「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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F「なぜだ……なぜ世界は、私が最も憎む『醜悪』を愛でるのだ……」

ラシーヌ工務店バ美肉事業部、まさかの結末です。

1. ホロキャスターのセキュリティパッチ(強制)でタラゴンの中身がバレる
2. 老人の必死のウィンク(物理)が世界に拡散
3. ムッシュ・ピエールがそれを「現代アート」と誤読し、Fがモリエール賞を受賞
4. 勘違いした元フレア団(おっさん)が集結し、バ美肉劇団を結成

FおじさんのSAN値がゼロになるまでの記録。 最後はおっさん達の「萌え萌えキュン(野太い声)」で〆です。
Fさん、強く生きて……。


第19話:残念ですが、タラゴンのバ美肉がモリエール賞を受賞したため、Fは地獄の劇団長に就任してしまいました

 ラシーヌ工務店の資材置き場。ブルーシートで囲われた一角には、周囲の粗雑な風景とはあまりに不釣り合いな、高性能ホログラム配信機材とモーションキャプチャ用スーツが鎮座していた。通称、「第1スタジオ」。  配信開始15分前、午後4時45分。

 

「ヒャッハー! 見ろF先生! 昨日のスパチャ総額、過去最高じゃ!『カナリィちゃんの咳払いに魂(ソウル)を感じました』じゃと! ガハハ! あれは単に痰が絡んだだけじゃがの!」

 

 タブレットを覗き込みながら、タラゴン爺が下品な笑い声を上げる。  対するFは、眉間に深い皺を刻み、頭を抱えていた。

 

「……嘆かわしい。あまりにも嘆かわしい世界だ。痰が絡む音に『ソウル』を見出すなど……人間の感性はここまで退化してしまったのか」

 

「堅いこと言うな。結果が出とるんじゃ、これが『美』ってやつじゃろ?」

 

 バンッ! と、Fは激昂して機材デスクを叩いた。

 

「違うッ!! 断じて違う! 貴様が評価されているのは『美』ではない!『深淵』だ! 視聴者は、可憐なアバターの向こう側に透けて見える『得体の知れない生々しさ』を、現代アートのように誤読しているに過ぎん!」

 

 Fは血管が浮き出るほどに声を張り上げた。

 

「いいですか! タラゴン代表。今日の配信テーマは『ファンへの感謝』です。昨日教えた『ハートマーク』を作ってみろ!」

 

「おう、任せとけ」

 

 タラゴンはゴツゴツした指を無理やり曲げ、歪な形を作った。するとモニター上の美少女アバター『カナリィ』の指も連動するが、それは指の関節がありえない方向に曲がった、なにかの呪術的な印のような形になっていた。

 

「ストォオオオップ!! なんだその形は! それはハートではない!『心臓を握り潰す暗殺拳の構え』だ!」

 

「ええい、うるさいのう! ワシの指はハンマーを握るためにあるんじゃ! これでも精一杯『ラブリー』しとるわい!」

 

「その『ラブリー』という単語を口にするな! 寒気がする!」

 

 Fは指示を飛ばし続ける。肘の角度は35度、首を左に5度。あごを引きすぎれば二重あごがアバターに干渉してポリゴンが割れる。完璧な『美』への要求は止まらない。  タラゴンが裏声で「みんな~、愛してるゾ☆」と唸ると、Fはさらに頭を抱えた。

 

「……声のトーンが低い。地獄の底から響いてくるようだ。ボイスチェンジャーのピッチを上げろ。……ああ、なんで私がこんな……こんな『美しくない』作業を……」

 

 その時、ピロリン♪ とシステム警告音が鳴り響いた。

 

 画面の端に『【重要】ホロキャスター・システムアップデート通知(Ver. 9.0.1)』というウィンドウが表示される。『セキュリティ脆弱性対応のため、強制パッチを……』という文言。それは、『BaH-Vinique』が利用していたセキュリティホール『ポート・ジガルデ』を塞ぐためのものだった。

 

 だが、Fはそれに気づかなかった。彼の意識は、目の前の「地獄絵図」に釘付けになっていたからだ。

 

「あー、痒い。おいF、スーツのここ、蒸れるんじゃが」

 

 タラゴンが尻をボリボリとかく。連動して、画面の中の可憐な美少女がスカートの中に手を突っ込み、尻をかきむしる。

 

「やめろぉおおおお!! 貴様、アバター装着中に尻をかくなと言っているだろう! 物理演算がバグってスカートがめくれ上がっているぞ! 直せ! 今すぐ直すんだ!」

 

