盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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R15相当の初夜の描写があります。本番の直接描写はありません。


番外「三千年先まで理想の夫婦」

 

 

ドリタラーシュトラは巌のような巨体を誇る男だ。二十歳の若さでクル王国の王となり、その溢れんばかりの覇気と生命力はそこにいるだけで周りを圧倒する。盲いた白茶色の瞳は遥か遠くを見渡し、節くれだった太い指先は金属を粘土のように捏ねる力を持つ。布をたっぷり使った王族の白い婚礼衣装の上からでも、筋肉の隆起が見て取れた。

 

今日夫になったばかりの男と共に寝室に足を踏み入れたガーンダーリーは、大きな天幕がついた閨を前に足が竦んだ。けしてこの結婚が嫌なわけではない。ドリタラーシュトラは初対面からとても優しく、厳しい容貌からは想像できないほど丁寧に彼女の手を引いてくれた。ただ、怖いのだ。自分の二倍以上大きな男と体を繋げることが怖くて仕方なかった。

 

「どうした、ガーンダーリー」

 

割れそうに低い、落ち着いた声が降ってくる。心のうちを見透かされたようで、ガーンダーリーは麗しい唇を震わせた。

 

「なんでもありません。旦那様、末長くよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

返された言葉があまりに真面目で、笑ってしまう。ドリタラーシュトラも虎のような表情で小さく肩を揺らしており、そういえばたった二つ違いなのだと今更思い出した。

 

国王の私室にしては装飾が少なくがっしりした家具ばかりの無骨な空間。その中で真紅の花嫁衣装のガーンダーリーはどんな花よりも艶やかであった。生まれ持った匂い立つような美しさに加え、爪の先まで整った淑女の佇まい。手入れが行き届いた薄紫の髪と小麦色の肌は極上の絹の滑らかさだ。ドリタラーシュトラの強い指先がゆっくりと彼女の頤に触れ、上向けられた小さな顔に屈んだ巨躯が影を落とした。

 

「うぬが俺の唯一の妻だ」

 

「よろしいのですか? そのような」

 

「初めて(まみ)えた時に決めた。俺はガーンダーリーだけがよい」

 

唇が触れる寸前であっても視線は合わない。それでもガーンダーリーは恐怖を押し退けて夫を見つめ、華奢な腕が回りきらない背を抱いた。布靴に包まれた爪先を伸ばして少しの距離を埋めると、乾いた唇に迎えられる。

 

「ん、んぅ、私だけを可愛がってくださるの?」

 

「ああ、そうだ、そのとおりだ」

 

興奮からか少し掠れた男の声は口付けに消えた。硬い手のひらが花嫁の頭を撫でながら支え、もう片方の手が細腰を抱く。どちらからともなく差し込んだ舌先が熱かった。

 

行き場がないくぐもった甘え声と濡れた音を聞いているうちに、頭の芯がぼうっとして足元がおぼつかなくなる。そんなガーンダーリーの髪を撫でていたドリタラーシュトラの右手は、いつしか彼女の豊かな乳房を包み、その柔さに指を沈めていた。

 

「あっ、旦那様……」

 

「大事にする。俺の唯一の妻、愛しい女」

 

胸元で遊ぶ手はそのままに、丸太のような左腕に子供のように掬いあげられて寝台へと連れていかれる。さっきは恐ろしかったその場所に何か思うよりも先に、仰向けに寝かされて再び口付けられた。胸をあやしていた手が上衣の袷を乱して大きく開いてしまう。そのまま裾を引かれて上半身があらわになり、恥ずかしさから眦に涙が滲んだ。第三の目で全て見られているのだ。チラリと見上げた厳しい顔は落ち着いているように見えたが、ガーンダーリーのよく実った胸をたわませる両手は確かな熱をはらんでいた。

 

これから何が起きるのか。王妃教育で教えられた閨の作法が脳裏を上滑りしていく。ガーンダーリーにできたのは、筋肉で盛り上がった上半身から上着を脱がせてやることぐらいで、やっと袖を抜いた頃には華麗な花嫁衣装は全て床に落とされていた。金の髪飾りと耳飾りも同様だ。ドリタラーシュトラから贈られたクル王家の宝珠がはめられた首飾りだけが、艶かしい裸体を飾っていた。

