盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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13話目

一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その25

 

 

カルナータ国における行軍は、大遠征の経験がない同盟国の戦士たちにとって厳しいものであった。その理由は行軍のペースや敵の強さではなく、自分たち(武装した戦士の軍団)に対してボウガンや未知の爆発物で襲いかかり、毎晩夜営地に自爆特攻を行い、女子供に至るまで根切せざるをえなくさせたカルナータの狂気的な国民性だ。これが精神に堪えたのである。

 

ドリタラーシュトラは歯向かうものに容赦せず、自国と自軍を守ることを第一とする王であった。その後顧の憂いを残さない冷酷さは、後世における彼の評価を複雑化させている。(それさえ魅力の一つだと言うファンも多い。) 第六次大遠征においてクル王国軍は一万人程度のカルナータ軍を全滅させただけでなく、王都までの道すがらの町村を滅ぼし、最終的に同国の人口は二割まで減ったという。さらに遠征後、旧カルナータは宰相ヴィドゥラの直轄地となり、彼が打ち出した戸籍登録義務と移動の規制、クル王国主導の義務教育により厳しく管理されることになる。

 

マハーバーラタで最も凄惨な進軍の末、遠征軍は夏の終わりに王都を取り囲んだ。カルナータ国は東南アジア地域との貿易が盛んであり、美しい王都は当時類を見ない巨大な港を有していたという。

 

王都近郊の平原で地雷原ごしに待ち構えていたカルナータ王国の正規軍一万人は、短い睨みあいの末、大雨を味方につけたクル王国軍に押し潰された。

 

軍を失った敵国に対し、ドリタラーシュトラは最後の降伏勧告を行うも、カルナータ国王はこれを拒否。王都の門を閉ざして籠城の構えを見せた。もしかするとクンターラ王国からの援軍を期待していたのかもしれない。

 

しかし、クル王国軍がそれに付き合うことはなかった。過去五回の大遠征でも籠城しようとした国はいくつもあったが、いずれも即日攻め落とされている。その理由はここで明かされている。

 

ドリタラーシュトラは門前で戦車から降り、巨大な二枚の門扉を見上げながら宣言した。

 

「皆の者、開戦である」

 

カルナータ王都の門は薄ら光る灰色の金属製で、マハーバーラタには金剛石(ヴァジュラ)に等しい硬度という説明のみ記されている。この材質に関しては様々な学説があり、突飛なものだと超合金ではないかという説、やや現実的に鋼や鋼鉄の亜種だとする説などがある。つまり、この門も立派なオーパーツであった。

 

ドリタラーシュトラは門を検分するように触れてから、手を放して立ち位置を調整した。そして全軍の視線が集まる中、天まで届く雄たけびと共に両手の掌底を繰り出した。

 

「おおおおおおおッ!!」

 

この掌底で門と城壁だけでなく王都の地面が揺れたという表現には呆気に取られる。明らかに人の膂力ではありえない現象だ。盲目覇王の力はビーマをも凌いだとされているが、こんなことがありうるのか。詩的な表現で一万頭の象に等しい力があるとされるビーマ。ドリタラーシュトラは十万頭の象に匹敵したという説がある。はたして十万頭以上の象の威力であれば地震が起きるのだろうか。

 

誇張表現はともあれ、ドリタラーシュトラの一撃により巨大な門扉が枠から外れて王都側に倒れ、押し潰された者達の悲鳴と地響きがあがったのだ。少し遅れて盛大な土埃が暗雲のように街を覆う。これが王都殲滅戦の開幕であった。

 

同盟国の戦士たちが王都になだれ込んでいく。市街戦のためドリタラーシュトラは戦車に戻らず、カルナが戦車から放した巨躯の軍馬に跨った。そして精鋭部隊の代わりに百王子らを従えて王都に入り、狂気の民との戦いに身を投じたのだ。

 

