盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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番外「盲目覇王in第5次聖杯戦争」7話目

 

【February 7 / Morning】

 

 

間桐家から持ち出した膨大な紙資料の確認は休み要らずのサーヴァントたちによってあっという間に完了した。開始から三時間で飽きたバーサーカーがイリヤスフィールに駄々をこね、宝具を発動して弟妹総動員でことにあたったのだ。霊基を同じくする弟妹達が見知ったことは全てバーサーカーに集約されるため、取りまとめも完璧。さらに大国の王というキャリアは伊達ではなく、驚くべきわかりやすい要約がマスター達に共有されたのだった。

 

前々回まで聖杯戦争に真剣に取り組んでいたらしい間桐臓硯の手記は、第一次から第三次のそれぞれの儀式失敗の説明と考察が充実していた。それにイリヤスフィールが把握している第四次のあらましを照らし合わせることで、おおよその聖杯戦争の歴史を把握することができた。

 

そして休日の今日。衛宮邸の四陣営は朝食とその片付けが終わるなり、全員で作戦会議を行っている。

 

「第四次聖杯戦争直後におきた冬木の大火災。この前後に何かが起きて、アーチャーが受肉したんだと思う」

 

畳のうえに所狭しと資料が並べられた居間で、妖精のような少女が十年前の新聞記事の切り抜きを片手に言う。大火災の唯一の生存者である士郎はその隣で固い表情をしていた。

 

「キャスターが脱落した後にお母さまからアインツベルンへの定期報告が途絶えたの。だから後半戦の詳細はわからないけど……セイバー陣営、つまり切嗣が聖杯戦争の勝者だったなら、大火災の原因に絡んでいるかもしれないわ」

 

「そんなっ、親父は俺を助けてくれたんだぞ!」

 

「切嗣もセイバーも聖杯を使わなかった。アインツベルンはそれが理由で開催周期が短くなったって考えているわ。どうして切嗣は願いを叶えなかったの? もしかして、願いを叶えようとして大火災が起きたんじゃ」

 

「そんなことあるはずがないっ!!」

 

違う違うとかぶりを振る士郎と、膝の上で小さな両手を握り締めるイリヤスフィール。思いつめた様子の二人に、キャスターが柔らかい声をかけた。

 

「マスター、ひとつ提案をよろしいでしょうか」

 

「……ああ、聞かせてほしい」

 

キャスターは座卓の真ん中に広げられた冬木市の地図へと手を伸ばし、冬木中央公園と記された場所を人差し指で示した。

 

「ここが大火災の中心部、恐らく前回聖杯が現れた場所です」

 

「ガーンダーリー」

 

美しい王妃の言葉を遮ったのは、そのすぐ後ろであぐらをかき、彼女を己の左膝に座らせている男であった。盲目覇王は巨大な手で妻の手首をそうっと掴んで地図から遠ざける。白茶色の瞳はいつも通り焦点が合わず、しかし千里眼で件の公園を睨んでいると思われた。

 

「旦那様、どうされましたの?」

 

「公園に近づくことはまかりならん。うぬだけではない、マスター全員だ」

 

「すでにご存知ですのね。ここからでは強く感じ取ることができませんが、あそこは祟り場、忌み地、魔所……そういった類の良くない土地なのでしょう」

 

「凄まじい呪詛と怨念が渦巻く霊地である。民に影響が出ておらんのが不気味なほどだ」

 

セイバーとキャスターが頬を寄せて話す様子に、周りは目を逸らしたり赤くなったり自慢げだったりと反応はそれぞれだ。しかし語られた情報を放っておくこともできず、イリヤスフィールが甘い雰囲気に切り込んだ。

 

「ねえ、キャスターの提案をまだ聞いてないのだけど」

 

「そうでしたわ。私が申し上げたいのは、この場所から伸びる霊脈を調べることで、大火災の真相に近づけるのではということです。十年先まで瘴気を残す何かが霊脈に繋がっているのなら、それこそが大災害の元凶かもしれません」

 

