。
ということは、辿り着く答えはただ一つ。
「アンタは、いや貴方様は、本当の本当に、天然物の支配の悪魔、ってことですか?」
「そういうこと。」
「マジっすか。」
「マジだよ。」
”大人の私”の胸を押さえている両手がわなわなと震え、その振動が全身の至る所に伝播した。
胸の奥から湧き出る興奮が、私の脳を焼いていく。
まさか、そんな、本当に?
「貴方様は、本物のマキマさん?」
「…………まあ、君が考えている私で合ってる、かな。」
マジか。
マジかッ!!
大マジかッ!!!!
「この度はとんだご無礼を働いてしまい申し訳ありませんでしたぁ!」
「うん、構わないよ。許してあげる。」
「ありがとうございます!それで大変恐縮ながらお願いがあるんですが!」
「何かな?私にできることならなんでもしてあげるよ。」
「ありがとうございます!実は私、マキマさんのファンなんです!!!是非ともサインをください!!!」
「……ん?」
「あと!頭ヨシヨシしてもらってもいいですか!!??」
「……んん??」
「あと!!もうちょっとだけ!!このまま揉み揉みを堪能してもいいですか!!!???」
「…………………………うん。いいよ。」
ひゃっほぅい!!我、大勝利!!!
マキマさんの柔らかい手が私の頭を撫でているぅ!!気持ちイィ!!
わあ!めっちゃいい匂いする!!柔らかい!!これが!幸せの感触なんだね!!
ごめんね、デンジ君、私は君よりさらに一歩先の景色を見れたよ。
「し あ わ せ♡」
「……喜んでくれたみたいでなによりだよ。」
一通り本物のマキマさんを堪能した私は、マキマさんに背中から抱っこされながら頭を撫でてもらっていた。
あぁ、なんて贅沢なんだろうか。あのマキマさんに甘えられるなんて……しかもエプロン姿のマキマさんに!こんなのもう夢小説の世界じゃんか!
「えへへ、マキマさんの手、気持ちいい〜♡」
「………………。」
「えへへ……ん?マキマさん?」
ふと、マキマさんから反応が返ってこないことに気づいた。
どうしたのかと思って見上げれば、聖母のような笑みを浮かべていたはずのマキマさんの顔から一切の感情が抜け落ちていた。そしてそんな虚無の顔のまま、周囲の景色を見渡している。
「あの〜マキマさん?一体どうされたんですか?」
「…………ん、あぁ、ごめんね。ちょっと君の見ている夢の風景が気になっちゃって。」
「夢の風景?」
マキマさんの視線の先を追いかけ、周囲へと目を向ける。
そこにはさっきと変わらないモノクロの過去の記憶が夢となって映っていた。
う~ん、そんなに気になるところあるかな?確かに私以外の子供や施設の大人たちの顔が黒塗りになってたり、時が止まってるみたいに静かだったりでおかしな部分はあるけれど……ここは夢の世界なんだからだいたいこんなもんじゃないかな?
「ここはただの夢じゃないよ。今私達が見ているのは、君の魂に刻まれたありのままの記憶。当時、君が実際に見ていた風景だよ。」
「私が見ていた風景……。」
そう言われて見たら、確かにそうなのかもしれない。昔の私は心ここにあらずってレベルで周囲に関心が無く、ご飯やトイレ、夜寝る部屋などの生活するのに必要なことしか覚えていなかった気がする。一緒にいた施設の子達や面倒を見てくれていた大人たちの顔が黒塗りで静止画みたいになっているのは、私が他の人のことを全く覚えようとしなかったからだろう。
「イジメられたりしてたの?」
「イジメ、ですか?」
「うん。」
何を唐突にそんなことを?と思ったけれど、マキマさんが見ている方に目をやれば合点がいった。黒塗りの顔の子供たちが、身を寄せ合ってこっちを向いているのだ。それはまさに陰口をしている子供のようにも見える。マキマさんはそれを見て、私がいじめられていたんじゃないかと思ったようだ。
「いじめは無かったですよ。」
「じゃあ、あの子達はなんでこっちを見ているの?」
「私のことを怖がっているんですよ。」
「君を?」
「そうですよ。」
マキマさんに頷き返しながら、当時の自分がどんな子供だったのかを振り返る。
私が転生者であると気づいたのは5歳の頃、ここの施設に迎え入れられて一晩を過ごした後だった。あの時は転生を自覚したばかりだったため、自分の正体や能力については何も把握していなかった。そのせいで、ついつい支配の能力を暴発させてしまって、この施設にいる人たちを操ってしまったことがあるのだ。
