「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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こんにちは、NARです。
皆さんにはお世話になっております。
誤字報告ありがとうございます。助かっております。
本日はいよいよとあって、二本立て投稿です。

なるべくテンポよく進めるように意識しました。
それでは、どうぞ。


タイトル「救世主」

<マキマ>

 

ほむらちゃんから魔女討伐の協力要請を受けてから、3日後。

 

作戦当日を迎えた私達は、ほむらちゃんが魔女の出現を予測した地点周辺で張り込んでいた。

 

時刻は、少し遅めのおやつ時。

公安の車の車内であんパンを齧っていると、携帯していた無線機からザザッと音が鳴り、姫野ちゃんの声が聞こえてきた。

 

『こちら姫野。ターゲットを確認。場所は病院入口から左にある駐輪場付近。孵化はまだしていませんが、結界構築の予兆有り。』

「こっちでも確認したよ。姫野ちゃんはそのまま待機。ターゲットの状態に変化があり次第、行動を開始して。」

『了解。』

 

姫野ちゃんの返答を確認した後、無線を切った。

借りているカラスの視界の中に、まどかちゃんとさやかちゃんがグリーフシードを発見して驚いている様子が映っていた。

そろそろ動く時間だと思い、口の中の物を牛乳で流し込む。

 

うん、あんパンと牛乳の組み合わせは最高だね。公安の仕事中っていうのがまた、より一層味を引き立てている気がするよ。

 

そんなことを考えていると、助手席に座っているほむらちゃんの姿が目に入った。

ほむらちゃんは緊張しているのか、自身のソウルジェムに不安げな視線を落としてサラリと撫でていた。

 

私はほむらちゃんの名前を呼び、彼女の意識をこちらに向けた。

 

「ほむらちゃん。」

「……何かしら?」

「あんパン食べる?」

「…………いらないわ。」

「遠慮しなくていいんだよ。ほら、腹が減っては戦はできぬって言うし。」

「別にお腹は減ってないわよ。」

 

ほむらちゃんはそう言って、「お前は何を言ってるんだ」と言いたげな目をしていた。

 

なにゆえそのような目を私に向ける?

刑事*1が張り込みをするときはあんパンと牛乳は必須装備!お腹が満たされていたら戦うための力も湧いてくる!

 

ほら、何も変なことは言ってないでしょ?

 

「マキマ、あなたって人は……こんな時でもマイペースなのね。」

「それほどでも。」

「褒めてないわよ。」

「ウチ(特異課)では、頭のネジが緩い人ほど生き延びやすいって言われてるんだ。即ち、私のマイペースさは特異課職員として貴重な素質なんだ。先生が言ってたから間違いないんだ。」

「随分と個性的な考え方をする人なのね、あなたの先生は。」

 

個性的?何を言うか。ウチでは共通の認識だよ、それは。

 

「まあ、適度に肩の力を抜いて行こうよ。大丈夫。私達がついてるから。」

「……えぇ、頼りにしてるわ。」

 

うん、ぜひとも頼ってくれたまえ!そして、どーんと大船に乗ったつもりでいなさい!

 

ほむらちゃんの口元に緩く浮かんだ笑みに応えるように、私もまた力強い笑みで笑い返した。

 

その時、無線機から姫野ちゃんの結界構築と行動開始の報告が入って来た。

さて、そろそろ私達も行きますか!

