「私と契約して魔法少女になりなさい」   作:NARです。

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こんにちは、NARです。
感想をくださった方、クイズに参加してくだった方、ありがとうございます。
それと、感想の返信を色々と間違えてしまってすみませんでした。恥ずかしながら、投稿してすぐに感想をくださったので、驚きと嬉しさでよく見ずに返信してしまっていました。
以後、気を付けます。

長々と失礼しました。本編へどうぞ。


何も悪くない

〈暁美ほむら〉

 

魔女との戦いを終え、私達はわざわざ公安から持ってきたという大型ワゴン車に乗り、姫野先輩の運転によってとあるマンションの前までやってきた。

 

(ここがマキマの住むマンション……。姫野先輩との会話や魔女戦での指揮する様子から、それなりの役職に就ている人なのかと思っていたけれど、案外庶民的なのね。)

 

巴マミが住んでいるマンションよりもシンプルなデザインの白い建物を見上げながら、ふとした感想を抱いた。

車を降りた私達は、そのままマキマの案内に従ってマンションの中へ入り、エレベーターを使って上階へ上がる。

 

上へ向かう狭いエレベーターの中、私はチラリと後ろで固まっているまどか達3人を盗み見る。

やはりというべきか、彼女達は揃って緊張を隠しきれておらず、身を寄せ合ってマキマの背中を見つめている。マミは年長者としてしっかりしようと他二人よりも前に出ているようだけど、死に掛けたばかりとあって拭いきれない不安の色がその表情に浮かんでいる。まどかもまた、周囲をきょろきょろと見回していて落ち着きがないが、以外にも美樹さやかは静かに現在の状況を受け入れているようだ。すぐ近くにいる私に噛みつくようなことも無く、ただマキマの背だけを一身に見つめている。

いえ、彼女はただ冷静でいるわけではないような……。

 

これは、疑念?あるいは、失望?

 

(もしかして、マキマが私と手を組んでいることに何かを感じているのかしら?)

 

今のところ、美樹さやかの私に対する印象は「敵」に近しい物だと思う。そんな私とマキマが協力関係にあることを知って、マキマにまでそう言った感情が伝播してしまっているのかもしれない。

 

……こればっかりは仕方がない。まどか達と接触する前にマキマと話が出来ていたなら、もう少しシンプルな状況にすることができていたかもしれない。そんなタラレバを語ったところで、この複雑な状況が良くなるわけではないけれど。

 

(私が何を言ったところで、美樹さやかには響かないでしょう。ただ、私の目的はあくまで『まどかを救う』こと。美樹さやかの存在はそのためのピースに過ぎない。)

 

最悪の場合、今までにあったように彼女は切り捨てるしかない。

だけど、もし美樹さやかのことも救えるならば____

 

(__マキマ、今はただ、あなたに託すしかないわね。)

 

スッと背筋の伸びた彼女の背中を、私はただ見つめるしかなかった。

 

 

 

 

目的の階に着いたエレベーターを降りた私達は、マキマに連れられて一つの部屋の扉の前にまで案内される。

 

「ここが私の家だよ。」

 

マキマはそう言って扉のドアノブに手を掛けた。

ただ、なぜかさっきからマキマの表情がニヤニヤとしていて気持ちが悪い。まるで何かの悪戯を企んでいる子供のような顔だ。

マンションに到着した辺りからこれなのだ。絶対に、マキマは何かしょうもないことを企んでいる。

 

(今度は一体何をしようというのかしら……。)

 

良くも悪くも強いインパクトを見せてきた彼女の振る舞いに、今さら驚かされるようなことは無いと思いつつ、扉の先にあるだろうナニカに身構えた。

マキマは意味深な溜めを作った後、「ジャジャーン!!」と言って扉を開いた。

 

そして、その扉の奥に広がっていた景色に、私を含めた4人は驚愕に目を見開いた。

 

「な、なにこれ……。」

「ここ、普通のマンションのはずだよね?」

「……部屋の中が”豪邸”になってる?」

 

私達を出迎えたのは、玄関からでも見渡せる狭い部屋ではなく、広くて長い一本の廊下。

しかし、それはただの廊下ではなかった。ピカピカに磨き上げられた床と清潔感のある白地の壁が照明の光を反射し、玄関というよりは一つの部屋のように広い空間を全体的に明るく照らしている。さらに壁にはいかにもお高そうな絵画が飾られており、空から落ちてきている悪魔の絵が描かれていた。

 

どう見ても外の外観と中の広さが一致しない。この広さだと、隣の部屋を押し退けるくらい圧迫していてもおかしくないほどだ。

しかも、これでまだ玄関なのだ。もう既にマンションの奥行の半分を玄関が占領しているような気がするのだけど……一体、中はどうなっているというの?

