盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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要注意!! 原作の生存キャラが死亡します。



番外「盲目覇王in第4次聖杯戦争」5話目

 

とある転生者のモノローグ

 

 

ギルガメッシュが難敵なのはわかってたが、マスターが蒸発(物理)してから戦闘続行するのは想定外だった。こいつの単独行動スキルどうなってるんだ!? そろそろガス欠みたいだけど、全然気が抜けない。

 

「ぬうっ、雑種如きが……!」

 

「うぬも神と人の混ざり物であろうが」

 

「不敬者め、疾く消え失せよ!」

 

奴の後ろから鎖が飛び出してきて俺の剣に絡みつく。体まで捉えようとしてくるのを、剣を手放して突き進むことで避けた。ギルガメッシュが目を見開いている。ふふん、俺が武器を捨てるとは思わなかったか? あんなもんなくたって手足で事足りるんだよ。

 

右ストレートを紙一重で避けたのは褒めてやる。こっちはどうだ、おらぁッ!!

 

金属がひしゃげる音を立てながらギルガメッシュが吹き飛ぶ。俺の回し蹴りで胴体が泣き別れしないとは、随分良い鎧だ。でもその下は悲惨だなぁ。脇腹がめきょめきょに凹んで背骨まで折れてるのが見えるぞ。根性で立ち上がろうとしてるけど、もう駄目だろう。

 

「ぐがっ、おのれぇ……ッ」

 

飛んでくる剣や槍を避けながらまた距離を詰める。こいつの敗因は慢心だ。俺が誰だか知ってもなお、替え玉や伏兵を使う取るに足らない相手だと見下していた。俺が力を抑えていたのに気づきもせず、マスターが死んで高火力を出せなくなってはもう詰みだ。ここから逆転できる宝具なんて、魔力消費が激しすぎて撃てないだろう。お前なら俺を確殺する手段があっただろうに。ご愁傷さま、英雄王。

 

捨てた剣をエーテルに戻して手元で再構成する。ギルガメッシュは首を落とされる瞬間まで目を逸らさなかった。

 

よっし、聖杯戦争はこれで終わりだ。切嗣は生きてるし、じきにアイリスフィールの体が聖杯へと変わるだろう。俺も合流して願いを叶えてもらわなきゃ。待ってろよ、ガーンダーリー!!

 

「伯父上、此度の勝利まことにおめでとうございます」

 

「うぬとナクラには随分助けられた。よくやったぞ、アルジュナ」

 

「もったいないお言葉です」

 

優秀な甥っ子がはにかみながら言う。褒賞として頑張った二人の願いも叶えてやりたいが、聖杯のキャパ的に難しいか。よしよしと肩を撫でてやってるうちにアルジュナは宝具の中へと戻っていった。これで切嗣も楽になったかな。

 

ん……?

 

『令呪を持って命じる! セイバー、今すぐ僕のもとへ空間転移しろ!』

 

なんだとぉ!? 戦争が終わったのに令呪って、うおっ、めっちゃ引っ張られてる!

 

パッと景色が変わり、淀んだ空気に警戒心がぶち上がる。ここはビジネスホテルの一室のはずなのに、まるで塗りつぶしたように黒い。千里眼じゃなかったら何も見えないぞ。そんな暗がりの中に切嗣が膝をついて項垂れていて、彼の足元にはアイリスフィールの死体があった。

 

「マスター、何があった」

 

「セイバー、聖杯は駄目だ。聖杯の中にいる何かが、アイリの体を使って僕に言った。恒久的な平和は人類を殺し尽くせば叶う。聖杯は僕が知る手段(殺戮)でしか願いを叶えられないって! そんな馬鹿なことがあるか! アレは悪だ、あんなものに望みをかけてたなんてっ。アイリ、僕は何のために……」

 

本気で泣きが入ってる切嗣は蝋のように真っ白だ。アイリスフィールの眉間に銃創があるのは、聞くに堪えないことを言われてこいつが撃ったんだな。確かに、聖杯になった彼女の体を動かしたのは聖杯に他ならないだろう。切嗣が言うほど邪悪かはわからんが、この空間は良くないな。千里眼を覗き返してくる何かがいる。こわっ、ホラーかよ。

 

「暗がりの先に何かおるな。この場を離れるぞ、マスター。うぬの助手はどうした」

 

「舞弥は僕を庇って闇の中に……」

 

「そうか」

 

聖杯つながりの敵性存在が助手を殺した、と。サーヴァント六体を取り込んだ聖杯が何かやらかすとか、厄ネタの気配しかしない。ここで考えていても仕方がないので、俺は切嗣の襟首を引っ掴んで窓際へと向かった。アイリスフィールは置いていけって俺の勘が言ってる。背中に感じるこの視線。あの女、すなわち聖杯から向けられてるのが怖すぎる。

 

剣で窓と壁を薙ぎ払い、飛び出す。遠坂邸にいたときは普通の夜だったのに、今や外は火口付近のように熱く、空は千里眼が眩むほど禍々しく焼けている。ちょうどホテルの真上が熱源だ。宿泊客も周りの住民も大騒ぎ。みんな俺みたいな巨人に目もくれずに逃げてる。別に広範囲に火の手があがってるわけじゃない。空から灼熱の悪意が振ってきてるんだ。なんだよ、これ。聖杯の誤作動とか勘弁してくれ!!