 

「行こうか、ほむらちゃん。」

「__ッ。」

 

私の声に、気合の籠った表情でほむらちゃんは頷く。

 

そうして、私達は車を降り、魔女の結界へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

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奇妙で不気味な景色が広がる魔女結界の中。

美樹さやかは、その胸にキュゥべえを抱えながら眼前のグリーフシードをジッと見張っていた。

 

___まどかがマミさんを連れてくるまで、わたしはグリーフシードを見失わないように見張っておく。

 

そんな覚悟を美樹さやかは胸に抱いていた。

しかし、心配そうな鹿目まどかに向かってこの役目を引き受けるといったものの、美樹さやかはただの非力な子供でしかない。いつ魔女が孵化するのかという不安と自分しかいないという孤独感に、彼女はじりじりと身と心を削られていた。

 

それに加えて、彼女にはもう一つ悩みの種があった。

そして都合がいいことに、その悩みを相談できる者とちょうど二人っきりという状況が、今この瞬間に実現されていた。

 

「キュゥべえ、あのさ、この前言ってた話なんだけど……。」

 

そこから先の言葉を口にするのを躊躇う美樹さやか。

しかし、彼女の腕の中にいる白い獣は、それを代弁するかのように声を掛ける。

 

「暁美ほむらとマキマの関係性についてかい?」

「…………うん。その話ってさ、本当なの?」

「本当さ。ボクは嘘をつかないよ。」

 

喉から絞り出すようにして出た問い掛けの言葉は、キュゥべえによってあっさりと肯定された。

美樹さやかはそれに息を呑みながらも、キュゥべえとの会話を続ける。

 

「なんでなの?」

「『なんで』、というのは?」

「なんで、マキマ先生がアイツと手を組んでいるの?マキマ先生は、普通の人間じゃないの?どうして魔法少女のことを知ってるの?」

「そんな一度に聞かれても困るよ。」

 

キュゥべえはそう言いながらも大して顔色を変えることは無く、どれから話そうかと悩む様子で「そうだね……」と声を漏らした。

 

「まず、マキマが暁美ほむらと手を組んでいるのは、単純に利害の一致だと思うな。双方の目的が偶然にも合致したから協力関係を結んでいるんだと思うよ。」

「目的?マキマ先生の目的って?」

「それはもちろん。君とまどかが魔法少女になることを防ぐことだよ。」

 

美樹さやかの瞳が僅かに揺れた。「なんで?」という呟きが口から漏れ出る。

 

「なんで、マキマ先生はそんなことを?先生として、生徒に危険なことはしてほしくないから?」

「間違ってはいないんじゃないかな。」

「だとしても、よりによってどうして転校生なんかと。」

 

美樹さやかの脳裏に、ここ数日の暁美ほむらの姿が思い浮かぶ。

 

無口で、不愛想で、銃なんて危ない物を振り回してて、まるで命令するみたいに私達の事を威圧してくる。

マキマ先生は、そんなヤツと手を組んでいる。

どうして?あんなに優しくて生徒思いの人が、なんで…………。

 

美樹さやかは何故だか胸が悲しくなった。本人から事情を聴いたわけでもないのに、裏切られたような気がして。

しかし、美樹さやかは考えるのを止めない。まだ知りたいことはいくつもあった。それを一つずつ、全てを知っている様子のキュゥべえにぶつけていく。

 

「マキマ先生は、何者なの?」

「詳しいことはボクも分からない。でも、()()()()()ことは確かだね。」

「…………え、それって、どういう?」

 

今のは聞き間違いだろうか、と美樹さやかは目を見開く。

 

”ただの人間じゃない”、じゃなくて”人間じゃない”?

なら一体何だっていうの?

 

「彼女の正体については、実はボクもよく分からないんだ。彼女の持つ能力は非常に危険で、一度その影響に晒されてしまうとあらゆる意識を強制的に封じられてしまう。ボクはマキマの容姿を知っていたはずなのに、つい最近まであんなに近くにいたことにすら気づけなかったんだから。」

「なにそれ……もしかして、洗脳みたいなやつ?マキマ先生って、一体何なの?」

「少なくとも、この地球由来の存在ではないとボクは仮説を立てている。彼女はもっと別の次元の____」

 

 

「あー!!こんなところにいた!」

 

 

「きゃっ!?」

 