目隠しをした美女が捕まっていない方の手で地図の端、円蔵山を指し示す。セイバーは少し不機嫌そうだ。

 

「ここが忌み地の呪いの源流であり、冬木が聖杯戦争の舞台に選ばれた所以であろう最高の霊地です。さらに言えば、大儀式の要を置くとしたらこの山をおいて他にないでしょう」

 

キャスターが形良い唇に微笑みをのせて断言する。かくしてマハーバーラタの英雄たちは山登りをすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【February 7 / Afternoon】

 

 

円蔵山は冬木市の旧市街である深山町の奥に位置する小さめの山である。中腹に士郎の同級生の実家である柳洞寺があり、大勢の修行僧がいると旅行雑誌で取り上げられたことがきっかけで観光客が散見されるが、山全体で見ると人の出入りがない手付かずの地であった。

 

そんな場所にやってきたのはセイバー、キャスター、バーサーカーの三騎とイリヤスフィール。士郎はいざという時に令呪でキャスターを避難させるため居残りさせられ、桜と慎二は聖杯戦争以外の文献を引き続き確認する役目を与えられ、バゼットとカルナは彼ら三人の護衛として屋敷に残っていた。

 

霊脈の気配を辿って柳洞寺の裏手にでた山登り組は、大きな洞窟の前に辿り着いた。

 

「寺院の裏手にある洞窟。とっても怪しいわね」

 

「長く誰も立ち入っていないようだ。父上、弟たちを先に行かせますか?」

 

「それがよかろう。危険があればすぐに戻せ」

 

「承知いたしました。聞いたかマスター、宝具を開帳するぞー!」

 

「もう、すぐに宝具を使いたがるんだから。いいわよ、やりなさいバーサーカー」

 

柳洞寺までの長い山道をずっと己のサーヴァントに子供抱っこされてきたイリヤスフィールは、この距離感に慣れきっている。人悪の英雄とは良くいったもの。バーサーカーは召喚当初から我儘なお調子者で気位が高い本当に困った男だった。けれどその男と過ごす時間は眩しく、まだ両親と一緒に暮らしていた頃のように楽しい。イリヤスフィールはバーサーカーに甘い自覚があった。

 

薄紫髪の色男の足元から魔力の風が巻き起こり、イリヤスフィールは片手で帽子を押さえて男の肩にしがみつく。

 

「よーく見ておれよ、マスター! これが最強にして最カッコイイわし様の姿! 我が軍の前に敵はナァーシ! 『一から生まれし百王子(ジャイ・カウラヴァ)』!!」

 

クル王国軍の遊撃部隊、最高の機動力を誇る百王子が雄叫びとともに顕現する。馬上の彼らは長兄そっちのけで両親の周りをぐるぐると周り、父王の合図と母の笑顔を受けて洞窟の中へと消えていった。バーサーカーは唖然としていたが、マスターに頬をつつかれると唇をアヒルのように尖らせた。

 

「生意気な弟どもめ……わし様が父上母上と楽しく過ごしているのを妬んでおるな。資料確認の時に私語禁止だったのを根に持ちおって」

 

「ふふ、ドゥリーヨダナ、後であの子達とお話させてくださいね」

 

「夕餉にはドゥフシャラーを呼ぶのだ」

 

「仰せのままに。マスター、弟たちの視界をそちらに繋げるぞ。何やら奥の方に祭壇のようなものが……っ」

 

他の百王子と視覚を共有しているバーサーカーがふいに言葉を途切れさせる。どうしたのだと顔を上げたイリヤスフィールは、次の瞬間、セイバーの腕の中に収まっていた。声をあげる余裕さえなく、己のサーヴァントから遠ざけられる。垣間見たバーサーカーは、その腕や首筋の血管が黒く浮き上がっていた。

 

「バーサーカー!? どうしたの、駄目、駄目よ、パスを切らないで!」

 

「イリヤさん、あれは呪詛です! ああ、ドゥリーヨダナ、なんてこと」

 

セイバーからキャスターへと渡され、柔らかな胸元に抱き寄せられる。バーサーカーの元へ行こうともがくイリヤスフィールだったが、彼女を包んだ細腕はびくともしなかった。

 

