帰還聖女と黒の隷属   作:大西アレイ

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大変申し訳ありません。内容に重複があったため再投稿いたします。話の流れ自体は変わりありません。


第四話 帰還聖女と『隷属』スキル

「さ、もう少しですよ」

 

 少女――黒木 桜が、クラウディアに微笑む。

 

 すでに地上へ帰還するための階段を歩いて、約十分。階段自体はそこまで急ではないものの、それなりに億劫になる段数だ。

 

「ここを毎日登っているのですか?」

「毎日ではないですけど……学校がない日はいつもきてます……と言っても、まだ合計三日しか潜ってないんですけれど」

「学校?学生だったのですか?」

「はい。高校一年生です」

 

 あっけらかんと言い放った桜に、驚きが隠せない。異世界であれば、仲間の一人が十二歳ながらも前線で戦っていた。しかしあれは魔王に人類が虐げられた治安最悪の時代において、という話だ。

 

(やっぱり、ダンジョンとやらの出現で価値観も変わってしまっているみたいだ)

 

 未だ、変わり果てた地上への不安の根を根絶できたわけではない。手を引き先導してもらっているし、区切りをつけた。しかし断ち切ったわけではない。だから足を止めることはもうないが、負の根は未だ心に複雑に絡みついている。

 

「なぜ、ダンジョンに?先ほどの様子では、命の危険があるように見えました」

「それは、ロマンがあるから……宝箱を見つけて、かっこいい技で強い敵を倒して、英雄に――って、みんなは言うんですけれどね」

「違うのですか?」

 

 桜の前髪に隠れた表情が翳って見えたのは、長い髪が影を作っているだけの理由ではないのだろう。

 ぎゅ、と桜の少しタコのできた掌が強く、クラウディアの柔らかな手を握る。

 

「……私は認められるために、やっています」

「認められる、ですか」

「でも、そんな目的も全部ご破算になる寸前でしたけど」

「さっきのミノタウロス、ですか?」

「はい。Dランクダンジョンにあり得ないはずのCランク。そんなのがウヨウヨ出てくる場面に遭遇するなんて……神様に、やめろ、と言われているのかも」

 

 濁した桜は、それっきり口を噤んだ。まだ聞き出したい気持ちはあれど、相手は高校一年生。召喚された年月を無視しても、高校二年生だったクラウディアの一年は後輩になる。

 ならば先輩たる自分が気を遣わねば、という、この世界にいた頃は発揮することのなかった先輩精神が、無粋な言及を許さなかった。

 

「クラウディアさんは……ああ、えっと、ご、ごめんなさいっ」

「ふふっ。いえ、無粋なことをしたのは私の方ですから。お気になさらず」

 

 階段を上るだけの沈黙に耐えかねた桜は、つい頭が真っ白なまま質問を口走る。言ってからクラウディアの事情――つまり、気がついたらダンジョンにいた件――を思い出したようで、あわあわと忙しなく謝る。

 

 けれど、クラウディアは棘を含んだ質問を受けたにも関わらず、優しく微笑んだ。

 

「私がダンジョンにいた理由……そうですね」

 

 たん、たんっ、と軽快な靴音と共に、桜の視界を白が横切る。前髪の隙間から瞳を上げれば、自分が引いていた手を引く、妖精のような笑みを浮かべた聖女が自分に笑いかけていた。

 

「私が私であるために、です」

 

 そう言った彼女は、どこか寂しそうで――でも、翡翠の瞳は何かを懐かしむような、柔らかい色を含んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――階段がついに終わりを迎える。

 

 エスカレーターでも設置するべきなのではなかろうか。クラウディアはニュフィンでの秘文字により動作する床を思い出しながら、最後の段差を踏み込んだ。

 

 そして広がった光景は――まず、近未来的な扉であった。成人男性より少し高いくらいだろうか、透明なアクリル板のような扉が閉じ切っている。

 その扉の横には、駅改札のような認証機器が設置されていた。

 

「あ、あれ?ここは……空港……あるいは、駅?」

「なに言ってるんですか――って、そうか、事情があるんでしたね、すみません……一応、ここが地上です」

 

(ち、地上…………ここが?なんというか、色々チグハグな印象を受けるな)

 

 空港のゲートのような扉に、改札のような機械――

 

