「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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お世話になっております。NARです。
感想をくださった方、誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。

それでは5話目、どうぞ。


私は悪魔にだって魂を売る

<マキマ>

 

公安対魔特異課職業体験コース一日目。

先日、ほむらちゃんが取り逃したという魔女を追って、私達は人気の無い廃屋へとやって来た。

 

「着いたよ、二人とも。」

 

そう言って振り返ると、ソウルジェムを掌に乗せて魔女の反応を見ていたらしいほむらちゃんが頷き返してくれた。

沢渡ちゃんは特に何も言わない。早く仕事を終わらせたいという視線がチラッとこちらを覗いてきた。

それに苦笑しつつ、私は二人を伴って建物の中に入った。

 

「結界の入り口がどこにあるのか、分かるんですか?」

「分かるよ、ついて来て。」

 

ほむらちゃんの疑問に答えつつ、()()()に従って埃の積もった廊下を歩く。

やがて広間のような空間に出ると、その中心に一匹のネズミがちょこんと座っていた。

ネズミは私に気づくと、一目散に走ってきた。私は屈んでその子を受け止め、指の背でネズミの喉を撫でてあげる。

 

「案内ありがとう。これはお礼だよ。」

「……何をしているんですか、マキマ先生?」

「この子を労ってあげているんだよ。」

「労う?」

「そう。魔女の動向を監視してくれていた、それに対する労いだよ。」

 

私が差し出したナッツを口に入れて、ネズミは建物の外に走って行った。

その後ろ姿に疑問符を浮かべるほむらちゃんにはまた今度説明してあげるとして、沢渡ちゃんが手を翳して現れた結界に近づく。

 

「それじゃ、今から魔女討伐の任務を開始するよ。二人とも、準備はいい?」

「ん。」

「えぇ。」

 

私の声に、二人は言葉少なに頷いた。

それを確認して、私達は魔女の結界内へと足を踏み入れた。

 

私達は、奇妙な光景が広がる魔女の結界内に侵入した。

沢渡ちゃんがクンクンと鼻を鳴らし、魔女のいる方向を指す。

 

「あっちに魔女がいる。」

「了解。二人とも、いつでも戦えるように準備しておいてね。」

「分かってるわ。」

 

ほむらちゃんはそう言って魔法少女へと変身した。

各々準備が整った私達は、複雑怪奇な結界内を慎重に進む。

しばらく歩いて、妙な違和感を感じた。

 

「使い魔、全然いないね。」

「そうね。」

「それに、なにか音がする?」

 

パンッ!パンッ!と銃の発砲音と似ている音が僅かに聞こえてくる。

もしや誰かが魔女と戦っているのかと思い、音がする方へと足早に進む。

 

やがて、一際広い空間に私達は辿り着いた。ドーム状の空間の中央には巨大なソファに座って寛ぐ魔女の姿があった。

だが、それ以外にも予想外の存在が同じ空間内にいた。

 

「あの子は、魔法少女?」

 

物陰から覗くと、この空間の端で大量の使い魔たちを次々と召還した銃で撃ち抜いている魔法少女の姿があった。

 

「まさか、もう一人の魔法少女に出会えるなんてね。」

 

これは予想していなかったことだけど、逆にチャンスでもある。

魔法少女は表面上の変化が分かりにくく、目撃情報やカメラなどの防犯機器にもデータが残りにくい。故に、探し出すには地道な作業を積み重ねる必要があるのだ。

だけど、こんな短期間で二人目の魔法少女を見つけられたなんて、どうやら私はツイているらしい。

 

「彼女にも後で声を掛けないとね。」

「それは……少し待ってください。」

「ん?どうしてかな、ほむらちゃん?」

「巴マミにあなた達のこと明かすのは、もう少しタイミングを見るべきだと思うからです。」

「巴マミ……確かウチの学校の三年生にいた子だね。ほむらちゃん、知ってたの?」

「……えぇ。」

 

ほむらちゃんは気まずそうに頷いた。

どうしてそんな表情をしているのかと気になっていると、ほむらちゃんがポツリと言った。

 

「知らなかったんですか、彼女の事?」

「え、うん、まあ。」

「彼女、この街に長く住んでいる魔法少女ですよ。私が転校して来るよりも、ずっと前から。」

「えっ。」

 

そうなの?

