盲目覇王による古代インド統一   作:アマエ

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番外「盲目覇王in第5次聖杯戦争」8話目

 

【February 8 / Afternoon】

 

 

遠坂邸は冬木で知らない者がいない有名建築物である。長崎や神戸の異人館のような風格の、広い庭に囲まれた日本らしからぬ大邸宅。今は女子高生が一人で住んでいるその家を、休日の夕方間際に訪ねる者がいた。

 

「こんにちは、遠坂先輩」

 

「間桐さん、こんにちは。何しにきたのかしら」

 

「そんなに警戒しないでください。聖杯戦争に関する情報共有と、一日だけの同盟のお誘いに来ました」

 

地味なウールコートにワンピース姿の桜は一見いつも通り。大人しげで少し影がある間桐家の令嬢だ。しかし彼女の丸い瞳には強い光が宿っており、俯かず背筋を伸ばして立っている。霊体化した二騎のサーヴァントを近くに感じながら、昔姉妹だった少女たちは少しの間見つめあった。

 

「同盟なんて必要ないでしょう。貴方のセイバーは残りの陣営を従えているも同然。こちらをいつでも叩き潰せると思っているんじゃない?」

 

「昨日バーサーカーが脱落しました」

 

凛の刺々しさを気にする様子もなく、桜が言う。予想だにしない情報は一撃ではなかった。

 

「サーヴァント同士で戦ったんじゃありません。聖杯戦争の仕組みについて調べていたら、大聖杯から溢れた呪われた魔力に侵食されたんです」

 

「……立ち話じゃすまなさそうね。入って。紅茶ぐらい出すわ」

 

「ありがとうございます。お邪魔します」

 

そうして桜は十年以上ぶりに生家に足を踏み入れた。特別な感慨がないと言えば嘘になる。しかし今は、自分の恩人であるセイバーのために行動することで頭がいっぱいであった。無意識に触れた手の甲には二角の令呪が刻まれている。凛が気づいた様子はなかったけれど、じきに何かがおかしいことに気づくだろう。

 

リビングルームの家具の配置は思い出の中と変わらない。懐かしいベルベットのソファに腰を下ろした桜は、家主がティーポットの用意をするのを静かに待った。

 

「貴方の好みがわからなかったから、私が好きな茶葉で淹れたわ。どうぞ」

 

「いただきます」

 

ぎごちなく差し出されたカップに口をつける。これで社交辞令は終わりだ。行儀良くカップをソーサーに戻して顔を上げると、凛も同じように姿勢を正して桜を見ていた。

 

「遠坂先輩は聖杯戦争のメカニズムをご存知ですか?」

 

「さっき貴方が言った大聖杯ってやつ? 初めて聞いたわ。聖杯戦争の儀式的な面には興味ないの。私が参加したのは遠坂家当主としての義務と悲願のためでしかないし」

 

「ふふっ、そうだったんですね」

 

「何がおかしいのよ」

 

「ごめんなさい、おかしいわけじゃなくて、私も願いがあって参加したわけではないので、同じだなって思ったんです」

 

桜の願いはすでに叶えられている。恐ろしい祖父はもうおらず、悍ましい蟲蔵は滅された。あまり折り合いが良くなかった兄とお互いの目を見て話せるようになった。何より、衛宮士郎と同じ屋根の下で暮らしているのだ。たとえ聖杯が手に入ったとしても、桜は願う権利をセイバーに譲るつもりでいる。

 

「順に説明しますね。私たちは間桐家にあった過去四回の聖杯戦争の資料とイリヤさんから聞いたアインツベルンの機密情報を照合して……」

 

つらつらと口にする内容は念話で補足を受けながらのものだ。頭脳明晰な凛は一を聞いて十を知るタイプなので、桜も細かい点を割愛して要点だけを時系列に沿って話していく。途中でアーチャーが実体化して凛の後ろに立ったが、それは警戒や威圧のためではなく、気になった点に質問や指摘をするためだった。

 

「大聖杯の詳しい調査と場合によっては解呪、あるいは破壊のために、今夜三陣営とも柳洞寺に行きます。私は、遠坂先輩とアーチャーにも同行をお願いするために来ました」

 

「ここまでの話が本当だって証明できるのかしら」

 

凛の青い瞳からは何も読めない。同盟に乗り気なのかもわからない。でもそれで構わなかった。生粋の魔術師であるイリヤスフィールでも実力者のバゼットでもなく桜がここに来たのは、たった一人の姉を生存させるためだけでなく、セイバーが提案した試運転のためでもあるのだから。

 

「大聖杯を見ればわかる、としか言えません」

 

