盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その9

 

 

前回に引き続き、施しの英雄カルナについて語ろう。第三次大遠征で国王ドリタラーシュトラの御者を務めることになった少年カルナは、養父から学んだ操縦技術で見事に仕事をこなしてみせた。体の小ささを半神の膂力とスタミナでカバーして戦車を操り、戦場では戦車を乗っ取ろうとする敵兵を護身用の短剣でことごとく返り討ちにした。

 

訓練を受けたことがないスータの子供が大人の戦士を殺害する。この異様な状況は他国であればアダルマとして厳しく見られたかもしれない。しかしクル王国軍は戦場においてダルマより勝利を尊ぶ者が多く、全軍が敬愛する盲目覇王の御者が強者の卵であることは、ごく自然に受け入れられたのだった。

 

大遠征は半年に亘った。ドリタラーシュトラは北西の国々に矛を向け、次々と落としていった。うち三か国が同盟を組んで立ち向かってきた際には、己の戦車一騎(つまり己と御者のカルナのみ)による特攻で各国の王族のテントを襲ったと伝わっている。後世でこのように創作されるほど、鮮やかに勝利したということだろう。

 

当代最強の王に付き従いその活躍のすべてを間近で目撃したカルナは、戦士という生き方に強く惹かれた。太陽神とヤドゥ族の王女の子である彼は戦士階級の血筋であるが、その真実を知る者はまだおらず、幼い英雄はどうすれば戦士になれるのか思案する。そして、ドリタラーシュトラが体現する指標、すなわち「強さの証明」を目指すことにした。これは、後の大英雄カルナの人生を決定づけた決意であった。

 

大遠征最後の戦争は、インド北西部の大国シンドゥ相手に行われた。クル王国軍の先鋒、国王率いる精鋭部隊の先頭で戦車を駆りながら、カルナはドリタラーシュトラにこう願った。

 

「どうか俺にも戦わせてほしい」

 

他に誰も聞いていないから許された子供の願いに、覇王はこう答えた。

 

「うぬには早い。まずは鍛錬し腕を磨け」

 

「無理だ」

 

この受け答えの注釈は原文の何倍にもなるが、概ね「私は御者の息子なので鍛錬しようにも師がいません」という意味だとされている。また、続く会話から、ドリタラーシュトラはカルナの難解な言葉選びをよく理解していたと思われる。

 

「俺が鍛えてやろう」

 

「不都合だ」

 

「迷惑ではない。うぬは輝ける原石、長じれば戦場を照らす星のごとき強さを手に入れるだろう」

 

「聞くに堪えん」

 

「ふっ、照れておるのか」

 

おわかりいただけただろうか。盲目覇王は「忙しい国王陛下の手をわずらわせるのは気が咎めます」という断りと「身に余る期待のお言葉に、恥ずかしくて耳をふさぎたくなります」という謙遜を正しく理解したのだ。マハーバーラタのいたるところに見られるカルナとの会話から、ドリタラーシュトラの第三の目は相手の心まで覗くものであったとされている。

 

シンドゥ国を落とした後、覇王は凱旋の途についた。その間、夜になる度にドリタラーシュトラはカルナを呼びつけ、彼に秘密の特訓を課した。スータの子供に国王自ら武芸を教えるとは誰も思わず、この動向は大いに誤解されることになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

一分でわかる古代インド:盲目覇王ドリタラーシュトラ その10

 

 

第四次大遠征は、ドリタラーシュトラの子供たちが十歳の時に行われた。前回から七年も時間があいた理由には様々な考察があるが、最も有力な説はパーンドゥが森での苦行を終えて王宮に戻ってきたことによる内部調整だ。

 

隠者の呪いにより女性に触れられなくなったパーンドゥは、妻クンティーが神の子を産めると知り、浮足立ってすぐさまダルマ神の子ユディシュティラを儲けた。兄王にまだ子が生まれていないにも関わらずだ。これには宰相ヴィドゥラも頭を抱え、わざわざ森に赴いて兄に物申したとされている。こうした経緯で、ユディシュティラは王家の子らの中で最年長となり、王弟の子とはいえ、王の嫡子スヨーダナの地位を脅かす存在となった。彼が法と正義の神ダルマの子であることも良くなかった。スヨーダナを凶兆の子だと危惧する者の中に、ユディシュティラこそが正しい王位継承者だと言う者が現れたのだ。

 

ドリタラーシュトラとガーンダーリーは帰還した弟一家をそれは暖かく迎え入れた。王宮のすぐ近くに立派な屋敷を用意し、幼い甥たちを百王子と妹に引き合わせて共に遊ばせ、家族ぐるみの付き合いをしはじめた。呪いが解けていないパーンドゥと彼の妻二人の間には微妙な距離があったが、兄のおかげ(せい)で性的欲求が弱くなったパーンドゥが自滅する心配はもうなく、彼は妻と触れ合えない代わりに息子たちをよく可愛がった。

