盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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本編最終話です。


20話目【完結】

一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その39

 

 

第七次大遠征はたった一カ国との戦いであったにも関わらず一年以上の月日を要した。そもそもの行軍に片道二ヶ月かかっただけでなく、ランカー上陸戦で三度も繰り返し進軍する必要があったためである。クル王国軍のハスティナープラ凱旋は盛大に祝われ、古代インドの覇者となった王国はこれまでにない昂揚に包まれていたという。

 

ドリタラーシュトラは帰還早々にクル王家の長老たちを集め、今後の統治について具体的に動きはじめた。二章にわたる話し合いの様子は、現代の大企業の役員会を見ているようで斬新である。さらに、寡黙な盲目覇王の時折の発言の鋭さには目を見張るものがある。彼が打ち出した政策の中には近代社会に通じるものがいくつも見られ、現代の社会学・政治学においてなお研究されているのだ。

 

第三の目により遥か未来を見つめていたかもしれない盲目覇王の統治は、古代史で他に類を見ない大国家が対象であることを踏まえると非常に巧みであった。小中規模な反乱は時折見られるも、それらはアシュヴァッターマン率いる治安維持部隊にすぐさま鎮圧され、厳しく取り締まられた。

 

第一次大遠征から二十七年。人類史上二番目に多い二百二十四回の戦争を戦い、人類史上随一の勝率十割という記録を打ち立てたドリタラーシュトラの覇道は終わりを迎えた。この時、彼は五十歳。神話時代の王族は長生きの傾向にあったため、まだ先の人生は長かった。

 

百王子とドゥフシャラーが次々と子供に恵まれ、孫に囲まれたドリタラーシュトラとガーンダーリーは幸せであっただろう。大遠征から一年経って長男ドゥリーヨダナとバーヌマティーの間に双子のラクシュマン・クマラとラクシュマニーが生まれると、ジジ馬鹿全開で息子夫婦と張り合うなど、戦争史とは思えない微笑ましい様子が窺える。

 

パーンドゥ一家との交流も相変わらずであり、インドラプラスタから訪れる弟夫婦や甥たちの一家との関係は良好であり続けた。ドリタラーシュトラら親世代がパーンダヴァ全員と子を成したドラウパディーと兄弟それぞれの第二、第三夫人らの関係を気にかける様子。ビーマの怪力を受け継いだガトートカチャが従兄弟たちに怪我をさせてしまい、父に軽く吹き飛ばされてクッションに突っ込む一幕の微笑ましさ。ビーマとドゥリーヨダナの張り合いも、カルナとアルジュナの武芸の競合も、変わらず続けられた。統一戦争が終わっても英雄たちの人生は続いていたのだ。

 

マハーバーラタの最終章は、ドゥリーヨダナへの譲位のエピソードである。ラクシュマン・クマラの十五歳の成人の節目に、ドリタラーシュトラは息子に王位を譲り、妻ガーンダーリーを連れて長期視察へと旅立った。同行したのは御者がわりのカルナのみだったとされているが、前国王夫妻の世話を養子とはいえ王子一人が行ったとは考えにくく、この点は後世に手が加えられたと考えられている。おそらく夫婦水入らずと言えるほど小規模の使節団であったのだろう。

 

他国全てを平らげて古代インド統一を成したドリタラーシュトラ。彼はこの偉業により神々に祝福され、退位の儀式では天上から美しい花が降り注いだとされている。マハーバーラタが神々が糸引く運命の物語であったなら、彼の死後の楽園あるいは地獄での姿が描かれていたのだろう。しかしマハーバーラタは人による戦争史である。物語は盲目覇王の退位とともに終わるのだ。

 

最後になるが、マハーバーラタ未読の方には是非、邦訳版の上中下巻を手に取っていただきたい。それは一人の男が家族を愛し、国を愛し、世界に覇を唱える物語だ。大英雄・盲目覇王ドリタラーシュトラの生き様に是非魅せられてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

統一戦争が終わっても全然暇にならなかった。むしろ頭を悩ませる問題が多すぎて、疲労感は比べ物にならないぐらい増した。俺のスペシャルボディはどれだけ戦っても疲れることはなかったが、頭を使う作業は別だということだ。毎回遠征前に予知しまくってた時も頭が痛くて仕方なかったもんなぁ。

 

