「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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「……私は……何か大切なモノを、ドブに捨てた気がする」

ホテルZの夕暮れ。 愛犬?のジガルデわんこに家出され、傷心モードのF(フラダリ)の元に、ガラル最強の迷子・ダンデが襲来する。 さらに、Fを崇拝するマダム・ユカリの無茶振りにより、冷蔵庫もワインも空っぽの状態で、フルコースを作ることになり……?

死んだシャンパン、賞味期限切れの紅茶、そしてガイの放つ「カレー粉」の誤爆。 絶望的な厨房で錬成される、『カロスとガラルの架け橋(という名の残飯処理)』。

突き刺さるバゲット。 散らばるスコーン。 そして、Fが血涙と共に紡ぐ、無駄に壮大なカロス風(フランス風)のメニュー名。
美学と胃袋が試される、地獄の晩餐会が開幕する。

※注意※
・F(フラダリ)さんがひたすらに可哀想です
・ガイ君が悪気なく暴走しています
・イギリス料理(ガラル料理)への風評被害が含まれます
・クロワッサンカレー誕生秘話(偽)


第6話:残念ですが、これがあのガイのクロワッサンカレーの発端です

 Fはロビーの古びたソファに深く沈み込み、空になりかけた赤ワインのボトルを天井に向けて掲げていた。  傾いた西日がボトルを透かし、赤い影をFの顔に落としている。  Fがボトルを口から離し、手の甲で乱暴に口元――そして、ひとすじの涙を拭った。

 

「……ああ、この赤は……目に染みる」

 

 Fはそのまま、重力に負けたようにソファの背もたれへとなだれ込んだ。泥酔である。

 

「あーあ。それ、セラーに残ってた最後のヴィンテージワインっスよ? オーナーが大事にしてたやつなのに」

 

 ガイが呆れたように言ったが、Fは虚ろな目で宙を見つめたままだ。

 

「うるさい。……どうせ客など来ない。AZの遺産も……私の美学も……。全て……このアルコールと共に……胃袋の虚無へ消えればいい……」

 

 Fはボトルを逆さにし、最後の一滴まで執念深く飲み干すと、虚ろな目でそれをテーブルに転がした。

 

 ――ウィーン……

 

 その退廃的な静寂を破り、自動ドアが間の抜けた音を立てて開いた。

 

「ハロー! カロス! いやー、まいったまいった! 『ここから徒歩5分』ってナビに出てたのに、気づけば森を抜けてたぞ!」

 

 マントを翻し、堂々と入ってきた男がいた。  手にはスマホロトム――それも、逆さまに持ったそれを掲げている。

 

「すみませーん! ここが『ホテル・シュールリッシュ』で合ってるかな? 部屋に戻りたいんだが、入り口が分からなくてね!」

 

「うわ、派手な人来た……。Fさん、お客さんッスよ。……たぶん」

 

 ガイが小声で囁く。Fはのっそりと顔を上げた。

 

「……んん? ……なんだ君は。……その、目がチカチカするような配色のマントは……。私の色彩感覚への当てつけか……?」

 

「おっと、オーナーの方かな? 俺はダンデ! ガラルのチャンピオンだ! ユカリさん……マダム・ユカリの招待で、このミアレシティに来てるんだが、ちょっと散歩に出たら迷ってしまってな!」

 

 ダンデと名乗る男は、悪びれる様子もなく爽やかに笑った。  Fは眉間に皺を寄せ、こめかみを押さえる。

 

「……シュールリッシュだと? ……君。随分遠くまで来たな! トラムかタクシーを使わないと……一体どう歩けば……この星なしホテルに迷い込めるんだ……?」

 

「ははは! リザードン級の方向音痴とはよく言われる! 一直線の道ほど、冒険の匂いがして曲がりたくなるものさ!」

 

「……冒険などしなくていい……。ガイ君、地図を……いや、説明しても無駄か……」

 

 頭痛をこらえながらFが嘆息すると、ダンデは腹をさすりながら言った。

 

「悪いんだが、腹も減っててね。マダム・ユカリに連絡を取って、迎えに来てもらえないだろうか? スマホロトムの充電も切れそうでさ!」

 

 その名が出た瞬間、Fの肩がビクリと跳ねた。

 

「……マダム・ユカリに……連絡だと?」

 

「Fさん、電話してあげてくださいよ。あの人、Fさんのこと探してるんでしょ? 『私の最強のコーチ』とか言って」

 

「……馬鹿者」

 

 Fは顔を引きつらせ、ガイにだけの聞こえる声量で毒づいた。

 

「私は彼女が……苦手なのだ。あの無邪気な崇拝は……時に最終兵器より破壊力がある……。今のこんな惨めな姿を見られたくない……」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「……いや。……致し方あるまい。迷える王者を放置するのは……カロス紳士の恥だ」

