要注意!! R15程度の残酷描写があります
タイトルは「ここで会ったが三千年目」と続きます
とある並行世界のカルデアにて
英霊ドゥリーヨダナはカルデアの古参サーヴァントである。カルデア初の星5サーヴァントであるカルナに続いて召喚され、のんびりやで根性があるマスターのもと激闘を制してきた。一度世界を救い、今はおかわりの最中。第四の異聞帯で唯一神になったアルジュナを倒したばかりであった。
インド異聞帯を攻略した後、並行世界から一人の大英雄が召喚された。ドゥリーヨダナの父、盲目王(本人の世界では盲目覇王)ドリタラーシュトラである。
世界が異なろうとも父は父。ドゥリーヨダナは姿も雰囲気も全く異なる父を受入れ、その人となりがわかってくると普通に懐いた。今も食堂に向かいながら笑顔で話しかけている。
「父上と出陣するのが楽しみです」
「マスターが好む編成では難しいであろう」
「バスター編成で父上を主力とし、わし様はスキル付与担当なら可能でしょう」
「うぬはそれでよいのか」
「父上と同じパーティーに入れるのなら!」
ドゥリーヨダナは熾烈な王位継承争いの中でパーンダヴァと敵対し、神々に定められたとおり大戦争を起こした凶兆の申し子だ。生前、最後に見た父親は諦めきった悲しそうな顔をしており、目の前の覇王とはまったく違う弱々しい老人であった。しかし白茶色の瞳の奥にある我が子への愛情は同じで、ドゥリーヨダナは今更もっと親孝行をすればよかったと後悔していた。もちろんクルクシェートラのことは微塵も後悔していないのだが。
並行世界からやってきたドリタラーシュトラはドゥリーヨダナの一番の味方だ。カルデアで再会したカルナは永遠の友であるが、サーヴァントになった今、彼が何をおいてもドゥリーヨダナの味方をすることはない。その点、ドリタラーシュトラはサーヴァントにあるまじき優先順位をはじめから明確にしていた。
「ドゥリーヨダナ! 覇王様!」
マスターが廊下の先から呼んでいる。日課の召喚が終わったのだろう。縁がある英霊が来たのだろうか、と少し期待しながら彼女に近づいた。
「マスター、どうしたのだ?」
「新しいサーヴァントが来てくれたんだけど、ドゥリーヨダナ達と色々あった人だから先に言っておきたくて」
抱くべきは期待ではなく警戒だったようだ。ドゥリーヨダナと色々あった人間で英霊の座に召し上げられるような英雄。おのずと絞られる可能性に眉が寄ってしまう。
「パーンダヴァが来たのだな」
「ビーマか」
横から盲目覇王が口にしたのは質問ではなく最終確認だ。すでに千里眼で確認済なのだろう。
「うん、ランサーのビーマが来てくれたんだ。ちょっと話した印象だと気のいいお兄さんって感じだったよ」
「ふんっ、わし様というものがありながらあの男を呼ぶとは、この浮気者め!」
マスターにきつく当たらないよう意識して、おどけた風に装う。少し強張ったドゥリーヨダナの肩に父王の大きな手が乗せられた。
「パーンダヴァとは相いれぬ。互いに関与するなということであれば従おう」
「できれば仲間として一緒に戦ってほ」
妙なところで言葉を途切れさせた少女。彼女が急に真剣な無表情で視線を上げたため、ドゥリーヨダナも斜め上にある父の顔を見て、危うく悲鳴をあげそうになった。
ドリタラーシュトラは笑顔であった。殺気も怒気も外に漏れておらず、当然マスターに危害を加える様子もない。ただ、人食い虎のように口角をあげ、千里眼でここではないどこかを見据えていた。
「我等はアレに関与せぬということでよいな、マスター。なに、カルデアに不和は生じさせぬ」
「うん、今はそれでいいです。無理を言ってごめんなさい、覇王様」
「ふっ、何のことだか」
このやり取りの間、ドリタラーシュトラは息子から手を離さなかった。マスターが新顔のもとに戻っていくのを見送り、ドゥリーヨダナは盛大に息を吐きだした。それが自分を傷つけるものではないとわかっていても、父の中に湧きあがった恐ろしい殺気と怒気を手のひらから感じてしまったのだ。
「父上、ビーマと鉢合わせたらどうされます」
「その時に決める」
マスターに不和を生じさせないと言ったからには、私闘はない。可能性が高いのはシミュレータでの模擬戦という名の決闘だろうか。そんなことを考えながら、食堂へと向かう。
そこで宿敵と鉢合わせるとは微塵も思っていなかった。
* * *
決闘は平等な条件のうえで行うこと。
