河童と盟友   作:Sushi God

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河童と盟友

「今日もいい天気だなあ・・・」

 

一人、森の中を散歩している青年がいた。

彼の名前は、伏見(ふしみ)和弥(かずや)。幻想郷の人里に住んでいる。

 

幻想郷の人里には、沢山の人が住んでいる。

勿論人それぞれ、考え方は違う。

ただ、そんな彼らにも皆同じように口にする言葉がある。

「古き良き里を大切に」だ。

 

というのも、幻想郷は外の世界と違い、時が止まるように文明は発達していない。

文明を変えよう物なら、それこそ妖怪やその他の勢力の力無しでは到底変えられないだろう。

現状を楽しみ、現状に幸せを感じる。

それこそが人里での文化への価値観であった。

 

ところが、この青年は少し考えが違う。

というより全く逆の発想であった。

彼が夢見る世界は、『便利な物が溢れる世界』。

趣味は、自作のカラクリを改造し、実用化する事。

つまり彼は根っからの文明化論者であるのだ。

 

「ん?」

 

ふと地面を見ると、黒い球のような物体が落ちている。

不思議に思って拾ってみると、見た目の大きさに反してずっしりと重い。

何だろう?と思った、その時だった。

 

「危ない!!!!!!!」

 

「え?」

 

そして彼は、とてつもない大きな音と共に、爆発に巻き込まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ここは」

 

目が覚めると、見知らぬ天井が目の前にあった。

どうやら森ではなく、家でもない。下には何故か布団が引いてある。

 

「いっ!?」

 

体を起こしてみると、とてつもない激痛が走った。

よくよく体を見ると、全身にグルグルと包帯が巻きつけられている。

という事は、誰かがここへ連れてきてくれたのか・・・?

 

気になって、痛みに耐え立ち上がってみた。

するとどうだろう。周りに見えるのは、今まで見たことも無い。沢山のカラクリらしき物が壁に並んでいる。

 

「な、なんて事だ!!」

 

痛みも忘れ、それをじっくりと眺める。

規則正しく並んだ鉄の破片が組み合わさって、何か不思議な形をした棒になっている。

隣のカラクリも見てみる。

今度は人間の手のカラクリだ。やはり、鉄か何かで作られている。

 

青年の心は高揚していた。

見たことも無いカラクリだが、それを作った人は相当の技術人という事ははっきりと分かる。

思わず手を伸ばした、その時だった。

 

「ちょっ!」

 

後ろから女子の声が聞こえた。

振り向いてみると、奇妙な青い髪に、緑の鞄を背負った、一人の少女がこちらを慌てた目で見ていた。

 

「あ、どうも初めまして。」

 

「初めましてじゃないよ、まだ立ったら危ないじゃないか!」

 

そう言って強制的に布団へと戻される。

幼い見た目に反して、中々の力を持っているのに驚いた。

 

「全く・・・それより、君は?」

 

「伏見 和弥。見ない顔だね。」

 

「和弥・・・とすると、君は人間か。」

 

「?そうだけど。それより君は?」

 

「私は河城にとり。河童だよ。」

 

「か、河童??」

 

「そう、河童。」

 

冗談で言っているのかと思ったが、ある考えが頭をよぎる。

どこかで気絶した。そして今、河童の家の中にいる。

つまり自分は・・・襲われる?

 

「い、命だけは勘弁してくれ!!」

 

そう叫ぶと、その河童は大笑いして、ブラックな顔でこう言った。

 

「そうだな、君からは上等の尻子玉が取れそうだ!」

 

「な、、、な、、、!!!」

 

「ハハハハ!冗談だ!君は本当に面白い顔をしてくれるね!」

 

なんと、冗談だったのか。

驚いて損した・・・

 

「人間は河童の盟友だからね。捕って食べたりはしないよ。」

 

「そ、そうなのか・・・?」

 

「・・・いきなり悪かったね。それにしても、ここまで派手にケガするとは・・・」

 

自分の体をじろじろ見て言われる。

そういえば、この河童が助けてくれたんだよな?

