秘境特異点〜疑似新世世界テイワット 作:Zakurosu666
モンドの「騎士団本部」は、かつてない重苦しい空気に包まれていた。
円卓を囲むのは、モンドのジン、ディルック、ガイアだけではない。
璃月から駆けつけた「岩神」としての身分を明かした鍾離
稲妻の主「雷電将軍」
そしてスメールの知恵の神ナヒーダ
他にもこの場に忙しくて来れないのと自分の国の混乱を押さえる為に来れない者を含めても
各国の重鎮がこれほどまでに集結したのは、テイワットの歴史上、後にも先にもこの時だけだろう。
彼らの目的はただ一つ。
「旅人、空の奪還」
しかし、その場にいる全員の心に、消えない刃が刺さっていた。
それは「博士」の発明品によって狂わされていたとはいえ、自分たちが空に向けた残酷な言葉と、冷たい拒絶の記憶だ。
「……状況を整理しましょう」
ジンの声は震えていたが、代理団長としての義務感が彼女を支えていた。
彼女の手元には、テイワット各地に突如出現した七つの「亀裂」の調査報告書がある。
「現在、モンドの『風立ちぬ』に出現した巨大な秘境を筆頭に、各国に同様の歪みが確認されています。これらは単なる空間の裂け目ではありません。ナヒーダ様、観測結果を」
幼き知恵の神、ナヒーダは悲しげに瞳を伏せながら口を開いた。
「……あれは『特異点』本来のテイワットの歴史から切り離され、固定化された『もしも』の世界よ。」
「何者かが、世界樹に刻まれた旅人の記録を無理やり引き抜き、彼が最初から存在しなかった歴史で上書きしようとしているわ」
「彼がいなかった歴史……だと?」
ディルックが拳を握りしめる。
「ええ。最初の秘境――モンドの特異点を観測したけれど、そこは風魔龍の災厄が解決されず、自由が死に絶えた世界になっていた」
「そして、その歪みの中心には、かつての七神の名を騙る『魔神柱』と呼ばれる化け物が居座っている」
「魔神柱、か」
鍾離が静かに、だが重々しく呟いた。
「私も、璃月の海域に不穏な胎動を感じている」
「あれは、旅人がいなければ私が『契約』を全うできず、摩耗に飲み込まれた末の悲劇を具現化したものだろう」
「……私は彼に、最後に何と言ったのか。それを思い出すたびに、この岩の心臓が軋むようだ」
「……私も同じだ」
雷電将軍――影が、その冷徹な仮面の下で唇を噛んだ。
「私は彼を、永遠を乱す不純物として排除しようとした。」
「ですが、正気に戻った今、自分がどれほどの愚行を犯したか理解している。彼がいない稲妻は、永遠ではなくただの『停止』だ。私は、この雷を以て、彼への罪を購わねばならない」
「話し合っていても、時間は止まらないわ」
ジンが円卓の中央に地図を広げた。
「今、入れるのはモンドの第一秘境のみです。ここを突破しなければ、他の国への道も開かれないでしょう。私たちは『旅人を取り戻す連合軍』として、この秘境に挑みます」
「反対する理由はない」と、ディルックが立ち上がる。
「あいつが俺たちを許さないというなら、それでいい」
「だが、あんな化け物たちの鎖に繋がれたままなのは、我慢ならない」
「……空」
ナヒーダが窓の外、紫に染まった空を見つめる。
「彼は今、魔神柱たちが作り上げた『疑似新世世界』の中心で、世界を繋ぐ鎖にされている。」
「感情も、思い出も、すべてを魔神たちに捧げさせられているの。……一刻も早く助け出さないと、彼は本当に『人間』ではなくなってしまうわ」
その時、会議室の窓が激しい風で叩きつけられ、黒い霧が室内に流れ込んだ。 霧の中から現れたのは、小さな、しかし禍々しい姿――魔神柱パイモンの幻影だった。
『……ふふ、醜いね。今さら後悔の涙を流して、救世主ごっこかい?』
「パイモン!?」
『ああ、貴方達が言っているのはこの体の元のパイモンのことでしょ』
パイモンの姿をしているの声の持ち主は、幾重にも重なる怪物の咆哮のようにしゃべる
『まぁ、其は置いときましょ』
パイモンの姿している者がしゃべる
『空はもう、君たちの王じゃない。僕たちの王だ。君たちが捨て、泥を塗った彼の魂は、僕たちが美味しくいただいて、完璧な神様にしてあげたよ』
『……さあ、来るといい。第一特異点、暴風災厄領域・モンド。そこで君たちは、自分たちが壊した世界の成れの果てに絶望するんだ』
幻影は嘲笑を残して消え去った。 残された者たちの瞳には、恐怖ではなく、かつてないほど激しい「執念」の火が灯っていた。
「……行くぞ」
ディルックが大剣を背負い、部屋を出る。
ジンが、雷電将軍が、鍾離が、それに続いた。
それは、世界を救うためではなく、ただ一人の少年を救うための、テイワット史上最も私的で、最も壮絶な戦いの始まりだった。
「――総員、突撃!」
ジンの号令とともに、連合軍は黒い暴風が渦巻く「第一秘境特異点」の境界を突破した。
視界を覆うのは、毒々しい紫の霧と、天を突く魔神柱の触手。
かつてののどかなモンドの風景はどこにもない。
シードル湖はどす黒く濁り、橋の向こう側にそびえ立つモンド城は、まるで巨大な墓標のように沈黙していた。
「……ウゥ、アァ……」
城門を守るのは、かつての仲間、西風騎士たちの成れの果て――亡霊騎士団だった。
彼らの鎧は錆びつき、面頬の奥には虚無の闇が広がっている。旅人が現れず、風魔龍の災厄を止められなかった歴史において、彼らは守るべき民を失い、自らも絶望の中で息絶えた亡霊だ。
「どけ、偽物ども! 私たちが通る道だ!」
アンバーの放つ炎の矢が亡霊の群れを焼き払い、ジンの「風の領分」が道を切り拓く。
しかし、亡霊たちは倒れてもなお、執念深く這い寄ってくる。その絶望の重さに、騎士たちの心は折れそうになる。
「……情けないな。己の犯した罪の重さに、足が止まるか」
冷徹な声が響き、戦場を圧倒的な熱量が支配した。 城門の前に、一人の男が立ちはだかっていた。