「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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※注意:この作品には以下の成分が含まれます※
・記憶喪失で情緒が不安定なF(フラダリ)
・物理法則を無視する白鳥のコスプレ
・関西弁でブレイキンを踊るカラスバ
・元気なデウロちゃん(物理)
・キャラ崩壊 / 独自設定 / 捏造のオンパレード

何でも許せる方向けです。

【あらすじ】
 カラスバに借金を突きつけられ、アジト退去の危機に瀕したエムゼット団。 解決条件はまさかの「ブレイキン対決」。 しかし、頼みの綱であるデウロは怪我を隠しており、ブレイキンは専門外だった。
 絶望するガイの前に、F(フラダリ)が立ち上がる。 「私が科学と美学で解決しましょう」 彼が開発した重力場反転装置『シシコ・ゼロ』、そして彼が身に纏った「白鳥の衣装」が、ミアレシティに地獄の旋風を巻き起こす――!

 デウロの隠された努力と、Fの暴走する善意が交差する、汗と涙とクロワッサンの物語。


第13話:残念ですが、デウロとカラスバのダンス対決は白鳥(F)の暴走により物理的に破壊されました

 ホテルZのロビー。その空間に、不釣り合いなほど巨大なカラスバの立体映像が投影されていた。

 

「毎度ー。カラスバですわ。ガイちゃん、あれから金策のほうはどうでっか?」

 

「くっ……カラスバ! 返済期限はまだ先だろ! なんでこんな朝っぱらから……」

 

「いやいや、ビジネスにスピード感は大事やろ? 実はな、わてのお客さんに新しいビルを建てたいという方がいらはってなぁ、ここの土地も早急に欲しなってなぁ。……そこでや」

 

 映像の中のカラスバが、商売人特有の油断ならない笑みを浮かべる。

 

「手っ取り早く決着つけようやないか。『ダンスバトル』でな。お前らが勝ったら借金はチャラ。負けたら……このホテルは即刻退去、跡地はわてのビルの一部になってもらうで!」

 

「ダ、ダンスバトルだと!? それなら俺たちの得意分野だ!」

 

 ガイが身を乗り出す。ダンスであれば勝ち目はある。だが、カラスバはさらに口角を吊り上げた。

 

「せやな。ただし……種目は『ブレイキン』限定や。頭や背中で回る、あの派手なやつな。ほな、明日の正午、特設ステージで待ってるで。逃げたら……わかっとるな? ガハハハ!」

 

 プツン、と映像が消える。残されたのは、絶望的な沈黙だった。

 

「くそっ、ブレイキン限定だと!? 俺は、少し立ち踊りはできるが、パワームーブはそこまでじゃ……。あいつ、わざと俺が苦手なジャンルを……!」

 

 ガイは勢いよくソファの方へ振り返った。そこには、頼みの綱がいるはずだ。

 

「頼む、デウロ! お前しかいない! お前、この前『どんなリズムでも乗れる』って言ってたよな!? ブレイキンでカラスバを黙らせてくれ!」

 

 デウロは特大クロワッサンを両手で持ち、頬袋をリスのように膨らませていた。

 

「んぐ、んぐ……えー? やだよー」

 

「即答!?」

 

「だってぇ、ブレイキンって床でゴロゴロするやつでしょ? 髪の毛汚れるし、服も破れちゃうし。あたし、そういう泥臭いのパス! おしゃれにステップ踏みたい乙女なの!」

 

「そんなこと言ってる場合か! このホテルがなくなったら、お前の大好きなクロワッサン屋へのアクセスも悪くなるんだぞ!?」

 

「うっ……それは困る……。でもなぁ……」

 

 デウロは困った顔で立ち上がろうとする。その瞬間、身体に走った痛みに、一瞬だけ顔をしかめた。 「っ……!」  不自然に肩を庇った拍子に、ルーズなシャツの襟元がズレる。そこには、赤く腫れた肌と、何枚も重ねて貼られた湿布、そしてテーピングがびっしりと見えていた。

 

(……む?)

