盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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12話目

一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その23(拡張版)

 

 

クル王国軍はクンターラ王都プラティシュターナを目前にして進軍の足を止めた。先頭の戦車の中で立ち上がったドリタラーシュトラは盲いた瞳を敵の本拠地に向け、一言だけ発したという。

 

「今日ではない」

 

王都の周りにはクンターラ軍が陣をしき、防衛の準備を整えていた。防衛側は二十万人程度であったが、小高い丘に陣取り、同盟国カルナータから提供された武器で武装していた。ドリタラーシュトラの千里眼のみならず、カルナやアルジュナといった優れた弓兵には、クンターラの戦士たちが手にした異様な形状の弓やいくつも設置された櫓のような絡繰りが見えたことだろう。

 

カルナータ国は黒色火薬の他にも時代を先取りしすぎた武器をいくつも開発していたとされている。例えば原始的なボウガン。これは女子供でも扱えるという点で近代以降のハンドガンに等しいものであった。他にも2000年後の中国で開発された火球(投石器用の爆弾)に酷似した黒い球は、一撃で戦車を吹き飛ばす威力があったという。

 

両軍は一里ほど距離をあけて睨みあったが、ややあって盲目覇王の戦車が方向を変え、クル王国軍は南へと去っていった。

 

この顛末に慌てたのはクンターラに派遣されているカルナータ人技術者たちであった。プラティシュターナから南、つまりカルナータ本国に矛先が変わったことを理解したからだ。カルナータに到達するにはクンターラの国土を縦断する必要があるとはいえ、現在クンターラの主力は王都の防衛に集まっている。これまでの盲目覇王の戦歴から、敵軍を前にして開戦しないとは誰ひとり予想していなかった。しかし現実は無情であった。

 

王宮の上階から両軍の様子を観察していたクリシュナ王は、すぐさま追跡を命じた。しかし目視できていたとはいえ、機動力に優れた覇王の軍に追いつくことは容易ではなかった。

 

地雷原を巧みに避けながら進軍するクル王国軍。時折、自分たちが設置した地雷にかかりながらそれを追うクンターラ王国軍。昼も夜もなく駆けた両軍の距離がある程度一定に保たれていたのは、一体誰の采配だったのか。それは、二日目の早朝に激しい雨が降った時に明らかになった。

 

強行軍にほとんどの戦士が疲れ果て、大規模追いかけっこの速度が緩んだ頃。朝日が昇ったことがわからないほど分厚い雲に覆われた空から、大粒の雨が降ってきた。夏の南インドでは珍しくない突然の大雨であった。

 

「矢筒に布を被せろ!」

 

「湿らせるな!」

 

クンターラ軍が急に騒がしくなり、追う足がさらに遅くなる。先頭で敵から最も遠ざかっていたドリタラーシュトラは鋭い聴覚でそれを捉え、戦車を急停車させた。地面に降り立った巌のような男にクル王国全軍の注目が集まる。

 

「クル族の戦士たちよ、開戦である! 我が弟パーンドゥの指揮のもと敵を退けよ!」

 

盲目覇王の声は雷鳴が轟くようであったという。

 

「同盟国の戦士らは俺に続け! これよりカルナータを落とす!」

 

かくしてクル王国軍は二手にわかれた。クル族の戦士十万人は王弟パーンドゥの指揮下に入り、戦車や馬を反転させた。今しがたまで足を引きずっていた者たちが一斉に闘志を漲らせ、開戦の雄たけびをあげる。同盟国から集められ覇王の目にかなった七万人の戦士たちも再び動き出した王の戦車を強い足取りで追っていった。

 

実質クンターラ軍の足止めを任されたパーンドゥは、五人の息子たちに部隊を率いさせ、苛烈な攻撃に転じた。事前準備なく休みなしの追跡をさせられたクンターラ側の状態は悪く、最前線から最後尾まで二里も伸びていたという。さらに防衛戦を想定していたため行軍の準備も乏しく、盲目覇王のもと遠征慣れしたクル王国軍との意欲の差は歴然であった。そこに火薬を使用した武器が水気に弱いという事実や視界が悪い乱戦でボウガンの優位性が失われたことなどが上乗せされ、勝敗は始まる前から決していたといえよう。

 

駄目押しに、パーンダヴァの半神たちが戦略兵器並みの被害をクンターラ軍にもたらした。今回初めて大遠征に参加したナクラとサハデーヴァは戦場の盲点を見つけるのが上手く、敵部隊の背後に突然現れるようであった。アルジュナはユディシュティラの戦車に同乗し、大雨ごしに敵将を次々と射殺した。これはユディシュティラが御者に命じた最高の位置取りによる成果でもあった。ビーマはやはり最高戦力の一角であり、棍棒だけでなく、近くの林から木を引っこ抜いて振り回すなどして猛威を振るった。