あれ、じゃあ、私が見滝原中学校に教師として潜入してまで探していた見滝原に住む魔法少女って…………。

 

そこまで気づいたところで、私は顔を覆ってしゃがんでしまった。

 

 

 

___これ、ほむらちゃんとマミちゃんを間違えて声かけちゃってたんじゃね???

 

 

 

その時、頭上からほむらちゃんの呆れた声が降ってくる。

 

「私に最初に声を掛けてきたのは、そういうことだったんですね?私のことを、見滝原に住む魔法少女だと勘違いして。」

「…………。」

「沈黙は肯定と捉えますよ。」

「…………そうです。」

 

ほむらちゃんが「はああぁぁ」と、大きなため息をついた。顔は見えないけれど、額に手を当てている様子がありありと想像できてしまう。

 

「おかしいと思っていたんですよ。どうしてこの街に引っ越してきたばかりの私のことを知っていたのかな、って。そもそも人違いだったわけですか。」

「ま、待って!違うのほむらちゃん!!君とお話がしたかったのは本当のことで!」

「…………まあ、安心してください。あなたが嘘を言っていないのは、なんとなく分かるので。」

「ほ、本当に?」

「えぇ、こんな簡単な人違いにすら気づけない間抜けな大人が、私に嘘をついて何かを企んでいるとは思えないですから。」

「ゴハッ!?」

 

ま、間抜け…………。

ダメだ、マキマ!気を確かに持つんだ!私は狡猾で冷酷な支配の悪魔なんだ!こんな子供の素直な一言で挫けるような軟弱な悪魔じゃ…………悪魔じゃ………………。

 

「……死んでる。」

「巫山戯てるんですか?」

 

黙ってしまった私を二人の容赦のない死体蹴りが襲う!

もうやめて!私のライフはゼロよ!!

 

「二人が私をいじめる……。」

「そろそろ真面目にやってくれませんか?」

「はい。」

 

背中にドス黒いオーラを背負ったほむらちゃんに睨まれて、私はすぐさま立ち上がって襟を正した。

アレは逆らっちゃいけないヤツだ。支配の悪魔だからよく知ってるんだ……。

 

「さて、それじゃとりあえずほむらちゃんの言う通り、マミちゃんのことは後にするとして、まずは私たち特異課のお仕事『魔女の鎮圧』を見せてあげるよ。」

「本当に大丈夫なんですよね?」

「だ、大丈夫だよ!()()ちゃん!準備して!」

「オーケー。」

 

私が沢渡ちゃんにそう指示を出すと、沢渡ちゃんは抑えていた魔力を開放して戦闘準備を整える。

その間に、ほむらちゃんが怪訝な表情で尋ねてきた。

 

()()って?」

「沢渡ちゃんのコードネームみたいなものだよ。」

「準備オッケー。いつでも行ける。」

 

準備を終えた沢渡ちゃんを傍で待機させる。ほむらちゃんは観戦しやすい位置に移動して私たちの動きを見守る姿勢に入った。

それを確認した私は物陰から姿を現し、マミちゃんと戦っていた魔女に視線を向けた。

 

私たちがちょっとお喋りしていた間に、マミちゃんは魔女に触手で捕らわれていてピンチに陥っていた。

まあ、あの感じだと何か隠し玉はありそうだから心配はいらなさそうだけど、ちょうどいいタイミングだし、助太刀させてもらおうか。

 

「よし、それじゃあほむらちゃん。ちゃんと見ててね。___」

 

 

 

「___瞬き厳禁だよ。」

 

 

 

 

私は魔女に向けてピンと人差し指を伸ばした。

 

 

 

 

「ヘビちゃん、尻尾。」

 

 

 

ゴウッ!!!

