「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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※閲覧注意(アテンション)
※本作品は、これまでの「バ美肉」シリーズの完結編です。以下の成分が致死量含まれます。

・F(フラダリ)の尊厳破壊&胃袋破壊
・カロス王AZの極度なキャラ崩壊(幼児退行・バカップル化)
・物理的な放送事故
・食事中には適さない描写(金気のある〇ンコ味のマカロン)

「美しくない世界など見たくない」という方は、直ちにブラウザバックをお願いします。
「世界の終わりを見届けよう」という奇特な方は、覚悟を決めてお進みください。

【あらすじ】
ラシーヌ工務店のバ美肉事業は、ついに孫娘カナリィ(本人)を巻き込み、新たなフェーズへ。
しかし、Fの期待も虚しく、カナリィもまた「物理法則を無視した音痴」であった。

二人の不協和音が生み出したノイズは、あろうことか「最先端のアート」として評価され、Fはカロス最高の音楽賞を受賞してしまう。 そして迎えた授賞式ライブ。 タラゴンの暴走が生んだ「地獄のシンフォニー」は、眠れる古代兵器(アンジュ・フラエッテ)を叩き起こし、世界を滅亡の淵へと追いやる。

絶望するFの前に現れたのは、伝説の王・AZ。 しかし、彼が手にしていたのは「王の剣」ではなく、「貴糞石(悪魔の糞)」を練り込んだ仲直りマカロンだった――。


第22話:残念ですが、タラゴンとカナリィのバ美肉地獄配信がフラエッテを暴走させ、AZ王が悪臭マカロンで世界を救ってしまったので、Fの美学は崩壊しました

 その日、ラシーヌ工務店の第一スタジオには、かつてない緊張と、それを上回る安堵の空気が漂っていた。

 「カナリィ・ショック」から、モリエール賞受賞、そしてバ美肉劇団の創設騒動のドタバタを経て、ようやくこの日を迎えたのだ。

 時刻は二十時。特別企画『カナリィ(中身)&カナリィ(本人)の夢のデュエット配信』の開始直前である。  配信機材が山と積まれたスタジオ内で、Fことフラダリは、震える手で最後のケーブルを接続した。

 

「……ようやく。ようやく『本物』の声を届けられる」

 

 あの日、「カナリィ・ショック」が世界を襲ってからというもの、Fの網膜と鼓膜は破壊され続けてきた。タラゴンの妙に生々しい演技と、物理法則を無視した音痴によって。  だが、今日は違う。孫娘であるカナリィ本人が参加するのだ。  Fは振り返り、画角の最終調整を行いながら、背後の老人に念を押した。

 

「……いいですか、タラゴン代表。これが最後の賭けです。貴方のその……『物理法則を無視した喉』は、私の技術をもってしても制御しきれませんでした。しかし! 孫娘のカナリィさんは違うはずだ。彼女は若く、現代の音楽に触れて育った。多少の未熟さはあれど、貴方のような『音響テロ』にはならない……そう信じています」

 

「F先生、心配性ですな! ワシの孫ですぞ? 才能の塊に決まっておる!」

 

 タラゴンは豪快に笑い飛ばすと、スタジオのドアに向かって声を張り上げた。

 

「おーい、カナリィ! 出番じゃぞー!」

 

 ドアが開き、気だるげな空気を纏った少女が入ってくる。  本物のカナリィだ。彼女はガレットをモグモグと咀嚼しながら、Fに片手を上げた。

 

「うぃーっす。あ、Fさん、よろ~。てか、マジで歌うの? ウチ、カラオケとかノリでしか歌わんけど」

 

「『ノリ』……それで十分です。リズム感さえあれば」

 

 Fは努めて冷静に答えた。多少の不安はあるが、あの祖父より悪化することはありえない。それに、今日の彼は秘策を用意していた。

 

「安心してください。今回は私の最高傑作、『リアルタイム・ピッチ補正ボコーダー Symphonium Aurea "Vif"(シンフォニウム・アウレア・ヴィフ)』を導入しました。多少音程がズレても、機械が強制的に『正しいドレミ』に補正し、Perfumeのような美しいケロケロ声(ロボットボイス)にしてくれます」

 

「へー、便利じゃん。じゃ、テキトーにやるわ」

 

 テキトー。その言葉に一抹の不安がよぎるが、Fは首を振って雑念を払った。  時間だ。  配信開始のランプが灯る。モニター画面には、3Dアバターの美少女カナリィ(中身タラゴン)と、2D立ち絵のカナリィ(本人)が並んで表示された。

 

『みんな~! こんカナ~☆ 今日はなんと! リアル・カナリィちゃんとの夢の共演だよっ!』

 

『どーもー。リアルの方でーす。よろ』

 

 コメント欄が瞬く間に加速する。

 

『ご本人登場!?』『喋り方のギャップw』『じいじ(中身)の方がアイドルしてるの草』

 

 反応は上々だ。Fは心の中で小さくガッツポーズをした。

 

(よし、掴みはいい。バックトラック再生……スタート!)

