僕が剣聖として生きるのは間違っているだろうか 作:ダウナーすこすこてぃっしゅふぉーるど
みんなありがとう〜!
あけましておめでとう御座います!
ラインハルトの誕生日に間に合わなかったよ
―――私が、オラリオに正義を探しに来たのは間違いだっただろうか?
「……ぁ、ぐっ……!」
殴打の衝撃に、身体が悲鳴を上げた。
骨に響く鈍痛。息が詰まり、視界が歪む。
眼前には、剣を抜き、こちらに切っ先を向ける“悪い人”。
私の背後には、顔面蒼白で、全身傷だらけになった女の子が倒れ込んでいる。
雨に濡れた剣先が、鈍く光る。
それは、確実に私の命を奪うための形をしていた。
正直震えが止まらない、ただ怖い。
――でも。
それは、
長い旅路の果て、ようやく辿り着いた英雄都市オラリオ。
英雄がいるとされるこの街なら、きっと答えがあると思った。
そんな時だった。
悲鳴と呻き声、そして怒声が耳に飛び込んできた。
大雨の中、考えるより先に身体が動いた。
手を掴まれて怯える女の子と、拳を振り上げる男。
勢いのままに跳び蹴りを叩き込んだ。
――そこまでは、よかった。
けれど相手は、女の子を手放してよろめいた。
たったそれだけ。
その後は、散々だった。
激昂した男に殴られ、蹴られ、地面に叩き伏せられた。
(……相手が悪かった)
一撃一撃の重さで分かる。
この男は、
一方の私は、ただの一般人。
恩恵を授かっていない、何の力もない子供。
「邪魔しやがってっ……死ね」
振り下ろされる剣筋を見つめながら、
私は不思議なほど冷静に、こんなことを思っていた。
(剣で斬られるって、きっと……すごく痛いんだろうな)
当たり前の感想と同時に、今までの想い出が急速に蘇る。
(……これが、走馬灯ってやつなのかな)
◇◇◇
物心ついた頃からだったと思う。
私は、とにかく曲がったことが大嫌いだった。
正しいことをすれば、両親は喜んでくれた。
読み聞かせてくれた英雄譚の中の悪役に向かって、私はよく言った。
それは悪いことでしょ? おかしいよ。
そう聞くと、両親は笑って答えた。
「アリーゼは真っ直ぐでいい子ね。悪いことはいけないものね」
その言葉を、そのまま信じた。
だから私は、悪いことが嫌いだった。
間違ったことが、どうしても許せなかった。
『正しさ』。
それは、アリーゼ・ローヴェルという少女の、絶対的な価値基準だった。
小さな町。
子供たちは
『間違い』には、相手が誰であろうと立ち向かった。
正論を述べ、正答を示せば、世界は良くなると信じていた。
『正義』を標榜していた。
対立してくる男の子を、力で黙らせたこともある。
曲がったことは、正さなければならないと思っていた。
そんなことを繰り返していれば、子供でも分かる。
私は、周囲より
それを誇ろうとは思わなかった。
力を振りかざしたいとも思わなかった。
ただ、この力が『正しいこと』に繋がるのなら。
それで、よかった。
――――ある日、私は『異変』に気づいた。
きっかけは、相手を怪我させたことだった。
一番の友人を、いつも苛めていた意地悪な男の子。
後になって分かった。
あれは、彼なりの好意だったのだと。
友人は、私を一番の友達だと思ってくれていた。
だから、何をするにも私を優先してくれた。
それが、彼には許せなかったのだ。
そんな男の子を―――、
私は、初めて本気で傷つけた。
「あああああああ!! 痛いいいいいっ!!」
男の子が泣き叫ぶ姿。
額から流れ落ちる、鮮やかな血の色。
それは、私が思い描いていた『正義』とは、あまりにもかけ離れていた。
両親にも、相手の親にも、たくさん怒られた。
一番仲の良かった友人は、少しずつ、私から離れていった。
最後に見た彼女の目は、
いつもの、笑うとへにゃりと垂れる優しい目じゃなかった。
そこにあったのは、怯えだった。
それから。
『正論』を言い、『正答』を示すほどに。
子供も、大人も、私から離れていった。
『正しさ』の形。
『正義』の在処。
神様なら知っていると思った。
けど――。
町の自警団を束ねる神に尋ねても、返ってきたのは嘲笑だけだった。
私は、怒った。
私が求めているものが何なのか、誰も答えてくれない。
自分の行動が、本当に『正しい』のか分からなくなって。
だから、旅に出た。
探し求めた。
怒って、怒って、怒って――――気がつけば、いつも泣いていた。
戻ることも出来ない旅路の中で。
心細くて。
求める在処も分からないまま。
涙さえ隠れてしまうほどの大雨の中で。
私は、このオラリオに辿り着いた。
『正しさ』とは何か。
