リセット・ホロウ 〜死に損ないの観測者〜   作:くりぢゅん

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幕間
亡霊の産声、あるいは黄金の野兎


 

 

病院の個室は、外の世界と隔絶された「白い監獄」だった。俺は、拘束具で固定された自由のない体で、ただ天井を見つめていた。

死に戻りという異常な能力の代償か、目をつぶれば、旧都で味わった数百通りの「自分の死に様」が、鮮明な映像としてリプレイされる。

 

その時、閉ざされたドアの向こうから、事務的で冷徹な声が漏れ聞こえてきた。

 

「……身元不明の生存者、例の個体の移送準備を。明朝0400、特務班が回収に来る。星見家の令嬢を救ったあの『予見能力』は、軍事的に極めて価値が高い。人格を潰してでも、ホロウ探索の生体ナビゲーターとして再構築しろ」

『 了解。……パエトーンの子供たちには?』

「『救助時のエーテル汚染により、容態が急変して死亡した』と報告済みだ。今頃、遺品の整理でもしているだろうよ」

(……ああ。やっぱり、世界は俺を放してくれないのか)

 

瞳から光が消える。

あの子たちを救った「力」が、今度はあの子たちの自由を奪う鎖になる。

もし俺がここで「検体」になれば、当局は俺との繋がりを隠蔽するために、リンやアキラ、そして雅を一生監視下に置くだけでは済まさないだろう。

 

(俺がいちゃいけない。……俺は、あの子たちの世界から消えなきゃならないんだ)

 

俺は、無理やり拘束具を引きちぎった。

手首の皮が剥け、血が滴るが、そんな痛みは「首を撥ねられる苦痛」に比べれば、そよ風のようなものだ。

 

窓を開け、夜の雨に打たれる。

三階。普通なら骨折は免れない。

だが、俺には見える。どこに足をつけ、どう転がれば、最小限のダメージで闇に溶け込めるか。「死に戻り」で培った、生存のための最適解。

 

「……さよなら」

 

俺は、かつての自分を殺すように、雨降る夜の深淵へと身を投げた。

 

――数日後、新エリー都の片隅。

ゴミ捨て場の路地裏で、レンは泥水を啜りながら死を待っていた。

そこへ、派手な靴音が近づいて止まった。

 

「あら。アンビー、見て。生気のないイケメンが落ちてるわよ」

 

覗き込んできたのは、不敵な笑みを浮かべたピンク髪の女、ニコ・デマラだった。

 

「……生存、確認。ニコ、これは『拾う』価値のある個体なの?」

 

無機質な瞳をした銀髪の少女、アンビーが隣でじっとレンを見つめている。 

 

「当たり前じゃない! こんな良い顔、腐らせとくのは新エリー都の損失よ!ねぇ、あんた名前は?」

「…………レン。……それ以外は、何もない」

「レンね。いい名前じゃない! 安っぽくて、でもどこか品があって、今のあんたにピッタリよ!」

 

ニコはレンの手を引き、無理やり立たせた。

 

「今日からあんたは邪兎屋の『雑用』よ。拾った恩は、一生かけて利息付きで返してもらうわからね!」 

 

こうして、死んだはずの男は「レン」として、裏社会の何でも屋『邪兎屋』に潜り込んだ。 

 

当初、レンは心を閉ざしていた。彼女らと関わってしまうと何か影響を与えてしまうと考えた。しかし、ニコの強引な明るさと、アンビーの奇妙なマイペースさは、凍りついた彼の心を少しずつ溶かしていった。

 

「はい、レン。今日のご飯はこれよ」

 

ニコが差し出したのは、特売品のカップ麺だったが、レンにとっては旧都で食べたあのスープ以来の、まともな食事だった。

 

「……ありがとう、ニコ」

「な、何よ、しおらしいわね。その分、明日のホロウ探索では倍働いてもらうわよ!」

 

 

 

アンビーとは、よく事務所の古いソファで映画を観た。

 

「レン、この映画の主人公、死ぬ直前に名台詞を言っているわ。合理的ではないと思うのだけれど。私ならもっと早く逃げてる」

「……そうだね。アンビーなら、そうするだろうね」

 

ハンバーガーを頬張りながら淡々と語るアンビーの隣で、レンは少しだけ「一緒にいてもいいのかもしれない」と感じ始めていた。

 

ある夜、レンが悪夢にうなされていると、アンビーがそっと部屋に入ってきた。

 

「レン、心拍数が高い。また、あの『死ぬ夢』?」

アンビーはレンの異様な反応――突然の嘔吐や、何かに怯えるような挙動を「そういう癖」として無自覚に受け入れていた。

 

「……ああ。少し、考え事をしていただけだ」

「そう。なら、バーガーを半分あげる。食べると幸福度が0.5パーセント上昇はずよ」

 

差し出された冷めたバーガー。それを二人で分け合って食べる時間は、レンにとって何物にも代えがたい救いだった。 

 

 

 

ニコは、金に汚いと言われながらも、レンが怪我をして戻ると、誰よりも先に駆け寄った。

「ちょっと! あんた、また無茶したでしょう! 邪兎屋の備品を傷つけるんじゃないわよ!」

 

怒鳴りながらも、その手は優しく包帯を巻いてくれる。

レンはいつしか、ニコを口うるさい姉のように、アンビーを少し手のかかる妹のように想うようになっていた。

邪兎屋の影として過ごした数年間。

ニコが呆れるほどの「無鉄砲さ」で敵に突っ込み、アンビーが戦慄するほどの「精密さ」で攻撃を回避するレン。

 

「レン、今の回避、一ミリの狂いもなかった。まるで見えていたみたいに。……貴方は、とても不思議ね」

 

アンビーの無垢な疑問に、レンはいつも曖昧に笑って答えた。 

彼らとの絆が深まれば深まるほど、レンの胸には一つの決意が固まっていく。

(ニコ、アンビー。俺が、お前たちを護る。何回やり直しても、どんな地獄を通っても……)

 

 

 

そして――数年後の現在。

邪兎屋の事務所に届いた一通の依頼。

それを見たニコが、愉快そうに叫ぶ。

 

「大仕事よ! プロキシ『パエトーン』からの指名依頼! 亡くなった人の遺品を探したいんですって!」

 

依頼書に並ぶ、リンとアキラの名前。

レンの指先が、ほんの少しだけ震えた。

それを、隣でハンバーガーを食べていたアンビーの瞳が見逃さなかった。

 

「……レン。心拍数、130。……貴方、このパエトーンと、何かある?」

「……いや。……ただ、少しだけ、昔のことを思い出しただけだ」

 

レンは、顔を隠す仮面を手に取る。

あの日、救えなかった「自分自身」と。

自分を殺してまで救った「家族」と。

再会を果たすために、レンは歩き出した。

 

 

 




時系列おかしかったらすみません

誰とのストーリーを書いたらいいでふかね(選択肢にないキャラは私の妄想が乏しいために入っておりません。ご要望あれば教えてください)

  • イヴリン&アストラ
  • 朱鳶さん
  • 儀玄師匠
  • 福福先輩
  • ルーシー
  • シード
  • 雅課長
  • エレン
  • 邪兎屋
  • カリュドーンの子
  • ヴィクトリア家政
  • 対ホロウ特別行動部第六課
  • 雲嶽山
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