僕が剣聖として生きるのは間違っているだろうか   作:ダウナーすこすこてぃっしゅふぉーるど

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ちょっとした息抜き。
他の幕間も、大体こんなノリで書くのが多いかも。
念の為、キャラ崩壊注意で。

後書きに、最後のオチの没ネタ追加。


幕間 平和なひととき (後書きに没ネタ追加)

 とある日。

 場所は【星屑の庭】。

 そんな本拠地(ホーム)の一角で、星乙女の眷属達は一堂に会していた。

 

「――これは、由々しき事態よっっ!!」

 

 その中央で、正義と秩序の女神の眷属(アストレア・ファミリア)の団長が机に両手を叩きつけた。

 ばぁーん! という乾いた破裂音が清廉な空間に木霊する。

 衝撃に弾かれた羊皮紙の束が、Lv.3の膂力に耐えきれず宙を舞い、まるで春先に咲き誇る花弁のようにひらひらと散り落ちていく。

 飴色の机を、まばらな白が覆っていった。

 両手を机についたまま、わなわなと肩を震わせる我らが団長――アリーゼ・ローヴェル。

 勝気な眦を鋭く吊り上げ、翡翠色の瞳を限界まで見開いている。

「アタシ等のこと集めたと思ったら何だよこれ」

 桃色の髪を揺らしながら、鬱陶しそうに前髪を掻き上げて嘆息したのは、小人族(パルゥム)のライラだった。

 なにせ今しがた、館全体に響き渡るほどの大音声で、

 

「全っ員っっっ、集合――――っっ!!!」

 

 などと叫ばれたのだ。

 緊急事態だと身構えて駆けつけてみれば、この有様である。

「……ほんとうに、事に欠いて声の大きい団長様でございますこと。こんな早朝から、実に結構な目覚ましになりますねえ」

 艶やかな長い黒髪を揺らし、室内用の簡素な着物姿で欠伸を噛み殺しながらぼやくのは、人族(ヒューマン)のゴジョウノ・輝夜。

 口調は丁寧だが、その節々に棘どころか毒が滲んでおり、もはや隠す気もないのだろう。

 白い額には、くっきりと血管が浮かんでいた。

「……今回は癪ですが、輝夜と同意見です」

 珍しく意見が一致し、嫌そうに顔を顰めながら妖精(エルフ)が言葉を紡ぐ。

 天井の採光窓から差し込む朝日が、彼女の翠の髪を透かして金色に輝かせていた。

「あらあら。どこぞのエルフ様と意見が重なるなんて。こんなに日も高いのに、雨でも降りそうでございますねえ」

「なっ!? 私を雨女のように言うな!」

 空色の瞳を大きく見開き、即座に噛みつくリュー・リオン。

 にこにこと青筋を浮かべながら微笑む極東姫との応酬は、いつもの調子で続いていく。

「朝から喧しいっ! 顔合わせりゃ毎回それかよ! いい加減にしろっての! ――あぁぁっ、もう! あほ団長、さっさと用件切り出せ! これ止まんねえぞ!?」

 ライラが吠える。

 また始まった、とばかりに、他の団員達は眠たそうに目をこすりつつ、顔を見合わせて苦笑した。

 

「これよ、これ!!」

 

 シャカシャカシャカババババババ――っ!!

 【剣聖】の薫陶を受けて鍛え上げられたアリーゼの【器用】値と【敏捷】値が、ここぞとばかりに唸りを上げる。

 最早そういう新種のモンスターなのでは、と錯覚するほどの高速手捌きで散乱した羊皮紙をかき集め、彼女が高々と掲げたそれは――

 

 

 

 

 

「「「冒険者順位(ランキング)ぅ〜?」」」

 

 

 

 

 

 アリーゼ以外の団員の声が、見事に揃った。

 

 冒険者順位(ランキング)

