「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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ホテルZのガイが錬成した「バゲットスムージー(という名のパンの惨殺死体)」を処分しようと彷徨っていたFは、ジカルデ(10%フォルム)の強引な導きにより、深刻な便秘に悩むユカリ嬢と遭遇する。 スムージーによる奇跡の解決(デトックス)、そして誤操作による「無限トーナメント」への突入を経て、なぜかFはユカリに「強くなるためのバレエ」を教えることになるのだが……。

「優雅さ」が伝わらないユカリに対し、Fが苦渋の決断で繰り出した指導法。 それは、「ヘドロ」や「砂かけ」といったポケモン技で例える、地獄のメソッドだった。

【注意】
※ポケモンLegends: Z-Aの捏造設定・幻覚が多大に含まれます
※F(フラダリ)が大変な苦労人です
※ユカリ嬢がだいぶアグレッシブです
※下ネタ(便秘・トイレ)の隠喩がありますが、表現はエレガントです
※ジカルデがツンデレです
※何でも許せる方向け


第3話:残念ですが、ユカリ嬢、これはバレエレッスンではありません

それは運命の悪戯か、あるいはカロスを守る秩序の意志が働いたのか。

 

 記憶を失った男――Fは、その日、自分の意思とは無関係にミアレシティの路地を滑走していた。  彼の手にあるリードの先には、緑と黒の幾何学模様を持つ犬、ジガルデ・10%フォルム。伝説の監視者は何らかの危機を察知したのか、Fの制止も聞かず猛烈な速度で街を疾走していたのである。

 

「待て! 待つんだポチ……いやプニちゃん! 早い! 速すぎる!!」

 

 Fは悲鳴を上げるが、彼には転ぶことすら許されなかった。  なぜなら、もう片方の手には、決して路上にぶちまけてはならない『バゲットスムージー入りの水筒』が握られていたからだ。  脳裏に、あのさわやかな笑顔の悪魔――ガイの顔がよぎる。

 

『試食レポートをA4で1枚にまとめてくださいね!』

 

(……捨てられない。こんなPutainな汚物《カロスのパン文化への冒涜物》を、美しいミアレの石畳にぶちまけるわけにはいかん……!)

 

 Fは引きずられながらも、必死の形相で水筒を見つめた。  記憶はなくとも、彼の魂が「これはカロスの食文化に対する冒涜だ」と叫んでいる。遠心力と衝撃から中身を守るため、彼は左手を高く掲げ、絶妙なバランスを取りながら石畳の上を滑っていった。

 

 ――キキーッ!!

 

 突如、緑の犬が急停止した。  つんのめるF。しかし、掲げた左手だけは本能的に死守する。

 

「はぁ、はぁ……。一体、どこへ連れて行こうと……?」

 

 Fが顔を上げると、そこにはリードの先はなく、緑の光の粒子がふわりと霧散していくだけだった。監視者は役割を終え、瞬時に姿を消したのだ。  そして、取り残されたFの目の前にいたのは――青ざめた顔で腹部を押さえ、今にも崩れ落ちそうなマダム・ユカリ、その人であった。

 

「そちらのムッシュ……何卒、お慈悲を……何か、こう……『来る』ものをご存じありませんこと?」

 

「『来る』もの、ですか?」

 

 ユカリは深刻な顔で腹を押さえている。「朝のお通じ問題」――それも、かなり深刻なレベルであった。  Fは一瞬逡巡し、そして悪魔的な閃きと共に水筒を差し出した。

 

「よろしければ、これを。……特製品です」

 

「まあ!」

 

 ユカリは藁にもすがる思いでそれを受け取り、一気に煽った。  ゴクリ。  数秒の沈黙。  そして、ユカリの顔に、かつてないほどの光明が差した。

 

「――――来たあああああ!!!」

 

 嵐のようにトイレへ駆け込み、数分後。バラ色の頬で戻ってきたユカリは、Fの手にすがりついた。

 

「ムッシュ! ありがとうございます。是非、お名前を」

 

「マダム、私はエフと申します」

 

「まぁ、お名前が『エフ』だけとは、ご謙遜を。それにしても、こちらは一体!? まるで天啓のようでしたわ! ぜひ、その秘伝のレシ……」

 

 ユカリが礼を言おうとしたその瞬間、空間が歪んだ。  突如として時空の裂け目が発生し、暴走したペンドラーたちが雪崩れ込んできたのだ。

 

「きゃあ! 何ですの!?」

 

 ユカリは慌てて応戦しようとするが、病み上がり――否、出し上がり――で足元がおぼつかない。

 

(チッ……! 行くぞカエンジシ!)

