邪悪な羊飼い〜TRPG的世界にて次は好きに生きる〜 作:紅シャッケ
「ん、結構重いな」
たかだか木の棒と言ってもそれを扱うのは小学生以下の体だ。畑作業を初めて筋力の値が不可から可にはなって成長してきてはいるため力は上がってきてはいるのだが…完全に制御というわけにはいかないようだ。
どちらかというとまだ振る、というよりも棒に振り回されてしまう状態だ。
まだ何ができるかの段階でなく何をしたいか、その指針を固めている最中なのだ。
そのため本来筋力に行くはずだった分の経験点をスキルに回したり貯蓄している、いわばケチった状態だ。スキルも肉体に関するスキルを幾らか取ったがそれも生活に必要なものであり戦うためのものではない。
まあその状態でどこまで近い歳の人間とやりあえるのか確かめるのも面白いか。
取り敢えずカタチだけでも半身になって構えてみる。相手と接する面を減らしつつリーチを生かせる攻防一体の構え…と言ってはみたが中高共に柔道選択だったのでこれで合ってるのか分からんな…。
なんだかフェンシング的な持ち方のような…まあいいか。
「いつでもどうぞ」
まずはお手並み拝見といったところか。様子見をし続けている私に痺れを切らしたのかランスは助走をつけて全力で攻撃する模様だ。
「やあっ!」
よし、早いがちゃんと振りは見える。
上から下へ、振り下ろしなら横に構えて受けに入る、が。
「ッ!?」
よく考えれば半身になるということは必然的に片手で持つということだ。そして片手で持てば当たり前の様に出せる力も半減する。両手で持ち、十分な助走を持って繰り出したランスの攻撃を受け止めきることが難しいのは当然のことだった。
弾かれた手がビリビリと痺れるように痛む。
体格的には私の方が勝っていたのでなんとか力で攻撃の軌道を逸らすことはできたが…片手で持つならまともに正面から受けるのは避けたほうがいいか。
というか…手心というか、コイツ人に向かって振るのに一切躊躇をしていないぞオイ…。躊躇なく振り下ろされた棒は完璧に脳天を捉えていたためもし防御に遅れるか力押しに負けていたらそのまま直撃、最悪打ちどころが悪ければ死んでいただろう。
子供の倫理観というものなのだろうか?いやでも流石にそんなこと普通の奴はしないと思うのだが。
まあそれでも当たらなければどうということはないという言葉がある通りに…縦振り、横振り、袈裟、流石に全部何も考えずフルパワーで振っているだけに予備動作が見える見える。
攻撃が急所までの最短のものだけで確実に殺りにきているのが怖いが、見えてさえいれば素人の私でも見てから避けるか止めることができる。
前世じゃ剣術なんて一切学んだことなんてないが流石に何も考えず振り回すガキを相手にして負けるということはないだろう。それだけ大人と子供の思考力、対応力というものは違うものだからね。
そして常にフルパワーを出すということは燃費が悪いということだ。受け続けているだけで疲労が蓄積して段々動きが鈍くなってきている。そろそろ頃合いだろうか。
今度はこちらから縦の大振りで
「ッ、オラァァア!!」
…注意を引いたところで思い切り蹴る!
流石に子供相手に手を挙げるのは不本意なので手に持っていた棒を思い切り蹴り飛ばしてやる。
すると見込み通り長い間棒を振り回し握力が弱くなっていたのか簡単に棒は弾きどばされて明後日の方まで飛んでいってしまった。
何だか格ゲー初心者特有の相手の動きを見ずに自分のやりたいことを押し付けてくる人のようだったな。
仕掛けられた時の対応があまりにお粗末で…でもまあよく考えてみれば子供相手に大人気なかっただろうか?これぞ赤子の手を捻るが如くってね。
「悪い悪い、ちょっと大人気なかったな。というかこの遊び自体危ないからやるとしてももう少しスポーツによった物をだな…」
「すごい!!」
え
「なー!なー!今のもっかいなー!!」
…えぇ?
