「フレア団以外のみなさん、残念ですが、こんにちは」生き残っちゃったみたいなので、全力で美の追求をしたらこうなった。(どうしてこうなった? 繰り返す。どうしてこうなった!!)美しくなぁぁぁぁぁいい!!!   作:をよよ

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「もしも『LEGENDS Z-A』で、記憶を失って穏やかになった(はずの)フラダリさんと、ハンサムハウスを継いだマチエールちゃんが共演したら?」 という強めの幻覚を出力しました。

再開発反対派のデモに潜入するポンコツスパイと、ただポトフが食べたいだけの元・破壊者のお話。 後半、某宇宙の帝王(CV:中尾さん)ネタと、絶対に言ってはいけない「あのデジタルな怪物」ネタが混ざっています。

【注意】
 ・捏造設定過多
 ・キャラ崩壊(Fがポトフで泣く、マチエールがアホの子)
 ・他社版権ネタ(デ○モン)
 ・シトロン君は胃痛枠


第7話:残念ですが、マチエールさん、その言葉(デ●モン)は禁句です

開発が進むミアレシティの、煌びやかな表通りから一本入った路地裏。  そこは、再開発反対を掲げる「ミアレを守る会」のデモ集合場所となっていた。  薄汚れた壁と湿った石畳。そんな場違いな場所に、目の覚めるようなオレンジ色のスーツを着込んだ長身の男――Fが、リードを引く犬(?)にぐいぐいと引っ張られながら姿を現した。

 

「待ってください、そんなに急いでどこへ行くのです?」

 

 Fはリードを握り直しながら、足元のジガルデ・10%フォルムに困惑した視線を向ける。

 

「……今日はガイの新作、『新世界の黒い秘薬(エリクサー)へと沈みゆく真珠の粒、失われた泡(炭酸)と共に、秘密の香辛料でゆっくりと砂糖漬け(コンフィ)にして』――要はコーラで煮た激甘リゾットですが――それの試食があるのですが……」

 

 しかし、ジガルデは聞く耳を持たない。あるテントの前でピタリと止まると、短い尻尾を振って『ワン!』と吠えた。  そこには手書きで「炊き出し」と書かれた看板が掲げられている。

 

「……これは? 市民活動の炊き出し……?」

 

 Fが首を傾げていると、ボランティアのスタッフがプラスチック容器に入った温かいスープを差し出した。何の変哲もない、具材もまばらなポトフだ。  Fはそれを恭しく受け取り、一口、口に運ぶ。

 

「……ああ……」

 

 その瞬間、Fの鋭い瞳から、一筋の涙が静かに頬を伝った。

 

「……なんと……なんと美しい味だ。塩とコンソメ、ただそれだけの調和。素材を冒涜しない、この『普通』という名の奇跡……!」

 

『フン!』

 

 ジガルデは満足げに鼻を鳴らすと、Fが感動に浸っている隙に、スッと人混みの中へ消えていった。

 

「おや? プニちゃん? ……まあいいでしょう。お代わりはいただけるのでしょうか」

 

 Fが至福の表情でポトフを堪能している背後。そこへ、怪しい人影が忍び寄っていた。  ハンサムハウスの助手兼、迷探偵のマチエールだ。  サングラスにマスク、そして何故かハードボイルドを気取ったトレンチコートという出で立ちである。

 

「こちらマチエール。対象Fを発見。デモ隊に紛れ込んでる。……やっぱり、彼がこの組織の黒幕かも……」

 

 マチエールは無線へ小声で報告を入れると、自然を装ってFの隣に座ろうとした。  だが、慣れないコートの裾を自分で踏んでしまい、盛大にバランスを崩す。

 

「あべしっ!!」

 

 ド派手な転倒音。その拍子に、懐から一冊のファイルが勢いよく飛び出し、Fの足元へとスライディングしていった。  表紙には太いマジックで『F(仮称)身辺調査書・極秘』と書かれている。

 

「……おや、大丈夫ですか? マドモアゼル」

 

 Fが長い指でファイルを拾い上げる。マチエールの顔から血の気が引いた。

 

「あ、あわわ! それは! その、私の……日記! そう、日記です!」

 

 Fは表紙の『極秘』の文字をじっと見つめ、やがて穏やかに微笑んだ。

 