成程、人間は盟友だと言い張る訳だ・・・

 

「助けてくれたんだよね、ありがとう」

 

「いや・・・まあ助けたには助けたんだけども・・・」

 

「?」

 

「その・・・なんというかごめんなさい!!」

 

突然の謝罪に動揺を隠せない。

 

「ど、どうしたんだい?突然謝って・・・」

 

「実はそれ、私がケガさせました!!」

 

ケガさせた?どういう事だ?

 

「実は・・・」

 

 

 

 

にとりの話によると、こういう事だ。

今日は外で、カラクリの実験をしていた。

それは遠くから爆発を起こす、かなり危険な物だった。

 

そこへ、自分が偶然通りかかった。

にとりは焦った。もう起動しているのに、まさか人間が現れてしかも爆弾を拾うとは思わなかったという。

そして叫びも虚しく、爆発に巻き込まれたという訳だ。

 

「うん・・・何と言うか・・・」

 

「ご、ごめん・・・まさか本当に誰か来るとは思わなかったんだ・・・」

 

「まあ死ななかっただけ、運が良かった・・・のかな?」

 

「本当ごめん!お詫びに何かするから・・・許して欲しい!」

 

成程、何かする、か。

確かに河童なのはびっくりしたけども、急に何かといわれても・・・

・・・そうだ。うってつけのがあるじゃないか。

 

「・・・あのカラクリ」

 

「え?」

 

「あのカラクリ、誰が作ったんだ?随分な技術屋のようだけども」

 

それを聞いて、にとりは口をニヤリと吊り上げる。

そして自信満々の声でこう言うのだった。

 

「よくぞ聞いてくれた!あれこそが私の造った新兵器、『キューカンバスターMk-2』!」

 

「き、君が作ったのか!?」

 

「フフフ、そうだ・・・尊敬してくれてもいい」

 

その言葉に今度は、青年がニヤリと笑う。

 

「じゃあ、そのカラクリについて・・・詳しく教えて貰おうか」

 

「えっ」

 

「実は僕はカラクリ屋でね。・・・これを見て感動したよ、にとり。君は素晴らしい技術屋だ」

 

その言葉に、気持ち悪い笑顔を見せるにとり。

嬉しさが隠しきれない様子だ。

 

「そうかい!やっと分かってくれる人間がいたか!」

 

「ああ。よければその最高の職人に、技術を教わりたい物なんだが・・・」

 

「勿論!勿論だ盟友!共に手を組もう!そして妖怪世界をアッと言わせてやるんだ!」

 

「妖怪世界を・・・?まあ、よろしく、にとり。」

 

 

 

 

 

それから毎日、和弥はそのアジトを訪れるようになった。

そして河童の異常な技術力とその発想に肝を抜かされながらも、必死に努力した。

何とかしてその説明について行く。真似事でもいい、とにかく何かを作る。

そうしていくうちに和弥は、一級品ともいえる程の技術屋になった。

 

「にとり!出来た!」

 

とびきりの笑顔で、にとりに駆けて行く。

その手には、まさに一級の文明の利器・・・「拳銃」があった。

 

「なるほど。確かによく出来てるね。ちょっと中を・・・すごい、寸分の狂いも無いじゃないか」

 

「ここまで来たのも、にとりのおかげだよ。本当にありがとう!」

 

その言葉に、えへへへと笑うにとり。

 

「・・・これから僕は、これを持って里へ行ってみる。」

 

「里へ?・・・止めておいたほうがいい」

 

「何でだ?」

 

「・・・悪い予感がするんだ。何か、すごい悪い事が起きる気がする。」

 

その言葉に、笑い声で返す。

思えばその時自分は、絶頂の気分に達していたのかもしれない。

 

「そんな事ないさ。だって人間は河童の・・・『盟友』だろ?」

 

「・・・私は止めたからね。くれぐれも気をつけて。」

 

「分かった!ありがとう、にとり!」

 

そして、僕は急いで人里へ走った。

思えばここまで沢山の努力をしてきた。構造も、材質も、使い方も、全部頭に注ぎ込んだ。

この努力、人里で認められない筈がない。

・・・そう思っていた。

 