 

 Fは観念し、震える手でフロントの黒電話の受話器を取った。ダイヤルを回す指が重い。死刑台のスイッチを押すかのような重苦しさだ。

 

「……ア、アロー。グランホテル・シュールリッシュですか。……オーナーの、マダム・ユカリに繋いでいただけますか。……ええ、急用です」

 

 保留音が流れる。虚しく響く電子音のメロディは『王者のファンファーレ』だった。  数秒後、受話器から漏れるほどの大声が鼓膜を震わせた。

 

『はい!! お電話代わりましたわ!! どちら様!?』

 

「……あー……ゴホン。私だ。……いや、その……通りすがりの者だが……」

 

 Fは慌てて声を低く変えたが、相手は甘くなかった。

 

『……あら? その、低く響くバリトンボイス……。どこか冷徹で、それでいて隠しきれない情熱(パッション)を感じるその声……。まさか……まさか……!!』

 

「……いや、人違いだ。貴女のところの客人の……ダンデという男が、ここに迷い込んでいる。すぐに引き取りに……」

 

 言い終わる前に、絶叫が響いた。

 

『F様ぁぁぁぁぁぁぁ!!! ああ、F様!! 生きておられたのですね!! どちら!? 今どちらにいらっしゃいますの!? GPS! 逆探知! 今すぐ向かいますわ!!』

 

「……い、いや、来なくていい! 場所は……!!」

 

『分かりましたわ! その古い電話回線のノイズ……。南東ブロック……第4セクター……。ホテルZですわね!! 待っていてくださいませ! 私の愛の力(フルパワー)で、3分……いいえ、1分で参りますわ!!』

 

 ガチャン!! ツーツーツー……。  一方的に切断された通話音を聞きながら、Fは受話器を持ったまま石化した。

 

「おお! 話がついたみたいだな! さすがマダム、行動が早い!」

 

 ダンデの明るい声とは対照的に、Fは魂が抜けた顔で呟いた。

 

「……終わった……。……静寂な夜は……もう来ない……」

 

「Fさん、しっかり! とりあえず、顔洗って髪整えましょう! あと……酒臭いの、どうにかしないと」

 

 ガイが空のワインボトルを隠そうとした、その時だった。  遥か遠くから、高級車の爆走するエンジン音が聞こえ始めたかと思うと、一瞬にしてその音はホテルの真ん前まで迫り、派手な急ブレーキ音が響き渡った。  

 

 -キキキーッ!! ドンッ!!

 

「……来た……。あのエンジン音すら……私の鼓膜を破壊しに来ている……」

 

 バンッ! 自動ドアが手動でこじ開けられる勢いで開く。

 

「F様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 香水の強い香りとともに、マダム・ユカリが突風のように入ってきた。Fは反射的にソファの影に身を隠そうとしたが、瞬時に捕捉された。

 

「ああ! いらっしゃいましたわ! お姿が見えないと思ったら、このような隠れ家(アジト)にいらしたなんて!」

 

 ユカリはFの手を取り、うっとりと見つめる。

 

「少しお痩せになりました? それに、その……ワイルドに乱れた髪……ノーネクタイ……。漂うアルコールの香り……。『堕ちた英雄』の風格……!! 素敵ですわ!!」

 

「……マダム。……声が大きい。私はただの……しがないホテル管理人だ……」

 

 Fが引きつった笑みを浮かべていると、ダンデが駆け寄ってきた。

 

「おお、マダム! 早かったな! リザードンより速いんじゃないか?」

 

「ダンデ様! ご無事でしたのね。ええ、F様のためなら、空も飛べますもの! さあ、帰りましょう。シュールリッシュで最高級のディナーが待っておりますわ」

 

「……そうだ。早く行くがいい。ダンデ君も、腹が減っているのだろう……」

 

「ああ、ペコペコだ! 今ならカレーライス10杯はいける!」

 

 Fが安堵の息を漏らし、二人を玄関へ誘導しようとした。  しかし、その背中に悪魔の囁きがかかった。

 

「あ、それならマダム! ダンデさん! 食べていきませんか?」

 

 Fの足がピタリと止まる。

 

「せっかくFさんと会えたんスし! ここ、ホテルなんで飯も出せるんスよ! それに……Fさん、料理が得意なんです! こだわり強すぎて、俺なんかより全然うまいッスよ!」

 

 Fはゆっくりとガイを振り向いた。目は笑っていない。

 

「まあっ!? F様の手料理!? あの『最強の指導者』であるF様が、厨房に立たれると!?」

 

「……おい。ガイ君」

 

 Fはガイの肩を掴み、ギリギリと力を込めた。

 

「……何を……言っている……? 客に出せるものなど……」

 

「本当か!? そいつは楽しみだ! カロス通のキバナから聞いてたんだ、『カロスの隠れた名店は、路地裏にある』ってな! ぜひ頼むよ! 俺、もう一歩も動けない!」

 

