「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!! 作:をよよ
【あらすじ】
ミシュラン剥奪の汚名を返上するため、Fはマダム・ユカリの助言で「アンドゥイエット(激臭ソーセージ)」を用いた昼食会を開催。
マードック、AZ、ジェット、ローズら要人を招き、正統派フレンチの力を見せつけようとしたのだが……。
▼本日の地獄メニュー
・メイン:アンドゥイエット(公衆トイレの香り)
・デザート:アンドゥイエット・マカロン(見た目はゆめかわ、匂いは悪魔)
▼地獄の反応
AZ(3000歳の王) 「懐かしい……これは古代の珍味『悪魔の糞』の香りじゃ!」
ローズ&ジェット 「ブラボー! この臭さこそパワー!」
マードック 「 (鼻栓装着)二度と俺に関わるな」
▼結末
フレア団ヌーヴォの科学力により、悪臭成分を濃縮したマカロンが量産決定。
カロスのお洒落なイメージは、Fの手によって完全に破壊されてしまいました。
(追伸:マードックさんの赦しを得るどころか、歴史的テロリスト認定されました)
ホテル・シュールリッシュの最上階。
ティーラウンジの窓の外には、穏やかで美しいミアレシティの風景が広がっていた。しかし、その特等席に座る男、Fの周囲にだけは、視界を遮るほどのどんよりとした雨雲が立ち込めているようだった。
カチャリ、と硬質な音を立ててティーカップがソーサーに戻される。その指先は、小刻みに震えていた。
「……ユカリさん。聞いてください……。ホテルZは、もはやホテルと呼べる場所ではありません」
Fの絞り出すような声に、対面に座るユカリが心配そうに眉を寄せる。
「F様……。お顔色が優れませんわ。まるで『どくどく』を浴びた後のポケモンのよう……」
「ええ、毒です。……『ビネガー』という名の毒と、『酸化した油』という名の猛毒に侵されました」
Fは虚ろな目で天井を仰いだ。そこにあるはずのシャンデリアの輝きさえ、今の彼には届かない。
「今のホテルZは、ガラル料理のテーマパークと化しました。ロビーには常に微かな魚臭さが漂い、客は『映え』のためだけに、あの不気味なパイを撮影しに来るのです……」
「まあ、なんて嘆かわしい……! あの気高く美しいF様の聖域が、そのような蛮族の宴会場に成り下がるとは!」
「あまつさえ、ミシュランのマードック氏には『ガラルに魂を売った』と見限られ、星(グリーンスター)を剥奪されました。……私はもう、料理人として再起不能(リタイア)です……」
頭を抱え、テーブルに突っ伏さんばかりのF。 その悲痛な独白を遮るように、バシッ! と小気味よい音が響いた。ユカリが持っていた扇子でテーブルを叩いたのだ。
「お立ちなさい、F様! そこで『ひんし』状態で甘んじていてはいけませんわ!」
「ユカリさん……?」
「ポケモンバトルと同じですわ! 相性が悪い相手に押し負けているなら、さらに強力な技でねじ伏せればよいのです!」
ユカリの瞳が、バトルの時と同じくギラギラと輝き出す。嫌な予感がFの背筋を走った。
「ねじ伏せる……?」
「ええ。今のF様に貼られた『ガラルの犬』というレッテル。これを剥がすには、生半可なカロス料理では足りません。相手の記憶を上書きするほどの、『超・攻撃的(アグレッシブ)なカロス料理』をぶつけるのです!」
「超・攻撃的……。しかし、そんな料理が……」
「ありますわ。……『アンドゥイエット』です」
Fは目を見開いた。
アンドゥイエット。豚の腸を用いた、カロス地方の伝統的なソーセージだ。しかし、その料理には致命的な特徴がある。
「……豚の腸詰めですか? 確かに伝統料理ですが、あれは……その……」
「ええ。『香り』が強烈ですわね。初心者(ビギナー)は鼻をつまんで逃げ出すほどの、あの野性味溢れる芳香……」
「芳香というか、率直に言って『トイレの臭い』に近いですが……」
「だからこそですわ!!」
ユカリは立ち上がり、力説した。
「ガラル料理の『泥臭さ』や『生臭さ』など、アンドゥイエットの放つ『生命の悪臭(オドゥール)』の前では赤子も同然! この圧倒的な『カロスの本気(臭い)』を見せつければ、ローズ委員長たちも格の違いを思い知り、マードック氏も『これぞ伝統への敬意!』と涙して赦しを請うはずです!」
毒を以て毒を制す……いや、悪臭で悪臭を消すのか? 理論としては破綻している気がする。だが、今のFには、藁にもすがる思いしかなかった。
「幸い、私にはコネクションがあります。AZ様、チャンピオンのカルネ様、そして諸悪の根源であるガラルの方々……全員まとめて招待状を送りましょう。名付けて『カロス・ガラル食の頂上決戦(サミット)』!」
「サミット……」
「ええ! 私が主催します。F様はただ、最高に臭くて、最高に美味なアンドゥイエットをご用意くださいませ!」
ユカリの熱気に押され、Fの目に徐々に光が戻る。 そうだ。逃げていてはダメだ。私は『本物』を叩きつけることでしか、尊厳を取り戻せない……!