幸いだったのは、当時の私はまだ悪魔として未熟だったこと。人に命令した内容も「あっち行って」や「話しかけないで」などの幼稚なものだったため、怪我人が出るような事態にはならなかった。
だけど、誰であろうと私に関わろうとする人間は私の言うことに逆らえなくなり、更に操られている間の記憶が曖昧になっていたこともあって、私は周囲から「関わるとおかしな事になる」と気味悪がられるようになってしまった。
今更ながら、なんであの時の私は冷静な判断ができなかったのだろうかと頭を抱えてしまう。見た目は5歳でも精神は大人だったし、十分に物事を考えることはできたはずなのだ。だけど、私は子供の身体に精神が引っ張られて余裕を失ってしまっていたのかもしれない。
「君は、この時から独りぼっちだったんだね。」
「うぐっ、事実だから否定できないけど、直に言われるとクルものがあるなぁ。」
だが実際、私は大人の精神を持った転生者としては良くないスタートの切り方をしたというのは否定しようがない。なぜなら、ここでの生活を皮切りに人間との関わりがほとんど無くなった私は、人としての理性がどんどん悪魔の身体に引っ張られるようになっていってしまったのだから。
景色が突然切り替わった。視界にノイズが走ったように空間が歪み、一瞬にして古い記憶の中の風景が現れた。
ここは……私が通っていた小学校だ。机と椅子が均等に並べられた教室には、やはり顔の無い子供たちがあちこちにいた。
教室にいる子供たちは二、三人ほどずつで固まり、ヒソヒソと何かを話している。もはやただの吐息にしか聞こえない声が教室内を満たす中、その中心で小学生だった私は席に座って絵を描いていた。
黒の鉛筆を握りしめ、ノートの白紙のページに黙々と線を引いていく。すると突然、ノートが何者かに取り上げられた。
ノートを取り上げたのは三人組の少女だった。彼女達は私の描いた絵を無遠慮に眺めると、指を差し、嗤い、足元に捨てて踏みつけた。
ますます大きくなる嗤い声を聞きながら、私は少女に指を指した。
『ここから出て行って。早く。』
そう”命令”した瞬間、三人は弾かれるように教室を出て行った。三人組がいなくなると、私は床に落ちていたノートを拾い上げ、また席について絵を描くのを再開した。周りでヒソヒソ話していた子供たちの声は、いつのまにか無音の中に消えていた。
その光景を教室の後ろの方から眺めながら、私はマキマさんに向けて語り出した。
「支配の力を意識的に使い始めたのは、たぶんこの頃からだったと思います。さっきみたいにイジメられそうになった時、いじめっ子たちに私の傍からいなくなるように命令して、身の安全を守っていたんです。」
私は隣で話を聞いていたマキマさんの前を横切りながら、教室の窓に近づき、外の景色を覗き込む。すると、ちょうどさっきの三人組が全速力で校門の外へ出て行くのが見えた。
「この記憶は、私が支配の悪魔に転生してから最初に経験したヤバかった時の記憶ですね。あの走って出て行った三人ですけど、危うく車に撥ねられそうになって軽傷を負ったんですって。私、小学生で殺人を犯すところだったんですよ。」
「殺すつもりじゃなかったの?」
私の隣に歩いてきたマキマさんが、そう尋ねてくる。
「いいえ?さすがにまだ人間としての理性が残ってましたからね。本気で殺すつもりはなかったですよ。…………だけど、『ここから出てって』って簡単な命令をしただけであの三人を学校の外にまで追い出したんですから、あわよくばって気持ちはあったかもしれませんね。」
「子供の脳ってスゴいですよね。ああもあっけなく支配の力で操れるってことは、あの年で『ここにいる全員、私ならいつでも殺せる』ってはっきりイメージできてたってことなんですから。」
「……君があそこまで怒ったことには、あの描いている絵が関係していたりする?」
マキマさんに言われ、私は教室の中に視線を戻す。教室の中心では、相変わらず絵を描き続けている小学生の私の姿があった。
「あ~、かもしれませんね。あの絵を踏みつけられたから、それに怒ってやりすぎちゃったのかも。」
「どんな絵を描いていたの?」
