「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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「救えないのなら、せめて安らかな眠りを」 その決断は、かつての破壊者の業なのか、それとも慈悲なのか。

再開発地区の地下深く、メガ結晶に侵されたポケモンへの「葬送」。
ジガルデ(わんこ)が示した、静絶な拒絶と、向けられた背中。

雨の降るホテルZの屋上にて。 行き場のないFの元に、悩み多き本編主人公が訪れる。

「――やっぱり、大人は狡いよ」

その言葉に、記憶を失った男が流した涙の正体とは。

※捏造設定注意
※F(フラダリ)記憶喪失設定
※残酷な描写(ポケモンの安楽死)を含みます
※ジガルデわんこがFを拒絶します(後にデレますが今回はシリアスです)


第5話:残念ですが、F、私も狡い大人です(しんみり回です)

再開発エリアの地下深く。  未だ人の手が完全には及びきらぬその闇の底で、F――記憶を失った男と、そのポケモンたちは異様な光景に足止めされていた。

 

 そこは、かつて行われた都市開発実験の爪痕なのだろうか。行き場を失った高濃度のエネルギーがヘドロのように澱み、その作用によって異常成長した「メガ結晶」の群生地と化していた。  極彩色の光を放つ結晶は、見る者によっては美しく映るかもしれない。だが、ひとたび触れれば生物の細胞を蝕み、狂わせる、猛毒の華だ。

 

 その華の中心で、一匹の野生のボスゴドラが磔にされていた。

 

 岩肌のように強固なはずの体表を、鋭利な結晶が内側と外側の両面から貫いている。結晶は漁網のように彼を拘束するだけでなく、無理やり生命エネルギーを活性化させていた。  傷つきながら、癒やされ、また傷つく。  それは「死ぬことすら許さず、永遠に痛みに狂わせる」という、地獄そのもののシステムだった。

 

「すぐに助けましょう!」

 

 Fは叫び、必死に駆け寄った。  だが、フラージェスが放つ癒やしの波動も、ダストダスの強力な溶解液も、結晶の異常な再生速度の前には無力だった。  ジガルデ・10%フォルムが『グランドフォース』によって地形そのものを変え、助け出そうと試みる。しかし、結晶の根は既にボスゴドラの内臓深くにまで根を張り、一体化していた。無理に引き剥がせば即死、かといって放置すれば永遠の拷問。  救いの手は、完全に詰んでいた。

 

 ボスゴドラは既に理性を失っていた。  血の涙を流しながら、Fに向かって、ただ「殺してくれ」と懇願するような、掠れた咆哮を上げ続ける。

 

 その声を聞いた瞬間、Fは悟ってしまった。  ――「助ける」とは、生かすことだけではないのだと。

 

 Fは震える手で、隣に控える相棒、カエンジシのたてがみを強く掴んだ。  言葉は必要なかった。長年連れ添った相棒にだけ伝わる、悲痛な決意。

 

「……カエンジシ。彼を、楽にしてあげてください……一番、熱く。一瞬で終わる炎で」

 

 カエンジシは一瞬だけ、悲しげに目を細めた。  だが次の瞬間、彼は「王」の顔へと戻る。主人の背負う罪も業も、すべて共に喰らう覚悟を決めて。  カエンジシの喉が灼熱に輝き、最大出力の『オーバーヒート』が放たれた。それは敵を穿つ攻撃ではない。苦しみを一瞬で灰へと還すための、葬送の炎だった。

 

 断末魔を上げる暇さえ与えず、白い炎は全てを包み込む。  やがて炎が消えると、ボスゴドラは結晶と共に崩れ落ち、ただ静寂だけが地下空間に戻った。

 

 その光景を見ていたジガルデは、Fの行動が理解できなかった。  生態系の秩序を監視する彼にとって、今の行為は救助の放棄であり、人間による身勝手な処刑にしか見えなかったのだ。  ボスゴドラが崩れ落ちた瞬間、ジガルデは吠えも唸りもしなかった。ただ、全身の毛を逆立て、その場で石のように凍りついている。

 

「……終わりました」

 