今日も今日とてヴィドゥラとパーンドゥとうんうん唸りながら遠隔地の統治の問題について悩み、最近急激に老け込んだビーシュマ伯父上のお見舞いに行き、ランカー島の領主として頑張ってるヴィカルナからの報告に目を通し、もう一度今度は長老たちと遠隔地の統治について話し合って、頭がパンクしそうだ。戦争の日々に戻りたいとは絶対思わんが、この政治三昧の日々をどうにかしたい。

 

ドゥリーヨダナに王位を譲ってしまおうかとも思ったけど、子供がまだ小さい新米パパからただでさえ少ない自由時間を奪いたくなくて諦めた。あの子も王太子としてめちゃくちゃ政務を担ってくれているんだ。俺も頑張るしかないよな。

 

遅い夕食でガーンダーリーと息子夫婦と仕事以外の話をして、膝に乗せた孫を可愛がる。今日は孫娘のラクシュマニーの番だ。子供は右膝にしか乗せられないというインド式ルールがあるので、一度に二人とも愛でられないのが残念。ラクシュマン・クマラはドゥリーヨダナの膝でご満悦なので、いいんだけど。

 

俺の初孫はドゥフシャーサナのところのドゥルマセーナで、もう二十人以上の孫が各地にいる。みんなはちゃめちゃに可愛いし、何人かは俺とガーンダーリーが名前をつけた。でも一緒に王宮に住んでるのは長男一家の双子だけだ。今年二歳になるラクシュマン・クマラとラクシュマニーは大変な祖父祖母っ子で俺ら夫婦に懐いてくれている。目に入れても痛くないどころか、入れたまま生きていたい。

 

「父上、代わりに野菜を食べてやるのはダメです」

 

「何のことやら」

 

「父上?」

 

「ふふっ、旦那様、バレておりますよ。ラクシュマニー、お母様のところに行きなさい。お野菜をちゃんと食べるまでお祖父様のお膝は禁止です」

 

「む……」

 

「はい、おばあちゃま」

 

ラクシュマニーは緑野菜の苦味を嫌ってひたすら俺の口元に押し付けてくる。割とあからさまなので、正面に座っているドゥリーヨダナは苦笑いだ。ガーンダーリーにやんわり注意されて、仕方なくラクシュマニーをバーヌマティーに引き渡す。お母さんの横に座らさせられて葉野菜をもしょもしょ食べる様子が可愛すぎて死にそうだ。ラクシュマニーがお嫁に行ってひ孫の顔を見るまで死なないがな!

 

孫たちと同じ果実ジュースが入った酒器に口をつけて見えない目を眇める。千里眼に映る息子夫婦はもう立派な親だ。お調子者で割と悪どいところがあるドゥリーヨダナだが、もとより百人も弟妹がいるから年下の相手が抜群に上手い。王太子教育で人への接し方を叩き込まれているし、何より妻子をとても愛している。喜怒哀楽がはっきりしててお喋り好きだから、態度がガワに引っ張られてる俺より子供との距離が近くて羨ましい。

 

昔はビクビクしていたバーヌマティーも今や清楚系の超美人で、意外と厳しいお母さんだ。うちの息子が初恋で大好きな恋人で愛する旦那様なのだとモジモジしながら言っていたあのおぼこい子がなあ。逞しい王太子妃に育ってくれて何よりだ。ツヤツヤの腰までの髪をドゥリーヨダナが毎日梳いてあげてるのを知っている。これからも仲良し夫婦であってくれ。

 

うーん幸せだ。こんな素晴らしい日々がずっと続いてほしい。ラクシュマン・クマラが成人するまでには、百年後まで平和な国にできるだろうか。よーし、見てろよ、ドゥリーヨダナ、ラクシュマン・クマラ。お前たちの代までは困らない国を整えてやるからな! その後は任せたぞ!