「えぇ~?それ聞いちゃいます?昔描いてた絵のことを話すのって割と恥ずかしいんだけどなぁ。……あの絵はですね、子供の頃に憧れていた最強の悪魔を描いていたんです。」
「最強の悪魔?」
「そうです。不死身で無敵のヒーローで、助けてって言ったらどこへでも駆けつけてくれる地獄のヒーロー。ほら、彼ですよ、彼!マキマさんならわかるでしょ?」
「…………チェンソーマン?」
「正っ解!やっぱマキマさんに転生したんだし、本物のチェンソーマンにも会えるかもって期待してたんですよね~!まあ、そもそも世界が違うっぽいし、地獄への生き方も分からなかったから会えなかったんですけどねぇ……。」
「会いたかったんだ、チェンソーマンに。」
「そりゃもちろんですよ!」
「だけど、会ってどうしたかったの?」
「…………。」
「チェンソーマンは地獄のヒーローだけど、助けを求めた悪魔も、呼ばれた原因になった悪魔も、チェンソーマンは両方殺しちゃうって、君は知ってたはずだよね。もしチェンソーマンに会っていたら、君は殺されていたかもしれないんだよ。」
マキマさんに言われ、私は何を言うべきか迷った。「単純にファンとして会いたかっただけですよ!」と言えばよかったのに、その言葉は喉につっかえて出て来なかった。
窓の縁に腕を組んで顔を乗せ、また外の景色を眺める。
「さあ、どうしたかったんでしょうね。」
「…………チェンソーマンに、助けてほしかったの?」
「……分かりません。助けてほしかったような気もしますけど、そうでなかったような気もします。実際、具体的に何をどうしてほしかったのか、分からなかったから。」
カリカリと、休む間もなく鉛筆が線を引く音が聞こえる。
学校の外の景色は、灰色に塗り潰された闇だった。
景色がまた切り替わる。
この、胸やけがするような甘ったるい風景は、お菓子の魔女の結界?
___ドゴンッ!!!
「うわっ!?」
突然、重いナニカを叩くような音と、足元を揺るがすような衝撃が襲う。
身体をふらつかせながら顔を上げると、私がお菓子の魔女を一方的に殴り飛ばしている光景が見えた。
噛みつこうとする魔女の顎をかちあげ、頬を殴り飛ばし、頭を潰す。
一撃一撃が空間を、結界を、魔女の心を折っていく。
その間、見えた私の顔は眉一つ動いていなかった。
これは戦いじゃない。作業だ。目の前の問題を冷徹に処理し、新たな駒を得るための単純作業。
『痛くしてごめんね。』
そう言って魔女の顔を覗き込む私は、ただ音を舌に乗せて口から出しただけのような無表情だった。
それは過去の自分を見ていると分かっていてなお、背筋が凍った。
そうだ。私は今まで出会ってきた魔女をこんな風に痛めつけて、何食わぬ顔で魔人となった子供たちと出会ってきた。
……狐の魔女、地獄の魔女、幽霊の魔女、蛇の魔女、皮の魔女、未来の魔女、銃の魔女、鮫の魔女、血の魔女、お菓子の魔女…………。
みんな、私がこの手で痛めつけて、そして拾い上げてきた。
『初めまして、私は公安対魔特異課のウィッチハンターのマキマ。気分はどうかな?調子は大丈夫そう?』
そう言って自分で殴り飛ばしたばかりの元魔女である魔人の頭を何食わぬ顔で優しく撫でる。右も左も分からない、魔女だった時の記憶が混濁している、魔法少女としての最期の記憶が忘れられなくて震えている。そんな子達の頭を撫で、手を握り、心の底から寄り添おうとした。
もう二度と立ち上がれなくなるほどに痛めつけた血塗れの手で、子供たちを本気で励まそうとした。
「はは、これじゃどっちが本当の私か分かんないや。」
「どっちも本当の君だよ。」
「だとしたら怖すぎですよ。完全なるDV女じゃないですか。それも何百人って数の子供たちを殴って甘い言葉を囁く極悪人。」
「全部必要なことだったんでしょ?」
「必要だった、けど……そういう問題じゃないですよ、コレは。」
「私ですら怖いって思ったもん。周りのみんなが怖がらないわけないじゃないですか。」
また景色が切り替わった。
今度は見慣れた我が家だった。
だけど、なぜか私の家ではないという確信があった。
置いている家具も、間取りも、部屋の明かりの色も、全てマキマさんの家を再現しようと頑張った。だけど、ここは私が再現した作り物じゃない。
「こっちにおいで。」
「……マキマさん。」