突如、結界内に第三者の声が響いた。

それに驚いた美樹さやかが、首をすくめて悲鳴を漏らした。

何事かと勢いよく振り向いた美樹さやかの目に、一人の女性の姿が映りこんだ。

 

その女性は黒のスーツを着崩し、右目に眼帯を付けた大人の女性だった。

快活そうな笑みを浮かべながら、美樹さやかに向けて手を振っている。

 

「だ、誰?」

 

美樹さやかは、見知らぬ大人の出現に驚いていたが、次の瞬間には別の意味で目を見開いた。

 

「まさか、魔女の結界に迷い込んだ一般人!?」

「いや、違うよ、さやか!彼女は魔法少女だ!」

「え!?魔法少女!?」

 

キュゥべえの訂正を聞いて、美樹さやかはまたしても驚きを露わにする。だが、見開いていた目は徐々に胡乱気ななものへと変わっていった。

 

「でもあの人、どう見ても大人だけど……。」

「ボクと結んだ契約は大人になった後も継続されるからね。彼女は今時珍しい成人後も生き残り続けている魔法少女だ。」

「え、そうなの?魔法少女って、本当にずっとやらなくちゃダメなんだ……。」

「それよりもさやか、彼女に近づいちゃだめだ。危険すぎる。」

「え、なんで?魔法少女なら味方なんじゃ____」

「彼女はマキマの仲間だ。マキマの指示で君とボクを捕まえに来たんだ!」

「な、なんだって!?」

 

キュゥべえの言葉にさっきから驚きっぱなしの彼女だが、そこに眼帯の女性__姫野が話しかけてきたことで意識がそちらに向く。

 

「久しぶりだね、キュゥべえ~。また女の子騙して魔法少女にさせようとしてるの?」

「人聞きの悪い言い方はよしてくれるかい、姫野?ボクたちは彼女たちに聞かれたことは全て答えているし、互いの同意の下に契約を交わしているんだから。」

「でも聞かれない限りは言わないわけでしょ?そういうのはあれだよ。えーと、詐欺なんとか罪とか、そういうのに問われるんだよ?」

「ボクたちは人間じゃないから、人間社会のルールに縛られる筋合いは無いよ。」

 

会話を続ける姫野とキュゥべえの間に、ピリピリとした雰囲気が生まれつつある。

それに美樹さやかは動揺していると、姫野が大きなため息をついた。

 

「あーそうですか!じゃあ私も人間じゃなくて魔法少女だから、難しいことは考えないでシンプルにやらせてもらいますよっと!」

 

姫野はそう言うと、ツカツカと足音を響かせながら美樹さやかに向かっていく。

同時に、姫野の背後でブワリと背筋が凍るような悍ましい冷気が立ち上った。

 

「そういう訳だから、一発思いっきりぶん殴らせてもらうね!」

 

次の瞬間、肌を撫でつけるような生温い風が美樹さやかとキュゥべえを襲った。

しかし、美樹さやかは先程の二人のやり取りで警戒心が上がっていたため、違和感を感じた瞬間に後ろへと飛び退いていた。

何かをしたらしい姫野が「あれ!?」と目を丸くしている。

 

「今の避けたの!?……へ~、まだ魔法少女になってないのに。筋はイイんだね。」

「キュ、キュゥべえ!」

「逃げるんだ、さやか!」

 

キュゥべえの声に従い、美樹さやかは足をもつれさせながらも姫野から逃げ出した。

姫野はその後を追いかけようとしたが、彼女の背後から使い魔の群れが襲い掛かってきた。

 

ここはまだ魔女が孵化していないとはいえ、完成された魔女の結界内。

油断をしていると、足元や背中、或いは頭の上から奴らの襲撃を受けることになる。

 

「やば!?」

 

背後からの奇襲に気づいた姫野が足を止めるが、態勢が崩れていて反撃をする余裕がない。

それに美樹さやかも気づき、逃げる足を止めて姫野を見る。

 

仮に彼女が自身にとっての敵だったとして、果たして見殺しにするのは正しいのだろうか?

