盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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番外「盲目覇王in第4次聖杯戦争」2話目

 

 

ドリタラーシュトラと彼が宝具で呼び出したパーンダヴァの剣士ナクラが他陣営を二つ潰していた頃、衛宮切嗣は失血死寸前の様相でビジネスホテルのベッドに沈んでいた。盲目覇王だけでもとんでもない魔力を消費するというのに、さらにサーヴァントをもう一人運用するなど狂気の沙汰だ。しかし渡日前に己のサーヴァントと作戦会議をした切嗣は、提示されたすべてに承諾し、相当の覚悟で魔力タンクの役を担っていた。

 

「マスター、生きているか」

 

「お前も冗談を言うんだな……」

 

ベッド脇からの重々しい声に、どうにか首を動かして応じる。巌のようなセイバーは僅かに口角をあげ、丸太のような腕を組んだ。

 

「真面目に聞いているのだ。うぬの生存は勝利の絶対条件である」

 

「生きているよ。替え玉君は随分燃費がいいようだ」

 

「ふっ、代役がカルナやビーシュマ伯父上であれば、うぬはとっくに干からびておる。ナクラに感謝せよ」

 

「笑えないぞ、セイバー」

 

「事実を述べたまで」

 

切嗣は英雄という存在が反吐がでるほど嫌いだ。人を殺し、戦争を起こし、無辜の民の不幸と涙のうえに栄光を掴んだ人でなし。それが切嗣が描く英雄像である。そういう意味では、盲目覇王は史上最低の人でなしであるのだが、彼と切嗣は行動方針という一点で大変波長が合った。最初は会話するつもりもなかったのに、無視しようとした途端、心臓が止まりそうな殺気を向けられて折れざるを得なかった。令呪という絶対命令権があってなお、切嗣は剣の英霊を従えられてはいない。二人の聖杯戦争に対する姿勢が一致していることだけが救いであった。

 

「ランサーとバーサーカーは片付いた。次はキャスターを狙う」

 

「お前が出張るのか?」

 

「キャスターの工房は把握している。アレもアレのマスターも幼子を攫い殺す外道だ」

 

「はっ、まさか正義感で動くわけじゃないだろう? 十二億人殺しの盲目覇王様が」

 

「マスター、知らなんだか? 俺は子供好きである」

 

嘘つけ、と内心返した切嗣だが、ドリタラーシュトラが子煩悩な父親だったのは後世でも有名な話だ。しかし敵国の幼い王子を一騎打ちで殺したり、ゲリラ戦を挑んできた敵に子供が混ざっていても皆殺しにしたり、敵国の王族を赤ん坊を含め暗殺させたりと、幼い屍の山を築いたこともまた事実。深く考えると嫌悪感で気が狂いそうなので、切嗣は思考を打ち切った。今は、この大英雄と共に勝たなければならないのだ。

 

「いつ行くんだ?」

 

「今からだ」

 

まだ夜は長く、聖杯戦争の時間だ。切嗣はもう休みたいと訴える体を無視し、片手をひらりと振った。

 

恐ろしく存在感がある巨躯が掻き消える。霊体化して出て行ったのだ。一人になったと自覚するなり、どっと疲れが押し寄せてきて、切嗣は体を横向きに丸めた。今頃アイリスフィールも体調を悪くして寝ていることだろう。小聖杯である彼女はサーヴァントが倒されるごとに人でなくなっていくのだから。

 

(バレたら殺されるかもしれない)

 

ドリタラーシュトラから聞いた彼が聖杯にかける願いは、妻に再会したいという我欲溢れるものだ。サーヴァントとパスがつながったことで、切嗣は盲目覇王の人生を彼の視点で垣間見た。伝説に誇張がないのなら人類史上最も多くの犠牲を出した古代インド統一戦争。二百回以上の戦で常に先陣を切り、最も多くの敵兵を殺害した異常者のくせに、その合間で妻と百人以上の子供たちや弟一家と仲睦まじくしていたのには、眠りの中だというのに胃液が逆流しかけた。

 