 そう言うと、ダンデはソファにドカリと座り込んでしまった。

 

「決まりですわね! ああ、F様が振る舞うディナー……想像するだけで失神しそうですわ! ではF様。わたくしから、僭越ながら『テーマ(お題)』を出させていただきます」

 

「……テーマ、だと?」

 

「ええ。今日はカロス(F様)とガラル(ダンデ様)の奇跡の会合。メニューは……『カロスとガラルの架け橋』!! 両地方の文化が、お皿の上で優雅に握手をするような……そんな『調和(ハーモニー)』の取れた、スペシャル・コースをお願いしますわ!!」

 

 目の前が真っ暗になった。

 

  -架け橋。調和。

 

 この何もない廃ホテルで。

 

「もちろん、F様の美学が詰まった、最高にエレガントなもので!」

 

「…………承知……した……」

 

 Fは幽鬼のような足取りで、バックヤードへと向かった。  厨房のドアが閉まった瞬間、Fはガイの胸ぐらを掴みかかったが、力なく下ろした。

 

「……貴様……。……殺す気か? 私の社会的地位を……これ以上、粉々にしたいのか?」

 

「ええーっ!? なんで怒るんスか! チャンスじゃないッスか! マダムに認められれば、ホテルの経営も安泰ッスよ!」

 

「……材料は? 『最高にエレガント』なコースを作る材料は、あるのか?」

 

「あ……」

 

 ガイが巨大な業務用冷蔵庫を開ける。中は、冷気だけが虚しく吹き出していた。

 

「……やべ! 買い出し忘れてた! すっからかんッス!」

 

「………!!!!」

 

 Fは剥目して睨みつけた。

 

「あ、でもパントリーに、いつのか分かんない謎の缶詰とか、乾パンとか、お菓子の残りなら……」

 

「……乾いた食材だけで……フルコースを作れと……? ……酒は? 食前酒(アペリティフ)と、メインに合わせるワインは?」

 

「……えっと……。ワインは……さっき、Fさんが全部呑んじゃったじゃないッスか」

 

 ガイがゴミ箱に捨てられた、空のヴィンテージ・ボトルを指差す。Fは無言で顔を覆った。

 

「あるのは……AZさんが飲み残した『気の抜けたビール』と『死んだシャンパン』。あと、俺が自分用に買っておいた『オンラジーナ』と『アエクアリス』くらいッスね……」

 

 万事休す。しかし、Fはゆっくりと顔を上げた。その目は据わっている。

 

「……いいだろう。……やってやる。パントリーの『死蔵品(ゴミ)』と、バックヤードの『死んだ酒』で……。……私の『知識』と『虚勢』と『詩的表現(ポエム)』の限りを尽くして……。あのマダムを……煙に巻いてやる……!」

 

「おお! さすがFさん! 燃えてきたッスね!」

 

 Fは包丁を手に取り、低く唸った。

 

「……これは料理ではない。……『戦争』だ!」

 

 * * *

 

 厨房のシンクには、気の抜けたビール瓶と、シャンパンのボトル、そしてコンビニ袋に入ったペットボトルが並んでいる。

 

「いいか、ガイ君。我々には『食材』がない。あるのは『物質』だけだ。これを『言葉の魔術(メニュー名) 』で補完する。まずはドリンクだ。そのビールと、アエクリアス(ライム味)を混ぜろ」

 

「へい! ビアカクテル『パナシェ』っスね! ……うわ、色が……。藻が繁殖したドブ池みたいな緑色になったッスけど……」

 

「……『深緑の清涼』と呼べ。シャンパンの方は、オンラジーナ・ルージュ(赤)で割れ。炭酸ガスを補填し、色を誤魔化すのだ」 「すげえ……死んだ酒が生き返ったッス! Fさん、これ料理っていうか、科学実験ッスね」

 

 ガイが感心して混ぜ合わせる。

 

「黙って手を動かせ。次は前菜だ。冷凍庫の霜まみれのパイシート、乾いたパテ、そしてカニカマ……。これらをタプナードで塗り固め、最後に大量のキリッチーズで全てを覆い隠して焼け」

 

「キリッチーズは最強の修正液ッスからね! 了解ッス!」

 

 オーブンの予熱音が響く中、Fはメインディッシュの鍋に向かった。

 

「さて、メインだ。ここが正念場だぞ。テーマは『カロスとガラルの架け橋』……。私の構想はこうだ。カロスの伝統料理『カスレ(肉豆煮込み)』をこの残飯……テリーヌ・コンフィ等の錆びた謎缶類と豆水煮缶で作る。ただし、煮込む液体には、ブイヨンではなく……」

 

「まさか……」

 

