前回からまた間が空きましたね。遅くなって申し訳ありません。
あともう一つ謝るべきことがあるのですが、後書きの方で綴ります。
それでは、本編へどうぞ。
<暁美ほむら>
見滝原市が大規模な魔女災害に見舞われてから、およそ12時間。
特異課の上層部に魔女災害を人為的に引き起こした犯人として疑われ、市内のセーフハウスに一時的に拘束されているマキマに話をしに来たはずの私だったが、彼女の内にいる支配の悪魔とやらがマキマの肉体を操って謎の男と取っ組み合っている場面に遭遇した。その上、怪しい笑みを浮かべて喋り始めた支配の悪魔によってマキマの正体を知ることになってしまった。
マキマが人間ではなく悪魔という人外の生物だった。これには一応驚きはしたが、今までにサプライズ好きのマキマから何度も驚きと困惑を味あわされたおかげで変な耐性がついてしまったのでしょう。「あぁ、だからマキマはいつも邪悪なオーラを纏っていたのね。」と納得までしてしまった。
とはいえ、あのマキマの身体を操っていた彼女の話を信じるならば、今一度マキマと話をしなければならない。
マキマの目的は何なのか、なぜ私たちの味方をするのか。
マキマの正体が悪魔という存在であると理解したうえで、彼女の本音を確かめなければならないわ。
まあ、今のマキマは眠っている状態らしいから、彼女と話をするのは明日以降……最悪は数日後とかになりそうな感じではあるけれど。
(思えば、”ヤツ”がこの街に現れるまで、もうあと2週間も無いんじゃないかしら。)
この時間軸は今まで通って来たどの時間軸とも違い過ぎるうえに、一日一日があまりに濃厚過ぎた。気が付けば、タイムリミットまでに悠長にしていられるような時間は残っていない。
”ヤツ”が見滝原に出現し、まどかが魔法少女になってしまうその日までに、どうにかしてマキマには目を覚ましてもらわなければ。
せっかく「この時間軸ならば今度こそ」と希望を持てたのだ。こんなところで終わるわけにはいかないわ。
(だけど、今すぐ何をすべきかなんて咄嗟には思いつかないわね。とりあえず今は、マキマが目を覚ますことを信じて、目の前の問題に集中しましょうか。)
一先ずそう方針を立てたところで、持ち上げた視線が向かいのソファに座る赤髪の少女を捉えた。
彼女の名は佐倉杏子。見滝原の隣町である風見野市を拠点として活動している魔法少女だ。過去には巴さんとコンビを組んで活動していたこともあり、その実力はまさにベテランと言えるものである。
そんな彼女が見滝原にいる理由については、なんとなく察しはついている。というか、これまでの統計からして「死亡した、或いは戦えなくなった巴マミに代わり、見滝原を第二の縄張りとする」ためにここへ現れたのでしょう。
確かに、巴さんは現在、お菓子の魔女に殺されかけたことで精神にトラウマを抱えてしまっており、特異課からの支援を受けながら療養している身だ。魔法少女としては活動休止の状態にあり、佐倉杏子が見滝原という縄張りを得るには絶好の機会とも言える。
しかし、それは佐倉杏子がなぜ見滝原にいるのかに対して推測できる理由に過ぎない。問題は、『なぜ彼女が特異課のセーフハウス内にいるのか』だ。
私は右肩に乗っているイナリにそっと耳打ちした。
「イナリ、全国にあるという特異課のセーフハウスに入るには、特異課で必要な手続きを踏む必要があったと記憶しているのだけど……。」
『その通りだ。出入りが可能なのは
「なら、佐倉杏子_目の前にいる彼女は、既に特異課で登録済みなの?」
『いや、まだだな。彼女と私達は今回が初対面のはずだ。特異課の職員と出会い、そのまま本部に案内された記録も無いだろう。なにせ全ての魔法少女と魔人達の顔を覚えている私が知らないのだ。間違いない。』
「あ、そう。」