あの苛烈な王は、妻と引き換えに願いをかなえることを絶対に許さない。それは優しさや正しさといった理由からではなく、ドリタラーシュトラ個人の在り方の問題だ。あの男の視点から見た長い戦争は、クル王国の内部分裂を避けるために外敵を作り続け、一族に団結を強制する手段でしかなかった。つまるところ、盲目覇王は自分の子供たちが変わらず王族でいられる未来のために戦争を起こしたのだ。

 

切嗣にはまったく共感できない、しかし理解はできるシンプルな行動理念。切嗣が何をおいても過半数を優先し続けるのと同様に、ドリタラーシュトラは家族と一族、クル王国のためだけに行動したのだ。自分たちさえよければいい、の精神そのままにインド全土を戦火にくべた悪辣さに寒気がする。

 

「悪鬼羅刹、大災害とはよく言ったもんだ。あんな奴の力を借りて恒久的な平和を目指すなんて……最悪だ」

 

盲目覇王には反吐が出る。この世にいない方がよかった人間だと心底思う。しかし、あの最強の戦士こそが衛宮切嗣が聖杯を手にするのに絶対不可欠な駒なのだ。

 

魔力を吸い上げられる感覚に、セイバーがキャスターを襲撃しているのだと察する。切嗣は深いため息をついて瞼を閉ざし、明日にも終わるかもしれない聖杯戦争に魔力を費やすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

聖杯戦争というごく小規模な争いにサーヴァントとして呼ばれ、衛宮切嗣というアタリなのかハズレなのか判断が難しいゾンビのような男と出会った。こいつは俺のマスターだけど、死んだ魚の目をしててまったく生気も覇気も感じられない。人生に疲れて燃え尽きてるように見えたけど、死んだ目の奥にドロドロした溶岩が流れていたから、よっぽどやる気があるんだろう。マスターは重要な同盟者。やる気があるならそれに越したことはない。

 

自分の願いのために他の参加者を殺す儀式。うーん、わかりやすくてとても良い。切嗣と俺はペアマッチでタッグを組んでて、どちらかが消えたら負けなので、俺は彼が戦場に出ない方向でいくことにした。

 

宝具から生前の仲間(ナクラ)を呼び出したのは、切嗣を起き上がれなくするためでもあったんだ。別に替え玉を用意しなくても、俺の千里眼で敵の居場所を確かめてカチコミをかければほぼ倒せる。でも切嗣がついてきて万が一があったら困るから、完全な別行動に踏み切ったというわけだ。

 

そういう意味じゃ、アイリスフィールが我儘言ってついてきたのも悪くなかった。彼女がセイバーのマスターを演じてくれるなら、切嗣はより安全だ。ナクラがいれば、そうそう殺されることはないだろうし、引き続き旦那さんの盾になってくれたらいい。

 

(むご)い有様であるな」

 

足元に転がっているグロい死体を足先でこつく。そこらへんにいそうなチャラい男と思いきや、こいつこそがそこらじゅうに置かれた悪趣味なオブジェの制作者だ。パーンダヴァはもちろん、めちゃくちゃ優しいアシュヴァッターマンや割と子供好きなドゥリーヨダナなら怒り狂っただろう。カルナなら「こういうのもあり」と許容するか? いや、あの子も養子たちを随分可愛がってたから絶対怒る。俺? 俺だって人並みに哀れみを感じてるぞ。

 

「ぁ、う……ぁ」

 

楽器っぽく加工された女の子の前に立ち、怖くないように一瞬で頭を吹き飛ばす。他の子たちも同じように終わらせた。ああ、やるせないぜ。みんな来世は幸せなじいさんばあさんになって死ねるように願っとこう。多少縁があるヴィシュヌ神あたりが聞き届けてくれたらいいな。

 

キャスターは顔を合わせるなり首をはねた。マスターの方は蹴りで腹にでかい穴をあけてやったら、恍惚した顔で死んだ。自分の中身を見れて嬉しいとか、頭アーパーな奴は喜ぶポイントが謎だ。

 

あわせて三分ぐらいの出来事だったけど、下水道内の汚いスペースに長居したくなくて、さっさと外に出た。

 

残りの陣営がどうしてるか念の為見ておくかな。まずは遠坂邸だ。おお、数時間前に俺がピンポンダッシュならぬ右ストレートダッシュで半壊させた屋敷がもう修復されてるぞ! 魔術すごいな。遠坂時臣は普通に寝てる。金ピカのアーチャーは探したら勘付かれそうだしスルーで。言峰綺礼は死んだように寝ていて、アサシンは町中に散らばったままだ。最後のライダー陣営も転がり込んでる先の老夫婦の家で寝てた。特に変わったことは何もないな。