カルデアに集うサーヴァントの中にはどうしても相容れない者たちや、暴力を言語としている者たちがいる。そんな彼らを抑制しすぎないようカルデアが提示したのが、このルールだ。シミュレータを使用した決闘では、戦闘に参加する全員が同等の強化段階へと霊基を調整され、クラス相性が抹消される。この決まりにより、召喚されたばかりのレベル1でもレベル上限の猛者と互角に戦うことが可能になるのだ。
食堂で出会がしらに「ここで悪さしたらもう一度テメエを殺す」と言い放ったビーマに決闘を申し込んだのはドゥリーヨダナではなくその父であった。ビーマは相手が並行世界から来た伯父だと知って驚愕したが、戦士同士の戦いに背を向けることはしなかった。
「あんた本当に伯父上かよ!? ぐうっ、ガッ」
「確かに、俺はうぬが苦しめた老王ではない。貴様に百人の子を殺され、息子の味がいかに甘美であったかを告げられた哀れなドリタラーシュトラではない」
巨漢二人のぶつかりあいは早い段階で勝敗が見えていた。覇王は相手に合わせてレベル1で未強化のステータス。獲物は武骨な大剣と巨大な旗槍でクラス相性は適用されていない。つまり勝つのは純粋に戦闘に秀でる方ということだ。
風神の子ビーマはマハーバーラタ最強の戦士の一人である。怪力無双のパーンダヴァ次兄であり、クルクシェートラの地で百王子を皆殺しにする活躍を見せた大英雄。宿敵ドゥリーヨダナとの一騎打ちで卑怯といわれる手を使ったとはいえ、実力は拮抗しており、たとえ腿を攻撃しなくとも勝負がどうなるかはわかっていなかった。
間違いなくトップサーヴァントの器であるビーマが、シミュレータが象った乾いた戦場で血と土に塗れている。今しがた彼を蹴りとばした巌のような男は怪我ひとつ負っていなかった。
「だが、俺も見たぞ。うぬらが我が国を、俺の家族を食い散らかす悍ましき未来をな」
「先に汚ねえ手で俺らを害したのは、あんた達だろうが!! ドゥリーヨダナが俺に毒を盛った! 焼き殺そうとした! イカサマ骰子で全て奪って! 我等の妻を侮辱しやがった!」
ビーマが並べたことは、マハーバーラタに語られるカウラヴァの悪行に違いない。ドゥリーヨダナ率いるカウラヴァは物語の悪役であり、実際に彼らの悪意ある行動がクルクシェートラの大戦争を引き起こした。物語の至る所で、戦争を回避するチャンスはあったのだ。
「それが何だ」
轟音とともにドリタラーシュトラが剣を振るう。力負けすることを悟ったビーマは回避を選び、旗を翻して突きを放った。盲目覇王は迫る切っ先に目を向けることもなく身を反らす。
「俺はクル国王にしてカウラヴァの長。我が国に仇なす者はけして許さぬ。たとえそれが我が弟パーンドゥの子らであってもだ」
ドリタラーシュトラの凄まじい殺気で空気が揺れる。ビーマは奥歯を噛みしめながら槍を構え、些細な動作も逃さないとばかりに相手を睨みつけた。狂ってやがる、とは口に出さなかった。
そこからの猛攻は押し寄せる津波の様であった。この世界の誰も知ることがない、盲目覇王と対峙した者たちが彼を天災と呼んだ由縁だ。一撃一撃が戦闘の最適解であり、恐るべき膂力で繰り出される攻撃は防御不能。生前己がそうする側だったビーマは、この局面において屠られる側となったのだ。
「マジかよ……」
剣戟の合間の拳が頬をかすめ、思わずたたらを踏む。その一瞬の隙に大剣がビーマの左腿を貫いた。棍棒使いの決闘であれば明確な反則行為だが、この立ち合いにおいては関係ない。痛みに屈することなく振るった旗槍は避けられた。剣を手放したドリタラーシュトラの両手が血まみれの脚を掴んだ。
「グアッ、やめろ、あ、がっあああアアアッ!!」
それはクルクシェートラで幾度も聞いた、正確にはビーマが作り出した人体が裂ける音であった。逞しい左脚を引き千切った巨漢に、続けて顔面を何度も殴られる。衝撃と痛みで目の前が真っ赤になった。精悍な美貌は見る影もなく、まるで踏みつけられたようだ。それでも意識を失わなかったのは流石の大英雄。槍の間合いではないためビーマも武器を手放し、ドリタラーシュトラに掴み掛かった。そのまま倒れ込むように捨て身で覆い被さり、喉笛を食いちぎろうとする。しかしその悪あがきも容赦ない前蹴りで退けられた。
「ぐ、テメェ……次は、ぶっ殺す!!」
「ほざきよる、畜生風情が」
シミュレータの戦闘終了を告げるアラート音。戦いを見守っていたカルデアの面々は顔面蒼白だろう。それでもシミュレータを傷つけないよう配慮した戦いであれば注意されることはない。