王都では今日のために各家庭に武器が支給されており、あらゆる場所に地雷が設置されていた。うら若い娘が助けてと近づいてきたかと思いきや、体に巻き付けていた爆弾で戦士たちを巻き込み、幼い子供たちが物陰から爆発物を投げつける。腰が曲がった老女が、身なりが良い紳士が、無邪気な少年少女らがボウガンを撃ってくる。全市民相手の地獄のような殲滅戦であった。

 

混戦の末、王都の民は全滅したが、クル王国軍にも過去最多の犠牲がでた。ドリタラーシュトラと王子らが王宮を制圧してカルナータ国王の首を手に勝利を叫んだ時、ともに勝ち鬨の声を上げたのは六万人ほどであったという。

 

 

 

 

 

 

 

一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その26

 

 

数十万人の墓標となったカルナータ国王都を後にしたドリタラーシュトラは、北上する途中でパーンドゥ率いるクル族と合流した。クンターラ国軍の足止めを行っていた彼らにも犠牲が出ており、当初十七万人であったクル王国軍は十四万人にまで減っていたという。しかしカルナータが滅亡し、クンターラ軍の追手の第二、第三陣もパーンドゥらが撃退していたため、総合的にクル王国側が優勢であった。

 

遠征軍は少しの休息を挟んでクンターラに舞い戻った。すでにカルナータからの武器提供はなく、脅威となりうる彼の国の生き残りはクンターラに派遣された技術者のみ。あとは王都プラティシュターナを落とすだけと思われたがーー

 

ドリタラーシュトラ率いるクル王国軍は相次ぐクンターラ軍との小規模戦闘に勝利しながらも足を引っ張られ、一月経っても王都に辿り着けないでいた。行軍速度と距離から計算するとプラティシュターナに二十日以内に到着できたはずであったことを踏まえると、クンターラ側の抵抗は相当なものであった。

 

クンターラ軍との戦闘が十回を超えたある夜。眠るドリタラーシュトラの夢にクリシュナが現れる。邦訳版マハーバーラタ下巻第十三章は、神の干渉という名のご都合主義な説明回もとい章なのである。

 

ドリタラーシュトラとクリシュナ(ヴィシュヌ神)の夢の中での対話は、マハーバーラタの物語に編集当時の宗教感に則ったバックストーリーをつけたものだとされている。クリシュナの周りくどい例え話やダルマ法を引用した説法を省いた要点は以下のとおりだ。

 

曰く、クリシュナはヴィシュヌ神の化身であり、ドリタラーシュトラのインド統一戦争による被害を調整するべく遣わされた。

 

曰く、増えすぎた人類の重さで傷つくことを恐れた大地の女神が、神々に人の削減を願い出た。神々はこれを承諾。凶兆の申し子ドゥリーヨダナをカリ・ユガの化身と位置づけ、王位を巡ってパーンダヴァと敵対させ、諸国を巻き込んだ大戦争を起こさせることで戦士層を間引く計画を立てた。しかし、この計画はドゥリーヨダナの誕生前にドリタラーシュトラが統一戦争を始めたことで保留になった。

 

曰く、ここまでの戦死者数が神々の期待値を下回っているため、カルナータの滅亡とクンターラ王都での決戦で帳尻を合わせる予定である。

 

饒舌すぎる神の化身と寡黙な覇王の邂逅は、クリシュナの一方的な語りに終始する。多くの読者がインド神話の神々の無情さを感じるとともに、ドリタラーシュトラの反応に共感したことだろう。

 

長い語りが終わった後のドリタラーシュトラの反応は実にシンプルであった。

 

盲目覇王の攻撃をうけて生き残った三人のうちの最後の一人、ヴィシュヌ神の化身クリシュナ。彼は初撃で頭部を失い、続く蹴りで上半身と下半身が泣き別れたが、すぐさま元通りになって夢の中から消え去っていった。

 

怨敵を始末できなかったドリタラーシュトラの鋭い舌打ちは、これまで家族思いの父、カリスマ性溢れる国王、苛烈な征服者などとして描かれてきた男を等身大の人間に見せてくれる秀逸な演出である。

 

