僕が剣聖として生きるのは間違っているだろうか   作:ダウナーすこすこてぃっしゅふぉーるど

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日間一位記念。
皆ありがとー!

前回のアイズ襲来時点で、時間軸は進んでます。
混乱させてすまんやで。
ちな、アストレアレコード準拠で考えると、死の七日間の一年前や


アイズ・ヴァレンシュタイン

 ラインハルトが星乙女の眷属(アストレア・ファミリア)に迎えられてから、六年の歳月が流れた。

 その類稀なる才覚は着実に磨かれ、積み重ねられた努力と実績によって、現在の階位は――第一級冒険者(Lv.5)

 凡そ一年に一度という異例の速度で器を昇華させ続けるその歩みは、もはや“天才”の一言では片付けられない。

 次点で団長(・・)アリーゼがLv.3へと到達し、さらに一年半ほど前に加わった金髪の妖精(エルフ)リュー・リオンを含め、ファミリアの眷属数は十名余りへと拡大していた。

 規模としては中堅。

 しかし、その名は今や――オラリオにおいて知らぬ者はいない。

 

「――ラインハルト」

 

 本拠地(ホーム)星屑(ほしくず)の庭』。

 荘厳さと清廉さを併せ持つその建造物は、正義と秩序を掲げる眷属たちの在り方を体現しているかのようだった。

 

 早朝。

 差し込む朝陽が白壁を淡く染め、まだ多くの団員が眠りの中にある刻。

 その静寂を裂いたのは、女神アストレアの声だった。

「どうかされましたか、アストレア様」

 外へと繋がる扉の前に立っていたラインハルトは、穢れのない白の戦闘衣(バトルクロス)の裾を翻し、振り返る。

 交わる視線。

 夜を湛えた藍色と、蒼穹を閉じ込めた碧眼。

「今日はダンジョンに向かうの?」

「いえ。本日は、先日交わした約束がありまして」

「あぁ……昨日話していた、ロキのところの――【戦姫】だったかしら」

 【戦姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 オラリオ最大派閥の一角、道化神(ロキ)の眷属にして、新進気鋭の中では、今もっとも注目を集める剣士の一人。

「えぇ。剣を教えてほしいとの事で。事前にご報告できず、申し訳ありません」

「謝ることはないわ。頼まれたら断れない貴方の性格、今に始まったことじゃないもの」

 ふふ、とアストレアは微笑み、からかうように続ける。

「それに――今や貴方は“そういう存在”ですものね?」

 その言葉に、ラインハルトは珍しく整った顔を歪めた。

 

 否定できない。

 団長アリーゼを擁するアストレア・ファミリアは、既にオラリオ屈指の名声を誇る派閥となっている。

 中でも、最初の眷属にして【剣聖】の二つ名を持つラインハルトの存在感は別格だった。

 団員への戦闘指南。

 ギルドからの冒険者依頼(クエスト)達成率は驚異の百パーセント。

 巡回(パトロール)に出れば、それだけで闇派閥(イヴィルス)の活動が沈静化するとさえ噂される。

 緊急時を除き、頼まれれば断らない。

 その姿勢も相まって、街の住民や商人からの信頼は厚く、【星屑の庭】へ戻る際には贈り物を抱えて帰ることも珍しくない。

 先日の昇格(ランクアップ)記念に開かれた酒場での宴会など、居合わせた客たちが示し合わせたかのように会計を済ませていたほどだ。

「貴方が人気者なのは、主神として誇らしいことよ。でも……」

 アストレアは一歩踏み込み、からかうような、それでいてどこか甘い声で告げる。

 

「たまには、私を最優先にしてほしいわ」

 

 その蠱惑的な微笑みに、ラインハルトは思わずたじろいだ。

「も、申し訳ありません……今からロキ・ファミリアに断りを――」

 真剣な面持ちで踵を返そうとした、その瞬間。

 

「ちょ、ちょっと! 冗談よ、冗談!」

 