 Fがジガルデの方へ一歩踏み出した、その時だった。  ジガルデはビクッと体を震わせると、Fから視線を逸らさずに、ズルッ、ズルッと無言で後ずさりをした。

 

 Fはその露骨な怯えを感じ取り、なだめるように手を差し出す。

 

「怖がらせてすみません。ですが、あれしかなかったのです……」

 

 Fの指先が鼻先に触れようとした瞬間、ジガルデは噛み付くことすらしなかった。  ただ、スッと顔を背けてFの手を避け、生理的な嫌悪感を示すように「ハックション!」と大きくくしゃみをした。  それは犬語で明確な「NON(拒絶)」を示す合図。

 

 そして、Fの手が届かない距離まで離れると、体についた汚れを振り払うように、激しくブルブルと体を振るう。まるで、「貴様のやった行為の穢れを、余に移すな」と言わんばかりに。

 

 Fがショックを受けて立ち尽くしていると、ジガルデは一度だけFの顔をジッと見上げた。  その瞳は、いつもの尊大な「神の目」ではない。  ハイライトの消えた、冷たく乾いた「他人を見る目」だった。

 

『(……お前には失望した……もう期待しない……)』

 

 そんな幻聴が聞こえた気がした。  ジガルデは、Fの足元――いつもの定位置には戻らなかった。フンッと荒い鼻息を一つ吐くと、Fに対して完全に尻尾を下げ、背中を向ける。  Fが「待ってくれ」と呼んでも、耳すらピクリとも動かさず、一度も振り返ることなく闇の中へ消えて行った。

 

 ジガルデが去った後、Fは灰になったボスゴドラの跡地に膝をつき、動けなくなっていた。

 

「私は……間違っていたのでしょうか……」

 

 記憶のない彼の心に、かつての自分が犯したであろう大罪の影が、正体不明の不安となって重くのしかかる。  地下の裂け目から、冷たい雨が降り始めた。  その時、打ちひしがれるFの周囲に、温かな影が集まった。

 

 メガギャラドスが、無言でFの頭上にその巨大な体を展開し、雨粒がFに当たらないように屋根となる。凶暴なはずのその目は、「お前は間違っていない」と静かに語りかけていた。

 フラージェスはボスゴドラが消えた場所に一輪のグラシデアの花を手向け、そのツルでFの手を優しく包み込む。「生命の尊厳を守ったのよ」と諭すように。

 いつもはふざけているオンバーンとヤミラミも、今はFの膝にピッタリと体を寄せ、体温を分け与える。ヤミラミは、遺灰の中から見つけたメガストーンを、Fの掌にそっと乗せた。

 そして、背後からダストダスがぬっと現れ、その少し臭うけれど温かい巨体で、震えるFの背中を丸ごとハグした。

 

 最後にカエンジシが、Fの涙をザリザリとした舌で拭う。  彼はジガルデが去っていった方向を睨みつけ、低く喉を鳴らした。

 

「あの若造には、まだ王の孤独は早すぎたようだ。だが安心しろ。奴がいつか戻るまで、私が何度でも背負ってやる」

 

 そう言わんばかりに、カエンジシはFの足元に堂々と伏せ、再び動こうとはしなかった。

 

          ***

 

 数時間後。夕暮れのホテルZ、屋上。

 

 冷たい雨が降りしきる中、Fは濡れるのも構わず、フェンス越しに崩壊した街を見下ろしていた。足元には、心配そうなカエンジシが寄り添っている。  Fの心は空っぽだった。  自分の判断は正しかったのか? あの時感じた「破壊してでも終わらせる」という衝動は、記憶を失う前の自分が犯した大罪の残滓ではないのか?  ジガルデに拒絶されたことで、Fは自分の中に眠る怪物を恐れ、押し黙っていた。

 

 そこへ、屋上の重い扉が開き、一人の若者がやってきた。  彼は「ZAロワイヤル」での連敗に悩み、Fに助言を求めてきたトレーナーだった。

 