 

「旦那様、ドリタラーシュトラ様っ」

 

「ガーンダーリー」

 

その後に言葉はなかった。上擦った獣のような吐息と、蕩けてもつれた舌が紡ぐねだり声。裂けるような痛みも薄い腹を満たす灼熱も、すべてが情熱に呑み込まれ、最後に残ったのは深い安心感だった。

 

盲目覇王ドリタラーシュトラと彼が唯一愛したガーンダーリーの始まりの夜。たどたどしくさえある触れ合いで結ばれた二人は、この先、三千年後に至るまで理想の夫婦として名を残す。けれど今はまだ、戦場を知らない若き王と初々しい新米王妃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

いつの間にかうたた寝をしてたらしい。お世辞にも乗り心地がよくない馬車の中で、俺はでかい図体を折りたたんでガーンダーリーの膝に頭を乗せている。彼女のゴッドハンドに頭を撫でられているうちに寝ちゃったんだな。すごく良い夢を見てた気がする。

 

奥さんはまだ俺が寝てると思っているのか、猫の背を撫でるようにそうっと俺の髪に指を通している。柔らかい太ももに頬を預けながらじっとしていると、御者台からの気配が少し変わった。やっぱりカルナにはバレてるな。

 

俺たち夫婦と御者役のカルナの三人だけの旅で、カルナには奥さんに甘える姿をばっちり見られている。なので今更恥ずかしいとは思わない。六十を過ぎても俺はガーンダーリーにべったりだし、五十になった養子の前でも遠慮する気はさらさらないのだ。せっかくの夫婦水入らずの長旅。俺は目一杯楽しむつもりでいる。

 

「あら、お目覚めですか?」

 

「そろそろナヴァラーストラに着くからな」

 

俺が体を起こして座席に座ると、御者台からカルナが振り返った。

 

「先ぶれを出す」

 

「うむ、頼んだ」

 

子供達にはハスティナープラを出発する前に「順番に尋ねる」と知らせているが、何せ古代インドなのでリアルタイムの連絡手段がない(神秘の力ならできるが俺はそんなものない) なので目的地に近づいたらカルナの奥さんがガネーシャ神から賜った至宝を使わせてもらっている。半神であるカルナが手のひらサイズの木彫りの小鳥に魔力を込めると、それは生きたハチドリに変わって爆速で俺たちが向かう先へと飛んでいった。あらかじめ俺の声で「今から行く」というメッセージを吹き込んである便利なメッセンジャーだ。カルナが奥さんに頼んで借りてきてくれたのは本当に助かった。

 

孫のラクシュマン・クマラが15歳になった時、俺は王位をドゥリーヨダナに譲り渡した。それから忙しい一年が過ぎ、やっと自分の時間が取れた俺は、随分前に奥さんがしたいと言っていた夫婦二人旅を実現することにしたのだ。

 

ドゥリーヨダナは真っ先に許可してくれたが、ヴィドゥラの説得は大変だった。何せ前国王夫妻と御者の三人だけのお忍びの旅だ。常識じゃ考えられないのはわかる。しかし、しかーしだ! 爺さんに片足突っ込んでも最強の戦士である俺と、おっさんなのに見た目二十代で超強いカルナがいるんだぞ。奥さんを守って旅するぐらい楽勝だ。そう言って俺なりに駄々をこねたらヴィドゥラは渋々ながら折れた。

 

旅の荷物と一ヶ月分の食料と完全武装を馬車に積み込んだ俺たちはハスティナープラを出発し、半年かけて二十人の息子たちの領地を巡った。物資は行く先々で補充している。

 

普段会えない孫たちを甘やかしまくり、体力にものを言わせて一日中一緒に遊び、しまいに息子夫婦とガーンダーリーに孫の教育によくないと叱られるのを繰り返すこと二十回。俺はあと八十回同じことをする気満々だ。