 

とりあえず私達は、「上がって上がって!」と手招いているマキマの声に従って玄関をくぐる。

その瞬間、吸っている空気が突然変わったかのような違和感を感じた。それは巴マミも同じだったようで、今しがた通ったばかりの扉を振り返って怪訝そうに眉を寄せている。

魔人という存在を知っている私はもしやとある程度の見当が付いたけど、まだ魔人というものを知らない巴マミは首を傾げる以外にできることはないだろう。

 

(まあ、私も「もしかして」と思ったくらいで、何がどうなっているのかは全く分からないのだけど……。)

 

とにかく、物珍しそうに廊下を歩くまどかと美樹さやかに続いて私達も先へ進む。

そして、廊下の扉を開けて室内に足を踏み入れた時、先を歩いていたまどかと美樹さやかが「わあっ」と感嘆の声をあげた。

二人の目に何が見えたのか、それは扉を抜けて彼女たちの隣に立った時に理解した。

 

私たちを出迎えたのは、広くて開放感のある部屋だった。天井は高い位置にあり、小さな観葉植物が並んだ大きな窓からは茜色に染まった空が見えていた。

しかもただ広いだけじゃない。壁に据え付けられた本棚や寝転がれそうなほど大きなソファとクッション、木製のテーブルに壁掛けテレビなど、部屋の中にあるものはどれも素人目で分かるほど上質で、それなりに値の張る品々であることが分かる。それでいて無駄に存在を主張しておらず、落ち着いた部屋の雰囲気を演出していた。

 

いわゆる、品のいいお金持ちの家。

マキマの持つ財力の高さが、いかんなく証明されていた。

 

そんな家の主人は、私たちの隣でドヤァ顔をしていた。

 

「フフフ、すごいでしょ、私の家!」

「は、はい……。マキマ先生って、実はお金持ちだったんですねぇ……。」

「そうなんだよ!ちなみに、この上にあるもう1フロアも私の家なんだ。」

「テレビでしか見ないようなお家だぁ。」

 

まどかと美樹さやかが、あまりに場違いすぎる空間に精神を手放しかけている!ただの一般人でしかない二人には、少し刺激が強すぎたのかもしれないわね。

巴マミはこういった高級感のある部屋には耐性があったのか、それほど動揺はしていないようだけれど、それでも部屋の中を見回してしまうくらいには驚いているらしい。

私も、こういうのにはあまり気にしない質だと思っていたのだけれど、まるで異国に足を踏み入れてしまったかのような感じで、身の回りがどうしても気になってしまう。

私たちの反応が面白いのか、マキマは依然楽しげな表情をしたままだ。

 

「ビックリしてくれたようで嬉しいよ!それじゃ、私はお茶とお菓子を用意してくるから、みんな適当に寛いでて。」

「え、あっ……」

 

いや、こんな部屋で寛げるわけないのだけど!?

 

呼び止めようとした声がマキマに届く前に、彼女は今にも踊り出しそうな足取りで部屋を出ていった。

取り残された私たちはどうすればいいのか分からず立ち尽くしていると、「みんな、こっちおいで」と姫野先輩が声をかけてきた。

 

「マキマさんがお茶を持ってきてくれるまで座ってようよ。ほら、こっち!」

 

まるでここが我が家であるかのような自然な動作でカーペットに腰を下ろし、私たちを手招きする姫野先輩。

そんな彼女の姿を見て、私たちもまた恐る恐るではあったけれど、各々テーブルを囲むようにして柔らかいカーペットの上に腰を下ろした。

 

とりあえず座ったことで、部屋の空気感にふわふわしていた不安定さは治まった。

そのためか、ずっと落ち着けずにまどかと一緒にソワソワしていた美樹さやかが、私と姫野先輩を見定めるような目つきで口を開いた。

 