「あ、あれは・・・」

 

向こうにいるのは確か、親友だったケンジだ。

この頃顔を見ていないが、この大成功を見せるには丁度いい相手だろう。

 

「ケンジ!久しぶり!」

 

声をかけると、ケンジは驚いた様子で此方を見る。

その目は悲しみと、どこか怯えている目だった。

 

「・・・ごめん」

 

何故かケンジはそう言うと、どこかへ走り去ってしまった。

 

きっと、何か急な用事があるのだろう。

そう思ったが、よく周りを見てみると、皆が自分をジロジロ見ている。

中には誰かとこっそりと話をしている輩もいる。

気になって、声を掛けてみた。

 

「なあ。何かあったのか?」

 

「・・・」

 

声を掛けても聞こえないふりでもしているのだろうか、返事がない。

 

「おい?本当にどうしたんだ!?」

 

「・・・裏切り者」

 

「え?」

 

「この・・・裏切り者!」

 

そう言われ、僕は思いっきり頬を殴られた。

不思議と痛みは感じなかった。

感じていたのは、何故自分が。何故裏切り者なのか、という事だった。

 

必死に考えてみると、ある結論にたどり着いた。

まさか、そんな事ある訳・・・

 

「おい、和弥。俺は見ていた。お前が毎朝、楽しそうに話しているのをな・・・河童と、だ。」

 

やはり、予想は的中した。

人里を実質支配している妖怪達。

特に河童のような・・・人間が恐れている妖怪と関わるのは、タブーだったのだ。

それがどんな理由であれ。

 

「お前にこの人里で生きる権利は無い!この半河童が!」

「思えば最初から不気味な奴だったよ!新しい文化だの、カラクリだの!」

 

野次の声が出てくる。

その言葉に耐え切れず、思わず反論した。

 

「おかしいじゃないか!僕はただ、河童の技術を見込んで教わっていただけだ!何も人間に危害を加えようとした訳じゃ・・・」

 

「・・・お前は河童を何も分かっていない。」

 

「何だって!?」

 

「一昨日だったか。お前の行っているその川で、仲間が溺れていた。間違いなく、河童の仕業だ。」

 

その言葉に耳を疑う。

にとりは確かに言っていた。人間は盟友だ、と。

 

「嘘だ!僕はにとりから聞いた!人間は河童の盟友なんだよ!」

 

「・・・ハハハハハ!!!」

 

「何がおかしい!」

 

「いや、失礼・・・お前はもう、河童に完全に騙されているようだな。」

 

「騙されてなんていない!僕は騙されてなんか・・・」

 

「あらかた、河童に嘘でも吹き込まれたのだろう。その手に持っているのは何だ?鉄クズか?それとも河童に教えてもらった・・・ガラクタか!」

 

ギャハハハハ、と、軽蔑の笑いが起こる。

僕はというと、ただ立ち尽くしていた。

どうしてこうなった?どこで間違えた?すこし前まで、あんなに仲が良かったのに。

 

・・・そうか、分かったぞ。

彼ら、人間は、そういう種別なんだ。

自分より強い者には恐れ、慄く。弱い者には蔑み、嘲笑し、一生恥を着せる。

所詮彼らは・・・そういう種類の、生き物だったのだ。

 

そう思うと、許せない、と思う気持ちがこみ上げてきた。

自らの努力を認めてほしかった、というのも確かにあるだろう。

だが最も感じていた事は・・・自分より何も分かっていない彼らが自分の事を見下している。その事実に、腸が煮えくり返る思いだった。

そして僕がとった行動は、とても単純な事だった。

 

「グッ・・・雷・・・!?貴様何を・・・」

 

自分より弱いものが気に入らない。

そうなら、ひねり潰してやればいい。圧倒的な力の差を、見せ付けてやればいい。

幸い自分には、彼らの命の灯火を簡単に消し去る、『文明の利器』があるのだから。

 