 

 アップテンポなエレクトロ・ポップがスタジオに流れ出す。洗練されたビートに乗せて、カナリィ本人が口を開いた。

 

『じゃ、歌いまーす。聴いてね~』

 

 そして、地獄の蓋が開いた。

 

「♪あ~た~し~は~(↘︎ ↗︎ 〰)!」

 

「♪み~ら~い~の~(↑ ↓ Error)!」

 

 Fの指が凍りついた。

 

 外している、とか、そういう次元の話ではなかった。音程という概念が、彼女の喉を通った瞬間に死滅していた。  

 

(タラゴン代表と同じ……いや、若さゆえの肺活量がある分、さらに凶悪な『音の暴れ方』をしている!?)

 

 Fは脂汗を流しながら、慌ててボコーダーの補正ツマミをMAXに回した。

 

「補正しろ! 強制的に音階に嵌め込むんだ!!」

 

 だが、最強の補正機『シンフォニウム・アウレア・ヴィフ』をもってしても、彼女の歌声は制御不能だった。

 

『ケロケロ……ギュルル……ガガガガ!!』

 

『ピィイイイイイ!!(エラー音)』

 

 スピーカーから吐き出されたのは、歌声ではない。ドリルで鉄板を削るような、鼓膜をやすりで撫でられるような轟音だった。

 

「♪スーパ~(445Hz)スター(432Hz)!!」

 

『ズガガガガガ……キュイーーーン!!!』

 

「だ、ダメだ! 音程の移動速度が速すぎて、機械が『ド』なのか『レ』なのか判断できず、高速で行き来している! 歌声が……『グリッチ・ノイズ』に変わっていく!」

 

 その混乱の中、空気を読まない老人が割り込んだ。

 

「おおっ! カナリィ、すごい迫力(ノイズ)じゃ! ロックじゃのう! 負けてられん! ワシも行くぞ!」

 

「♪ワ゛シ゛も゛~~(濁声)!!」

 

「♪輝゛く゛ん゛じ゛ゃ゛~~(↑ ↓ 測定不能)!!」

 

 二人の「呪われし血統(DNA)」が重なった、その瞬間である。 『WARNING: CPU OVERLOAD』  モニターに赤い警告文字が躍り、スピーカーが断末魔を上げた。

 

『ドゥルルルル(重低音)……』 『ギャイイイイイ(金切り声)……』 『ブベベベベベ(笑い声のバグ)……』

 

 二人の声とボコーダーの悲鳴が混ざり合い、重厚かつ破壊的なインダストリアル・テクノのような「爆音」が生成された。  それはもはや音楽ではない。

 

「ひいぃっ!? 止めなければ! これはただの『電子的な拷問』だ! 美しくない! 放送事故だ!!」

 

 Fが停止ボタンに手を伸ばしたその時、コメント欄が異様な盛り上がりを見せた。

 

『!?!?!?』『なんだこの音作り!?』『音が……脳を直接揺さぶってくる!』『最先端すぎる』『Skrillexもびっくり』『New Genre: BABINIKU-CORE』『神回確定』

 

「え、なんかウチらの声、めっちゃエフェクトかかってね? かっこよくね?」

 

 ヘッドホンからの音が歪んでいることに気づかず、カナリィが能天気に言う。

 

「そうじゃろう! これがF先生の技術力じゃ! もっと歪ませろー! イェーイ!」

 

『ブォオオオオオオ(イェーイの成れの果て)』

 

 Fは、呆然と立ち尽くした。

 

「違う……私の求めた『調和』は……こんな……工事現場のような騒音では……」

 

 しかし、視聴者数は爆発的に伸び続け、スパチャが滝のように流れていく。  Fは画面を見つめ、引きつった笑みを浮かべた。

 

「ふ……ふふ……機械すら……科学すら……この血統には勝てないというのか……これが……大衆の望む『音楽』だと……?」

 

 歪みきった爆音の中で、Fは天井に向かって絶叫した。

 

「認めんぞォオオオオオ!! こんなものが『音楽』であってたまるかァァァアアアア!!!!」

 

『ミ゛ト゛メ゛ン゛ゾ゛ォ゛ォ゛ォ゛(美しく歪んだドロップボイス)』

 

 その魂の叫びすらも、テクノの一部として消費されていった。

 

          ◇

 

 某日。ミアレ美術館。

 カロス音楽界の最高峰『ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック』授賞式の特別控え室には、シャンパンの香りではなく、重苦しい空気が充満していた。  授賞式まであと三十分。  タキシード姿のFは、死人のような顔色で胃薬を握りしめていた。その横では、派手なステージ衣装の上から法被を着ようとするタラゴンと、スマホで自撮りに余念がないカナリィがいる。

 

「……信じられない……カロス音楽界の最高峰『ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック』……その『最優秀エレクトロニック・クリエイション賞』が……あんな……あんな『工事現場の騒音(BABINIKU-CORE)』に与えられるとは……」

 