 

 読書をしていたFが目を細め、その異変を鋭く見抜く。しかし、焦っているガイは気づかない。

 

「おいデウロ、頼むよ! クロワッサン一年分奢るから!」

 

「あはは、だから無理だってば! ……あ、そうだ! あたし、新作のパン予約してあるんだった! とりあえず取りに行ってくるね! バイバーイ!」

 

 デウロは慌てて襟元を直し、逃げるようにホテルの出口へ走っていった。その走り方はいつもの軽やかさがなく、どこかぎこちない。

 

「あっ、おいデウロ! ……くそっ、あいつ、いざって時に!」

 

 静まり返ったロビーに、ソーサーにカップを置く音がカチャリと響いた。

 

「はぁ……Fさん、笑ってないで何か言ってくれよ。デウロのやつ、薄情だと思わないか?」

 

「……ガイ君。君は何も見えていないのですね」

 

「え?」

 

 Fは立ち上がり、優雅に窓の外を見つめた。その背中は、世界の真理を知る者のそれだった。

 

「彼女の身体……見ましたか? 首筋から背中にかけての、あの痛々しいテーピングを」

 

「えっ? いや、全然気づかなかったけど……」

 

「あれは……恐怖の証です」

 

「恐怖?」

 

「ブレイキンという重力に逆らう行為への根源的な恐怖……。彼女は夜な夜なうなされ、ベッドから転げ落ちるほど怯えているのでしょう。だからあのような全身打撲を負っているのです」

 

 Fは大真面目だった。  ガイは呆気にとられた。「いや、いくらなんでも寝相でそこまでは……」と言いかけたが、Fは聞いていない。

 

「可哀想なマドモアゼル・デウロ……。技術がないのに、無理やり回ろうとして怪我をしたのかもしれない。……ならば」

 

 Fの眼の奥底がキラリと怪しく光る。

 

「私が救わねばなりませんね。科学の力で。……ブレイキンなどという野蛮な運動ではなく、もっと美しく、安全な回転を彼女に授けましょう」

 

「(なんか話がズレてる気がするけど……)Fさん、何か策があるのか!?」

 

「ええ。準備をしなさい、ガイ君。今夜、デウロ君に私の最高傑作……重力場反転装置『シシコ・ゼロ』を装着させます」

 

          *

 

 その夜。ホテルZの遊戯室。  テーブル類は片付けられ、部屋の中央には奇妙なベルト型の機械が鎮座していた。

 

「待っていましたよ。さあ、マドモアゼル・デウロ。これを腰に装着したまえ」

 

「えー……何これ? 腹巻き? ダサくない?」

 

 ジャージ姿のデウロは、あちこちを庇いながら渋々といった様子だ。

 

「バカ言え! これはFさんが徹夜で開発してくれた秘密兵器、局所重力場反転装置『シシコ・ゼロ』だぞ! これがあれば、お前が苦手なブレイキンも楽勝らしい!」

 

「ふーん……。(楽勝、か……。あたしがやりたいのは、そんなインチキじゃないんだけどな)」

 

「遠慮はいりません。さあ、スイッチ・オン」

 

 Fがリモコンを押す。ブゥン……という重低音と共に、デウロの体がふわりと床から浮き上がった。

 

「わっ、わわっ!? 浮いた!?」

 

「すげえ! 本当に重力が消えた!」

 

「すごーい! 体が軽い! これなら、どんなポーズでも取れちゃうよ! 妖精さんみたい!」

 

 空中でバタバタとクロールのような動きをしてはしゃぐデウロ。

 

「よしっ、これなら! 見ててガイ、Fさん! 新しいステップいっちゃうよー!」

 

 彼女は空中でリズムを取り、ヒップホップ特有の重心を低くしたクールなポーズを決めようとした。

 

「イェーイ!」

 

 ピースサインを決めたその瞬間。

 

「……ノン」

 

 Fのリモコンを持つ手がピタリと止まった。

 

「へ?」

 

 カッ! Fがリモコンを操作すると、デウロの体が強制的に直立不動にさせられる。

 

「いたたっ!? 何すんの!?」

 

「……嘆かわしい。重力という鎖から解き放たれたというのに、なぜわざわざ体を丸め、猫背になり、地面を這うようなポーズを取るのです?」

 

 Fの瞳の奥が冷たく光る。

 

「え? いや、ヒップホップとかストリートダンスってそういうノリだし……」

 

「ノン!! それは地べたを這う者がやる動きだ! 重力を克服した者が目指すべきは、天へと伸びる『純粋な美』……そう、クラシック・バレエだ!!」

 