 見慣れた石畳、石床……湿り、気分まで澱ませる空気の満ちるダンジョンには似つかわしくない景色に、またもや頭がくらっとする。

 しかし桜は当たり前のように、ポケットからカードキーを取り出して機械の上に翳した。ピ、と軽快な音がすると同時に扉が自動的に開く。

 

 これは冒険者――否、探索者をまとめるギルドのような組織が設置したのだろうか。

 

(これをあいつらに……特に、フィオラに見せたらさぞ興奮しただろうな)

 

 地球の、科学の色。それは異世界には存在しないものだ。魔法オタクであり、その実技術に関しては貪欲なかつての仲間を思い出す。

 きっと目を輝かせて分解なぞ始めることだろう。それをアリアやユフィが止めて――

 

(やめよう)

 

 そこまで考えて、もう会えないことを思い出し胸がチクリと痛んだ。

 

(この先には、なにがあるのやら……)

 

 できるだけ記憶と変わっていなければいいな、などとつい心中でつぶやいたクラウディアの瞳に入り込んだのは――

 

「ああっ、桜さんっ!お待ちしていましたよ!」

 

 不意を突いて桜に突進を敢行した第三者――

 

(む、胸が宙を浮いている……?)

 

 そのはち切れんばかりの豊満な胸、であった。

 

「危なっ!?」

 

 野生的な勘でミノタウロスを彷彿とさせる体当たり――に見える抱擁を回避した桜。抱擁の先をなくした腕と身体は支えるものがなくなり、そのまま床に熱烈なキス……

 

「っと」

 

 は、かわいそうだったので、花弁のように柔らかく、はらりと体を滑り込ませたクラウディアが彼女の肉体を抱き止める。

 

 様になった体捌きで、女性をくるりと半回転。そうすれば、まるで舞踏会のラスト。豪華絢爛なるダンスホールで、貴公子が令嬢を抱き止めるかの如く。

 

「もし。大丈夫ですか?」

 

 女性からすれば、体がふわついたと思えば視界が横にぶれ――そして優しく抱き止められ目に入るは、クラウディア・アルマの悪魔的に整った天使のご尊顔。

 

(す、すごいな。こんなに揺れるものなんだ)

 

「え、あ、あ……」

 

 翡翠の瞳は優しげに細められ、薄い桃色の唇に小さな笑み。

内心はともかく、クラウディアの傾国の美貌を至近距離で放たれた女性は、みるみるうちに顔を赤らめると、その腕にこてんと首を預け、気を失ってしまった。

 

「………………きゅぅ」

「………………あら?」

「や、山室さん!?」

 

 桜が大慌てでクラウディアの腕元に眠る山室、と呼ばれた女性に駆け寄る。

 

 幸いなことに、彼女はすぐ現実に帰還した。

 

「――――っは!?」

 

「目を覚まされましたか。お怪我はありませんでしたか?」

 

 そしてまた、クラウディアと見つめ合う。しかし今度は気絶前と同じ光景を繰り返すことはなく、ぱっちりとした瞳をしぱしぱと瞬かせる。

 

「……………………ここ、夢の中?」

 

 気絶を超え跳躍(トリップ)してしまった彼女を正気に戻し現実に返すまで、約五分を費やしたのち。

 ようやく、まともに会話ができるようになった彼女は頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!ご迷惑をおかけしました……」

 

 お辞儀と共にまた揺れる。全ての動作において、胸付近からたゆん、だのぶるん、だの聞こえてくる彼女は山室 莉子と言うらしい。

 桜とは以前から交流があり、探索者になるにあたって色々と面倒を見てくれたらしい。

 

 というのも、探索者を取りまとめる「探索者協会」なる組織の職員であり、普段は探索者の受付や雑用をしていて、魔石やドロップアイテムといった品々の換金なども職務の一つのようだ。

 

 ちなみに、魔石は内部に秘めた魔力をエネルギー転用したり、魔力により動く「魔道具」の起動に使ったり、と用途が多いらしい。故に、買取金額は小粒でもそこそこ。大きさは、そのモンスターの強さなどにより変動するらしい。

 ドロップアイテム――つまりミノタウロスの角や牙などは、魔石と違ってモンスターを倒しても確実に手に入るわけではないが、モノによっては高く換金される。

 

 探索者、という仕事は魔石とドロップアイテムの換金により成り立っている――と、クラウディアは道中教わった。

 

