盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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番外「盲目覇王in第5次聖杯戦争」3話目

 

【February 2 / Night】

 

 

もう深夜に差し掛かろうという時分。衛宮邸の居間には総勢八名が適当に座ったり壁際で警戒したりしつつ集まっていた。うち約半数が日本の規格を超えたサイズであるため、十二畳間が狭く見えている。特に一番の巨漢が美しい妻と大柄な息子と固まってくつろいでいる一角はあらゆる意味で密度が濃かった。

 

「つまり、あんた達三人は特に示し合わせたわけでもなくマハーバーラタのクル王家を召喚したってわけ?」

 

「そうなるわね」

 

「私はセイバーを召喚していないですけど」

 

「俺の場合は、バーサーカーの縁だったみたいだぞ」

 

四人のマスターが座卓に集まり、赤いアーチャーはマスターである遠坂凛の後ろの壁際、残りの三騎はイリヤスフィールと士郎の斜め後ろでバーサーカーが続きの間から持ち込んだ小さなこたつを囲んでいる。といっても、セイバーの両足はこたつの逆側からはみ出ており、息子の方は胡座でくつろぎ、キャスターだけが「これはいいですわね」と暖かさを満喫していた。そんな彼女に焦点が合わない瞳を向けるセイバーは飼い慣らされた虎のようであった。

 

他の三人からそれぞれ話を聞いた凛はゆっくり三回深呼吸を繰り返した。そして士郎が用意した少し冷めてしまったお茶に口をつけ、もう一度深く息を吐いてから、我慢できないとばかりに声を上げた。

 

「何がどうしてそうなったのよ!? ドリタラーシュトラが、人類最強の大英雄が野良サーヴァント? あり得ない、絶対にないわ!」

 

「本当なんです。セイバーは最初のマスターと折り合いが悪くて」

 

「どんなに気が合わなくても、彼ほどのサーヴァントを手放すマスターはいない。間桐さん、授業でマハーバーラタのあらすじぐらいは習ったでしょう? ドリタラーシュトラは歴史上最も多くの戦争を起こし、その全てに勝利した。それだけで聖杯『戦争』に最も適した英雄と言える」

 

「つまりセイバーの方がマスターを見限り、君に鞍替えしたということだ。そうではないかね、間桐桜」

 

アーチャー主従の鋭い眼差しを受けて桜が言葉に詰まる。ピリピリした沈黙が数秒続いた時、こたつの方から轟くような低音が会話に割り込んだ。

 

「俺を喚んだ男は同盟者たりえぬ無礼者であった」

 

厳しい眉を少し寄せながら話すセイバーは、さりげなくキャスターの腰に腕を回しており、別に不機嫌ではなさそうだ。

 

「あろうことか、ハスティナープラから盗み出した我が国の宝を媒体とし、クル王家の血を引く子らを生贄に俺を召喚したと宣ったので、即刻手打ちにしてやった」

 

「なんて奴だ……」

 

士郎が顔も知らない魔術師に憤る隣で、桜はあの夜の抜け殻のような男の有様に納得していた。額を浅く貫かれ廃人になっていた男は、桜についてきたセイバーが臓硯に「しばらく世話になる」と土産のように渡して、それっきりだ。あの男について気にならなかったといえば嘘になるが、セイバーに聞くのも躊躇われ、今まで詳しい事情を知らなかった。

 

「その日のうちにマスターに出会えたのは幸運であった」

 

「無理やり契約したわけじゃないのね?」

 

「当然だ」

 

白茶色の瞳が座卓の方向から外れ、巨大な手がこたつの上のボウルに盛られたみかんへと伸びる。話は終わったとばかりに器用に皮を剥きはじめる姿に、凛が背を丸めて頭を抱えた。

 

「ああ、もうっ! 百歩譲って野良の盲目覇王が存在したことは認めてやるわ。アインツベルン、貴方は覇王目当てで召喚して息子の方が来たのよね?」

 

「ええ、お爺様が用意した大剣の欠片を媒体に、バーサーカーのクラス補正があればさらに強いだろうって、詠唱に細工をしたのよ。そうしたらドゥリーヨダナが来たの」

 

「ふん、父上にバーサーカー適性などあるわけがなかろう」

 