「はああ!? バレエ!?」

 

「えっ、Fさん? 今回のお題はブレイキン……」

 

「黙らっしゃい!!」

 

 Fの熱弁スイッチが入った。背後に幻の赤い炎が見えるようだ。

 

「ブレイキンなどという、頭で回って床を掃除するような野蛮な踊りは忘れなさい! マドモアゼル、君がやるべきは『フェッテ』……三十二回転のグラン・フェッテだ! さあ、つま先を伸ばして! 背筋はピンと! 指先で宇宙を感じるのです!!」

 

「無理無理! あたし体硬いし、そういうお上品なのキャラじゃないってば! もっとこう、パッションでガツンとくるやつがいいの!」

 

 Fはデウロの目の前に詰め寄った。静かに、しかし恐ろしい声で告げる。

 

「……パッション? ……笑わせないでください」

 

「ッ……」

 

「君の首筋、肩、腰……服の下に隠したその無数の痣。昨日見ましたよ」

 

「見……」

 

 デウロはドキッとして自分の体を抱いた。

 

「あれは、君が『間違った美学』に固執している証拠だ。無駄な動き、汚いフォームで無理に暴れるから、身体が悲鳴を上げているのです。……醜い」

 

「(醜い……? 違う……これは、やっと掴みかけた『必殺技』の勲章なのに……! でも、今のあたしじゃ言い返せない……!)」

 

 ショックを受けるデウロに、Fは慈悲深い悪魔のように微笑んだ。

 

「私が矯正してあげましょう。その無駄な筋肉の動きを全て削ぎ落とし、ただ回るだけの美しい歯車にしてあげます。さあ、アン・ドゥ・トロワ!! 回れ! 回り続けるんだァァ!!」

 

 Fがリモコンの出力を上げる。デウロの体が独楽(コマ)のように強制的に回転させられ始めた。

 

「いやああああっ! 目が怖いよおじさーん!!」

 

「Fさんストップ! デウロがバターになっちゃう!」

 

「(こんな所でバレエやらされてたら、あたしの『クロワッサン・トルネード』の感覚が狂っちゃう!)」

 

 デウロは決意した。

 

「ごめんガイ! あたし、トイレ行ってくる!!」

 

 装置の浮力を利用して壁を蹴り、スーパーボールのように部屋中を跳ね回ってドアへ突進する。

 

「待ちなさい! まだプリエの角度が甘いぞ!!」

 

「知るかーっ! あたしは白鳥じゃない、人間だーっ!!」

 

 ドガァン! ドアを突き破ってデウロが逃走した。

 

「デウローッ!! ……終わった……。主役がいなくなった……」

 

 ガイが頭を抱える横で、Fは乱れた前髪を優雅にかき上げた。

 

「……フッ。逃げ足だけは軽やかだ。だが、彼女はまだ『美』を理解していない。……仕方ありませんね」

 

 そう言うと、Fは静かに自分のジャージを脱ぎ始めた。下に着ていたのは純白のレオタードだ。まだ白鳥は付いていないが、十分に不審者である。

 

「……Fさん? 今、なんか見てはいけないものが見えた気がするんだけど?」

 

「ガイ。白鳥の首の模型と、裁縫セットはどこですか?」

 

「嫌な予感しかしないからやめて!!」

 

          *

 

 翌日。

 ダンスバトルの特設ステージでは、派手な照明と巨大スクリーン、ドローンが飛び交っていた。  正午を告げる鐘の音が鳴る。だが、デウロは現れない。

 

「カーッカッカ! 時間切れやなぁ、ガイちゃん! MZ団の代表は逃亡、不戦敗決定や! ほな、約束通りこの土地は……」

 

「くそっ……終わりだ……。デウロ、どこ行っちまったんだよ……!」  ガイが膝から崩れ落ちた、その時だ。

 

 ブツン。

 

 会場の照明が全て落ちた。ドローンの飛行音だけが不気味に響く。

 

「ああん? 停電か? 演出にしてはショボいぞ!」

 

 ズズズズ……。

 

 重低音と共に、ステージ中央に一点のスポットライトが照射される。

 

「……嘆かわしい」

 

「誰や!」

 

「若者が明日を夢見る場所を、薄汚い金で塗りつぶそうとする……。君には聞こえないのか? この星(ホテルZ)の悲鳴が」

 