 神々(有志)が半ば戯れで始めたそれは、いつしかオラリオ全土を駆け巡り、完全な娯楽(ムーブメント)と化した。

 各派閥(ファミリア)の眷属はもちろん、新聞記者まで巻き込み、街の住民に突撃アンケートを敢行。

 様々な部門に分けられた項目に、匿名で冒険者の名を投票し、週ごとに集計結果が発表される。

 神々はそれを肴に笑い、噂話(ゴシップ)好きの女性達の会話に花が咲き、そして何より――意外と的外れでもないため、冒険者達は否応なく一喜一憂する。

 

 それが、冒険者順位(ランキング)である。

 

「…………カワイイ女性冒険者ランキング『アリーゼ・ローヴェル』十二位?」

 

 リューが、ふと目に留まった一文を読み上げた。

 非公式だからこそ注目を集め、下手な公式評価よりも生々しく響くその文字列。

 

「えっ!? なにそれ!? どこどこどこどこ――――……ほんとだわ!? お兄様に似て(・・・・・・)内も外も完璧美少女の私が、一位でもなく、たったの十二位!?」

 弾かれたように羊皮紙を引き寄せ、該当箇所を探し当てたアリーゼが目を見開いて叫ぶ。

「血、繋がってねえからな」

 ライラが即座に突っ込む。

「だ、大丈夫ですアリーゼ! そんな低俗な順位、気にする必要はありません! 貴女の素晴らしさは、私が一番理解しています!」

 慌ててフォローに回るリュー。

「我らが団長サマより上位のエルフ様は、随分と余裕でございますこと」

「輝夜、何を――……え?」

 その一言で、空気が変わった。

 リューは慌ててアリーゼの横に歩み寄り、ひったくるように羊皮紙を手に取る。

 端正な顔を近づけ、文字を追った瞬間――愕然とした。

 

 カワイイ女性冒険者順位(ランキング)――『リュー・リオン』四位。

 

「なんだこれはーーー!?」

 

 叫ぶリュー。

 ちなみに上位は次の通りである。

 

 三位――アミッド・テアサナーレ。

 二位――アイズ・ヴァレンシュタイン。

 一位――アーディ・ヴァルマ。

 

「……おい。これ投票したやつの中に、とんでもねえ幼女趣味(ロリコン野郎)が紛れてんぞ?」

「ちちちち違うのですアリーゼぇ! わ、私はそんな意図ではっ!?」

 

 百面相のように表情を変え、完全に取り乱すリュー。

 犯罪者予備軍(ロリコン)の存在に、ライラは本気で戦々恐々としていた。

「分かってるわ、リオン。確かにリオンはカワイイもの。でもね、私思うの!」

 アリーゼが薄い胸を張る。

 

 

 

「そんなリオンのいるアストレアファミリアの団長である私は、もっと凄くて、もっと完璧な美少女ってことになるでしょ!? つまり――所詮順位(ランキング)よね! あぁ、私はなんて罪な女。バチコーン⭐︎」

 

 

 

「「「イラッ⭐︎」」」

「ア、アリーゼ……」

 

 尊敬する人種(ヒューマン)で、敬愛すべき存在の一人ではある。

 だが、それはそれとして。

 

 ――流石にそれは、無理があるのではないか。

 

 その言葉を飲み込み、リューは静かにため息を吐いた。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「――って、違う! そうだけど違うのよ! 私が見て欲しいのは、ここ!」

 

 ダァンっ!

 一枚の羊皮紙を机の上に叩きつけ、勢いそのままに広げる。

 指先が紙面を貫かんばかりに突き刺さり、示された一文には、

 

最美男(イケ)ヒューマン順位(ランキング)

「頭を撫でてほしい男性冒険者」

「街角で評判のいい男性冒険者」

「交際したい男性冒険者」

「自分だけのものにしたい男性冒険者」

 

 ――などと、目を疑うような見出しが並んでいた。

 それ以外にも、各種タイトルが細かく区切られた順位表がいくつもあり、団員達が口々に次から次へと読み上げていく。

 最初は半ば呆然と。

 やがて段々と、辟易した空気が場を満たし始めた頃。

 最後に行き着いた順位(ランキング)