 

雨があがるまで続いた戦いはクンターラ軍の半壊および敗走で幕を閉じた。クル王国側にも相応の被害が出たものの、覇王と合流するべく南に向かう軍の足取りは軽かったという。

 

 

 

 

 

 

 

一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その24

 

 

クル族の指揮をパーンドゥに任せ、自身は同盟国からの戦士たちを率いたドリタラーシュトラ。この判断については諸説あるが、結果だけを見れば、カルナータ王国戦の勝利を確信していたからだろう。驚くべき進軍速度でクンターラを縦断した七万人の軍勢は、カルナータの国境に配置されていた警備隊を瞬く間にせん滅、未踏の地への進軍を開始した。

 

カルナータは鎖国に等しい状態であり、宰相ヴィドゥラが遠征前に送った降伏勧告への返答はなかった。大国クンターラが間に挟まった立地であることや、隔絶した技術力への絶対の自信、鎖国国家特有の非常に高いプライドなど様々な理由があったと思われる。

 

カルナータ国の不幸は、狩猟や自衛のためにボウガンが非常に広く普及していたことであった。ボウガンがあったことによる悲劇はクル王国軍がはじめに接触したカルナータ北部の農村で始まった。

 

地雷を警戒しながら進んでいた軍勢がその村で足を止めたのは、王都までの案内人を調達するためであった。これはドリタラーシュトラの過去の大遠征でもしていたことで、ほとんどの場合は軽い恫喝、稀に暴力によって協力者を得ていた。今回は穏便にことを運ぶべく「百王子の良心」と呼ばれるヴィカルナが小隊と共に村に遣わされた。

 

独特な民族衣装を身に着けた村人たちは、王子一行を遠巻きに警戒していた。いつもと変わらない反応であったため、ヴィカルナは穏やかな声で村長に呼びかけ、そしてーー

 

音もなく放たれた金属の矢を間一髪で避けた。頭を狙ったそれを後ろに反って避けるなり、馬に乗ったままでは良い的だと判断して滑り降りる。その時には一行は変わった形状の弓を構えた村人に囲まれてしまっていた。

 

「殿下を守れ!」

 

同盟国からの徴兵組とはいえ、小隊の戦士たちは優秀であった。一人が主をなくした馬に飛び乗って村人の輪を破り、二人がヴィカルナを守りながら村の出口へと走り出す。残りは足止めのため村人に切りかかり、あたりは血の匂いに包まれた。戦士が一人もいない、女子供が大いに混ざった敵に戦士たちは困惑していたことだろう。

 

ボウガンという初見の武器。戦い慣れていない農夫や若い女、子供までもが致死の攻撃をしてくる異様な状況。至近距離で撃たれる戦士たちが数を減らしはじめた、その時。

 

空から恐ろしい気配が降ってきた。

 

ビリビリと空気を震わせながら乱戦の中心に衝突した大きな影は、着地の衝撃だけでそこにいた村人たちを吹き飛ばした。土煙の中、ブオンと重い音がしていくつも断末魔があがる。舞い上がった風で視界が晴れ、そこに王族の装いの巌のような男を見た戦士たちは驚愕した。

 

「陛下!!」

 

「危険です、お戻りください!」

 

ドリタラーシュトラは自分を守ろうとする満身創痍の戦士たちに短く命じたという。

 

「うぬらは休んでおれ」

 

盲目覇王による単騎突入。脚色が疑われる第六次大遠征のエピソードの中でも多くの学者の失笑の的であるこの話は、村が更地になって終わりを迎える。ここでいう更地とは、人も建物も壊れて何も残らなかったという意味である。

 

小隊の生き残りたちは後日クル王家から報奨を与えられた。また、この後ヴィカルナが父王の戦車に乗せられてあれこれ構われるのは、後世の創作であるとしても大変微笑ましい一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

とあるカルデアにて

 

 

風神の子ビーマは剛力無双の半神にしてクル王家の王子、珍しい異種間婚をしたと思いきや兄弟たちと別の女を共通の妻にしており、さらには趣味が高じた料理の腕でカルデアに貢献するという設定モリモリの人物である。そんなメタ的な感想を抱いているマスター藤丸立香は、今更何を聞いても驚かないと思っていた。

 