チャンバラ以降、ランスが妙に懐いてしまった。
朝起きて土いじりをしていれば腕を引かれて遊んでくれるまで引っ張られ、起きていなければ叩き起こされてそのまま遊びに連れて行かれる。
最初の頃は別に毎日遊ぶ程ではなかったため別にそんなに気にはならなかった。が、しかし1日、また1日日を跨ぐ度家に来るスパンがどんどん短くなってくる。これはどうしたものかとランスに他に遊ぶ友達はいないか聞いた時には既に後の祭りであった。
基本私は村の中での交流を行っていなかったため知り得ないことだったのだが、村の子供の中ではどうやらランスは触れるの厳禁のタブー的存在らしい。彼らの大半はランスによって遊びと称してボコボコにされ、今ではランスを見ると逃げ帰る始末。
そりゃあ遊びであんだけ全力で攻撃されたらみんなビビるよね。
…村の子供が全員ランスみたいなスタンスじゃなかったのはよかったが。
それで棒で殴りかかって逃げなかった上倒されたことがきっかけで私だけがランスの
そもそもこちらとしては勝手に棒振り回して勝手に弱っていった所に少しちょっかいを掛けたら倒れた程度の認識の為剣術もクソもないのだが、ランスの中では剣を使われず倒された=卓越した剣技の使い手ということに変換されてしまったようだ。
これに対して元々インドアかつ個人主義気味の私は一ヶ月に一度、いやせめて一週間に一度くらいの交流で十分だったのが、毎日家の前で遊びに誘われては親の目もあり断りづらくあり、そのままなし崩し的にいつも一緒に過ごす相手となってしまった。
クソが。
…いや、別に子供が苦手というわけでもランスのことも嫌いではないよ?嫌いでは。
それでも私は休日は一人で映画鑑賞したり、散歩がてら小洒落た喫茶店でコーヒーを頼み自己陶酔に浸りながら静かに過ごすタイプ…絶望的にパワフルな子供の遊びとは相容れない存在なのだ。
今はなんとか修行と称して素振や走り込みをさせているのでまだなんとかなっているが、おそらくランスの性格上すぐ…。
「んぁ〜」
飽きが来る。運動についてはあまり造詣が深くないのでラダートレーニングだの漫画から仕入れたなんちゃって剣術の特訓知識だの色々趣向を変えてはいるものの流石にこう何度もやっていると子供には辛いか。表情に退屈の二文字が張り付いているのが分かる。
「なー?なー?」
袖を引っ張り続けて仕切りに何かを訴えかけてきている。
…これはあれか?子供がおもちゃ屋に親を引っ張っていく時に見たことがあるな。どこかでで遊びでもしたいのだろうか。
…そういえばこの世界に生まれてきてからずっと経験点集めに躍起になっていたけれど、まともに村の中で動き回った子度がないな。いつも大体遊びも近場で完結しているし…幾らなんでもこの引きこもり具合はいかがなものだろうか。
この機会に一度見て回るのも悪くはないか。
それに流石にまともに相手をせずに都合の良い友達として子供を扱い続けるのはアレすぎるしな。
「よし、分かった。あー、案内…いや村の中を探検に行くぞ。師匠命令としてついてこいランス」
それにこうして自分の中でぐるぐるぐるぐるスキルについて考え続けるのはあまり健康的ではないな。自分の中で物事を完結して考えるよりも、外に目を向けて何か魔力や固有スキルについて突破口が開けるものだろう。
「お?おー!」
ランスの案内の元しばらく村を案内をしてもらった。といってもランス自体が何かを語るわけではないがどうやらランス同年代から避けられている分年上から可愛がられているようで同行しているだけで随分と他の大人の雰囲気が軽く…とまあそれはいいだろう。
そして見回った感想としては…違和感、と言うべきか。
まだなんとも言えないが単純に不明な点とこの村の何か不可解な点が混ぜ合わせられている気がする。
村をざっくり見てみたところ高低差が激しくある上で石造りの民家が村といえる規模の大きさで点在、主要な施設は仰々しい教会と牧場?で殆ど放牧の形をとっていた。がかなりのスペースを占めていた。この村の主要な産業は畜産なのだろうか?その割には人がいるように見えなかったが…このあたりのことは後で親に質問すればいいだろう。
そしてこれら全てを包み隠すように村の四方の隅が霧のようなものに囲われている。
霧のせいで村の周りはあまり見えないため周囲が観察出来ないがが恐らくはこの村は山地に位置しているのだと思われる。