「……ありがとう、ユカリさん。貴女は私の勝利の女神だ」
Fは立ち上がり、決意に満ちた表情で窓の外を見た。
「見ていろ、マードック氏。そしてガラル人たちよ。……私の『腸(ガッツ)』を見せてやる!」
その時、二人の背後には勝利のフラグ……ではなく、破滅へのフラグが盛大に立ち昇っていたことに、Fだけが気づいていなかった。
◇
数日後。
ホテルZの特別宴会場「ラ・ヴィ・アン・ローズ」。
最高級のクリスタルシャンデリアが輝くその空間は、しかし、異様な緊張感に包まれていた。ピュールをはじめとする給仕係たちの顔色は悪く、誰も彼もがガスマスクをつけたがっているように見える。
「皆様。本日はご多忙の中、この『カロス・ガラル食の頂上会談(ランチ・サミット)』にお集まりいただき、感謝の極みです」
「……Fさん。挨拶は短めで頼むよ」
マードックが露骨に時計を見ながら言った。
「俺はあんたの『ガラルかぶれ』に愛想を尽かしたんだ。……まともな料理が出るなら、話くらいは聞いてやるが」
「ふふ、ご安心くださいマードック氏。……先日までの『ガラル・フェア』は、あくまでエンターテインメントとしての余興。私の本意ではありません」
「なんだって? あれは最高だったじゃないか! 『マッシー・ピー』の喉越し、今でも忘れられんよ!」
空気を読まないローズの賛辞を笑顔でスルーし、Fは胸を張った。
「……これより皆様にご提供するのは、我がカロスの真髄。歴史と伝統、そして何より『強烈な個性』を秘めた、内臓料理の王様です!」
「さあ皆様! ハンカチのご用意を! カロスの本気に、涙することになりますわよ!」
ユカリの煽りに合わせ、Fが高らかに宣言する。
「それでは……オープン!!」
Fが指を鳴らすと、円卓を囲むピュールたちが、一斉に目の前の銀のクロッシュ(ドーム蓋)を持ち上げた。
パカッ!