「……でさ、あそこでガブリアスが突っ込んでくるのは理不尽だろ!? こっちはまだ準備できてなかったのに! それに、うちのエースが急所引くとか運も悪いし、なんか最近、みんな俺の指示よりワンテンポ遅れるっていうか……」

 

 彼はバトルの不満や、自分の弱さ、ここ数日の敗戦の鬱憤をまくし立てる。  Fは心ここにあらずの状態だったが、表面上は穏やかな仮面を被り、ただ相槌を打つことに終始した。

 

「……そうですか。それは不運でしたね」

「……ええ、一生懸命育てたのに、悔しいですね」

「……君は間違っていない。状況が悪かったのでしょう」

 

 Fの低く落ち着いた声は、傷ついた若者のプライドに心地よく染み渡る。  一方、F自身は自分に自信がないため、「こうすべきだ」という具体的なアドバイスができないでいた。ただ肯定することで、彼を傷つけまいとしたのだ。

 

「あー、話したらスッキリした! ありがとうFさん。俺、明日も頑張るよ!」

 

 若者は立ち上がり、帰ろうとする。

 

 ……あれ? 俺、強くなる方法は一つも聞いてなくないか?

 

 ドアノブに手をかけたところで、彼は振り返った。

 

「……あのさ、Fさん。アンタ、話は聞いてくれたけど、『どうすれば勝てるか』は一言も教えてくれなかっただろ」

 

 気付かれた。

 

「知識も経験もあるくせに、黙って頷いてるだけなんて……やっぱり、大人は狡いよ!」

 

 その言葉が、Fの核心を突いた。

 

   ――『狡い』。

 

 そうだ、私は自分が傷つきたくないから、責任ある言葉から逃げているだけだ。  Fの纏う空気が、ふっと冷たく変わる。  それは、かつて組織のトップとして数多の部下を見てきた、選別する者の目だった。

 

「……勝ち方、ですか。そんなものはいくらでも教えられます。相手の弱点を突く編成、効率的な育成、捨て駒を使う戦術……」

 

 Fは射抜くように若者を見つめる。

 

「ですが、それは『私のやり方』だ。君のポケモンたちが、それに従うと思いますか?」

 

「え……?」

 

「今の君の敗因は、戦術以前の問題です。君の焦り、迷い、自信のなさが、そのままポケモンたちに伝染している。チームにおいて、リーダーの動揺は致命的な『毒』になる」

 

 Fは立ち上がり、一歩近づいた。

 

「教えてください。君は、ただ勝ち星が欲しいのですか? それとも、ポケモンたちに『強いボス』だと認めさせたいのですか?」

 

 その威圧感に、彼は思わず後ずさる。

 

「君は、どうしたい? 彼らと、どうなりたいのですか?」

 

 突きつけられた問いに、彼は言葉に詰まる。  

 「勝ちたい」だけじゃない。「強いボス」? それも何か違う。  かっこいい言葉を探そうとするが、Fの目は誤魔化しを許さない。  彼は、恥を捨てて、心にあるグチャグチャな本音を叫んだ。

 

「……くやしいんだよ!!」

 

 叫び声が雨音を裂く。

 

「俺がオロオロするせいで、あいつらがボコボコにされるのが! 俺の指示が悪いせいで、『どうすりゃいいんだ』って顔でこっち見てくる、あいつらの顔を見るのが嫌なんだよ!!」

 

「……」

 

「勝ちたいとか有名になりたいとか、そんなのどうでもいい! 俺は……俺はただ、あいつらに『この人の言う通りにすれば大丈夫だ』って、安心して戦わせてやりたいだけなんだよ!!」

 

 それは戦略でも理想でもない、ただの子供じみた感情論。  だが、その答えを聞いたFは、ハッとした。  それは、さっき自分がボスゴドラに対して、そしてジガルデに対して「してやれなかったこと」だったからだ。

 

「……『安心させたい』。良い答えです」

 

 Fは、ふっと表情を緩め、満足げに頷いた。

 

「……それこそが、リーダーの最初の仕事ですから」

 

 Fは彼の肩に手を置いた。

 

「アドバイスしましょう。次のバトル、敵を見るのをやめなさい」

 