 

「「「「「一位『ラインハルト・ヴァン・アストレア』!!!?」」」」」

 

 室内に、重なり合った絶叫が響き渡った。

 ――ほぼ総なめである。

 もはや殿堂入りと言って差し支えない勢いで、男性冒険者の名前が入りそうな部門に関しては、概ね堂々の一位。

 これは偶然でも、出来心でもない。

 紛れもなく、彼がこれまで積み上げてきた行いの結果だった。

 

 まず美貌――文句の付けようがない。

 冒険者はそもそも恩恵(ファルナ)を授かる存在であり、高位へ至るにつれて、度重なる器の昇華によって外見もまた磨かれていく。

 その流れを踏まえた上で、十六歳という年齢にして完成されきったその容貌は、もはや反則的ですらあった。

 

 次に街角の評判――これも順当である。

 中堅派閥へと成長したアストレア・ファミリアを主体に行われる巡回(パトロール)での問題解決。

 闇派閥(イヴィルス)との抗争はもちろん、暴漢の捕縛、迷子の捜索、荷物運びにペット探し。

 優先順位の差こそあれど、頼まれれば基本的に断らない。

 そもそも暗黒期において、治安維持を担い、抑止力として名を知られ始めた存在だ。

 それだけで評価が高くならないはずがなかった。

 

「………っ!」

 

 そんな中。

 読み上げられる内容を「低俗だ」と心の中で吐き捨てながらも、無意識のうちに想像を実行してしまい、頬をじわりと紅潮させる者がいた。

 

「あら? あらあらあらあらあらあらーっ!?」

 

 我、意を得たり。

 目敏くいじる相手(標的)を見つけた輝夜が、待ってましたとばかりに声を張り上げる。

「なぁにを想像してやがるんですかぁー!? このムッツリスケベはー!?」

「――何も想像してなどいないっ! 変な言いがかりはよせ、輝夜!!」

「ぶぁああかっ!! 誰もお前だとは言ってないわ! 語るに落ちたな、エロ妖精(エルフ)っ!」

「え、えろ――っ!? 輝夜っ! 貴様ぁぁーっ!?」

「リオンの誰かさんへの(・・・・・)好き好きも、今に始まった話じゃねぇんだし。そろそろ認めろよな」

「ライラまで!? わ、わわわ私は、ラインハルトにそんな感情を――――っ」

「誰もラインハルトなんて言ってねえよ」

 

 

 

「うぁぁぁ――っ!!!?」

 

 

 

 嵐のような騒々しさが巻き起こる。

 周囲は一様にニヤニヤとした笑みを浮かべ、完全に出来上がった包囲網。

 渦中のリューに至っては、空色の瞳をぐるぐると回し、羞恥と混乱の限界に達して――ついに声にならない悲鳴を上げていた。

 その騒ぎの中心で、机を挟んで立ち尽くしていたアリーゼは、しばし呆然としたまま瞬きを繰り返していたが――やがて、ふるふると肩を震わせ始めた。

「……ふ、ふふ」

 笑い声、だった。

 

「な、なに笑ってんだよ団長……?」

 嫌な予感を覚えたライラが一歩引いた、その瞬間。

「……つまりこれは!」

 アリーゼは勢いよく机を叩き、立ち上がる。

 その瞳は獲物を見つけた獣のそれだった。

「ラインハルトお兄様が、あまりにも出来すぎている(・・・・・・・)せいで起きた悲劇ってことねっ!!」

「いや意味わかんねえよ!?」

「責任転嫁にも程があるぞ!?」

「というか、貴女が一番関係ないでしょう!」

 

 悲劇というより喜劇である。

 

