リセット・ホロウ 〜死に損ないの観測者〜   作:くりぢゅん

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縋った指先、遠い約束

 

 

「……よし、これでもう大丈夫だ。怖くないよ」

 

俺は努めて穏やかな声を出し、震えるリンとアキラの頭を優しく撫でた。

手近な瓦礫を集めて作った急造のシェルター。外ではまだホロウの鳴動が響いているが、ここならしばらくは安全だろう。 

 

「お兄さん……、怪我、痛くない?」

 

アキラが、俺のボロボロになった袖口を不安そうに見つめてくる。

実際、俺の体は悲鳴を上げていた。直接的な傷は「死に戻り」でリセットされているはずなのに、何度も肉を裂かれ、骨を砕かれた感覚だけが、神経の奥にべったりとこびりついている。

 

「平気だよ。これくらい、かすり傷さ」

 

俺は嘘をついた。

25回分の死。その苦痛を彼らに悟らせるわけにはいかない。俺がここで崩れれば、この子たちの世界も崩れてしまう。俺は彼らにとっての「守護者」でなければならなかった。 

ふと、隣で膝を抱えて座り込む少女、星見雅に目を向ける。

少し前の彼女は、まさに「鬼」そのものだった。

 

 

 

―――数時間前。俺がこの地獄のような旧都で彼女を最初に見つけた時、雅は血飛沫の中で暴走していた。

 

「お母さん……っ、ごめんなさい……! あ、あああああっ!!」

 

幼い叫び声。彼女の足元には、もはや人であった形を留めていない「何か」が転がっていた。侵食に耐えきれず、エーテリアスへと変貌しかけていた母親を、彼女自身の刀が貫いたのだ。

 

悲しみで理性を失った雅は、周囲に群がるエーテリアスだけでなく、駆け寄ろうとした俺にさえ切っ尖を向けた。

その瞳は虚ろで、涙さえ枯れ果てている。

 

「来ないで……! 誰も、近寄らないで……っ!!」

 

逆巻く殺気。俺は一瞬、その刃に首を撥ねられる幻覚を見た。これまで何度も味わった「死」の予感が背筋を走る。

 

だが、彼女の細い腕は限界まで震えていた。俺が間を詰めるより先に、雅の体から力が抜け、吸い込まれるように石畳へと倒れ込んだ。極限の緊張と悲しみが、幼い肉体の許容量を超えたのだろう。 

俺は彼女の小さな体を抱きかかえ、今日まで必死に守り抜いてきた。

 

 

「……う……ん……」

 

不意に、雅がうめき声を上げて目を開けた。焦点の定まらない瞳が、俺の顔を捉える。

「…………わたし……」

「……起きたか。無理に動かなくていい。お前はよく頑張ったよ」

 

俺は彼女の冷え切った手を、包み込むように握った。

雅の瞳に、徐々に現実の色が戻ってくる。母親を手にかけた記憶が、彼女の心を再び切り刻もうとするのが分かった。

 

「わたし、お母さんを……。私のせいで……っ」

「違う。そんな自分を恨むんじゃない。……仕方のないことだったんだ」

 

俺は彼女を抱き寄せ、その耳元で何度も、呪文のように優しい言葉を繰り返した。メンタルケアなんて、付け焼き刃の知識しかない。それでも、今の彼女には縋るための温もりが必要だった。 

 

 

しばらくして、雅の呼吸が落ち着きを取り戻した頃、リンの小さなお腹が「ぐう」と鳴った。

 

「あ……ごめんなさい、"お兄さん"」

「……お腹、すいた……」

 

極限状態から解放され、子供たちを襲ったのは切実な空腹だった。

 

「……待ってろ。近くに商業施設の従業員用厨房があるはずだ。何か食べられるものを探してくるよ」

 

俺は瓦礫の隙間を縫い、半壊したビルの地下へと三人を連れて移動した。

そこは、ガス漏れの臭いと埃が充満する、死にかけた厨房だった。俺は必死に棚を漁り、奇跡的に残っていた備蓄用の乾燥野菜と、半分潰れた保存食の缶詰を見つけ出す。

 

「……火が通れば、なんとかなる」

 

古びたカセットコンロを見つけ、俺は慎重に火をつけた。だが、長期間放置され劣化していたガスボンベが、点火の瞬間に異常燃焼を起こす。

 

「――っ!?」 「あ......!!」

 

ボッ、という激しい音と共に、制御を失った火炎が吹き上がった。

ちょうど様子を見に来ていたリンの叫び声が聞こえる。俺は反射的に、自分の方へ飛んできた火炎を遮るように右手を突き出した。

 

「熱っ……!!」

 

手の甲を鋭い熱が走り、皮膚が焼ける嫌な匂いが立ち込める。だが、俺は痛みに声を上げる間もなく、素早く火を調整し、なんとか最小限の熱源を確保した。

 

 

数分後。

 

「……はい、アキラ、リン。それから雅も。ゆっくり飲むんだぞ」

 

俺が差し出したのは、ひび割れたマグカップに注がれた、湯気の立つスープだった。乾燥野菜と保存食を煮込んだだけの、なんてことのない代物だ。けれど、エーテルの汚染と死の恐怖に震えていた三人の子供にとって、それはこの世で最も温かいものに見えた。

 

「……美味しい。お兄さん、すごいや」

「ごめんね、"お兄さん"。火、危なかったのに……」

 

アキラとリンの視線が、俺の右手の甲に注がれる。

そこには、予期せぬバックファイアで負った、痛々しい火傷の痕があった。それは偶然にも、月が欠けたような奇妙な形に赤く焼き付いている。

 

「あはは、これか? 気にするな。これはな、俺がお前たちを絶対に守り抜くっていう『勇者の印』なんだ。……だから、そんなに暗い顔をするな。この傷がある限り、俺はお前たちを見捨てたりしないから」

 

俺はそう言って、痛みを堪えて笑った。

リンはその傷跡を、小さな指でそっとなぞった。熱を持って赤く腫れたその感触を、彼女は無意識のうちに心に深く刻み込んだ。"お兄さん"の優しさと、自分たちを助けるために焼けた皮膚の匂いを。

 

「……約束する。俺が、お前たちを絶対に安全な場所へ連れて行く。何回かかっても、どんな代償を払ってもだ」

 

その言葉の重みを、子供たちは知らない。俺の血生臭いやり直しの記録を。

リンが俺のシャツの裾をぎゅっと握りしめる。アキラが俺の肩に頭を預ける。

その小さな重みだけが、壊れそうな俺の精神をこの世界に繋ぎ止めていた。

 

(……守り抜いてみせるさ。この子たちの未来だけは、絶対に)

 

俺は暗闇の中で、微かに震える自分の指先を、もう片方の手で強く抑え込んだ。

死の恐怖を、絶望を、奥歯で噛み殺しながら

 

 

誰とのストーリーを書いたらいいでふかね(選択肢にないキャラは私の妄想が乏しいために入っておりません。ご要望あれば教えてください)

  • イヴリン&アストラ
  • 朱鳶さん
  • 儀玄師匠
  • 福福先輩
  • ルーシー
  • シード
  • 雅課長
  • エレン
  • 邪兎屋
  • カリュドーンの子
  • ヴィクトリア家政
  • 対ホロウ特別行動部第六課
  • 雲嶽山
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