退出の光に包まれる中、盲目覇王はうっそりと口角を上げて甥と同じ顔をした相手に告げた。
「次は首を落とし腹を開く。俺は人を食らう畜生ではないが、獣の血抜きと腑分けはできるのでな」
* * *
とある転生者のモノローグ
カルデアにビーマがやってきた。俺の可愛い甥ではなく、息子たちの仇の憎いあんちくしょうの方だ。
運悪く奴の召喚初日にバッタリ出会い、ドゥリーヨダナが何も言わないうちから言いがかりをつけてきた上に殺人予告までしやがった。甥っ子と同じ顔をしている相手に憎しみしか感じない。クリシュナのクソ野郎と対面した時だってこんな怒りは湧かなかった。当たり前か。あの日、妊娠中の奥さんに寄り添いながらうっかり見てしまった悍ましい未来を、この世界で実行した奴なんだから。
その場でメチャクチャにしてやりたい衝動はあった。しかし俺もカルデアのサーヴァント。この世界の息子が生きた歴史を、人理を守るために戦う誓いを立てた身だ。のんびりやのマスターのこともそれなりに気に入っている。それにドゥリーヨダナはカルデアが大好きで、俺が何かやらかしたら彼に迷惑をかけることになる。
なので決闘を申し入れることにした。
カルデアは慢性的な戦力不足だが、それなりの数のサーヴァントの召喚に成功している。中には殺し殺されの因縁がある者たちもいて、彼らはシミュレータ内での決闘という形でいがみ合いを解決することがままある。俺の気持ちはいがみ合いなんて可愛いもんじゃないけどな!
マスターはハラハラしながらも決闘申請を受理してくれた。ボーダー内でやり合われたら大変だもんな。大丈夫、シミュレータが壊れるような派手なことはしないさ。見たところ、この世界のビーマは可愛い甥とさして変わらない強さだ。大層な神造の槍を持ってはいるが、かすり傷で即死とかそういった類のギミックはなさげ。そういうことなら、弱い者いじめだと思われない程度に加減して、恨みを晴らさせてもらおう。
「父上、初日から決闘騒ぎとは攻めておりますな」
「許せ、ドゥリーヨダナ。うぬの獲物を奪うつもりはないのだ」
「それはお気になさらず! わし様はカルデアで奴とことを構えるつもりはありません。父上もご存知の通り、わし様は何よりマスターを勝たせてやりたいのです」
胸を張ってそんなことを言う息子があまりに健気で、思わず撫でまくってしまった。そっか、お前はマスターの旅の最初の方から一緒に苦労してきてものすごく成長したんだな。お父さんは誇らしいぞ!!
「ではビーマのことは俺に任せておけ」
「ふっふっふ、父上、ご武運を」
ドゥリーヨダナは何度も俺と手合わせしてるので、俺の強さを正しく理解している。だから全く心配してない悪い笑顔でシミュレータ室までついてきた。
マスターの横には太々しい顔をしたビーマがいる。まだ俺がドリタラーシュトラだって信じきれてないみたいだが、そんな顔してられるのも今のうちだ。
これからその左足を引きちぎって、お綺麗な顔面をボッコボコに潰してやるからな!
後書き
本編18話ラストに出てきたFGO原作寄りカルデアの続きです。
主人公は自分(家族親族クル族含む)さえよければ道理が引っ込むタイプの秩序・悪。
マハバ原典の知識は彼の覇道のきっかけであり、背を押した強迫観念でありつづけたもの。
悍ましい未来が現実となった世界で長年の恨みを晴らす気満々です。
逆恨みですが本人的には無問題。うーん、悪属性。
なお、私はビーマ推しなので、これを書くのがとてもつらかったです。
このカルデアのわし様(とカルナ)は初期に呼ばれてマスターと頑張ってきており、とっくに絆レベルMAX。
生前の顛末は割り切ってます。個人間の好き嫌いや宿痾は別ですが。
戦争は終わり既に国はなく、味方も敵も全員とっくに死んだ後に同じことを繰り返す気はないということ。
なお、絆5のセリフの通り、マスターと一緒に新たな戦争をすることには前向きです。
なお、主人公が一箇所だけビーマを貴様呼びしてるのは故意にそうしました。
ガワの翻訳なしで中の人の言葉がまんま出てきています。
コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!
【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。
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