 三方向から突っ込みが飛ぶが、アリーゼは意にも介さない。

「いい? これはね、個人の人気とかそういう次元じゃないの。ファミリアの危機よ、危機!」

「どこがだ!?」

「このままだと、うちの団員の精神衛生が崩壊するのよ! 主にリオンの!」

「なっ!? わ、私は別に――」

「声が裏返ってる時点で説得力ゼロだぞリオン」

 ライラの無慈悲な指摘に、リューは言葉を失い、耳まで赤く染めて口をパクパクと開けては閉じてを繰り返す。

 

「というわけで決定事項よ!」

 

 アリーゼはびしっと指を立てる。

 

「しばらくの間、ラインハルトお兄様には“目立ちすぎない行動”を心がけてもらいます!」

「無理だろ」

「存在そのものが目立ってるんですが」

「そもそも本人が一番困惑するやつでございますねえ」

 

 口々に否定される中、アリーゼは腕を組んでうんうんと頷いた。

 

「大丈夫。具体案は考えてあるわ」

「嫌な予感しかしないんだが……」

「例えば――街中ではフード着用! 笑顔は三割減!! 困ってる人を見かけても即座に助けない!!!」

「それもう正義の否定じゃねえか!!」

「主神が聞いたら泣きますよ?」

 

 その時。

 コツン、と扉を叩く音が室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……――――失礼するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬で、空気が凍りつく。

 

 全員の視線が扉へと集まり、ゆっくりと開いたその先に立っていたのは――話題の中心。

 

「集まってるって、アストレア様に聞いたんだけど――――何かあったのかな?」

 

 穏やかな笑みを浮かべたラインハルト・ヴァン・アストレア。

 今、話題の渦中の人である。

 

 

 

 数秒の沈黙。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

「「「「あーーーーーーーっ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 星屑の庭に、悲鳴とも怒号ともつかぬ声が木霊した。

 

 ――なお、この日を境に。

 アストレア・ファミリア内で「ランキング」という単語は、半ば禁句となったのである。

 

 

 

 

 

◇◇◇(もう少し続くよ)

 

 

 

 

 

「……終わりだと思った?」

 

 未だ収束しきらない騒乱の中、机の上に残された羊皮紙の束を、アリーゼがぐいっと引き寄せた。

 その表情には、嫌な確信と、団長としての使命感(という名の野次馬根性)が混ざり合っている。

 

「まだ、あるのよ」

 

「……まだ?」

 ライラが嫌そうに眉をひそめる。

 

「ええ。むしろ――本番は、ここから」

 

 ぱさり、と新たな羊皮紙が捲られ、机の中央に広げられる。

 一瞬の静寂。

 その紙面に並んだ文字を読み取った瞬間、団員達の呼吸が揃って止まった。

 

「……女性冒険者順位(ランキング)

 

「来たな」

「来ましたねえ」

「来てしまいましたか……」

 

 誰も止めない。

 誰も止められない。

 

「誰か載ってそうなのかい?」

「誰かぁー!? この【剣聖】をどっかにやってくれええ!! 一番聞かれたくない相手だっ!!」

 

 ニコニコと微笑みながら、アリーゼに勧められるがままに椅子に座り話を聞くラインハルト。

 ライラが叫ぶが誰も動かない。

 

 これから何が起きようが関係ない、気になって仕方がないのだ。

 それが、この手の紙切れの持つ魔力だった。

 

「まずは――」

 

 アリーゼが咳払いを一つしてから、読み上げる。

 

「カワイイ女性冒険者ランキング」

 

「……さっきと同じじゃねえか!」

 ライラがツッコむ。

 

「十二位、アリーゼ・ローヴェル」

「へぇ。良かったねアリーゼ」

「ありがとうラインハルトお兄様!」

 

 続きを急かす様に誰かが、こほんと咳払いする。

 

「四位、リュー・リオン」

「……」

 リューは無言で顔を伏せた。

 耳まで真っ赤である。

 ラインハルトは、先程のアリーゼとのやり取りで咳払いされたのを思い出して何も言わずに口を噤んでいる。

 

(何か言って欲しいのですが――ッ!?)