「そう。パントリーの奥から発掘された、賞味期限切れの『トワニイング(アールグレイ)』だ」 「紅茶煮込み!?」

 

 Fは不敵に笑った。

 

「フッ……そうだ。紅茶はガラルの魂。これを煮込みに使うことで、見た目は茶色い『伝統的なカスレ』でありながら、口に含めば『ガラルの香り』が鼻に抜ける……。これぞ、洗練された大人の『架け橋』だ。ケチャップとウスターソースで味を整えれば、テリーヌの酸化臭も消えるはずだ」

 

「おおー! さすがFさん! 天才的発想ッス! 鍋の中、めっちゃいい感じの茶色いドロドロになってきたッスよ!」

 

 Fは味見をし、頷いた。

 

「……悪くない。紅茶のタンニンが、脂っこさを中和している。よし、これを耐熱皿に移し、仕上げだ。ガイ君、パン粉を振ってくれ。表面をオーブンで軽く炙り、香ばしい焼き色をつければ完成だ」

 

「了解ッス! 仕上げの黄金の粉……これだ!」

 

 ガイが棚にあった使いかけの袋を掴み、躊躇なく皿一面にバサァッと振りかけた。

 

「たっぷり行っとくッスよー!」

 

 その瞬間。厨房の空気が凍りついた。  Fが鼻をひくつかせた。

 

「……ん? ……なんだ、この香りは。香ばしい小麦の香りではない……。クミン……ターメリック……コリアンダー……?」

 

「あれ? なんか黄色い……?」

 

 Fはガイの手から袋を奪い取った。

 

「……ガイ君。ここに……カレーパウダーと書いてあるのが読めんのか……?」

 

「ああっ!? やべっ! パン粉と袋が似てて!!」

 

「PUuuuuTAiiiNNNN !!!!!! クソッタレがぁぁぁ!!」

 

 Fの怒号が狭い厨房に響き渡った。

 

「終わった……!! カスレが! カロスの伝統が! 全てカレー味に上書きされた!! 紅茶の繊細な風味も! テリーヌの深みも! 全てこの東洋の黄色い悪魔が飲み込んでしまった!! これでは架け橋ではない! カレー好きのガラル人による一方的な侵略だ!!」

 

『F様ー? ダンデ様がお腹を鳴らして待ってますわー! まだですのー?』

 

 ホールからユカリの呼ぶ声が聞こえ、Fはハッとした。

 

「……くっ! 時間がない! 作り直す材料も……もうない……!」

 

「Fさん! 逆に考えるンす! ダンデさんはガラル人! ガラル人はカレーが大好き! カレー味になったのは、むしろラッキーなんじゃないッスか!?」

 

「馬鹿を言え! 『カロス要素』はどうする!? ただのカレー煮込みを出して、どこが『架け橋』だと言うんだ!」

 

「架け橋……架け橋……。あ、そうだ!」

 

 ガイが、ゴミ箱行き寸前だった『乾燥したバゲットの切れ端』を掴んだ。

 

「おい、何をする気だ」

 

「こうするんスよ!」

 

 ズボッ!!  ガイは、カレー粉まみれの煮込みの中央に、バゲットを垂直に突き刺した。まるで、荒野に立つ墓標のように。

 

「そして……これだ!」

 

 さらにガイは、ポケットからいつのか分からないパサパサのスコーンを取り出し、煮込みの周囲にバラバラと散りばめた。

 

「中央に聳え立つ『バゲット(カロス)』! その周りを囲む『スコーン(ガラル)』! そして全体を包み込む『カレー(共通の友)』! これで完璧な『友好条約』ッスよ!!」

 

「…………。……貴様……正気か……? 煮込み料理に……バゲットを突き刺し……スコーンを浮かべる……? これは料理ではない……。炭水化物の墓場だ……美しくない……!!」

 

「でももう出すしかないッス! 行きますよFさん!」

 

「ま、待て! せめて盛り付けを……!」

 

 ガイはFの制止を振り切り、その『墓場』を乗せたワゴンを押し出した。  Fは、死んだ魚のような目で立ち上がり、よろめきながらワゴンの後を追うしかなかった。

 

「……『東洋の黄金』……『追憶の王家』……。……言葉を……言葉を紡げ……フラダリ……」

 

 * * *

 

 Fが恭しくワゴンを押して現れた。その足取りは重いが、背筋は悲しいほど伸びている。

 

「……お待たせいたしました。まずは、アペリティフと、アントレでございます……」

 

「おお! 待ってました! 喉カラカラだ!」

 

 Fは震える手で、死んだシャンパンとオンラジーナのカクテルを注いだ。

 

「まずは乾杯のドリンクを。『失われた刻を求めて ~静寂に還った発酵の魂と、現代の錬金術が奏でる再生のマリアージュ~』でございます」 「まあ、なんてロマンティックなお名前……! 『失われた刻』……F様が隠遁されていた日々のことを指しているのですわね?」