「それで、あんたたちは何が目的なわけ?なんであたしたちのことを狙うの?」

「狙う……?何か誤解をしているみたいね。私たちは確かにあなたたちに対して隠し事をしているわ。だけど、それは何もあなたたちにとって不利益になるようなことではないわ。」

「そんなの、聞いて見なくちゃ分からないでしょ?いいから答えなさいよ!」

 

声を鋭くさせた美樹さやかが問い詰めてくる。

しかし、そこに姫野先輩が横から入り込んで待ったをかけた。

 

「まあまあまあ、その話はとりあえず後にしようよ。もう少ししたらマキマさんも戻ってくるはずだしさ!」

「そうだぞ。喧嘩なら外でやってくれ。五月蠅くてかなわん。」

「別に、喧嘩をするわけじゃ___」「はあ!?もとはと言えばそっちが___」

 

「「「「___ん?」」」」

 

ふといないはずの()()()の声が聞こえた気がして、そちらへと一斉に目を向けた。

そこには、私にとっては昨日紹介されたばかりの、他3人にとっては全く面識のない少女が、いつの間にか私のすぐ隣に座っていた。

 

「「「……誰!?」」」

「だから五月蠅いと言っているだろう。」

 

突然音もなく現れた少女__キツネ耳を生やして巫女服のような着物を着崩した少女が、心底迷惑そうに顔を顰めていた。

 

「それはそうと、『誰?』と言ったか。よもや命の恩人の顔をこの短時間で忘れるとは……。今時の子供は随分と薄情だなぁ。」

「命の、恩人?」

 

呆れたようにため息をついてそう言った彼女の言葉を聞いて、少し前にピンチを救われたばかりで心当たりしかない巴マミが首を傾げて記憶を掘り起こしている。しかし、当然ながら彼女の記憶の中に、この少女に助けられた記憶は存在しないはずだ。

では彼女が嘘を言っているのかというと、そうではない。

彼女はとある()()の姿に変身して、確かにあの瞬間、巴マミの窮地を救っていた。

 

「ほら、この耳を見ても分からんか?」

「耳?」

「……やれやれ。なら、これならどうだ?『コン』。」

 

彼女が狐が鳴くように短くそう唱えた時、その手が鋭い爪を生やした白い毛皮の獣の前脚へと変化(へんげ)した。そして手を前に伸ばして引っ搔く仕草を見せれば、巴マミは「まさか!?」と目を見開いて口元を手で覆った。

 

「あの時の、大きなキツネ、さん?」

「正解だ。全く、ここまでヒントを与えないと気づけないとは……。」

「ご、ごめんなさい!あの時は助けてくれて、ありがとう、ございます。」

「フン、お前を助けてやったのは、マキマがそうしろと言ったからだ。お前のためではない。」

「そんなこと言って~。実はマミちゃんとこうやって顔を合わせて話せるのが嬉しいんじゃないの?この面食い狐め!」

「ば!?馬鹿を言うな!なぜ私がこんな子供とお喋りをしたいと思うんだ!」

「………………で、結局誰なの?」

 

姫野先輩に弄られて顔を真っ赤にしていた少女に対し、美樹さやかが再度少女に尋ねた。

 

「は?さっき言っただろう?」

「そういうことを言っているんじゃないわ、イナリ。彼女は自己紹介を求めているのよ。」

「自己紹介?……面倒くさい。ほむら、お前が代わりにやれ。」

「えぇ……。」

 

キツネ耳の少女こと、イナリは気怠そうに私に代行を命じた。

私は仕方なく、本人に代わって3人に紹介する。

 

「彼女はイナリ。化け狐の幻を実体化させる魔法を使える狐の魔人よ。」

 

とりあえず、簡潔にまとめた紹介を3人に伝える。

すると、イナリがあの時、巴マミの窮地を救った人物だと理解したらしいまどかがイナリに話しかけた。

 

「イナリちゃんって言うんだ。私は鹿目まどか。よろしくね、イナリちゃん。」

「イナリ、ちゃん、だと……?」

 

まどかはそう言って、朗らかな笑みを浮かべた。

その瞬間、イナリがまるで雷に打たれたかのように全身を震わせ、ふっと顔を俯かせた。

その様子に勘違いしたまどかがハッとなって慌てだした。

 

「あ、ごめんね!いきなりで馴れ馴れしかったかな?」

「……フ、フフフ、まあ、私はお前たちよりもずっと年上だが、だが、まあ……も、もっと呼んでくれても、いいぞ?」

「そ、そう?じゃあ、イナリちゃん?」

「あぁ……良い、もっとだ。」

「イナリ、ちゃん?」

「もっと。」

「イナリちゃん。」

「あぁ!」

 

イナリが顔を覆ってプルプルと震え出した。どうやらまどかの「イナリちゃん」呼びが大層気に入ったらしい。相変わらず可愛い女の子には目が無いようだ。覆った手の下で「フへへ」と気持ち悪い笑みを浮かべている。

 

 

というか、私の前でまどかとイチャイチャしないでくれる?