「ドゥリーヨダナ、それは令呪でどうにかなるか」

 

「は、はっ、無理ですな……弟たちが一瞬で黒い波のようなものに呑み込まれ、クッソ不味い魔力が流れ込んできております……」

 

洞窟内で百王子が次々と呑まれ、彼らからバーサーカーの霊基へと逆流した呪詛はイリヤスフィールにまでその魔の手を伸ばそうとした。直ちにパスを切ることでマスターを守った狂戦士は、黒く染まりつつある目を彼女へと向け、完全に場違いな明るい笑みを浮かべた。

 

「イリヤスフィーーーールっ!! お前の子守りをするのは悪くなかったぞ! このまま日本で弟と仲良く暮らすがいい。そしてわし様という最格好いい大英雄の勇姿を子々孫々まで語り継ぐのだ!!」

 

「いやよ、ドゥリーヨダナ!! いなくなっちゃ嫌、グスッ、れ、令呪をもって」

 

どうにかサーヴァントを助けようとする少女の全身に令呪の紋様が浮かび上がるが、キャスターの手が優しく頭を撫でた途端、小さな体から力が抜けた。眠りに落とされたイリヤスフィールの眦から涙が溢れる。キャスターは彼女を抱えたまま、夫と共に黒い魔力に侵食されつつある息子へと歩み寄った。

 

「父上、母上、イリヤスフィールをお願いいたします」

 

「任せよ」

 

「悍ましい呪いなどに我が子を渡すものですか! これより呪詛を遮断します。旦那様、その隙にドゥリーヨダナを座に逃してくださいませ」

 

「ああ」

 

「ふ、ふふっ、さすがは母上。父上、後はお任せします」

 

キャスターが目隠しを外して我が子を見つめる。息子と同色の神秘の瞳が白い輝きに塗りつぶされていき、解呪の術をぶつけられたバーサーカーから血液が噴き出すように黒い液体が飛び散った。汚れた魔力はすぐさま体内に戻ろうとする。しかし盲目覇王の一閃が、その侵入を許さぬまま息子の首を断ち切った。

 

バーサーカーがエーテルに解けて消えていく。セイバーは唇を噛み締める妻の背を撫でながら、千里眼を見つめ返してくる悪しき存在への殺意に身を焦がしていた。盲目覇王の逆鱗に触れた者の末路は一つだ。

 

「帰るぞ、ガーンダーリー。戦の準備をせねばならん」

 

「はい、旦那様」

 

連れそう二人と眠る少女の帰り道はこれまでになく寂しく、静かなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

ドゥリーヨダナが脱落してしまった。イリヤは目を覚ましてからずっと泣いていて、奥さんは俺に寄りかかって俯いている。かくいう俺も涙腺の蛇口をしっかり閉じていないと号泣しそうだ。お互いとっくに死んでる影法師とはいえ、子殺しは俺のタブーだ。家族を傷つける俺なんて俺じゃない。今回は息子があの黒い泥に取り込まれるよりはと心を鬼にして剣を奮ったが、もう二度とごめんだぞ!

 

あの後、俺たちは衛宮邸に戻ってみんなに何が起きたかを話した。ドゥリーヨダナは賑やかなムードメーカーだったから、一気に家の中が静かになって全体的に沈んだ空気だ。イリヤがスンスン泣いてるから余計にな。士郎にしがみついて離れないので、夕食は桜が簡単なものを用意してくれた。どんなに悲しくてもマスターたちは何かお腹に入れないといけない。サーヴァント陣は食事なしだけどな。とても食べる気になれん……

 

「その洞窟の中にあるものは何なのでしょう。大英雄クラスのサーヴァントを一瞬で侵食するほどの呪いなんて想像もつきません」

 

バゼットがカルナを気にしながら聞いてくる。カルナは戦士なので状況をちゃんと受け入れているけど、それはそれとしてかなり気落ちしてる。彼女もそれを感じ取ってピッタリ傍についてくれているのだ。

 