 

このように、国王一家と王弟一家の関係は良好であった。

 

パーンドゥの次男ビーマが生まれ持った怪力で百王子らに怪我をさせた時は、弟夫妻の立ち合いのもと、ドリタラーシュトラがビーマを軽く触って吹き飛ばし、「お前がしているのはこういうことだ。よく気をつけよ」と諭した。なお、ビーマは予め用意されていた最高級クッションにめりこんだが怪我ひとつなかった。その様子を指さして大笑いしたスヨーダナほか百王子は、母ガーンダーリーにおやつ抜きの刑に処されたという。

 

また、ユディシュティラがスヨーダナの言動をアダルマだと指摘した時は、弟夫妻の立ち合いのもと、ドリタラーシュトラと国一番の知恵者ヴィドゥラが双方の言い分を聞き、合理的かつ人の心情まで計算に含めた判断で「スヨーダナの方が人の上にたつ王族として正しい。しかしユディシュティラもダルマ法に忠実な判断をしたため厳密には間違いと言えない」と断じた。ユディシュティラは賢い子供であったので、伯父たちの意図をくみ取り、その場でスヨーダナに謝罪した。スヨーダナは真っ赤になって三日間従兄弟を無視した後、小声で許したとされている。

 

このようないくつかのエピソードをまとめた章の最後に、ドリタラーシュトラは長老たちを集め、弟達を伴って断言した。

 

「次代のクル国王はスヨーダナである。王位継承の争いで国を割ることは罷りならん」

 

「次男以下の百王子ならびにパーンダヴァは成人後、落とした国々の領主に任命する。あの子らを担ぎ上げて争おうとする者は、俺自らの手で極刑に処す」

 

「我らは世界に覇を唱えるのだ。内輪で争う暇はない」

 

以降、マハーバーラタにクル王家の王位継承を争う描写は一切ない。いささか不自然なこの欠落は、戦争史を取りまとめた者が故意に省いたのではないかと論じられているが、最終的にドゥリーヨダナが王位を継いだことから、何か波乱があったとしても解決したということだけは確かだ。

 

パーンダヴァの帰還により、ドリタラーシュトラの周りの登場人物が増え、特に次代のクル王族の人間模様が鮮やかに展開する。マハーバーラタの中盤、第四次大遠征におけるカルナの飛躍。王子たちの成人を祝した御前試合とカルナの乱入。末の双子以外の王子たちの初陣となった第五次大遠征。少年の殻を破ったドゥリーヨダナ(成人とともに改名した)率いる百王子とビーマとアルジュナの戦果争いはまさにエピソードの宝庫と言えるだろう。これらの話は次回以降一つずつ触れるとしよう。

 

 

 

 

 

 

とあるカルデアにて

 

 

「父上、今日は編成メンバーに入っていたのでは?」

 

「アルジュナと交代した」

 

「あやつはアーチャーですが」

 

「角がある方だ」

 

「オルタでしたか。そういえば朝食の席で何やら話しておられましたな。デザートまでくれてやっていたような」

 

「素直な愛い子である」

 

「はっはっはっ! そう思われるのは父上だけでしょう。あ、いや、ビーマの阿呆も常日頃可愛い可愛いと言っておるか」

 

廊下で巌のような大きな背中をみつけたドゥリーヨダナは、喜々として声をかけ、隣をゆっくり歩きながら尊敬する父に懐いていた。生前と変わらず、ドリタラーシュトラの周りにはクル王族が集まり、なかなか二人だけの時間は取れない。通りがかりの会話でも貴重であった。

 

「……オルタは別の世界の英霊であったか」

 

「マスターからそう聞いております。わし様たちのマハーバーラタとは異なる顛末を迎え、結果ああなってしまったと」

 

「俺が見た未来であろう」

 

父王のただでさえ低い声が、いっそ重力を感じさせるほど重たくなる。盲目覇王として人理に刻まれ、カルデアのトップサーヴァントに名を連ねる大英雄ドリタラーシュトラだが、以前マスターに話した千里眼で見た未来を想うと気持ちが沈むようだ。ドゥリーヨダナが見かねて少し体を寄せると、太い腕がその背を抱いた。少年のころのようなスキンシップに少し頬が熱くなった。

 

「ドゥリーヨダナ、うぬは何歳まで生きた」

 

「あー、百に少し届かぬぐらいでした」

 

「よくやった」

 