「ガハハ! F先生、謙遜は無用ですぞ! 時代がやっと、ワシらの『ソウル』に追いついたのです! 今日は祝い酒じゃ!」

 

 タラゴンがシャンパンをラッパ飲みしようとした瞬間、Fがそれを奪い取った。

 

「飲まないでください! これから本番なんですよ! いいですか、よく聞いてください。今日の授賞式は、世界中継されます。カロスだけでなく、ガラル、パルデア……全世界が注目している」

 

「えー、マジ? ウケる。じゃあ映え狙わないとじゃん」

 

「『映え』などどうでもいい! 問題は『音』です! 前回の配信のような『事故』を、この格式高い会場で起こせば……我々は音楽界から永久追放、いや、ラシーヌ工務店は損害賠償で消し飛びます」

 

「むむっ、それは困る。で、どうするんですかな? F先生のことだ、また凄いメカを用意したんでしょう?」

 

 Fは無言で黒いアタッシュケースを開いた。中には、大量のセンサーがついた全身タイツのようなスーツと、特殊なマスクが収められている。

 

「これです。『絶対安全リップシンク・システム Coutil-Paque-Perfecta(クティ・パック・ペルフェクタ)』」

 

「え、何これ。モジモジくん?」

 

「『モーショントラッキング・スーツ』です!!」

 

 Fは叫んだ。

 

「今日のライブ、貴方たちのマイクは物理的に切断してあります。会場に流れるのは、私が三日三晩徹夜して、貴方たちの『音痴』を波形レベルで修正し、プロの歌手レベルまで再構築した『奇跡の完パケ音源』だけです!」

 

「なんと! つまり……?」

 

「つまり、貴方たちはこのスーツを着て、ステージ上で『口パク』をしてくれればいいのです! 声は出さなくていい! いや、絶対に出さないでください! 貴方たちが生声を出した瞬間、私の作った美しい音源と混ざり合い、またしても『地獄の不協和音』が生まれてしまう!」

 

「えー、口パク? ダルくなくていいけどさー、なんか『魂』なくね?」

 

「そうですぞF先生! 観客はワシの『生』のパッションを求めているのでは!?」

 

 Fはタラゴンの胸ぐらを掴んだ。その目は完全に血走っている。

 

「パッションなど犬に食わせろ!! いいですか、この会場には、カロス全土をカバーする『超・高出力ホロキャスター送信機』があります。もしここで、前回のような『異常な周波数のノイズ』を生で発生させれば……送信機と共鳴(レゾナンス)し、何が起こるか分からない! 最悪の場合、物理的な破壊現象が起きますよ!?」

 

「ひいいっ! わ、分かりました! 口パクですな! 口パク! 決して声は出しませぬ!」

 

 数分後。

 全身黒タイツにセンサーがついた奇妙な格好の老人と、同じくタイツ姿のギャルが並んで立っていた。見た目は完全に不審者である。

 

「うわ、ダサッ。これマジで着んの? ホログラム被せるから見えないとはいえ……」

 

「ふむ、身が引き締まる思いですな! まるで忍(シノビ)のようだ!」

 

『Canary & Papy 様、スタンバイお願いしますー!』

 

 スタッフの声がかかる。Fは祈るように手を合わせた。

 

「行きますよ……いいですか、絶対に、『口を動かすだけ』です! アドリブ禁止。シャウト禁止。ウインク……は、まあ許可しますが、声付きの投げキッスは禁止です!」

 

「任せてくだされF先生! ワシは『サイレント・タラゴン』になりますぞ!」

 

 ステージの眩い光に向かって歩き出す三人の背後で、会場の巨大送信機が不穏な駆動音『ヴンンンン……』を響かせていた。

 

          ◇

 

 ステージ袖のDJブースで、Fはミキサー卓を死守していた。  ステージ中央には、ホログラムで美少女化したタラゴンとカナリィ。観客席には正装したセレブたちが固唾をのんでライブ開始を待っている。  司会者のコールと共に、大歓声が上がった。

 

『さあ、今宵のメインイベントです! 彗星のごとく現れたデジタル・ノイズの破壊神! Canary & Papy (カナリィ&パピィ) の登場です!!』

 

 Fは震える指で再生ボタンを押した。  

 

(頼む……! このまま、私が作った『美しい完パケ音源』に合わせて、口をパクパクさせていてくれ……! この音源は完璧だ。ピッチ補正に百時間を費やした結晶なのだから!)

 

 洗練されたフューチャー・ベースのイントロが流れ、ステージ上のホログラム・カナリィたちが完璧なダンスを披露する。

 

『♪煌めく~ カロスの~ 星空~(透き通るような美声)』

 

 タラゴンとカナリィは、マイクに向かって口パクをした。  

 

(よし……! いいぞ! ズレていない!)

 

 しかし、ステージ上のタラゴンは違和感を覚えていた。

 

(む……? 何かおかしい。観客が……静かすぎないか?)