 Fはヒステリックに叫びながら、画面に出た警告ウィンドウを「×」ボタンで反射的に消してしまった。それが破滅の引き金だとも知らずに。

 

「ええい、邪魔だ! タラゴン、本番まであと5分しかないんだぞ!」

 

「わーっとるわ! ……よし、準備完了じゃ。今日もガッポガッポ稼ぐぞい!」

 

 Fは深呼吸をして、荒ぶる精神をどうにか落ち着かせた。

 

「……ふぅ。いいですか、タラゴン代表。今日は全世界同時接続のプライムタイムです。ミスは許されん。私の指示通りに動けば、少なくとも『放送事故』にはならんはずだ」

 

「F先生の指導(スパルタ)のおかげで、ワシも『美少女の心』が分かってきた気がするわい」

 

「……そうですか(絶対分かっていない目をしながら)。でしたら、証明してみせろ。では、回線接続。なりすまし用プロキシサーバー、安定。配信開始まで、3、2、1……」

 

 タラゴンが、歯のない口元でニチャァ……と笑う。

 

「ショータイムじゃ!」

 

 キラキラリーン♪ という軽快なジングルと共に、ストリーミングが開始された。  モニターの中では、Fの計算通りに『右斜め15度』で小首をかしげるカナリィが微笑んでいる。

 

『みんな~、こんばんはっ! 工務店系アイドル、カナリィだよっ♡ 待機しててくれてありがとー!』

 

 コメント欄が『キターーー!』『今日も声にドスが効いてて最高!』と爆速で流れていく。開始早々、一万円のスーパーチャットが飛び交った。

 

(今のところは順調だな……)

 

 Fが冷や汗を拭った、その時だった。

 

 ブブーッ!!  けたたましいエラー音と共に、Fの管理端末の中央に赤いポップアップウィンドウが表示された。

 

『CRITICAL ERROR: Authentication Failed』 『セキュリティパッチ未適用を検知。強制アップデートを開始します』

 

「なっ……!? なんだこれは!? 強制アップデートだと!? 待て、今は本番中だぞ!!」

 

 バシュン!!

 

 無情な音と共に、アバター表示ソフトが強制終了した。

 

「ん? なんか目の前のモニターが消えたぞ? F先生、どうなっとる?」

 

「いかん! アバターのドライバが落ちた! 接続を切るんだ! 今すぐ回線を……!!」

 

『外部カメラドライバ停止。内蔵バックアップカメラ(Webcam)に切り替えます』

 

「やめろぉおおおお!! バックアップは起動するなぁあああ!!」

 

 一瞬のブラックアウト。そして映像が復帰した。  しかし、そこにはキラキラしたステージも、美少女もいなかった。  映し出されたのは、薄暗い資材置き場。「安全第一」のポスター。そして――全身黒タイツのモーションキャプチャスーツに、センサー用のピンポン玉を体中に貼り付け、ボサボサのウィッグを被った、脂ぎった老人(タラゴン)。  4K画質のWebカメラは、老人の毛穴の黒ずみまで鮮明に世界へ届けてしまった。

 

 コメント欄が『?』『え?』『誰このおっさん』と混乱で埋め尽くされる中、Fは腰を抜かしかけていた。 「あ……あぁ……終わっ……」

 

 だが、タラゴンだけは気づいていなかった。

 

「F先生? 返事がないのう。まあいい、次は必殺技じゃったな。えーっと、『とびっきりのウィンク』……!」

 

 タラゴンはカメラに顔をグイッと近づけた。

 

「……みんなのハートを、釘打ちじゃ☆」

 

 タラゴンは「ウィンク」をしたつもりだった。だが、老化による筋力の衰えで片目だけを器用に閉じることなどできず、その表情は「両目をきつく瞑り、口元を梅干しのようにすぼめる」という、苦悶の表情そのものになっていた。

 

「えへっ☆(※ヌチャッ)」

 

『ギャアアアアアアアアアアアア!!!』 『目がぁああああああああ!!!』 『じじい!? カナリィちゃんの中身じじいなの!?』 『インターネットの闇を見た』

 

 至近距離のメインモニターで、ドアップの老人のキス顔を見てしまったFは絶叫した。

 

「ぐあああああああっ!! 目がぁあああああ!! 目がぁあああああ!! 私の網膜がァアアア!! 汚れるぅううう!!!」

 

「ん? なんじゃF、そんな大声出して。ワシの演技、バッチリ決まったじゃろ?」

 

 タラゴンはさらにカメラへ向かって投げキッスを連発する。

 