 

 

思わずイナリに「さっさとその気持ち悪い顔を止めろ面食い狐」と言いそうになりつつ、言葉に出来ない代わりに視線に怨念を乗せてイナリを睨んだ。

そんな茶番をしているうちに、お盆に何かを乗せて持ってきたマキマが部屋に戻ってきた。

 

「みんな、お待たせ~……って、なんでイナリちゃんがもういるの!?私が呼んでから来てねって言わなかったっけ!?」

「フ、フン、細かいことはいいだろう。こうしてお前が戻ってくるまでの間、場を和ませてやっていたのだからな。感謝すると良い。」

「この子、ただ待てなかっただけですよ、マキマさん。」

「あちゃ~、待てできなかったか、イナリちゃん。」

 

マキマは耳をパタパタさせながらそっぽを向くイナリに苦笑しつつ、テーブルを囲む私たちの輪に加わり、盆の上のティーカップとお菓子を配り始めた。

配られたカップにポットの中の紅茶が注がれていき、甘い香りが部屋の中に広がっていく。

 

「どうぞ、召し上がれ。」

「い、いただきます。」

 

3人の中で一番マキマに対する警戒心の薄かったまどかが、最初に紅茶の入ったカップに口をつけた。

 

「ん!これ、すごくおいしいです!」

「本当?口に合ったみたいで良かった。」

 

たちまち笑顔になったまどかが再び口を付けようとしたタイミングで、私達もカップの中の紅茶を口に入れる。

 

(確かに、おいしいわね……。)

 

基本的に水か麦茶しか飲まない私だが、そのせいもあってか、口に入れた紅茶の甘みが一層強く感じられた。紅茶の温かみもあって、思わずほうっとため息が漏れる。

それは巴マミと美樹さやかも同じなようで、ここに来てからもずっと強張っていた肩から力が抜けていくのが見て分かった。

 

「お!このマドレーヌ、マキマさんの手作り?」

「そうだよ。ぜひ食べてみて。」

「あむ……んん!おいしい!」

「まるでお店に売られている物みたい。とてもおいしいわ。」

「マキマ先生って、本当にいろいろできるんですね。」

「フフフ、私に出来ないことは基本無いのだよ。」

 

まどかの羨望の籠った言葉に、またしてもドヤァ顔を見せるマキマ。

まどか達からの誉め言葉を耳にして、大そうご満悦のようだった。

 

 

 

そうしてしばらく、紅茶とマキマお手製のマドレーヌに舌鼓を打ち、十分に場が和んだあたりでマキマが自分たちの話について徐に切り出した。

 

「さて、みんな十分に落ち着けてきたところで、そろそろ私達の事について話そうかな。」

 

カップを置いてそう言ったマキマに、この場の視線が集まる。

マキマは相変わらずの微笑みを浮かべて、自身の正体を明かした。

 

「見滝原中学校の歴史科目担当の女教師マキマ。だけどそれは見滝原市に潜伏するための偽の顔なんだ。私の本当の肩書は、公安対魔特異4課所属のウィッチハンター。つまり、魔女対策専門のおまわりさんなんだ。」

「えぇ!?じ、じゃあ、マキマ先生って警察の人だったの!?」

「そうだよ。」

 

「ほら、これが身分証だよ。」とマキマは言って、懐から黒い手帳を取り出して3人に見せる。未だ一般人としての認識が抜けない(実際一般人だが)まどかと美樹さやかは、まるでドラマみたいだと興味深そうにマキマの手帳と本人を交互に見比べている。

 

一応あなた達、魔法少女である巴マミと行動を共にしている時点で、今さらだと思うのだけど…………。

 

そんなことを考えていると、まどかが疑問に思ったという様子でマキマに尋ねた。

 