 

 客席のセレブたちは、上品にグラスを傾けながら囁き合っている。いつもの『耳が壊れる!』『なんだこれは!』という熱狂的な悲鳴が聞こえてこない。

 タラゴンの耳に、最前列のセレブの声が届いた。

 

『あら、意外と普通ね?』『もっとこう、脳髄を破壊されるような前衛的な音を期待していたのだけど……』『ただのアイドルソングじゃないか』

 

 (いかん……! これでは期待外れじゃ! むしろ、ワシの『生』のシャウトを入れてこそ、ファンサービスというもの!)  

 

 サビ直前。タラゴンが大きく息を吸い込んだ。  モニター越しにタラゴンの胸郭が膨らむのを見て、Fの顔が凍りつく。  

 

(……え? 待て……なぜ息を吸う? 口パクに呼吸は必要ないはず……)

 

 届けェェェ! ワシの愛(ソウル)!!

 

「や、やめろ……まさか……!!」

 

 タラゴンは、マイクに向かって全力の咆哮を上げた。

 

「♪ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛(430Hz)!!!!」

 

 その瞬間、Fの恐れていた事態が発生した。

 

『ALERT! ALERT!』『外部音声入力、検知!』『共鳴(RESONANCE)開始!』

 

 会場に設置された「超・高出力ホロキャスター送信機」が、タラゴンの放つ「特定の周波数(悪魔の音程)」に反応し、勝手に起動したのだ。

 

『キィィィィィィン……(超高周波のハウリング)』

 

「なっ……!? 送信機が……逆流している!? タラゴン代表の声が、会場の電波と干渉して……『音響兵器』のような増幅ループを起こした!!」

 

 ブツンッ! という音と共に、安全装置のリミッターが吹き飛んだ。マイクの回線が強制接続される。

 

「♪イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛(455Hz・鼓膜破壊レベル)!!」

 

 ドォォォォォン!!

 

 スピーカーから目に見えるほどの衝撃波が放たれた。最前列の貴婦人の帽子が吹き飛び、シャンパンタワーが粉砕される。

 

「きゃああああ!!」「耳が! 耳がああ!!」「これよ! これを待っていたのよ!!」 「うわっ!? 何!? 地震!? キャアアアアア!!(悲鳴)」

 

 カナリィの悲鳴もマイクに乗った。

 

 タラゴンの「ダミ声」と、カナリィの「金切り声」が混ざり合い、Fの作った「美声」を浸食していく。

 

『♪煌めく~(美声)……グォオオオ(ノイズ)……ギャアアア(悲鳴)!!』

 

「切れない! 音が止まらない!! 二人の声が、空間そのものを震わせて……システムが制御不能だ!!」

 

 さらに、恐ろしい現象が起きた。観客全員のポケットの中で、ホロキャスター端末が勝手に発光し始めたのだ。

 

『……ア゛ァ゛ァ゛……(0.5秒遅れ)』『……イ゛ィ゛ィ゛……(1秒遅れ)』

 

「『無限の輪唱(カノン)』……!! 会場の数千台の端末が、不協和音を増幅し、反響させ……逃げ場のない『音の檻』を作っている!」

 

 状況が分かっていないタラゴンは、揺れる会場を見て歓喜した。

 

「おおお! 会場が揺れておりますぞ! これがグルーヴというやつか! カナリィ! お前も叫べ! F先生の曲に合わせて!」

 

「え、何これ、マジヤバいんだけど!? あげぽよ~~~(高音ノイズ)!!」

 

 バリバリバリッ!!

 

 ステージ上のホログラム映像がノイズで赤黒く変色し、美少女アバターが禍々しい「妖怪」のように変貌する。

 

「あ……あぁ……ホログラムが……データ崩壊を起こして……まるで……『破壊の繭』だ……」

 

 Fは崩れ落ちた。脳裏に、かつてフレア団のボスとして見た最終兵器の光景がフラッシュバックする。  

 

(私は……また……世界を……美しくするどころか……こんな……汚い音で……破壊しようとしている……)

 

 タラゴンが、壊れたアバターのまま、カメラ目線でキメ顔をした。

 

「♪愛(ラブ)! 注入ゥゥゥゥ(ハウリング最大出力)!!」

 

 ズガガガガガッ!!!

 

 会場の照明機材が爆発し、火花が降り注ぐ。 Fの中で、何かがプツンと切れた。 彼はDJブースから飛び出し、マイクをひったくった。

 

「違うゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

 Fの絶叫が、地獄のシンフォニーに新たな旋律として加わった。

 

「私が望んだのは!! こんな『醜い』終末ではないィィィィィ!!!」

 

「ブラボー!!!」と観客が叫ぶ。

 

「止めろォォォォォォォォ!」

 

「怒りのシャウトだ!」

 

「ホロキャスターを切れェェェェ!!」

 

「F!F!F!」

 

「美しくないィィィィィィィ!!!!」

 

「破壊! 破壊! 破壊!」

 

 Fの悲痛な叫びすらも、熱狂する観客には「演出」として消費されていく。ライブ会場は崩壊し、狂乱のパニックへと陥った。

 

          ◇

 

 ミアレシティの路上。  這う這うの体で美術館から逃げ出したFは、煤だらけで測定器を握りしめていた。  背後の会場からは、まだ黒煙と「地獄のユニゾン」が漏れ出ている。

 

「ハァ、ハァ……! F先生! 見てくだされ! 観客が熱狂のあまり暴徒化して、会場が半壊しましたぞ! 大成功ですな!」

 

「現実を見てください!! あれは『避難』です!!」

 

 Fはタラゴンの胸ぐらを揺さぶった。

 

「貴方たちが放った『音の衝撃波』で、建物の構造計算が狂って崩壊したんですよ!!」

 

 ズズズズズズ……!!