 そんな探索者たちの財布という生命線を繋ぐ役職の彼女だが、ゆるふわな少し明るめの茶髪を背に届くあたりに伸ばし、少し垂れた瞳がかわいらしい女性だ。レディスーツを着用しているのだが、やや幼く感じる雰囲気もあり、あまり似合っていない。

 

(でも、その分主張されている……何がとは言わんが。眼福眼福)

 

「いえいえ、無事ならばそれで良いのです」

「ほぅ……まさしく天使」

 

 にこり、とクラウディアが笑いかける。相変わらず聖女の仮面は、その下にある粘ついた下心を見事に覆い隠していた。 

 

「や、山室さん!なんか出てる!出てるから!」

 

 完璧な聖女スマイルにまたも満足げな顔でトリップしかけた莉子の魂を、桜が上から押さえつけた。クラウディアに対する顔面耐性は暫く獲得できそうにない。

 

「そ、れ、で!山室さんはどうしてここに?」

「あ、ああっ、そうでした。ええっとですね、このダンジョンからスタンピードの予兆があった、と報告がありまして……」

「………………あー、確かにそうかも」

 

 無理矢理脳天の中に魂を入れ直した桜が問うと、莉子はクラウディアに聞き覚えのない単語を発した。桜はその意味がわかっているようで、目を遠くして頷いている。

 

「すたんぴーど?」

 

 置いてけぼりのクラウディアは、かろうじて英語であることだけは理解できる単語に色々想像を巡らせる。残念なことに、かっこいいドイツ語やラテン語などはある程度習得していても、英語にはあまり触れてこなかったのだ。

 

 桜が気を利かせて、指をピンと立てて説明する。

 

「あ、えーっとですね。スタンピードっていうのは……まあ、モンスターが地上に出てしまうこと、かな」

「正確に言うと、長くモンスターを処理しないと魔力が濃くなります。すると、より強いモンスターが生まれ、数が増え、その果てに地上に放逐されてしまう――ですね」

 

(ふむふむ。つまり、氾濫のことを指していたのか)

 

 より詳細に付け加えた莉子のおかげで、クラウディアにも漸くスタンピードの意味が飲み込めた。

 それは異世界では「氾濫」と称される現象で、しかし未発見迷宮の多い異世界だと日常茶飯事でもあった。

 地上を歩く魔物が、繁殖の果てに生まれたのか、はたまた氾濫した迷宮から溢れたのか……わからないのが当たり前だったし、だれも気にも留めなかった。無論、街や村近くの迷宮はそうならぬよう手入れはされていたが。

 

(――ん?というか今の物言い、何か引っかかる)

 

「地上に出ると厄介だからね。定期的に処理しておくのも探索者の仕事なの」

 

 これだ、と。違和感の正体を見つけたクラウディアはほぼ無意識に言葉を紡いでいた。

 

「……地上には魔物がいないのですか?」

 

 桜と莉子の瞳が見開かれる。桜は「あ、そうか」と言うように。莉子は柔和な雰囲気を纏う瞳に、鋭い色を宿して。

 

「あなたは――」

「いないですいないです。一匹でも脱走したら大事件ですよ?」

「へ、へえ。そうなのですね」

 

 やや警戒の声色を滲ませて何かを問いただそうとした莉子だったが、その気配を察することなく割り込んだ桜に話を奪われた。

 当然莉子の様子に気がついていたが、それよりも、またも現れた驚くべき現実の方に意識を持ってかれる。

 

「ということは、魔物ひしめく社会にはなっていないのですね?」

「じー」

「うん、まあそうですね。モンスターを従えている人はいるけど、それだって暴走しないようになってますし」

「じーー」

「『スキル』、というやつですか」

「じーーー」

「そうそう。『隷属』とかがそれにあたるのかな」

「じーーーーー」

 

(すげえ怪しまれてる)

 

 穴が開くほどジッと見られる。ご丁寧に声に出して。

 

 今の会話が終われば、中断された質問をされるのだろうか。やや身構えたが、滞っている主軸の話を進めようと考えたのか、追求はされることなく莉子は瞳の色を元に戻した。

 

「こほん。話を戻しますね。……ともかく、こちらでスタンピードに巻き込まれている探索者がいないかって調べたら、履歴に桜さんがいたもので……居ても立っても居られず、慌てて来た、という次第です」

「ご迷惑をおかけしました……でも、こうして無事ですから」

「無事ですけど……砂埃だらけじゃないですかっ。無茶はしないでくださいよー」

 

