盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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番外「一分でわかる古代インド:夭折の王子アビマニュ」

 

 

マハーバーラタに登場する主要なクル王族は統一戦争を生き残り、彼らのその後を語る民間伝承で老年の活躍が語られるなど、総じて長生きの傾向がある。その点では、前回紹介したカルナは早死にであったといえよう。しかしクル王族にも若くして世を去った者はいた。

 

夭折の王子アビマニュ。彼はわずか16歳で世を去った、アルジュナと第三夫人スバドラーの間に生まれた長男である。

 

アビマニュに関する伝承は、実にインド神話らしい美しい悲劇である。ある神々の宴で、余興として人間に生まれ変わって下界の生活を体験するといった話題に花が咲き、若い神々の中からくじ引きで一柱が転生することになった。このくじ引きの勝者が月神チャンドラ(あるいはソーマ)の子ヴァルチャス。アビマニュの前世である。

 

ここまでは比較的穏便な神々の戯れだ。問題はチャンドラ神が息子を溺愛しており、長い期間下界に行かせるのは耐えられないと他の神々に申し立てたことだった。普段大人しい月神からの猛烈な抗議に神々は最大限譲歩し、ヴァルチャスにも了承をとり、下界での生活を16年に定めたとされている。このとおり、アビマニュの寿命は生まれる前から決まっていたのだ。

 

インドラ神の子とはいえ人間であるアルジュナが、このような神々の取り決めを知るはずもない。彼は長男の誕生を心から喜び、両親や兄弟、伯父夫婦と従兄弟たちまで巻き込んで盛大に祝った。

 

アビマニュが物心着く頃には、彼は両親の良いとこ取りをした美しく賢く才能に溢れた子供として将来を期待されていた。特に、数々のエピソードに語られるアルジュナの親バカっぷりは、マハーバーラタで描かれた真面目な王子からは想像できない。あまりにもアビマニュを贔屓したため、盲目覇王が苦言をよこしたとさえ言われている。

 

クル国王ドリタラーシュトラと王弟パーンドゥの家族ぐるみの付き合いから、アビマニュは同じ年の再従兄弟(はとこ)である王太子ドゥリーヨダナの息子ラクシュマン・クマラと大層仲が良かった。利発で好奇心旺盛なアビマニュと母親似で物静かなラクシュマン・クマラは正反対の性格であったとされるが、彼らは未来の国王とその右腕になる約束を交わした大親友であったという。

 

もう一人、王宮でアビマニュと長い時間をともに過ごした人物がいる。国王ドリタラーシュトラその人である。将来有望とはいえ、世界(古代インド)の王になった男が甥の幼い息子が遊びに来るたびに会っていたというのは異様だ。このため、盲目覇王はその千里眼でアビマニュの定められた寿命を知っていたという学説が主流である。家族を何より愛する男は、アビマニュの短い人生が満ち足りたものであるように気を配っていたのだろう。

 

アビマニュが十五歳になり、ラクシュマン・クマラや他の百王子の息子数名とともに成人を迎えた年。ドリタラーシュトラは長男ドゥリーヨダナに王位を譲り渡した。

 

覇王は譲位直前にパーンドゥとアルジュナを呼びつけたとされている。

 

「ひと月以内にアビマニュに妻を娶らせよ。あの子が好む娘であれば身分は問わぬ」

 

「兄上、何をおっしゃるのですか!? 王太子の長子ラクシュマン・クマラを差し置いてアビマニュが結婚など」

 

「訳は言えぬ。俺からの最後の王命として必ず果たすのだ。アルジュナ、良いな」

 

「……承知いたしました、伯父上」

 

この一幕は、パーンダヴァの本拠地インドラプラスタに伝わる物語「幸せな月の子」からの引用である。物語の三分の一を占めるアビマニュの嫁取りエピソードは心温まる少年少女の恋を描くものであるが、その後の顛末を知っている者の涙を誘う。

 

アビマニュの花嫁に選ばれたのは旧マツヤ王家の娘ウッターラ。歌と踊りを得意とする活発な少女であった。マツヤは統一戦争の早い段階でクル王国に滅ぼされた敗戦国であったが、生き残った王族は旧王国の領土の要職に付くなどして世を渡っていた。その中で生まれたウッターラは踊りの達人であるアルジュナに憧れ、インドラプラスタの領主館の侍女を志望した、アルジュナの追っかけファンであった。アビマニュは同年代の身近な異性として以前より彼女を意識しており、祖父と父から嫁取りの話をされた際にウッターラの名前を挙げたのだ。

 