「あれ?じゃあマキマ先生は、この街の魔女を退治するために学校に潜入してたってことですか?」

「間違ってはいないけど、ちょっと違うね。まず、私達の仕事は各地にいる魔法少女をスカウト或いは保護することと、魔女を捕獲して()()()()させることが主な仕事なんだ。」

()()()()?」

 

マキマの説明の中で、その言葉がまどか達に引っかかったようだ。

 

まあ、当然でしょうね。彼女達にとっては、魔女はどこからか現れて人を襲う怪物。それを捕獲ではなく保護と言って、あまつさえ社会復帰などと言われたら理解が追いつかないのも無理は無いわ。

そもそも魔女の出処がどこなのかなんて、誰も考えたことは無かっただろうし……。

 

私はチラリと、マキマの方に視線を送る。

私の視線に気づいたマキマが、小さく私に頷いてみせた。

 

『大丈夫、私に任せて。』

 

マキマは直接言葉にしなかったけれど、確かにそう言ったような気がした。

 

ならば、彼女を信じて任せるしかない。

 

私は、これから何を言おうとしているのかと緊張を顕わにしている巴マミを見つめる。

マキマが魔法少女の真実について、重々しく口を開いた。

 

「これは大半の魔法少女が知らない事実なんだけど……実はね、魔女は元人間なんだ。」

「…………え。」

「魔女が、元人間?」

「そう。それもただの人間じゃない。ソウルジェムが完全に濁り切って絶望に吞まれてしまった魔法少女の成れの果て。それこそが、魔女の正体なんだ。」

「………………。」

 

マキマはただ淡々と、魔法少女の真実を3人に語った。

まどかと美樹さやかは、一瞬何を言われたのかを直ぐには理解できなかったようで、何を言ったらいいのかが分からず混乱しているようだ。

そして、私がこの瞬間において最も警戒していた巴マミは、目を大きく見開いて瞳を揺らし、「ウソよ」と震える声で呟いた。

 

「そんなの、ウソよ。魔女の正体が、魔法少女だなんて。そんなこと、キュゥべえは一言も……。」

「そりゃ言わないだろうね、彼らは。言ったら誰も魔法少女になってくれなくなっちゃうからね。」

「そんな……ウソでしょ、キュゥべえ。…………キュゥべえ?」

 

その時になって、ようやくキュゥべえの姿がどこにも無いことに気づいたらしい。

巴マミはまどかと美樹さやかにキュゥべえの所在を尋ねるが、彼女達も今さっき気づいたという様子でキュゥべえの姿を探していた。

そんな彼女達の混乱を、マキマの放った言葉が止めた。

 

「キュゥべえならここにはいないよ。この話し合いの邪魔になると思って、ここには近づけないようにさせたから。」

「マキマ先生……あなた、キュゥべえに何をしたの!?」

 

遂に感情が暴走し始め、魔法少女に変身した巴マミが銃口をマキマの眉間に突き付けた。

私も魔法少女に変身し、すぐに迎撃しようと腰を浮かした時、今まで黙っていたイナリが私の腕を掴んで止めた。

 

(ッ、イナリ!?)

(落ち着け。豆鉄砲ごときでマキマは死なない。)

 

イナリは周りに聞こえないようにそう言って私を引き留める。だけど、仮にマキマが何とも無かったとしても、近くにいるまどかが巻き添えにならないとは限らない。

しかし、ついさっき見たマキマの顔が脳裏を過り、私は盾に手を掛けたところで動きを止めた。

 

(事の成り行きを見守るしかないわね……。)

 

睨み合う巴マミとマキマの会話が、張り詰めた緊張感を伴って再開される。

 

「彼のことをマミちゃんがそこまで気にする必要は無いのだけれど、言っておくなら、私はキュゥべえがこの部屋に入れないように細工をしただけだから。それ以上は何もしていないよ。」

「今すぐキュゥべえをここに入れさせてッ。」

「ごめんね、それはできない。私達特異課とキュゥべえは明確な()()()()にあるんだ。だから重要な話し合いの場に彼を参加させるわけにはいかないよ。」

 

目の前に銃口を突き付けられながらも表情を一切変えることなく言い切ったマキマを見て、巴マミはそれ以上の言葉が見つからないようだった。

それでもマキマの言った言葉を信じられない、いや信じたくない巴マミは、絞り出すように否定の言葉を吐き出し続ける。

 