 ライトの中に浮かび上がったのは、身長一九〇センチ超えの巨漢だった。  身に纏うは、フリフリの純白チュチュ。  そして股間からは、妙にリアルで長い首を持つ白鳥のぬいぐるみが、直立不動で生えていた。

 

 会場も、配信のコメント欄も、一瞬の静寂の後に爆発的なザワつきに包まれた。

 

「……ブフォッ!!? ちょ、おま、誰やねんそのオッサン!! 放送事故やろ!!」

 

 Fは片手に持ったワイングラス(中身は水道水)を揺らしながら、表情一つ変えない。

 

「フフフ……。誰かと問われれば、答える必要もない。私はただの通りすがりの……プリマドンナだ」

 

 パリーン!

 

 Fは素手でグラスを握りつぶした。

 

「(Fさーーん!! 何やってんの!? なんで志村●んスタイルなの!? しかもBGMと顔が無駄にシリアス!!)」

 

 ガイの心の叫びは届かない。

 

「プ、プリマドンナて! おっさん、悪いこと言わんから帰り! あんたの出る幕ちゃうで!」

 

「帰れだと? ……ノン。私は来たのだよ。君に引導を渡すために」

 

 Fがゆっくりと歩み出る。歩くたびに股間の白鳥がボヨヨン、ボヨヨンと揺れるが、本人は至ってハードボイルドな顔つきだ。

 

「……久しいな。カラスバ。君もまた、資本主義という戦場で戦う戦士なのだろう。だが……君は踏み越えてはならないラインを超えた」

 

「はあ? 何言うてんねん、わてはただビジネスを……」

 

「問答無用!! ……私は、争いを好まない。だが、君がどうしても退かぬと言うなら……この『最終兵器(スワン)』を使わざるを得ない」

 

 Fが腰のベルト『シシコ・ゼロ』に手をかけた。ブウゥン……!! 空間が歪み、足元の小石が浮き上がる。

 

「(最終兵器ってそれ、股間の白鳥のこと!? それとも重力装置!? どっちにしろヤバい予感しかしない!!)」

 

 Fは天を仰いだ。その瞳には、滅びゆく故郷を想う独裁者のような、深い悲哀が宿っていた。

 

「デウロさん……ガイ君……。許してくれ。私は今日、修羅となる」

 

「いや、修羅とかええから! 警察呼ぶで!?」

 

 Fは右手を高らかに掲げ、股間の白鳥をカラスバの方角へ「ガシャン!」とロックオンした。

 

「……私の臣民(なかま)が生きる場所を守るためなら……」

 

 重力装置の出力メーターがレッドゾーンに突入する。

 

「私は……喜んで、私の尊厳(プライド)を滅ぼす!!!」

 

 ドッギャァァァァン!!!

 

「なんやそのセリフゥゥゥッ!? 尊厳て! 自分から捨てに行っとるやないかーーッ!!」

 

「Fさーーん!! やめてー! その尊厳(コスプレ姿)がネットの海に永遠に残っちゃうーーッ!!」

 

「スワン・フェッテ・カノン!!」

 

 Fは重力を反転させて高速回転を開始した。遠心力で股間の白鳥の首が伸び、まるでムチのようにビュンビュンと風を切る。

 

「舞え! 白鳥! 恥も外聞も、この宇宙(ステージ)の彼方へ消え去れェェェッ!!」

 

 バゴォッ!!  白鳥のクチバシが装置に直撃した。制御不能になった重力波が会場を襲い、カラスバの高級スーツがめくれ上がり、カラスバの眼鏡が吹き飛び、会場全体が阿鼻叫喚の渦に包まれる。

 

「うわあああ! メガネが! 重力が! 誰かこの変態を止めてくれぇぇぇ!!」

 

 BGMの『白鳥の湖』が、レコードの回転数を間違えたように歪んで流れている。Fは重力反転の中、高速回転を続けていた。遠心力で股間の白鳥の首がピンと水平に伸び、凶器と化している。

 

「見よ! これが宇宙の真理(バレエ)だ! 回れ! 回れェェェ!!」

 

 ビュン! ビュン!

 

 白鳥のクチバシが風を切る音がする。

 

「危ない危ない! なんやその白鳥のリーチ! こっち来んな!」

 

 バゴォッ!!