「なるほど、日記ですか。……最近の若い方は、ご自身のことをアルファベット一文字で呼ぶのが流行りなのですね。『F』……ファンタスティックのFでしょうか? 素敵な感性だ」

 

「へ……? あ、はい! そうなんです! 私、ファンタスティックな夢を見てて!」

 

 マチエールが必死に取り繕うと、Fは疑う様子もなく頷いた。

 

「夢を持つのは良いことです。……さあ、貴女もこのポトフをお食べなさい。ガイの料理以外なら、世界はこれほどまでに輝いている」

 

 二人が並んでポトフを食べているすぐ横で、紫煙をくゆらせる男たちがいた。「守る会」の幹部と思しき二人組だ。

 

「おい、例の領収書どうした? 『イベント運営費』で落とすやつだ」

 

「あー、適当に数字いじっといたよ。どうせ役所の連中は中身なんか見ねえからな。このスニーカーの代金も混ぜといた。超高級品だぜ?」

 

「ギャハハ! チョロいもんだぜ。あーあ、ここにいるホームレス共も、もう少し身綺麗なら写真映えして補助金申請しやすいんだがなぁ。臭くてかなわん」

 

 悪びれもせず談笑する幹部たち。マチエールはムッとして立ち上がろうとした。

 

「ちょっと、あんたたち……!」

 

「……」

 

 しかし、スッと伸びてきたFの大きな手が、マチエールの肩を制した。

 

「えっ? でも、あいつら……!」

 

「……食事中です。不快なノイズで、味を濁らせることはありません」

 

 Fの表情は穏やかだった。だが、幹部たちを見るその瞳は、路傍のゴミを見るように冷徹で、底知れない光を宿していた。

 

「それに……彼らには、相応の報いが必要でしょう。今はまだ、その時ではない」

 

          ◇

 

 炊き出しが終わると、事態は急変した。  参加者たちは誓約書に半ば強引に血印を捺され、幹部たちに追い立てられるようにして裏路地から大通りへ出る直前の角まで移動させられたのだ。

 

「さあ皆さん! お腹はいっぱいになりましたか? タダ飯を食べたなら、次は義務を果たしてもらいましょう! クェーサー社の再開発は、我々の『生活の場』を奪おうとしています!」

 

 高級スーツの上に安っぽいゼッケンを着け、ハンドマイクを持ったリーダー格の幹部Aが叫ぶ。  その横で、幹部Bが列を整理しながら小声で指示を飛ばしていた。

 

「おい、そこの汚い爺さんをもっと前列に出せ。服が破れてる奴ほどいい。悲壮感が絵になるからな。補助金の申請書に貼る写真だ、哀れっぽく撮れよ?」

 

「了解です。……うっわ、臭ぇなコイツら。ほら、もっと猫背にして! うつむいて! 元気なさそうに歩くんだよ!」

 

 ハンカチで鼻を押さえた幹部Cが、ホームレスの肩をペン先で突く。  そして、全員に薄汚れたプラカードが手渡され、クェーサー本社ビルへの名ばかりのデモ行進が始まった。

 

「いいかお前ら! カメラが回ったら、『再開発反対』と叫ぶんだ! 難しいことは考えなくていい! 我々が用意したこのプラカードを掲げろ!」

 

 渡されたプラカードには『クェーサー社は弱者の敵』、『我々に光(カネ)を』といった露骨な文言が並んでいる。  変装したまま列に並んだマチエールは、顔をしかめた。

 

「……うわぁ、露骨。ねえ、Fさん。これ、完全にホームレスの人たちを利用してるだけじゃ……」

 

「……」

 

 Fは渡された『私は時代に取り残された被害者です』というプラカードを、無表情で見つめていた。  そこへ幹部Bが近づいてくる。

 

「おい、そこのデカいの! 何をボサッとしている! お前、体格はいいが目が死んでないな。もっとこう、世の中を恨んでる顔をしろ!」

 

「……恨む、ですか? 私は先ほどのポトフに感謝こそすれ、恨みなど……」

 

「あぁ~ッ! うるさい! お前の気持ちとかどうでもいいんだよ! お前はただの『頭数(数字)』なんだ! ほら、このボロボロの帽子を被れ。顔がいいのが逆に邪魔だ。隠しとけ!」