最もこれは前世のものなのでその前提から違うような世界であるならわからないが。
しかしその中でも特に直感的にだがなんというか気持ち悪さと言うのだが…まとわりついてくるような悪意のようなものを霧から感じる。
…科学的に考えてみよう。霧というものは標高が高さによる圧力、温度の関係で凝縮が起こりやすいから発生しやすくなるものなので山岳地帯であれば出ていること自体は確かにおかしくはない。
だがこの霧は場所が村の外というと言う定義だけで高さを無視してぐるりと包み込んでいる。特に村の中では出ていないのに関わらずそれよりも高さが低い場所でも発生しているのはおかしいことではないだろうか…。
いや単純に霧でなく雲である可能性もある。私は別にそこのあたりを見分ける知識など持っていないしな。
しかしそれを加味しても人が作った意図を感じるような純粋な自然とは違う違和感を感じるものだ。
しかし村民はこの霧に対して疑問などを浮かべている様子などがない…これは思考誘導的なものを掛けられていると考えた方が良いのだろうか?それとも単純にこの世界の文明的におかしさを感じれていないのだろうか。
「ランスはこの霧のこと何か知ってることあるか?あと考えてる最中に背後をとって強襲しようとするのはヤメロ」
「んあー!?何でバレたー?」
【蝙蝠の耳】は聞き耳を立てるためだけのスキルではないんだよなぁ。肉体の仕組みを作り変える特質スキルがどのようなものか把握するため取得したスキルだがこのスキルのおかげで今では斥候の真似事のようなこともできる。
数キロ先の針の音…は無理でも周囲数十メートルのことは手に取るようにわかる。
「もっと足音を消すことを推奨します…で、霧のことは?」
「きり?」
…
「分かる?アレだ白いモヤモヤで囲むようにでてるヤツ」
「おー、アレな〜。かみさまのごかごってパパが言ってたぞー?」
「神の加護?」
「おー、いつも村を外から守ってくれてるって」
うーん?加護というと私についている
それにこの霧について、いつも出ているのか。
年中朝から昼までの間村の周りを歩くと朝露で足がびしょ濡れになってしまう程には低温度の気候だ。私の予想が正しくてこの場所が山地に位置しているのなら確かに霧が出やすいのも頷けるだろう。
しかし、だ。ランスの口ぶりから捉えられるのは
つまりこれが示すことは村の中にまで入って来ずに外側にだけいつも発生しているということだ。
……調べるべきか。別にそれが変なことではなければ笑って済ませればいいし、考えすぎに悪いことはないか。
「……まずここは一旦様子を見て分析をして…いきなり突撃するよりか何か小動物でも突っ込ませるか?(ボソッ)」
それにしてもこの霧が意図的なものであるのなら人を外から隠したいのかそれとも中から逃げ出させないようにするものなのか。
「きり?の中に入るのかー?」
「あ〜、うんまぁそんな感じ」
まあ何にせよ入らなければわからないが…入るとしても他の人間にバレないようにした方がいいのだろうか?それと道がわからなくなったりした時のため布か何かを用意して印をつけたりでもするべきだろうか?
アニメや小説のセオリーだと方向感覚をおかしくする魔法的なものがいかにもかけられていそうだ。
「うん」
「それじゃあ行ってくるなー?」
「うん」
…?
「うん?」
は?
え、今どこに行くって言った…
「無茶ぁッ!」
なんでいきなり入るんだよ!?ちょっと子供だからで許せない浅慮…お前は親譲の無鉄砲か!?坊ちゃんなのか!?
ランスを追って走る。しかし私はステータスの走力の部分はあまり注視してないしなんなら引きこもり気味だった。それに比べて走り込みなど普段から高い運動負荷を私がかけさせていたランスは加速を初めて霧の中に突入していく。
違いで言うと私は小走り程度、方や相手は自転車での全力疾走程度の速度の差だ。ぐんぐんと距離が離されて背中が見えなくなっていく。
迂闊だったな…こういう予想外の出来事が起こると本当に胃が痛くなる。特にこの年代の人間…と言うかランスをを考慮すべきだったが…。
ランス自身、相手の親、自らの立場。様々なことが湧いて浮かんできて嫌な想像ばかりが過ぎる。
「クソッ、見えずらいな…」
瞬間
!?何かが横切っ
「んー?あれ〜!?」
???????
背中が見えなくなって軽く数メートル先で霧に包まれて数秒程度。なぜだか前を全力疾走していたはずのランスが隣を駆け抜けていた。
どゆこと?