 

 Fはモンスターボールを投げる。しかし、彼の左手には「蓋を開けてしまったバゲットスムージー」があった。  激しく動けば中身が飛び散る。もし一滴でもこぼせば、この美しい石畳が、ガイの作った「パンの惨殺死体のようなドロドロ」で汚染されてしまう!  Fは決断した。左手を高く、天に向かって突き上げた。

 そう、まるで『世界を照らす自由の女神《La Liberté éclairant le monde》』のトーチのように。

 

(これは溢さんっ! 絶対に溢さんぞおおお!!)

 

 暴走ポケモンがFに襲いかかる。  だが、Fは左手を垂直に掲げたまま、最小限のステップと体捌きだけで攻撃を回避する。

 

 ペンドラーの突進!  Fは左手を微動だにさせず、優雅に半回転してかわす。中身が揺れるのを防ぐためだ。

 毒針の雨!  Fは背筋をピンと伸ばし、最小限の首の動きで見切る。衝撃で水筒が揺れるのを防ぐためだ。

 

 その姿は、傍から見れば「高らかに勝利の証を掲げ、敵を圧倒する王者の舞」そのものであった。

 

(な、なんて美しいフォーム……! 片手を封じているのに、あの余裕! そしてあの掲げられた水筒……!)

 

 ユカリは戦慄した。彼女の脳内で、点と点が繋がる。  あの飲み物を飲んだ瞬間、腹部の地獄は浄化された。彼はあの飲み物を、神聖なトーチのように掲げ、一滴もこぼさないように大切に扱っている。  つまり、あれは「強さの源」であり、戦いの神に捧げる「聖なるネクタル(神酒)」なのだ!

 

「ああ……! あれこそが、強さの秘密……!」

 

「くっ、数が多い! マダム、早く『ゾーン』を!」

 

「は、はい! ……ダメです、展開できません!」

 

「貸せ!」

 

 Fは右手の指だけでユカリのデバイスを操作する。左手は依然として自由の女神である。

 

(片手ではコードが打ちにくい! ええい、このパラメータでどうだ!)

 

 ――カチッ。ブォォォォン!

 

 Fの片手操作によるミスタイプにより、ゾーンは暴走した。「敵を排除する」のではなく「敵と味方を閉じ込め、闘争本能を永続させる」という無限トーナメント・モードが起動してしまったのだ。

 

「なっ!? 閉じ込められた!?」

 

 Fとユカリ、そして暴走ポケモンたちが結界内に隔離される。  Fは絶望した。このPutainなバゲットスムージーを廃棄する場所がないまま、永遠に戦い続けろというのか!?  しかし、ユカリの目には違って映っていた。  Fは、終わりのない戦場(ゾーン)の中で、なおも「聖なるネクタル」を高々と掲げ、カエンジシと共に優雅に――こぼさないように必死に――舞い続けている。

 

「素敵……! 終わらない戦い、尽きることのない闘志! そして高らかに掲げられた『約束された勝利のドリンク』!」

 

 ユカリの瞳に、危険なハートマークが点灯した。

 

「わたくしも! わたくしも欲しいですわ! その強さを! そのドリンクを!!」

 

          ◇

 

 騒動が――Fの優雅な戦いによって――一段落した後。ユカリは興奮冷めやらぬまま、Fに駆け寄った。

 

「マダム、お怪我は?」

 

「それどころではございません! 見せていただきましたわ、F様の『真の姿』を!」

 

「?」

 

「どうか、私に!! この『秘伝のレシピ』を!! あれを飲めば、私もF様のように……!」

 

 Fは、彼女が何を誤解しているのか即座に理解した。そして、顔を青くして叫んだ。

 

「違ああああああう!!」

 

「えっ?」

 

「あの動きとコレは全く関係ない! なぜレシピに繋がる!? こんなPutainなレシピは、そもそも存在しない!! 絶対に渡せん!!!」

 

「そんなご無体な! ならば……勝負ですわ! 私が勝ったら、この『神のレシピ』を頂戴いたします!」

 