 

 伸びきった白鳥のクチバシが、Fの腰にある『シシコ・ゼロ』の制御盤を強打した。

 

『警告。警告。物理的衝撃ヲ検知。安全装置、破損』 『重力制御、ランダムモードニ移行シマス』

 

「なにっ!?」

 

 ズゴゴゴゴ……!!

 

 会場全体の重力がデタラメになった。ある場所は無重力、ある場所は超重力。観客席のパイプ椅子が天井へ落ちていき、看板が横に飛ぶ。

 

「うおぉぉっ!? 体が浮く……いや、重い!? どっちやねん!」

 

 カラスバは天井に向かって落下しかけた。その拍子に、メガネだけが反対方向の床へ飛んでいく。

 

「あーーっ!! わての『本体』がぁぁぁ!! 誰かあのメガネを捕まえてぇぇ!!」

 

「無理だよ! メガネが意思を持ったみたいに飛び回ってる!」

 

 ガイは必死にステージの支柱にしがみついた。

 

 一方、Fは自分の股間から生えている白鳥が暴れまわるため、制御不能な独楽のように空中をのたうち回っていた。

 

「ぬうぅっ!! 鎮まれ! 鎮まらんか、スワン!!」

 

 Fは必死に両手で股間の白鳥の首を締め上げ、動きを封じようとする。  絵面としては、「白鳥のパンツを履いた大男が、自分の股間を全力で絞めている」という最悪の光景である。

 

「貴様……! 私の『美学』を拒絶するというのか!? 飼い主の手(股間)を噛むとは何事だ!!」

 

「Fさん! 白鳥と会話してないで装置を止めて!! 建物が崩れる!!」

 

「くっ……! この白鳥、凄まじい反発力(パワー)だ! まるで……反抗期の子供のよう……!!」

 

 会場の鉄骨が軋み、限界が近づく。Fは覚悟を決めた。

 

「……ええい、ままよ! こうなれば、力尽くで黙らせるしかない!!」

 

 Fは空中で体を捻り、暴れる白鳥の頭(クチバシ)を無理やり掴み、自身の腰の装置の緊急停止ボタンへ向けて叩きつけようとした。

 

「スワン・インパクトォォォォッ!!!」

 

「技名はどうでもええから早よ止めてくれぇぇぇ!!」

 

 ドカァァァン!!!

 

 Fは白鳥の顔面を使って、渾身の力で装置を殴りつけた。バチバチバチッ!! と装置から黒煙が噴き出す。

 

『システムダウン。重力場、消失。サヨウナラ』

 

 フッ……。重力異常が消え、通常の物理法則が戻る。

 

「あ」

 

 天井にいたカラスバ、空中にいたF、その他瓦礫が、一斉に地面へ落下した。

 

 ドサァッ!! ガシャーン!!

 

 砂煙が舞う中、静寂が訪れる。BGMがプツンと途切れ、虚しい風の音だけが響いた。  Fは瓦礫の山の上で大の字になり、白鳥の首もダラリと垂れ下がっている。

 

「……燃え尽きたよ……。真っ白にな……(白鳥だけに)」

 

 ボロボロになったガイが顔を出した。

 

「……地獄だ……。これ、借金返すどころか、賠償金で破産だよ……」

 

 砂煙が晴れていく。ステージは見るも無惨な姿になっていた。

 

「……ゲホッ、ゲホッ。なんやねんこれ……。ダンス対決や言うてたのに、ただの解体工事やないか!」

 

 カラスバは地面に落ちたメガネを拾い、歪みを直しながら明後日の方向を向いて叫んだ。

 

「おいガイ! どう落とし前つけるつもりや! 借金帳消しどころか、器物損壊と業務妨害で身ぐるみ剥いだるからな!」

 

「そ、そんな……Fさんが勝手に……」

 

「……ふっ。金で買えるものなど、私の白鳥に比べれば些末なこと……(現実逃避)」

 

「寝言は寝て言えオッサン! もうええ、お前らの負けや! 撤収!」

 

「……まだ、負けてないよ!!」

 

 その時、瓦礫の向こうから凛とした声が響いた。 「デウロ!?」

 

 デウロがステージに駆け上がってくる。その姿に、全員が息を呑んだ。ジャージは土汚れで真っ黒。膝、肘、そして額には新しい絆創膏と、滲む血。しかし、その表情は以前の「めんどくさがり」な彼女とは別人だった。

