リセット・ホロウ 〜死に損ないの観測者〜   作:くりぢゅん

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死の味をなぞる

 

 

「…………っ、は、あぁぁぁっ!!」

 

2度目のループが始まった。

肺に流れ込む冷たい空気が、焼けたナイフのように喉を突き刺す。俺は、震える指で自分の喉元を何度も確かめた。

 

(つながってる……皮一枚、残らずに。さっき、貫かれたはずなのに……!)

 

1度目のループ、つまり俺の「最初の死」は、あまりに唐突で、あまりに残酷だった。雅の背後に現れた『未知の怪物』。漆黒の重装甲を纏ったその巨躯から伸びた回転鋸(ノコ)が、俺の胴体を背骨ごと断ち切ったのだ。

地面に転がる俺の視界の端で、俺自身の下半身がまだその場に立ち尽くし、断面から滝のように血を噴き出しているのを見た。それが、すべての始まり。

 

「はっ、はぁ……っ、うぷっ」

 

俺は地面に膝をつき、激しい嘔吐感に襲われた。

身体は五体満足だ。どこにも傷はない。けれど、脳が「俺は死んだ」と絶叫し続けている。

2度目のループでも、俺は雅を突き飛ばして守った瞬間、奴の巨大な盾で地面ごと叩き潰された。内臓が口から逆流し、眼球が内圧で弾け飛ぶ。

その「終わり」の瞬間、自分の骨が粉々に砕けるミシミシという嫌な振動が、永遠のように長く感じられた。

 

(……落ち着け。次は……次は、盾の突進を避ける。死ぬな、俺。まだ死ぬな)

 

俺は震える足に力を込め、角を曲がる。3度目の死に戻り。

目の前には、瓦礫の山に追い詰められた雅と、あの重厚な漆黒の装甲を纏った怪物。

 

「こっちだ、化け物!!」

 

俺は叫び、手近な石を投げつけた。奴の単眼がぎらりと光る。来る。2度目のループで俺を圧殺した、重戦車のような盾の突進。

死の記憶から導き出した「潰される範囲」の境界線。俺はそこを全力で飛び越え、右側のビルの隙間へと逃げ込んだ。

背後で、空気が爆ぜるような轟音が響く。振り返れば、さっきまで俺がいた場所の壁が、粉々になって吹き飛んでいた。

 

「避けた……! 今度は、潰されなかっ……!」

 

心臓が歓喜に跳ねた。だが、安堵は一瞬だった。怪物の盾の隙間から、青白い排熱が漏れるのが見えた。奴は突進で仕留められなかった俺を、追撃の「超高温エーテル蒸気」で焼き払いにきたのだ。

 

「あ、が……っ、あああああ!!!」

 

 

3度目のループが終わる。

逃げ場のない隙間が、一瞬で溶鉱炉に変わった。熱い、なんて言葉じゃ足りない。皮膚がチリチリと炭になり、肺の中に吸い込んだ火炎同然の蒸気が内側から俺を焼き尽くしていく。自分の肉が焼ける嫌な匂い。叫ぼうとしても、声帯が真っ先に焼き切れて、ただ熱い風が漏れるだけ。

俺は、焼け爛れた肉塊となって絶命した。

 

 

 

 

……ドクン。

 

「…………がはっ! はぁ、はぁ、はぁっ!!」

4度目のループ。路地裏。俺は自分の腕を抱きしめ、冷たい地面に顔をこすりつけた。幻の火傷が痛い。

全身を溶かされたあの感覚が、神経にべったりと張り付いている。だが、休む暇なんてない。俺が立ち止まっている間に、雅は死ぬ。

 

「……次は、右じゃない。左だ。左にある大型コンテナの裏……あそこなら、風向きで蒸気が届かない……!」

 

俺は焼かれる恐怖で震える足を無理やり動かして走った。案の定、奴の盾から蒸気が噴き出す。俺は狙い通り、左のコンテナの影に滑り込み、死の霧をやり過ごした。

霧が晴れた瞬間、反撃のために顔を上げる。だが、そこにいたのは、盾を構え直した怪物の姿ではなかった。

奴は、霧で視界を奪っている隙に、その巨大な盾を左右四枚に「分割」していた。その中心部。回転する暗黒のコアの奥から、射出式の『多節チェーンソー』が、生き物のようにこちらへ放たれた。