大きくてフカフカのソファには、7匹の犬を周りに侍らせたマキマさんが座っていた。
私は、犬を飼っていない。「マキマさんの家を完全再現したい」なんて自分勝手のエゴのために7つもの無垢な命を預かる責任を負えなかったからだ。この犬たちは、マキマさんの犬だ。
私はマキマさんに誘われるまま、彼女の隣に座った。ソファが軋みを上げ、私とマキマさんの肩が擦れ合う。
すると突然、マキマさんは私の肩に手を這わせ、そのまま抱き寄せるように引いて私の頭を太ももに乗せた。
あぁ、温かい……。
柔らかくて、気持ちが良くて、ずっとここにいたいと思ってしまう……。
「ずっと独りぼっちで、辛かったんだね。」
「……うん。」
「寂しくて、空しくて、胸が苦しかったんだね。」
「……うん。」
「どれが本当の自分か分からなくて、怖かったんだね。」
「……うん。」
「今も、それは変わらない?」
「…………うん。」
私の耳に、マキマさんの透き通るような心地いい声が響く。
私は頭を撫でてくれていたマキマさんの手を捕まえ、それに頬を擦り付けた。もう大人なのにとか、みっともないだとか、そんな邪魔な思考は霧の向こうに置いてきた。
ずっと、考えないようにしていた言葉が、言わないように忘れていた言葉が、スルリと唇から零れだした。
「私はこの世界に生まれた時から、身体だけじゃなく心も悪魔になっちゃってた。人が苦しんでいるのを見るのが好きだし、絶望している表情を見ると笑いが込み上げてきちゃうんだ。」
絶望に打ちひしがれ、呪いに身を任せた魔法少女の成れの果て__そんな魔女たちを人間社会から隔離するために倒して捕獲する。
殴り倒した魔女が動かなくなったところで、いつのまにか唇の端が吊り上がっているのを密かに自覚していた。
「私にはもう人の心が残ってないから、どうしたって人間のみんなと分かり合うことはできない。どうすれば私の都合の良いようにみんなが動いてくれるのか、そればかり考えちゃう。」
誰かが傷ついたり、心に深いトラウマが残ったり、そんなことは損失だとは考えない。結果的に最善の結果に辿り着けるのであれば、そこに至るまでの過程で生まれる不幸には目を逸らしてきた。
「だから考えたことがあるんだ。『いっそ、私以外の悪魔がこの世界に現れて、悪魔がいっぱいのチェンソーマンの世界みたいになればいいのにな』って。」
そうなれば、この世界はもっと楽しい世界になると思う。
破壊、殺戮、恐怖__あらゆる狂気が日常と化し、混沌が当たり前になった世界が訪れる。
きっと、毎日退屈しないだろうな……。
「悪魔となら、私は本当の幸せを手に入れられるのかもしれないなぁ。」
「それなら、私が一緒にいてあげるよ。」
「……へ?」
唐突に告げられた提案に、私の口から変な声が漏れ出た。
首を動かしてマキマさんを見上げれば、私を見下ろす同心円状の瞳と眼が合った。
「私なら、君の悩みも、願いも、心も、全部わかってあげられる。楽しさも、悲しみも、怒りも、寂しさも分かち合える。だって、私は君と同じ、支配の悪魔だから。」
「マキマ、さん……。」
「もう人間たちに従って戦う必要なんてない。これからは誰にも縛られず、君の望むままに生きればいいの。私が、君を肯定してあげる。」
「どうして、そこまで……。」
「私も君と同じだからだよ。この世に私達と対等になれる存在なんていない。真に分かり合える他人なんていない。だけど、同じ支配の悪魔なら__私達なら対等になれる。」
「私は、ずっと君が欲しかったんだ。」
マキマさんの指が私の頬に触れる。その触れているという実感が、妙な心地よさを私に与えてくれる。
「マキマさん……。」
「君はもう寂しい思いをしなくていい。お姉ちゃんがずっと傍にいてあげるから。だから、何も心配せずに、ずっと楽しい”夢”を見ていて。」
マキマさんの言葉を聞いているうちに、安心する温かさに包まれて、徐々に意識がまどろんでいく。
あぁ、確かに、このままマキマさんと一緒に寝てしまってもいいのかもしれない。ここにいれば、私は何も考えずに見たい夢をずっと見続けることができる。
「マキマさん……。」
「おやすみ、私の可愛い妹。良い夢を。」
マキマさんの手に撫でられる感触に促され、そのまま深い深い闇の中に意識が落ちて行った。
コツ、コツ、コツ……
……ん?
