カルデア頂上決戦の最終カードはギルガメッシュ対ドリタラーシュトラ。
準決勝が終わるなり、決勝の準備が急ピッチで進められた。というのも、ドリタラーシュトラとオジマンディアスの固有結界のぶつかり合いでシミュレータ設備の壁に小さな亀裂が入ったのだ。数センチの傷とはいえ、万が一があってはいけない。そのため修復と動作テストのため四時間の猶予が設けられた。
「父上、ついに決勝ですな!」
「伯父上の宝具の中に自分がいるのは不思議な感覚でした」
「過去のことだ」(生前お世話になった精鋭部隊の仲間たちがいて、私も懐かしい気持ちになりました。宝具で呼び出された自分が役に立てたのも嬉しかったです)
「後ろの方に父上がいたぜ。俺が小せえ頃の大遠征に出てたんだっけか」
「ビーシュマ爺様もいて懐かしかったな! ドローナ師は、確か第四次大遠征だけだ。戦は性に合わんって言って、従軍は一度きりだった筈だぜ」
「……私もとうさまと出陣したかった」
「
クル王国ゆかりのサーヴァントたちが集まった食堂にチャイの香りが漂う。それぞれマグカップを手に壁際の大きなテーブルを占領しており近づきがたい。しかしその雰囲気を気にせず近づく者もいた。
「覇王さん、今お話いいですか?」
「BB」
「はい、みんなの頼れる後輩BBちゃんです。ヒソヒソ、覇王さん、次の対戦相手の情報、欲しくありません?」
黒いコートの下にはち切れそうなブラウスと肝心な部分を隠せていないスカートといった挑発的な姿の少女が、厳しい男のすぐ横にやってきて耳元に囁く。それなりに悪名高いAIサーヴァントの登場に同席者たちが警戒する中、ドリタラーシュトラは眉一つ動かさずマグカップに口をつけていた。
「うぬの娘の仇打ちには付き合わんぞ」
「そんなのじゃありませーん! 気持ち悪いこと言わないください、もうっ」
プンスカと腰に手を当てるBBだったが、周りの戦士たちの視線が警戒するそれから生暖かいものになったことで、うっすら頬を染めて再度問いかけた。
「それで、どうします? 今ならBBちゃんの極秘データを特別に開示しちゃったりも」
「是非とも見たい」
ドリタラーシュトラの答えは短く、これ以上なくはっきりしていた。チャイを飲み干した男は、白茶色の目を少し彷徨わせて言った。
「うぬの『中』にある月の記録、俺の目で接続できるか」
「驚きました。そこのランサーさんに聞いたんです?」
「いや、生前に少しな」
「ふーん? 根源接続者って出鱈目ですねえ。ええ、いいですよ。あの男のデータだけですが好きに検索閲覧しちゃってください。あ、くれぐれも私の中でえっちなことしないでくださいね」
「お前っ、父上に何を言うか!!」
ガルルといきり立つ息子を片手で制し、盲目覇王はBBの『中』へと千里眼を向けた。AI側が迎え入れなければできない概念的なアクセスだ。型落ちしたとはいえアカシックレコードに触れることができる第三の目が少女の形をした情報の塊から目当てのそれを引き出していく。あからさまに検索慣れした、さらには人間離れした処理速度の相手にBBの方が舌を巻いた。
時間にして数分。食堂の椅子にかけたままの男と不敵な薄ら笑いを浮かべてその前に立つ少女は、男が盲いた目を背けたことで繋がりを絶った。
「こんなものか。感謝する、BB」
「ふふっ、どういたしまして。貴方のメチャクチャな戦歴って、執拗な情報収集と未来予測で打ち立てたものだったんですねえ。その見た目と雰囲気で超慎重派だなんて、強面おじさんのギャップ萌えとか誰得です?」
「それは知らんが、勝ち筋は掴んだぞ」
「それは何より。このBBちゃんが協力したのに負けるとか、ダサいことしないでくださいね? その時は貴方のデータに常勝無敗(笑)って修正いれちゃいますから」
生意気なことを笑顔で言うBBに、ドリタラーシュトラも人喰い虎のような笑みで口角を上げる。彼こそが古代インドの全てを平らげた覇者。最強の戦士の名を欲しいがままにした盲目覇王だと知らしめる笑みであった。
決勝戦まで残り二時間と少し。カルデアの頂への最後の扉が開こうとしていた。
とある転生者のモノローグ
ついに決勝だ。オジマンディアスとの戦いは宝具対決さえどうにかなれば勝てると確信していたし、実際その通りになった。しかしギルガメッシュはというと、情けないことに確実な勝ちのビジョンはない。どうあってもあいつに宝具を打たれたら詰むので、勝ち筋を一つ見出しただけだ。
乖離剣エアの真名解放による宝具『
BBに見せてもらった月の聖杯戦争のギルガメッシュのデータと、俺が昨晩までにまとめたカルデアのデータベースとアカシック何ちゃらの限られた情報。割と膨大なこれら全て駆使しても、やっぱり勝ち筋は一つしか見えてこない。まあ、第六次大遠征でクリシュナの周りが予知できなかった時のが危機感を感じたけどな。あの時は戦死者が多くて酷いことになった。そうだな、今回は戦争じゃない。負けても俺の家族が不幸になったりしない。それなら……
って、負けていいはずあるかーーーーッ!!