 

 突然、地面が激しく揺れた。地震ではない。もっと深く、地脈そのものが震えているような振動だ。

 

「……ッ!? なんだ……この振動は……? 音圧による共振じゃない……」

 

 測定器の数値が異常なスピードで上昇していく。

 

「エネルギー反応、増大! 発生源は……プリズムタワー!?」

 

 見上げた先で、ミアレシティの象徴であるプリズムタワーが、不気味な赤色に発光し始めていた。

 

 バキバキバキッ!!

 

 鋼鉄のフレームが生物の蔦のように捻じれ、ガラス窓が巨大な花弁となって展開する。タワーの頂上から、巨大な「花の怪物」が姿を現した。

 

 グオオオオオオオオオオッ!!!

 

「違います!! あれは……三千年前の……! 『最終兵器』の残骸と一体化していた、古代の守護神……コードネーム『アンジュ・フラエッテ』!!」

 

 なぜだ。彼女は封印されていたはずだ。目覚めさせる鍵は失われているのに。  Fの耳に、タラゴンが握りしめているホロキャスターから垂れ流される「地獄のユニゾン」が聞こえてきた。

 

『♪ア゛ァ゛ァ゛ァ゛(430Hz)……イ゛ィ゛ィ゛ィ゛(455Hz)……』

 

 その不協和音を聞いた瞬間、タワーの怪物がピクリと反応し、巨大な瞳をタラゴンに向けた。

 

「周波数解析……一致率……99.9%!? 馬鹿な……ありえない……!!」

 

「F先生? 何が99%なんです?」

 

「貴方とカナリィさんの……あの『理論上あり得ないズレ方をした汚い不協和音』が……!! あろうことか、三千年前にAZ王が、愛するフラエッテの名を叫んだ時の『悲痛な声紋(パスワード)』と完全に一致してしまったのですッ!!!」

 

「なんと! ワシの声は王の声! 高貴な響きということですな!」

 

「断末魔だと言っているんです!!」

 

 花の怪物、アンジュのAIの中で、三千年の想いと現在の状況が誤った形で結合した。

 

『……P……Pa……pa……?(パ……パ……?)』

 

「聞こえましたか!? 彼女は貴方の声を『パパ(AZ)』だと思っている! まずい……! 貴方のその『音痴な叫び』を、『パパが苦しんでいる声』だと誤認したら……!」

 

「おお、パパと間違えるとは可愛い奴じゃ。よしよし、パパはここだぞ~☆ お~い! こっちにおいで~(裏返った声)!」

 

 その声は、アンジュには『助けてくれ! 敵に囲まれている!』というSOS信号に変換された。

 

『……PAPA…… IN…… DANGER……!!(パパガ……アブナイ……!!)……DESTROY…… ENEMIES……!!(テキヲ……ハイジョスル……!!)』

 

 ウィィィィン……ガシャン!!

 

 タワーの側面から、無数のレーザー砲門が展開される。照準はミアレシティ全土。

 

「ひいぃっ!! 攻撃モードだ!! 彼女は貴方を救うために、貴方以外の全て(=敵)を焼き払うつもりだ!!」

 

「なんという過保護! 娘(孫)の教育方針としては間違っておりますぞ! ええい、鎮まれ! パパの歌で鎮まれぇぇ!」

 

「やめろ!! 歌うな!! 余計に興奮する!!」

 

 タラゴンは聞く耳を持たず、最大音量で『子守唄』を歌い出した。

 

「♪ね~ん~ね~ん~(超音波)こ~ろ~り~(地響き)よ~(破壊音)!!」

 

 そのあまりに酷い子守唄は、アンジュのAIに致命的なエラーを引き起こした。

 

『……ERROR……!! ……PAPA…… DYING…… SCREAM……!!(パパノ……シニギワノ……ヒメイ……!!)』 『……UNFORGIVABLE……!!(ユルサナイ……!!)……BURN…… THE…… WORLD……!!(セカイヲ……ヤキツクス……!!)』

 

 タワーの先端に、太陽のような灼熱のエネルギー球が生成される。  Fは膝から崩れ落ちた。

 

「……終わった。私の人生は……『バ美肉おじさんの下手な子守唄』によって……終焉を迎えるのか……美しくない……あまりにも……」

 

「F先生! 諦めるのは早いですぞ! あそこを見なさい! 誰か来ます!」

 