 

瞬間、突風が吹き荒れた。

 

 

 

___________

 

___________

 

___________

 

 

 

 

 

<暁美ほむら>

 

マキマが魔女を指差し、何かを呟いた直後、全身を強烈な風が襲った。

 

思わず顔を腕で庇ったが、途端に視界が暗くなったのに気づいて上を向く。

 

するとそこには、長い体を持つ巨大な”ナニカ”がいた。

 

幅は両手を広げても足りないくらいに太く、奇妙な柄の鱗がびっしりと敷き詰められた不気味な生き物だった。

そのナニカから沢渡と同じ魔女の気配を感じ、ナニカの正体に気づいたとき、視界いっぱいを埋め尽くしていたその魔女が霧のようになって消えた。

 

「い、今のは、沢渡___」

 

「____ッッッ!?!?」

 

「!」

 

結界内に魔女の悲鳴が響き渡る。そちらに目を向ければ、芋虫のような不気味な体を大きく抉られた瀕死の魔女の姿があった。

 

(まさか、あの一瞬で魔女に致命傷を与えたというの……。)

 

瞬きをしているうちに現れたと思ったら、気が付かないうちに魔女に強烈な一撃を加えていた。

 

そんな目にも留まらない早業に慄いていると、巴マミがリボンで魔女を縛り上げ、人の丈を優に上回る巨大な銃を召還した。

彼女の必殺技【ティロ・フィナーレ】で止めを刺すつもりなのだろう。

 

しかし、マキマはソレを黙って見ているようなことはせず、再び魔女に指をさして言った。

 

「ヘビちゃん、丸呑み」

 

 

バクンッ!!!!

 

襲い来る突風に耐え、今度こそその一部始終を見届けた。

……いや、結果だけしか見えなかった。瞼を開けて目を凝らしていたのに、気が付いたときには魔女化した沢渡が攻撃していた。何時出現したのか分からず、それどころか瀕死だった魔女の姿もまた消えていた。

魔女がいた場所にはただ、大きな口をガッチリと閉じた大蛇の頭だけがあった。

 

巴マミの【ティロ・フィナーレ】が蛇の姿をした沢渡に直撃し、粉塵が舞う。そうして視界が遮られているうちに再び蛇の身体が霧になって溶けていく。

そして、魔女の結界が消滅する頃には、あの巨体も禍々しい魔女の気配も完全に消えていた。

 

「終わったよ、ほむらちゃん。」

「そ、そうみたいね。」

「それじゃ、気づかれないうちに撤収しよう。ヘビちゃん、歩ける?」

「これくらい平気。早く帰ろ。」

「!?」

 

突然、背後から消えたはずの沢渡の声がして、びくりと肩を震わせた。

恐る恐る振り向くと、痛そうに片腕を押さえる沢渡の姿があった。

 

沢渡は私の顔をチラッと見た後、闇に溶け込むように廃墟の中を進んでいった。

マキマも彼女の後を追うように足音を立てずに歩いていく。

 

マキマ達の戦いは、実に呆気なく終わった。そこに空間を彩るようなキラキラした派手さも、勝利の余韻を味わうような明るさも無かった。

魔女との戦いはいつも命懸けだ。でも、魔法少女の戦いはどうしてもそこに楽しさを見出してしまう子が多い。

それも仕方がないことなのかもしれない。彼女たちからすれば、魔法少女は漫画やアニメの中だけだったはずの存在。画面の向こうで輝く彼女たちの姿に憧れ、それを自分自身に重ねてしまうのも、ある意味当然なのかもしれない。

それと比べると、マキマ達の戦いは実に淡々としていた。そこに悍ましさすら感じたほどだ。

 

(強いわね、とても…………。)

 

たった数秒のことではあったけれど、マキマ_ひいては特異課という謎の組織の力を今更疑う余地は無いように思えた。

 

(『今回』は今までとは違う。彼女たちなら、きっと___!)