コツ、コツ、コツ……
……これは、足音?…………誰の?
コツ、コツ、コツ…………ガチャ
え?今、何か開けた?
『来たぞ……大事な話ってのは何だ、マキマ。』
えっ。
えっっ。
えっっっ!?そ、そそそ、その声は!?
「岸辺せんしえい!?」
「っ!?」
頭が一気に覚醒する。呂律が回らないままに飛び起き、両手を動かして必死に言い訳を探す!
「ちちち違うんです先生!これはですね日々の疲れを癒すためのリラックス法でありまして決して仕事をサボって居眠りしていたわけじゃなくてですね__!!」
『来てくださってありがとうございます、先生。』
「__ですのでどうかご慈悲を……ん?今の声、私?」
先生以外の声が聞こえ、一旦落ち着きを取り戻す。すると、見えている視界がおかしいことに気づいた。
私の視界は今、水の中を覗き込んでいるような状態になっていて、揺らめく水面の中に懐かしい姿が見えた。
ウィッチハンターの黒スーツの上にコートを着た壮年の男性。左頬には口角から顎にまで伸びる縫い目があり、髪は金髪のツーブロック。こちらを見る虚無の瞳には非常に見覚えがあった。
公安対魔特異一課、岸辺隊長。私をウィッチハンターとして育ててくれた先生であり、一生逆らうことのできない悪魔(のような人)だ。
「せ、先生?というか、この視界は一体……。」
『単刀直入に言わせていただきます。先生、私と契約を結んでいただけませんか?』
「っ!この会話って……。」
そうだ。これは、私が支配の悪魔として、岸辺先生と契約を結んだ日。
私の全てを、先生に明かした日の記憶だ。
「どうしていきなりこの記憶が?」と混乱している間にも、記憶の中の私と先生は会話を続ける。
『契約……それは、悪魔としてのか?』
『そうです。そしてこれは、私からのお願いです。』
『どういう意味だ?』
『…………私は昔から、他人に対する興味が希薄でした。正直なところ、周りのみんなに抱く印象は”いつでも操れる便利な駒”としか見えていませんでした。特異課を結成して早10年、一緒に血反吐を吐くくらい訓練して、命がけで仕事をして、おいしいご飯を食べたみんなを本当の仲間のように感じていました。ですが、みんなと笑い合っている間も冷めた目をした私がどこか遠くからみんなを見下ろしているような感覚があったんです。』
『先生やみんなのおかげで、私は人と関わることの楽しさを知れました。でも、私はみんなと全てを分かり合えることはできません。いつか、私は悪魔の本能を抑えきれなくなって、支配の力でみんなが苦しむような世界を作って、それ愉快だと感じる存在になってしまうかもしれない……。』
『だから、そうならないように、みんなが不幸にならないように、先生には私と契約を結んでほしいんです。私の命を、先生に託しておきたいんです。私よりもずっと強くて信頼できる先生に。』
『どうか、お願いします。』
頭を下げて先生に頼み込む過去の私。
この時、先生は何て言ったんだっけ……。
『……お前が悪魔なのは、俺とお前が初めて会ったあの時から変わっていない。お前はいつか、俺たち人間を操り人形にするんじゃないかとは考えていた。』
『え?そ、そうなんですか?』
『あぁ。お前は気づいていなかったようだが、魔女に殺された人間の死体を見た時、いつも面白いものを見るような感じで目を輝かせていたからな。』
『ほ、本当ですか?やっぱり、私はもう取り返しのつかないところまで来てたんだ……。』
『まあ、いざとなったら自分を育ててくれた恩師に殺してもらえればいいかと、俺の都合も無視して平気で思いつく時点で、人の心は無いと思う。』
『うぐっ、それは、すみません……。』
あぁ、そうだ。先生からの容赦のない指摘でショックを受けたんだった。今も昔も、先生は何でもないかのような顔でズバズバ言ってくるからついしょんぼりしちゃうんだよねぇ……。
配慮が足りていなかったと、俯いて反省する過去の私。
そんな私の目の前で、先生はスキットルの中身を1口飲むとぽつりと呟いた。
『……だが、今ならわかる。お前には間違いなく人の心がある。』
『……え?』
岸辺先生の一言を聞いた私の視界が持ち上がる。
先生は手に持ったスキットルを見つめながら、その続きを語った。
『お前は自分の心に良くも悪くも正直だ。悲しいことがあったら泣き、嬉しいことがあったら笑う。そして、それが自分のことでなくとも共感することができる。その感性は俺たち人間とほとんど変わらない。』
『お前は人間じゃないが、俺たちと同じ人だ。そうでなければ、ここまで俺たちは上手く付き合うことはできなかった。』