「幸せな月の子」には父親のファンである少女を毎日口説くアビマニュの涙ぐましい姿が描かれている。ある日はウッターラを花に例え、またある日は星に例え。翌る日には美しい髪飾りを贈り、別の日には彼女に歌を捧げた。そんな親友の奮闘を応援するラクシュマン・クマラも微笑ましく、王国一の美少年から猛烈なアタックを受けて満更でもないウッターラの乙女心も好ましい。このような眩しく青い日々を経て、アビマニュは成人式から一月後に妻帯者となった。

 

国王を主賓に招いての結婚式。国をあげて祝福されたアビマニュ夫妻に、ドリタラーシュトラは一人の老人を紹介した。クル王家に縁深き聖仙ヴィヤーサである。覇王は、百王子の誕生を手伝った血縁上の父に、アビマニュとウッターラに一夜で子を授けるよう依頼していたのだ。正確にはヴィヤーサを新郎の曽祖父として紹介しただけなのだが、読者は地の文からこの依頼のことを知り得るのである。

 

ドリタラーシュトラの優しい暗躍により、アビマニュは十五歳にして父となる。彼が十六歳の誕生日をひと月後に控えた満月の夜、ウッターラは息子パリークシットを産んだ。父親そっくりの、月のように美しい赤ん坊であったという。

 

物語の続きは語るまでもないだろう。アビマニュは家族と友人に恵まれた幸せな日々を送り、定められた時間を全うした。月の子が天に帰った夜、インドラプラスタは深い悲しみに包まれ、涙の海に沈むようであったという。

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

アルジュナから長男が生まれたという報せがきた。ドラウパディーとも二人目の奥さんとも子供がいない中、昨年公務先から駆け落ち同然に連れてきたスバドラーともう子供を作ったということだ。あの子はその後にも奥さんをもらって四人の妻帯者なんだよなあ。俺にはちょっと理解できない。パーンドゥに聞いた限りじゃドラウパディー対他の奥さんで激しくバチバチやってるそうだし、どうしたもんか。家庭内不破からお家騒動とか絶対にやめてほしい。俺が何のために古代インドを統一したと思ってるんだ!

 

ともあれ赤ちゃんが生まれたのはとてもめでたい。俺のところもバーヌマティーが臨月でもうすぐ孫が生まれる。同い年のまたいとこ同士で仲良くしてくれたらいいな。

 

あれ、アルジュナの息子? 名前がアビマニュ。アビマニュ……ダメじゃん!!

 

あの胸糞悪い未来に登場した月神の子供の転生体だ。うちの孫と何度も戦場でぶつかったクソガキ。アカシックなんちゃら、あいつの話を詳しく!! あー、あー、嫌だ、思い出したくなかった。可愛い赤ちゃんが生まれた報せとその子が十六歳で死ぬっていう情報が一緒に来るとか、新手の地獄か!? くそっ、弟にも甥にも伝えられんぞ、こんなこと。神様が決めた寿命をどうこうするのもシミュレート不能って出やがる。俺じゃ手も足も出ない、物理(暴力)で解決できない事ってことだ。畜生!!

 

オーケー、深呼吸だ、ドリタラーシュトラ。寿命がどうにもならんならQOLを上げるんだ。誰が見ても幸せな十六年にする。これしかない。唸れアカシックなんちゃら! アビマニュの人生をシミュレートだ! 最高にハッピー路線でいくぞ。大遠征前より集中しろ、俺の脳みそ!

 

ショックすぎて変なテンションになった俺は、ガーンダーリーが心配するほど集中して人一人の十六年の人生を組み立てた。もちろんアビマニュの自由意志が第一だが、それとなく幸せルートのレールに誘導するのが俺の仕事だ。大伯父ちゃんに任せとけ、大親友と恋愛結婚の嫁さんと超可愛い子供に恵まれるようにしてやるからな!!

 

それからの十六年はアビマニュ中心というわけではなかったけれど、要所要所に必ず関与するようにした。大親友(予定)の俺の可愛すぎる孫ラクシュマン・クマラと仲良くなれるようにアルジュナをうちとパーンダヴァの繋ぎ役に任命し、是非、子供同行で来いと伝えた。さらに好奇心旺盛なアビマニュが好きなだけ勉強して色んな経験ができるように、王都に高名なバラモンを何人も招待して子供たち相手に講義してもらった。会うたびにさりげなく「幸せか?」「楽しいか?」「他にしたいことあるか?」と声をかけ、満面の笑顔に心をグッサグサにされた。

 

孫たちが十五歳になった時が一番大変だった。アビマニュの嫁取りは祖父パーンドゥと父アルジュナが主導すべきことだ。いくら俺が王様(引退直前)で家長でも口出しすべきではない。それを曲げて超口出ししたのは、弟に悪いことをしたと思っている。