 

私は拳を握り、マキマの背中を見つめる。

その背中を追いかけることに、もう躊躇いは無かった。

 

 

 

___________

 

___________

 

___________

 

 

 

 

 

その後、『公安対魔特異課 職業体験コース』その初日を終えた私達は、前回と同じファミレスに集まっていた。

しかし、「集まる」と言うだけあって、今回は前回と違って席に着いている人数が多い。

私とマキマは相変わらずで、マキマの座っている席の窓際には、チュッパチャップスを咥えている沢渡が座っている。

 

だが、増えたのは彼女だけじゃなかった。

 

沢渡と反対の位置___マキマを挟んで通路側___には、右目に二本の爪痕がある気弱そうな黒髪の少女。そして、何故か私の隣には右目に眼帯を付けたスーツ姿の女性が座っていた。

私とマキマがファミレスに入って席に着いてからしばらくして、後から入店してきたこの二人をマキマが「こっちこっち!」と手招きして同じ席に座らせたのだ。

当然ながらこの二人とはまだ面識が無く、その上おそらくではあるけれど、()()()()()()()

なぜなら、この二人からは沢渡と同じ、濃い魔女の気配を感じるからだ。

「説明をしろ」という思いを込めて対面に座るマキマを睨む。

 

「マキマ先生……。」

「待って、ほむらちゃん。そんな怖い顔しないで。ちゃんと後で説明するから!」

「当然です。」

 

両手を合わせて許しを乞うマキマにため息をついていると、すぐ隣で眼帯の女性が「マキマさん、先生やってても子供にタジタジでウケるw」と何故か爆笑していた。

この二人の関係がなんなのかは知らないけれど、彼女は実に遠慮が無い性格の持ち主なのだということは何となく察せた。

 

眼帯の女性に笑われていたマキマはゴホンッと一つ咳払いをすると口を開いた。

 

「それじゃあみんな揃ったことだし、今から公安対魔特異課職業体験コース一日目の振り返りを始めます。早速だけど、ほむらちゃん。私たちの戦いぶりを見て、どう思ったかな?」

 

マキマにそう聞かれて、私は数十分前に見た光景を振り返った。

目を閉じ、一連の出来後を瞼の裏に思い浮かべていた私は、まず抱いた感想をシンプルに口にした。

 

「そうですね、『強い』と思いました。」

 

「私たち魔法少女ですら反応ができない超高速の攻撃、一撃で魔女に致命傷を負わせられるだけのパワー、そしてよく目立つその力を上手く使い、魔女を討伐しながらあの場にいた誰にも気づかれないように任務を遂行する能力。…………どれをとっても、『本物』だと思いました。」

 

長く活動を続けている魔法少女はベテランと呼ばれ、並大抵の魔女など相手にならないほどの実力を持っている。上澄み、強者、英雄などといった言葉が似合うような猛者。それがベテランの魔法少女だ。

だけど、 そんな彼女たちであっても、マキマと沢渡の二人には勝てないのではないかと、そう思わせるだけの『力』があった。

 

至極単純な暴力、巨体に見合わない速さ、いずれもシンプルな能力ではあるけれど、即座に対処できるかと聞かれたら無理だと思う。

実際、時間停止の魔法が扱える私でも、何も知らない状態で彼女たちと戦うとなったら、初手であの大きな口に丸呑みされてしまって終わりだろう。

なにせ、何時攻撃をしてきたのかにすら気づけない、それほどの速さであの巨体が襲ってくるのだから。

 

そんな思いと共に言葉にして伝えると、マキマはドヤァ顔をしていた。

…………こういうところが無かったら、私は今でもマキマを仮想敵として見ていたかもしれないわね。あんな力を見せられた後なら、尚更に。

 

ジト目でマキマのドヤァ顔を見ていると、正気に戻った様子のマキマがオホンッと咳払いをし、表情を戻して話し始める。

 

「期待以上のものを見せれたみたいで何よりだよ。ウチ(特異課)では、あんな感じで魔女と戦って、最後に魔女を捕獲して()()するまでが任務でね。大抵の戦闘員や協力者である魔法少女はあれくらいの芸当はできるだけの力があるよ。」