 

「……ああん? 今さら何しに来たんや嬢ちゃん。もうステージはこの有様やぞ」

 

「はぁ、はぁ……。ごめん、遅くなった。……でも、やっと完成したの」

 

「デウロ、お前その怪我……Fさんが言ってた『寝相』じゃないな? まさか、ずっと隠れて特訓を?」

 

「へへ……かっこ悪いところ、見せたくなかったからさ。……カラスバ、まだドローンは飛んでるね? 勝負、受けてくれる?」

 

「……ハッ。こんな足場で踊れるわけないやろ。怪我人が無理すんな」

 

 デウロはニカっと笑い、瓦礫の山を見渡した。

 

「ううん。……Fさんがステージをめちゃくちゃにしてくれたおかげで、『最高の坂』ができてる」

 

「(……坂?)」

 

 Fがピクリと反応する。

 

「いくよ! ミュージック、スタート!」

 

 デウロが指を鳴らすと、生き残っていたスピーカーから重低音が鳴り響く。彼女は瓦礫の上でトップロックを踏み始めた。

 

「すげえ……! あの凸凹な地面を、まるで平地みたいに! 体幹が全然ブレてない!」

 

 半身を起こしたFもまた、それを見つめていた。 「あのステップ……。洗練されたバレエとは程遠い。だが……なんと力強い『大地への接吻(キス)』か……!」

 

(よし、いける……! 身体中の痛みが、今はエンジンの熱みたいに感じる!)

 

 デウロは傾斜がついたコンクリート片、Fが破壊した床の一部に狙いを定めた。

 

「見ててね! これが、あたしがクロワッサンを食べて、食べて、考え抜いた……」

 

 デウロは傾斜に向かって助走をつける。身体を低くし、地面スレスレの角度で飛び込む!

 

「最強の回転(ロール)だーーっ!!」

 

 ズザァッ!!  デウロは傾斜を利用して加速をつけ、背中と頭を使った超高速ウィンドミルに入った。通常のブレイキンよりも角度がついているため、まるで竜巻のように瓦礫を巻き上げながら回転する。

 

「必殺!! クロワッサン・トルネードォォォッ!!!」

 

 ゴォォォォッ!!

 

 回転が生み出す風圧が、周囲の埃を吹き飛ばす。そのシルエットは、まさに「焼き立てのクロワッサン」の層のように鋭く、美しい螺旋を描いていた。

 

「な、なんやその回転速度は!? 傾斜を逆に利用して加速しとるんか!?」

 

「いけぇぇデウロ! ぶっ飛ばせぇぇ!!」

 

「おお……! 美しい! あれこそは、私が求めていた『重力との調和』! 装置など不要だったのだ……彼女自身の筋肉と情熱(カロリー)こそが、最強のエンジンだったのだ!」

 

 ギュン!!

 

 デウロは回転の勢いを殺さず、ピタリと片手だけで倒立静止――チェアーを決めた。

 

 シーン……。

 

 一瞬の静寂の後、壊れかけのドローンから「イイネ!」の電子音が連打された。

 

「……ど、どうかな。今の……」

 

 デウロが荒い息で汗だくの顔を上げる。カラスバは驚愕の表情で固まっていたが、やがてフッと口角を上げた。

 

「……チッ。あんなボロボロの体で、こんな滅茶苦茶なステージで……ようやるわ」

 

「商売人としては『ノーコンテスト』と言いたいとこやが……エンターテイナーとしては完敗や。そのド根性、買うたるわ」

 

「やった……! やったよガイ!!」

 

「ブラボー!!」

 

 Fが感動のあまり立ち上がり、拍手する。股間の白鳥もボヨヨンと揺れて祝福していた。

 

「マドモアゼル! 君は証明した! 真の美しさは、フリフリの衣装(チュチュ)ではなく、泥まみれのジャージに宿るのだと!」

 

「あはは、ありがとFさん! ……でもFさん、その格好で真面目なこと言われても、やっぱり面白いだけだよ?」

 

「……ッ!!」

 

 デウロの「クロワッサン・トルネード」が決まり、場が静まり返る中、カラスバはゆっくりと拍手をした。

 