『正義』とは、どこにあるのか。
それを知りたくて。
そして――
私は、出逢った。
「―――そこまでにしてもらおうか。それ以上の狼藉は、僕が許さない」
雨音を切り裂く、澄んだ声。
誰よりも正しく。
いついかなる時も、『正義』を体現する人。
◇◇◇
「なんだ、てめぇは――【
アリーゼへと振り下ろされるはずだった剣は、寸前で――少年の左手に握られた、鞘に納められたままの剣によって受け止められていた。
金属が噛み合う鈍い音。
しかし、衝撃はほとんど殺されている。
「どうやら……自己紹介は必要なさそうだね」
淡々とそう返し、少年は左腕を素早く突き動かす。
受け止めた剣を弾き飛ばすように突き放し、間髪入れずに前蹴り。
「ぐぁっ!?」
男の体が後退し、距離が生まれる。
「間に合ってよかった。大丈夫かい?」
苦痛に呻く男を横目に、少年は振り返った。
純白の
アリーゼは、その瞬間――動きを止めた。
雨が降っているのは、この人のせいなんじゃないか。
そんな馬鹿げた考えが浮かぶほど、
蒼穹を宝石に閉じ込めたような碧眼が、まっすぐこちらを映していた。
献身。
それ以外の言葉が見つからない。
少年は泥水が跳ねるのも構わず、二人の前にしゃがみ込む。
「よく頑張ったね。今のうちに、これを使って」
懐から取り出されたのは、二本の
「体を癒すといい」
「あ……ありがとうございます」
どきり、と心臓が跳ねた。
距離が、近い。
端正な顔立ちが、アリーゼの背後で倒れ込む少女へと向けられ、僅かに歪む。
「……酷いことを」
少年は静かに言った。
「その
そう言って、少年は立ち上がる。
振り返った視線の先には―――憎悪を燻らせる男の姿。
怒りに任せて握り締められた剣の柄が、軋む音を立てている。
「
踏み込み。
縦に、大振り。
「――隙だらけだよ」
呟くような声。
少年は半身をずらすだけだった。
「なっ……あ!?」
行き場を失った剣先が、地面に突き刺さる。
ずがぁっ!
凶悪な音に、アリーゼの体が強張る。
その一瞬で、少年は男の懐へ入り込み掌底。
「ぉぐっ!?」
衝撃に、男の体がくの字に折れる。
続け様に、剣を握る右手へ手刀。
力が抜け、剣が落ちる。
少年は流れるようにそれを拾い、引き抜き――一閃。
雨粒すら弾き飛ばす剣圧が、男の首元へと吸い込まれ――、
「ひっ!?」
ぴたり、と止まる。
死の恐怖に、男は腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。
「……これで終わりだね」
少年は淡々と呟き、懐から手錠を取り出す。
男の両手を後ろへ回させ、拘束した。
「くそっ……これが天才ってやつかよ!? 気持ちいいか!? てめぇの『正義』振り翳して、人を傷つけるのはよ!!」
身動きも取れず、反撃すらできず。
男は吠える。
その言葉に―――反応したのは、アリーゼだった。
胸が、ずくりと疼く。
怪我をさせてしまった、あの男の子から言われた言葉と同じだったから。
それが理由で、『正しさ』を探しに旅へ出た。
「なんとか言えよ! 黙ってねぇで! 見下してんのか!? 冒険者になってすぐ
「―――失礼」
少年が、男の叫びを遮る。
「あまりにも謂れのない言葉だったから、少し驚いただけだよ」
静かな声。
「それと……当然だけど、見下してはいない」
女神アストレアの最初の眷属。
その
神すら羨む剣技を持つと噂される、一年前に現れたアストレア・ファミリアの超新星。
「僕が正義を為すのは……
「……っは?」
声を漏らしたのは、男ではない。
アリーゼだった。
信じられなかった。
悪を挫き、弱者を守る姿。
あまりにも眩しいその行いが――自己のためだという。
「自分が、そうしたいからしているだけさ」
少年は続ける。
「正義に形なんてない。ただ、僕が行った正義が巡り巡って、誰かの正義の一つになればいい」
一瞬、苦笑して。
「……まあ、悪く言えば自己満足だけどね」
その姿と、その言葉。
不思議と、アリーゼの胸にすとんと落ちた。
「……正義は、巡る……?」
思わず漏れた呟き。
「正義に正解なんてないからね」
少年は穏やかに言う。
「でも、皆が考える正義が、僕が思った正義と重なるなら……そうなっていけばいい。だから」
左手に持った剣を、男の鞘へと納めながら。
「正義は巡るんだ。少なくとも、僕はそう思っているよ」
男と、視線が合う。
そして――呑まれた。
そこにあったのは、先程まで暴力を振るっていた相手に向けるべき感情ではない。
裁きでも、怒りでもない。
ただ、慈愛だった。