「褒められるようなことですかな? わし様はふつーに楽しく国を統治しておっただけで」

 

言いかけたドゥリーヨダナの薄紫の髪を巨大な手のひらがくしゃくしゃと乱す。ヘアピンが引っ掛からないように加減してくれているのが嬉しくて、年甲斐もなくその手にすり寄ってしまった。

 

「よくやった。まことに、よく……」

 

ドリタラーシュトラは息子の髪を撫でつけて元通りにしてやってから、前を向いたままどこかへと視線を彷徨わせた。千里眼で未来をみているのかもしれない。ドゥリーヨダナは父王の横顔を見上げつつ、気が沈むものを進んで見ないでほしいと内心ため息をついた。

 

百王子と妹がまだガーンダーリーの胎にいた頃、ドリタラーシュトラは恐ろしい未来を見たという。クル王国は戦火に見舞われ、百王子は全滅、おそらくカルナやアシュヴァッターマン、パーンダヴァも同様だ。ドリタラーシュトラ自身は最後まで生き残ったような口ぶりだったが、母や叔父たちのことはわからない。父同様、家族をこよなく愛するドゥリーヨダナにとって、それは知りたくもない未来であった。

 

そんな未来からやってきたかもしれないアルジュナ・オルタ。はじめてカルデアに召喚された時、彼は機械のような無機質な存在だった。ふよふよと宙に浮きながら澄んだ千里眼で人心を見透かす。悪心あるものに襲い掛かる悪癖は、カルナとアシュヴァッターマンを付けることで収まった。マスターに二人を紹介された時の彼の狼狽えた様子をカルナたちから聞いた時、ドゥリーヨダナはらしくない憐憫の情を抱いたのだ。

 

あの機械のようだった、今は幼子の様になった従兄弟は、孤独の果てにああなったのだと。

 

その後は、愛する父がオルタを構っていても不愉快でなくなった。むしろ自ら絡みに行って年上風を吹かせ、弟たちにするように甘やかす様をビーマに見せつけてやったりした。アルジュナがオルタの自分に戸惑っていたので、マスターに同じ編成に入れて周回させるようそそのかしたのはドゥリーヨダナだ。今や二人のアルジュナは双子のような関係になっており、それは人悪の英雄のひそかな自慢であった。

 

「父上、もうよいではないですか」

 

「む?」

 

「その未来は消えたのです。父上自ら粉砕して葬り去ったものを、今更気にして何になります。オルタは我らの家族なのだから、思い切り可愛がって良い思い出ばかり座に持ち帰らせればいい。わし様はビーマから弟を一人奪ってやろうと思っておりますが、如何思われますか?」

 

にんまりと口角を釣りあげて笑った長男に、盲目覇王は厳めしい眉を緩めた。白んだ茶色の瞳はもう別世界を覗いていなかった。

 

「ふっ、我が子が増えるか。それは良い」

 

「では手始めに、父上を「父」と呼ばせるところから」

 

悪意のない悪だくみに親子の笑い声が重なる。数日後に人類最後のマスターが「ヤバインド自重して!」と頭を抱えるのだが、まだ誰も知る由がないのだった。

 

 




後書き

並行世界マハバが上中下巻の編成だとすると、上巻が終わったぐらいまで進みました。
アルジュナオルタはFGO世界からやってきているので、このカルデアでは並行世界の英霊です。
強く優しい叔父、兄、自分の別個体、従兄弟たち+友たちに囲まれて好意の海であっぷあっぷしているうちに、もうどーにでもなーれと悟りを開き、甘やかしを受けれるようになりました。
再臨とともに内面が機構→幼女まで成長してます。

カルナは引き続き登場(シーンによって主役級)、アシュヴァッターマンもいずれ出ます。
ビーマとわし様の関係にも触れたいところ。

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【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。

  • 長兄以外の百王子から見た父王
  • パーンダヴァの誰かから見た伯父王
  • 敵国から見た盲目覇王
  • 現パロの盲目覇王一家
  • 第4次聖杯戦争の盲目覇王
  • 第5次聖杯戦争の盲目覇王
  • オリジナル聖杯戦争の盲目覇王
  • 百王子やパーンダヴァの子の話(孫世代)
  • ビーマとヒディンバーの話
  • FGOの実在イベントへの参加
  • マハバ三大美女に関する掲示板
  • 人類史上最強に関する掲示板
  • 治安維持部隊長アシュヴァッターマン
  • ビーシュマやドローナの掘り下げ
  • クンティーとカルナの話
  • パーンダヴァ長兄()カルナの話
  • 授かりたくないアルジュナの話
  • ビーマの料理関係の話
  • 戦場の殺伐としたエピソード
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