 

そんな彼女の良心が、美樹さやかの足を地面に縫い付ける。

腕の中のキュゥべえが、足を止めた美樹さやかを叱咤する。

 

「さやか!足を止めちゃだめだ!」

「で、でも、あの人!あのままだと使い魔に___!」

「姫野はただの魔法少女じゃない!彼女は____

 

 

___魔女の力を使うことができるんだ!!」

 

 

 

キュゥべえがそう叫んだ瞬間。

姫野に襲い掛かろうとしていた使い魔たちが空中でガッチリと固定された。

 

「____ッ!?」

「__ッ!?___ッ!!」

「_____ッ!__ッ…………」

 

 

グシャッ!!!

 

 

空中で暴れていた使い魔たちが、まるで見えないナニカに握り潰されたかのように、一斉に破裂した。

ぼとぼとと地面に落ちる使い魔だったものを見て、美樹さやかが一歩後ずさる。そして次に姫野の姿を見て、美樹さやかは息を呑みながら逃走を再開した。

逃げていく美樹さやかの背中を眺めながら、姫野は頭を搔きながらぼやいた。

 

「あ~あ、逃げちゃった。これはプランBでやるしかなさそうだな~。」

「____、__?」

「大丈夫だよ、()()()()。これも想定の範囲内だから。」

 

姫野は何もない空間と会話をしながら、ゆったりとした足取りで美樹さやかを追いかけ始める。

 

「全てはマキマさんの掌の上……私達はこのまま、ぶらぶらと適当に鬼ごっこをするとしますか。」

「____!」

 

 

………………。

 

 

 

 

 

 

___________

 

___約10分後

___鹿目まどか、巴マミ

___魔女結界内に侵入

 

___________

 

 

 

 

 

 

 

 

『美樹さん、聞こえる!?』

『マミさん!?良かったッ!来てくれたんですね!』

『当然よ!』

 

結界内に侵入して早々、巴マミは美樹さやかに向けて念話で呼びかけた。

すると、彼女の声に美樹さやかの返答が返ってくる。しかし、その声は念話であるにも関わらず、ひどく息を切らして切羽詰まっているようだった。

 

『どうかしたの、美樹さん!?いったい何があったの!?』

『さやかちゃん!大丈夫!?』

『あたしは平気!でも、ヤバいやつに追いかけられてる!』

『ヤバいやつ?』

 

美樹さやかの言う「ヤバいやつ」に見当がつかず、鹿目まどかと巴マミは揃って首を傾げた。

魔女のことならば「魔女」と言うだろうし、気配からしてまだグリーフシードは孵化していないはずである。使い魔であっても同様で、わざわざ名称をぼやかす必要はない。

 

__では一体何に追いかけられているのか?

 

魔女でも使い魔でもないとなったとき、消去法で浮かんできた存在を二人が口にしようとしたとき、美樹さやかがその答えを告げた。

 

『姫野っていう大人の魔法少女なんだけど、そいつがあたしとキュゥべえを追いかけてきてるの!』

『大人の魔法少女!?……いえ、とりあえず話は後ね。キュゥべえ!美樹さんの近くにいてちょうだい!あなたの気配を追って美樹さんと合流するから!』

『分かったよ、マミ!だけど気を付けてくれ。姫野は魔女の力を使うことができる!』

『魔女の力を?……分かったわ。美樹さん、もう少しだけ耐えてて!』

『了解です!』

 

念話を終えた巴マミは、キュゥべえの気配を頼りに美樹さやかのもとへと急ぐ。鹿目まどかもその後ろを追いかけていく。

 

「マミさん、さっきの話、どういうことなんですか?」

 

「さっきの話」__それはおそらく「魔女の力」の部分のことを言っているのだろう。

巴マミは難しい表情を浮かべながら、首を緩く横に振った。

 