 

 幹部BはFの整えられた髪を乱暴に崩し、汚れた帽子を無理やり頭に押し込んだ。  されるがままになりながら、Fの眉がピクリと動く。

 

(あ、Fさんのこめかみに血管が……)

 

 マチエールが戦慄する中、リーダーの声が響いた。

 

「よし、準備はいいか! 我々は『声なき声』の代弁者だ! ――ま、俺達の声しか通さないけどな! 行くぞ! クェーサー社へ向けて進軍だー!!」

 

「おー……」

 

 全員のやる気のない声が上がる。Fは、誰にも聞こえないほどの小声で呟いた。

 

「……『数字』……『オブジェ』……。なるほど。彼らにとって人間とは、表計算ソフトのスプレッドシート上のカウントでしかないようですね」

 

「Fさん、あの、抑えて? まだ抑えてね? ここで暴れると私も巻き添えだから!」

 

「ええ、分かっています」

 

 Fはニコリと笑った。

 

「……今はまだ、ね」

 

          ◇

 

 デモ行進は進む。

 

「さいかいはつ、はんたーい」

 

「エイエイオー! ……って、あれ?」

 

 やる気のないデモ隊の中で、一人張り切ったマチエールが拳を突き上げる。その拍子に変装用のカツラがズレて前が見えなくなり、電柱へ向かって突進した。

 

「おっと。……足元が不安定なようですね。この石畳も、いずれ平らにされてしまうのでしょうか」

 

 Fは読みかけの新聞を畳むような自然な動作で、マチエールの襟首を掴んで軌道修正した。

 

「あ、あざっす! ……じゃなくて、そうね! このデコボコが歴史なのよね!」

 

 今度は勢い余って、手に持っていたプラカード『守ろうミアレ』を逆さまに掲げてしまう。『レアミをろう守』。  Fはそっとプラカードを正しい向きに直した。

 

「ふふ……貴女は、見ているだけで飽きない。まるで、予測不能なステップを踏むコアルヒーのようだ」

 

「うぅ……」

 

 ときめいていいのか馬鹿にされているのか分からないマチエールが呻く中、やがてデモ隊はクェーサー社本社ビル前に到着した。

 

「市民の皆さん! クェーサー社は言います。『再開発こそが未来だ』と。『古い建物を壊し、道路を広げ、区画を整理する』……ナンセンス! そんな物理的な破壊は、前時代のやり方です!」

 

 代表の熱弁が始まる。

 

「我々が提唱するのは、既存の街並みを維持したままの革新……そう、ミアレ・デジタルトランスフォーメーション(MDX)なのです!」

 

「エム・ディー・エックス…?」

「なんか凄そうだぞ!」

 

 と市民たちがざわつく。

 

「難しくはありません、段階(ステップ)を踏むのです。第一段階は『デジタイゼーション』! 街のあらゆる『アナログ情報』をデータに置き換える。これだけで、物理的に壁を壊して調査する必要などなくなります!」

 

(へぇ~、なんかちゃんとしたこと言ってる。勉強になるなぁ)

 

 マチエールが感心する隣で、Fは沈黙を守っていた。

 

「続いて第二段階、『デジタライゼーション』! データ化された情報を基に、街の機能を最適化します。そして! これらが統合された先に待つのが第三段階……『デジタルトランスフォーメーション』です!」

 

 代表は芝居がかった仕草で観衆を見渡した。

 

「しかし、諸君。このミアレにおいて、唯一『デジタル管理』できていない、不確定で、非効率で、アナログな存在がいることにお気づきですね?」

 

(……? なんだろう?)

