盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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ストックが切れるので、毎日更新ではなくなります。

要注意!! 原作の生存キャラが死亡します。




番外「盲目覇王in第4次聖杯戦争」3話目

 

 

夜明けとともにベッド傍に戻ってきたセイバーの顔を見た時、切嗣は今から殺されるのだと思った。ドリタラーシュトラの盲いた瞳がゆらりと向けられて、暗がりから喰らいついてくる猛獣を幻視したからだ。黒いシャルワニにドウティ姿の巨人は、成人男性よりも重量がありそうな剣を手にしていた。

 

「マスター」

 

「キャスターを片付けたかい? セイバー」

 

「その直後にうぬの妻が意識不明になったことについて、申開きはあるか」

 

やはりそれか、とシーツの下にある右手を握り込む。途端、額にヒヤリとした空気の動きを感じ、視界を上向けると太い黒線が見えた。ドリタラーシュトラが切嗣の眉間に剣先を突きつけたのだ。これでは令呪を使用するより先に頭を貫かれると理解してしまい、拳が緩んだ。

 

「一から十まで全て話せ。あの娘が聖杯であることを何故黙っていた。うぬが聖杯にかける願いはなんだ」

 

「お前が知る必要は……っ」

 

プツリ、と切先が額の薄い肉に沈んだことで息を呑む。赤い液体が傷から盛りあがり、こめかみへと伝っていく。凶器が頭蓋骨に直に触れているのがまざまざと感じられた。

 

「選ぶがいい、衛宮切嗣。その回らぬ口で俺を納得させるか、物言わぬ魔力装置となるか。俺はどちらでも良いぞ」

 

このまま前頭葉を刺されたら切嗣は思考能力を失い、ドリタラーシュトラが言う魔力装置になるのだろう。ただの脅しだと楽観できるわけがない。この男がハッタリを口にする必要などなく、きっと本当にどちらでもいいのだ。

 

アイリスフィールはもう助からない。魔力装置になったら切嗣の願いは叶わない。それだけは嫌だと強く思った。衛宮切嗣は、愛する妻と引き換えに全ての人々の幸福と世界の平和を願うのだ。そうでなければアイリスフィールの献身も、母を失うイリヤスフィールも、切嗣のこれまでの人生も報われない。

 

「話す。話すから、これを退けてくれないか」

 

盲目覇王は何も言わず、剣を引くこともなかった。ただ巌のようにそこに立ち、切嗣を見えぬ目で見下ろしている。まるで機械の自分が無理やり引き剥がされ、やわい中身が晒されるようだった。

 

「……僕の願いは」

 

長いようで短い、懺悔のような話だ。人々の幸福と世界の平和を願い、異端の魔術師を殺す傭兵として過ごした半生。アインツベルンに勧誘され、恒久的な平和の実現を聖杯に願うべく、代理マスターになったこと。人形のようだったアイリスフィールといつしか心を通わせ、彼女を愛するようになったこと。聖杯戦争における彼女の役割を知って苦しんだこと。娘イリヤスフィールが生まれ、今回の聖杯戦争を人類最後の争いにすると決意を新たにしたこと。

 

すべて話し終わった頃には、すっかり日が高くなっていた。切嗣は喉の渇きを覚え、体を起こそうとして眉間に刺さったままの切先を思い出した。ドリタラーシュトラは動かない。白茶色の視線だけが焦点を結ばないまま切嗣の斜め横あたりを彷徨っていた。

 

「セイバー、もういいだろう? 剣を退けてくれ」

 

「うぬは狂人の類であったのか」

 

はあ、と覇王らしからぬため息とともに大剣がかき消える。切嗣は額から半乾きの血を拭い、ベッドサイドのミネラルウォーターのボトルに口をつけた。少し動くだけでドッと血の気が頭から下がり、気を失いそうだ。しかし目の前の猛獣から目を離すことが恐ろしかった。

 

「世界平和など、そんな世迷言のために妻を手放そうとは。全く理解できん」

 

「お前みたいな奴にわかるものかっ」

 

「ぬう、納得以前に微塵も理解できぬとは……」

 

どうやらドリタラーシュトラは全てを吐いたマスターの処遇に悩んでいるようだった。部屋に現れた時の静かな怒りは鳴りをひそめ、困惑していることが伝わってくる。世界平和を語って馬鹿にされたり反論されたことは数あれど、未知の言語のように全く理解できないと悩まれるのは、切嗣にとっても初めてのことだった。

 

切嗣が遠のく意識にしがみつきながら沙汰を待っていると、不意にドリタラーシュトラの視線がどこかへと流れた。

 

「しばし待て、マスター」

 

わずかに眉を寄せて遠くを視ること数秒。剣の英霊は苦々しげに口を開いた。

 

「ライダーがアインツベルン城に攻め入った。じきにナクラと交戦するであろう。気張れよ、マスター」

 

「……このタイミングでかい?」

 