「……私にも分からないわ。でも、美樹さんが危ない状況下にいることは確かだわ。相手が何であろうと、美樹さんは私が助けて見せる。」

「マミさん……。お願いします、さやかちゃんを助けてください!」

「えぇ、私に任せてちょうだい!」

 

巴マミは、友人の危機に不安そうな表情を見せる鹿目まどかを安心させるように力強く笑った。

大事な後輩を救うため、魔法少女としての責務を果たすため。

彼女は、未来への希望を胸に結界内を駆けていく。

 

 

 

やがて、結界内に響く轟音が聞こえるほどのところまで来たとき、巴マミと鹿目まどかは姫野の姿を発見した。

悠々と歩く彼女の正面__見上げるほどに大きなケーキの陰から、キュゥべえの気配を確かに感じ取った。

 

巴マミは即座に魔法少女に変身すると、6つのマスケット銃を召還して姫野へと突き付けた。

 

「そこのあなた!美樹さんから離れなさい!」

「お?あ、やっと来たね!待ってたよ、ヒーロー?」

 

巴マミの声に振り返る姫野。

しかし、巴マミの背後に鹿目まどかの姿を見た瞬間、姫野は「うわっ、マジかコイツ……」と言いたげに顔を歪ませた。

 

「ちょっと、マジで一般人連れ込んでるじゃん。忘れてるかもしれないけど、ここいつ死んでもおかしくないくらい危ないんだよ?」

「あら、子供の心配をしてくれるくらいの心はあるみたいね。なら、今すぐ両手を上げて投降してくれないかしら?」

「おぉ、強気だね~。生意気な後輩は好きだよ!」

 

巴マミに銃を向けられていながら、姫野は飄々とした態度を崩すことなく、むしろ楽し気に会話に応じている。

そんな彼女に、鹿目まどかが恐る恐るといった様子で話しかけた。

 

「あの、どうしてさやかちゃんを、私の友達を追いかけたんですか?」

「ん?そりゃもちろん、この結界の外に放り出すためだけど?」

「本当にそれだけなの?」

「……どういう意味かな?」

 

二人の会話に割って入った巴マミの言葉に、姫野は目を細めて問いかける。

 

「あなたからは魔女の気配を感じるわ。キュゥべえから教えてもらったのだけど、あなた、魔女の力を使うことができるんですってね。どうやってそんな力を手に入れたの?」

 

巴マミがそれを口にした瞬間、辺りは静寂に包まれた。

至る所にいるはずの使い魔の騒がしい鳴き声も聞こえず、ただお互いの息遣いだけが聞こえる。

 

時間が何十分も経ったと錯覚し始めたころ、姫野がイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべて言った。

 

「それは~……教えてあげらないなぁ。」

「……そう。残念だわ。」

 

次の瞬間、両者の間に炸裂音が響いた。

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

ビュオッ!!

 

巴マミが連続して引き金を引き、銃口から魔法の弾丸が吐き出される。

対して、姫野は僅かに身を捩っただけで、巴マミが放った全ての弾丸は突如吹き荒れた風によって弾かれた。

魔法少女に変身し、自身の魔力で動体視力が強化されている巴マミは、銃弾が弾かれた様子を見て姫野の操る力の正体に仮説を見出した。

 

「なるほどね、あなたの周りに見えない()()()がいるわね。それがあなたの操る魔女の力の正体ね?」

「ピンポーン!流石、この町を長年一人で守ってきた魔法少女だね。よく見てるじゃん!」

 

巴マミは魔法で銃を生成しながら姫野に連射をし続ける。まるで降り頻る雨のように襲ってくる弾幕を、姫野はゴーストの手で弾いていく。

その時、ふと違和感を感じた姫野が足元を見下ろした。そこにはさっきまで無かったはずの黄色いリボンが足に絡みついており、次の瞬間には姫野の身体がリボンに引っ張られて振り回された。

 

ズドォォオンッ!!