「グアアアアアアァァァァ!!!」

「止めてくれ!悪かった!俺はまだ死にたく・・・ッ」

「キャアアアア!!!!妖怪よァッ!?」

 

バン、バン、と、音が響き渡る。

響き渡る度に、人が倒れていく。

単純明快。自分は引き金を引くだけだ。

ああ。やはり自分の道は正しかったんだ。努力を重ねてきたから、強くなれた。

 

そしてカチッ、と音がする。どうやら弾が切れたようだ。

もう、自分を邪魔する奴らは消えた。今では地面に倒れている仲間だったものしか、この場には居ない。

その光景に思わず笑いが止まらなかった。

 

そして、目の前にある見慣れた女子がいるのに気がついた。

 

「やあ、にとりじゃないか。何してるんだい?ここは人里だよ。」

 

「・・・お前が、何をやっているんだ」

 

にとりは、信じられないものを見るように、和弥を見た。

和弥の顔は、紅い夕日に照らされていた。

 

「ハハハ、簡単な事さ。僕を貶した人に、罰を与えていただけだよ。」

 

悲しい顔をするにとり。

そうして、こう切り出した。

 

「・・・私が、君を最初に見たとき。君の鞄の中に、一つのカラクリが入っているのに気づいたんだよ。」

 

「何の話だい?」

 

「私はそれを見て思った。ああ、自分の他にも、同じような事が好きな人がいるんだなって。」

 

「いきなり関係の無い話をしないでくれないか?」

 

「だから君を助けたんだ。尻子玉も抜かずに。君と過ごした日々は、それはそれは楽しかったよ。」

 

「・・・」

 

「・・・こんな事をする人だとは、思わなかったよ」

 

その言葉に、歪んだ顔をする青年。

顔には、怒りでも、悲しみでも、喜びでも無い。

失望の表情だった。

 

「・・・にとりなら、分かってくれると思ったんだけど。失望したよ、君には」

 

そう言って、ポケットから一つの鉛弾を見せる。

にとりはそれを見て思わず身を引く。

 

「私を殺そうとでも思ってるのかい?」

 

「違う。全然違うよ、にとり。不正解だ。そんなの合理的じゃない。」

 

鉛弾を銃に装着し終えた和弥は、その銃口を・・・

自分の頭に向けた。

 

「なっ!?」

 

「僕は分かったよ。ここには僕の居場所なんて無かった。だから死んで、僕の居場所を見つける事にするよ。」

 

「や、やめろって!そんな事していいと思って・・・」

 

「にとり、ありがとう。君のお陰で、僕はこんなに強くなれた・・・失望なんてしてないよ。これからも頑張ってくれ、『盟友』」

 

にっこりと、今までにしたことも無い満足気の顔で、にとりに笑いかける。

 

「おい馬鹿!」

 

にとりの叫びを、バン、という音がかき消す。

地面には、沢山の死体。そして立っているのは、水棲の技師、河城にとりただ一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・という事があってね。」

 

じっくりと話を聞いていた霊夢。横では魔理沙が、少し涙目で震えを抑えていた。

 

「結局、あの後和弥は死んだよ。あの竹林の医者にも診てもらったけど、もう駄目だった。」

 

「辛い事を思い出させてしまったかしら。」

 

「いや、いいんだ。私から話し出した事だ。胸もスッキリした。」

 

魔理沙が悲しい顔で、こう言う。

 

「・・・本当に、人間はバカだ。自分の努力で、自分を滅ぼすなんて。」

 

「いや・・・それはどうかな」

 

「?」

 

「案外私達妖怪より・・・ああいう人間の方が、実質頭が良かったのかもしれない」

 

魔理沙には、その言葉が理解できなかった。霊夢も同じだった。

 

「・・・どういう事?」

 

「いずれ分かるよ。・・・話が長くなったね。日が暮れる前に、帰ったほうがいいよ」

 

にとりは笑顔で、霊夢達にさよならと手を振る。

送り出した後。その顔は、どこか物憂げな表情をしていた。

 

そしてあの日と同じように、その顔を紅い夕日が照らしていたのだった。

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