「それは……凄いですね。ん?今()()って……それはどういう意味なんですか?」

「言葉通りの意味だね。私たちは魔女を討伐対象としてではなくて、保護対象として見ているんだ。」

 

それを聞いて、思わず沢渡の方へと目を向けた。

沢渡はこくりと頷くだけで、特に説明をするつもりはないようだった。

マキマが続きを話し出す。

 

「ほむらちゃんは、魔女の正体が何なのか、知ってるよね?」

「……どうしてそう思うんですか?」

「実は沢渡ちゃんと話しているのを聞いててね。沢渡ちゃんがほむらちゃんに名前を教えるときに『私が人間だった時の名前』って言ってたよね。それについてほむらちゃんは特に驚いた様子を見せなかった。まるで最初から知っていたみたいに。」

 

「違うかな。」と、確信に満ちた声でそう問いかけてくるマキマ。

さっきまで子供みたいにドヤァ顔をしていたくせに、突然勘の鋭さを見せつけてくる。馬鹿なのか道化なのか、どっちかはっきりしてほしい…………。

 

「ほむらちゃんが何か難しい顔してる……。」

「多分こう思ってるんじゃないかな?ポンコツなのか策士なのかどっちかにしろ、って。」

「え~?私はいつだって誰よりも先を見ている凄腕策士だよ。」

「そういうとこだよマキマさんw」

 

眼帯の女性の言葉にマキマはむっすぅと頬を膨らませた。

私もそう思う。そういうところだよ、マキマ。

 

「話を戻すけど、ウチでは魔女を捕獲した後、特別な処置を施して人間だった頃の記憶と人格を取り戻させてあげるんだ。そして、社会への復帰を手助けする。」

「魔女が社会への復帰!?そんなことが可能なんですか?」

「できるよ。実際、既に復帰を遂げて人間として生きている子はいるよ。」

 

マキマの説明に、私は開いた口が塞がらなかった。

…………特異課というのは、今の私の尺度では測り切れるような組織ではないのかもしれない。

 

「ちなみに、契約に同意してくれた子にはウチで戦力として一緒に戦ってもらってるんだ。沢渡ちゃんはその代表的な存在でね、ヘビの魔人として活躍してくれているんだ。」

「魔人?」

「人間だった頃の人格とかを取り戻した魔女のことだよ。でもいつまでも魔女って呼んでると紛らわしいし適切じゃないから、魔人って呼び方で区別しているんだ。」

 

へ~、と心の中で相槌を打ちながら、他の二人にも目を向けた。

 

「ならもしかしてだけれど、あなたたちも魔人なの?」

「そうだよ。」

 

マキマの隣__沢渡とは反対の廊下側__に座っていた黒髪の少女が頷く。

 

「私の名前は三子。元皮の魔女だよ。今は皮の魔人って名前で特異課で保護してもらってて、私の魔法の力を使って仕事を手伝ってるんだ。私の魔法は他人に成り代わることができる能力で、身代わりが必要だったりどこかに潜入しなくちゃいけない時に、他人の皮を被って変装するんだ。今日マキマさんが仕事中に学校を抜け出すときなんかみたいにね。」

 

ということは、私たちが魔女を倒しに行ってた間、学校にはマキマに変装した彼女が身代わりとして居たということだ。

思えば学校を出るとき、トイレへの不自然な寄り道があったけれど、あの時に仕込んでいたのかもしれない。

 

そんな風に納得した後、私は隣に座る眼帯の女性を見た。

彼女は一体何の魔人なのだろうか?

 

「……ん?あなたたちって、もしかして私も?」

 

だけど、遅れて返事をした眼帯の女性はまるで「違いますけど……」みたいな反応を示した。

 

「違うんですか?」

「違う違う!私は魔法少女だよ!」

「魔 法 少 女…………。」

 

魔 法 少 女…………。

 

……………………………。

 

…………魔法少女!?