 

 リューの内心を他所に、アリーゼは続ける。

 

「三位、アミッド・テアサナーレ」

「二位、アイズ・ヴァレンシュタイン」

「一位――アーディ・ヴァルマ」

 

 その名が出た瞬間、室内の空気が一瞬だけ和らいだ。

 誰もが納得する順位。

 【可憐】という言葉が似合う、ガネーシャ・ファミリアのアイドル的存在。

 もはや殿堂入りの象徴のような存在。

 

「……まあ、これは」

「異論はねえな」

「ですねえ」

 

 だが。

 

「次」

 

 アリーゼは容赦なく、次の紙を叩きつける。

 

「一緒に冒険したい女性冒険者」

「へぇ、誰なんだろうね」

 

 まさかの二枚目である。

 

「嫌な予感しかしねえ……」

「五位、ライラ」

「はぁっ!? アタシ!?」

 

 突然呼ばれた名前に、驚愕の声を上げるライラ。

 

「四位、輝夜」

「うふふふ、誰が入れたのか気になりますねえ」

 

 怪しげな表情でぼそりと呟く輝夜。

 

「三位、リュー・リオン」

「……やめろ……」

 

 最早満身創痍のリュー。

 

「二位、アイズ・ヴァレンシュタイン」

「一位――アーディ・ヴァルマ」

 

「さっきの焼き増しみたいになってんぞ」

 ライラが呟いて、

「まあ、そこら辺は似るもんなんじゃないのかなぁ」

 ラインハルトが同調する。

 

 そして。

 

 問題は、その次だった。

 

「……ええと」

 

 アリーゼの声が、ほんの僅かに弾む。

 

「守ってあげたい女性冒険者」

 

「……」

「……」

「……」

 

 嫌な沈黙。

 

「五位、ライラ」

「だからなんでだよ!?」

「四位、輝夜」

「失礼ですねえ」

「三位、アイズ・ヴァレンシュタイン」

「一位陥落!?」

「二位、アーディ・ヴァルマ」

「こいつはぶれねえな!!」

 

 ツッコミが入りつつもブレずにすらすらと読み上げられたその先で、アリーゼが溜めて、

 

 

 

「一位――」

 

 

 

 アリーゼが、はっきりと読み上げた。

 

 

 

 

 

「――リュー・リオン」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 一瞬、理解が追いつかない。

 だが、紙面を覗き込んだリューの瞳が、はっきりとその文字を捉えた瞬間。

 

「え? え? え? な、な、なななな……っ!?」

 

「守ってあげたいだって」

「言ってやれリオン! 誰に守られたいかって!」

「リオン……街の人、完全に勘違いしてる」

「アーディ差し置いてやるねえ」

 

「ち、違う! 私は別に、守られる側などでは――! 後誰だ!? 余計なことを言おうとしてるのは!」

「でも実際、危なっかしいとこあるよな」

「ライラッ!?」

「リオンは守られたいのかい?」

「ラインハルト!? ち、違います!?」

 

 そして、

 

 追い打ちをかけるように、最後の紙が静かに置かれた。

 

「……最後」

 

 アリーゼは一瞬、間を置く。

 

「交際したい女性冒険者ランキング」

 

 そう言って、アリーゼがカッ! と目を見開いた。

 

「やめろぉ!」

「読むな!!」

「戻れぇぇ――――っ!!?」

 

 全員の制止を無視して、団長は満面の笑みで宣言した。

 

「五位、アーディ・ヴァルマ」

「ここは意外だ」

「四位、リヴェリア・リヨス・アールヴ」

「これ組織票はいってんだろ!」

「三位、アミッド・テアサナーレ」

「………犯罪臭がするな」

「二位――リュー・リオン」

 

「――――っ!?」

 

 そして。

 

「一位」

 

 アリーゼは、紙を掲げる。

 

「――アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

 沈黙。

 そして、全員が同時に、ある一点を見る。

 

 視線の先。

 静かに座っていた、赤毛の青年――ラインハルト。

 

 何やら最近、件のアイズ・ヴァレン何某とは朝の稽古をしてるらしい(アストレア談)。

 これは意地でも本人に聞かなければならない――っ!