 煙の向こうから、ボロボロのコートをまとった、三メートルの巨人が歩いてくる。

 Fは息を飲んだ。

 

「あ……あれは……! 間違いない……オーナーAZ!!……カロス伝説の王……」

 

「ほう! あれが王様!? 随分とワイルドな風貌ですな! しかしF先生、彼が来てどうなるのです? 怪獣退治の専門家ですか?」

 

「専門家どころではありません。あの怪物(アンジュ)の『飼い主』であり『パートナー』です! AZ王よ!! お願いします!! 貴方の威厳ある言葉で、あの荒ぶる魂を鎮めてください!!」

 

 Fは祈るように叫んだ。

 AZがタワーの真正面に立つ。その背中は、三千年の哀愁と威厳を漂わせていた。彼は深く息を吸い込む。  

 

(来るぞ……! 王の勅命(オーダー)が……!)

 

「ごめんなちゃーい! フラちゃ~ん!!」

 

 ズコーッ!!

 

 Fは、あまりの落差に石畳に頭を打ち付けた。

 

「……は?(いま……『ごめんなちゃい』と……?)」

 

 AZはタワーに向かって両手を振りながら、裏返った高い声で叫び続けた。

 

「パパが悪かったよぉ~! 家出するなんてひどいよぉ~! 鍵をかけ忘れたのは謝るからぁ~! 戻ってきてぇ~!」

 

 Fはふらふらと立ち上がり、AZに近づいた。

 

「あ、あの……オーナー?……AZ王……? 家出……? 鍵……? これは『古代兵器の暴走』では……?」

 

「おや、こんにちは。いやぁ、お恥ずかしい。実は先週の火曜日にね、ちょっとした夫婦喧嘩をしちゃって。彼女、怒ってタワーに引きこもっちゃったんだよぉ。マイッタ、マイッタ」

 

 (三千年の怨念ではなく……ただの……痴話喧嘩……? 私が……我々が必死になっていた世界の危機は……夫婦の……火曜日……?)

 

「ガハハ! あるあるですな! ワシも婆さんとよく喧嘩しますぞ! で、王様。仲直りの秘策はあるのですかな?」

 

「もちろんだとも! ジャジャーン! これを持ってきたんだ!」

 

 AZは大切に抱えていたドス黒い箱をパカッと開けた。

 先日、ユカリ嬢とグリとグリーズが、嬉々として(Fの意に反して)創り上げてしまった例の劇物が入っていた。

 

「フラちゃんの大好物! AZ特製・仲直りマカロンだよぉ~!」  

 

 プシューッ……。

 

 箱が開いた瞬間、黄色いガスのようなものが噴き出した。

 臭いが、フラダリの鼻腔にダイレクトに飛び込んでくる。

 

「うっ!? くさっ!? 何ですこの臭いは!! 腐ったタマネギと……錆びた鉄……いや、硫黄!?」

 

「いい香りだろぉ~? 今回の新作は自信作なんだ! 『デーツ』のねっとりした甘みに、薬草『木香』の渋みをプラス! そしてトッピングには! あの懐かしの古代スパイス! 『貴糞石』風味を、マシマシにしてあるんだよぉ~!」

 

 Fの顔色が、青から土気色へ、そして白紙のように白くなった。

 

 (ガイが、時折『古代の味』と称してとんでもないゲテモノ料理を作るのは……この男……AZが『現代の味は薄すぎる! 昔の味(激臭)を再現しろ!』と吹き込んだ結果だったのか……!! 全ての元凶は……この味覚異常者(マッドグルメ)か!!)

 

「ほう! 『貴糞石』とは高貴な名前ですな! きっと深いコクがあるのでしょう! どれ、一つ味見を……」

 

「やめろタラゴン代表!! それは人間の食べ物じゃない!!」

 

「おや、君たちも手伝ってくれるのかい? 嬉しいなぁ! 実は一人だと、声がタワーの上まで届かなくて困ってたんだ!」

 

 AZは、巨大な手でマカロンを二つ掴み、Fとタラゴンに差し出した。

 

「さあ、これを食べて、元気を出して! 僕と一緒に叫んでおくれよぉ! 合言葉は……『糞石(フンセキ)味だよぉー! おいちーよー! だべちゃうぞー!』だ!」

 

「言えるかァァァァ!! 誰がそんな……『ウ〇コ味でおいしい』などという尊厳に関わる台詞を……!」

 

「照れ屋さんだなぁ。ほら、あーん!」

 

 AZの万力のような指が、Fの顎を掴み、強制的に口を開かせる。

 

「んぐっ!? や、やめ……! 臭っ……! 近づけるな……! その汚物を……!」

 

「ワシは頂きますぞ! パクッ!……!! んぐっ!? こ、これは……!! 口の中が……ドブ川になったような……!?」

 

 タラゴンが白目を剥いて昏倒した。Fは絶望した。  

 

(タラゴンが撃沈した!? 助けてくれ……! 誰か……! 美しくない……! こんな死に方は……美しくなぁぁぁい!!!)