父王に並んでみかんを口に運ぶバーサーカー本人だって適性はごく低い。理性を保っている代わりにクラス補正がなく、もとより大英雄クラスの実力者でなければ弱小サーヴァントになってもおかしくなかった。本人もセイバーかランサーが良かったと最初文句を言っていたのだが、イリヤスフィールの潤沢な魔力のおかげで生前と遜色ない力を発揮できると知ってからは、なんちゃってバーサーカーとして現世を楽しんでいた。

 

「そうかね? 盲目覇王は理由もなく周辺国に攻め入り、インド全土を統一するまでひたすら争いを繰り返した戦争狂い(バトルフリーク)だという説があるが」

 

赤いアーチャーが口角を歪ませてあからさまな挑発を口にする。セイバーは意に介さず、バーサーカーが僅かに殺気立つ中、真っ先に応じたのはキャスターであった。

 

「それは真実ではありません。旦那様は戦がお好きではなかった。家族と過ごす時間を愛する方なのに、クル王国の未来のため、鋼の意志で皆の先頭に立って戦い続けたのです。王として、確固たる目的と氷の理性をもって覇道を貫いた真の強者。そのような方を狂人呼ばわりだなんて……不愉快だわ」

 

うわあ、と小さく溢したのは誰だったか。王妃ガーンダーリーの強烈な惚気(マジレス)にアーチャーさえ絶句してしまう。彼女の隣でみかんを咀嚼する男の浅黒い頬がほんの少し色を濃くしたが、さらに隣で「さすがは母上! 全くもってその通りですぞ!」と全面同意する長男がやかましすぎて、誰も気づくことはなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

英霊になると聖杯戦争という小規模な争いに呼ばれることがあるのは知っていた。いざという時に人理を守るため死後も戦うのが俺たちの仕事だが、聖杯という願望器に生前の未練、つまり何らかの願いを叶えて欲しくて分身を戦わせるやつが結構いるらしい。俺は未練なんてないけど、もし呼ばれたらガーンダーリーとの再会を願うと決めてる。

 

今回、縁に引っ張られて現界した俺のマスターは第一印象からハズレだった。

 

そいつはチャラい感じの中近東風の男で、パスから感じる魔力は可もなく不可もなく、俺を十全に動かすには圧倒的に足りてなかった。こちらを値踏みする視線もマイナスだ。俺を見るなり「最優のセイバー」やら「最強の英雄」やら色々言ってたけど、そんなことより俺が気になったのは、召喚陣の前に置かれた銀の髪飾りと、マスター以外から流れ込んでくる酷く馴染む魔力だった。髪飾りは戦争が終わった後に俺が奥さんにプレゼントしたものだ。聖杯の知識によると、本来はハスティナ―プラ国立博物館の所蔵物でインドの国宝。それがどうしてここにある? 魔力の方は、俺の子供たちの気配に少し似ていて胸がざわめいた。

 

「うぬが俺のマスターか」

 

「そうだとも! 盲目覇王を従えることができるなんて夢のようだ。私は」

 

魔術師がぺちゃくちゃ話すのを聞き流しつつ、広い室内を確認する。こういうとき隠されたものまで見る千里眼は便利だ。召喚陣を囲むかたちで置かれた四つの短い柱の中には、魔力が抜けて砂に変わりつつある林檎サイズの結晶が収められていて、俺を召喚した懐かしい魔力はそこから流れてきていた。

 

「この魔力は何だ」

 

凄く嫌な予感がする。男は俺の質問に得意げに答えた。

 

「最高のサーヴァントを召喚するために最高の媒体と魔力を用意したのだよ。髪飾りはちょっとした伝手で拝借した。魔力の方は、クル王族の末裔を魔力結晶の材料にしたんだ。インドはいい。人口大国なだけあって、すぐに必要人数を手配できた」

 

「……クル王族と申したか」

 

「すっかり落ちぶれて、自分がそうであることも知らない下層民ばかりだったがね。これと同じ結晶がまだいくつもある。私のために存分に力を奮ってくれたまえ」

 

…………………………全身が怒りで沸騰しそうだ。

 

この男は、このクソ野郎は、俺とガーンダーリーの子孫を攫い、魔力を搾り取って殺しやがったのか。俺が統一戦争を起こしてまで守った百一人の子供達の末裔を、遥か未来を生きる『孫』たちを!!