 

ランサー、バーサーカー、キャスターが消えて、残るはライダー、アサシン、アーチャー。

 

今日だけで半分倒せたのはいいペースだ。ライダー陣営はいつでも消せる。難敵のアーチャーはマスターを殺せばいい。厄介なのは何十人にも分裂してるアサシンだが、こいつらもマスターを殺せば問題ないはず。うん、引き続きナクラで注意を引いて暗殺だ。

 

……聖杯戦争は初めてだけど、こんなシンプルな儀式が過去三回も失敗してるのがちょっと気がかりだ。

 

輝く貌のディルムッド。

円卓最高の騎士ランスロット。

青髭ジル・ド・レェ。

征服王イスカンダル。

百貌のハサン。

英雄王ギルガメッシュ。

そしてこの俺、盲目覇王ドリタラーシュトラ。

 

歴史や伝説上の英雄から七人の型落ちコピー(サーヴァント)を呼び出し殺し合わせ、勝利した陣営は聖杯に願いを叶えてもらえるなんて、話が出来すぎてないか?俺は生きてる間に望む全てを手に入れた幸せ者なので、大きな望みなんてないけど、俺のマスターみたいな人間は切実な理由があって参加してると思う。奥さんを戦場に出してまで叶えたい願いって何だろう? ホムンクルスな妻子を一族から自由にしてやりたいとか、寿命を伸ばしてあげたいとか、そんなところだろうか。

 

願いと言えば、俺の願いが「また奥さんとイチャイチャしたい」だと知った時のマスターの顔は傑作だったなぁ。あれ以上力んだら顔面割れるんじゃないかってぐらい表情筋が硬直して、パクパク魚みたいに口を開閉した挙句、「へえ」と蚊が鳴くような相槌を打った。ささやかすぎる願いで驚いたんだろう。

 

そろそろ夜明けだ。ホテルに戻ってマスターと今日の作戦の話をしないとーー

 

『伯父上!』

 

ナクラ、どうした? 他陣営が襲ってきたか?

 

『アイリスフィールが倒れました。港を離れた後、体調が優れないようだったのでアインツベルン城で休ませていたのです。それが先ほど酷く苦しんで、数分で意識を失った。伯父上、彼女は私に何も言いませんでしたが、死を覚悟しているように見えました』

 

どういうことだ、アイリスフィールは病気なのか? うーん、アカシック何ちゃらは制限されててよく見えん。仕方ないから千里眼で本人をレントゲンしちゃうぞ……はあ? 何じゃこりゃ!?

 

『伯父上、どうされましたか?』

 

……ナクラ、アイリスフィールはもう動けない。悪いがそのつもりで面倒を見てやってくれ。俺はマスターに事情を確認する。

 

『拝命いたしました』

 

甥っ子との念話が終わるなり、霊体化したままマッハ寸前の速さで駆け出す。ソニックブーム起こすと他のサーヴァントがすっ飛んでくるからな。マスターとOHANASHIするのが数秒遅れるけど仕方ない。ああ、久々に腹が立った。マスターに対してもそうだが、戦争だってのに十分な情報収集をしなかった俺自身に対してもだ。

 

生前だったらありえなかった。死んで鈍ったか、盲目覇王たるこの俺が!

 

待ってろよ、衛宮切嗣。この俺に、妻と引き換えに願いを叶えようとしてる外道の片棒を担がせようとしたんだ。一から十まで吐いたうえでこっちが納得しなきゃ、今の魔力タンク(仮)から魔力タンク(真)にジョブチェンジさせてやる!!

 

 




後書き

第四次戦争ことFate/Zeroの続きです。
一気に三騎取り込んだアイリスフィールが倒れ、剣陣営に暗雲立ち込めました。
これも切嗣が幸運E−のせいなのか……
なお、主人公にとって切嗣もアイリスフィールも今回限りの即席同盟者なので、全く情はありません。

ナクラとの念話は、ナクラ側には盲目覇王らしい口調で聞こえてます。

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