「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!! 作:をよよ
過保護な破壊神(ギャラドス)がピカチュウの遊覧船になったり、 美意識の高いフラージェスとニンフィアが意気投合したり、 カエンジシとジュナイパーが男の誓いを交わしたり。
そして最後は、ダストダスとカビゴンに挟まれて「神様サンドイッチ」になるジガルデ(わんこ)。
※今回は本来の意味での『ヤオイ』回です。 つまり、ヤマなし・オチなし・イミなし。 世界も救わないし事件も起きない、ただひたすらポケモン達がワチャワチャしているだけの平和なお話です。
ミアレ再開発北西地区、ワイルドゾーン18。
整備されたばかりの青々とした芝生の上を、翡翠色の影が疾走していた。ジガルデ・10%フォルムである。 その直後を、黄色い稲妻が「でんこうせっか」で追いかける。
今日はFの重量級ポケモンチーム(カエンジシ、ギャラドス、フラージェスなど)と、彼のポケモンチーム(ピカチュウ、ジュナイパー、ニンフィアなど)の合同レクリエーションだ。 体格差も貫禄も段違いの両チームだが、今のところ芝生の上はカオスな運動会と化している。
『ピカピッカ〜!(待て待て〜! そのヒラヒラしたマフラーみたいなの触らせろ〜!)』
『ええい、しつこい! 貴様、余は神だぞ! オモチャではない!』
必死に逃げる秩序の監視者だが、相手は素早さ種族値に定評のある電気ネズミだ。 ジガルデの尻尾にピカチュウの手がタッチしようとした、その瞬間。
ズズズズ……!!
突如、地面が小刻みに揺れた。 ゾーンの端で彫像のように鎮座していた蒼き巨塔――ギャラドスが、物凄い形相で動き出したのだ。
「ああっ! ギャラドス、待ちなさい! 喧嘩はダメです!」
Fの悲鳴のような制止も間に合わない。 全長6.5メートルもの巨体が、ピカチュウとジガルデの間に割って入る。その巨大な影が、小さなピカチュウを完全に覆い隠した。
『グオォォォッ!!(おいネズミ!! うちの坊主(ジガルデ)をいじめてんじゃねえぞコラァ!!)』
ギャラドスの特性「いかく」が発動する。 周囲の空気がビリビリと震え、近くにいた他のトレーナーの小型犬ポケモンたちが「キャイン!」と悲鳴を上げて逃げ出した。
「(終わった……。君のピカチュウが気絶してしまう……!)」
Fが顔面蒼白で頭を抱える。 しかし、ピカチュウは気絶しなかった。むしろ、その丸い瞳をかつてないほどキラキラさせて、ギャラドスの凶悪な顔を見上げているではないか。
『ピカァ……✨(うっひょー! デッカい! カッコいいー!)』
『……ああん?』
『ピッカ! チュー!(ねえねえおっちゃん! その髭、登り棒にしていい!? いいよね!?)』
ピカチュウはギャラドスの殺気立った威嚇を、単なる「威勢のいい挨拶」と受け取ったらしい。 身軽な動きでギャラドスの青い髭をガシッと掴むと、スルスルと顔の上までよじ登り始めた。
『お、おい! 待て! そこは急所……いや急所じゃないが、くすぐったい!』
『こいつ、俺様の殺気が効かねえのか!?』
ギャラドスは混乱して首を振るが、ピカチュウは「わーい! 遊覧船だー!」と頭の上で大はしゃぎだ。 強面な破壊の化身が、一瞬で「巨大なジャングルジム」と化してしまった。 その様子を見ていたジガルデ(犬)。助かったはずなのに、なぜか面白くない顔をして鼻を鳴らす。
『……フン。余を追い回していたくせに、デカいのが来たらそっちか』
『おいギャラドス! そのネズミを振り落とせ! そいつは余の……余のストーカーだぞ!』
ジガルデはワンワンと吠えて抗議するが、ギャラドスはピカチュウに耳元の痒いところをカキカキされて、まんざらでもない顔になり始めている。
『……まあ、悪い気はしねえな。おい坊主、お前も乗るか?』
『乗らん! 誇り高き王が、家来の背中に乗れるか!』
そう言いつつも、ジガルデはギャラドスの尻尾の方にこっそり近づき、ちょこんと乗っかった。素直じゃない。
ゾーンの隅で見守る人間ふたりは、ようやく息を吐いた。