盲目覇王に敗北はない! 人類史に刻まれた俺の在り方を否定するのは、俺が生きたあの人生に、勝ち取った素晴らしい未来にケチをつけること。それだけは絶対に許せん。俺は勝つ、絶対に勝つぞ!!
心の中で深呼吸してる俺の内心なんていざ知らず、フィールドで向かい合ったギルガメッシュは愉しげだ。千里眼持ち同士、視線が合うのがなんとも変な感覚だな。この間の王の宴では笑っちゃったが、視界が干渉されてる感じがする。干渉……? まずいじゃん!!
「はじめっ」
ケイローンの声が聞こえるなり、ギルガメッシュの背後が水面のように弛んであらゆる武器が飛んできた。そして奴の手の中には、赤く熱された何の変哲もない木の棒。それを認識した瞬間、千里眼がブツンと切れた。
やっべ、やられた!! 真っ暗な世界で聴覚と触覚を頼りに『
「ふははっ、真に盲目になった気分はどうだ、雑種!」
「……何をした」
「これは賢しい男がサイクロプスの目を潰した道具の原典よ。相手の視界を奪う概念、といえば貴様にも理解できるか?」
やっぱりな。ギリシャの英雄オデュッセウスがサイクロプスの目を焼いて盲目にした逸話。その原典か。こいつならそういう宝具をもっててもおかしくない。制限されたアカシック何ちゃらじゃ予測できなかったな。くっそ、財宝が飛んでくるのが早すぎて細かい形や重さがわからん。今はどうにかできてるが、これは……うん、無傷じゃ無理だ。
腕を組んで偉そうにしているであろうギルガメッシュめがけて踏み込む。防戦一方の俺がまさか向かってくるとは思わなかっただろう。致命傷になりそうな軌道とヤバい気配がする物だけ打ち払い、身体中切り裂かれながら音速で奴の目の前に躍り出る。こいつもオジマンディアス同様、敏捷値は高くない。そして接近戦なら俺の敵じゃない!
「ぬぅん!!」
「雑種如きが、不敬であるぞ!」
雑種雑種うるせえ、この四分の三神エリート雑種野郎が! 俺は純正の人間、しかもクル王族のクシャトリヤ、古代インドの
「斬り合いなど、王の振る舞いではない! 地に伏せよ!」
「王の振る舞いだと? 見当違いも甚だしい。俺はこの手で数多の敵を斬り、殴り、須く殺めた王である!!」
千里眼なしで戦うのは初めてだが、音と触覚だけでも案外いけるもんだ。致命傷や欠損さえ避ければ問題ない。怪我をしたって傷口と血管を筋肉で締めちゃえば瞬間治癒してるのと変わらない。めっちゃ痛いけどな!
轟音を立てて迫る俺の剣を、多分衝撃を無効化する概念武器で受けているギルガメッシュ。この間も武器が降り注ぐのは止まらず、見逃したいくつかが肩や背中に刺さった。くっそ痛いが死ななきゃやすい。BBに見せてもらった分も含めてあらゆる戦闘パターンを割り出してあるんだ。シミュレートの大ベテランを舐めるなよ! 英雄王、お前の仮初の心臓が忙しくなってるのも、息が上がり初めてるのも、うっすら汗が出てるのもお見通しだ!
至近距離から飛んできた小さめの何かを首だけ動かして避ける。距離を取ろうとするギルガメッシュに蹴りを入れたが、さらに放たれた『王の財宝』にヤバいものを感じて後ろに下がってしまった。冷たい死神の気配がする武器、死の概念か?
「よく戦うではないか、盲目覇王。光栄に思え、貴様を勇者と認め、この一撃をくれてやる」
きたか! 目が見えなくても全身で感じるぞ。ギルガメッシュが手にしてるのは乖離剣エア。ここが正念場だ!
「皆の者、開戦である。迅速に落とせ!」
「原子は混ざり、固まり、万象織り成す星を生む。……死して拝せよ!」
俺の宝具でフィールドが古代インドの戦場に塗り変わる。固有結界内は心象風景だけあって千里眼の視界が戻ってきた。これは棚ボタだな。
さて、奴の宝具との相性は最悪。打たれたら負けるが、俺の勝機も此処からだ。最大出力で呼び出したクル王国軍の中から、待っていたとばかりに精鋭部隊が先に駆けていき、息子たちの遊撃部隊がそれに続いた。彼らはギルガメッシュが打ち出した宝具の雨で、みるみる気配が減っていく。腹の底が重く冷たくなるのを無視してパーンダヴァを動かし、俺もカルナが駆る戦車で突撃する。勝負の時だ、ギルガメッシュ!!