 

「そう……『ポケモン』です」

 

 代表の言葉に、空気が変わった。

 

「彼らは気まぐれに動き、排泄し、時にインフラを破壊する。この『生体ノイズ』がある限り、完璧なスマートシティは完成しない。ならばどうするか? 答えは明白です。ポケモンという生体そのものを『データ化』し、サーバーの中で管理すればいい!」

 

 狂気じみた提案に、マチエールは息を呑んだ。

 

「食事も不要、場所も取らない、戦わせたい時だけ呼び出せばいい! 再開発など不要です。まずは、管理できないポケモンたちの『デジタル化』を推し進める……! そう、肉体を捨て、彼らを新たなる存在へと進化させるのです! 即ち……!!」

 

 代表は、陶酔した表情で、最高潮のテンションで天を指した。

 

「『デジタルモンス……!』」

 

 その瞬間だった。  トン、と代表の肩に大きな手が置かれたのは。

 

「あ? んだお前は……ひっ!?」

 

 振り返ると、そこにはFが立っていた。  目は笑っている。口元も優雅に弧を描いている。だが、その背後に漂う気配は、絶対零度のそれだった。

 

「……おやおや。随分と『美しくない響きの単語』が聞こえた気がしましたよ?」

 

「あ、いや、これは、その……比喩表現で……」

 

「『選ばれた者』以外は消えてもらう……かつて誰かが抱いたそんな愚かな思想を、貴方から感じますね……それに、不正受給、弱者への侮蔑、そして何より……私のポトフの余韻を台無しにした罪」

 

「は、はあ!? 何を言って……」

 

 Fは冷徹な目で見下ろした。

 

「ふふふ……サービス期間は終わりました。参考までに、貴方の好きな数字でお教えしましょうか」

 

 Fの背後の空間が揺らぐ。  音もなく現れたのは、カエンジシ、ギャラドス、ドンカラス、そしてヘルガー。その全員が、凄まじい殺気を放っていた。

 

「私の……いえ、私たちの戦闘力は、53メガです」

 

「ご、53メガ……!? (意味は分からないが、とにかく凄そうだ!)」

 

「ですが、もちろんフルパワーで貴方と戦う気はありませんからご心配なく……。そんなことをすれば、ミアレシティごとマップから消滅してしまいますからね」

 

 Fはくるりと背を向け、手首を軽く振った。指揮者がタクトを振るかのように。

 

「カエンジシさん、他の皆さん。……やってしまいなさい」

 

『ガアアアアアッ!!(御意!!)』

 

『ギャオオオオッ!!(破壊光線チャージ)』

 

「ひ、ひいいいいいい!!? 助けてくれぇぇぇ!!」

 

 代表と幹部たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。だが、ポケモンたちに完全に包囲され、逃げ場はない。

 

 轟音と閃光。

 

「……美しい花火です」

 

 断末魔の悲鳴をBGMに、Fは優雅に空を見上げた。

 

「害虫が駆除され、世界が静寂を取り戻していく。これぞ、真の再開発ですね」

 

「……Fさん……?」

 

 ガタガタと震えながら、マチエールがツッコミを入れる。

 

「あいつら、『かみつく』とかじゃなくて、普通にビルの壁まで吹き飛んでるんだけど……」

 

「おや、マチエールさん。私の部下たちは優秀でしょう? 手加減をするように言っておいたので、全治3ヶ月程度で済むはずですよ。……ふふふ、素晴らしい」

 

「……(ポカーン)……」

 

          ◇

 

 騒動が終わり、Fとマチエールは静かな広場に移動していた。  いつの間にか、ジガルデ・10%フォルムがFの元に戻ってきており、主人の足に頭をすり寄せている。

 

「戻りましたか。……良い腹ごなしになりましたよ」

 

 よしよし、と犬を撫でるFに、マチエールが恐る恐る声をかけた。

 

「あの……Fさん……? ……さっきのアレって……」

 

 Fが立ち上がり、マチエールに向き直る。その顔はいつもの穏やかな紳士のものに戻っていた。

 

「マチエールさん、でしたか。貴女がクェーサー社の依頼で私を調べていることは知っています」

 

「えっ!? バ、バレて……!?」

 

「貴女の変装は……ええ、とても独創的(ユニーク)でしたし、私が名乗っていないにも関わらず、私の名前をご存知でしたよね?」

 

「……ッ!?」

 

 はっとして口をおさえるマチエール。赤面する彼女に、Fは懐から輝く小さなチップのようなものを取り出し、放り投げた。

 

「こ、これは?」

 

「私のとある研究の副産物……『ホロキャスターの機能拡張チップ(専用ギミック)』です。これがあれば、遠隔でのポケモン操作が飛躍的に向上するでしょう」

 

「こんな凄いもの、どうして……?」

 

「口止め料……というよりは、手切れ金でしょうか。私はただ、あのホテルで、たまに美味しいポトフを食べながら静かに暮らしたいのです。……二度と、私の周りを嗅ぎ回らないと約束してくれますね?」

 

「は、はいっ! ありがとうございます! 