 

 ユカリが一口飲む。

 

「……んっ! 刺激的ですわ! 熟成された酸味を、若々しい果実味と、どこか懐かしい薬草の香りが支えています……! これが『現代の錬金術』……素晴らしいですわ!」

 

 酸化したシャンパンとガラナ味のジュースである。

 

「プハーッ! うめぇ! スポーツドリンクみたいにゴクゴクいけるビールだな! リザードン級に体に染みるぜ!」

 

 ダンデも緑色の液体を飲み干した。  Fは内心で安堵した。半分はアクエリアスだ。味覚のハードルが低くて助かった。

 

「続きまして前菜ッス! 『深淵なる黒き大地と深翠の森が織りなすモザイク、その上に降り注ぐ純白の慈雨』ッス!」

 

 ドンッ。

 

 黒いタプナードと緑のほうれん草、オレンジのカニカマが混ざった泥のようなタルトの上に、白く溶けたキリッチーズが乗った皿が置かれる。

 

「なんて前衛的(アバンギャルド)……! まるで現代アートのような色彩感覚! ……濃厚! 塩味がガツンと来ますわ! そしてこの白いチーズ……この『背徳的なまろやかさ』は……もしや高級なフロマージュ・ブラン?」

 

「……ええ。……カロスで最も愛されているチーズです」

 

 子供用だが。

 

「このオレンジ色の魚、歯ごたえがすごいな! ゴムみたいに弾力がある! ガラルじゃ食べたことない食感だ!」

 

 前菜の皿が下げられ、いよいよメインディッシュの時間となった。  厨房から漂う、カロス料理店にあるまじき『スパイシーな香り』に、ダンデが鼻をヒクつかせた。

 

「くんくん……。おっ? なんだこの香りは……。俺の『チャンピオン・センス』が反応してるぞ……! これは……まさか……!」

 

 気づかれたか。もう後戻りはできない。  Fはワゴンの前で深く呼吸をした。吸って、吐いて。  よし。行くぞ、フラダリ。この『有象無象の残飯』を……『神話』に昇華させるのだ。

 

 Fが恭しく皿をテーブルに置く。  そこには、カレー色の煮込みの海。中央に突き刺さったバゲットという名の墓標。周囲に散らばるスコーンという名の岩。  まさに『惨状』としか言いようのない光景。

 

「メインディッシュでございます。カロスとガラルの歴史的融合を謳った、今宵のスペシャリテ……」

 

「まあ! 素晴らしい香り! F様、こちらの『お料理名』を教えていただけますこと?」

 

 Fは目を閉じた。記憶と即興の狭間で、詠唱を開始する。

 

「……コホン。料理名は……『遥かなる東洋の黄金の息吹(カリー)と、王家の琥珀の涙(テ・アングレ)が溜まりし深淵の沼より、聳え立ちし……」

 

 ガリッ! Fは舌を噛んだ。

 

「……うぐっ……失われた文明の…… ……Putain !(……ッ、クソッ!)……」 「……失礼、訂正します……光の巨塔(モノリス)。アルビオンの静かなる岩礁(スコーン)の群島に包囲され、永遠の……ええと……混沌(カオス)……」

 

 思考が詰まる。

 

「……Merde...(……チッ……)……」 「……混沌の記憶と、終わりなき歴史の海へと沈みゆくレクイエム』」

 

 脂汗を流しながらも、Fは言い切った。声は朗々と響いているが、握りしめた拳は白くなっていた。  途中で舌を噛み、少々悪態が混ざったが、兎にも角も言い切った。

 

「す、すげぇ……! なんか途中、呪文みたいな言葉が入ってたけど、とにかく『すげぇ長い歴史』ってことだな! いただきまーす!」

 

 ダンデは気にせず食べ始めた。Fは胸を撫で下ろす。ダンデの大雑把さが今は神に見える。  だが、マダム・ユカリは違った。  メインディッシュ――偽カスレ、あらため、紅茶カレー煮込みを口にした彼女はスプーンを止め、うっとりと陶酔した表情で、その茶色く濁ったソースを見つめていた。

 

「……ああ……。信じられませんわ、F様……。この、深淵を覗き込むような……濃く、深く、美しい『漆黒の茶褐色(ブラン・フォンセ)』……」

 

 煮出し過ぎた紅茶の色だ。

 

「わたくし、一口で理解しましたの。このコク……この複雑な渋み……そして、肉(テリーヌ)がホロホロと崩れ、豆と一体化しているこの食感……。F様。正直におっしゃって? このソース……一体、『何十時間』煮込まれたのですか?」

 

「ぐふっ……!!」

 

 精神に直接ダメージが入る。二十分だ。強火でガンガン沸かした、たったの二十分だ。

 