「そんなの、ウソよ。それが本当だって言える証拠は、あるの?」

「証拠ならある。」

 

その時、今までのんびりと湯呑に注がれたお茶を啜っていたイナリが答えた。

 

「”私達”がその証拠だ。」

「どういう、意味よ……。」

「私は元狐の魔女でな。昔、人間を摘まみ食いしていたところをマキマに捕まって、その後人間だった頃の記憶と人格を取り戻してもらった。私が昔、魔法少女として生きていた頃の記憶もしっかりと覚えている。」

「そんな……でも…………。」

「私だけでは不十分か?なら姫野やソイツのバディのゴーストにも聞いてみるといい。まあ、同じ答えしか聞けないだろうがな。」

 

イナリの言葉に3人の視線が姫野先輩へと向かう。

3人の注目を受けた姫野先輩は、さっきまでの飄々とした態度は鳴りを潜め、神妙に頷いた。

 

「マキマさんとイナリちゃんの言っていることは本当だよ。マキマさんが捕まえて記憶を取り戻してもらった魔人ちゃんたちは、それぞれ個人差はあるけれど人間だった頃の記憶は残ってる。同時に、魔女だった頃の記憶もね。」

 

姫野先輩がそう言い切った時、彼女の左肩にポンと半透明な手が置かれた。

それを見た3人がビクリと肩を揺らしたが、姫野先輩は構わずに手の主の紹介をする。

 

「この子はゴーストって言って、今の私のバディ。元幽霊の魔女なんだけど、人見知りな子だから、優しく接してあげて。」

「…………どうも。」

 

姫野先輩の肩から顔を覗かせたゴーストは、ぼそりと非常に簡単な挨拶を済ませると、おずおずと姫野先輩の隣に腰を下ろした。

そんな今にも消えてしまいそうなくらい気配の薄い彼女に、美樹さやかが顔を強張らせながらも口を開いた。

 

「あんた、もしかして魔女の結界で使い魔やマミさんの攻撃を弾いてた、あの風みたいなやつ……?」

「…………。」

 

コクリと、ゴーストは目を瞑ったまま静かに頷いた。

 

「キュゥべえは、あんたのことを魔女の力だって言ってた。今までの話も全部、本当なの?」

「…………うん。」

 

コクリと、ゴーストはまた静かに頷いた。

 

「私は、キュゥべえに、『見えなくなった目を見えるようにしてほしい』って、願った。そしたら、私は魔法少女になって、目も見えるように、なった。…………でも、見たくないものまで、見えるようになった。……それで、私は耐えられなくなって、魔女になった……。」

 

ゴーストは、自身の身の上を簡潔に語った。

 

ゴーストは、人の()を視覚化して見ることができるらしい。作戦決行前の日に自己紹介された時に、彼女自身が言っていたことだ。

だけど、ゴーストはその力を自分で制御することができなくて、目を開ければたちまち人間の心の奥へと踏み込んでしまい、知りたくなかった思考や感情まで全て見てしまうのだそうだ。

だから、ゴーストはいつも目を瞑っている。本当だと思って信じていたものが、実は独りよがりの妄想だったなんてことにならないように。

 

そんな彼女が自身の傷を抉るような面持ちで語った言葉は、事情を知らないはずの3人に真実であると思わせるだけの説得力があった。

巴マミは膝の力が抜けてその場に崩れ落ち、まどかと美樹さやかが蹲ってしまった彼女の身体を抱きしめた。

 

巴マミは強い魔法少女だ。それは実力だけでなく、精神面においてもだ。

だけど、その根底にあるのは「魔法少女として魔女から人々を守る正義のヒーロー」、即ち彼女が抱く希望の姿だ。彼女はそんな自分を信じることができるから強かった。自分は強いと()()()()ことができたから、今までこの街を一人で守ることができていた。

しかし、「ヒーロー」である自分が「悪」だと思って滅ぼしてきた相手の正体が「同じ魔法少女」だったと気づいてしまった時、彼女の希望は絶望に塗り替えられる。

 

 

___私は一体何のために戦ってきたの?

 

大事な家族を守るため?___それは魔法少女になった時にいなくなった。

この街の平和を守るため?___いくら戦っても孤独なのは変わらない。

 

私が今まで戦ってこれたのは、___

 

 

 

___仲間だったはずの人達を殺して、本当は弱い自分を誤魔化していたから。

 

 

 

 

「あ、ああ……ああ、あぁぁぁああぁあ、ああ!!!」

 

巴マミの絶叫が鳴り響く。

彼女のソウルジェムが、罪の意識に塗り潰されていく。

 

(まずいわ!もうこれ以上は___!)