 慌ててアストレアが駆け寄り、その手を掴んで制止する。

「本当に気にしてないわ! 大丈夫だから!」

 その言葉に、ようやくラインハルトは安堵の息を吐いた。

「……ですが、蔑ろにしているのは事実ですので」

「私は満足しているのよ?」

 優しく、しかし確かな声でアストレアは言う。

「非公式での他派閥との会合に、護衛として付き添ってくれるだけで十分。それに――」

 視線を細めて、微笑む。

「貴方が、私を主神として一番に想ってくれていることも、ちゃんと伝わっているわ」

「……っ」

 この時間帯。

 二人きりだからこそ許される、かつての日常の残り香。

 立場は変わった。

 ラインハルトは【剣聖】と呼ばれ、アストレアは中堅派閥を率いる女神となった。

 それでも――。

「ただし、次の休日は私に付き合ってもらうわ」

「えぇ。アストレア様の気が済むまで、お供いたします」

 お互いが過ごした歳月は、長さそのままが強固な信頼関係となった。

 方や、名前をくれ拾い上げてくれた(掛け替えの無い)主神。

 方や、下界に降りてからその目を奪われた(たった一人の初めての)眷属。

 微笑み合い、視線を交わし。

 ラインハルトは膝をつき、握られた手の甲に静かに口付けを落とした。

「――っ」

「では、行って参ります」

 久しく忘れていた所作。

 かつて彼を見送るたびに、自然と交わされていた行為。

 元は、信頼こそすれど心配しがちなアストレアを安心させる為の行為だった。

 それが今は――二人の約束の行為。

 胸の鼓動が、わずかに速まる。

 そんな主神の内心を知らぬまま、ラインハルトは扉を開き、朝の光の中へと歩み出ていった。

 

「……もう、ラインハルトったら」

 

 差し込む陽にその横顔を染めながら、アストレアは小さく呟く。

 その声には、慈愛と誇らしさ、そして少しばかりの星乙女の恥じらいが滲んでいた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「――……っ! おはよう、ラインハルト」

 

 場所は都市北部。

 北の目抜き通りから外れた街路沿いに建つ、オラリオ最大派閥(ロキ・ファミリア)本拠地(ホーム)

 ――【黄昏の館】。

 周囲の建造物と比べても群を抜いて高く、重なり合う高層の塔が一つの巨大な館を形成している。

 その最上部――最も高く聳え立つ塔の天辺では、【道化師】の徽章が爽籟(そうらい)に揺られ、まるで陽気にタップダンスでも踊っているかのようだった。

 その館の正面扉、そのすぐ前。

 こくり、こくりと舟を漕ぐ一人の少女の姿があった。

 膝と胸の間に、鞘に収めた銀剣を大切そうに抱え込み、秋の朝明(あさけ)を受けてなお眩しく輝く金色の髪が、カーテンのようにその(かんばせ)を覆い隠している。

 静謐な空間を破ったのは、こつり――と石畳を打つ正靴の音。

 その気配に、少女は跳ね起きるように身を震わせ、慌てて立ち上がった。

 その様子を見て、くすりと小さく笑みを零しながら、ラインハルトが声をかける。

「あぁ、おはよう。アイズ。……昨日は、あまり眠れなかったのかい?」

「……うん。ラインハルトとの稽古が……楽しみで。つい、夜更かし、しちゃいました」

 金髪の少女――アイズ・ヴァレンシュタイン。

 人形めいたその整った容貌に、僅かな期待と緊張を滲ませて答える。

 そんな内心を知ってか知らずか。

 ラインハルトは微笑みを崩さぬまま、アイズの前に膝をつき、視線を合わせた。

 そして懐から取り出したのは、白地に金糸の刺繍(・・・・・・・・)が施された一枚のハンカチ(・・・・・・・・・・・・)

「夜更かししすぎると、体を壊してしまう。……強くなれる機会を逃してしまうよ?」

 穏やかな声音とともに、そのハンカチが――――

 

 

 

 

 

 そっと、アイズの口元を優しく拭った(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「――〜〜〜っっ!?」

 

 その瞬間、遅れて理解する。

 秋に入り、心地よい冷えを帯びた朝の空気に誘われ、眠ってしまったのはいい。

 だが――まさか淑女としてあるまじき行為(よだれを垂らして)いたなどとは。

 

 アイズは子供である。

 齢は八歳。

 たとえラインハルトと同じく昇格(ランクアップ)最速記録(レコードホルダー)であったとしても。

 女の子である事に、変わりはない。

 いつもの無表情(人形姫)はどこへやら。

 年相応に、あわあわと慌てふためき、羞恥心と――これから稽古をつけてくれる相手に余計な手間をかけてしまった申し訳なさとが入り混じり。

 陶磁器のような白い肌が、朝陽の色に染め上げられていく。

 