「三日三晩? ……いいえ、それだけではこの『枯れた味わい』は出せませんわ。まさか……一週間(アン・スメーヌ)? 一週間ずっと、厨房の鍋につきっきりで、灰汁を取り、継ぎ足し続け……この『究極のフォン(出汁)』を育てておられたのですか……!?」

 

「……そ、それは……ご想像に……お任せ……します……」

 

 滝のような汗が流れる。やめてくれ。私の手抜きの紅茶煮を、一週間の苦労に変換しないでくれ。その賞賛は、鋭利なナイフとなって私の良心を切り刻んでいる。

 

「すげぇな! 俺たちが来るって分かってたのか!? 一週間前から煮込んでたなんて、予知能力者かよ!?」

 

「いやー、Fさんの集中力はすごいッスよ! さっき厨房で『時間がない! 強火だ! 紅茶だ!』って叫んで……」

 

「ガイ君!!!!」

 

「まあ! 『時間がない(と感じるほど没頭していた)』……! 『強火(のような情熱)』……! そして『高茶(こうちゃ)』……? はっ! もしかして、高貴な茶葉を隠し味に!? だからこんなにエレガントな香りが……!!」

 

「……マ、マダム……。……もう……もう許してください……。……その絶賛は……私に対する処刑です……」

 

「あら? F様、顔色が優れませんわ? ……ああ、分かりました! 一週間も不眠不休で煮込んでおられたから、貧血気味なのですわね! ガイさん、F様に椅子を!」

 

 Fは崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。

 

「………(……違う……。……これは『煮込み』ではない……。……ただの……『温かい泥』だ……)………」

 

 ユカリ達が感動のあまり涙ぐみながら「泥」をすする音だけが、Fの鼓膜に虚しく響き続けた。

 

 * * *

 

 食事が終わり、デザートタイム。ユカリがうっとりとした表情で口を開いた。

 

「F様。先ほどのメインディッシュのお名前……わたくし、感動いたしましたわ。あまりに美しく、力強い響き……。忘れないように、復唱させていただいてもよろしいかしら?」

 

「……え? あ、はい。どうぞ」

 

 嫌な予感がする。

 

「『遥かなる東洋の黄金の息吹と、王家の琥珀の涙が溜まりし深淵の沼より、聳え立ちし、ウグッ、失われた文明の、……プータン!……失礼、訂正します、光の巨塔。アルビオンの静かなる岩礁の群島に包囲され、永遠の、ええと、混沌、……メルド……混沌の記憶と、終わりなき歴史の海へと沈みゆくレクイエム』」

 

 ユカリは完璧な発音と抑揚で、Fの醜態を再現してみせた。Fの顔から血の気が引く。

 

「……マダム……? そ、そこまで正確に再現しなくても……」

 

「いいえ! 一言一句が芸術ですもの! ……ところで、F様」

 

 ユカリが真剣な顔で問いかけた。

 

「途中で入った、あの力強い破裂音……『プータン!』と『メルド』。そして、冒頭の『ウグッ』という溜め息……。わたくしの勉強不足でお恥ずかしいのですが……あれは、AZ王の時代に使われていた『古代カロス語の偽不定性定冠詞』、あるいは『感情強調の接頭語』でして?」

 

「…………は?」

 

「『プータン!』という響きに、世界への怒りと、塔の崩壊を嘆くような哀切を感じましたの。現代語では『娼婦(※罵倒語)』と同音ですが、文脈からして、F様がそんな汚い言葉を使うはずがありませんもの。きっと、古の、高貴な祈りの言葉なのでしょうね……♡」

 

「…………」

 

 Fの精神は静かに崩壊した。  皿は綺麗に空になった。ダンデは満腹で腹をさすり、ユカリはうっとりとFを見つめている。

 

「いやー、食った食った! 迷子になった甲斐があったぜ! ありがとうF! マダム! そろそろホテルに戻って寝てもいいか?」

 

 ユカリはナプキンで口元を拭うと、真剣な眼差しでFを見つめた。

 

「……F様。わたくし、決心いたしましたわ」

 

「……何をでしょう?」

 

「この奇跡のお料理……『プータン・エ・メルド(光の巨塔)』。これを、わたくしのホテル・シュールリッシュでも提供させていただきたいのです! 是非、レシピを譲っていただけませんこと?」 「なっ……!?」

 

 Fの心臓が止まりかける。

 

「もちろん、タダとは申しませんわ。レシピの監修料、およびライセンス料として……そうですね、ホテルZの修繕費と運営費、今後十年分……いえ、F様が望むだけの相応の対価を準備させていただきます!」

 

「じゅ、十年分!? Fさん! やったッスよ! これで自転車操業から脱出ッス! レシピなんて簡単ッスよ! 賞味期限切れの紅茶と、ケチャップと……」

 

 Fはガイの口をふさぎ、冷や汗を流しながら叫んだ。

 

「…………だ、だが断る!!」

 

「えっ? なぜですの? F様の芸術が、カロスの最高級ホテルで輝くのですのよ?」

 

 言えるか! 最高級ホテルの厨房で『まずは賞味期限が三年過ぎたティーバッグを用意します』『次に使い古したテリーヌの残りを入れます』『仕上げにパン粉と間違えてカレー粉を誤爆します』などと!!  そんなレシピが世に出れば……シュールリッシュのブランドは崩壊し、私はカロス料理界の『戦犯』として歴史に名を残してしまう!!