「やめろぉおお!! それ以上『美』を冒涜するな!! 配信停止だ! コンセントを抜け! ブレーカーを落とせぇええええ!!」

 

「何を慌てとるんじゃ! まだ『おねだりタイム』が残っとるぞ!」

 

 タラゴンが教わった通りの上目遣いをする。上目遣いすぎて、白目をむいているようにしか見えない。  Fは床を這いつくばりながら、魂の限り叫んだ。

 

「美しくなぁあああああい!!!!」

 

 ようやくFが電源ケーブルを引き抜き、世界を呪った配信は途切れた。

 

          ◇

 

 数日後。

 広場のベンチで、タラゴンは真昼からワンカップワインを啜っていた。その隣には、サングラスをかけ、膝を抱えて身を隠すように座る(しかし巨漢のため全く隠せていない)Fの姿があった。

 足元には、『カナリィの正体は妖怪・油すまし!?』『子供たちの夢、壊滅』『工務店、株価ストップ安』という見出しのタブロイド紙が風に舞っている。

 

「……終わったのう。ラシーヌ工務店、創業以来の危機じゃ。キャンセル電話が鳴り止まん。おいF、どうしてくれるんじゃ」

 

「……私は言ったはずだ。あんな『美しくない』虚像など、いつか破綻すると……」

 

 Fは亡霊のように呟いた。

 

「あのウィンク……あの醜悪な『両目つぶり』が、毎晩夢に出てくるのだ……。私の網膜には、まだ貴様の毛穴の配置が焼き付いている……」

 

「うるさいわい! ワシはF先生の教え通り『愛』を込めたんじゃ! それがなんで『精神的ブラクラ』扱いされなきゃならんのじゃ!」

 

 ピロリロリン!

 

 その時、広場の巨大ホログラムビジョンが切り替わり、ニュース速報が流れた。

 

『速報です! 先日の放送事故により世界中を震撼させた、通称「カナリィ・ショック」。この件に関し、カロス芸能界のトップオブトップから、信じられない声明が発表されました!』

 

「……なんだ? まだ私を苦しめる気か……」

 

『トライポカロン主催者にして、カロス芸術協会の理事! ムッシュ・ピエール氏です!』

 

 画面には、シルクハットを被り、クレッフィのついた杖を優雅に構えるムッシュ・ピエールが大写しになった。

 

『ボンソワール(Bonsoir)、ミナサーン! あの映像を、ただの「放送事故」だと思って嘆いてはいませんか? ノン、ノン(Non, non)! 嘆かわしいのは、貴方達の“見る目”がないことデス!』

 

「……あいつ、何を言っている?」

 

 ピエールは杖を一回転させ、バシッとカメラを指差した。

 

『あれこそが、カロス演劇界が待ち望んでいた「現代演劇の極致(Masterpiece)」なのです! さあ、もう一度ご覧ください。ス・マニフィーク(C'est magnifique)!』

 

 画面には、タラゴンのあの瞬間――両目をつぶり、梅干しのような口でキス顔をする地獄の映像が流された。あろうことかスローモーションかつモノクロ加工され、背景には荘厳なクラシック音楽が流れている。

 

『あえて「美少女」という虚構(ヴァーチャル)の皮を剥ぎ取り、その下に潜む「老い」という真実(レアル)を残酷なまでに突きつける……。そしてあの、未完成なウィンク! 左右非対称の歪み! あれは、「見たくない現実から目を背ける現代社会」への痛烈な風刺(イロニー)なのです!』

 

 ジャラララン!

 

 杖の先のクレッフィが得意げに鍵を鳴らす。

 

『私の鍵(クレッフィ)をもってしても、この心の扉は開け放たれた! これぞ、トレビアン(Très Bien)ッ!!』

 

「……え? ワシのウィンク、そんな深い意味あったっけ?」  タラゴンがポカンと口を開ける。

 

「あるわけなかろう!! あれは単に、貴様の眼輪筋が衰えて引きつっていただけだ!! やめろピエール! そのデタラメな解説をやめろ!!」

 

『この批評を受け、選考委員会は満場一致で決定しました! カロス演劇界の最高栄誉、「モリエール賞(最優秀デジタル・アヴァンギャルド部門)」の受賞者は……! その演出を行った、謎の指導者……ムッシュ・F(エフ)!! 貴方デス!!』

 

 画面には『F氏(演出・指導)』の文字と、隠し撮りされたFの顔写真(コンビニで買い物をしている時の気の抜けた顔)がデカデカと映し出された。

 

「…………ッ!?」

 