「『
こっちの宝具展開と同時に宙に浮きあがっていたギルガメッシュが乖離剣を高くかざす。奴が見下ろす先には結界内を埋めつくすほどのクル王国の軍勢。よかった、ここまでの頑張りで油断ならない敵だと認識してくれたか。
「『
「終わるがいい、とうさまの敵よ」
俺の宝具は、俺と共に戦ってきた家族と仲間たちを呼び出すもの。固有結界が俺の心象風景であるならば、カルデアで新たに得た子供を拡大解釈で含めるのも気合い次第。ドゥリーヨダナが一回戦で言っていたとおり、割となんでもありってやつだ。
「よくやった、アルジュナ・オルタ」
背後からの奇襲でギルガメッシュの右腕を切断し宝具発動を阻んだ末っ子(概念)を褒めちぎる。言葉に出しきれないから、後で家族全員で撫でくりまわしてやろう。カルデアのサーヴァントと俺が呼び出した影法師が記憶を共有しなくても関係ない。お前がMVP!
痛烈な尻尾の一撃でアルジュナ・オルタが敵をはたき落とす。落下中のギルガメッシュも流石の反応で『王の財宝』を打ち出し、可愛い息子(概念)を剣山のようにしてくれやがった。でも、悪あがきはそこまでだ。
「おのれおのれおのれおのれぇ!!」
「死ぬがいい、英雄王!」
戦車から飛び出してギルガメッシュへと剣を振るう。俺の攻撃は片腕で凌げるもんじゃない。赤い瞳をぎらつかせて叫ぶ男を鎧ごと突き刺し、霊核を壊してから上へと切り上げた。胸から肩口までが大きく裂けて血が吹き出す。仕上げに、BBに一つ借りを返すべく、お綺麗な頭部を体から切り離した。
宝具の効果が切れて景色がコロシアムに戻っていく。血まみれの俺が剣を掲げて勝利の雄叫びを上げると、大歓声と拍手が轟いたのだった。
2026年新春イベント「カルデア頂上決戦!!~筋肉は世界を制す」エピローグ
第一回カルデア頂上決戦は盲目覇王ドリタラーシュトラが制した。激闘の末、伏兵による奇襲という手段で勝利を掴んだ男は、口を開けてポカンとする藤丸からトロフィー代わりの聖杯を受け取り、その場で伏兵ことアルジュナ・オルタに手渡した。なお、敗北を喫したギルガメッシュは授賞式に顔を出さなかった。
「覇王様はやっぱりドゥリーヨダナのお父さんなんだなあ」
「今更どうした、マスター」
決勝から一晩あけた朝食の注文待ちの列でドリタラーシュトラの後ろに並んだ藤丸が思わずこぼしたのに、巌のような男が割れそうな低音で問いかける。
「なんというか、反則はしないけどズルはする、勝つために手段を選ばないところがそっくり」
「当然であろう。ドゥリーヨダナは俺の元で戦を学んだのだ。ちなみに俺は反則もするぞ」
「あー、なるほど、覇王様の方がパワフルだったのか」
揃って和風定食のお盆を持って空いている席を探す。すぐにカウラヴァが呼ぶ声がして、藤丸も一緒のテーブルに着いた。
「とうさま、おはようございます」
「おはよう、オルタ。聖杯は馴染んだか?」
「はい、強くなりました」
「そうか」
大きな手に撫でられたアルジュナ・オルタが猫のように目をすがめる。彼の前には甘さマシマシのホットケーキが置かれている。味覚が薄い彼のためにビーマが用意した特別メニューだ。
「「「父上(伯父上)(陛下)、おはようございます」」」
ドリタラーシュトラを囲んだ戦士たちが口ぐちに挨拶をのべ、和やかな食事が始まる。息子たちに静かに相槌を打ちながら箸で器用に焼き魚をほぐす盲目覇王は、昨日傷だらけになってギルガメッシュと切り結んでいたとは思えない穏やかさだ。
名実ともにカルデア最強。リターンマッチや新たなチャレンジャーが現れるまでの短い間かもしれないが、その肩書きがこれ以上似合う男はいないだろう。カルデア最後のマスターはそんなことを考えながら、味噌汁を啜るのだった。
後書き
カルデア式天下一武道会はこれにて閉幕です。
予想どおりの展開だったと思いますが、戦闘を考えるのは楽しかったです。
英雄王は本シリーズとおして初めてドリタラーシュトラに傷をつけた大快挙。
決勝は人の裁定者対最強の人間という概念的なカードでもありましたが、うまく描写できず……
お互いウルトラチートなのでいかにエアを打たせないかの戦いになりました。
イベントを耐えきったシミュレータと設備を支えたカルデアチームに表彰状をあげたいです。
コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!
【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。
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