「これよりライダーを下す。うぬの処遇はその後で決めるとしよう」

 

そう言い残して霊体化したドリタラーシュトラの気配が遠ざかっていく。これから四騎目が脱落し、アイリスフィールは完全に失われる。敵の襲撃を前に、小聖杯ではなく愛しい妻を気にかけることができた自分を認め、切嗣は小さくしゃくりあげたのだった。

 

 

 

✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

ウェイバー・ベルベットは英雄の器ではない。本人は知らずとも彼の本質は教育者であり、その心身は戦うためのものではないのだ。イスカンダルの戦車の中で真っ白な顔をした青年は、泣きが入っている自分(元の自分)と異様な高揚を感じている自分(なりたい自分)の板挟みになっていた。

 

青空を翔ける戦車に目眩しの魔術をかけてはいるが、ウェイバー程度の腕ではちょっと勘が鋭い者には看破されてしまうだろう。ライダーが「セイバー陣営を叩く!」と言い出した時に、何がなんでも止めればよかったと思うも後の祭りだ。空から怪しい場所を探し、冬木郊外の森で結界らしき魔力の膜を見つけたのは、はたしてラッキーだったのか。結界を突きやぶり見つけた白い城はもう目前だ。相手側も接近に気づいているだろう。

 

聖杯戦争の御三家のことは調べてあったので、その城がアインツベルンゆかりのものだと気づくことができた。であれば、この城の主が最優と言われるセイバーのクラスを召喚している可能性は高い。

 

「坊主、身を低くしておれよ。セイバーが何人伏兵を連れているかわからん。昨晩見たかぎりでは手練れが一人だと思うが」

 

「わかってるよ! ライダー、本当に勝てるのか? お前がやりようがあるって言うから来たんだぞ!」

 

キッと見上げるウェイバーを横目に、イスカンダルは不敵に口角を釣り上げた。

 

「おうとも、余の奥の手を見せてやろう。さあ突っ込むぞ!! オオオオッ!!」

 

「うっわああああ!!」

 

戦車が城の外壁をぶち破り、狭い廊下へと侵入する。ぱらぱらと白い破片が散らばる中、前方から駆けてくる影があった。

 

「おお、当たりを引いたぞ! 坊主、しっかり捕まっておれ!」

 

イスカンダルがその人影めがけて戦車を突進させる。雷を纏った攻撃を、麗しい人影は軽やかに飛び越えて避けた。急な方向転換をしたライダー組とセイバーが対峙する。

 

しなやかな長身と目を見張る美貌。抜き身の剣を携えたセイバーは、ドックエリアで見かけた現代の服装ではなく、深い青色の上着に白の差し色が入った黒いドーティを纏っていた。両手首の金に宝石が散りばめられたバングルは高貴な身分の表れだ。その姿を目にしたライダーが、感嘆の吐息とともに口を開いた。

 

「敵ながら良い面構え、いや、素晴らしい面をしておるなぁ! 流石はマハーバーラタ随一の美男子よ」

 

「えっ!? マハーバーラタって……あのセイバー、パーンダヴァのナクラなのか!?」

 

征服王のやや色が乗った視線とウェイバーの驚愕の視線を受けた剣の英霊は、好戦的な笑みを浮かべて頷いた。隠すつもりはないらしい。

 

「よくわかったな。聖杯戦争で名乗りを上げることになるとは思っていなかった」

 

美しい喉と口元から、これまた美しいやや高めの声が発せられる。セイバーは優雅に一礼し、黒曜石のような瞳を細めた。

 

「クル国王弟パーンドゥの子、ナクラだ。未来で我らの国を侵略せし征服王、イスカンダル三世。貴様と一戦交えるのを楽しみにしていたぞ」

 

「ほほう、余の正体を知っておったか。お前の伏兵、賢い双子の弟あたりに探らせたか?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

イスカンダルが剣を抜き放ち、ナクラも前方に獲物を構える。マスター殺しを警戒するウェイバーは自らのサーヴァントの後ろで守られる体制だ。じり、とナクラの左足が後ろに重心をかけたその瞬間、イスカンダルから渦巻く魔力が立ち上った。

 

「お前一人に使うのはちいっとばかし勿体無いが、伏兵なんぞに気を割くのも馬鹿らしい。征くぞ! いざ! 遥か万里の彼方まで!」

 

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)。征服王の宝具が空間を塗り替え、城内から砂地の戦場へと場面が移りかわる。巻き込まれたナクラは僅かに眉を寄せたが、取り乱すことなく周りを確認していた。

 

「なるほど。貴様の宝具は固有結界。生前の戦場を軍勢ごと呼び起こすものなのか」

 

あくまで冷静に分析する様子に恐れはない。ナクラは目の前に現れた数万人のマケドニア軍をゆっくりと見渡した。

 

「良い宝具だ」

 

「褒められて悪い気はせんが、お前はここで倒すぞ。本体を倒しちまえば、伏兵も消えるであろう」

 