佐倉杏子の顔から全身までを舐めるように視線を動かすイナリに呆れた目を向ける。ちなみに、佐倉杏子はここから逃げ出さないように、ボフンと湧いた煙から現れたイナリの使い魔4体のモフモフな体に巻き付かれて拘束されている。そのいずれもが本体と感覚を共有しているのか、可哀そうな佐倉杏子は4+1体からの熱烈な視線を受けて顔を青ざめさせている。
「なあ!そこのアンタ!黙って見てないでコイツら何とかしてくれよ!コイツら使い魔のくせに力が強くて振り解けねーんだけど!?」
「__って彼女は言ってるけど?」
『残念ながら無理な相談だな。特異課関係者でないにも関わらずハローの結界の内側に侵入していたこと、侵入先がマキマを拘束しているセーフハウスだったこと、なぜ見滝原が魔女災害に見舞われているタイミングで現れたのか等々、事情聴取で絞らなければならないことが山ほどあるからな。しばらくは不自由でも我慢してもらうほかない。』
「__だそうよ。諦めなさい。」
「だったら早くその事情聴取ってのをしろよ!?縛るだけして放置しても何も進展しないだろ!?」
「ところでさやか、一つ聞きたいことがあるのだけど___」
「無視かよ!!!!」
「あたしは無実だしむしろ被害者……モゴォ!?」と喚きながらイナリの使い魔のモフモフに呑み込まれた佐倉杏子を尻目に、私は隣に座るさやかから何があったのか話を聞こうと声を掛けた。
「さやか、どうしてあなたも特異課のセーフハウスにいるのか、教えてもらえないかしら?ここには関係者しか入れないはずだけど、どうやって入ったの?」
「わたし?わたしはあの支配の悪魔とか名乗ってたアイツに連れられてきたの。あっちの杏子って子もアイツに担がれて来たんだ。」
「……いったい何があったの?」
「……う~ん、そうだな~……。まあ、別に隠すことでもないし、ほむらになら喋っちゃってもいいかな。」
さやかはそう言うと、今に至るまでに起こった出来事を一つずつ順を追って話してくれた。
彼女は見滝原が大規模魔女災害に見舞われる直前まで、上条恭介の入院する病院に足を運んでいたらしい。
そして、その時になって魔女災害が見滝原市を襲い、さやかたちは逃げる暇も無く魔女の襲撃を受けたそうだ。
病院は醜悪な肉塊のような魔女に丸ごと取り込まれ、院内はまるで出口のない悍ましい迷宮へと様変わりしてしまったらしい。おそらく魔女の結界に取り込まれてしまったという彼女は、肉体的に不自由な上条恭介を車いすに乗せて結界からの脱出を目指した。しかし、生き物の体内のような光景に様変わりした院内では至る所から魔女の触手が現れ、全力で逃げていた二人は魔女の本体がいる結界の中央にまで追い立てられてしまったそうだ。
逃げ道は塞がれ、周囲には不気味に蠢く肉の触手。そして傍には車いすに乗った大切な人がいる。
最早助かる道は無いと諦めかけた、その時。
さやかは、自身の足下にキュゥべえの姿を見つけた。
「それでわたしはキュゥべえと契約して魔法少女になって、魔女と死に物狂いで戦ったってわけ。その甲斐あって恭介や他に院内で生き残ってた人達を助けられたんだけど……まあ、魔法少女初心者のわたしがいきなり魔女を倒すっていうのは荷が重すぎたね。想像以上に強くって、結局逃げられちゃった。」
「そう……そんなことがあったのね。」
「もう散々だったよ~。恭介には魔法少女に変身したところを見られちゃったし、たくさんの人たちを救えたけど全員は助けられなかったし、逃がした魔女を追いかけた先であの偽マキマ先生に出会っちゃって、なんやかんやあった末に殺されそうになっちゃんたんだよね。」
「ッ!彼女に殺されそうになったの?」
「そ、今イナリの使い魔にもみくちゃにされてるあの子と一緒にね。だけど最終的に部屋に放り込まれただけで特に何もされなかったんだよね。全く何がしたかったのやら。」
さやかはそう言って肩をすくめた。まるで平気そうな言い方ではあるけれど、魔女との戦いといい、支配の悪魔に捕まった件といい、命の危険にさらされていたというのは十分に分かった。