その瞬間だった。 シュゥゥゥ……と、湯気と共に解き放たれたのは、料理の香りなどという生易しいものではなかった。 アンモニア臭、獣臭、そして古い公衆トイレのそれに近い、発酵した腸の強烈な芳香が、部屋中を暴れ回る。
「ぐほぁっ!!?」
マードックが反射的に椅子を蹴ってのけぞり、ナプキンで鼻と口を強く押さえた。
「……な、なんだこれ……!? 毒ガスか!? 換気扇が壊れてるのか!?」
「……ッ! ……こ、これはまた……随分と……主張の激しい香りね……」
カルネも素早く扇子で口元を隠すが、眉間の深いシワまでは隠せていない。 阿鼻叫喚の地獄絵図。しかしFは、両手を広げて恍惚の表情を浮かべていた。
「吸い込んでください! これぞ『アンドゥイエット(豚の腸詰め)』! 丁寧に下処理をしても尚、溢れ出てくるこの生命の香り! これこそがカロス料理の深淵なのです!」
「ふざけるなFッ!!」
マードックがバン! と机を叩く。
「俺を呼んでおいて何の嫌がらせだ! 店が魚臭いのが収まったと思ったら、今度は『トイレの臭い』で上書きする気か!? 正気じゃねえぞ!」
「トイレとは失礼な! この香りは、数種類のスパイスとワインで煮込まれた……」
Fが反論しようとしたその時、大きく鼻から息を吸い込む音が響いた。
「……すんばらしいッ!!」
「……え?」
Fとマードックが同時に声の主――ローズを見た。
ローズは、うっとりとした表情で天井を仰いでいるではないか。
「……おお、鼻腔を突き刺すこの刺激! ガラルの『ウナギのゼリー』にも通じる、飾らない野性味! まさに『ありのままの豚』だ! 素晴らしいエネルギーを感じる!」
「本当ね……。最近のカロス料理は、消臭と殺菌ばかりで『生き物』を食べている気がしなかったけれど……。これは違うわ」
ジェット社長も、臭いに顔をしかめるどころか、むしろ興奮した様子でナイフを手に取っている。
「この腐敗一歩手前の発酵臭……。これぞ『命を頂く』という厳粛な儀式の香り。……Fさん、貴方、やっぱり天才ね」
「……あ、あんたら、鼻イカれてんのか? 臭いぞ? 単純に、ものすごく臭いぞ?」
ポカーンとするマードックに対し、ユカリが高笑いする。
「おーほっほ! お分かり頂けましたか! この高尚な香りが分からないなんて、マードック様はお子様ですわね!」
「……ああん?」
マードックの額に青筋が浮かぶ。 一触即発の空気。Fの背中を冷や汗が伝う。
「……ま、待ってください。ローズ委員長たちが喜んでいるのは計算外ですが、マードックさん、これは本当に伝統的な……」
「……………………」
その時。それまで彫像のように動かなかった巨人のAZが、皿を凝視したまま、ゆっくりと口を開いた。
「……匂う……」
「お、オーナー……?」
「……懐かしい……。3000年の時を超え……まさか、この香りに再会できるとは……」
見ると、AZの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちているではないか。
な、泣いている!? 感動……なのか!?
カオスと悪臭が支配する円卓で、Fの起死回生の策は、予想の斜め上を行く方向へと転がり始めていた。
全員がナイフとフォークを動かし、その独特な腸詰めを口へと運ぶ。 モニュ……クチャ……という咀嚼音が、静寂の中に響く。
「……ッ……! ……いつまで経っても噛み切れない……」
マードックが苦悶の表情で呻いた。
「飲み込むタイミングが見つからない……。そして噛むたびに、鼻の奥で牧場の堆肥(コンポスト)が爆発する……!」
たまらず水を一気飲みするマードック。
「……ダメだ。俺の許容範囲を超えてる。……Fさん、あんた完全に味覚が壊れちまったんだな。ガラル料理の後は、スカンタンクの分泌液でも混ぜたのか?」
「し、失礼な! これは豚の腸本来の香りです! 噛めば噛むほど味が出る、通好みの……」
「……ええ、とても……野性味溢れるお味ね。……飲み込むのが惜しいくらい、ずっと口の中に残るわ……(早く飲み込みたい)」
カルネの声も震えている。
カルネ様まで……! クソッ、やはり現代人の軟弱な舌には早すぎたか……!?