「えっ? 敵を見なきゃ指示が出せないじゃん」

 

「いいえ。君はずっと『敵がどう来るか』『負けたらどうしようか』ばかり見ている。だから君の不安が背中から伝わり、ポケモンも敵に怯えるのです」

 

 Fは、足元で眠るカエンジシを一瞥して続ける。

 

「味方(パートナー)だけを見なさい。たとえ不利な状況でも、君だけは『大丈夫だ、勝てる』と信じて、彼らの目を見て堂々と命令を下すのです。根拠なんてなくていい。君が胸を張れば、彼らも胸を張れる……それが『群れを率いる』ということです」

 

 そのシンプルすぎる、しかし重いアドバイスに、彼は息を呑んだ。  今まで自分がどれだけ、ポケモンたちの顔を見ずに、スコアボードばかり見ていたかを痛感したのだ。

 

「……そっか。俺、ビビってるのを悟られたくなくて、ずっと前ばかり見てた……」

 

 彼は拳を強く握りしめた。やるべきことが見えた気がした。  帰り際、ふとした疑問をFに投げかけてきた。

 

「ねえ、Fさん。それ、最初から言ってくれればよかったのに。俺が『狡い』って言うまで待つ必要、あったの?」

 

 その問いに、Fは若者から視線を外し、遠くに霞むプリズムタワーを見上げた。  その瞳には、かつて自分が「正解」を他者に押し付け、世界を壊そうとした苦い記憶が映っているようだった。

 

「……かつて私は、自分が正しいと思う『答え』を、問われる前に人々に与えようとしました。導くことが、愛だと思っていた」

 

 風が吹き、Fの白茶けた髪を揺らす。

 

「ですが、与えられた答えでは、人は変われない。痛みの中で、君自身が『こうありたい』と叫ばなければ……どんな正しい助言も、ただの『押し付けられた命令』にしかならないのですよ」

 

 Fは寂しげに微笑み、向き直った。

 

「君が自分で答えを出した。だから、私の言葉が届いた。……それだけのことです」

 

 その言葉の意味を完全には理解できなかったが、Fが自分を「一人のトレーナー」として尊重してくれたことだけは分かった。  鉄の扉を開けかけた彼は、思い出したように振り返り、大きな声で叫んだ。

 

「……でも! 散々俺に恥ずかしいこと言わせて、最後にいいとこ取りするなんて……やっぱり大人は狡いよ!」

 

 Fは目を丸くした後、ふっと口元を緩め、ひらりと手を振って応える。

 

「否定はしませんよ。……伊達に長く生きてはいませんから」

 

 再び静寂が戻った屋上。  Fは、若者が見えなくなった扉を見つめたまま、ゆっくりと空を見上げた。

 

 ふと、視界が歪む。

 

 雨はもう止んでいるのに、頬を温かいものが伝っている。

 

(……ああ。確かに、私は狡い)

 

 記憶を失い、過去を捨て、こうして無垢な若者に「師」のような顔をして説いている。  数時間前には、命を奪う選択をし、ジガルデに見限られた男が。  そして、かつて、誰の言葉にも耳を貸さず、己の正義だけで世界を塗り潰そうとした男が。  「待つこと」も「信じること」もできず、焼き尽くそうとした私が。

 

 Fは濡れた指先を、不思議そうに見つめる。  悲しいわけではない。悔しいわけでもない。  ただ、あの若者が選んだ「不器用で、弱くて、けれど誰も切り捨てない道」が、あまりに眩しくて――胸の奥の、自分が誰かも分からぬ空白が、焼けるように熱いのだ。

 

「……君のような人間が、あの頃の私の前にいてくれたら……」

 

 そこまで呟いて、Fはハッとする。  

 

「あの頃」とは、いつのことだ? 「私」とは、一体何者だったのだ?

 

 答えは霧の中へ消え、意味の分からない涙だけが、止めどなく溢れてくる。  足元で、全てを知るカエンジシが、慰めるようにFの足に重い頭を押し付けていた。  そして、その背中を、遠くの物陰から、戻ってきたジガルデ・10%フォルムが複雑な表情で見つめていた。

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