「は、早くっ! ……稽古、しよ!」

 

 早朝にもかかわらず、少し声を荒げて。

 アイズはラインハルトの手を掴み、そのまま引っ張った。

 急かすように歩く、その小さな背中。

 そんな姿を眺めて、先ほどまでとは違う――どこか微笑ましく、愛おしむような感情を宿した笑みを浮かべながら、ラインハルトは、黄昏の館へと足を踏み入れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 【黄昏の館】にある訓練場。

 そこには、朝の冷たい空気と、唯ならぬ緊張感が張り付いていた。

 石畳に刻まれた無数の傷跡が、この場所がただの鍛錬場ではないことを物語っている。

 幾人ものロキ・ファミリアの冒険者達が剣を振るい、血と汗を落とし、そして立ち去っていった場所だ。

 そんな訓練場、その中央。

 そこにアイズは立っていた。

 道化神(ロキ)ファミリアが誇る【戦姫】。

 出逢い頭の年相応さは既に鳴りを潜め、その立ち姿に無駄はない。

 呼吸は浅く整えられ、既に抜き放たれた銀の愛剣(デスぺレート)は身体の一部のように馴染んでいる。

 宝石箱から掬い上げ、嵌め込んだかの様な髪の毛と同色の瞳には、赤毛の青年の姿。

 アイズに案内された武器庫から、武器を選び終え、静かに歩み出てくる姿が映っていた。

 白の戦闘衣(バトルクロス)は、ゆったりとした足運びの振動に合わせて揺れている。

 利き手側である右腕には、翼と天秤を模した剣(アストレア・ファミリア)の紋章。

 オラリオで、その姿を知らぬ者はいない。

 

 【剣聖】――ラインハルト・ヴァン・アストレア。

 

 今、このオラリオに限らず、世界中から注目を集める次代の英雄。

「………、」

 アイズは、剣を握ったまま青年を見つめていた。

 威圧はない。

 殺気もない。

 それなのに――視線を外せない。

 ごくりと、細い喉を生唾が通る音がした。

 空気が、確かに変わった。

「待たせてしまったかな」

 穏やかな声だった。

 張り上げるでもなく、虚勢もない。

 それが、かえって異様だった。

「……ううん」

 短く答え、アイズは一歩踏み出す。

 

「それじゃあ。……約束、通り――」

「――……私と、戦ってください」

 

 飾りのない、切実な願い。

 ラインハルトは、ほんの僅かにその碧眼を細めた。

「その為に【黄昏の館(この場所)】まで来たんだ。だけど」

 視線が、アイズの剣へと落ちる。

「先日も伝えたけど、君は、もう十分に強いと思うよ」

 ラインハルトと同じ記録保持者(タイトルホルダー)

 当時のラインハルトが十歳であったのに対し、目の前の少女は微か八歳。

 その異例さは、誰の目にも明らかだった。

「……それでも」

 アイズの握る剣に、僅かに力が籠もる。

 無茶を重ね、幾度も武器を壊してきた彼女の為に用意された第一等級武器。

 【不壊属性(デュランダル)】の銀剣【デスぺレート】。

 強く握られた柄が、アイズの内にある激情に当てられて、ぎちりと低く鳴った。

「――もっと、強くなりたい」

 迷いはなかった。

 ラインハルトは、その瞳を正面から受け止める。

 蒼穹色の双眸の中に、金色の意思を映して。

「わかった」

 そう答え、木剣(・・)をゆっくりと構えた。

「まずは――打ち合おう。言葉より、剣で見せた方が早い」

 持ち上げられた木剣(それ)を見た瞬間、アイズはむっと顔を顰めた。

「……その剣で?」

 言葉少なに抗議する。

「――怪我をしない様に、もっと他があったら良かったんだけどね」

 アイズの頭に血が上った。

 

(……私が、子供だからって――っ!)