 こうして、なぜか「バゲットスムージー」のレシピを巡る、地獄の無限バトルは幕を開けたのである。

 

 暫時後。

 勿論、自由の女神ポーズのまま何とか勝利したFの前で、ユカリは肩で息をしていた。

 

「F様! 教えてくださいまし! その強さ、その美しさ! わたくしも貴方のように強くなりたい!」

 

 Fはユカリ嬢の真剣な瞳に、かつての指導者としての血が騒ぎ出した。彼の熱血フラダリスイッチが、カチリと入る。

 

「ふむ……バトルにおいて最も重要なのは、己の『軸』、そして『柔軟性』だ。それは、あらゆる舞踊、そして武闘の基礎に通ずる」

 

「ぶとう……?」

 

「そうだ。……では、まずはプリエからだ!」

 

 Fは、バレエの基礎レッスンを始めた。

 

「プリエは……そう、アキレス腱を伸ばし、股関節を深く……」

 

 しかし、ユカリ嬢の飲み込みは芳しくない。

 

「F様……申し訳ありませんが、いまいち……『来る』感覚が掴めませんこと」

 

 Fは深呼吸した。  美学を捨て、効率に徹する。これは戦いだ。

 

「……仕方がない。方針を変える……」

 

 意を決して、彼はポケモン用語を使った「醜悪な」指導を開始した。

 

「いいか! 『プリエ(Plié)』は、ルカリオが『じゅうりょく』で大地に沈み込み、あるいはマッシブーンが『きゅうけつ』でエネルギーを溜めるように、ドッシリと、しかししなやかに重心を落とすんだ! お前のアキレス腱と股関節は、まるで伸びるヘドロだと思え!」

 

 ユカリ嬢は、Fの指導に目を見開き、叫んだ。

 

「は、はい! 伸びるヘドロ……! じゅうりょく!!!」

 

 彼女はFの指示通り、完璧なプリエを繰り出した。重心は深く、背筋は真っ直ぐ。

 

「NoooN!! ... ooooouuuui???(違うう! でもあってるぅうう!)」

 

 Fの悲鳴を無視し、レッスンは続く。

 

「次は『タンデュ(Tendu)』だ! 足裏はゾロアーク(ヒスイのすがた)が『いとをはる』ように、地面を這いながら滑らせる! 決して足裏を離すな! ガブリアスが『すなかけ』で相手の視界を奪うように、床を強く、力強く擦るんだ! 軸足は『かたやぶり』の精神で微動だにするな!」

 

「いとをはる! すなかけですわね!!」

 

 ユカリ嬢は床を擦りながらつま先を出し、完璧なタンデュを披露した。軸足は微動だにしない。

 

「Nooooooui?!!!!(違ぅううう! ……いや、完璧すぎるぅぅぅ!)」

 

 Fの困惑は深まるばかりだが、身体は勝手に次の指導を口走る。

 

「『ロン・ド・ジャンブ(Rond de jambe)』は、サーナイトが『こうそくスピン』でマジカルシャインを放つように、股関節の奥から滑らかに、骨盤を固定して足を回すんだ! ゲッコウガが『みずしゅりけん』を投げるときのように、腰の軸は動かすな!」 「こうそくスピンですのね! 軸は固定!」

 

 うっとりとした表情で見事な股関節の回旋を見せるユカリ嬢。足先で描かれる完璧な半円。

 

「NooooooooooN!! .... Ouiiiiiiiiii?!(美しくなぁあああいい!!! でも美しいぃぃぃ!)」

 

「『フォンデュ(Fondu)』は、ラグラージが『ねばねばネット』で相手を捕らえるように、粘り気のある動きで、ゆっくりと深く膝を曲げる! そしてベトベトンが『ヘドロウェーブ』を放つように、その粘り強さを保ったまま、しなやかに伸び上がれ!」

「ねばねばネット……! ヘドロウェーブ!!」

 

 ユカリ嬢は、まるで水飴のように粘っこく、そして力強く動きを繰り出した。Fはその完璧さに眩暈を覚える。

 

「NoooooN!!! ... OUIIIIIIIIII?!(違う! でも芸術だぁぁぁあああ!)」

 