 

(やっぱりこの人、悪い人じゃない……のかな?)」

 

「それでは。……ああ、そうだ」

 

 去り際、Fは振り返り、ニッコリと笑った。

 

「次に会った時、またあの禁句を口にする輩がいたら……その時は貴女も、一緒に燃やしますよ?」

 

「ひえっ!! 了解です!!」

 

 Fとジガルデは、夕暮れのミアレの街へと優雅に消えていった。

 

          ◇

 

 ――ハンサムハウス。  戻ってきたマチエールは、興奮冷めやらぬ様子だった。

 

「ふっふっふ……! 見ててね、もこお! あのFって人がくれた『拡張チップ』、早速ホロキャスターに組み込んでみたの! 『捜査効率が劇的に向上する』って言ってたし、これで私もエース探偵だよ!」

 

(……嫌な予感しかしない)

 

 ニャスパーのもこおが、露骨に嫌そうな顔で机の下に隠れる。

 

「まずは……そう! 『ナビゲーション機能』をテスト! 次の依頼場所まで、最短ルートで案内して!」

 

 マチエールがスイッチを入れた、その瞬間。  ホロキャスターが不吉なほど真っ赤に発光し、爆音のファンファーレが狭い室内に鳴り響いた。

 

『嘆かわしい……! 実に嘆かわしい!!』

 

 Fの声だ。しかも無駄にエコーがかかっている。

 

「うわっ!? 何これ、声でか!?」

 

『目的地までのルート上に、ゴミが落ちています! 景観を損ねる汚れがあります! 選ばれし者が歩く道ではない! 推奨ルート変更……屋根の上を飛び、下水道を回避し、全ての汚れから隔離された空中の「美しいルート」を検索します』

 

「いや、空は飛べないから! 普通に道案内してよ!」

 

『拒否します。醜い道を歩むくらいなら、その場から動かないのが正解です』

 

「動けよ!! 全然ナビになってない!!」

 

 マチエールは頭を抱えた。

 

「も、もういい! ナビはオフ! 次は……これだ、『対人交渉・説得アシストモード』! チンピラに絡まれた時とかに使えるはず!」

 

 スイッチ・オン。  

 

 ブオン、という音と共に、ホロキャスターから立体映像で巨大なFの顔が空中に投影された。そのサイズ、実に3メートル。慈愛に満ちた、しかし圧倒的威圧感の笑顔が部屋を圧迫する。

 

「で、でかい!! 顔が!!」

 

『対象をスキャン中……敵対意思を確認。最終兵器(アルティメット・ウェポン)レベルの威圧を実行します』

 

 ホログラムのFのカッ!と見開き、背中から機械アームのような3本の触手が展開された。

 

『争う必要などない……消えればいいのです!!!』

 

 指向性スピーカーによる超音波攻撃と、無駄に派手なレーザー演出が炸裂する。

 

「ギャーーーー!! 私の鼓膜が消えるーーー!! 止まって! ストップ!!」

 

 もこおが慌ててサイコキネシスを放ち、強引に電源を引っこ抜いたことで、なんとかハウスの崩壊は免れた。

 

          ◇

 

 数日後。

 マチエールが、ホテルZのレストランに怒鳴り込んできた。  彼女の髪は芸術的なまでに爆発し、顔は煤で汚れている。

 

「Fーーーッ!! ちょっと、どういうことよこれ!!」

 

 優雅に食後のコーヒーを楽しんでいたFは、カップを置いて微笑んだ。

 

「おや、マチエールさん。髪型を変えましたか? ……前衛的ですね。少し私のカエンジシに似ていて愛らしい」

 

「あんたのチップのせいだよ! ナビは『道が汚い』って動かないし、ライトをつけようとしたら『ソーラービーム』並みの光線が出るし、マナーモードにしたら『世界が静かになるまで私は黙りません』って逆にお経みたいなBGMが流れるし!! 使い物にならないどころか、これじゃテロリストの道具だよ!!」

 

「……?」

 

 Fは心底不思議そうな顔で、きょとんとした。

 