支配の悪魔がどうしてさやかたちを殺そうとしたのか、そしてなぜ実行には移さなかったのか。分からないことがまた増えてしまったけれど、今は一先ず彼女たちが無事だったことにほっと溜息をついた。
とはいえ、これで彼女も私達と同じ、魔女との戦いを宿命づけられた魔法少女となった。特異課の協力があれば、少なくとも命がけの魔女との戦いに無理をして身を投じなくてもいいとは思うけれど、今後の日常生活にどのような影響が現れるのか、慎重に様子を見る必要がありそうね。
その時、不意に私の肩にさやかの手が触れた。ハッとした私は隣のさやかに目を向けた。
「なに?」
「いんや、なんか難しい顔してるな~と思ってね。」
「そんな顔してたかしら?」
「してたよ。ほむらってばいつも仏頂面してるけど、それでもこ~んなに眉間にしわが寄ってたらさすがに気づくって。」
「…………。」
さやかに指摘され、思わず眉間に手を伸ばしていた。そんな私の様子をクスクスとさやかが笑ったのを「なに笑ってるのよ」と睨めば、さやかは「ごめんごめん」と平謝りした。
「とにかく、さっきも言ったけど、わたしは大丈夫だから。」
「さやか……でも……。」
「も~そんなに心配だっていうなら、分からないこととか困ったことがあったら頼らせてもらうから!という訳で、これからよろしくね、ほむら先輩!」
「先輩って……あなたって人は……はあ、もう分かったわ。」
努めて明るく振舞うさやかを前にして、これ以上暗い話を続けるのも野暮だと判断した。
さやかの言う通り、彼女が困っていたら私やイナリが助けてあげたらいいし、特異課の魔人やウィッチハンター達もいる。あまり悲観的なことばかり考えるのも良くないわね。
私は整理を付けて一つ頷くと、さやかに向けて口を開いた。
「私はあなたの友人として、できる限りサポートするわ。何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってちょうだい。」
『私達特異課も、さやかが魔法少女として生きていけるように手を貸そう。』
「うん、ありがとね、二人とも。」
二ッと快活に笑うさやかにつられて私の口元にも笑みが浮かんだ。
__と、そのタイミングで毛玉塗れになっていた杏子が口を挟んできた。
「なあ、アンタたちは一体何者なんだ?」
そう尋ねてきた杏子はやや疲れた顔をしており、4体の使い魔に絡みつかれたまま抵抗を諦めたような様子であった。
「アンタたち二人が魔法少女だってのは分かる。けど、この使い魔を操ってるそこの魔女と、あの酒臭いオッサン、そんでマキマは一体何なんだ?この街で何が起こってるんだ?」
杏子が重ねて尋ねてきた質問を聞いた私とさやかは、何と答えたものかと互いに顔を突き合わせた。
私達と公安対魔特異課の関係について、特異課とはどんな組織なのかについて、そこに所属する魔人やウィッチハンターとは何者なのかについてなど、説明するとなるとかなり多い。そしていずれも魔法少女の常識を覆すような濃い情報の山であるため、ただ事実を並べ立てただけではすぐに理解することは不可能だろう。
私は顎に手を添えながら口に出すべき言葉を整理し始めた。
「私とさやかは、あなたと同じ魔法少女で違いないわ。そして、この子(イナリ)は本質的には魔女と一緒だけど、正確には少し違うわ。」
「魔女ではあるけど魔女じゃないってことか?よく分かんないな。まあ、魔女が当たり前みたいに喋ってたり、アンタたちと仲良しこよしでやってる時点で、魔女とは明らかに違うんだろうけど。」
『私達は言ってしまえば、人間だった頃の人格と記憶を取り戻した魔女だ。特異課では、絶望に吞まれたままの魔女と理性を取り戻した私達を区別するために魔人と呼ばれている。名乗るのが遅れたが、私は狐の魔人イナリだ。よろしく頼む。』
「人間だった頃?ちょっと待て、それってどういうこと?」
「そう言えば、あなたはまだ知らなかったわね。」