「……も、申し訳ありません!! うちのギャラドスは顔が怖いだけで、悪気はないのです! ピカチュウちゃん、怖かったでしょう……!」
Fはハンカチで冷や汗を拭いながら頭を下げる。 対して彼は、笑いながらその光景をビデオカメラに収めていた。
「いやいや、Fさん見てくださいよ。あいつら、めちゃくちゃ仲良しですよ」
視線の先には、ギャラドスの頭に乗ったピカチュウと、尻尾に乗ったジガルデ。 ギャラドスは「重いなぁ、まったく」と文句を言いつつ――顔は怖いまま、二匹を乗せてドッグランをゆっくり周回し始めていた。
「……はぁ。心臓に悪い」
「あはは! ギャラドスって、意外と面倒見いいんすね!」
「ええ……。彼はああ見えて、小さいものには甘いのです。……私に似て、心配性なだけなんですよ」
Fは、ギャラドスの背中で風を受けて少し得意げな顔をしているジガルデを見て、ようやく肩の力を抜いて微笑んだ。
◇
やがて、ジガルデはギャラドスの背中を離れ、ゾーンの中央で休憩していた。 少し泥で汚れたまま、ハァハァと息をして舌を出している。 そのジガルデの背後に、音もなく白い影――フラージェスが忍び寄った。
彼女は腕組み(ツル組み)をして、ジワジワとジガルデの周りを回る。まるで品定めをするように、頭の先から尻尾の先までをジロジロと凝視している。
『……なんだ。なぜ余を見る。……気まずいからあっちへ行け』
『……ハァ。これだから男の子は。首元のセル(スカーフ)が曲がっているじゃない。Fのポケモンとしての品格が問われるわ』
フラージェスは「貸しなさい」とばかりにツルを伸ばし、ジガルデの首元の装飾をグイッと強引に直そうとする。
『痛い! 苦しい! 首が絞まっているぞ!』
「ああっ、フラージェス! お止めなさい! 彼はデリケートな時期なんです、そんな姑のような真似をしては嫌われますよ!」
自分のポケモンが新入りをいじめて(しつけて)いるのを見て、Fがオロオロしだす。 そこへ、彼のニンフィアがトテトテと歩いてきた。ニンフィアは、フラージェスの強引な手つきを見て、スッと二匹の間に割り込む。
『ニン!(ちょっと待って、おば様。そんなやり方じゃセンスがないわ)』
『……なんですって? 新参者が、わたくしに意見する気?』
一触即発。 「Fの家の美の管理者(フラージェス)」と、「彼の家のアイドル(ニンフィア)」。 二体のフェアリータイプの間で、見えない火花が散る。ドラゴンタイプのジガルデは、本能的な恐怖で縮こまった。
『ひぃっ……。余を挟んで争うな。余は帰る……』
『見てて。こうやるのよ』
ニンフィアは、自身の「リボン(触手)」を器用に操り、ジガルデの首元のセルを優しく撫で、数秒でふんわりと整えてみせた。 さらに、ジガルデのボサボサの毛並みを、リボンで櫛のように梳かしていく。
『……お? 痛くない。……悪くない手つきだ』
ジガルデが満更でもない顔をするのを見て、フラージェスが目を見開く。
『……あら。やるじゃない。角度も完璧……認めてあげるわ』
『ふふん、でしょ? でも、おば様のそのお花、素敵ね。ここに乗せたらもっと可愛いんじゃない?』
『……おば様はやめてちょうだい。でも、そうね……貴女の言う通りだわ!』
あろうことか、意気投合してしまった二匹。 ここから、逃げ場のないジガルデへの「合同コーディネート」が始まる。
『グラスフィールド展開! 新鮮な花飾りを作るわ!』
『私はリボンで固定するわね! じっとしててね、動くと可愛くないわよ?』
『や、やめろ! 余は硬派な秩序の監視者だ! 花など似合わん!』
『F! 助けろ! 貴様の部下が暴走している!』
ジガルデはFに助けを求める視線を送るが、二匹のフェアリーによる「あまえる」と「ムーンフォース(威圧)」のコンボにより、身動きが取れなくなる。
数分後。
そこには、「頭に花冠を乗せ」「首元にリボンを結ばれ」「全身からフローラルの香りを漂わせた」、ファンシー極まりないジガルデ(犬)が完成していた。
『……殺せ。いっそ殺してくれ……』
ジガルデは魂の抜けた顔で、地面に突っ伏している。
「……ぷっ」
Fは思わず吹き出してしまった。そして、慌てて口元を覆い、真面目な顔(※イケメン顔)に戻る。