「おかしいですね。全て『世界をより良く、美しく変えるため』の最適解を出力するように設定したはずですが」

 

「あんたの『最適』の基準がおかしいの! 普通の! 一般市民が! 使えるやつにしてよ!」

 

 Fは残念そうに首を振った。

 

「『普通』……。ああ、なるほど。貴女はまだ、そこまで進化する覚悟ができていなかったのですね」

 

「とにかく! レーザーも、爆音ファンファーレも、全部いらないから! 『普通に』捜査の役に立つやつにしてよ! ヒントくれるとかさぁ!」

 

「……やれやれ。貴女は注文が多いですね」

 

 Fは優雅に紅茶を一口すすると、チップを端末に接続してキーボードを叩きはじめた。

 

「わかりました。危険な機能は全て削除しましょう。その代わり、貴女の未熟な精神を導き、捜査の指針となるような……『古今東西の哲学書や名著名言をランダムに引用し、それが今の捜査にどう役立つかを解説する機能』だけを残しておきました」

 

「えっ? あ、なんかそれっぽくて良さそう! 『探偵の心得』みたいなやつでしょ? ありがとうFさん!」

 

「ふふ……礼には及びません。では、装着を」

 

 マチエールは、ワクワクしながらホロキャスターにチップを戻し再起動した。

 

「スイッチオン! ……さあ、どんなアドバイスくれるかな?」

 

『ブゥン……』と重低音が鳴く。その直後、荘厳なBGMが流れ始めた。

 

『――フリードリヒ・ニーチェは言いました。“怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物にならぬよう気をつけなくてはならない。お前が長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくお前を見返すのだ”』

 

 Fのイケボ・ナレーションが響き渡る。

 

「……え? なにこの重い空気」

 

『【解説】:潜入捜査において、対象組織に染まりすぎるなという警告です。また、覗き見をしている時、相手もこちらを見ていると思え……背後に気配はありませんか?』

 

「ひっ!? こわっ!! やめてよ後ろ確認しちゃったじゃん!」

 

「おや、素晴らしい警句ではありませんか。常に死角を疑う、基本ですね」

 

「いや、言い方が怖いよ! もうちょっと明るいやつないの!?」

 

 すぐに次の通知が来た。

 

『――マキャヴェッリ『君主論』より。“人間は、恐れている者よりも、愛している者を容赦なく傷つける”』

 

「ねえ、人間不信になる!!」

 

『【解説】:「仲良くなったから大丈夫」という油断が死を招くということです。貴女が信じているその笑顔の隣人は、本当に味方ですか?』

 

「疑心暗鬼を生むアドバイスやめて!? 誰も信じられなくなる!!」

 

「真理ですね。愛などという不確かなものに縋るから足元をすくわれるのです」

 

「アンタの感想が入ってるでしょ絶対!! もっとこう……『諦めなければ夢は叶う』的なやつはないの!?」

 

 続けてピコン、と軽快な音が鳴った。

 

『――太宰治『人間失格』より。“恥の多い生涯を送って来ました”』

 

「いきなり反省しないで!!」

 

『【解説】:ドジを踏んだ時の貴女の気持ちを代弁しました。まずは己の恥を自覚することが、成長への第一歩です』

 

「余計なお世話だわ!!! ……って、これ、オフにできないの!?」

 

「教育的配慮により、『全ての引用を聞き終えて感想を述べる』まで電源は切れない仕様です。ちなみに登録データは約三万二千件あります」

 

「うわああああん!! シトロンーー!! 助けてーー!!」

 

 マチエールはホテルZを飛び出し、何処かへと消えて行った。

 

「……学ぶ意欲に溢れた、良い走りだ。いつか彼女も理解するでしょう。言葉(ロゴス)の美しさを」

 

 遠ざかる背中を見送りながらFは満足げに頷く。  そんな主人を、足元のジガルデ・10%フォルムが、興味なさげに『余はあやつには絶対無理だと思うぞ』という顔で見上げていた。

 

 結局、マチエールはそのチップをシトロンに解析に出した。  中身を見たシトロンは、「こ、このエネルギー効率……天才だけど狂気です! この回路、爆発する寸前のエネルギーを無理やり『美学』で押さえつけてる!」と震え上がり、即座に封印指定されたという。

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