 

「えッ、本当に?」

「そうだよ~?これでも君の先輩なんだよ~!」

「大人の魔法少女なんて、初めて見た…………。」

 

それもそのはず、魔法少女は短命な存在だ。積み重なる絶望に耐えられなくなって魔女化するか、魔女との戦いに敗れて死亡するか、魔法少女の死因など大抵この二つだ。

それを考えると、魔法少女が大人になるまで生きていられる可能性は限りなく低い。下手に長生きしても、戦いで死ななくなるだけで絶望は溜まっていき、結局最後は強力な魔女に変じてしまうのだ。

故に、まさか大人の魔法少女がいるとは思わなかった。

 

__と、そういうつもりで言ったのだが、眼帯の女性は微妙な表情で口をもごもごさせていた。

 

「うん、まあ、ほむらちゃんが『いい歳した大人が魔法少女だなんて』って意味で言ってるんじゃないってわかってるんだけど……その言い方は流石に効くッ!」

「仕方がないね。それもまた、魔法少女の宿命つってね。」

「嫌だよそんな宿命!私たちの呼び方もなんか考えてよマキマさ~ん!魔人ちゃんたちばっかりズルい~!」

「もう酔っぱらってるのかな?今はまだ勤務中でしょ?」

「飲んでないよ!!」

 

眼帯の女性のダル絡みをマキマは涼しい顔で受け流しつつ、「ちゃんと自己紹介しなよ」と突き返した。

 

「んじゃ改めて、私は特異4課所属の魔法少女で、魔法少女としてもウィッチハンターとしても君の先輩になるよ!姫野先輩って呼んでね~!」

 

眼帯の女性こと姫野先輩は、そう言ってにこっと笑った。

遠慮をしない性格なのだとは気づいていたが、距離感もだいぶ近い。フレンドリーな人なのだろう。

そんな人にはあまり言いにくいのだけれど、ここははっきりさせておかなければならないのでキチンと言う。

 

「あの、私はまだ、特異課に所属すると言ったわけじゃなくて……。」

「えっ!?そうなの?絶対ウチに来た方がいいよ。色々得することいっぱいだよ?魔女のこととか魔法少女の秘密とか知ってるならなおさらだよ。」

「駄目だよ、姫野ちゃん。」

 

グイグイと詰めてくる姫野先輩に困っていると、それを見ていたマキマが助け舟を出してくれた。

 

「ウチに来るかどうか決めるのは、あくまでほむらちゃんの意思だよ。私たちが無理強いするわけにはいかない。」

「それはそうだけどさ~……。」

「姫野ちゃん、何も諦めるってわけじゃないよ。ほむらちゃんが納得してくれるまで待つだけだから。姫野ちゃんも、私がスカウトしに来た時にまあまあ渋ってたでしょ?」

「うっ、まあ、そうだけど……。」

 

マキマに痛いところを突かれたのか、姫野先輩は大人しく引き下がった。

マキマが私に向き直り、柔らかな口調で話しかけてくる。

 

「ほむらちゃん。私たちは大人として、子供を守る責任がある。だから最終的には、君が私たちの保護下に入ってくれるように何かしらの手段を使うかもしれない……。

 

 

___でも、それでもこれだけは約束する。

…………絶対に、君を後悔させたりなんかしないよ。

 

……………………。

 

私は視線を落とした。視界の中に、膝の上でぎゅっと固く握った両手が見える。

 

おそらくここが、この時間軸における分岐点。

彼女の手を取るか、払い除けるのか。それで、この先の未来が決まるかもしれない。

 

(私は…………。)

 

脳裏に、これまでのマキマとの会話が蘇る。

彼女の口からは、今まで想像もしたことの無かったことが次々と語られた。それらは、今の私からすれば喉から手が出るほどに欲しいもので、必要だと思うものばかりだった。

だけど同時に、全てを分かったように見えて、実態はほとんど見えていない。

マキマの言う機密…………それがすべてを暗闇のベールで包み込んでいる。

 

マキマの手を取る。その先にあるのは絶望か、或いは希望か…………。

 

(いえ、答えはもう出ているわ。)

 

二択に見えるけれど、私にとっては実質一択だ。

私が死のうが、絶望に吞まれようが関係ない。

 

 

 

___まどかを救う。

 

 

 

たった一つ。それを成すことができるのなら、私は悪魔にだって魂を売る。

私には、それだけの覚悟がある。

だって、それこそが私の希望なのだから!