『で、でも、さっき先生は私に人の心は無いって……。』
『それとこれとは別だ。そういうまともなところがウィッチハンターとしてお前はまだ未熟なんだ。』
『え、えぇぇ……。』
先生の理不尽な評価に半目になっていると、視線を下げていた先生が私と目を合わせてきた。
目が合った私は、思わず背筋を伸ばして先生の言葉に意識を集中させた。
『お前はガキの頃からずっとまともなままだ。それを力で誤魔化してきただけだ。その証拠に、特異課を設立した時からお前は子供たちや部下、さらには外部の魔法少女や他所の部署の連中にも慕われている。』
『えっと、どういうことですか?』
『支配の力を使わなくても、お前の周りにはいつも人がいるってことだ。』
『…………私は、みんなとちゃんと分かり合えているのでしょうか。』
『分からない。人間同士ですら思想の違いだけで殺し合うんだからな。だが少なくとも、お前は今の生き方を気に入っていると思う。でないと、俺にこんな話を持ちかけるはずがない。』
先生はそう言うと、スキットルを懐にしまいながら私に背を向けた。
『話は終わりだ。俺は飲みに行く。』
『えっ!こんな昼間から、っていうかガッツリ勤務時間中なんですけど!?いやそうじゃなくて、私との契約は___』
『そんな目覚めの悪くなりそうな契約は結ばない。』
『そんなぁ~!せめて一緒に考えてくださいよ!』
『今の俺の話を聞いてもまだ不安なのか。』
『不安ですよ!先生のおっしゃる通り、私はみんなといる時間をとても大切だと感じてはいます!ですが、未来の私がどうなるか分からないじゃないですか!?』
『俺の眼には、今よりももっと馬鹿になっていくお前の姿が見える。』
『先生には私が馬鹿に見えてるんですか!?とにかくお願いですよ~!せめて保険が欲しいんです~!』
『…………世話の焼ける悪魔だな。』
この場を去ろうとしていた先生は溜息をつくと、帰ろうとしていた足を止めて私の方に振り返った。
『分かった。お前と契約してやる。ただし、契約の内容はまた今度時間を取って擦り合わせる。』
『本当ですか!ありがとうございます!ですが、今この場で契約してしまってもいいのでは?契約の内容も考えてありますし。』
『ダメだ。お前に契約の内容を考えさせるとぶっ飛んだ内容にするだろうからな。例えば、俺から血を一滴貰う代わりに自分の命を差し出すとかだ。』
『な、なんでわかったんですか!?』
『………………こういうところで頭のネジを外されても困るんだがな。』
先生は私に呆れたような視線を向けた後、今度こそ背を向けて部屋を出て行こうとした。
そして、先生が部屋を出る直前、記憶の中の私が先生の背中を呼び止めた。
『先生。』
『なんだ。』
『言うのが遅くなりましたが、私の話を聞いてくださって、ありがとうございます。おかげで少し楽になりました。』
『……俺はお前の先生だからな。』
『お前がどんな生き方を選ぼうと、その末に人間と敵対することになろうと、俺を先生と呼んでくれる内は最期まで面倒を見てやるよ。』
先生はそう言い残し、扉の向こうへと消えていった。
そうだった。
私には、悪魔である私を受け入れてくれる先生がいた。
そして、先生は私に独りぼっちじゃないことを教えてくれた。
私が勝手に、自分とみんなを悪魔と人間で分けて考えていただけだということを教えてくれた。
思い出した。
私はずっと昔から、変わらず夢を見続けていたんだった。
魔法少女や魔人達、そして特異課のみんなに必要とされて、みんなから信頼される私。
そんな私になるために歩んできた、これまでのみんなとのたくさんの時間。
それは私が夢への旅路を歩む中で積み重ねてきた、みんなとの絆。
夢を見るだけでは手に入らない宝物だ。
帰りたい……みんなの所に。
「そろそろ起きなくちゃ。」
光が差し込み、膨れ上がり……
気づけば、景色が変わっていた。
無数の扉に埋め尽くされた空。
どこまでも続いていそうな長閑な草原。
私は悪魔たちの故郷である地獄の中に立っていた。
「もう起きちゃうの?」
声がした方に振り向けば、そこには黒いワンピースを身に纏ったマキマさんが立っていた。その顔は不気味なほどの無表情だったけど、私には彼女が何を考えているのか手に取るようにわかった。
私は申し訳なさでつい眉が下がってしまうが、それでも自分の意思を彼女に告げた。
「うん。心配なんだ。頑張ってくれてる子供たちやウィッチハンターのみんなのことが。」
「私が代わりに行ってきてあげるよ。」