 桜の格好は確かにボロ雑巾に近い。軽い傷などはクラウディアが魔法で癒したものの、服やプロテクターなどは破れるか凹んで、二度と使い物にはならないだろう。

 

「うわあ、ここなんてパックリいかれて……あれ?傷がない」

「そうなんですよ!奇跡ですよね!……あーでも服とか、買い直さなきゃな……」

「いくら運良く奇跡的に無傷だからって……命あっての物種ですよ。死に急がないでくださいっ」

 

 母親のように桜の体に怪我がないか、あちこち忙しなく観察する莉子から、二人の間の良好な関係がうかがえる。

 しかし思い返せば、態々出入り口で待機していて、出会い頭にハグをしかける時点でその関係は現れていたが。

 なお、前述の通り奇跡的に無傷なのではなく、クラウディアがコッソリ治している。

 

 しかし、その過保護っぷりに苦笑した桜が、今日学校で起きたことのように語った話で、微笑ましい空気は消え去ることになった。

 

「まあまあ、ミノタウロスを前に五体満足ってだけでも褒めて欲しいです」

「…………み、ミノタウロスぅ!?じ、冗談ですよね?ここDランクダンジョンですよ?」

「これが冗談なら良かったんですけれどね……」

 

 目をひん剥き、全力で驚愕を露わにする莉子。頬をかいた桜は、あさっての方向を見ながら乾いた笑いを溢す。

 DランクダンジョンにCランクのモンスターがたった一体出現するだけで脅威なのだ、とは道中桜が語っていたこと。本当はこれが十数体いました、と暴露すれば莉子がまた意識を失うか、魂が抜かれてしまう可能性がある。

 けれどそんな異常事態を報告しないわけにもいかず――責任と感情で板挟みになった桜は、クラウディアに視線を向ける。

 

(どのみち、言わなくちゃいけないことだしな)

 

 任せろ、とクラウディアは翡翠の瞳を細め、対する黒曜石の瞳はわかった、とでも言いたげに瞬いた。

 

「事実ですよ。これ、道中拾った魔石と角です」

 

 話は早い方がいい。クラウディアは容赦なく、桜のリュックから拝借した戦利品を莉子の前にご開帳した。口を開けた麻袋から、じゃらり、音を立てて姿を見せる戦利品たち。

 

「…………………………うきゅぅ」

 

 結果は、気絶で済んだ、とだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、さっきから気になっていましたが……そこの方は?」

 

 目が覚め、震える手でミノタウロスの魔石や角を預かった莉子は、その瞳に先程の鋭い色を宿しクラウディアを見据える。

 

「あ、えーっと、この人は……」

「いいのです、桜様。私から説明すべきでしょう」

 

 ついに来たか、クラウディアはむしろ遅すぎる質問に答えんと莉子と向かい合った。

 相手が美しすぎると、直視すら覚悟がいる。莉子は彼女以外では役に立たず、そして得ることもなかったろう人生の教訓を心中に刻みつけた。

 

「ご挨拶が遅れました。私、クラウディア・アルマと申します。探索者ではありませんが、お見知りおきを」

「……やっぱり、探索者じゃありませんか」

「ということは、気がつかれていましたか?」

 

「当然です。これでも記憶力には自信があります。尤もあなたほどの美貌で、かつミノタウロスを十体以上連続で相手取っても余裕の人間は、いやでも覚えているでしょうが」

 

 ミノタウロスを仕留めて余裕綽々。そこまでわかっていたのか、とクラウディアはほわほわした莉子の正確な分析に舌を巻く。

 

「そこまでお強いのなら探索者でなければ説明がつかない。でも、そこらの探索者より強い力を有している。言い方は悪いですが……ナナシではありませんか?」

「――なっ、なんてことを!クラウディアは命の恩人ですよ!?」

「今聞いているのはアルマさんに、です。桜さんは口を出さないで」

 

 恩人をナナシ呼ばわりされて、桜は顔を赤に染めて怒り浸透の様子。

 唯一クラウディアだけはまたしても何も知らず、こてんと首を傾げていた。名無しと言えば、高校時代によく入り浸っていた掲示板のハンドルネームのイメージしかない。

 だが桜の様子を見るに、きっと侮辱的な意味を含んでいるのだろう。

 

 聞かねばなるまい、とクラウディアは疑問のため口開く。

 