Fが絶望しかけた、その時だった。
「……………………おお……………………」
AZが、腹の底から響くような重低音の嘆声を漏らした。
「お、オーナー?」
「……今……完全に思い出した……。この、鼻腔を蹂躙し、脳髄を痺れさせるような……強烈な『腐敗の香り』……」
「(ふ、腐敗と言わないでください! 発酵です!)」
心の中でツッコミを入れるFを無視し、AZは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「……間違いない。これは……3000年前、古代カロスの王侯貴族だけが食すことを許された、幻の珍味……『貴糞石(メルド・デュ・ディアブル)』じゃ……」
「「!?」」
「……は? 今なんて?」
マードックが素っ頓狂な声を上げた。Fも顔面蒼白になる。
「く、糞……の……石……!? いえ、オーナー、これはアンドゥイエットという伝統料理でして、決してそのような冒涜的な名前では……」
「……当時、この強烈な悪臭は『悪霊さえも退散させる聖なる香り』と信じられておった。……あまりの臭さに、庶民は鼻を覆って逃げ出し、選ばれし強き王のみが、この『毒』を喰らって力を示したのじゃ……」
AZは完全に自分の世界に入っていた。
「素晴らしいッ!!」
バン! とテーブルが叩かれる音に、Fは「ひいっ!」と悲鳴を上げた。
「聞いたかねF君! ジェット! やはり私の直感は正しかった! 『臭い=王の証』! 『マズイ(強烈)=強さの証明』なのだよ!」
「ええ。現代人が忘れてしまった『選ばれし者の特権』ね。……この料理には、3000年の歴史と王の威厳(と排泄物の臭い)が詰まっているのね」
「……Fよ。礼を言うぞ。余は、この香りを再び嗅ぐことが悲願であった。……亡き母も、友も、皆この臭いを纏っておった……」
「(感動的な話っぽくしてるけど、全員臭かったってことですよね!?)」
感動するAZ、興奮するローズ、ドン引きするマードック。 Fの脳内処理能力は限界を迎えていた。
「……待ってくれ。歴史的価値は認めるが、『高貴な糞の石』なんて直球すぎる名前の料理を、現代に復活させていいのか? 食品衛生法的にどうなんだ?」
「あらマードック様! オーナーのAZ様がお認めになったのですわ! これぞ『真のカロスの伝統』! F様は歴史の発掘者(アーケオロジスト)ですわ!」
「うむ……。普及せよ、Fよ。……余の名において命ずる」
AZが立ち上がり、巨体から王の覇気を放った。
「カロス全土に、この『高貴なる悪臭』を満たせ! 軟弱な現代人に、古代の王が愛した『真実の香り』を教えるのじゃ!」
「……え?」
Fが白目を剥く。
「賛成だ! マクロコスモス社も出資しよう! ガラルの『ウナギ』と、カロスの『高貴な糞の石』! 同盟を組んで世界中の鼻をへし折ってやろうじゃないか!」
「(やめて……。私の美が……。排泄物という名の歴史に飲み込まれていく……)」
スッ……と、マードックが静かに席を立った。
「……Fさん。俺は帰る。……あんたが『貴糞石』の伝道師になりたいなら止めはしないが、俺はパスだ」
「ま、待ってくださいマードックさん! 誤解です! 私はただ、美味しいソーセージを……!」
Fの叫びも虚しく、その時、部屋の扉が勢いよく開かれた。
バンッ!!
「お待たせいたしました! ボス……いえ、F様! そしてオーナー!」
乱入してきたのは、オレンジ色のスーツを着た二人組――フレア団ヌーヴォのグリとグリーズだった。
「我々フレア団ヌーヴォ、科学の粋を集め、オーダーの品を完成させました!」 「グ、グリ!? グリーズ!? なぜ君たちがここに……!?」
ギョッとするFに対し、ユカリが扇子で口元を隠し、優雅に微笑む。
「あらF様。私が手配いたしましたの。AZオーナーが愛したこの『香り』をカロス全土、いえ世界へ広めるには、貴方様の忠実な部下(科学者)の力が必要不可欠ですもの」
「(余計なことをォォォッ!!)」
「マダム・ユカリから緊急要請を受け、我々は『アンドゥイエット』の成分分析を徹底的に行いました!」
グリが胸を張って叫ぶ。