 

「F様……? 汗がすごいですわ……」

 

「……ゆ、ユカリさん。この料理は……レシピ化できないのです。これは……そう……『一期一会』の奇跡……。今日の湿度……バックヤードの混沌……そして私の心の昂ぶり(極限の焦り)……。全ての不確定要素(ミス)が重なって生まれた……二度とは再現できない瞬間の芸術なのです……!」

 

「……瞬間の……芸術……。……わたくし、なんて浅はかだったのでしょう。『レシピ』という型に嵌めて、大量生産しようだなんて……。F様の『美』は、その瞬間に消えゆくからこそ、美しいのですね……!」

 

 Fはハンカチで顔を拭いながら、力なく頷いた。

 

「……そ、その通りです……。ですから……この話は……忘れ……」

 

「ええー……十年分の運営費が……。もったいないッスよFさん。俺なら再現できるのに……」

 

 小突いてくるガイの足を、Fは強く踏みつけた。

 

「黙れ。……金で……魂(プライド)は売らん……」

 

 本当は、喉から手が出るほど欲しいが。  Fは、目の前に積まれた「架空の札束」が燃えていく幻覚を見ながら、血の涙を流して耐え忍んだ。

 

「ただ……一つだけ」

 

 ユカリがFに近づき、耳元で囁いた。

 

「お味は『革命的』でしたが……。やはり、バゲットを垂直に突き刺すのは……少々『男らしすぎ』ますわ。もう少し……エレガントな曲線を持つパン……そう、例えばクロワッサンなどを添えれば、より完璧な『調和』になるかと思いますのよ?」

 

「……! クロワッサン……。……貴女は……やはり鋭い……」

 

「じゃあなF! また来るぜ! 次はリザードンも連れてくるよ! あいつ辛いもの好きだからな!」

 

 嵐のように二人は去っていった。  ロビーには、精神を使い果たしたFと、興奮冷めやらぬガイだけが残された。

 

 * * *

 

 客が去り、静まり返ったロビー。  Fはソファに深く沈み込み、天井のシミを見つめていた。ガイは片付けをしながら鼻歌を歌っている。

 

「いやー、大勝利でしたねFさん! あのダンデさんが『おかわり』するなんて! それにマダムも『レシピを下さい』って! 俺たちの即興コース、最強じゃないッスか!」

 

「……ガイ君。……あれは勝利ではない。……伝統とプライドを、カレー粉で塗りつぶした……敗北の記録だ」

 

「またまたー。あ、そういえばマダムが最後に言ってましたよね? 『バゲットを突き刺すのは男らしすぎる』って。あれ、次はどうします? 塔をやめて、普通にパンを添えます?」

 

 Fはハッとして体を起こした。

 

「……そうだ。塔は……崩さねばならん。バゲットは……カレーの汁を吸うには『硬すぎ』て、突き刺すには『長すぎ』た……」 「じゃあ、パンを変えます?」

 

「……マダムの助言通りにするしかないだろう。……自身が『層(レイヤー)』を持ち、空洞を含み、ソースを抱き込める構造のパン……。……クロワッサンだ。あれならば……突き刺さずとも、皿の縁に添えるだけで『月(クレセント)』のような曲線を描ける……」

 

「おお! 『クロワッサンカレー』! 響きもオシャレだし、カロリーもマシマシっスね! 了解ッス! 明日からそれで行きましょう!」

 

 Fはよろめきながら立ち上がり、洗い場へ向かった。  そこには、カレーと脂と、ふやけたパン屑で汚れた皿が山積みになっている。蛇口をひねると水が皿の汚れを流していくが、Fの心の汚れは落ちない。

 

「……こうして……世界はまた一つ……誤った方向へと進化するのか……美しいカロスを……守りたかった。……汚れのない世界を……作りたかった。だが、今の私はどうだ? ……賞味期限切れの紅茶と……カレー粉で……人を騙し……。……その賞賛に安堵している……」

 

 カツッ……カツッ……。

 

 静寂の中に、軽い足音が響く。自動ドアが開いた様子はない。いつの間にか、そこに「それ」はいた。

 

「……おお……。……戻ってきたか……」

 