「貴方の苦労は、僕には分からない。でも……僕の苦労も、貴方には分からない」
静かな声音だった。
「……そりゃ、そうだが」
「うん。まあ、少なからず……貴方よりは苦労していないだろうけどね」
一息ついて、少年は空を見上げる。
先ほどまで激しく叩きつけていた雨は、いつの間にか勢いを失っていた。
赤毛が、しっとりと濡れる。
「貴方達みたいな先人の冒険者がいたから、僕はその後ろを歩いてこられた。効率的に進めたのも、今の立ち位置に立てたのも……全部、自分一人の力じゃない」
ゆっくりと視線を落とし、再び男と目を合わせる。
「だから、次は僕が道を切り開く番だ。後から来る人たちが、迷わないように」
一拍。
「今回、貴方はしてはいけないことをした。だから償う必要がある」
しかし、声は冷たくならない。
「……でも、その先だ。貴方が再起するその時まで、僕が目印になろう」
それは約束のようであり、宣言だった。
―――今までがそうであったように。
正義が、巡るように。
「だから……どうか堕ちないでくれ」
少年は、ほんの少しだけ苦笑する。
「流石にね。僕の身体はこの通り、まだ小さい。貴方が道から逸れたら、引っ張り上げるのも一苦労だからさ」
「……っは」
男は、乾いた笑いを漏らした。
「傷一つ付けずに無力化した奴が言う台詞じゃねぇな」
少年は肩を竦め、男の腕を取って立ち上がらせる。
「さ。憲兵のところへ行こうか」
それから振り返り、アリーゼたちに告げた。
「君たちも、ついておいで」
こうして――アリーゼと少女を襲った暴行事件は、【正義の執行者】によって終息した。
◇◇◇
「……あの」
手続きと事情説明を終え、
少年が慣れた手つきで
怪我をした少女は治療院へと搬送され、アリーゼにも同行を勧められたが、彼女はやんわりと断った。
その場に残ったのは、アリーゼと少年だけ。
意を決して、アリーゼは声を出す。
「どうかしたかい?」
少年は穏やかに振り返る。
「ああ、安心して。この後、君も安全な場所まで送るから」
「……そのことじゃなくて。それに、私……家族とは、離れたから」
「……それは、失礼をしたね」
それ以上踏み込むのは得策ではないと判断し、少年は話を促す。
「それで、どうしたんだい?」
「まだ……お礼を言えてなかったと思って。助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
即答だった。
「気にしなくていいよ。僕のファミリアとしての方針に従っただけだから」
ファミリア。
この人に
『正義』を示す神は、どんな
「……なんて名前の神様なの?」
「アストレア様だよ」
少年は自然に答える。
「正義と秩序を司る神だ。その神意に惹かれて、僕は眷属になった」
「……っ、なら!」
アリーゼは、息を吸い込む。
「私も、そこに入りたい!」
少年の碧眼が、大きく見開かれた。
「私は『正しい』ことをしてきたと思ってた。でも、故郷で色々あって……分からなくなった」
震える声で、しかし真っ直ぐに。
「だから……貴方みたいな人がいる神様――いいえ、アストレア様の眷属になって、『正義』を探したい!」
緑の瞳に宿る真剣さ。
張り詰めた表情と、僅かに震える身体。
冗談ではないと、少年は悟った。
「……アストレア様次第だけど」
そう前置きしてから、微笑む。
「僕は、歓迎するよ」
「ほんと!? 嬉しい!」
差し出された少年の手を、アリーゼは飛びつくように握った。
ぴょんぴょんと跳ね、全身で喜びを表現する。
その姿に、少年は思わず笑う。
(……こっちが本性か)
「そういえば、名前を聞いてなかったわ!」
勢いよく言う。
「私はアリーゼ! アリーゼ・ローヴェルよ!」
「そうだったね」
少年は一息つき、改めて名乗る。
「同じファミリアになるかもしれないんだ。僕も名乗らせてもらうよ」
「僕の名前は――」
少しだけ間を置いて。
「ラインハルト。ラインハルト・
ラインハルト。
その名前を、アリーゼは心の中で反芻する。
まるで、大輪の花が咲いたような笑顔が、自然と浮かんだ。
いつの間にか、雨は止んでいた。
「ラインハルト! じゃあ、ラインハルト
――――ああ。
私が『正義』を求めて、この街に来たのは間違いじゃなかった。
主人公一人称は次回持ち越し。
あと2〜3話まではプロローグ気味。
主人公の一人称視点と、リューと、日常会的なサムシングかけたらかいてアストレアレコードに入ります
幕間が描く話(各副題は活動報告にあり)
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