『ムッシュ・F! 貴方の演出は、「美」とは何かを我々に問いかけました。貴方は「美しくないもの」をあえて提示することで、逆説的に真の美を定義したのデス。さあ、授賞式(ガラ・パーティー)の準備を! シルブプレ!!』

 

 広場の人々がざわめき出した。

 

「すげえ……あれって芸術だったのか……」

 

「ピエール様が言うなら間違いないよな」

 

「Fって天才演出家なんじゃね?」

 

 パチパチパチ……と拍手の輪が広がっていく。Fはサングラスがずり落ちるほど目を見開いていた。

 

「ふ、ふざけるな……。ふざけるなァアアアア!!!」

 

「F先生! やった! やったぞ!! 賞金だ! これで借金が返せる! いや、ピエールのお墨付きなら講演依頼が殺到するぞ! ワシら、時代の最先端じゃったんじゃな! ガハハ!」

 

「触るな!! これは事故だ! ただの薄汚い老人の、失敗したウィンクなんだぞ!? ピエール! 貴様も貴様だ! なぜだ……なぜ世界は、私が最も憎む『醜悪』を、最高の『芸術』として称えるんだ!!」

 

 Fはプリズムタワーの輝きに向かって、両手を広げて絶叫した。

 

「こんなものは『演劇』ではない!! こんな評価は……美しくなぁあああああああい!!!!!」

 

 Fの魂の叫びは、皮肉にも「受賞の喜びを表現する情熱的なパフォーマンス」として、広場の人々から万雷の拍手で迎えられたのであった。

 

          ◇

 

 そして、カロスのとある某所。狭いコンテナハウス内に、冷凍食品のラザニアの容器が散らばっていた。

 

「……おい、見たか。ニュースだ。F代表……いや、フラダリ様が……!」

 

 元したっぱAがスマホを凝視し、震える声で言った。  元したっぱBが、古いテレビ画面に映るピエールの解説を見つめる。

 

「あぁ……『美しくないものを提示し、真の美を定義した』……。なんだ、この胸の昂りは。俺たちが信じていた赤いスーツは、間違いじゃなかったんだ!」

 

 深夜の工事現場で警備をしていた元したっぱC(巨漢・剛毛)は、ヘルメットを脱ぎ、脂ぎった顔を月光に晒した。

 

「俺たちは、フレア団が解散してから、世間からゴミのように扱われてきた。『不細工なおっさん』『元テロリスト』……。だが、F様はあのタラゴン爺を使って証明してくださったんだ」

 

「そう……『肉体はただの器に過ぎない。魂さえ美少女になれば、俺たちも輝ける』と!」

 

「『醜』による『美』へのアンチテーゼ……。つまり、この醜い脂肪も、青い髭も、F様の魔法(バ美肉)にかかれば、最高の芸術(美少女アバター)へのスパイスになるということだ!」

 

「「「トレビアン……っ!!(涙)」」」

 

 彼らは自宅へ戻り、クローゼットの奥から、カビの臭いがする赤いスーツを取り出した。

 

「これを着る日が、また来るとはな」

 

「ああ。だが今度の敵は世界じゃない。俺たちの『醜い現実』だ」

 

 元したっぱCが、剛毛をむき出しにしてスーツのボタンを無理やり留めた。パツパツだ。

 

「行くぞ。F団長のもとへ! 俺たちを、俺たちの魂を、美少女にアップデートしてもらうんだ!」

 

 カロス各地に潜伏していた、赤いスーツを着た――しかしどこか生活感に溢れたむさいおっさん達が次々と湧き出してくる。  彼らの手には、自分たちで描いた「理想の美少女」のラクガキや、手作りのVRゴーグルが握られていた。  ザッ、ザッ、ザッ……。軍靴ではなく、安物の靴がアスファルトを叩く音が響く。

 

「合言葉は?」

 

「「「美しくないィイイイイイイ!!!」」」

 

「待っていてください、F団長……!」

 

          ◇

 

 夕日が差し込むラシーヌ工務店資材置き場。Fは機材の撤収作業を行っていた。

 

「おいF! どこへ行く気じゃ! ムッシュ・ピエールからの招待状が来とるんじゃぞ! 授賞式に出れば、出演料で借金がチャラじゃ!」

 

「断る! 断固として断る! あんな晒し者の席に出られるか。私はほとぼりが冷めるまで、カロスを……いや、地方外へ高飛びする」

 

「逃がすか! お前がおらんと、次の『地獄の特訓』ができんじゃろが!」

 

「二度とやらん! 貴様の顔を見るのも嫌だ!」

 

 と、ここで屋外から、地響きのような足音が響いてきた。

 

 ズズズズズ……。

 