 そこには、黒と緑の体躯を持つ犬――ジガルデが立っていた。  Fが出て行った時と同じ、感情の読めない瞳で、Fを見上げている。

 

「……私を……笑いに来たのか? ……それとも……こんなに落ちぶれた私でも……慰めに来てくれたのか……?」

 

 ジガルデはそれを無視して、近付いてくる。Fは観念したようにため息をついた。  膝をついて、泡だらけの手で、ジガルデの頭をくしゃくしゃと撫でようと手を伸ばす。  だが、ジガルデは差し出されたFの手をスルーし、スタスタとFの足元へ歩み寄った。

 

「(フン)」

 

 そして、Fのくたびれてしまったアルトマーレ製高級革靴のつま先に狙いを定め――片足を上げた。

 

「……え?」

 

 ジョロロロロ……。

 

 静かなロビーに、水の流れる音が響く。

 

「…………あ」

 

「あーあ。Fさん、マーキングされちゃいましたね。『ここは俺の縄張りだ』って」

 

 ジガルデ(10%フォルム)は用を足し終えると、スッキリした顔で足を下ろした。そして、Fを一瞥もせず、Fの私室――一番ふかふかのベッドがある場所へと、軽やかに走り去っていった。

 

 ワン!

 

 という声は、「寝るぞ」と聞こえた。  ロビーには、靴を汚されたFと、カレーの匂いだけが残された。

 

「……変なカレーを作らされ……。……プライドを捨てさせられ……。……最後は……靴に……小便だと……?」

 

 Fは、天井のシャンデリアを仰ぎ見た。一部の電球が切れていて、薄暗い。  Fの叫びが、ホテルZの吹き抜けに木霊した。

 

「PUuuuuTAiiiNNNN...!!!!!!  なんてこったぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「明日からクロワッサンカレーの仕込み、忙しくなるぞー! Fさん、靴洗っといてくださいねー!」

 

 * * *

 

 翌早朝。

 Fは自室で呻いていた。

 スマホのSMSに流れてきた投稿を見たからである。

 

 

 

『Madame_YUKARI_Official』

 

 薄暗い照明の中、フラッシュをたいて撮影された一枚の写真。皿の中央に墓標のように突き刺さるバゲット。その周囲には、ドロドロの茶色い液体と、ふやけたスコーンが散乱している。奥には、疲れ切ったFの手元と、満面の笑みのダンデのピースサインが見切れていた。

 

『昨夜は、再開発エリアの隠れ家「ホテルZ」にて、ガラルチャンピオン・ダンデ様と共に、奇跡のような晩餐会でしたわ✨ ️

 

わたくしが敬愛してやまない「あの方」が、自ら厨房に立たれ、振る舞ってくださったスペシャル・コース。 カロスとガラルの魂が、お皿の上で激しく、そして優雅に融合していました…。

 

写真はメインディッシュ。 その名も…『遥かなる東洋の黄金の息吹と、王家の琥珀の涙が溜まりし深淵の沼より、聳え立ちし、ウグッ、失われた文明の、プータン!……失礼、訂正します、光の巨塔。アルビオンの静かなる岩礁の群島に包囲され、永遠の、ええと、混沌、メルド……混沌の記憶と、終わりなき歴史の海へと沈みゆくレクイエム』 (通称:『プータン・エ・メルド ~祈りと嘆き~』)

 

一週間以上(わたくしの推定)煮込まれたソースの、枯れたような深み…。 そして、古代カロス語の「Putain(強き祈り)」と「Merde(深き嘆き)」を冠する、この圧倒的な世界観! バゲットを垂直に突き刺すという、マスキュリン(男性的)でアバンギャルドな演出に、わたくし、目眩がいたしました…  

 

あまりの感動に、ホテル・シュールリッシュでの提供を懇願いたしましたが、「これは一期一会の瞬間の芸術。二度と再現はできない」と、固辞されました。その潔さ、その美学……やはりF様こそが、カロスの真の王(キング)ですわ ✨

 

ダンデ様も「カレーの味がする!美味い!」と大絶賛。(カレーのような香りは「東洋の黄金」というスパイスのマジックですのよ、ダンデ様ウフフ )

 

最高の夜をありがとうございました 

 

#HotelZ #Dinner #Gastronomy #Kalos #Galar #F様 #私の師匠 #男の料理 #前衛芸術 #プータンエメルド #祈りと嘆き #古代カロス語 #バゲットの角度がすごい #一週間煮込んだ味 #Dande #ChampionTime』

 

 

 

「……いいね!の数が……数万件……? 『プータン・エ・メルド』が……トレンド入りしている……? ……『祈りと嘆き』……? ……『一週間煮込んだ』……?」

 

 スマホを持つFの手が震える。

 

「……殺せ……。……誰か私を……殺してくれ……」

 

 Fは静かにスマホの電源を切り、枕に顔を埋めた。

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