 

伏せていた目を上げて、マキマを見る。

その同心円状の模様の瞳を見て、私はなんとなくわかった気がする。

 

あぁ、確かに魔女でも魔法少女でもない。

人間ですらない。

 

この人は、悪魔だ。

 

ふっと、自然と口角が持ち上がったような気がする。

いいわ、マキマ。私はあなたに魂を売る。

 

 

だから__

 

 

「どうやら、決まったみたいだね。」

「えぇ。」

「もう少しじっくり考えてもいいんだよ?」

「必要ないわ。どれだけ考えたとしても、きっと答えは変わらないから。」

「そっか……それじゃ、君の答えを聞かせてもらおうかな。」

「分かったわ。」

 

目を閉じて、深く息を吸って吐き出す。

目を開いた私は、自分の気持ちをマキマに伝えた。

 

「マキマ先生、私は特異課に行きます。だから、あなたの力を、私に貸してください。」

 

私はそう言って、頭を下げた。

「顔を上げて」とマキマに言われ、姿勢を戻す。すると、マキマは目を細めて笑っていた。

とても、安心したような顔をしていた。

 

「任せて、ほむらちゃん。私たちは、君を全面的に支援するよ。だから、安心して。」

「ありがとうございます、マキマ先生。」

「うん、それと、私のことはマキマでいいよ。学校では先生って呼んでくれた方がいいけれど、外では気にしなくていいから。」

「分かったわ。じゃあ、これからよろしくお願いするわ、マキマ。」

「こちらこそ、よろしくね、ほむらちゃん。」

 

マキマがそう言って手を差し出してきた。私はそれに応え、彼女の手を握り返した。

その時、マキマが「んんっ」と喉の調子を確認しだした。

どうしたのかと思っていると、周囲からひそひそと話声が聞こえてきた。

 

「うわ、マキマさん、またあれやるつもりだ。」

「いつも変な空気になるんだからやめとけばいいのにね。」

「マキマさんのルーティンなんですって。」

「後で必死に誤解を解かないといけないルーティンて何。」

 

どうやらマキマが今から何かをするらしいのだけれど、一体何をするつもりなのだろう?

それにわずかに身構えていると、喉の確認を終えたマキマが私の目を見つめて口を開いた。

 

「ほむらちゃん。」

「な、なにかしら、マキマ。」

 

私がそう問うと、マキマはたっぷりと溜めてこう言った。

 

 

 

「命令です。私と契約して、ウィッチハンターになりなさい。」

 

 

 

「……………………。」

 

……………………。

 

…………。

 

……。

 

「やっぱり、今の話は無しで。」

「えっ、あ、待って、今のは違くて___」

 

私の冷めた答えで、キリっと決めていた表情を一瞬で瓦解させて慌てだすマキマ。

その様子に苦笑を浮かべる三子とお腹を押さえて爆笑する姫野先輩。

そして、関せずといった様子で飴を舐める沢渡。

 

本当にこれから先、大丈夫なのだろうか…………。

 

そんなことを思いつつ、私は混沌に溢れた新たな道へと足を踏み入れたのだった。




タイトル回収したと思いましたか?
残念ですが、よく見てみてください。ちょっと違いますよ。

今回のマキマメモですが、一気に登場人物が増えたので、少々長くなりますが紹介します。

<マキマ>(オリ主)
今作の主人公。見た目は完全にマキマさんだが、死んで転生した人間の魂が混ざっている。無論、【チェンソーマン】は履修済み。しかし、【まどか☆マギカ】は未履修である。
世の中にはクソ雑魚マキマさんという概念が存在しているが、「頼れるマキマさんも観たいな~」というわたくし作者の願望もひとつまみしてある。(VSサムライソード辺りのマキマさん、カッコよかったですね。)
しかし、その弊害で本人はそれなりに苦労をしてきているらしい。