「それじゃ話にならないわね」

 

「はい。なので本命の交渉(実力行使)に入りますね。遠坂先輩、私が連れてきたサーヴァントがアーチャーに勝ったら協力してください」

 

口で言って協力を得られないのなら、力を示して従わせればいい。実にセイバーらしい言葉を姉相手に実行しようとしている桜は、自分が別人のように変わってしまったことを自覚した。彼女はもう祖父の影に怯えて縮こまる少女ではない。セイバーが隣にいなくても自分の足で立てるマスターであった。

 

「盲目覇王をぶつけようってわけ?」

 

「いいえ、アーチャーと戦うのは彼です」

 

この言葉を合図に、桜の後ろに立つサーヴァントが霊体化を解く。スポーツカーのアクセルを一気に踏んだように急激に魔力が吸われはじめるが、桜が負担を感じるより先に複数あるパスから膨大な魔力が供給された。高燃費なサーヴァントを満たして有り余る、出鱈目のような魔力供給だ。

 

「この程度、肩慣らしにもならん。手加減必須か」(決戦前の試運転ではありますが、本気でお相手願います。お互い大きな怪我をしないよう気をつけましょう)

 

涼やかな声とともに現れたのは、巌のような覇王ではなく白金色の髪の美青年であった。黒いクルタとドウティという地味な服装に反し黄金の耳飾りと鎧が発する神性の魔力が目に眩しい。彼の空色の瞳がアーチャーを捉え、薄い唇が酷薄な笑みを模った。

 

それは施しの英雄カルナの全盛期の姿。『黒き命の弓(カーラ・ダヌーシュ)』に加えて、本来ライダーのクラスでは失うはずの白槍まで所持する万全の霊基であった。

 

ライダーのステータスを限界突破させた三本のパスは、間桐慎二が古い資料の中から見つけた間桐家の秘技『偽臣の書』の応用だ。令呪を消費することで複数のマスターが一人のサーヴァントに魔力供給するこの術は、通常の聖杯戦争ではけして成り立たない。しかし第五次聖杯戦争においては、英霊たちの関係性とイリヤスフィールという化物級の魔力量を誇るマスターによって劇的な効果を発揮した。今のカルナは、バゼットのサーヴァントでありながら、間桐の魔術師である桜を経由してイリヤスフィールの魔力に満たされているのだ。

 

「……舐めんじゃないわよ、桜。どうやってスーパーカルナにしたかは知らないけど、いいわ、受けて立つ。ただし私とアーチャーが勝ったら、なんでも一つ言うことを聞きなさい!」

 

「いいですよ。ここだとお屋敷が壊れちゃうので、場所を変えましょう」

 

桜が提示したのは冬木市郊外に広がる森だ。アインツベルンの結界に隠された広大なフィールドで、古代インドの戦争の申し子と謎多き赤い弓兵の戦いの幕が切って落とされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

とある転生者のモノローグ

 

 

「ものすごく勿体無いわ! どうして貴方魔術師じゃないのよ!」

 

「うるさいっ、そんなの僕が聞きたいよ!」

 

大きなお子様と小さなお子様がきゃんきゃん言い合っている。慎二は青筋を立てていて、イリヤの方は本当に惜しいと思っているようだ。そりゃそうだよ。俺は魔術のことはさっぱりだけど、慎二が考えついた応用がとんでもないってことはわかる。間桐家の秘術である『偽臣の書』。令呪を一つ消費して他者にサーヴァントのマスター権を預けるというしょっぱい術を、変則的なパスという点だけに注目して、複数人のマスターが一人のサーヴァントに魔力を集中供給するクラスター型の術式に大変身させたのだ。間桐家の魔術なので吸収属性の魔術師が必要だが、桜がいるので無問題。実現させたのはキャスターたる俺の奥さんとイリヤだとはいえ、考えついただけでノーベル魔術学賞ものだと思う。

 

「ライダー、見違えました。素晴らしいボディバランス、極限まで引き絞られた効率的な筋肉、全身に漲る魔力! 手に触れてもいいですか? ああ、この硬い手のひら、槍使いの手ですね。ランサーもこんな感じだったわ」

 

「見苦しい真似はよせ、マスター」(私の手のひらを揉みながら興奮しないでください、マスター。妙齢の女性にあるまじきにやけ面になっています)

 

「やっぱり槍兵はいいですね!」

 

「その目は節穴か」(私は弓兵で御者でもありますよ)

 

カルナと彼が持つ白槍をうっとり見てるバゼットと無表情ながら困っているカルナ。あっちはあっちで一方的にヒートアップしてるな。

 

