波乱の一回戦十六試合がすべて終了した頃には、シミュレータの設備が悲鳴をあげており、ダ・ヴィンチほかストームボーダーの施設に関わる上層陣全員からイベントにストップがかかった。二回戦以降は翌日に持ち越しとなったのだ。
勝者も敗者も観客も入り乱れてシミュレータを後にする中、ドリタラーシュトラが率いるクル王国の英雄達に近づく者がいた。屈強な戦士たちと比べるとひときわ小さく華奢な、艶やかな童女であった。
「盲目覇王、圧倒的な勝利であったの」
「武則天か」
王の宴でのひと悶着以来、幼い姿をした中国唯一の女帝はよくドリタラーシュトラの前に現れるようになった。大きさが違いすぎるため目の前にいても声が遠い。しかし巌のような巨漢は一度として身をかがめようとはせず、見た目が幼い相手を子供扱いしなかった。このため二人は不自然なほど見上げて見下ろす格好であった。
「そなたの剛腕は見ていて胸がすくのじゃ。明日も楽しみにしておるぞ」
「ふっ、うぬの期待に応えよう」
首が痛いほど見上げる羽目になっているというのに、武則天は機嫌が良い。お気に入りの英雄を激励して満足した彼女は他に目もくれず去っていった。
「んっふっふ、父上も隅におけませんなぁ」
「つまらん冗談を申すな、ドゥリーヨダナ」
軽口を叩いた息子に間髪入れず否定を返したドリタラーシュトラだったが、気分を害した風でもなく、近くに浮かぶアルジュナ・オルタに穏やかな声をかけた。
「アルジュナ・オルタ、先の立ち合いの反省会をしよう」
「はい、とうさま」
召喚された当初は機械の様だったアルジュナ・オルタは今でも口数が少ない。しかし忘却の果てに父だと認識したドリタラーシュトラに誘われれば、微かに笑みを浮かべてあどけなく頷いた。
「カルナ、アシュヴァッターマン、飲みに行くぞ! わし様の華麗なる勝利を祝い、また明日に向けて英気を養わねば!」
「承知した」
「飲みすぎんなよ、旦那。明日も難敵だろ」
友たち(一人は弟を兼ねる)の肩を抱いたドゥリーヨダナは、アシュヴァッターマンの言葉にニヤリと口角を上げた。
「明日の作戦の話もするに決まっておろう。三人寄ればなんとやらとマスターも言っておったしな。では父上、失礼いたします。弟(概念)ども、あまり気を落とすでないぞ! 特にビーマ!」
アルジュナはカルナと引き分け、ビーマはギリシャ最速の英雄との対決を楽しんだ果てに敗北していた。ライバルに名指しされた風神の子は青筋を立てたが、試合中の観客席からは大声の野次もとい応援が聞こえていたため、言い返さずに見送った。
ちなみにアシュヴァッターマンは新撰組の女剣士と戦い、相手が謎の吐血をした隙にトドメを刺して勝ち上がっている。コロシアムのどこからか「うっははは! ついになんちゃって病弱が裏目にでよったわ!」と可愛い声が聞こえたのはご愛嬌だ。
明日の二回戦。ドゥリーヨダナの対戦相手は太陽王オジマンディアス。ライダークラス最強のサーヴァントであり、神秘を味方につけた難敵である。先ほどドゥリーヨダナはおどけていたが、カウラヴァで作戦会議をするというのは真面目な話なのだろう。
そしてドリタラーシュトラの次の対戦相手は、奇しくもランスロットと同じ円卓の騎士であった。強者揃いのセイバー勢の中でも上澄みの一人だ。しかしカウラヴァもパーンダヴァも盲目覇王の勝利を確信している。本人はいつもの厳めしい顔で表情が読みづらいが、もし誰かが聞いたとしたら、彼はこう答えるだろう。
「当然勝つ。俺は勝ち戦しかせん」、と。
とある転生者のモノローグ
カルデア式天下一武道会の二回戦は、魔力による身体強化が達者な円卓の騎士が相手だった。めっちゃ小柄なのに全身鎧をつけてよく動く。古代インドにも魔術やら神の加護やらでブーストかけてる奴がわんさかいたが、ブリテンの騎士もなかなかやるもんだ。……アレが王座をめぐって戦争を起こし国を滅ぼしてなけりゃ、異文化交流という名のコロシアイを楽しんでもよかったけどな。トラウマをチクチクしてくる相手は願い下げなんだ。
「オラァ!!」
「ふんっ」
「このっ馬鹿力、舐めんじゃねえぞ!」
「ふっ、では本気で行くぞ」
「あっ……?」
モードレッドには、数回打ち合ってこっちの膂力を計らせた後に全力の振り下ろしでモード/レッドになってもらった。すまんな、俺の攻撃は逸話的に防御不能で必殺なんだ。彼女は断面から血を吹き出しながら「性悪ジジイ」と罵って消えていったが、はてさて何のことやら。
フィールドから出た俺は、転送先で待っていてくれた一回戦敗退組と一緒に二回戦の応援を楽しんだ。ビーマが色々作って持ち込んでくれてたから、気分はまるでスポーツ観戦。ホットドッグやハンバーガーまであったから余計にな。どれも最高に美味かった!