イナリの説明に引っかかりを覚えた杏子の疑問の声に、私は一つ一つ丁寧に説明した。
脳裏にふと、魔女の正体や時間遡行のことをみんなに知ってほしくて打ち明けてきた過去が蘇る。いずれも証拠が足りなかったり、現実味の無い説明だったりだったせいで誰にも受け入れてもらえず、その結果、みんなとの間に大きな隔たりを生むだけに終わってしまっていた。故に仲間作りや相互理解は非生産的な行為だとしか思えなくなり、自分だけで未来を変えようとして、私は独りになっていった。
そんなこれまでの過去を思うと、こうして私の口から魔女の正体を説明しようとすると、緊張で喉が渇く。信じてもらえるだろうか、うまく説明できるだろうか、そんなプレッシャーを感じながらも、佐倉杏子に魔女や魔人の詳細について説明した。
「__これが、私たち魔法少女に秘められた真実よ。」
「…………つまり、アタシは今まで数え切れないくらいの数の人の命を奪って、それにすら気づかないままのうのうと暮らしてたってわけか。」
佐倉杏子は沈鬱な表情のまま俯いた。たしか、彼女は獲物となる魔女を増やしてグリーフシードを安定して入手するために、意図的に使い魔を逃がして魔女に成長するのを待つというやり方で生きていたはずだ。その過程で生じる使い魔による一般人の犠牲には目を瞑り、それを仕方の無いことだと割り切っていた。
しかし、それはあくまで「使い魔」が人々を殺していたから見て見ぬふりができた。だけど実際は「自分」が何十という数の元魔法少女の命に手をかけていたとなれば、目を逸らすことが出来なくなったのでしょう。
生きるために元人間の、それも自分と同じ魔法少女だった存在を殺していたという事実が彼女に重くのしかかっている。彼女は今、これまで見ないようにしてきた「人殺し」というレッテルを直視させられ、その重責を感じているのだ。
イナリの拘束から逃れようと暴れていたのが嘘のように鳴りを潜めた佐倉杏子を見て、イナリが壊れ物に触れるかのような落ち着いた声で話しかけた。
『お前がそこまで思い詰める必要はない。魔女の正体が魔法少女だというのは、普通ならば気付きようがないのだから。』
「……そういう問題じゃねぇだろ。いくら知らなかったって言ったって、それであたしがやってきたことが全部無かったことになるわけじゃない。それに……あたしは……あんた達を殺して、グリーフシードを手に入れようと考えてた。」
『私たちを?お前は以前から私たち特異課の存在を知っていたのか?』
「知ったのはつい最近だ。キュゥべえから呼び出されて、マミのヤツが戦えなくなったことを知らされた。その時に、あんた達のことも教えられた。」
「キュゥべえが?」
ぽつりと漏れた私の呟きに佐倉杏子は力無く頷いた。
イナリは佐倉杏子の言葉を聞いて考え込むような仕草を見せた後、目を鋭利に細めて口を開いた。
『ヤツからは何と教えられた?』
「魔女を操る能力を持つマキマって奴を筆頭に、人間と魔女で構成された組織だって。ウィッチハンターって奴らが魔女を操って野良の魔女を倒し、捕まえた魔女を組織の支配下に置く。さらには魔法少女に勧誘なんかもして、魔女と魔法少女の力を蓄えている謎の組織だって言ってた。」
『ふむ…………言ってることに間違いはないな。事実、私たち魔人はマキマの支配下にあるからな。そのおかげで今の私たちがある訳だが……キュゥべえの説明の仕方は偽りこそないが誤解を生みかねないものだな。』
「えぇ、たしかにヤツらは嘘をつかないけれど、言葉選びや言い回しに作為的なものを感じるわね。」
『ヤツらは人間の感性や感情というものに理解が無い。故に、人を騙すという行為に対して意義を見出すことができない生物だった。だが、実質的に特異課のトップと言えるマキマが宣戦布告をしたことで、インキュベーターもこちらに合わせてやり方を変えてきたのかもしれない。今回の魔女災害を引き起こしたのも、インキュベーターの仕業かもしれないな。』