「ううん、私に行かせて。私がみんなの所に行きたいんだ。」
「私は、ここにいてほしい。」
マキマさんはそう言うと、私に向かって手を伸ばした。すると、私の右手に支配の鎖が現れ、私の手首に緩く巻き付いた。
だけど、それはただ巻き付いただけだ。彼女の鎖には私を縛る力はない。そしてそれは、私から彼女に対しても言えることだ。
私を引き留めるのは不可能だと察したらしいマキマさんは、拳を握りしめてその場で俯いてしまった。
「やっと、君とお喋りすることができたのに……。君はまた、人間たちの所に行っちゃうんだね。」
「うん。」
「…………そっか。」
「…………。」
マキマさんはそれっきり何も言わなくなってしまった。
だけど、私にはマキマさんがどうしたいのかを感じることができる。なにせ同じ身体を共有していて、魂が狭い身体の中で密接に隣り合っているのだから。
故に、荒れ狂っている本心と現実への諦めで板挟みになっているマキマさんに私は近づき、その手を取った。
「マキマさんも一緒に行こうよ。」
「……え?」
「マキマさんもずっと寂しかったんだよね。私と一緒に見てきた夢はどれも私の記憶で間違いなかったけど、今の今まで忘れてる記憶ばかりだった。だからあの夢を見せていたのは私じゃなくてマキマさんだったんだよね。」
「…………。」
「沈黙は肯定と同じだよ、マキマさん?」
「…………うん、その通りだよ。昔の記憶を見せたら、君は私の言葉に耳を傾けてくれて、そのままここに留まってくれるんじゃないかって、思ったんだ。」
「やっぱりね。うん、なかなか良い手だったと思うよ。実際、先生の記憶を思い出すまでマキマさんのペースに乗せられてたわけだし。さすが、支配の力って怖いね~。」
「それよりも怖い先生ってどうかしてるよね~」と頷きながら、私は握っているマキマさんの手を引っ張った。
「それで、マキマさんも来るの?来ないの?」
「……私は一緒に行くことはできないよ。同じ支配の悪魔の名を持つ私達は、この世に二人同時に存在することはできない。同じ『支配』の概念が二つも存在するわけないんだからね。だから、私はここに留まるしかないんだ。」
マキマさんはやはり下を向いて、私と一緒に行くことができない理由を告げた。
そっか。一緒にはいけないのか。それは残念だ。
しかしだからと言って、マキマさんが下を向く必要はないのだ。
「じゃあマキマさん、私が帰ってくるのをここで待っててよ。」
「帰りを、待つ?」
「そう!私はみんなの所に行くために起きないといけないけど、そのままもう二度と会えなくなるってわけじゃない。私がまた眠ったら、ここでマキマさんと会うことができるでしょ?」
私は自分の手から出した支配の鎖をぶら下げてマキマさんに笑いかけた。今までは私の中にいるマキマさんの魂に気づくことができなかったからどうしようもなかったけど、こうして出会って、お喋りもして、手で触れあったのなら、私たちは支配の鎖をつなげていつでも会うことができる。それも夢の中限定ではなく、意識を共有したやり取りも可能になるわけだ。
「マキマさんは私が頑張ってるところを見守っていて。そして帰ってきたら、いっぱいよしよしして褒めてほしいな。ほら、さっきの夢の中でやってくれたみたいに。」
「いいの?私は君の辛い記憶を利用して、夢の中に閉じ込めようとしたのに。」
「いいよ。私だって人のことを言えるほど善い悪魔じゃないからね。これくらいで目くじら立てたりなんかしないよ。それに、マキマさんの膝枕、マジで最っ高だったし!あれっきりってのは私も寂しいな~。」
そう言ってチラチラッとマキマさんに目線を送ると、マキマさんは「はぁ」とため息をついていた。それは呆れていたり怒っていたりという様子ではなく、肩の重荷が外れたような安堵の溜息だった。
「なんだか、君の言う通りでもいいんじゃないかなって思えてきちゃった。支配の力を使っていないのに、凄いね。これじゃ、どっちがお姉ちゃんか分からないね。」
「よくできた妹でしょ?」
「うん、君は間違いなく、支配の悪魔である私の妹だよ。」
私とマキマさんは静かに抱き合った。それはどちらかが一方的に甘やかそうとする抱擁ではなく、互いの温もりを分け合うような優しい抱擁だった。
そうしてしばらく抱き合った後、私たちはそっと離れて見つめ合った。
「それじゃ、行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい。」
私はマキマさんから離れ、振り返った。