「ふっ、はは! そうだな、やってみるがいい。私も本気でいくぞ!」

 

美しい剣士の気配が、まるで別の生き物になったかのように大きくなり、万物を惹きつける力を放つ。ライダーの大きな背中越しに敵を見ていたウェイバーは、ふらふらと前に出ようとして大きな手に頭を鷲掴みにされた。周りでは前列の勇士たちが同じようにナクラに引き寄せられ、無防備に切り倒されている。

 

「坊主、アレを見るな。ありゃあとんだ魔貌だぞ。無差別に周りを魅了する、怪物の美しさってやつだ。我が軍の猛者たちがああもやられちまうとは」

 

ナクラからやや目を逸らしているイスカンダル自身も耐性が完全ではないのだろう。ウェイバーを戦車の後部に押しやった男は、深く息を吸い、全軍に轟く大声を放った。

 

「かーっ、情けない!! 敵の美貌に骨ぬきになる奴があるか!!」

 

王の一喝でマケドニア軍は我に帰ったが、ナクラは特に気にした様子ではなかった。血がしたたる剣で風を斬り、その存在感に緩急をつけながら走りだす。迎え打つ軍勢に轢き潰されない技量は、美貌頼りではありえなかった。

 

たった一人の剣士を中心に血飛沫が上がり、屍が土嚢のように積み上がっていく。器用にも近くの敵だけに強い魅了をかけ、無防備な一瞬のうちに急所を貫いているのだ。半神に相応しい速度と膂力、華麗ながらも恐るべき剣技。ナクラも盲目覇王の大遠征に何度も参加し、数多の戦場で活躍した英雄なのだ。

 

「ぬんっ!!」

 

「はあっ! 礼を言うぞ、ライダー。生前コレを戦場で使うことはなかったのでな! くははっ、実に愉快だ!」

 

「そりゃそうだろうなぁ! 戦場で無差別攻撃なんぞされちゃ堪らんわ!」

 

ナクラの魅了を剣先を見ることで緩和しながら、イスカンダルが斬り結ぶ。生粋の剣士相手に分が悪いと知りつつも、征服王の狙いは直接対決ではなかった。サーヴァント同士で斬り合っているところにしなやかな背中に槍が刺さり、縫い止められた美しい体を四方八方から剣と槍が襲う。胸を貫かれたナクラの表情は凪いでいた。

 

「は、はは……楽しかったぞ、征服王」

 

「はしゃぐお前さんの相手は骨が折れたわい。さらばだ、魔貌の王子よ」

 

「私のマスターが、上の階で眠っている。どうか、彼女のことは」

 

「脱落したマスターを襲ったりせん。安心していけ」

 

無惨に傷ついてなお美が人の姿をとったような青年が金色の光に溶けていく。勝利の雄叫びをあげる兵たちも宝具の終わりとともに解けていった。後に残ったのは大穴が空いたアインツベルン城の廊下とイスカンダルの戦車と神牛ら、そして戦車の上のライダー主従だけだ。

 

「か、勝ったぞ!」

 

ウェイバーが興奮した声を上げる。聖杯戦争で初めての戦闘に勝利した自覚がじわじわと湧き上がり、白い頬を染めていた。己のサーヴァントに明るい顔を向けた彼はーー

 

眉間に突き立った矢で永遠の暗がりへと落ちていった。

 

「坊主!! ぬかったわ、あのセイバーだけではなかったということかっ」

 

魔力のパスが消滅し、宝具の開帳で余力がなくなっていたイスカンダルの身がエーテルの粒へと解け始める。笑顔のまま事切れた若いマスターを腕に抱いた男は、やるせない顔で一度瞳を閉じてから、矢を放った刺客を睨みつけた。

 

城壁の大穴の向こうに広がる森の、一際背が高い木のてっぺんに長身の男が立っている。白い弓を手にした男は波打つ短い黒髪に褐色の肌をしていた。その身に纏っている白い長衣は古代インドの民族衣装だ。

 

授かりの英雄アルジュナ。

 

消えゆくイスカンダルが、弟の仇を打った弓兵の正体を知ることはなかった。

 




後書き

第四次戦争ことFate/Zeroの続きです。
ライダー陣営も脱落しました。ウェイバー君には申し訳ない。
ナクラの最後の言葉は意図的なミスディレクションです。
伯父上からの念話で次はアルジュナが来ると聞いていたので、油断を誘うための演出。
アルジュナは宝具から出てきた一瞬で伯父上から情報共有され、弟の仇を倒しました(マスター狙いは伯父上の命)

ナクラ→アルジュナの人選は通常戦闘時の魔力消費の低い順。じゃないと切嗣が干からびるので。
逆に高い順は加減してない覇王→カルナ→ビーシュマ→わし様(クラス的に)→加減してる覇王です。

残るはアサシンとアーチャーのみ。
思ったより伸びたので、5話編成になりそうです。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

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