「どうしてそう思うの?」
『見滝原に現れた魔女はいずれも異常な行動パターンを示していたことが分かったからだ。一部例外を除き、魔女は基本的に臆病な性格をしており、獲物を結界の中に誘き寄せることはあっても自ら外に出ることはない。にもかかわらず、私たちが戦った魔女のほとんどが結界の中で閉じこもらずに本性を顕わにし、街や市民に対して積極的に破壊行動を行っていた。結界を展開していたという魔女も、ただ獲物が迷い込んでくるのを待つのではなく、人間が多く集まる場所を狙って結界を開いていた。こんな行動を取る魔女の記録は特異課でもほんの一握りしか存在しない。』
「つまり、インキュベーターが魔女たちを誘導して街を襲わせた、ということかしら?」
『その可能性は十分あり得る。』
「一体何のために?」
『分からん。私達特異課の戦力を削ぐというのはあるかもしれないが、他にも目的はあるように思う。例えば、適性のある少女を魔法少女として契約せざるをえない状況に陥らせる、とかな。』
「ッ!」
イナリの言葉を聞いて、私は思わずチラリとさやかの方に目を向けた。
確かに、さやかにも魔法少女としての適性があった。加えてさやかの話によれば、魔女の結界に上条恭介と共に捕まって、絶体絶命という絶妙なタイミングでキュゥべえがすぐ近くに現れたという。私たちが特異課見学から帰って来てから全くと言っていいほど姿を現さなかったキュゥべえが、魔女災害の真っただ中に、私やイナリ達が近くにいなかったさやかの目の前に現れた。さやかが契約を結ばざるを得ない状況を狙っていたというのは十分考えられる。
だとすると、まどかの近くには現れなかったのが引っ掛かる。まどかの話によれば、キュゥべえは近くに現れず、姫野が死ぬ瞬間を黙って見ていることしかできなかったと言って泣いていた。姫野を救えるかもしれない力を目の前にチラつかせ、契約を自発的に結ばせるには絶好の機会だったはずだ。
(現場には、まどか以外にゴーストもいた。キュゥべえは彼女がいたからまどかに近づかなかった?私達の周りでキュゥべえが接触したのは、護衛がいなかったさやかだけだった。)
さやかは飛びぬけて魔法少女の素質が高かったという訳ではなかった。だから、キュゥべえもリスクを冒してまで彼女には近づいては来ないだろうと高を括っていた。
これは、魔法少女としての素質が平均的だったさやかの存在価値を見誤った、私達のミスというわけね。
(これで、いつものメンバーの中で魔法少女になっていないのはまどかだけ。あの子だけが、たった一人残ってしまった。)
これは良くない展開だ。この状況は誰かの役に立ちたいという想いを抱くまどかの願いを助長しかねないものだ。「自分だけ何もできない」という無力感が、キュゥべえのぶら下げた誘惑に釣られてしまう可能性を大いに引き上げてしまっている。
(なんとかしないと。今回は、今回こそは、まどかを救う。必ず、絶対にッ。)
膝の上に置いた拳をギュッと握りしめ、決意を新たにする。
その時、覇気を失った佐倉杏子が「なあ」と声を掛けてきた。
「あたしはこれからどうなるんだ?」
『それは___』
「___お前の身柄は特異課で預かる。」
佐倉杏子の問いに答えようとしたイナリの声を遮ったのは、いつの間にか二階から降りてきたロングコートの男だった。
あまりに気配が無かったため、私を含めさやかと佐倉杏子も揃ってビクッと肩を跳ねさせて驚いた。
「あ、あんた、いつの間にそこにいたの!?」
「今降りてきたところだ。情報共有が済んでるみたいで俺は嬉しい。おかげで説明の手間が省ける。」
「とは言っても、私達が話したのは魔法少女の秘密と、特異課がどんな組織なのかについての簡単な情報だけよ。」
「十分だ。後の詳しい説明はハローがやってくれるからな。」
そう言って男は片手に持ったスキットルを一口飲んだ。僅かに香ったのはアルコールの臭いだ。この男、常日頃から酒を持ち歩いているの?