 

 舐められている。

 その事実が、胸の奥を強く刺した。

 ファミリアの人達は、アイズをLv.2であっても子供扱いする。

 だから、他のファミリアの人に頼んだというのに。

「――……怪我、しても知らないからっ」

「問題ない、アイズは本気でその剣を振ってきても大丈夫だよ」

 その言葉を皮切りに。

 刹那、アイズが踏み込んだ。

 蒼色の戦闘用軍靴(バトルブーツ)で、石畳を蹴り砕く勢いで前進する。

 一切の迷いのない初動。

 ダンジョンでモンスターを斬る時と同じ、呼吸と同一化した動き。

 現状で行える最速最善の初撃決殺(ファーストアタック)

 最短距離で振るわれた、最速の一閃。

(……当たる!)

 確信が走る。

 しかし――剣が、当たらない(・・・・・)

 

 否。

 

 当たる前に、そこにはいない(・・・・・・・)

 

 ラインハルトの姿は、半歩、いや指数本分だけ横にずれていた。

「……っ!?」

 銀剣が空を斬る。

 直後、アイズが感じたのは軽い衝撃。

 ラインハルトの木剣(・・)が、剣腹に触れていた。

 弾かれたのではない(・・・・・・・・・)

 押し返されたのでもない(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 止められた(・・・・・)

 

 

 

 全力だった。

 間違いなく本気、殺傷を目的としたその一撃が、戯れついてきた動物をあしらうかの様に処理された。

 驚愕に、呼吸が乱れる。

「悪くない」

 ラインハルトは、淡々と告げる。

「剣筋はしっかりしているし、ありがちな器のズレも、身体もステイタスに振り回されていない」

 図らずして空いた距離。

 木剣の切先を僅かに下げたまま、ラインハルトは続けた。

「でも―――」

 次の打ち合いは、さらに短かった。

 アイズの剣は、三度振るわれる。

 初撃よりも苛烈さを増した三度の剣閃。

 しかし、優位(アドバンテージ)は奪えない。

 

「―――そのままじゃ、届かない」

 

 焦りから放たれた四撃目は、

 

 

 

 

 

「…………負け、ました」

 

 

 

 

 

 振るう事すら叶わず終わりを迎えた。

 アイズの細く柔い喉元。

 そこには、ラインハルトが空白を縫い止める様にして振るわれた木剣(・・)の切先が添えられていた。

 悔しさはある。

 だが、それ以上に――胸の奥が、熱い。

「どうして……そんなに強くなれたの?」

 問いは、無意識に零れていた。

 

 第一等級武器(デスぺレート)で戦った私。

 変哲もないただの木剣で、アイズ(わたし)に傷一つつけさせなかった彼。

 汗一つ浮かべていない、その姿。

 そんなアイズの問いに、ラインハルトは少しだけ困ったように笑った。

「僕の答えが正しいかどうかは、分からないよ」

 それでも、と続ける。

「――――僕は、ただ。ただ、守りたいものを守る為に剣を振るってきただけだ。たった、それだけだよ」

 その言葉を、アイズは噛み締めるように胸に刻んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 幾度目かの稽古を終えたころ。

 訓練場には既に、秋冷の寒さは薄れ、昼前の陽光が差し込み始めていた。

 冷気が去り、その代わりに残ったのは、石畳に刻まれた無数の足跡と、剣が擦れ合った痕跡。

 そして、身体の芯に滞留する熱だけだった。

 アイズは壁際に腰を下ろし、銀の愛剣(デスぺレート)を膝の上に横たえていた。

 浅くなった呼吸を整えようとするたび、胸の奥がじくりと熱を主張する。

 腕は重く、脚も思うように応えてくれない。それでも、剣の柄を握る指だけは離れなかった。

(……まだ、足りない)

 何度打ち込んでも、届かない。

 速さを上げても。

 力を込めても。

 結果は、変わらなかった。

 剣は受け止められ、流され、あるいは触れられるより先に、その位置を失う。

 隣に腰を下ろすラインハルトは、木剣を床に置いたまま、先ほど様子を見に立ち寄ったリヴェリアが残していった水を、静かに口に含んでいる。

 息は乱れていない。

 汗も、ほんのわずかに滲む程度だ。

 

(……どうして)

 

 同じ冒険者。

 同じ記録保持者(レコードホルダー)

 自分は第一等級武器(デスぺレート)を振るい、相手はただの木剣。

 それなのに、埋められない差が、そこには確かに存在していた。

 

 それは、単なる力量差ではない。

 