 

「あ——」

 

4度目のループが終わる。

不意を突かれた俺の胸の中央に、高速回転する刃が吸い込まれた。肉が削られ、肋骨が一本ずつ断たれる激しい振動。血飛沫がスプリンクラーのように空を舞い、意識は断絶した。

 

 

 

……ドクン。

 

「…………っ、あ、がっ……あぁぁぁ!!」

 

5度目のループ。俺は路地裏の壁に何度も頭を打ち付けた。痛くない。傷もない。でも、胸を抉られた時の、あの「自分という個体が削り取られていく」絶望的な感触が、どうしても消えてくれない。

一歩進むたびに、死が更新される。一撃避けるたびに、新しい殺し方をされる。

俺は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、再び鉄パイプを拾った。

 

俺は、チェーンソーが射出される高さを予測し、あえて地面を這うようにして奴の懐に飛び込んだ。頭上を、耳を劈く金属音が通過する。奴の足元。無防備な駆動部。俺は全力で鉄パイプを叩きつけた。

 

「死ねえええええ!!」

 

バキン、と鉄パイプが折れる音が響く。怪物の脚部にわずかな傷がついた。だが、その代償はあまりに大きかった。奴は、俺の背後へ通り抜けたチェーンソーの鎖を、まるで蛇のように操り、俺の背中へ叩きつけた。

 

「え……?」

 

そのまま、戻ってきた鎖が俺の足首を絡め取り、怪物の盾の中心部へと引きずり込まれた。そこには、肉をミンチにするための破砕機が備え付けられていた。足から、腰へ。腰から、胸へ。

ゆっくりと、時間をかけてすり潰されていく自分の身体を、俺はただ絶望の中で眺めていた。

5度目のループ、終了。俺は、ただの肉片に成り果てた。

 

 

 

 

……ドクン。

6度目のループ。俺はもう、地面に突っ伏したまま動けなかった。

「死ぬ」という行為そのものに、魂がすり減っていく。一度死ぬたびに、俺の記憶の中の「平和な日常」が薄れていき、代わりに「肉が裂ける音」や「血の匂い」ばかりが鮮明になっていく。

 

(……雅。君を助けるために、俺はあと何度、粉々になればいい?)

 

視線の先では、まだ雅が戦っている。彼女はこの「未知の怪物」が持つ、不規則で初見殺しの攻撃に翻弄されていた。本来なら、彼女はこの時代の最強の一角だ。

だが、この盾持ちの怪物は、彼女の剣筋をすべて「盾」で受け流し、その衝撃をエネルギーに変換して、さらなる追撃を放ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7度目のループ。足を狙われるのを予測して跳躍したが、空中で盾の隙間から放たれた「超高圧の放電」に焼かれ、空中で炭になった。内臓が沸騰し、目玉が弾け飛ぶ苦痛。俺は、黒焦げの死体となって地に伏した。

 

……ドクン。

8度目のループ。放電の予備動作である「火花」を察知して距離を取ったが、奴が盾を地面に突き刺した衝撃で生じた「人工的な地震」でバランスを崩し、無防備なところを縦に両断された。

頭のてっぺんから股下まで、一瞬で断たれる感覚。俺は、二つの肉塊に分かれて死んだ。

 

……ドクン。

9度目のループ。地震を予測して瓦礫に飛び移ったが、その瓦礫自体が奴の放った吸引弾に引き寄せられ、そのまま盾の質量攻撃に押し潰された。全身の骨が粉砕され、肉の袋と化した俺の命はそこで潰えた。

 

死ぬたびに、俺の心は摩耗し、冷たくなっていく。

 

恐怖は冷徹な「データ」に変換され、絶望は「攻略手順」へと削ぎ落とされていく。

 

 

 