そこには、草原の中にポツンと佇む一つの扉があった。
この光景にはとても見覚えがある。たまに見る夢の景色も、こんな感じで地獄の扉を潜ろうとする夢だった。これも私の記憶から反映された夢なのだろうか。
(ん?それにしては何かがおかしいような……。)
一瞬、夢と記憶の繋がりを考えた時に引っ掛かるものを覚えた。しかし、今は早くみんなの所に変えることしか私の頭の中にはなく、浮かび上がりそうだった疑問は隅の方へと飛んで行った。
地獄から現世へ行くための扉に近づき、ドアノブを握る。
そして、握ったドアノブを捻って扉を開け、あふれ出る光の中へと足を踏み入れた。
<支配の悪魔>
「行ってきます!」と元気よく言ったあの子は、地獄の扉を開けて夢の世界から目を覚ました。
光の中に消えていくあの子の背中を最後まで見送ると、私はあの子が一瞬だけ扉の前で足を止めたことについて考えを巡らせた。
やっぱり夢の中に留まってくれるんじゃないかと期待したわけじゃない。近くでしっかりと見つめ合ったあの子の眼は希望に満ちた未来を見ていた。私の誘導によって深い眠りに落ちかけていた時とは全く違う力強い目だった。
だから、あの子が足を止めた理由はほかにあると考えた。そして導き出せる結論は私の中には一つしかない。だけど、その可能性がどれ程のものか、私は顎に手を添えて考えた。
「私が過去の記憶を見せたから、あの子はずっと昔の記憶まで思い出したのかな?それにしては
あの子は、地獄の扉を前にして立っている夢をたまに見る。それと今見ていた夢を繋ぎ合わせそうになっていたみたいだけど、気のせいか何かだと思って無視してしまったらしい。
「…………まあ、別に思い出さなきゃいけないほどの記憶じゃないし、放っておいてもいいよね。」
あの子の人生はこの世界で始まった。なら、”それより前”の記憶なんて無理に思い出す必要なんてない。
「もしあの子が聞いてきたら、その時に教えてあげればいっか。」
私は踵を返し、地獄の風景の中を歩きだした。
あの子が帰ってきた時のために、ゆっくりお喋りができる夢を作っておいてあげなくちゃ。
「ふふ、楽しみだね。」
地獄の空を見上げた私の心は、不思議ととても晴れやかな気分だった。
____夢から覚め、再び前へと歩んでいく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちょっといつもより長くなってしまいましたが、その分だけちゃんと皆さんに楽しんでいただけるようなストーリーになっていたら幸いです。
という訳で、次回からオリ主マキマさん復活です。今までのシリアスをぶっ壊してハチャメチャやってもらいます。
良ければ感想などお待ちしております。モチベが上がります。
それではまた次回に。
【以下、蛇足】
岸辺とマキマが契約について話した、次の日。
二人はもう一人の特異課”最強”にして
「それで、マキマは自分が将来暴走した時のために岸辺と契約をしたと。」
「はい……。」
「私とは?」
「え?」
「私とは契約しないのか?」
「え、えぇっとぉ……それはぁ……。」
「…………。(無言の圧)」
「し、しますぅ……。是非させてくださいぃ……。(涙目)」
この間、岸辺はそっぽを向いて全力で他人のふりをしていたが、すぐに”バディ”である彼女の「なんで私には黙ってた」と怒りの鉄拳を受けて吹き飛んだのだった。
南無……。(手を合わせるマキマ)
今後書こうかなと考えている二次小説の小出しってアリですか?(注意:少なくとも現在連載中の作品の片方が終わるまで本格連載はしません。あと実際に書くかもわかりません。)
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見てみたいかも。
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別にいいんじゃない?
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何とも言えない。
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書かないならダメ。
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今の二次小説に集中して。
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そのまま三作目行っちゃえ!