 剣を交えた瞬間、アイズは否応なく理解してしまっていた。

 この人は、自分よりも先を見ている(・・・・・・)

 技でも。

 経験でもなく――剣を振るう理由。

 その在り方、その覚悟そのものが、決定的に違う。

(……怖い)

 ほんの一瞬、そんな感情が胸を掠めた。

 圧倒されることへの恐怖ではない。

 この差を知ってしまったことで、もう以前の自分には戻れなくなるような感覚。

 けれど同時に、胸の奥が抗いがたく惹きつけられていた。

(……知りたい)

 どうすれば、そこへ辿り着けるのか。

 どうすれば、同じ場所に立てるのか。

 

 その思考が巡った瞬間。

 風が、そっとアイズの頬を撫でた。

 

 それを合図にしたかのように、懐かしい記憶が胸の底から浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 ――――いつか、お前だけの英雄に出会えるといいな。

 

 

 

 

 

 幼い頃、父が最期に残した言葉。

 当時は意味も分からず、ただ泣き叫んだだけだった。

 英雄とは何なのか。

 なぜ、父は自分の英雄ではいられなかったのか。

 

 その答えを、どれほど考え続けただろう。

 【勇者(ブレイバー)】に尋ねても、母代わり(リヴェリア)に問いかけても、主神(ロキ)に縋っても、返ってくるのは形のない言葉ばかりだった。

 

 その答えに、近づけたと感じたことなど、これまで一度もない。

 

(……英雄)

 

 けれど、今。

 

(………今なら、答えてくれる(わかる)気がする)

 

 その予感が、胸の奥で確かな輪郭を持ち始める。

 目を閉じれば、瞼の裏に自然と浮かぶ姿。

 

 それは、今回の稽古の時だけの姿ではない。

 

 些細なきっかけだった。

 街中を歩いていた時、風が吹いた(・・・・・)ことに気づいた。

 無意識に足を向けた先。

 そこで偶然出会ったその姿。

 闇派閥(イヴィルス)に、迷いなく立ち向かい、剣を振るったその背中。

 そこには一切の躊躇もなかった。

 脅威から逃げず、正義を歪めず、周囲を鼓舞し、ただ真っ直ぐに悪と向き合う姿。

 

 それだけではない。

 

 迷子になった子供に目線を合わせ、手を繋ぎ、親を探して歩くその慈愛と献身。

 商店街では、店主や買い物客が口々に礼を述べ、品物を押し付けるように渡し、困ったように、しかし嬉しそうに笑うその姿。

 

 それらすべてが、時間をかけて胸の内を巡っていく。

 

 目を開け、ゆっくりと隣を見る。

 そんな思いを向けられているとは露ほども思っていない様子で、ラインハルト(当の本人)は空を仰いでいた。

 穏やかな横顔。

 けれど、剣を持てば誰よりも厳しい。

 他者にではなく、ただ自分自身に対して。

 

(……この人は)

 

 言葉にしてしまえば壊れてしまいそうで、しばらく沈黙した。

 胸の奥で感情が幾重にも重なり、熱を帯び、出口を探している。

 

 やがて、自然と唇が動いた。

 

 「………ラインハルト」

 

 名を呼ばれ、青年はゆっくりと顔を向ける。

 

「どうしたんだい、アイズ――疲れたかい?」

 

 いつもと変わらない、穏やかな声。

 それが、かえって胸を締め付けた。

「……ううん」

 否定しながらも、視線は逸らさない。

 今なら、言える気がした。

(……今、聞かなきゃ)

 そう思った瞬間、父の声が再び胸に響く。

 

 

 

 

 

 ――いつか、

 

 

 

 

 

 ――――いつか、お前の

 

 

 

 

 

 アイズは、ぎゅっと剣の柄を握り締めた。

 風に背中を押されるように、言葉を紡ぐ。

 

「……ねぇ」

 

 小さな声。

 それでも、逃げなかった。

 

「私……強くなりたい」

 

 今さらな言葉。

 それでも、自分自身を確かめるように口にする。

 

「誰にも、負けないくらい。もう、何も………奪われないように」

 

 言いながら、自分でも驚くほど真剣だった。

 ラインハルトは、ただ黙って聞いていた。

 続きを促すように、静かに受け止めている。

 

「……だから、私が。私が、強くなったら」

 