 

「私がやるしかない」と銃を抜いた、その時だった。

 

 

「泣かないで、マミちゃん。」

 

 

マキマの温かみのある声が、嗚咽を零す巴マミを包み込んだ。

いつの間にか傍にまで来ていたマキマが、泣きじゃくる巴マミの手を取って話しかける。

 

「マミちゃん、大丈夫だよ。マミちゃんは何も悪くない。」

「う”ぅ”、違う、違うわ!私は、私は人として、最低な__!」

「そんなことないよ。マミちゃんはとっても優しくて、いい子だよ。」

「いい子なんかじゃ、ないわ!私は、今まで何も考えず、それどころか、私はッ……。」

「大丈夫、マミちゃんは優しい子だよ。だって、自分の過ちから目を背けず、その上で魔女になってしまった子のことも思い遣れる心があるんだから。」

 

これまでの自分の罪を懺悔するように泣く巴マミを、マキマはギュッと抱きしめていた。

マキマが子供をあやすように耳元で囁き、温もりを分け与えるようにそっと頭を撫でる。

やがて、巴マミは今までの物を全て吐き出すような勢いで涙を流し、求めるようにマキマに縋りついた。

その姿はまるで、怖い夢を見て泣きつく子供と、我が子を優しく慰める母親のようだった。

 

 

 

 

 

 

あれから、一頻り泣いて全てを吐き出した巴マミは、マキマの胸の中で落ち着きを取り戻していた。

互いに抱きしめ合っていた腕を緩め、目元だけでなく顔まで赤くなった巴マミがマキマを見上げた。

 

「ごめんなさい、こんな、みっともなく泣いてしまって……。」

「気にしないで。大人は子供に頼られてこそなんだから。また恋しくなったら、いつでも私の胸を貸してあげるよ?」

「そんな、……いえ、ありがとう、ございます。」

 

マキマの言葉に、巴マミははにかみながらも嬉しそうに笑ってみせた。

それは彼女が初めて見せた、安心から来た本物の笑顔だった。

 

目元を赤く腫らした巴マミは、マキマから離れて目尻の涙を拭きとった。そこへ、二人の様子を見守っていたまどかと美樹さやかが声を掛けた。

 

「マミさん……」

「あっ、二人とも……。ごめんなさいね、みっともない所を見せちゃって。」

「ううん、そんなことないです。マミさんは、ずっと私達の事を助けてくれて、とても感謝しています。いつどんな時も、マミさんはカッコよかったです。」

「今まであたし達の知らないところでたくさん助けてもらって……本当に!ありがとうございました!」

「二人とも……。」

 

投げかけられた二人からの感謝の言葉に、巴マミはせっかく拭いたばかりの目元をまた潤ませた。

彼女が戦い、救ってきた証である二人の言葉が、スッと彼女の心を癒したようだった。

 

(ふぅ、一件落着、ってとこかしらね……。)

 

柄にもなく、まどかだけでなく彼女たちの姿を見て安心を覚えた。

まだ私にも、そう思えるだけの心が残っていたのね……。

 

「うぅ、イイ話だな”ぁ”。」

「マキマさん、ティッシュはこっちですよ~。」

「あ”り”がどう”……チーーン!」

 

視界の外側で鼻水を垂らして号泣しているマキマを想像して、久方ぶりの心がスッと引っ込んだ。

 

マキマ…………あなたの情緒は乱気流でクロールでもしているのかしら?さっきまでの聖母じみた微笑みはどこ行ったのよ……。

まさか二重人格だったりする?はっちゃけたマキマと計算高いマキマが同居してたりする?だからもうワンフロアだけ家があるのかしら…………。

 

「うーむ、実に良い眺めだ。私の部屋に額縁をかけて飾っておきたいと思うほどに。」

「ちょっと黙っててもらえるかしら?」

 

真剣な顔をして戯言を宣うイナリを視線で黙らせる。

 

この部屋には真面目な人間が私しかいないのかしら?