まさかの非常識な男の習慣にドン引きしている間に、肩に乗ったイナリが会話を引き継いだ。
『支配の悪魔とは、あの後どうなった?』
「アイツはマキマのことを独り占めしたいらしい。夢の中に閉じ込めて目覚めさせないようにするつもりだ。」
「それは、大丈夫なの?」
私は思わず二人の会話に口を挟んだ。今の話が本当なら、マキマはこれからずっと目を覚まさない可能性があるということだ。
そんな私の懸念を読み取ったのか、男は「問題ない」と答えた。
「マキマは必ず起きてくる。もし寝惚けて起きて来なかったら、俺が直接叩き起こしに行く。」
『それは間違いなく飛び起きるだろうな。』
男の宣言を聞いて、イナリはカラカラと笑い声を上げた。
男は笑うイナリから私たちの方へ視線を動かした。
「とりあえず、今日はもう、お前たちは帰れ。」
「…………そうね。マキマと話ができないのなら、日を改めるしかないわね。」
「はあ~~これからわたし達はどうなっていくのかなぁ~。」
「イナリ、ソイツを開放してやれ。」
『分かった。』
男の指示に従い、イナリが佐倉杏子の拘束を解いた。
ボフンっと小狐の使い魔が煙になって消えたことで、佐倉杏子の身体に自由が戻る。だが、彼女は自分が解放されたことに驚いているようで、男を警戒するように目を細めた。
「いいのかよ。あたしが今ここで暴れ出すとか思わないのか?」
「暴れるのか?」
「…………暴れねえけど。」
「ならいい。俺は子供の面倒は見るのは苦手だ。自分で歩けるなら、その方が楽でいい。」
「なんだそりゃ。」
佐倉杏子は思ってた答えと違ったのか、肩透かしを食らったかのような目を男に向けていた。きっと、一度は敵対の意志があった自分を開放するなんて、どうしてそこまで信用できるのかと考えていたのでしょうけど……。良くも悪くも特異課の職員はマイペースな人間が多いから、予想外の言動に面喰うのも無理は無いわね。
『もう抵抗する意思は無さそうだから必要ないかもしれないが、一応忠告しておくぞ。ここには私以外にも岸辺_あのアル中のことだが、アイツと契約を結んでいるナイフの魔人がいる。逃げ出そうとしたり、奇襲をしようとしたりしても無駄だから、大人しくしているんだぞ。』
「もう一人いるのかよ。言われなくても、大人しくついて行ってやるよ。」
『うむ、協力に感謝するぞ。名前は佐倉杏子、で合っているか?』
「合ってる。…………そういえば、お前、確かほむらって言ったか?」
「私?」
佐倉杏子が突然、こちらに顔を向けて私の名を呼んだ。
一体何の用だろうかと、彼女が口を開くのを待っていると、佐倉杏子は私の内側を見透かそうとするような鋭い視線を向けてきた。
「あたしはこの街に来てから、まだ誰にも名前を名乗っちゃいない。それなのに、あんたはあたしの名前を知っていた。いつ、どうやって知ったんだ?」
その言葉を聞いた瞬間、私は「しまった」とつい口元を抑えてしまった。
これまでの時間軸では、特に協力者を作ることを諦めるようになってからは、口に出して”良い”情報と”悪い”情報の選別に気を遣わなくなっていた。何を言っても誰も信じてくれないのなら、必要なことや省略すると面倒になること等の最小限だけを口にし、それ以外の私だけが知っていればいい情報は自分の心の中にしまっておくようにしていた。
その中で、人の名前は態々知っていることを隠すのではなく、それぞれの時間軸で初対面の時から口に出していた。既に知っている名前を聞くためだけに何度も自己紹介し合うなんていうのは面倒だったし、無駄な時間を削減できるなら多少怪しまれる程度ならいいと思っていたから。