 心臓がやけに煩い。

 

「ラインハルトみたいにっ、強く、なれたら」

 

 たった一拍。

 吐き出すまでに要したその一瞬が、永遠に引き延ばされたかのように感じられる。

 深く息を吸い。

 胸に溜め込んでいた感情が、ようやく形を持つ。

 

「私だけの、英雄に……なって、くれますか――――っ?」

 

 風は凪ぎ、その問いは驚くほど静かだった。

 懇願でも、命令でもない。

 ただ、真っ直ぐな少女(アイズ)の願い。

 

 ラインハルトは、わずかに目を見開いた。

 それから、困ったように眉を下げる。

 

「……それは、簡単には答えられないな」

 

 苦笑混じりの声。

 

「…………っ、」

 

 誠実な言葉だった。

 けれど、その一言がアイズの胸に過らせたのは――拒絶への不安。

 

「英雄というのは、誰かに頼まれてなるものじゃない。成ろうとして成るものでもない。気が付いた時には、そう呼ばれているものだ」

 

 アイズの揺れる感情をよそに、ラインハルトは天井へと視線を向ける。

 

「それに……僕は、完璧でも、正解でもない」

 

 懺悔するように言葉を落とし、

 一度、区切る。

 そして視線を戻し――アイズを真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

「だけど」

 

 

 

 晴れ渡る蒼穹を閉じ込めたその瞳が、金色の少女(今にも泣きそうな姿)を捉える。

 

 

 

「もしも、世界が――」

 

 

 

 ほんの少し、距離を詰めて。

 

 

 

 

 

「もしも、アイズがそう願うのなら――――僕は、君の英雄になろう」

 

 

 

 

 

 アイズの胸が強く脈打つ。

 初めて感じる、自分の身体を内側から叩くほどの鼓動。

 周囲に聞こえてしまうのではないかと錯覚するほどの衝動。

 

 

 

 

 

 ――――いつか、お前だけの英雄に出逢えるといいな。

 

 

 

 

 

 父の言葉が、不思議なほど静かな思考の奥に溶け込んでいく。

 

 風が祝福するように、アイズの髪を攫い、靡かせた。

 

 金色が陽光を反射する。

 幻想の中に立つかのような光景に、ラインハルトは思わず目を奪われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――まるで、精霊(アリア)の様な綺麗な笑顔に。

 




アイズの出番はあんまりないと言ったな? あれは、嘘だ()

ちなみに、各シーンの剣聖(笑)の内心
> 「貴方が人気者なのは、主神として誇らしいことよ。でも……」
 アストレアは一歩踏み込み、からかうような、それでいてどこか甘い声で告げる。

「たまには、私を最優先にしてほしいわ」

 その蠱惑的な微笑みに

剣聖(笑)「んああああああああああああああああ!!!」ビクンビクン

> 「は、早くっ! ……稽古、しよ!」

剣聖(笑)「なんやこの美幼女っ、かわいすぎるやろ!! うちの子になってクレメンス! 逆光源氏計画っ、ワイは遂行するぞおおおおお!」

> 「私だけの、英雄に……なって、くれますか――――っ?」

剣聖(笑)「逆っ!! 光源氏!!! 計画っ!!!! 始まったぞおおおおお!!!!!!」


本当に日間一位感謝しております。

ラインハルト×ダンまちアストレアレコードは人気出ると思ってたけど、ここまで出ると思ってなかった!

実際、このモチベでアストレアレコード完結まで日々書いて投稿出来てるのは、読者の方の評価と感想のお陰です。
まあ、これから仕事が忙しくなっていくので、このペースで書き進めるかはわかりませんが、アストレアレコードまでと区切っているのもあり、とりあえずそこに向けて執筆続けていくので、気長にお待ち頂けたらと思います。

みんな本当にさんきゅー!
ユーザー名表示して、活動報告出してくから、ちまちまリクエストとかあったら送ってください。
気に入ったのがあったら、そのエピソードを幕間として書いたりします。
では、長くなりましたがこれで後書きをしめます。

幕間が描く話(各副題は活動報告にあり)

  • 豊穣祭
  • 剣聖の受難
  • アストレア・ファミリア 剣術指南
  • ロキ・ファミリア × 剣聖
  • その他リクエスト(活動報告まで)
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