 

俺が突き出した右腕の先、黒鉄の大剣の切っ先が十センチほど男の額に沈み、耳障りな囀りが途切れる。

 

正直ぶっ殺してやりたいが、サーヴァントはマスターがいないと現界できない。ああ、くそっ、聖杯を手に入れたい理由ができてしまった。聖杯に願えば犠牲になった『孫』たちを助けられるかもしれない。死者蘇生が無理でも、外道魔術師が他の子たちを狙わないようにできるはずだ。

 

よし、大まかな方針は決まった。あとは動くだけだ。奥さんとの思い出が詰まった髪飾りを大事に懐にしまう。部屋の奥のケースに入っていた魔力結晶は地中深くに隠した。

 

かくして俺は野良サーヴァントになった。幸い、あのクソ野郎は日本で俺を召喚したので、聖杯戦争の舞台である冬木市までは徒歩(マッハ未満)で行けた。

 

電池がわりのクソ野郎は冬木についた頃にはかなり衰弱していた。俺は戦車並みに燃費が悪いからな。電池切れになる前に、冬木に集まっている魔術師から適当なマスターを見繕う必要があった。

 

冷たい雨の中、暗い小径に隠れて手頃な魔術師がいないかを千里眼で探る。何人か見つかったけど、気位が高そうだったり、魔力が足りなかったり、胡散臭かったり、妖怪だったりとイマイチだ。特に妖怪は蟲の集合体でめちゃくちゃキモい。うーん、扱いやすくて魔力量が多い魔術師が偶然通りがかったりしないかなぁ。

 

そんな都合がいいことを考えていると、小径の奥から若い女の子が近づいてきた。一見、普通の女子高生だ。でもサーヴァントである俺には、彼女から滲む魔力の匂いがはっきり感じ取れた。バラモンの一流術師レベルとは言わない。でも神秘が薄れた現代では十分な才能。少なくともクソ野郎よりもずっとマシだった。

 

「よもや魔術師が通りかかるとは、俺の運も捨てたものではないな」

 

自分の幸運を絶賛しつつ、女の子を怖がらせないようにそうっと話しかける。やっべ、先に電池(マスター)を隠すの忘れてた。あああ、ガクブルさせてごめんよ。俺にドゥリーヨダナの1%でも愛想があればよかったんだが、ええい、ままよ!

 

俺なりに交渉しようと話しかけているうちに、女の子の右手に令呪が現れて、いよいよ彼女を引き込むしかなくなった。

 

「娘、このセイバーと契約せよ。さすれば俺が必ずや、うぬに聖杯をもたらそう」

 

お互いにラッキーなことに、女の子こと間桐桜は俺の誘いに乗った。内心ガッツポーズである。さて、正式にパスを結ぶ前にこの電池を捨てる必要があるが、こいつにも何か使い道がないかな。桜は魔術師の家の子みたいだし、彼女の家族が有効活用するか?

 

本降りの雨の中、傘をさす桜の後を影のようについていく。人通りがない小径を抜けて彼女が目指したのは、あの妖怪の家だった。まさかアレの家族だったとは。ちょっと詳しく中を覗いてみるか……

 

キッショ!!!

 

なんだあれ、なんだあれ、地下室いっぱいのち○こ蟲!? 妖怪ことこの家の爺さんの使い魔なのか? まさか桜も蟲ハーフとかクォーター!? いや、よかった、完全に人間だった。でも体内に小さな蟲がウヨウヨいて魔力が目詰まりしてるな。回路に癒着してる蟲をどうにかしないと俺を現界させるので精一杯かもしれない。それじゃあ困る。

 

よっし、この盲目覇王に任せておけ、マスター(暫定)! 妖怪爺さんと交渉して魔力を十全に使えるようにしてやる。手始めに元マスター(予定)を〆て、と。

 

「遅かったの、桜。とんでもない御仁を連れてきおって、流石のわしも驚いた」

 

「お、お爺様……」

 

こんばんは、ビビってるのを必死で隠してる妖怪爺。お邪魔しますアーンド手土産の令呪付きの新鮮な元マスターをやろう。お宅の娘さんに新しいマスターになってもらう代わりに、これを好きにしていいぞ。

 

それに、見ただけで俺の正体がわかったのなら話が早い。ちょっと真面目にOHANASHIしようぜ。俺の交渉力()にショック死するなよ? 