 

「……」

 

 ラインハルトは、頬を滑らかな指でぽりぽりとかいて、ほんの少し困ったように笑った。

 この空気に何かを察したかの様に、ゆっくりと口を開ける。

 

「……あの」

「何?」

「僕、今日は訓練に戻ってもいいかな」

 

「逃がすかぁぁぁぁ!!」

 

 こうして【星屑の庭】は、

 英雄一人と、噂と、ランキングという名の混沌に包まれたまま、

 今日もアストレア・ファミリアは平和に騒がしかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇(後少し続くんじゃ)

 

 

 

 

 

 ――それで終わりではなかった。

 

 騒動の中、アリーゼの手は止まらない。

 否、止まってはいけないとでも言うかのように、最後の一枚を、ためらいなく引き抜いた。

 

「……あ」

 

 声が、わずかに上擦る。

 

「……ねえ、これ……」

 

「嫌な“あ”だな、さっきと同じ感じがするぞ」

「団長、その顔をやめろ!」

「絶対ロクでもないのコレ!?」

 

 だが、アリーゼは――読んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女装させたい男性冒険者順位(ランキング)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「……今、なんて?」

「聞き間違いじゃないよな?」

 

 誰かが否定してくれるのを待つように、団員達は互いの顔を見る。

 だが、アリーゼは無慈悲にも続けた。

 

「第五位――フィン・ディムナ」

「おい、聞けよ」

「意外と妥当ね」

「似合いそうなのが腹立つ」

 

「第四位――オッタル」

「逆に見たいのが怖いわ」

闇派閥(イヴィルス)も裸足で逃げるわ」

 

「第三位――ヘディン・セルランド」

「……誰だこの投票」

「命知らずにも程がある」

「そりゃ似合うだろうけどっ!」

 

 そして。

 

 アリーゼは、紙を持つ手を少しだけ下げ、

 はっきりと読み上げた。

 

「第二位――」

 

 一拍。

 

「――リュー・リオン」

 

「なっ!?」

「はあああああ!?」

「ちょっと待て! 待て待て待て!!」

 

 完全に予想外の方向からの流れ弾。

 リューは即座に立ち上がり、机に手をついた。

 

「おかしいだろう!? なぜ私が!!」

「可愛いからだろ」

「中性的だし」

「似合いそう、って票だな」

 

「納得できるかぁ――!?」

 

 だが、真の地獄は――ここからだった。

 

「……一位」

 

 アリーゼの声が、妙に晴れやかになる。

 

「おい、まさか」

「やめてくださいよー!?」

「そのまさか、なんて事ないよな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 誰も、声を出さなかった。

 

 

 

 そして次の瞬間。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「やっぱりかよ!!」

「納得しかねえのが腹立つ!!」

「街の連中、正気か!?」

 

 声が爆発する。

 視線が、一斉に集まる。

 

 当の本人。

 ラインハルトは、また同じ様に少しだけ困ったように頬を掻いた。

 

「……あの」

「何?」

「その……どういう基準なんだろう?」

 

 その純粋な疑問が、火に油だった。

 

「“絶対似合う”」

「“一度は見たい”」

「“抵抗しなさそう”」

「“可憐”」

「"お姉ちゃんって呼んで"」

 

「最後の誰だァァァ!!」

 

 ライラが叫び、輝夜は腹を抱えて笑い始める。

 

「これはもう、街公認でございますねえ」

「やめろ輝夜」

「団長、責任取って着せてみろよ」

「えっ!? 私!?」

 

「……私は、反対だ」

 

 そう言って、リューはきっぱりと宣言する。

 

「ラインハルトは、剣聖であり、私たちの――――」

「――でも、似合う」

「……っ」

 

 言葉が詰まる。

 全員が、静かに一つの結論に辿り着いていた。

 