「失礼。……いや、その。あんなに大人しくされるがままになっている彼を見るのは初めてで」
「あはは! 可愛いですね! ニンフィア、いい仕事したな!」
彼はすかさずカメラを構え、ファンシーな神様を激写する。
「……私のフラージェスは、少し美意識が高すぎて、他人にも厳しいところがあるのです。ですが……」
Fは、満足げにハイタッチ(ツルとリボンでタッチ)をしているフラージェスとニンフィアを見た。
「君のニンフィアちゃんとは、気が合ったようですね。『可愛いは正義』……彼らフェアリータイプにとっては、種族を超えた共通言語なのでしょう」
「ジガルデはちょっと不服そうですけどね(笑)」
「ええ。ですが見てください。彼は逃げ出さなかった」
Fの視線の先では、ジガルデが「もうどうにでもなれ」とばかりに腹を出し、二匹のフェアリーに毛づくろいを続けさせている。
「……もしかすると、彼も満更ではないのかもしれませんよ? 王様というのは、着飾らせてくれる従者を必要とするものですから」
Fは、花まみれになったかつての破壊神を見つめ、穏やかな午後の日差しに目を細めるのだった。
◇
一方、ゾーンの隅にある木陰。 他のポケモンたちが騒がしく遊んでいるのとは対照的に、ここだけ空気が張り詰めていた。 ヒュオオオ、と風が吹き抜け、枯葉が舞う。
Fの相棒のカエンジシが、ゆっくりと歩み出る。その鬣は王者の風格を漂わせ、眼光は鋭い。 対するは、彼の相棒・ジュナイパー(ヒスイの姿)。浪人のような佇まいで腕を組み、笠(葉)の下から静かにカエンジシを見据えている。
「……まずいですね。カエンジシは群れの長としてのプライドが高い。自分以外の『強いオス』を簡単には認めませんよ」
Fは拳を握りしめ、いつでもボールに戻せるよう構える。しかし、彼はFの手を軽く制した。
「大丈夫です、Fさん。ジュナイパーは無駄な喧嘩はしません。……挨拶してるだけですよ」
カエンジシが、ジュナイパーの鼻先数センチまで近づき、ピタリと止まる。 そして、腹の底に響くような、低く重い声を漏らした。
『ヴォォォ……(……面構えは悪くない。だが、力だけであやつ(ジガルデ)は御せんぞ)』
カエンジシの視線が、遠くでニンフィアたちに遊ばれている(振り回されている)ジガルデに向けられる。
『(あやつは、世界を背負う神だ。そして、我があの人の〈業(カルマ)〉そのものだ。……その重さ、貴様に背負えるか?)』
それは威嚇ではなく、「遺言」にも似た重い問いかけだった。 もしここでジュナイパーが目を逸らせば、カエンジシはジガルデを連れて帰るつもりだ。 だが、ジュナイパーは動じない。静かに目を閉じ、そしてカッ! と見開く。
『……ジュウッ!(……愚問だ。主が選んだ道ならば、地獄の底まで供をする。それが俺の〈義〉だ)』
ジュナイパーは、ゆっくりと自分の翼に手を伸ばす。 そして、自らの矢羽(羽根)を一本引き抜き、カエンジシの足元にザクリと突き刺した。
それは、中世の騎士が剣を捧げるような、あるいはサムライが刀を預けるような、最大級の誓いの儀式。
『(この命に代えても守り抜く。……安心していけ)』
カエンジシは、地面に刺さった羽根を見つめ、フッと鼻を鳴らす。 満足げな、どこか寂しげな笑み。
『(……フン。言うようになったな、若造が)』
カエンジシは、その羽根を口にくわえ、くるりと背を向ける。 そして去り際に、太い尻尾でジュナイパーの肩をバシッ! と叩いた。
『(……後は頼んだ)』
ジュナイパーは深く一礼し、去りゆく老王の背中を見送る。 言葉はいらない。男同士の引継ぎは完了したのだ。
「……ああっ! カエンジシが、ジュナイパーの羽根を抜きました! やはり喧嘩に……!」
事情を知らないFが慌てるが、戻ってきたカエンジシの表情を見て言葉を呑む。 カエンジシは、くわえてきた羽根をFの掌にポトリと落とし、「もう心配はいらんぞ」とばかりにFの手を舐めた。
「……認められたみたいですね、俺たち」
「……ええ。これは『誓いの証』ですね」
Fは、掌にあるジュナイパーの羽根を、大切そうにハンカチに包んだ。