 

壁に勢い良く叩きつけられた姫野は、そのまま壁を突き破って向こう側へと放り出された。

彼女は眼下に広がる広大な空間の中心にグリーフシードがあるのを確認し、そのまま重力に従って落ちていく。

鹿目まどかと美樹さやかがいる空間から別の場所に戦場を移し替えた巴マミは、落ちていった姫野を追いかけてリボンを振る。

周囲の壁に引っかけて落下の速度を落とした巴マミが着地すると、吹き上がった粉塵の中から無傷の姫野が姿を現した。

巴マミは姫野に反撃の隙を与えまいと銃を撃つ。対して姫野は純粋な足さばきのみでソレを回避し、自身と巴マミの立ち位置を調整した。

 

「いや~強いね。攻撃をしながらもキチンと罠を張ることも忘れない。魔法の威力自体も強力。なるほど、隙が無いね。」

「お褒めに預かり光栄、と言っておこうかしら。でもそこまでわかっているのなら、無駄な抵抗はやめて大人しくした方が賢いんじゃないかしら?」

「確かにね~。……でも、降参するにはまだ早いかな。」

 

「これでも先輩のプライドってのがあるからさ。簡単に負けを認めるわけにはいかないわけですよ。」

 

「ッ!?」

 

その瞬間、姫野の背後からブワッ!!と膨大な呪いの気配が立ち昇った。

それは吹き荒れる暴風にしか見えないはずなのに、巴マミの目にはこちらを見下ろす異形の姿があるように見えた。

 

それは、ただひたすらに人間の恐怖心を引き出そうとする悪意。

『絶望』が力の源である魔女が持つ、禍々しい負のオーラ。

 

果たして、ここまで強大な魔女と出会ったことが、かつてあっただろうか。

巴マミは奥歯を嚙み締め、姫野の背後にいる存在を睨みつけた。

 

しかし、その瞬間に異変が起こった。

それは姫野と巴マミだけでなく、戦いの行く末を見守っていた鹿目まどかと美樹さやかも感じ取った。

 

魔女の結界全体が脈動している。

 

世の中の絶望を養分に成長を続けていた卵が、殻の外から響いてきた同胞の気配に揺れ動いた。

 

 

 

 

魔女が生まれる。

 

 

 

 

ボンっと軽快な音を響かせて、ソレは誕生した。

街のおもちゃ屋に売られていそうな可愛らしい見た目の、小柄な魔女。

今まで見てきた魔女や使い魔と比較するのもおこがましいほどに愛らしい姿の魔女に、その場にいた者たちは魔女を『魔女』と認識するのに時間を要した。

だが、見た目はどうあれ禍々しい気配を放つソレをいち早く魔女と認識できた魔法少女二人は、生まれたばかりの魔女に向かって飛び掛かった。

 

巴マミは召還した銃を魔女に向け、銃弾を撃ち出す。

しかし、弾丸は魔女に着弾する前に、何も無い空間で爆発した。

魔女の魔力をうっすらと認識できる彼女は、誰の妨害なのかを瞬時に見抜いた。

 

「邪魔をしないでくれる?」

「それはできない相談だなぁ。」

 

ニヤリと笑みを浮かべた姫野を見て、巴マミは沸々と湧き上がる感情をいよいよ我慢できなくなってきていた。

 

故に、彼女は決断する。

相手がただの人間よりも強く頑丈な魔法少女であるならばと、今まで加減していた魔法の力を全開にして解き放った。

 

それを明確に感じ取った姫野の表情が硬くなる。そんな彼女に向けて、巴マミは自身の全力を容赦なくぶつける。

 

巴マミの背後にズラリと現れた、幾百もの魔法の銃。

姫野へと向いた銃口が、指揮者のように手を振るった巴マミの命令に従って一斉に火を噴いた。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

 

 

これぞまさに、巴マミの真骨頂ともいうべき、魔法の力。

いちいち銃を手で持って戦っていたのは、後輩たちへ魅せる演出あるいはそっちの方が戦いやすいからという理由に過ぎない。

力のセーブも、周りへの被害も考えず、ただ敵を殲滅することだけに特化した暴力の具現。

それが、姫野の身体を破壊せんと襲い掛かった。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォン!!!!