 

ごめん、ガーンダーリー。この聖杯にイチャイチャタイムを願うのはやめとくよ。万が一お前が害されたりしたら、俺は怪獣王みたいに冬木を更地にする自信がある。再会は次回に持ち越しだ。

 

「空から恐るべき悪意が降っておる」

 

「聖杯の魔力が、あんな……」

 

弱々しく立つ切嗣が見上げる先には、夜空に浮かぶ昏い大穴と黄金の器。焼ける空にぽっかり空いた穴から聖杯へとドロドロの魔力が注がれている。なんだあれ、完全に満たしたらヤバい奴じゃ? おい、切嗣、あれをどうにかするぞ。終戦後に街を焼くのは俺の主義に反する。

 

「マスター、この現象の大元を叩く。令呪で宝具発動を命じるのだ」

 

「ああ、頼む、セイバー…… 令呪を持って命じる。宝具を解放し、汚れた聖杯から街を守れ!!」

 

「任せておけ」

 

衛宮切嗣、お前は頭がおかしいアホだけど、今のは百点満点の命令だったぞ。俺は防衛戦だって負けなしの盲目覇王。聖杯戦争の延長戦もばっちり勝利で終わらせてやるさ。

 

「このドリタラーシュトラが覇を唱えよう」

 

 

 

✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

 

巌のような男の足元から世界が塗り変わっていく。焼けた夜空はそのままに、古代インドの戦場が地平線まで広がっていくのだ。固有結界に招き入れられ王の戦車に乗せられた切嗣は呆気に取られ、隣で仁王立ちしているサーヴァントを見上げていた。異様なスピードで前進する戦車の御者台には白金色の髪の痩せた青年が座っている。戦車を囲んで駆ける百人ほどの騎馬兵は全員同じ背格好の若者だ。後ろには何万人もの屈強な戦士たちが続いている。少し離れた一団にナクラとアルジュナの姿もあった。

 

古代インド統一を果たしたクル王国軍。この常勝無敗の軍団こそがドリタラーシュトラの宝具、固有結界『偽典マハーバーラタ(ヤー・ラージャ・キー・カハーニー・ハイ)』である。令呪を持ってしか放つことができない、国さえ滅ぼす宝具だ。

 

「セイバー、どうして僕まで連れてきたんだ」

 

「うぬに見せてやろうと思ってな」

 

盲目覇王の千里眼は前だけを見据えている。禍々しい大穴と聖杯の真下へと進撃する男たちが、彼が太い右腕を掲げるなり轟く雄叫びをあげた。全軍からビリビリと辺りが揺れるほどの魔力が迸り、まさに暴力の津波のようだ。

 

「衛宮切嗣、刮目して見よ。俺は、うぬが忌避する争いの果てに望んだ全てを手に入れた男である。今宵その力を以て、うぬの望みを叶えよう」

 

オオオオオオッ!!!

 

ドリタラーシュトラの右腕が前方へと振り下ろされる。総攻撃の合図を皮切りに、王の戦車の真横を白熱をまとった矢が飛んでいった。アルジュナが放った奥義ブラフマーストラだ。続いてビーシュマとドローナが同じ奥義を、父親に並んだアシュヴァッターマンが最大火力のブラフマーシラストラを放つ。彼らはすぐさま魔力切れでエーテルへと解けていったが、大穴に炸裂した四発の奥義は黒い魔力を金朱の熱で溶かした。

 

「おいっ、あれ核攻撃じゃないのか!?」

 

「ふっ」

 

溢れる泥のような悪意にいよいよ触れるという距離で、ドリタラーシュトラの声が戦場中に響き渡る。

 

「息子たちよ、前方を喰い破れ! 精鋭部隊は我が子らに続け! 我らの道を拓くのだ!」

 

「お任せください、父上! 征くぞ、兄弟たちよ! 『一から生まれし百王子(ジャイ・カウラヴァ)』!!」

 

「「「ジャイ・カウラヴァ(クル族万歳)!!」」」

 

百王子の遊撃部隊と国王直属の精鋭らが泥の波へと突撃していく。すぐさま呑み込まれるかと思いきや、その突進力は焼ける泥をも割った。削られながらも道を切り拓いた息子と部下たちの間を王の戦車が駆けていく。数万の歩兵も泥を押し止める役に回り、ドリタラーシュトラとともに目的地点まで進んだのは御者の青年と切嗣、そしてもう一台の戦車に乗った四人の青年たちだけであった。そのうちの一人がナクラであったので、切嗣は彼らがパーンダヴァなのだと察した。