 

アビマニュが無事ウッターラを選んで二人の結婚が決まり、俺は最後の仕事のために数十年ぶりに一人で外出した。王様になってから完全に一人なんてほぼなかったからな。心配するガーンダーリーに「俺を害せる者がいると思うか?」と自信たっぷりで言ったら、拗ねた彼女に三回しか見送りのキスをしてもらえなかった。猛烈に反省した。ともあれ、俺は千里眼で探しておいた俺ら兄弟の遺伝子提供者、凄いホームレスのおっちゃんこと聖仙ヴィヤーサに会いに行ったのだ。

 

ヴィヤーサは変な爺さんだった。俺が来るのがわかっていたらしく、到着のタイミングで謎の葉っぱを煎じた茶を用意してくれていた。その渋くて不味い茶を礼儀正しく頂いた俺は偉かった。

 

「そなた、まっことどうしようもない男であるなあ」

 

俺が一通り説明すると、ヴィヤーサはのほほんとした口調でそう言った。

 

「神々がアビマニュの寿命を十六に定めたことと、そなたがアビマニュの人生を全て決めたこと。どう違うのだ?」

 

「……もう後には引けぬ。聖仙ヴィヤーサ、いや、父上、伏してお願い申し上げる。アビマニュらに子を授けてやってほしい」

 

なんてこった、生まれて初めて真っ当に諭された。ビーシュマ伯父上に叱られたことも奥さんに嗜められたこともヴィドゥラに苦言されたこともあったが、この年になって親父に耳に痛い指摘をされるのは堪えるな。でも俺はやり遂げるぞ! 古代インド統一をできたんだ、父親の一人や二人説得して見せる!

 

と、意気込んだ俺だったが、情けないことに言葉での説得はできなかった。タイムリミットが近づいてきて、仕方なくヴィヤーサを担いで走って王都に戻ったのだ。俺の肩で激しく揺られながら、汚え爺さんは大笑いしていた。マッハで運送されてるのに気絶しなくて吃驚だ。

 

結局、元国王の盲目覇王(息子)のお願いより、結婚式でほっぺを真っ赤にした曾孫の顔の方が効いたようで、アビマニュを前にしたヴィヤーサはちゃんと新郎新婦を寿いでくれた。子作りのおまじない万々歳だ。

 

十ヶ月後にアビマニュとウッターラが赤ちゃんのパリークシットを見せてくれた時、涙腺をぎゅうぎゅうに制御して涙を堪えた。

 

次に俺がアビマニュの顔を見たのは、彼の葬式の時だった。荼毘に付される前の、綺麗に整えられた遺体はよくできた人形のようだった。さすがはナクラに並ぶ美形と呼ばれた子だ。長い睫毛を伏せた寝顔は微笑んでいるようで、幸せな人生だったのだと思わせてくれた。

 

大泣きしているスバドラーと目を腫らしているアルジュナ。肩を落として俯くパーンドゥとそんな父の周りに集まったパーンダヴァ。国王夫妻である両親の隣で涙を堪えているラクシュマン・クマラ。泣いてる女性陣と一族の子供たちの中で、パリークシットを抱いたウッターラが静かに夫の亡骸が炎に包まれるのを見守っていた。よく見えすぎる千里眼で彼女の目元が赤いのがわかったけれど、俺にできるのは、ガーンダーリーに彼女の側に行ってもらうことだけだった。

 

これで良かった。こうしなければ俺はきっと後悔した。未来を擬似的にでも覗ける我が身を恨んだはずだ。アビマニュのことは墓まで持っていく、俺とヴィヤーサだけの秘密だ。あの爺さんはきっと誰にも言わないだろう。

 

……疲れたなあ。決壊したがる涙腺をコントロールするのも、今後のことをシミュレートする頭を落ち着かせるのも、とても疲れた。今夜はガーンダーリーとただ抱き合って寝よう。

 

おやすみ、アビマニュ。神様に戻っても、たまには家族のことを思い出してくれよ?

 




後書き

アルジュナの息子アビマニュのお話でした。
享年16歳、原典のマハーバーラタでカバディの元ネタ的な死に方をした人物です。
今回も盲目覇王がアルチメット自己中心男であること、一族のためならどんなことでもやり遂げるオリハルコンメンタルであることを念頭に書きました。
彼にとって原典アビマニュは死んで当然のクソガキ、並行アビマニュは愛する弟の孫で可愛い子なのです。
FGOカルデアでのビーマといい、バーサーカーじゃないのに頭バーサーカーで戦慄します。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

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  • 長兄以外の百王子から見た父王
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  • 現パロの盲目覇王一家
  • 第4次聖杯戦争の盲目覇王
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