大会二日目はシミュレータの設定が補強されたおかげで三回戦まで行われた。次の相手はアシュヴァッターマンを倒して上がってきたケルトの女戦士だ。技量はドローナ並みかそれ以上、ボディスペックはそれなり。ルーン魔術によるブーストと心臓を刺す概念の槍持ちで、サーヴァントになって型落ちした俺とはやや相性が悪い。なお、アシュヴァッターマンは宝具でやられた。あれは俺にも効きそうだ。とはいえ、やりようがないわけじゃない。
「古代インドの覇者か。このスカサハに力を示してみろ!」
「よかろう」
前の試合を見ていたらしいスカサハは俺の攻撃を真っ向から受けることはしなかった。豹みたいなしなやかさで避ける、避ける。こっちは槍の宝具を打たせないようマッハで叩きまくっていたから、側からみたら彼女は消極的に見えただろうが、とんでもないぞ! 肉食獣みたいな赤い目はずっと俺の心臓を穿つタイミングを測ってた。
身体能力のぶつかり合いに持ち込んでそのまま押し込む。俺が選んだ戦法を相手もすぐに悟っていたけど、距離を取らせず、なんなら途中から剣を放り出して槍の柄を狙っていたら、何が楽しいのかすごい上機嫌でやり返してきた。ほっそい足でドゥリーヨダナ並の蹴りを放ってきたのは驚いたな!
「ふんっ」
「……くっ、見事だっ」
スカサハの左の槍を弾いて場外の遠い壁にめり込ませた時、俺はあえて距離を空けて隙を作った。あからさまな誘いだが、この女は絶対乗ってくるって確信があった。こういう超然とした星5ランサーは涼しい顔して実は戦闘大好きだって、俺は知ってる。
「打ってくるが良い!」
「ああっ、もっと私に魅せてくれ! 絶技、発動!」
制限されたアカシック何ちゃらを発動させる。目の前の女だけに焦点を絞って見る、見る、見る! 擬似的な未来視は一瞬で何十何百の可能性を見られる反則技だ。だけど詰め込まれる情報に脳が物理的に圧迫されるため、肉体を完全に制御下においてないと廃人一直線。俺はその力技で勝利する未来を見出した。
幸いスカサハの宝具は無敵貫通型ではない。生前は槍の概念通り、何があっても敵の心臓を貫いたんだろうが、今や彼女はサーヴァント。そしてそれは俺も同じ。アカシック何ちゃらは制限され、代わりに完全回避というとんでもスキルに発展した。
「刺し穿ち、突き穿つ──! 『
「おおおおおっ!!」
一本だけになった赤い槍の宝具発動に合わせて俺も踏み込む。絶技というだけあって音速でも避けられるか怪しい恐ろしい突きだ。でも、それは俺の傍すれすれを外れていった。完全回避ってすげえ。
ここでスカサハの敗北は確定した。顔面に迫る俺の拳を高揚した顔で見つめていたのは、いくら美人でもちょっと不気味だったけど、かくして俺の三回戦は終了した。
なお、ドゥリーヨダナは二回戦でオジマンディアス相手に初っ端宝具を展開し、百王子による突撃ではなく百対一の普通の戦いを挑んだ。ランスロット戦で見せた兄弟の入れ替わりを活かし、どんどん削られながら善戦したが、相性が悪すぎて瞬く間にフィールドは血まみれの息子たちが転がる死屍累々の地と化した。あまりにもクルクシェートラすぎて卒倒しかけたのは内緒だ。
最後の一人になったドゥリーヨダナは陽光のビームに焼かれながら接近戦を挑み、神王の足元に倒れていたドゥフシャーサナと入れ替わって見事な一撃を入れた。が、直後にスフィンクスに踏み潰されて退場した。我が息子ながらめちゃくちゃ粘ったな。やられた息子たちは最後の奇襲のために根性で消えずに屍()を晒してたわけだ。うん、よく考えたな。あとでたくさん褒めよう。
結局、マハーバーラタ勢で四回戦に進んだのは俺だけか。対戦カード運が悪くて潰しあったのもあるけど、純粋に対戦相手が強い。カルデアは凄いところだ。
こうなると古代インドが最強だって見せつけてやりたくなるな。殺し合いが楽しかったことなんて生前含めて一度もないが、エンタメイベントなら悪くはない。よーし、見てろよ、みんな!
「この盲目覇王がカルデアに覇を唱えよう」
後書き
マハバ勢がいくら強いといっても、カルデアは化け物揃いなので、相性などで普通に負けます。
主人公も三回戦までスキルも使わなかった化け物ですが……
はたして意気込んだとおり最強を証明できるか?
コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!
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