<暁美ほむら>
巴マミと勘違いされてマキマに話しかけられた人。今回、ちょくちょく見えていたポンコツマキマの真骨頂を見て「コイツならある意味大丈夫かもしれない」と思い、マキマにとって不本意な形で信用を得る形になった。
しかし、マキマや特異課の力は高く評価しており、この時間軸で終わりにできる可能性に希望を見出している。
ちなみに、まだマキマの正体には気づいていない。魔女や魔法少女、人間でもないナニカだとは思っている。

<姫野>
特異4課所属のウィッチハンター。魔人と契約しているが、魔法少女に変身して自力で戦うこともできる。超強い。
お酒が好きだが強いわけではない。飲むと酒癖が悪くなる彼女をマキマは毎回丁寧に介抱している。だが、さすがにゲロチューされたときは怒った。
後輩魔法少女が特異課に来てくれそうでウキウキしている。

<巴マミ>
見滝原市を縄張りとしている魔法少女。強い。
薔薇園の魔女との戦いで異変を感じたが、それっきり忘れてしまった。
彼女とマキマが出会う日も近い。

<キュゥべえ>
何かに気づいた様子の宇宙人。
今はまだ行動を起こす気は無いようだが、果たして........。

<鹿目まどか&美樹さやか>
マミさんスゲー!魔法少女スゲー!!

以下、魔人一覧

<沢渡>
・ヘビの魔人(二次派生型魔女)
・元ヘビの魔女で、路地裏で一般人を襲っていたところをマキマに捕まった。
・魔法の性質は、『ヘビの口で出し入れができる』。
・現在は『魔女を生きたまま丸呑みにできる能力』を重宝され、たくさんのウィッチハンターと契約をしている。力の一部を貸す形なので本人は直接出張などはしないが、日本各地のウィッチハンターに力を使われるのでそれなりに疲労を感じているらしい。
・魔女化の原因は、魔女との戦いで当時タッグを組んでいた相棒に庇われ、そのまま相棒が行方不明になってしまったこと。自分のせいで相棒を死なせてしまったと後悔していた彼女は、やがて立ち直ることができずに魔女化した。
・二次派生型魔女であるため、記憶の欠落が激しく、覚えていたのは自身の名前と最後に見た相棒の背中だけらしい。相棒がどんな名前で、どんな顔をしていたかは分からないそうだ。

<三子>
・皮の魔人(一次派生型魔女)
・元皮の魔女で、一般人を人気のない廃屋に連れ込もうとしていたところをマキマに捕まった。
・魔法の性質は、『他人に成り代わることができる』。
・普通は結界名に籠っているはずの魔女が、自ら外に出て自分で獲物を探しに出ていたという珍しい個体。現在はその高度な変身能力を買われ、人間に紛れ込んで潜入捜査をしたり、今回のように身代わりとなったりして特異課の任務に貢献している。
・魔女化の原因は、魔法の乱用によるもの。自分に自信が無かった彼女は、誰にでも顔を変えることができる魔法を使いすぎた。その結果、自分の本当の顔に戻れなくなり、家族から自分を認識してもらえなくなった。そうして当てもなく彷徨っているうちに魔女化してしまった。
・一次派生型魔女であるため、記憶の欠落が見られる。家族__特に仲の良かった姉二人のことははっきり覚えており、魔法で彼女たちの顔を再現できるほど。普段のおどおどしている彼女と違い、姉たちは自身に溢れた少女だったようだ。
・余談だが、三子の失踪届が出された頃、彼女の姉たちも揃って行方不明になったらしい。

<???>
・姫野と契約している魔人。
・まだセリフすら出てないので、紹介は後ほど。
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