だけどそれは、過去の時間軸のように相手に不審に思われることを気にしていなかった時の話。今の私はそうじゃない。ここでイナリ達に疑いの目を向けられるのはまずい。
何とかして上手く誤魔化さないと…………。
「それは、その…………。」
『あー、それはほむらが契約している魔人の力によるものだな。そいつは一目見ただけで相手の情報を看破することが出来る魔法を使えるのだ。』
「へぇ、そんなことが出来るヤツもいるのか。勝手に見られたのにはちょっと気になるけど……。」
『彼女はイタズラ好きの魔人でな。頼んでもいないのに余計な情報を契約者に暴露するのはしょっちゅうあるのだ。そうだろう、ほむら?』
「えっ、えぇ。ホント、困った魔人だわ。」
「ちょっと、それだとまるでアタシの名前が余計な情報って言ってるみたいじゃない?」
「そろそろ行くぞ。俺はこの後も忙しいんだ。」
ロングコートの男_さっきイナリが岸辺と言っていたわね_が、やや不満そうな佐倉杏子を連れてセーフハウスの外へ出ようとした。
半ば引き摺られていく形になっている佐倉杏子から目線を逸らし、私の肩にちょこんと座るイナリに礼を述べた。
「ありがとう、イナリ。助かったわ。」
『礼には及ばん。だが、あまり契約している魔人を騙るのは後々面倒になるから、言い訳として使えるのは今回限りだぞ。』
イナリはそう言うと、閉じ切っているように見えたイナリの目がスッと細く開かれた。
『ほむら、お前の魔法について、まだ特異課に申請していない能力があることは薄々勘付いている。』
「ッ、気づいていたの?」
『あぁ、なにせウチには既に前例がいるからな。未来の魔人ミキ。アイツの魔法は確定した未来を予見するモノだが、それとは別で時間跳躍の力もある。ミキは、かつて過去から未来へと時間跳躍を繰り返した魔法少女なのだ。』
特異課見学の日にマキマへ襲撃計画を企てていた未来の魔人ミキについて、その力の一端を明かされた。それは偶然にも、効果の方向性こそ真逆でも、私の時間遡行に似た力だった。
「…………ほむら、あまり脅すような真似はしたくないが、隠し事はそれこそ信頼関係に響くぞ。」
意味深な間を空けてそう忠告するイナリに、私は嘘偽りない本心で以て答えた。
「分かっているわ。あなたの言う通り、私はあなた達に対して不誠実な態度を取っている。でも、ごめんなさい。すぐには打ち明けられそうにないわ。」
『まだ私達が信用ならないか?』
「そうじゃないわ。ただ、私に勇気が足りないだけ。マキマには、彼女が目を覚ました時に全部伝えるつもりだから、それまで待っていて欲しい。」
そう言って、肩に乗ったイナリを落とさないように小さく頭を下げた。すると、イナリは「ふぅ」と息を吐いてやれやれと首を振った。
『そう言うことであれば、もちろん待つとも。今のはお前の考えていることを聞きたかっただけだからな。これも仕事とはいえ、すまなかったな。』
「分かってくれてありがとう。それにしても、あなた達の仕事は大変ね。」
『魔法少女も様々だからなぁ。純粋な願いでキュゥべえと契約した者もいれば、他を顧みない我欲のために契約した者もいる。彼女達とどう接するのが正しいのか、未だによく分かっていない。難しいものだ。』
遠くを見るような目でそう語るイナリに、「誰かと関わるって、難しいわね」と頷いた。
私も、そろそろ変わらないといけないわね。
そうやって二人してしんみりしていると、「さっきから二人で何話してんの?」とさやかが肩を寄せてきた。身体が傾いてイナリを落としそうになりながらも直前で踏ん張り、いきなり肩を組んできたさやかをじろりと睨んだ。
「危ないわね。イナリが落ちたらどうするの?」