クラスター式マスター権の試運転のため、バゼットと契約してるカルナに桜とのパスを繋げ、彼女を経由してイリヤの底なしの魔力を注いだら、カルナがミラクルチェンジした。俺と初めて会った頃の姿から、統一戦争終盤の至高の戦士に大変身だ。太陽神の戦車はさすがに復活しなかったけど、うち(クル王家)の国宝の白槍を出せるようになって戦力が大幅にアップした。ステータスだって俺に迫るレベルまで伸びた。なるほど、この霊基はバゼットじゃ干からびる。ライダーは死後にスーリヤ神と一体化した側面が最も強く出てるクラスなんだな。だから普通に呼んだら弱体化した子供の姿なのか。

 

「マスター、体の調子はどうだ」

 

「大丈夫です。ちょっとむずむずしますけど、痛くも苦しくもありません」

 

魔力の中継役である桜にはあんまり影響がないみたいだ。イリヤの方もピンピンしてる。これなら俺がしたいこともどうにかなりそうだ。

 

胸糞悪い呪詛の渦との決戦は、これまでにない難易度だと思う。ドゥリーヨダナをあっと言う間に侵食した黒い泥に飲み込まれたらデッドエンド。それを確実に勝つべくアカシック何ちゃらをつつきまくって、どうにかこうにか捻り出した作戦があるのだ。

 

「今から大量の魔力を消費する。マスター、イリヤスフィール、不調が出たらすぐに申せ」

 

「好きなだけ使っていいわよ、セイバー」

 

「私も大丈夫です」

 

よーし、それじゃあ限定的に宝具を展開だ! 懐かしい戦場と全軍を俯瞰して、目当ての顔を探す。俺の宝具はともに戦った仲間たちがいる心象風景、固有結界『偽典マハーバーラタ』。額面通りだとクル王国軍を呼びだす宝具ってことになるけど、今回は湯水のように魔力を使って拡大解釈してる。しばらくして、俺に呼ばれて子犬みたいに喜ぶ一人とものすごく渋るもう一人をえいやっと釣り上げた。

 

「陛下、何なりとお申し付けください!」

 

「そなた、どうかしておるぞ。わしを戦に引っ張りだすとは」

 

赤い髪に煌めく金眼。額には神秘の宝珠。ちょっと赤みがかった褐色の肌をした彼は、憤怒の化身アシュヴァッターマン。クル王国の治安維持部隊長を務めたバラモン最強の戦士だ。七回目の大遠征でオラオラ系になってしまっても俺に変わらぬ忠誠を誓っていた忠義の男である。

 

もう一人の全然嬉しそうじゃない小汚い爺さんは俺の遺伝子提供者、聖仙ヴィヤーサ。人生で数えるほどしか顔を合わせたことがなかったが、毎回「俺の味方」であってくれた凄いホームレスのおっちゃんだ。悪いな、父ちゃん。俺は屁理屈が得意なんだよ。恨むなら、味方として心象風景の端っこの方にポップしちゃった自分を恨んでくれ。

 

「アシュヴァッターマン、聖仙ヴィヤーサ、我らと共に戦え。我が子ドゥリーヨダナの弔い合戦である」

 

俺の言葉にアシュヴァッターマンから凄まじい怒気が溢れだす。彼はうちの息子の大親友にして左腕(右腕はカルナ)だからこうなるのはわかってた。マスターたちがギョッとしてるけど、大丈夫、こう見えてめちゃくちゃ心根が優しい子なんだぜ。

 

ヴィヤーサは少し考えてから「よかろう」と答えた。どれぐらい俺のことを息子と思ってるかわからんが、孫のドゥリーヨダナに無関心ってことはないだろう。ガーンダーリーが産んだ肉塊を切り分けて壺に入れるように言ったのはこの人だ。まだ子供たちが小さかった頃、その神の目(千里眼の上位互換)でたまに王宮を覗いてたのを知ってるんだぞ。

 

これで役者は揃った。これからアーチャー組の対処をして、夜は再びあの洞窟に行く。聖杯戦争の最終決戦が対大聖杯っていうのはとんだ皮肉だな!

 

 




後書き

アンケートで需要が確認できた盲目覇王in第五次聖杯戦争の続きです。
スーパーカルナは凛の造語であって、原作インド異聞体のあれではありません。
慎二提案のパス改造は、偽臣の書よりも第四次聖杯戦争のランサー組に近いものです。
原作Fateでも知識だけは一人前だったらしいので、本作でも優秀設定。
呼ばれて飛び出たアシュヴァッターマンと引っ張り出された遺伝子提供者で登場人物が出揃いました。

コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!

【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。

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