「……」

「……」

「……」

 

 ラインハルトは、

 

「……えぇっと」

 

 ラインハルトは、困ったように眉を下げた。

 理解しようとしている、というよりは、理解を拒むべき案件なのかどうかを真剣に吟味している顔だ。

「それは、つまり……」

「“似合う”ってことよ」

 即座にアリーゼが断言する。

「異論は?」

「ありすぎるだろ!!」

 ライラが叫んだ。

「いやいやいや、団長! それはさすがに倫理的にどうなんだ!?」

「倫理? 英雄に倫理を問うの?」

「問いまくるわ! なんなら倫理のねえ英雄なんていねえよ!!」

 輝夜は楽しそうに肩を震わせる。

「……しかし、民意とは時として残酷なもの。これだけ票が集まっているということは、期待されているのでございましょう?」

「期待されなくていい!!」

「……街は、平和なのですね……」

 リューは遠い目をした。

 

 当の本人――ラインハルトは、まだ現実を受け止めきれていない。

 

「つまり……」

 慎重に言葉を選ぶ。

「街の人たちと、皆は、僕を……その、女性の服装で見たいと?」

「そう!」

 アリーゼは満面の笑みで頷いた。

 

「しかも“させたい”よ。“似合う”じゃなくて、“させたい”」

「ニュアンスが悪化してる!」

「主体性が完全に街側だ!」

 

 ライラが頭を抱える。

 

「どうしてこうなった……」

「心当たり、ありません?」

 

 輝夜が意味深に視線を送る。

 

「例えば、子供達に頼まれてリボンを結んで差し上げたり」

「……あれは、結び方を教えただけだよ」

 

「花売りの娘に、花冠を頭に載せられても外さずに歩いていらっしゃいましたよねえ」

「断る理由が見当たらなくて……」

「ほら見ろ!!」 

 

 積み重ねである。

 完全に積み重ねの結果だった。

 

「……でも」

 

 リューが、意を決したように口を開く。

「ランキングは、あくまで非公式……ですし。実際に行動に移す必要は……」

「甘いわ、リオン」

 アリーゼは人差し指を立てた。

「これは“祭り”よ」

「祭り!?」

「英雄が英雄であることを再確認する儀式」

「意味が分からない!!」

 

 ラインハルトは、しばし沈黙した後、真剣な顔で尋ねた。

 

「……具体的には、何を?」

「試着」

「試着!?」

「安心して、着るだけよ。歩かせたりしない」

「十分アウトだろ!」

 

 団員達の混乱をよそに、アリーゼはもう止まらない。

 

「衣装なら任せて。輝夜」

「はいはい、極東風もよろしいですし、正統派ドレスも捨て難いですねえ」

「なに勝手に話を進めてるんだよ!?」

「ライラ、サイズ測定」

「やらねえよバカ!」

 

 リューは顔を真っ赤にして俯いたまま、か細く呟く。

「……に、似合ってしまったら……どうするんですか……」

「その時は」

 アリーゼがにっこり笑う。

「新しいランキングが増えるだけよ」

「地獄です……」

 

 視線が集まる中、ラインハルトは最後に一度だけ、深く息を吐いた。

 

「……正義と秩序のため、そしてファミリアの士気向上に資するのであれば」

「え」

「検討する余地は、ある」

 

 一瞬の静寂。

 

「「「「「――――えええええええっ!?」」」」」

 

 次の瞬間。

 【星屑の庭】は、悲鳴と歓声と爆笑が入り乱れる、かつてない混沌に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして後日。

 オラリオのどこかで囁かれることになる。

 

 ――“剣聖が女装するらしい”

 

 という、真偽不明ながら致命的に拡散力の高い噂が、生まれた瞬間であった。

 

 