「ドゥリーヨダナは奥に祭壇のようなものがあると言っていた」

 

「聖杯戦争の基盤になってる魔法陣か魔道具かもしれないよ。あの山は冬木最大の霊脈なんだろ。だったらそれを利用してサーヴァントの召喚や令呪の付与する仕組みを動かしていて、そいつが不具合を起こしてるってのは有り得るんじゃないか?」

 

ここ二日ぐらいしか聖杯戦争や魔術に触れてないのに鋭い指摘をするなあ。慎二はだいぶ頭がいいみたいだ。千里眼で洞窟の中を見た俺も同じ推測をしてる。奥の天井が高い鍾乳洞に、ドス黒い泥の渦巻きみたいなのがぽっかり浮かんでいたんだ。その中から俺を見つめ返してきた何か。アレが俺たちの敵だ。絶対に殺す。

 

「ヒクッ、ヒグッ、きっと大聖杯よ、どうして汚染なんて……グスッ、私のバーサーカーを返してよぅ」

 

「イリヤ、少し横になったらどうだ? 顔色が悪いぞ。ほら、俺の膝を枕にしていいから」

 

「ブランケットを持ってきますね、先輩」

 

ああ、イリヤがうちの子を大好きだったのが凄く伝わってくる。ドゥリーヨダナは懐に入れた相手を前のめりで可愛がるから、イリヤのことも揶揄いつつ猫可愛がりしてた。見た目が小さい女の子だから尚更可愛く思ったんだろう。娘のラクシュマニーでも思い出したのかな。何にせよ、バーサーカー組はめちゃくちゃ仲良しな主従で付き合いも数ヶ月単位だった。イリヤがあんな風に悲しんでるのも無理はない。

 

「王よ、呪いの大元をどう叩く」

 

カルナの目が戦意で燃えている。うん、俺も同じ気持ちだ。大聖杯だろうがどこぞの神だろうが、必ず滅殺して冬木に現れたことを後悔させてやる。それで願いを叶えられなくなっても構わない。すまんな、魔力結晶にされた子孫たち。俺には息子の仇を討つ方が重要だ。この冷たくて重たい殺意でもって必ず勝つ、そして殺す!

 

「あれが大聖杯ならば破壊する。他の何かであっても同様である」

 

「そうか。決戦にはオレも伴わせてほしい」

 

「旦那様、どうか私もご一緒させてください。私もサーヴァントとして呼ばれた身、少しは力になれるはずですわ」

 

「グスッ、私も行くわよ。大聖杯が汚染されてるならアインツベルンの手でどうにかする。絶対に一緒に行くから!」

 

「イリヤが行くなら俺も行くぞ」

 

「私も行きます」

 

「であれば私も」

 

「俺はやめとく。マスターじゃないし完全に戦力外だ。なあ、桜もやめとけよ」

 

ちょっと待った! ガーンダーリーを戦場に連れてくのは嫌だし、イリヤのことはドゥリーヨダナに頼まれてるから絶対守ると決めてる。桜は俺のマスターなので万が一にも死ぬような場所に連れて行きたくない。奥さんのマスターの士郎も右に同じ。バゼットは戦士だけど正直足手纏いだ。カルナのためにも置いていきたい。どうするよ? 説得できるか? ドゥリーヨダナ、お前の口数と愛嬌をお父さんに分けてくれ!

 

……奥さんのお手手にぎにぎと目隠し越しの上目遣いには勝てなかったよ。駄目じゃん、俺の馬鹿!

 

もう仕方がない。慎二以外の全員が行くっていうなら、アーチャー陣営も引き込むか倒すかしてスッキリさせてから向かうとしよう。大聖杯の中にいるクソ野郎、首を洗って待ってろよ!!

 

 

 




後書き

アンケートで需要が確認できた盲目覇王in第五次聖杯戦争の続きです。
わし様が退場しました。両親は座に戻すつもりだったけど、一旦イリヤの中に入ってます。
聖杯くんにオリハルコン製の死亡フラグが立ちました。
なお、ラストの主人公の語りは完全に空元気です。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。

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