少なくとも同じ方向に全速力で直進していたからこちら側に180度回転して戻ってくるのはおかしいはずだが。
それに向きが変わるなら多少なりともスピードが落ちていくはずなのだが…?思い切り走っていたランスは私に気を取られてそのまま全速力で目の前の木と衝突する。
「!?おい、大丈夫か!」
声をかけたところケロッとなんともなかったように立ち上がり、何故だかキラキラした目でこちらを見つめてくる。
とりあえず色々考えないといけないことはあるが。
「…一旦戻るか。夢中で走って帰り道わからなくなったとかそんな馬鹿げた話になりたくないからな。」
とりあえず情報を得られたことを良しとしよう。割りの悪い博打かもしれないが飛び込んでみることで分かったと言うことで。
はあ、今後はもっとランスに見られていると言うことを考えた立ち振る舞いを…というか周りに友達としてポジションを立たせるのならもう少し賢い振る舞いを身につけさせなければ。
…友達
ランスは友達がいない。師匠という特別な存在ができてそれに初めて頼られたのが嬉しかったのだろうか。
………勝手に突っ込んでたとはいえ師匠という立場を利用して私が突撃させたようなものか。
後味悪いなぁ…と。
そんなことを考えていた私はランスが後ろにいたはずの私がいきなり目の前に現れたことでさらに師匠としての地位を確固たるものとさせたことに気づいていなかったのであった。
「一先ず助かった、か?」
「ん〜。」
「本当に頭は大丈夫なんだよな?痛みが出たらすぐ言えよ?」
…よし
「ランス、少し話をしよう。」
私はもう少し相手と向き合って話すべきだった。人付き合いが苦手だからといって避け続けることでもないか。
話を聞いてやろう。私を師匠と呼び、私のために働いてくれたのだ…それなら年齢的(精神)に本当の友達には成れるとは思えないが友達としての働きは行ってやろうではないか。
初めはボーっとしていたが、聴き始めていると次第にランスは拙いながらも自分の言葉で様々なことを私に話した。好物、チャンバラ、父、母、村の人間についてのこと。
聞けばランスは思ったよりも饒舌であった。勝手に話しづらさを感じていたのはは多分、子供だからという私の偏見とランスが正しく相手に伝える術を知らなかったからか。
「それでなー?…みんな集まっててなー?騎士ごっこして遊んでてー、楽しそうだったから一緒に遊んでなー?」
「…それで全員ボコボコにして伸したのかよ。遊びで。」
「それでその事パパに言ったらなー?正しい強さを身につけろって。だから強いヨンが師匠なー?」
「普通にそのパパにその強さを教えてもらったらいいんじゃ無いかなぁ!?」
ランスが物事をちゃんと詳細に語らないのは年齢相応のものかと思っていたが、それに加えて父親譲りだったのだろうか。コイツのの父親が言いたいことはなんとなくわかるが深いような話をするならその中に入れる中身までちゃんと説明してくれよ迷惑すぎるわ!
「たしかにパパのが強いけどな!んー、でも一番すごかったのはヨンだったから」
すごい…すごいねぇ、普通に剣術とかわかる人間とかに教わって欲しいものだが…まあとりあえずコイツの行動原理と避けられる理由、そして抱える問題の解決法がわかった。
「まあつまり俺がお前を”皆んな”の中に入れる手伝いをしてやればいいわけね。」
そうすりゃ過剰に付き纏われる心配もなし、其の中に私も混ざれば親の心配を消せてよし…ランスは本当の友達が手に入りwin-winnということかな。
「まあ正しく強くなれって言われて今みたいにただ棒を振ってるだけじゃ夢のまた夢だな。というか何も考えず相手の急所を
「ん〜…ゆめ?」
「あー、夢っていうのは目標というか…今のはそれを達成するのが難しいけどまあこうなったらいいな的な希望みたいなので…」
うん、ぶっちゃけ前世で何も考えず生きるということを肯定し続けていた私が語ることでは無いからうまくは言えないな。
「この場合今のお前が達成すべきな最終目的な夢はみんなと仲良くなりたいってところかな?」
「ヨンのはー?」
「あー」
確かに深く考えずに過ごしてきたが…前世では自由の刑に処されるという言葉を体現したような生き方であった。目的意識を持たずただ過ごしているだけ…それは悪いことではないがというのは一種の地獄だという教訓を得ることができた、それならば。
「まずは自分が変わることか」
前世《まえ》のように死んでいないだけではダメだ。生きるということは死んでいないということではないのだから。
私は正しい人の在り方として自らの存在をただ肯定し続けることでなく目的を持ち、意思をもって運命を切り開くことをできるようにならなければならないのだ。
乗り越えるべき相手が前世の自分とは内容だけ見れば少年誌的な手展開だなぁ。
…実情がこれでは全くもって熱い展開とは言えないが。
本当に。