 

次の目的地は一人娘のドゥフシャラーがいる同盟国ナヴァラーストラ。ドゥリーヨダナは同盟国を領に変えていくつもりだから、数年後にはナヴァラーストラ領になるが、今は娘婿が王様をやってる。辺境の小国だが、めちゃくちゃ国民の幸福度が高い凄い国である。ドゥフシャラーは三人子供を産んでいて、一番下の子は三歳になったばかり。赤ちゃんの時に一度会ったきりなので、この手に抱くのが待ちきれない。千里眼でいつもみんなの様子を見てはいるが、やっぱり直接会うのは気分が上がるぜ!

 

「旦那様、ご機嫌ですわね」

 

「うぬもそうであろう」

 

くすくすと可愛らしく笑うガーンダーリーの肩を抱いて体をくっつける。俺たちはもういい年だけど、俺の奥さんは相変わらず世界一綺麗で可愛くて賢くて強い。えっちさも健在だ。流石に戦争してた頃みたいなイチャイチャはしなくなったが、仲良しなのは変わらない。この旅では黒い目隠しをしていない綺麗な横顔を千里眼でガン見しながら、俺は幸せに酔いしれた。

 

「ランカーのヴィカルナのもとに行くまで、まだまだ先は長い」

 

「うふふ、遠出がこんなに楽しいなんて知りませんでした。旦那様の国はどこもとても美しくて、子供たちが良い統治をしているのが誇らしいわ」

 

「ドゥリーヨダナは俺より余程(まつりごと)が上手い。クル王国はますます栄えるであろう」

 

「百年先まで平和、ですわね」

 

「我らが去った後も安泰だ」

 

クル王国の平和はこの先百年続く。長老の爺さんたちと俺と弟たちがひいこら言いながら土台を作り、凄い名君になるらしいドゥリーヨダナがラクシュマン・クマラにバトンを渡してくれる。大人しくて優しい俺の孫が穏やかな統治をすることはわかっている。その先は、あえて見ていない。

 

「王よ、小鳥が帰ってきた」

 

「俺はもう王ではないぞ、カルナ」

 

退位して一年以上経っているのにカルナは変わらず俺を王と呼ぶ。養子になってから一度も父と呼んでこないし、カルナの中の俺のイメージは戦場の盲目覇王なんだろうな。子供の時から俺の戦車を操縦してたから仕方がないか。

 

鮮やかな色のハチドリがカルナの肩にとまり、ドゥフシャラーの声で俺たちの到着を心待ちにしていると告げる。木彫りの鳥に戻ったそれをカルナは大事そうに懐にしまった。

 

ガーンダーリーと取り止めのない話をしながら馬車に揺られる。戦争を始めた時は、こんな穏やかな日々が訪れるなんて知りもしなかった。俺が覗いていた未来は戦場の勝敗のことばかり。一つ戦に勝つたびに未来が変わり、どこに辿り着くかをシミュレートすることはついぞなかった。今ならわかる。これは屍の山を築いている途中の男が見るべきじゃない。最後までやり切ってからじゃないと駄目だったんだ。

 

「幸せですわね、旦那様」

 

ふと奥さんがこぼした言葉が耳に溶けて、俺は小さく笑った。

 

うん、幸せだなあ、ガーンダーリー。

 




後書き

ドリタラーシュトラとガーンダーリーのえっちなイチャイチャと穏やかなイチャイチャを目一杯書きました。満足!
前半がR18にならないよう頭を捻りつつ書くのは楽しかったです。
レディースコミックより色っぽくはないと思うのですが……
駄目そうだったらコソッと注意してやってください。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

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  • 長兄以外の百王子から見た父王
  • パーンダヴァの誰かから見た伯父王
  • 敵国から見た盲目覇王
  • 現パロの盲目覇王一家
  • 第4次聖杯戦争の盲目覇王
  • 第5次聖杯戦争の盲目覇王
  • オリジナル聖杯戦争の盲目覇王
  • 百王子やパーンダヴァの子の話(孫世代)
  • ビーマとヒディンバーの話
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