「その、ナナシとは?」

「…………しらばっくれているのですか?」

「そう思っても思わなくても構いませんが、説明だけはお願いしたいかと」

 

――ナナシ。

 それが意味するのは、即ち「無許可でダンジョンに潜る犯罪者」である。横の繋がりの強い探索者界隈において、ルールを守る気などゼロで、探索者の獲物を横取りしたり、場合によっては命を奪ってまで魔石やドロップアイテムを強奪する始末。

 探索者からすれば憎むべき、ともすればモンスターよりも嫌われている唾棄すべきハイエナ。

 

 以上が、莉子から語られたナナシの詳細であった。

 

(最後の方に私怨が詰まっていた気がしたが、触れないでおこう……)

 

 クラウディアは異世界において、恨みつらみが原因で起きてしまった悲しき事件(騎士団長寝取られ血祭り事件、不貞故のナニ切断事件)を思い出す。人の恨みとは積もればああも悲惨な出来事を起こすものなのか、と戦慄したものだ。

 翡翠の瞳が過去を回想し少し色褪せたが、すぐ頭を振って現実に帰還する。

 

「――――――故に、ゲートに通らない裏道を選んでいるのです。ゲートを通れば無断通過で即座に拘束されますからね」

 

 ゲート、とは先ほど桜がカードをかざして開いた扉のことだ。ダンジョンの薄暗くじめっとした光景にはあまりにもマッチしていなかった機械は記憶に新しい。

 

(多分、通る時に使ってたカードは正式な探索者にのみ配られてるんだろうな。…………いや、あれ?)

 

「……え?でも、ゲートは自由に通れましたよ?」

「…………んんー?おかしいですね……バグなんて起こるわけないし……ちょっと、『鑑定』だけしても?」

「……鑑定?」

「あ、『スキル』のことです。レベルとか色々わかっちゃうんで、対象からの許可が必要なんですよ」

 

 『スキル』、『鑑定』ときて、レベル。

 

 異世界も魔法やら魔道具があったので、十分創作物じみた世界であったが……

 

(いよいよゲームみたいになってきたな)

 

 と、ぼやかずにはいられなかった。

 

「構いません」

 

 とはいえ、見られても別に困る情報はない。なんなら、クラウディア・アルマではなく白川 祐也と判明したとしても、だ。

 故に許可を出すと、感心したように頷くと莉子は瞳を一度閉じ――目蓋を開く。その瞳は淡く青色に染まっており、虹彩が入り乱れる幻想的なものへ変わっていた。

 

(へえ、これが『スキル』ってやつなのか。たしかに、魔法とは全く違うように見える)

 

「――わかりました」

 

 瞬きもせず。穴が開くほどクラウディアを凝視していた莉子は静かにそう言うと共に、瞳を閉じる。そしてまた開くと、その色は通常の、色彩に戻っていた。

 

 やや口ごもって、冷や汗をダラダラと流す莉子。まだ少し薄暗いダンジョンの入り口を、重い沈黙が支配し始める。

 

「…………よく聞いてくださいね、お二方」

「は、はあ」

「わかりました」

 

 覚悟を問われ、二人は顔を見合わせて、同時に莉子に頷く。

 

「クラウディアさんは、桜さんの……その、スキルの庇護下にあると言いますか……えーと」

「んん?」

「だからーその、えー、従えられている、配下になる?な、なんて言えばいいのこれ!?」

「山室様。ハッキリと申されてください。私としても、今の自分の置かれた状況は認識しておきたいのです」

 

 要領を得ない話をどんどん問い詰められて、徐々に莉子の瞳の中がぐるぐると回転を始める。「だから」「つまり」「それは――」口火を切っては戻し、切っては戻す。

 

 やがてどこからか、ヤカンの笛に酷似した音が響き――

 

「う、ううううううーーーっ!つ、つまり!クラウディアさんは、桜さんの、奴隷になってるんですっっっ!!」

 

 ぼかん、と頭から煙を吹き出しオーバーヒートした莉子は、言葉を選ぶことなくど直球に事実を口にした。

 

 

 

「――――はへ?」

 

 そんな暴投をくらったクラウディアは異世界から帰還し、初めて思考を放棄した。




前書きの通り、ナナシの設定あたりから内容重複が見られたため再投稿致しました。内容には殆ど変わりありません。お目汚し失礼いたしました。
また、ご指摘いただき誠にありがとうございます。
これからも何卒拙作をよろしくお願いいたします。
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