 

騒がしくなる部屋の中で茫然としているしかなかったとき、すっかり気配を消してまどか達ににじり寄っていたゴーストの姿が目に入った。

互いに抱きしめて心を温め合っていた彼女たちは、直ぐ近くにまで来ていたゴーストに気づいて驚きの声を上げた。

 

「ゴ、ゴーストさん?」

「………………ん。」

「ッ!これは!?」

 

ゴーストが巴マミの指に嵌っていたソウルジェムに手をかざし、指輪状から宝石の姿を変えたソレに指を押し当てた。

すると、黒く濁っていたソウルジェムの穢れが吸いだされていき、あっという間に元の蜜色の輝きを取り戻した。

本来、グリーフシードを使わなければ起こりえない現象を目にして、3人は息を呑む。

そこへ、大人の仮面をなんとか被り直したらしいマキマが声をかけた。

 

「落ち着いてきたみたいだから続きを話すけど、私たちのことは信じてもらえたと思ってもいいかな?」

「…………えぇ。」

 

深く躊躇いながらも頷いて見せた巴マミ。それに続くように、まどかと美樹さやかも頷く。

3人の理解を確認したマキマは目を伏せ、この場の空気を換えるように口火を切った。

 

「ありがとう、3人とも。それじゃあ、今から本題に入らせてもらうよ。

 

 

___マミちゃん、私たちは君に、魔法少女として特異課へのスカウトをしたいと考えています。

 

 

私の話を、聞いてくれますか?」

 

マキマの全てを見透かすような瞳が、正面の巴マミの姿を映していた。




ムズイてェ(心理描写)........。
字数も多くなってきたし、お菓子の魔女戦の出来も皆さんにどう思われているか分からないし........段々と不安が大きくなってくる今日この頃。

え、ここから恋愛だったり魔法少女同士の争いだったりが待ってるんですか?
................頑張っていきます。


マキマメモ その8<魔人紹介>
<ゴースト>
・幽霊の魔人(二次派生型魔女)
・元幽霊の魔女で、深夜に人間を襲っていたところをマキマに捕まった。
・魔法の性質は、『不可視、物理無効の腕を複数召喚する』というもの。
・現在は姫野のバディとして共に仕事をしており、他のウィッチハンターとは契約を結んでいない。特異課に来たばかりの頃はマキマ以外との交流を完全に拒んでいたが、後になって特異課にやってきた姫野と出会い、今に至る。
・魔女化の原因は、自分の周りにいる人間たちが抱える心の闇に怯え、疑心暗鬼になってしまったこと。事故で盲目になってしまった目をキュゥべえに願い、より物事を見ることができる目を授かったことで、見ない方がいいもの、見えるはずがないもの、見てはいけないものなどが全て見えるようになってしまった。そのため、表と裏で異なる姿を見せる人々が信じられなくなった彼女は、魔人になった後も他者との接触を拒んだ。
しかし、そんな彼女の下に特異課に所属したばかりの姫野がやってきた。当時の彼女は良くも悪くも表と裏が無い人間であったため、初めてマキマ以外でゴーストと交流できた最初の魔法少女である。
・二次派生型魔女であるため、記憶の欠落が激しく、人間だった頃の記憶はほとんど覚えていない。しかし、「いつも自分の周りには嘘つきしかいなかった」というトラウマが残っていたため、疑似的に人間の記憶が再現されて残っている。


<第一回「オリ主マキマは何の魔人の力を借りていたでしょうか?」のクイズの答え。>
その一つは、狐の魔人ことイナリでした。
二体目はもう気づいている方も多いと思いますが、最後の三体目がなかなか難しいようで........。
しかし、意外と気づいている方も結構いますね。
チェンソーも多くてびっくりです。まあ、オリ主とはいえマキマさんですからね........。
本編に魔人が登場するか、さすがに時間を取りすぎてると判断するまではクイズは続行です。
もう答えてしまった方も、これから考えるという方も、自由に正解を考えてみてください。

オリ主マキマが使った魔人の能力は?

  • 天使くん、ちゃん?
  • 実は地獄
  • 面食い狐
  • 未来サイコー!
  • ばん(銃)
  • 幽霊の全部
  • 蛇、丸呑み
  • 暴力さん
  • まさかのチェンソー
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