「パチ……パチ……パチ。……見事や。正直、今の瓦礫だらけの環境で、そこまで回るとは思うてへんかったわ」

 

「はぁ、はぁ……。ど、どう? これで、あたしたちの勝ちでいいよね?」

 

「……勝ち? 甘いな」

 

 カラスバは不敵に笑うと、汚れた高級スーツの上着をバサッと脱ぎ捨てた。下に着ていたのは、仕立ての良いベストとシャツだ。

 

「若さ任せの回転力……確かに凄まじい。せやけどな、ダンスっちゅうのは『パワー』だけやない。……『味(フレイバー)』や」 「えっ? カラスバ、何をする気だ?」

 

「ナメてもらったら困るで。わてかて昔は、ミアレのディスコでブイブイ言わせとったんや! ……見るがいい! これが『大人のブレイキン』や!」

 

 カラスバは歪んだメガネを強引にかけ、瓦礫の中にあったガムテープで強引に固定した。

 

「固定の仕方が雑!!」

 

 カラスバがステップを踏み始める。デウロのような派手な回転技ではない。しかし、そのフットワークは驚くほど軽やかで、リズムの取り方が渋かった。

 

「嘘……! あの人、リズムが身体に入ってる……!」

 

「ほう……。重心移動に無駄がない。あれは……長年の接待ゴルフと土下座で培われた、強靭な足腰……!」

 

「Fさん、褒めてるのか貶してるのかどっち!?」

 

 カラスバは流れるような6歩から、ピタリとチェアーを決める。そして、ニヒルな流し目でカメラを見た。

 

「……ドヤッ」

 

 派手さはないが、完璧な技術と「哀愁」が漂うムーブに、配信のコメント欄が『ボスカッケーw』『いぶし銀』で埋まる。

 

 カラスバは汗一つかかずに立ち上がり、ネクタイを締め直した。

 

「ふぅ……。久しぶりやから、腰いわすかと思うたわ」

 

「す、すごい……! 踊れたんだ!」

 

「言うな。『ダンシング・CEO』と呼べ」

 

 カラスバはデウロに歩み寄り、手を差し出した。

 

「……今回は、『引き分け』としといたるわ」

 

「えっ、引き分け? じゃあ借金は……」

 

「会場は半壊、わてのメガネも被害甚大、おまけにあの白鳥のオッサンが放送事故レベルの映像を垂れ流した……。この状況で勝敗もクソもあるかい」

 

 カラスバはデウロを真っ直ぐに見た。

 

「せやけど……嬢ちゃん。あんたのその『ド根性』に免じて、ホテルZの件は一旦白紙に戻したる。……今日のところは、な」

 

「……!! ほんと!?」

 

「勘違いすんなや。あくまで『今日のところは』や。わては甘ないで。……せやけど、あんたのその回転、もう一回くらいは生で見てもええかなと思っただけや」

 

 デウロは満面の笑みでカラスバの手を握り返した。

 

「うん! ありがと、カラスバ! 今度あたしが美味しいクロワッサンのお店、教えてあげる!」

 

「炭水化物は控えとるんやけどな……まあ、考えておくわ」

 

 美しい和解のシーン。それを、瓦礫の上から見下ろす白鳥姿のF。

 

「……素晴らしい」

 

 Fは白鳥の手袋をした手で、目頭を押さえた。

 

「世代を超えた対話……敵対関係を超越したリスペクト……。これこそが、私が求めていた『美しき世界』の縮図……!」

 

「(よかった……Fさん、なんかいい感じでまとめてくれてる)」

 

「私の犠牲(コスプレ)は無駄ではなかった……。さあ、この感動を胸に、私も高らかに飛び立とうではないか!」

 

 Fは白鳥ポーズで片足を上げた。

 

「あ、Fさん! その格好のまま飛び立たないで! 通報されちゃう!」

 

          *

 

 ホテルZのロビー。  あの後、デウロとガイ、そしてFはホテルに戻って休んでいた。  ソファに深々と座り込むFは、まだボロボロの白鳥衣装を着ている。彼には今、賢者タイム(正気に戻る時間)が訪れていた。

 

「(……私は一体何を……。全世界配信で、白鳥の首を股間につけて暴れ回るなど……。これは夢だ……夢だと言ってくれ……)」

 