 

「この娘を万全な状態に戻し、本来の潤沢な魔力を俺に献上させよ。さすれば聖杯を勝ち取ってやろう」

 

生前もそうだったが、俺が殺気立つと小動物ぐらいなら即死する。生物としての規格が違いすぎるからだ。蟲爺も例に漏れず、足元がポロポロと崩れて蟲の死骸に変わりはじめてる。悪い顔色がさらに悪くなってるが大丈夫か? 別に今すぐ殺そうってわけじゃない。桜からいらん異物を取り除いて、俺にしっかり魔力を回せるようにして欲しいだけだ。おい、逃げるんじゃねえ!

 

一気に崩れて逃げようとした爺の本体を摘み上げる。他の蟲と変わらないエグい芋虫だ。俺じゃなけりゃ逃げ仰せたかもしれないが、千里眼から逃げられると思うな。あ、やっべ、そろそろ魔力がやばい。そこで固まってる桜、俺と契約してマスターになってよ!

 

「えっ、ど、どうすればいいんでしょう?」

 

「俺の手を取るだけでよい。間桐桜、うぬを我がマスターとして認める。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします、セイバーさん。あの、それがお爺様なんですか?」

 

「うむ。欲しいのか?」

 

「いりませんっ!」

 

かくして俺は野良からマスター付サーヴァントに返り咲いた。爺の本体は、桜の体から蟲がいなくなるまで俺の鉄をも捏ねる親指と人差し指の間でやわやわ揉んでやったら、しんなりして人の形に戻った後もやたら大人しくなった。とはいえ、昏い瞳の奥が人喰い妖怪のままなので、改心したわけじゃないんだろう。俺らに牙を剥くようなら、次はプチッといくだけだ。

 

なお、桜の兄を名乗るうねうねした髪の高校生がビビりながら絡んできたので優しくデコピンしてやったら、二日間気絶した。意外にも俺を叱った桜を、ちょっとだけ奥さんに似てると思ったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

【February 3 / Morning】

 

 

「マスター、起きてくれ」

 

「う……ぅ」

 

「返事もできないか。まるで死体のようだ」

 

「だ、誰が……ただの屍ですって……?」

 

「そんなことは言っていない。意識が戻ったようで何よりだ、マスター」

 

やや高い涼しい声がしつこく話しかけてくる。その煩わしさに恨み言を口にしたバゼットだったが、覚醒が進むなり飛び起きた。うまくバランスが取れなくて横に倒れそうになるが、隣にいた誰かに支えられて持ち直す。一体誰だと目を向けた先では、白金色の髪の子供が大きな黒い弓を抱えて座っていた。床に倒れていたはずが、今は見知らぬ美少年とベッドにいる。状況に反して全く色っぽくない雰囲気で二人は見つめあった。

 

「誰ですか?」

 

「サーヴァント、ライダー。カルナという」

 

十代前半といった年頃の自称大英雄は空色の瞳でバゼットを見据え、平坦な声で続けた。

 

「マスター、片腕を失い失血死寸前の体たらくでよくぞ俺を喚んだ。その往生際の悪さ、とても女とは思えん」(片腕を失って失血死しそうな大怪我だったというのに、その状態でサーヴァントを召喚したマスターは凄いです。貴方は女性ですが、最後まで諦めない姿勢は一流の戦士のそれですね)

 

初対面の子供の言いように絶句したバゼットの右手には、聖杯の気まぐれとしか思えない赤い印が刻まれていた。

 

 

 




後書き

アンケートで需要が確認できた盲目覇王in第五次聖杯戦争の続きです。
少し長くなりましたが、覇王視点のあらすじとカルナ登場まででした。
このカルナは見た目が覇王との初対面の11歳ぐらいです。
ちなみに別の番外で登場したライダーカルナは14歳ぐらいでした。

アサシンまで辿り着けなかったので、次回に持ち越しです。
プロットからして5話じゃとても収まらなさそう……

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。

  • 長兄以外の百王子から見た父王
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  • オリジナル聖杯戦争の盲目覇王
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