「カエンジシは……自分よりも、彼らの方がジガルデを幸せにできると認めたのでしょう。……少し、悔しいくらいに潔い」
遠くでは、ジュナイパーがジガルデの元へ歩み寄っている。 ジガルデが「なんだ貴様、説教か?」と身構えるが、ジュナイパーは何も言わず、ただジガルデの隣に座り、周囲を警戒する護衛のポーズを取る。 それを見たジガルデは、少し驚き、それから安心してあくびをした。
「……行きましょうか。邪魔者は退散するとします」
Fは、少しだけ湿った目でカエンジシの頭を撫で、ゾーンの出口へと向かう。 その背中は、「親の役目を終えた父親」のように、少しだけ小さく、そして優しく見えた。
◇
夕暮れ時。 遊び疲れたポケモンたちが、芝生の上で三々五々にくつろいでいる。空が茜色に染まり始めた頃。
ジガルデ(10%)が、ゾーンの中央で立ち止まっていた。 左側には、Fがコートを広げてベンチに座っている。その足元にはカエンジシやフラージェスが集まっている。 右側には、彼が芝生に座り込んでいる。ピカチュウやジュナイパーが肩に乗っている。
『(……ふむ。そろそろ帰る時間か)』
ジガルデはFの方へ一歩踏み出し、止まる。
『(……いや、余の主はあっちが適任か?)』
ジガルデは彼の方へ向き直るが、また止まる。
『(……だが、Fのコートの匂いも捨てがたい。今日はカエンジシの毛並みも良かったしな……)』
右へウロウロ、左へウロウロ。 帰る場所が二つある贅沢な悩みと、どちらかを選ばねばならない寂しさで、ジガルデの尻尾がしゅんと下がっていく。
そんなジガルデの背後に、二つの巨大な影が音もなく忍び寄っていた。 F側のチームから、ダストダス。 彼の側のチームから、カビゴン。
「ダストォ〜……。(なんだい新入り、寂しいのかい?)」
「カァ〜ビィ……。(迷ってるなら、寝ちゃえばいいのに)」
二体は目配せをする。 言葉はいらない。「デカい図体」同士のシンパシー。
『(よし、挟もう)』
『(うん、挟もう)』
ダストダスが右から、カビゴンが左から。 同時に倒れ込むようにして、ジガルデに向かって渾身の「添い寝(プレス)」を仕掛けた。
『なっ、気配!? 貴様ら何を……』
ムギュゥゥゥッ!!
『ぐえっ!!』
右からはゴミとヘドロの弾力。左からは筋肉と脂肪の塊。 ジガルデは二匹の巨体にサンドイッチされ、完全に埋もれてしまった。見えるのは、もがく緑色の足と尻尾だけである。
『重い! 臭い! 苦しい! 圧死する!』
『F! 助けろ! これは反逆だ!』
しかし、ダストダスは「よしよし」とヘドロの手で撫で、カビゴンは「あったかいなぁ」とあくびをして、ジガルデを逃さない。 もがいていたジガルデだが、次第に抵抗が弱まっていく。 右も左も、体温が高い。窒息しそうだが、この上ない「守られている感」がある。
『(……くっ。……まあ、悪くない。ここなら風も来ないしな……)』
ジガルデは観念し、二匹の腹の隙間から鼻先だけ出して、幸せそうに目を閉じた。 その光景を見て、Fがビデオカメラを下ろす。 夕陽に照らされた、異種族・異チーム混成の「ポケモン団子」。
「……ふふっ」
Fの笑い声に、彼も振り返る。
「あはは、埋もれてますねジガルデ。助けなくていいんですか?」
「いいえ。彼はああ見えて、満更でもない顔をしていますよ」
Fは、ジガルデの寝顔をズームでモニターに映して見せた。 そこには、舌を少し出し、完全に脱力した「ただの犬」の顔があった。
「……彼はずっと、一人で世界の秩序を監視していました。誰かに寄りかかり、誰かに押し潰されるような『重み』を知らなかった」
Fはカメラを閉じ、ポケットにしまう。
「どうやら彼には、『帰る家』が二つできたようですね。……どちらかを選ぶ必要など、最初からなかったのです」
「……そうですね。いつでも会えますしね!」
「ええ。……というわけで、君。いつでも、ホテルZの私の部屋に来てもいいですよ?」
Fは、優雅にコートを翻し、とびきりの笑顔を向けた。 夕陽の中、彼とFと、そして一つの大きな家族となったポケモンたちの影が、長く長く伸びていた。