「えへへ、本当にありがと! これもFさんが、あの時わけわかんない白鳥の格好で暴れてくれたおかげ……あ、ううん、勇気をくれたおかげだよ!」

 

「……ウッ(効果は バツグンだ!)」

 

 Fは胸を押さえてよろめく。デウロの純粋な感謝は、効果抜群の攻撃となって彼を襲った。

 

「……それにね、あのピチピチのタイツ姿! 普通のおじさんなら絶対恥ずかしくて死んじゃうのに、Fさんは真顔でやりきったもんね!」

 

「……グハッ!!(きゅうしょに 当たった!)」

 

「……みんなが指差して笑ってたけど、あたしには輝いて見えたよ! あの白鳥の首がブンブン回るシュールな光景は、一生忘れないと思う!」

 

「……ガハッ……!!(Fの 防御が ガクッと 下がった!)」

 

 Fが白目を剥いてソファに崩れ落ちるが、デウロはまだニコニコしながら口を開こうとする。

 

「……あ、あとね、終わった後に股間の白鳥を見つめて絶叫してたFさんも……」

 

 ここでガイが血相を変えてデウロの口を塞ぎ、羽交い締めにした。

 

「やめて! デウロ! もう……とっくにFさんのライフ(尊厳)はゼロよ!!」

 

「はなしてっ! ガイ! あたしはまだFさんに感謝を伝えきってないの! Fさんの勇姿(黒歴史)を讃える言葉はまだ残ってるのに!」

 

「見ろ! Fさんはもう虫の息だ! お前がこれ以上『純粋な感想(ついげき)』を食らわせたら、Fさんの自我が崩壊して、二度と社会復帰できなくなっちゃう!!」

 

「えっ……? でも、あたしは……」

 

「……」

 

 Fは虚ろな目で天井を見つめ、涙を一筋流してガクリと事切れた。

 

「Fさァァァァァン!!」

 

          *

 

 数日後、ダンス教室にて。  レッスン終了後、生徒たちが汗を拭っている中、マダム・エトワールが手を叩いて注目を集めた。

 

「アテンション、みんな! 次回の『ミアレ・ダンスフェスティバル』……その主役(センター)を発表します」

 

 デウロは緊張して、ポケットの中のミニクロワッサンをギュッと握りしめる。

 

「今回のテーマは『革新』。……伝統的なバレエの枠を超え、見る者の魂を揺さぶるエネルギーを持つ生徒……。デウロ、あなたです」

 

「えっ……あ、あたし!?」

 

 周囲の生徒たちから、驚きと称賛の拍手が起こった。

 

「ネットで見ましたよ。瓦礫の上での、あのパフォーマンス。……技術はまだ粗削りですが、あの極限状態で見せた『回転への執念』。そして何より、逆境を楽しむ笑顔。あれこそが、私が求めていた強さです」

 

「せ、先生……! (隠れて練習してたこと、怒られなかった……!)」

 

「期待していますよ、デウロ。あなたのその『クロワッサン・パワー』で、ステージに新しい風を巻き起こしなさい」

 

「はいっ!! がんばります!!」

 

 夕方のホテルZ。  テーブルには大量のテイクアウト料理と、山盛りのクロワッサンが並んでいた。

 

「カンパーイ! いやあ、デウロがセンターとはな! 鼻が高いよ!」

 

「えへへ~! これもみんなのおかげだよ! あ、Fさん! 高級エクレア買ってきたよ、食べる?」

 

「……頂きましょう。甘味は、疲弊した脳細胞(と傷ついたプライド)を癒やしますからね」

 

 Fは遠い目でエクレアを手に取った。

 

「ねえねえ、今度のフェスティバル、絶対見に来てね! Fさんに教えてもらった『美意識』、あたしなりにアレンジしてみせるから!」

 

「……ええ。約束しましょう。君がセンターで輝くその瞬間……それが『美しき世界』の完成形となるのか、見届けます」

 

「やった! あ、でもFさん!」

 

「なんでしょう?」

 

 デウロは真顔で言った。

 

「応援に来るときは、絶対に普通の服で来てね? 間違っても、あの白鳥のチュチュ着てこないでね? 集中できないから!」

 

「……善処します(二度と着るものか……!!)」

 

 ガイとデウロが笑い合い、Fも苦笑しながら紅茶をすする。  破壊されたロビーに、平和な時間が流れた。

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