そして、10度目のループ。

俺の瞳からは、もう涙さえ枯れ果てていた。立ち上がる足取りは重いが、迷いはない。

突進。蒸気。チェーンソー。放電。地震。吸引。俺の脳内には、自分の九回分の死体で描かれた「完全な攻略地図」が完成していた。

雅が、震える瞳でこちらを見ている。彼女にとって、俺は「たった今現れた、無謀な恩人」に過ぎない。けれど俺にとって、彼女は「もう何度も、俺が死ぬところを見せ続けてしまった相手」だ。

 

「……雅。動くな。俺が、道を作る」

 

背後で驚愕する彼女に、俺は振り返らずに告げる。

俺は知っている。あと三秒で、奴が盾を大きく広げ、全方位への一斉掃射を始めることを。俺は知っている。その攻撃の瞬間にだけ、奴の核が、盾の裏側に無防備に晒されることを。

奴が、その盾を円陣のように展開する。俺は、一歩。死の境界線の中へと踏み出した。

 

「さあ……お前の『死』を、俺に見せてみろよ」

 

俺は折れた鉄パイプを、もはや自分の腕の一部であるかのように強く、折れんばかりに握りしめた。九回死んで、ようやくたどり着いた王手。一秒先の死さえも、今の俺にとっては「既知の事実」に過ぎない。

怪物の盾が真っ赤に発光し、エーテルの弾丸が放たれようとした、その刹那。俺は、死の記憶をなぞるように、弾丸の隙間を踊るようにすり抜けていった。

一歩、二歩、三歩。雅が驚愕に目を見開く。無能力者のはずの俺が、特級個体の猛攻を、まるで最初から知っていたかのように躱し続ける異様な光景。

 

「……そこだ!!」

 

俺は、奴の盾が最大展開したその中心、剥き出しになった青いコアへと、渾身の力で折れた鉄パイプを突き立てた。バチンッ!! という、世界が壊れるような衝撃音。怪物の咆哮が、旧都の空に響き渡る。

 

(……倒したか?)

 

光が溢れ、怪物がその巨体を崩していく。勝った。

十度の死を代償に、俺はついにこの絶望を打ち破ったんだ。

 

膝をつきそうになる身体を無理やり支え、俺は怪物が暴れた衝撃で脆くなった瓦礫の向こう側へと目を向けた。そこには、崩落の寸前、怯えた瞳でこちらを見上げる二人の子供の姿があった。

「まさか………リンと…アキラ…!」

俺は砕けた腕を庇いながら、二人の方へ一歩踏み出した。

だが、その瞬間だった。

 

(……え?)

 

視界が、ぐにゃりと歪んだ。

倒したはずの怪物の残骸から、黒いエーテルの触手が鞭のようにしなり、無防備な俺の喉笛を、音もなく貫いたのだ。

 

「か、はっ……あ……」

 

不意打ち。文字通りの、初見殺し。

雅の叫び声が聞こえる。リンとアキラが絶望に顔を歪めるのが見える。

だが、俺の意識はそこまでだった。

喉から溢れ出した血が、自分の熱を奪い去っていく。俺は二人の元へ辿り着く前に、冷たい石畳へと崩れ落ちた。

11度目のループ、終了。俺は、勝ったはずの戦いの直後に、呆気なく死んだ。

 

 

……ドクン。

 

 

 

 

 




(ちょっと細かすぎましたかね...?)

原作だと雅は英雄として課長やってるのに、危機的状況になるのおかしくね? ...よしオリエネだ(初耳)
てな感じでイメージ、デッドエンドブッシャーぽい何かと死に合わせました。
あ、わかるかもしれませんが私はにわかです。間違ったことを書き記してしまうかもしれませぬが何卒お許しください。やんわりと指摘していただけると幸いです。

誰とのストーリーを書いたらいいでふかね(選択肢にないキャラは私の妄想が乏しいために入っておりません。ご要望あれば教えてください)

  • イヴリン&アストラ
  • 朱鳶さん
  • 儀玄師匠
  • 福福先輩
  • ルーシー
  • シード
  • 雅課長
  • エレン
  • 邪兎屋
  • カリュドーンの子
  • ヴィクトリア家政
  • 対ホロウ特別行動部第六課
  • 雲嶽山
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