 

「兄ちゃん、我らの魔力を使ってください!」

 

「ビーマ、お前ならアレに届く。我らの分まで頼んだぞ!」

 

「おうよ、任せとけッ! 嵐の力よ、集いて我が手に! 『風神の子、此処に在り(マールティ・ヴァーユプトラ)』!!」

 

すでに崩れはじめている黒い孔目がけ、パーンダヴァの紫色の髪をした巨漢が宙を駆ける。風神の子である彼は、長大な旗槍に纏わせた(天災)を叩きつけることで穴を半壊させた。もう聖杯へと流れる魔力はごく僅かだ。

 

魔力を使い果たしたパーンダヴァが戦車ごと金色の粒へと変じていく。ほぼ全軍を失ったドリタラーシュトラは最後の一人である御者へと声をかけた。

 

「カルナ、大穴の始末を任せる。俺は聖杯を叩く」

 

「承知した。王よ、ご武運を」

 

施しの英雄カルナの手が手綱から離れ、戦車が緩やかに停車する。黒い大弓を呼び出したカルナが白炎を立ち昇らせながら弦を引く。つがえた矢からも火の粉が舞い、戦車の後方で身を屈めている切嗣の頬までも炙った。しかし、炙られた本人は熱いと感じることさえ忘れて英雄たちに魅入っていた。

 

「ブラフマーストラ!!」

 

止めの一矢がまたも大爆発を起こし、ついに空の大穴が掻き消える。爆風にあおられた切嗣の目前から、ドリタラーシュトラの巌のような体が砲弾のように上へと遠ざかっていった。それはただの跳躍であるはずなのに、覇王は頭上高くにある聖杯のさらに上へと到達し、大剣を振りかぶった。

 

「オオオオオオッ!!」

 

一閃。少し遅れてソニックブームが轟き、金属が割れる甲高い音が続いた。聖杯が小さな破片となって落ちてくる。同時に、ドリタラーシュトラの固有結界も令呪のブースト切れにより解けはじめ、切嗣は戦車が消える前に自ら地面へと降りた。固いコンクリートの感触で現実に引き戻され、あたりを見回す。どうやら、ビジネスホテルの屋上に出たようだった。

 

眼下の冬木市は真夜中だというのに騒然としていた。いきなり現れて火事を引き起こした超常現象が、これまたいきなり消えたのだから、人々の混乱は相当なものだろう。パトカーや消防車、救急車などのサイレンが鳴る中、切嗣は己のサーヴァントへと歩み寄った。

 

「ありがとう、セイバー。お前のおかげで被害を最小限に留めることができた。心から感謝しているよ」

 

「ふっ、うぬらしからぬ謝辞であるな」

 

「今ぐらいいいじゃないか」

 

「ふ、ははっ」

 

盲目覇王の低い笑い声が冷えた空気に滲む。やがて指先から黄金の粒に変わりはじめた男は、数日限りのマスターに焦点が合わない目を向けた。

 

「衛宮切嗣、疾く娘を迎えに行け。うぬが真に妻子を愛しく思うのならばな」

 

「そっちこそ、らしくないお節介だな」

 

「言ったであろう。俺は子供好きであると」

 

そんな締まらない言葉を残して最強の戦士は消えていった。アーチャーとアサシンの茶番劇から五日、港での開戦からわずか二日。市街地に僅かな傷を残した第四次聖杯戦争は、セイバーのマスター・衛宮切嗣の勝利と聖杯の破壊による儀式失敗で幕を閉じた。

 

 




後書き

第四次聖杯戦争ことFate/Zeroが終戦しました。
覇王が覇王したせいであっという間に終わってしまった……
原作だと聖杯の邪悪さにテンパった切嗣がセイバーに聖杯を破壊させたことで冬木が大災害に見舞われましたが、本作では固有結界内で大元の大穴→聖杯の順で破壊したので街はほぼ焼かれませんでした。
呪いの泥で体を損ねることがなかった切嗣は冬木を出たその足でイリヤを迎えに行きます。
二人が冬木に移り住むのか、イリヤが一つ年下の赤毛の男の子と仲良しになるのか、父を失ったけど母は健在な凛がどうなるのか、桜が少しは救われるのか等は決めていません。
切嗣の英雄コンプレックス()や考え方が改善したかも有耶無耶にしています。
一応、ラストの覇王との会話では常に感じていた胃の気持ち悪さはなかった模様。
第5次聖杯戦争の話を書くとしたら、この結末からの延長線ではないと思います。

コメント等リアクション大変嬉しいです!ありがとうございます!

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