 

 

銃弾の嵐に呑み込まれながら吹き飛んでいった姫野。

結界の壁に衝突してもなお止まらない銃撃によって、モクモクと粉塵を作り出していく。

やがて、姫野の姿が完全に見えなくなったところで、巴マミは攻撃を止めた。

少々やりすぎたかと、目下に広がる惨状に眉根を寄せるが、「魔女の力を操る」という危険な力を持っている相手に手加減などできるはずもない。

これは仕方が無かったことだ。それに、きっとまだ死んではいないはずだ。

そう己に言い聞かせた彼女は、次に魔女の方へと向き直った。

 

座るにも寛ぐにも不安定すぎる高さの机と椅子。

そこに座っていた魔女は、あれだけ派手に戦っていたというのに特に何か行動を起こす様子もなく、未だにボーっとしているだけだった。

巴マミは一度深呼吸をし、心を落ち着ける。魔法少女の使命は、目の前の魔女を討伐することだ。

姫野という妨害こそあったが、瓦礫の下に沈んだ彼女のことはもう気にする必要はない。

 

巴マミは、物陰に隠れている美樹さやかと鹿目まどかの方を見た。姫野に勝利した光景を見ていた二人は巴マミに声援を送っており、これからの魔女戦に向けて彼女を励ましていた。

 

「マミさーん!がんばれー!」

「頑張ってください!マミさん!」

 

二人の声援を受け、巴マミは柔らかな笑みを浮かべて手を振った。

そして魔女に向き直ると、彼女は銃を召還して魔女の胸を撃ち抜いた。

 

椅子から転げ落ち、力なく横たわる魔女。

それをリボンで縛り上げて空中で磔にすると、巴マミは持っていた銃をリボンで編み込み、巨大な銃へと変えた。

その砲身を、全身を縛られ身動きが取れない魔女へと向ける。

 

 

___()()()()()()()()

 

 

巴マミは十分に狙いを定め、引き金を引いた。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

特大の砲身から吐き出された魔力の塊が、無防備を晒す魔女を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

直後、ズルンと口から吐き出された新たな魔女。

大きな目で獲物を捉え、巴マミへと急接近した。

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

彼女の目の前には、ガパッと開いた大きな口。

暗くなった視界の中でうねうねと動く舌が、まるで「いただきます」と言っているかのように、巴マミを口の中へ誘い込んでいた。

 

 

 

 

 

その姿を指で象った”口”の中に納め、虚空に呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

「コン」

 

 

 

 

 

バグンッ!!!!

 

 

マミちゃんを丸齧りしようとしていた魔女の頭が、逆に巨大なキツネの頭の大きな口で丸齧りされた。

遅れて感じた頭が無くなった痛みに魔女がどったんばったんと暴れているのを見ながら、物陰から出た私は地面に座り込んでしまったマミちゃんの近くにまで行く。

 

私の存在に気づいたマミちゃんが、私の姿を直接目にして息を呑んだ。

 

「マキマ、先生?」

 

頭の整理が追い付かず、ただ死が目の前にまで迫っていたことを実感し始めた表情で、覇気の抜けた声が私を呼ぶ。

私はそんな彼女にニコリと笑いかけた。

 

「危ないところだったね、マミちゃん。あとは私たちに任せて。」

 

 

___さあ、最後の仕上げと行こうか。

*1
※彼女の本職は公安です




マキマメモ その6
お気づきだろうか?今回はずっとオリ主マキマの視点だったということを........。

『会話はマキマに聞かれている。........あと見られてもいる。』
「手帳使う意味、あるか?」
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