次回はクンターラ王国との最終決戦までをお届けする。最後までお付き合い願いたい。

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

カルナータに進軍した時、俺はきっと虚な目をしていた。

 

この神か宇宙人が関与としか思えないトンチキ技術国が、本当に、本っ当に面倒くさくてロクでもない国だと予知済みだったからだ。戦争に勝利するのは難しくない。相手の軍は一万人しかいないのだ。戦力的に象とアリのようなものだから、王都を落として王様を殺すのは一週間で事足りる。でもそれじゃダメなのが、このカルナータという国なんだ。

 

何度も何度もシミュレートして俺が辿り着いた最適解は、敵対する老若男女を殺し尽くし、町々を潰し、王都と上層陣を完全に滅ぼし、国として再起不能にすること。あまりにも酷い。

 

何回シミュレートしても、生ぬるいことをするとこの国の生き残りは百年先までテロを起こす。王族貴族知識人を一人でも残そうものなら、そいつを旗頭にテロ組織を作り上げる。挙句、ハスティナープラでの同時多発自爆テロをはじめ、トンチキ技術力を薬学に注いでエグい麻薬をばら撒いたり、毒で大規模水質汚染を起こしたり散々だ。この可能性を見た時気絶しそうになった。勘弁してほしい。

 

属国から集めた戦士たちには悪いことをしていると思う。この国は戦士階級がない代わりに王都と国境を守る小規模な軍があって、こいつらは別の場所に出張ってこない。でもほぼ全ての町村で小さい時から選民教育をされた国民が侵略者許すまじって襲いかかってくる。女子供とまで戦う羽目になって、夜うなされてる連中がいるのを知ってる。でもなあ、これも戦争だ。俺たちは勝つし、後に憂いを残さない。相手が誰であっても敵なら殺す。

 

それに、こんなところに女に触ったら死ぬ呪い持ちのパーンドゥや女の前じゃ武器を持たない誓いがあるビーシュマ伯父上を連れてきたら高確率で死んでしまう。だから俺は息子たち以外のクル族をクンターラに置いてきた。本当は気心が知れたみんなと戦いたかったよ。

 

最初の村にヴィカルナを行かせたのも苦渋の決断だった。今思い出しても辛い。何十パターンもシミュレートして一番こっちの犠牲が少ないのがヴィカルナを送った場合だった。嫌なら立ち寄らなければって思うかもだが、あの村の前例ありきで戦士たちの気が引き締まり、そこらじゅうで民間人に襲われても対処できるようになったから、もうどうしようもなかった。

 

諸々の予知でストレスマッハだったところにヴィカルナが逃げ帰ってきて、キレて一人で突っ込んでいったのは反省してる。息子たち(カルナ含む)に散々言われたし、当のヴィカルナにも戦車に一緒に乗ってる時にやんわり苦言された。なんなら後でビーシュマ伯父上に数十年ぶりに「バッカもーん!」と叱られる未来も予知している。

 

ああ、もうすぐ王都に着く。人口が少ない国とはいえ、王都には何十万人も住んでいる。それを七万人の軍勢で半日で落とす。どの未来予知でも市民が徹底抗戦してくるからとっても憂鬱だ。俺だって好き好んで大虐殺してるわけじゃないんだぞ。はー、ガーンダーリーが恋しい。優しい胸に顔を埋めたい。甘やかしてほしい。現実逃避させてくれ。

 

……弱音を吐くのはもう終わり。俺はクル国王、盲目覇王ドリタラーシュトラ。門を吹っ飛ばすパフォーマンスには気合いを入れるぞ!

 




後書き

カルナータはあらゆる面でヤバい国家だったせいで壊滅しました。
生き残ったのは辺境の人たちぐらい。テロできるほど技術力がないから見逃されました。
アカシックレコード経由でこの国のヤバさを知った主人公が最初から滅ぼす方向で動いていたというオチ。
なお、クリシュナ関連は予知できないため、夢に入って来られたのはノーマーク。
ストレスマッハで怒髪天をつきました。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

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