「ごめんごめん、なんだか私だけ仲間外れになってて寂しかったもんだから、つい。」
『仕方ないな。どれ、私も人化して、ほむらと二人でサンドイッチにしてやろう。』
「ふざけてないで、私達も行くわよ。あなたも魔法少女になったのなら、街の復興作業を手伝いに行くわよ。」
「おっ、さっそく魔法少女さやかちゃんの仕事ってわけですな。よーし、この私に任せなさい!」
「ほどほどに期待しておくわ。」
魔人の姿に化けたイナリがさやかの肩に腕を回し、私・さやか・イナリで暑苦しい状態になりながらセーフハウスを後にする。
マキマと支配の悪魔のことは気になるけれど、イナリはあの岸辺という男を信頼しているようだし、今は彼の言葉を信じてマキマが目を覚ますのを待つしかない。
それまでは、特異課の協力者として、できることをやっていきましょう。
マキマ、早く目を覚ましなさい。
あなたの秘密を知った私は、あなたに伝えなくちゃいけないことがあるのだから。
そして、私はあなたを必要としているのだから。
そうして、さやかと共に特異課に協力して街の復興作業を手伝った次の日。
私の携帯に、マキマから一通のメールが届いていた。
【私、復活!! 重要な話があるから、今日お昼食べたらみんなすぐに私の家に集合ね!】
「早く目を覚ましてとは言ったけど、早すぎじゃない?」
マキマの送って来たメールの文面を眺めながら、私は安堵と呆れの混じった溜息を吐き出したのだった。
____次回、オリ主マキマ、復活!
まずは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
さて、残念ながらオリ主マキマさんの再始動は次回からということにさせていただきます。本当はこの話に納めるつもりだったんですが、書いてるうちに思ったより整理しなくちゃいけないことが多くって、結果的に次回に持ち越しになりました。
なので、次回はなるべく早めに投稿できるように頑張ろうと思います。もう原作の筋道から大分外れていてオリジナル展開ばかりで書くの難しいですけど。
おかしいな、こういうの苦手だと思ってたんだけど……。
【最後に一言、二言、三言etc...】
世の中には複数同時投降をしていらっしゃる方々や、エタってしまって未完になってしまっている作品が多くあります。それを見ると「面白かったのになぁ。」「なんで抱えきれないくらい書くのかなぁ。」と僕はいつも思っていました。
ですが、今まで読み専だったから何も知らなかったのだと気づきました。
実はもう、書き溜めようと執筆中の二次小説があと3作もあります。
愚かな僕は4股をしてしまいました!反省はしていますが後悔はしていません!
という訳で、ある程度(原作1シーズン分くらい?)書き溜めれたら息抜きで投稿するかもです。メインは『私と契約して魔法少女になりなさい』で行くので、ほったらかしにするつもりは無いのでご安心を。
それでは、また次回で。
今後書こうかなと考えている二次小説の小出しってアリですか?(注意:少なくとも現在連載中の作品の片方が終わるまで本格連載はしません。あと実際に書くかもわかりません。)
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見てみたいかも。
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別にいいんじゃない?
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何とも言えない。
-
書かないならダメ。
-
今の二次小説に集中して。
-
そのまま三作目行っちゃえ!