 

 

 

 

 

 

 

とあるカルデアにて

 

 

サーヴァントの戦闘能力は生前を遥かに上回ることもあれば、大きく下回ることもある。神話の時代の戦士はほぼ後者であり、ヘラクレスやギルガメッシュ、クー・フーリンといった超一級の英雄ともなるとクラス補正によって大幅に能力が制限されてしまう。

 

古代インドの大英雄ドリタラーシュトラも例に漏れず、最優のクラスとされるセイバーとして現界してなお弱体化が惜しまれていた。

 

「父上はちょっとした山ならワンパンで崩せたぞ」

 

「伯父上と力比べして五秒持った試しがねえ」

 

「伯父上の攻撃は轟音を伴っていましたが、思えばあれは音速の壁の音(ソニックブーム)だったのですね」

 

これらは当人の息子と甥二人の証言である。サーヴァントの型に嵌められてなお、甥二人の証言は適用されるのだが、筋力EXを持ってしても山を一撃で崩すことはできず、これにはドリタラーシュトラ本人も残念がっていた。

 

「こうして見てると全然信じられない。本当に弱くなっちゃったの?」

 

「本人も家族もそう言うからには間違いないね。いやあ、古代インドは凄まじい」

 

シミュレータ内の様子をモニター越しに見ながらカルデアのマスター藤丸立香とレオナルド・ダ・ヴィンチが言葉を交わす。シミュレータが作り出した荒野では、単騎のドリタラーシュトラが難易度90+相当のエネミー相手に猛威を振るっていた。

 

無骨な剣が振るわれるたびに、ドーンという雷鳴に似た音が上がり空気が震える。HPが低めの個体はスキル付与された一撃で砕かれ、硬めの個体も四連撃でバラバラに崩れる。三ターン目に三体で現れたゲイザーは蹴飛ばされ、殴られ、満遍なく削られたうえで対軍宝具で塵となった。

 

「攻撃性能に目が行きがちだけど、あの回避スキルが凄まじい。宝具を打つまでの時間稼ぎが秀逸だよ」

 

「千里眼の、えっとアカシック」

 

「アカシックレコード。魔術的にいえば根源だ。まさか盲目覇王が根源接続者だとはね」

 

「つまり覇王様は魔法使いってこと?」

 

魔術の適性はないのに、と首を傾げる藤丸。ダ・ヴィンチはううんと首を振って魔術初心者のマスターに説明した。

 

「必ずしもそうじゃない。ドリタラーシュトラの場合は、第三の目がアカシックレコードに接続したことで擬似的な千里眼を手に入れたんだ。アカシックレコードはあらゆる情報が集まった知識の概念的ネットワーク。宇宙のインターネットみたいなものさ。マハーバーラタで彼が未来予知っぽい動きをしてたのはこれのおかげだろうね」

 

「サーヴァントになってほとんど見えなくなったって言ってたよ」

 

「そりゃそうさ。アカシックレコードへの接続なんて、本家の千里眼持ちでもそうできることじゃない。ギルガメッシュやマーリン、おそらくソロモンだって難しいだろう。キャスターでもないのに少しでも見えてるのが凄いんだよ」

 

現在過去未来を見通す千里眼と、世界からあらゆる情報を直接抜き出せる能力は、全く別物なんだ。万能の天才はそう言って次の戦闘に注意を戻した。

 

巌のような男がさらに見上げるほど巨大なドラゴンを殴り飛ばしている。顎を打ち上げる一撃で巨体が浮き上がり、続いた片手での剣の横なぎで丸太のような首が断ち切られた。全てのスキルを載せたドリタラーシュトラのATKは通常の二倍以上である。それにスター獲得によるクリティカルが乗ればさらに攻撃力が上がるのだった。

 

「強いねー」

 

「これでまだ聖杯による強化をしてないとは恐れ入るなー」

 

二人して遠い目をしながら、最後のエネミーを倒した男を讃える。不意に男の白んだ茶色い瞳がモニターの方向に向き、視線が合った。片方は盲目なので、厳密には千里眼で見つかったのだが。

 

『これで終いか?』

 

低い声の問いかけにそうだと返せば、ドリタラーシュトラは厳しい口元を少し緩ませた。

 

『次は息子らとの模擬戦で頼む。エネミー相手は些か温い』

 

「うーん、インドの模擬戦はなあ」

 

「この間カウラヴァとパーンダヴァの団体戦で酷いことになったよね」

 

ヤバインド本当にヤバいよね、と顔を見合わせる二人。シミュレータ内では、そのやり取りさえ千里眼で把握したらしい盲目覇王が喉を鳴らして笑っていた。

 

 




後書き

これにて本編完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
一分でわかる〜のような形式で物語を書いたのは初めてで大変興味深かったです。
本人の語りとカルデア視点を交えて色々試せたのも楽しかったし、偽典マハバを創作するために古代インドの地図を見つけ出して悩んだのも良い経験でした。
引き続き番外編のストックをあげていきます。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。

  • 長兄以外の百王子から見た父王
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