※ 女装ランキングの会話直後

「……で、だ」
 腕を組んだライラが、紙面を指で叩く。
「なんで一位なんだよ。理由、書いてあんだろ」

 アリーゼは視線を落とし、少しだけ間を置いてから読み上げた。

「ええと……」

「“清楚系が似合いそう”“髪が映える”“声が優しい”“動きが綺麗”“怒らなさそう”“断れなさそう”“逆に剣を持つ姿との落差”“街に出たら一日で噂になる”“正体バレまでがイベント”“見たい”“ただそれだけ”“――罪”"お姉ちゃんと呼ばれたい"」

「最後、誰だ!!」
「正直に名乗れ!!」

 輝夜は机を叩き、ライラは腹を抱えて笑い転げる。

「おかしいだろ!? 途中から完全に私情じゃねえか!!」
「でも否定できないのが腹立つわぁ」
「“動きが綺麗”は分かる」
「剣振ってる時の体捌き、あれは反則だ」

 視線が、またもや一点に集中する。

 ラインハルトは、困ったように瞬きをしてから、ゆっくりと言った。

「……えっと」
「喋るな」
「言い訳もするな」
「今は存在を薄くしろ」

「理不尽じゃないかな?」

「理不尽なのはランキングだ!!」

 だが、話は止まらない。

「で、どの系統だ?」
「は?」
「女装にも方向性があるだろ」
「清楚系か?」
「戦乙女系?」
「いや、街娘」
「いやいや、貴族令嬢」

「話が具体的すぎる!!」

 リューが叫ぶ。

「そもそも! やる前提で話を進めるな!!」
「誰もやるとは言ってねえよ!」
「見たいだけだ!!」
「最悪だ!!」

 アリーゼが、ふと思い出したように言った。

「……そういえば、街の仕立屋から」
「嫌な前置きやめろ」
「『もし彼が着るなら』って前提で、勝手にデザイン案が届いてたわ」

「もはや都市ぐるみの計画じゃねえか!!」

 紙束が追加で出てくる。
 レースは控えめ、色は淡く、装飾は最小限。
 ――どれも、実用性を重視したかのような、妙に『本気』の仕立てだった。

「……」
「……」
「……」

 沈黙。

「……似合う」
「言うな」
「思ったことを口に出すな」

 ラインハルトは、しばらく図案を見つめた後、静かに息を吐いた。

「……もし」
「もし!?」
「仮にだよ」

 全員が身構える。

「それで、ファミリアの士気が上がるなら」
「上がらねえよ!!」
「むしろ下がるわ!!」

 だが、その瞬間。
 誰かが、ぽつりと呟いた。

「……でも」
「暗黒期で、これだけ笑えたの久しぶりだな」

 空気が、一瞬だけ緩む。

「……」
「……」
「……」

 リューは、深く、深く息を吸って。

「……却下だ」
「即決!?」
「却下といったら却下だぁーっ!!」

 そう言い切った直後、
 輝夜がにっこりと笑った。

「じゃあ、“ランキング記念”ってことで」
「やめろ」
「想像するだけ、ってのはどうだ?」

「それもアウトだ!!」

 こうして、女装一位という不名誉な称号は封印指定となった。
 しかし――
 誰の記憶からも、消えることはなかった。

 ラインハルトが通り過ぎるたび、
 誰かが一瞬だけ、淡い色の布を思い浮かべてしまうことを除けば。


◇◇◇
ちょっとふざけすぎたから没。
めっちゃ途中まで書いてて消してない部分だったから供養。

剣聖(笑)「――最早、実質公認での羞恥プレイ出来るということなのでは??? ご褒美かな????」

コメディは得意じゃないんだよなぁ。

いつも感想ありがとうございます。
あと、評価も沢山ありがとうございます!
見た事ねえほどついててビックリだぜ本当に。

あと、活動報告に没ネタとかもリクエスト系とか載せたりするので、よかったら見てね。
次の投稿は早ければ多分土日

幕間が描く話(各副題は活動報告にあり)

  • 豊穣祭
  • 剣聖の受難
  • アストレア・ファミリア 剣術指南
  • ロキ・ファミリア × 剣聖
  • その他リクエスト(活動報告まで)
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