「最後に『グラン・バットマン(Grand Battement)』だ! これはキックコングが『とびはねる』ように、あるいはアクロマ(ヒスイのすがた)が『とびひざげり』を放つように、足を高く、ダイナミックに蹴り上げろ! だが、上半身は『みがわり』のように微動だにするな!」

 

「とびはねる! みがわり!!!」

 

 そして、最高潮に達したユカリ嬢は、Fの指示のさらに上を行った。

 

「そして……F様! この、高まった身体能力! この感覚……!」

 

 全身からオーラを放ち、目を大きく見開いたユカリ嬢が高らかに叫ぶ。

 

「メガシンカ!!!」

 

 その瞬間、Fはユカリ嬢の背後に、巨大なオーラを纏ったユカリ嬢自身の姿を見た気がした。  美学を捨てて得た成果。しかし、その表現は彼の神経を根こそぎ持っていった。Fのフラダリスイッチは、完全にオーバーヒートし、パチリと音を立てて落ちた。

 

(NNOOOOOOOOON!!! ... OUIIIIIIIIIIIIIIIIIII?! もうわからん!! でも完璧すぎるぅうううう!!)

 

 私が教えたヘドロと暴力のイメージが、なぜこれほどの聖なる輝きを放つのだ!?  冒涜だ! これは私の愛するカロス文化と芸術への、最大の冒涜だ!!

 

 ……しかし、嗚呼……。  脳内で血管が切れる音がした。

 

(『汚らわしい』のに『美しい』だと!? ふざけるな!! 私の脳内でゴミと宝石が融合してショートしている!! 拒絶したいのに魂が震える!! 私は今、反吐が出るほどの嫌悪感の中で、人生最上の感動に打ち震えているぞおおおおおッッ!!! BRAVOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!)

 

 Fは、自身の美学が完全に冒涜された結果として、完璧なポーズを会得したユカリ嬢を前に、ついにその場でブクブクと泡を吹いて昏倒した。  しかし、意識を失う寸前、彼の脳裏には確かに『……美しい……だが醜悪だ……』という矛盾した叫びが響き渡っていたのだった。

 

          ◇

 

 こうして、意識を取り戻したFは悟った。  このままでは、彼女のメガシンカした底なしの探究心と体力の前に、自身の精神(メンタル)が崩壊するのは時間の問題である、と。

 

 そこで彼は、かつてカロス全土を掌握しようとした天才的な科学技術とハッキング能力を、極めて個人的な逃走のためにフル稼働させた。  それは、あの誤作動を完璧に再現し、制御する禁断のマクロプログラム。

 

『ワンタップ・インフィニット・ヘル(無限地獄)』

 

「マダム。以後はこのアイコンをタップするだけで、いつでも『あの領域』へ行けます。……自主練習に励んでください」

 

 Fは震える指で調整したデバイスをユカリに手渡した。  彼女が歓喜の悲鳴と共にスマホをタップし、再び地獄の釜の蓋が開くのを見届けるや否や、Fは脱兎のごとくその場を去った。  背後で響き渡る爆発音と、「さらに高みへ! メガシンカですわー!」という絶叫をBGMにして。

 

 Fは解放されたのだ。  もっとも、その手に握られた『茶色い水筒の中身』が、まだ半分以上残っているという事実からは、決して逃れられないのだが――。

 

 ふと、Fは足元に温かい重みを感じた。  視線を落とすと、そこにはいつの間にか戻ってきたジガルデ(10%)の姿があった。  あろうことか、世界の均衡を見守るはずのその監視者は、Fのズボンの裾に身体を擦り付け、尻尾をブンブンと振っている。その態度はどこまでも尊大で、しかし隠しきれない甘えを含んだものだった。

 

『……グルル(勘違いするなよ、人間。余はただ、あの場所の極度な混沌を排除し、世界の均衡を保つために、貴様という駒をあの女のもとへ運んだに過ぎん)……』

 

 そう唸る態度とは裏腹に、緑の犬はFの手に冷たい鼻先をグイグイと押し付け、もっと撫でろと催促してくる。

 

『……ハッハッハッ(貴様のその体捌き、まぁ悪くはなかったぞ。……褒めてもよい。……いや、撫でよ。これは命令だ。秩序のために、今すぐ余の喉元を撫でるのだ! 早くしろ!)……』

 

 全ての元凶である『ツンデレな神』の、言行不一致な要求に見つめられ、Fは天を仰ぐしかなかった。

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