「その時、ビーマが女装してなあ」

 

「ごめん、なんて?」

 

「なんだ、聞いとらんかったのか? キーチャカの阿呆がドラウパディーに色目を使いよって、激怒したビーマが女装してアレの寝所に忍び込んだのだ」

 

「ビーマが、女装? 無理がありすぎるのでは」

 

無理無理と首を振る藤丸に、話をしたドゥリーヨダナはにんまりと笑みを浮かべた。食堂のテーブルに頬杖をついていて行儀が悪いが、そんなポーズがよく似合う悪いお兄さんである。なお、ちょいワル親父と呼ぶと殺人デコピンをされるので注意が必要であった。

 

「もう一人の妻ヒディンバーに体が小さく見える幻術をかけてもらったそうだ」

 

「そんなんで騙せたの?」

 

「あの顔だぞ。それなりに美人に決まっておろう」

 

「ドゥリーヨダナって、なんだかんだ言ってビーマのこと大好きだね」

 

「微塵も好きではないが〜?!」

 

わいわいと声をあげていると、シフトが終わったらしい話題の人物が二人のテーブルの方にやってきた。第二再臨のかっちりした白い衣装の姿は半神らしい精悍な美しさだ。

 

「さっきから人の話を大声でしやがって。女装がなんだって?」

 

「お前がキーチャカを肉団子にした話だ」

 

「あー、あれな。忌まわしいから忘れてたわ」

 

呆れた顔で藤丸の隣に腰を下ろしたビーマは、んーと首を傾げて従兄弟を見つめ、犬歯を覗かせて笑った。

 

「女装だったらテメェの方が凄かったじゃねーか。成人するまでドゥフシャラーのお姉様ごっこやってたろ」

 

「わし様の女装!?」

 

ドゥリーヨダナは甘い顔立ちの色男だが、ビーマと同じぐらいのムキムキな体格をしている。声も父王とはまた違った魅惑の低音で、どこをとっても女性的な要素はない。話の内容から、妹のごっこ遊びに付き合っていたとわかるが、どんな女装をしていたのか想像が暴走しそうであった。

 

「なんだマスター。わし様、花のような美少年であったのだぞ」

 

ふふんと得意げな人悪の英雄。さらに自賛しようとした彼は、しかしもう一人近づいてきた人物に即座に立ち上がった。この男がこんな態度を取る相手は一人しかいない。

 

「父上!」

 

「懐かしい話をしておるな」

 

「マスター、伯父上に聞いてみろよ。さっきの話を保証してくれるぜ」

 

ドゥリーヨダナが席を譲る形で藤丸の正面にドリタラーシュトラが座る。息子の方はその隣に移り、どこかそわそわと父の言葉を待っていた。

 

「覇王様、ドゥリーヨダナが小さい頃凄く可愛かったって本当ですか?」

 

「事実である。我が子らは皆母親似で、幼き頃は少女のような姿をしていた」

 

「マハーバーラタ三大美女のガーンダーリー妃に似てたって、もしかしてめちゃくちゃ美少女顔?」

 

「俺は千里眼で擬似的に見ていただけであったが、我が子を深窓の姫君と呼ぶ者は多かった」

 

「それが成長期にニョキニョキでかくなりやがって、ごっこ遊びできなくなったドゥフシャラーが拗ねてたな」

 

「悪いことのように言うな! 子供のわし様は最高の美童! 成長したわし様は最格好いいイケメン!生前の最後も超イケてるお爺様であったのだぞ! もちろん姿形だけでなく、強くて賢くて格好いい! 皆に愛される名君であったのだ!」

 

自分自慢になると圧が強いドゥリーヨダナに押されていると、その隣の盲目覇王が穏やかな声で間に入ってくれた。

 

「うぬは自慢の子である」

 

「んぐっ……」

 

「伯父上、こいつ黙らせてくれてありがとうございます」

 

それだけ言ったビーマは金時と約束があるからと去っていった。残されたのは赤い顔のドゥリーヨダナと静かに座っているドリタラーシュトラ、そして噴き出さないように口元を抑えた人類最後のマスターであった。

 




後書き

クリシュナが外に出張ってこなかったのでカルナータ攻略が先になりました。
老若男女選民意識の塊で、侵略者に降伏とかありえないと考えてるキチ系国家です。
ヴィカルナが無事戻ってくるって予知してても、実際逃げてきたらプッツンして暴れてしまう主人公。
最後は箸休めで、全然本編と関係ないカルデアでの会話でした。
第六次大遠征はまだ続きます。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。

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