「その結果、この強烈なアンモニア臭と発酵臭の元となる成分……スカトールやインドールといった『芳香分子』の高純度抽出に成功!」
「(やめろ! その成分名を口にするな! 食事の席だぞ!)」
「そして! 現代カロスの象徴であり、若者に大人気の『アレ』と融合させることで、この『貴糞石』を、手軽に持ち運べる『ポップな文化』へと昇華させたのです!」
グリーズが続ける。
「ご覧ください! これぞカロスとガラル、伝統と科学のハイブリッド!」
二人が恭しくワゴンを押してくる。その上には、可愛らしいピンクやグリーンのパステルカラーの小箱が積まれていた。
「『アンドゥイエット・マカロン ~悪魔の口づけフレーバー~』です!!」
パカッ、と箱が開けられた瞬間。
見た目は、とろけるように可愛らしい「ゆめかわいい」マカロン。しかし、そのクリームからは、先ほどのソーセージを100倍濃縮したような、鼻が曲がるほどの激臭が漂い出した。
「……嘘……でしょう……?」
カルネが持っていた扇子を取り落とす。
「……スイーツ(笑)の概念が……壊れる……」
マードックは白目を剥き、椅子から崩れ落ちそうになった。
「……マカロン……? それが……マカロンだと……?」
Fは絶句した。
美しく丸いフォルム。繊細なピエ。それが今、生物兵器と化している。
「素晴らしいですわ! 見た目は『映え』、香りは『野獣』! これなら若い女性も『キモカワ』感覚で手に取れますわ!」
「(取らないよ! 絶対に取らないよ! テロ物質だよ!)」
「おおっ! 素晴らしいイノベーションだ! 早速いただこう!」
ローズは、躊躇なくピンク色のマカロンを口に放り込んだ。
サクッ……。
「……んんッ!!」
「(どうだ! さすがに甘さと便臭の組み合わせは吐き出すだろう!)」
期待するFの前で、ローズはカッと目を見開いた。
「革命的だッ!!」
「……は?」
「サクッとしたアーモンド生地の甘い口溶け……その直後に、脳天を直撃する牧場のトイレの香り! 甘さと臭さが口の中で殴り合っている! これは『味覚の格闘技』だ!」
「本当ね……。見た目の愛らしさに油断した瞬間に、鼻腔をレイプされるような衝撃……。この裏切りこそが、現代アート(前衛芸術)よ」
ジェットも優雅につまんで同意する。
「……うむ。……これぞ『持ち運べる貴糞石』じゃ。……余の時代にこれがあれば、戦場での保存食として兵士の士気を高められたであろう……」
AZはマカロンを愛おしそうに眺めている。
「(兵士の士気が下がると思います!)」
「好評いただき光栄です! すでに量産プラントの設計は完了しています!」
「ミアレ中のパティスリーにレシピを強制配布……いえ、提供し、明日からカロス中のショーケースをこの『悪臭マカロン』で埋め尽くします!」
「おーほっほ! やりましたわねF様! これで『ガラルに魂を売った』なんて誰も言いませんわ! 貴方様は『カロスの新たな扉を開いた先駆者』ですわ!」
ガタガタと震えだすFの肩に、ローズが手を置いた。
「F君! このマカロン、我が社で100万個買い取ろう! ガラルの全社員に配給だ!」
「(違う……。マカロンとは……もっと繊細で……紅茶の香りを引き立てる……儚いお菓子のはずだ……。なぜ……なぜ私の周りでは、美しいものがすべて『兵器』や『汚物』に変換されていくんだ……)」
「クエーサー社も乗るわ。宇宙食として開発しましょう。真空の宇宙でも、この臭いなら故郷(地球の泥)を思い出せるもの」
「(魂が口から抜け出ていく)」
そこへ、マードックがスッ……と近づいてきた。 無言でFの肩を叩く。その目は、深く憐れんでいた。
「……Fさん。……もう何も言うな。……あんたは、触れるものすべてを『混沌』に変える呪いでも受けてるのか?」
マードックは鼻栓を深く押し込むと、逃げるように退室していった。 残されたのは、狂喜するローズたちと、ピンク色の悪臭を放つマカロン。
Fは、声にならない悲鳴を上げながら、その地獄の光景を見つめた。
「……解せぬ!!……解せないぞぉおおおおおお!!!!」
Fの絶叫は、ローズとジェットの「おかわり!」という歓声にかき消され、甘くて臭い地獄の宴は続くのであった。