 

 AZの指が、ドス黒いマカロンをFの口内へと押し込む。

 

「お口、チャック開けまーす! 飛行機ブーン!」

 

「や、やめ……んぐっ!! むぐううううう!!」

 

 口の中に広がったのは、味覚の暴力だった。  

 

『解析:腐ったタマネギ 40%……錆びた10円玉 30%……下水道の汚泥 20%……未知の悪臭(貴糞石) 10%』  

 

『結論:金気(かなけ)のあるウ〇コ味』  

 

(ガハッ……!? なん……だこれは……!? 菓子ではない……これは『兵器』だ……! 口の中が……ドブ川になった……舌が……溶けるぅぅぅ!!)

 

「おいしいでちょ~? ほっぺた落ちちゃうよねぇ~? さあ、ご一緒に!」

 

 AZは、Fの背中をバンバン叩きながら、タワーに向かって叫ぶ。

 

「ほーら! 『糞石(フンセキ)』味だよぉー! おいちーよー! だべちゃうぞー!」

 

「……お……ぉ…………ぐ……ふん……せき……あ……じ……(殺してくれ……いっそ光線で焼き払ってくれ……!)」

 

 その時、ピタリ、とタワーの震動が止まった。  暴走アンジュ・フラエッテの巨大な鼻が、スンスンと動く。戦場の硝煙を切り裂き、AZのマカロンから放たれる「致死レベルの悪臭」が、アンジュのセンサーに届いたのだ。

 

『……SMELL……(ニオイ……)……THIS…… STINK……(コノ……アクシュ……)……NOSTALGIC……(ナツカシイ……)』

 

「おっ! 気づいた!? ここだよぉ~! フラちゃ~ん! パパ特製! 三千年熟成(したような匂いの)マカロンだよぉ~!」

 

 シュルルルル……!

 

 タワーからエネルギーの蔦が伸び、AZの手にあるマカロンを優しく、しかし素早く掠め取った。  アンジュの花弁が閉じ、マカロンを咀嚼する音が響く。  

 

 ゴリッ……バキッ……(※硬すぎる音)。

 

 一瞬の静寂。そして、地獄の底から響くような、重低音の轟音が世界を包んだ。

 

『……お゛い゛ち゛ー!!(はあと)』

 

 ズドォォォォォン!!!

 

 その「喜びの声」だけで、周囲のビルのガラスが粉砕された。弾みで、街のあちこちにあったメガ結晶の数々も粉々に吹き飛ぶ。

 

「『おいちー』じゃなぁぁぁいッ!! 声が! 声が可愛くない!!」

 

『……ヤッパこれだよねぇ~(濁声)…………最近のパティシエは気取ってていけねぇや…………この、鼻が曲がるようなクソみてぇな匂い……AZの味だわ……(はあと)』

 

 タワーの赤黒い光が、健全な(?)ピンク色に変わっていく。

 

「よかったぁ~! 機嫌直してくれたぁ~! ごめんねフラちゃん! もう離さないよぉ~!」

 

 AZが両手を広げた。アンジュもタワーの根を引き抜き、歩行形態となってAZに抱きついた。

 

『……パパァ……(重低音)』

 

 ガシィィィッ!!

 

 三メートルの巨人と、五十メートルの怪物が抱擁した。その衝撃で、Fとタラゴンは再び地面に叩きつけられた。

 

「チュッ!」

 

『チュッ!(爆音)』

 

 二人の間から、ピンク色のハート型の衝撃波が広がり、強烈な「貴糞石」の口臭が周囲に撒き散らされる。

 

「おお……! 美しい……! 愛は、種族もサイズも、そして『悪臭』すらも超えるのですな! 感動しましたぞ! グスッ(鼻をつまみながら)」

 

 タラゴンがむくりと起き上がる横で、Fは地面に這いつくばったまま、血の涙を流していた。

 

「……嘘だ……古代の神秘が……王家の伝説が……こんな……こんな『バカップルの悪食(あくじき)プレイ』だったなんて……」

 

 口の中に残る「金気のあるウンコ味」のせいで、涙が止まらない。  

 

(舌が痺れて……感覚がない……世界は救われた……だが……)

 

 Fは、抱き合う巨大な二人を見上げ、最後の気力を振り絞って絶叫した。

 

「味覚がァァァァァッ!!!」

 

「キャラ設定がァァァァァッ!!!」

 

「何もかもがッ!! 美しくないィィィィィィィィィッ!!!!!」

 

 Fの絶叫が、幸せな(臭い)空間に虚しく響き渡る。AZが振り返り、無邪気に親指を立てた。

 

「おかわり、あるよ?」

 

 Fは白目を剥いて気絶した。

 

          ◇

 

 暫時後。プリズムタワー周辺。

 街は半壊しているが、夕日が綺麗に輝いている。  カラスが「アホー」と鳴くような静寂……ではなく、救急車のサイレンとAZの笑い声が響いていた。

 