 風に乗って、「F様……」「団長……」「輝きを……」等の呟きも聞こえてくる。

 

「……なんだ? この不快な重低音は」

 

「客か? まだ営業時間は……うおっ!?」

 

 資材置き場の入り口から、真っ赤な奔流が雪崩れ込んできた。  それは、かつてフレア団支給品だった赤いスーツを身にまとった――しかしサイズが合わず腹が出ている――数百人のおっさん達だった。

 

「「「F様(団長)ぉおおおおおおお!!!」」」

 

「ひっ……!? き、貴様らは……元団員たち!?」

 

 元したっぱAが、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてFの足元に滑り込んだ。

 

「お会いしとうございました……! 我々を見捨てず、新たな『道』を示してくださるとは……!」

 

「道? 何の話だ! 私は貴様らと関わるつもりは……」

 

「とぼけないでください!」元したっぱBが安っぽいVRゴーグルを掲げる。「ピエール様の解説で全て理解しました!『醜い肉体を捨て、魂を電子の海でメガシンカさせる』……これこそが、F様が目指した新たな『美しい世界』なのですね!?」

 

「違う! 全く違う! あれはただの放送事故だと言っているだろう!!」

 

「ご謙遜を! 見てください、F様のために用意した、私の『受肉体(アバター)』を!」

 

 元したっぱCがスケッチブックを突き出す。そこには、筋肉隆々の巨人がフリフリの魔法少女の服を着ている、地獄のような下手くそな絵が描かれていた。

 

「設定は『ドジっ子魔法少女・マジカルゴリラちゃん(5歳)』です! F様の指導で、私を……この汚い私を、萌えの極致へ導いてください!!」

 

「寄るな! その絵を近づけるな! 吐き気がする! その剛毛で魔法少女だと!? 美学のかけらもない!!」

 

 カオス極まる状況で、タラゴン爺だけが冷静に電卓を弾いていた。

 

(……なんじゃこのむさ苦しい連中は。じゃが……人数がおる。一人頭のレッスン料と、配信の投げ銭マージンを計算すると……億越えじゃ!!)

 

 チャリーン!

 

 タラゴンの脳内で計算が完了した。彼は積み上がったパレットの山の上に立ち上がり、高らかに演説をぶった。

 

「よぉーし、お前ら! よく来たな! このラシーヌ工務店バーヴィニック事業部が、お前らの夢(妄想)を叶えてやるわい!」

 

「うおおおおお! さすがF様のパートナー!」

 

「本日をもって、貴様らは『劇団フレア・ルネサンス』の旗揚げメンバーじゃ! そして、その総監督こそが……ここにいるF団長じゃあ!!」

 

「勝手に決めるなタラゴン!! 私は絶対に認めんぞ! こんな……こんな地獄の釜の底のような劇団など!!」

 

「団長が照れてらっしゃるぞ! さあ、まずは我々の『可愛さ』を見ていただきましょう! 整列ゥ!!」

 

 バッッ!!  号令に合わせ、おっさん達が軍隊のような規律で整列する。Fは顔を覆った。

 

「やめろ……やめてくれ……」

 

「構え!『おねだりポーズ』!!」

 

 数百人のむさい男たちが一斉に、内股になり、両手を顎の下で組み、首を傾げた。関節がバキバキと鳴る音が響き渡る。

 

「「「にゃん♡ にゃん♡ にゃお~ん♡(※デスボイス気味)」」」

 

 ……走馬灯のように、かつての記憶が蘇る。

 

 美しい炎。選ばれた者だけの世界。高潔な理想……。  それがどうだ。目の前にあるのは、加齢臭と、よれたスーツと、地獄のような裏声……。

 

 Fは膝から崩れ落ちた。

 

「……私が求めたのは、こんな世界だったのか……? 私の『美』は……どこへ……」

 

「団長! 次は『萌え萌えキュン』の練習ですか!?」

 

 Fの中で何かが限界突破した。彼は空に向かって、喉が張り裂けんばかりに絶叫した。

 

「こ、こんな……こんな劇団は……!! 美しくなぁあああああああああああい!!!!!」

 

 ドガァアアアン!!

 

 Fの絶叫が衝撃波となり、資材置き場の材木が崩れ落ちる音が響いた。

 

「いい声じゃ! それを劇団の『こけら落とし』にするぞ! さあ野郎ども、練習再開じゃあ!!」

 

「「「イエッサー、団長!!」」」

 

 こうして、世界一美しくない劇団「フレア・ルネサンス」は爆誕した。  F団長の苦悩と絶叫が止む日は、当分来ないであろう。

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