「F先生! 起きてくだされ! F先生!」

 

 タラゴンに頬を叩かれ、Fはガバッと起き上がった。

 

「……はっ!? ……こ、ここは……? ……口の中が……まだ……ドブの味がする……」

 

「おお、気がつきましたか! 大団円ですぞ! AZ王とアンジュ殿は仲直り! ミアレシティの崩壊もギリギリで免れました!」

 

「……免れた……? 美術館は半壊……プリズムタワーは捻じ曲がり……道路は穴だらけ……これが……『救われた』景色ですか……?」

 

「細かいことは気にしない! それより見てくだされ、これ!」

 

 タラゴンが、画面のひび割れたホロキャスターを突きつけてきた。

 

『謎の巨人&怪獣、謎の悪臭マカロンで和解!』 『「おいちー!」という怪獣のダミ声、トレンド世界1位に』 『バ美肉アイドル・カナリィ&パピィ、英雄として(?)認知される』

 

「大バズりですぞF先生!! 『世界を救った音痴』として、工務店への問い合わせが殺到中です!! さらに! AZ王のマカロンについても『あの悪臭は何だ?』『食べてみたい(怖いもの見たさ)』と話題沸騰!」

 

「うぷっ……やめろ……思い出させるな……あの……地獄の風味を……」

 

 そこに、ドシンドシンと足音が近づいてくる。

 

「やあやあ! 君たち! おかげでフラちゃんとよりを戻せたよぉ~!」

 

 通常サイズ(といってもデカイが)に戻ったフラエッテ(えいえんのはな)が、AZの肩に乗ってしわがれ声で鳴いた。

 

『ギャッ!(意訳:また喧嘩したらタワー折るからな)』

 

 Fはヒィッ! と後ずさる。

 

「よ、よかったですね……。では私はこれで……二度と……貴方達には関わりたくないので……」

 

「待って待って! お礼をさせてよ! はい、これ! お土産!」

 

 AZは、懐から「あのドス黒い箱」を取り出し、Fに押し付けた。

 

「『特製・貴糞石マカロン(お徳用10個入り)』だよぉ~! 家に帰って、ゆっくり味わってね! 紅茶(ドブ川の水のような味のハーブティー)も付けとくから!」

 

 箱を受け取ったFの手が震える。

 

(この箱から……放射能マークが見えるような気がする……)。

 

「い、いりません……! 私は甘いものは……!(絶望)」

 

「遠慮しないで! 君、さっき『おいちー!』って顔で白目剥いてたじゃないかぁ! また一緒に食べようねぇ! 約束だよぉ!」  

 

 そこに、ミアレシティ警察と、美術館の館長が血相を変えて走ってきた。

 

「おい君たち!! 待ちなさい!! 美術館の壁! 音響機材! そしてプリズムタワーの修繕費!! 総額で五十億ポケは下らないぞ!! 誰が払うんだ!!」

 

 タラゴンが即答する。

 

「あ、それはこちらの『イベント演出家』であるF先生が……」  Fも即答する。

 

「記憶にございません」

 

「ズルいですぞF先生! さっき記憶戻ってたでしょうが!」

 

「黙れ!! 私は……私はただ……孫娘の代理配信をしたかっただけなんだ……! それがなぜ……音波兵器を作り……古代王に糞石を食わされ……五十億の借金を背負わなければならないんだ!!」

 

 Fは夕日に向かって吼えた。

 

「神よ!! アルセウスよ!! 私の何がいけなかったと言うのですか!! ただ……『美しくありたい』と願っただけなのにィィィィ!!」

 

「F先生、反省会は後にして、今は逃げますぞ! このマカロンを追っ手に投げつければ、悪臭で怯むはずじゃ!」

 

「ふざけるな! 食べ物を粗末にするな! ……いや、これは食べ物ではない! 『弾薬』だ!! よこせ!!」

 

 Fは、ヤケクソでマカロンの箱を開け、追っ手に向かって投げつけた。

 

「食らえェェェ!! 古代カロス王家の『呪い(フレーバー)』をォォォ!!!」

 

 バリーン! グシャッ! プゥゥゥ~ン(異臭)……。

 

「ぐわあああ!! 臭い!!」

 

「鼻が曲がるぅぅぅ!!」

 

「ああっ! もったいないよぉ~!」

 

 混乱に乗じて、瓦礫の山を走って逃げるFとタラゴン。

 

「走れF先生! 次の企画は『逃亡者(フュージティブ)・ラップ』ですぞ! 韻(ライム)を踏みながら逃げるんじゃ!」

 

「断る!! 私は帰る!! 田舎に帰って……静かに土を耕すんだ……! 音楽も……マカロンも……バ美肉も……二度とやるかァァァァァァ!!!!!」

 

 Fの絶叫が、美しくない夕焼け空に吸い込まれていく。

 

 その瓦礫の下で、僅かに生き残っていた『可変純正律シンセサイザー』の残骸が、回路をショートさせながら最後の断末魔を上げた。

 

『……ボォ……エ……(プツン)』

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