【February 9 / Morning】
聖杯戦争が終わったあくる朝のこと。
衛宮邸に滞在していたマスターやサーヴァントに貸していた部屋の片づけを行っていた士郎は、セイバーとキャスターがいた部屋の箪笥の上にあったある物を手に首をかしげていた。士郎の目線より高い場所にあったそれは、おそらくセイバーが置いたのだ。天井にぶつかりそうな巨漢が部屋を移動するたびに屈んでいたのを思い出し、少し笑ってしまった。
「シロウ、資料の箱詰め終わったわよ。何かあったの?」
「あ、イリヤ。これキャスターの髪飾りだ。きっと忘れちゃったんだな」
「馬鹿ね、サーヴァントの霊衣は退去したら消えちゃうのよ。あら……?」
「おかしくないか?」
二人して士郎の手にある銀の髪飾りをじっと見つめる。間違いなくキャスターが薄紫の長い髪を留めるのに使っていた、あの髪飾りだ。大輪の花と葉のモチーフに宝石があしらわれた大変美しい逸品である。
「ものすごーく嫌な予感がするわ」
眉を寄せたイリヤスフィールがぱたぱたと離れていく。アインツベルン城から連れてきたホムンクルスのメイドに何やら言っているが、士郎はうーんと唸って、とりあえず片づけを終わらせることにした。
掃除機までかけた後に、髪飾り片手に居間へと戻ってテレビをつける。世界のニュースの時間のようで、彫りが深い顔立ちの男性アナウンサーがやたら立派な博物館のような建物の映像に合わせて話をしている。一ヶ月ほど前にインドの国宝が盗まれたらしい。捜査状況について話すインド政府関係者の次に映し出されたもの。それを見るなり、士郎は適当に持っていた髪飾りを落としそうになった。
「インドの国宝!?」
「シロウ、大変よ! その髪飾り、セイバーが言ってたハスティナ―プラから盗まれた宝だわ!」
「今ニュースに出てる。どうしたらいいんだ、これ」
「……凛とバゼットに相談しましょう。遠坂家なら日本政府、バゼットは時計塔に顔が利くはずよ。どっちかのルートでインド大使館に渡すのがいいわ。大至急かつ穏便にね!」
「そうだな。早くインドに返そう!」
外交問題という単語が脳裏に浮かぶ。士郎はテレビを消すことでそれから目を背け、慎二に電話をすることにした。国宝のあるなしに関わらず、居間の三分の一を占拠している資料入り段ボール箱を引き取ってもらわないといけないのだ。
士郎の指紋がべったりついてしまった髪飾りは、イリヤスフィールが魔術と手作業で念入りに手入れしたうえで、柔らかい布を敷いたクッキー缶に入れられて勉強机の引き出しに隠された。話を聞いた凛とバゼットは頭を抱え、バゼットが魔術協会を通じてインド政府に渡りをつけ、数日後に黒塗りのセダンに乗ったインド大使館一等書記官が衛宮邸を訪れたことで、衛宮姉弟は「クル王国王妃ガーンダーリーの髪飾り」を手放すことができたのだった。
とあるカルデアにて
カルデアには様々な英霊がやってくる。伝説と性別が違っているぐらいは序の口で、並行世界や宇宙の彼方からやってくる者、複合型のサーヴァント、さらには神霊が依り代を介して降臨する等々。北方の女神、魔女、英霊の三人がホムンクルスの少女の依り代に集うシトナイというアルターエゴのサーヴァントも、そんな変わり種の一人であった。
「バーサーカー!」
二つ目の異聞帯を攻略した後に召喚された子供の姿をした英霊。シトナイについてドゥリーヨダナが知っているのはそれぐらいだ。しかし彼女の方は違うらしく、初対面から大変親し気に接してくる。あまりに不可解だったのでダ・ヴィンチに相談したら、聖杯戦争に一緒に呼ばれたことがあったのかもしれない、という曖昧な憶測が返ってきて、そういうものかと納得することにしたのだ。
「ドゥリーヨダナ様と呼べ。わし様に何か用か? シトナイ」
「ドイツの小特異点の攻略パーティーが変更になったの。マスターが全体アーツのアタッカーを連れてきてって」
「他にいくらでも働き手はいるであろう。わし様は日々の周回で疲れておるのだが~?」
「でも……」
凄まじい身長差から、シトナイは真上を仰ぐようにドゥリーヨダナを見上げる。いじらしい様子が、結婚したばかりの頃の妻にも甘えてきた幼い娘にもどこか似ていた。
「ドゥリーヨダナが一番強いから、一緒に来てほしいの」
「ほっほう、お前よくわかっておるな!」
「とっても強くて、(悪)知恵が働いて、優しくて頼りになるドゥリーヨダナにしか頼めないの!」
「よかろう! このクル国王にして稀代の名君ドゥリーヨダナ様が特別に力を貸してやろうではないか。ありがたく思えよ!」
「やったぁ、ありがとう!」
おだてて動かすお約束の手段だとわかっているが、シトナイのような子供に乞われて応えないのは王の名が廃る。彼女の理由不明な好意がむずがゆいとはいえ、ドゥリーヨダナは己に向けられる感情を読み取ることに長けていた。ぴょんぴょんと飛び上がって喜んでいる少女は、心から自分を慕っている。であれば、懐に入れてやってもいいだろうと思ったのだ。
「で、いつ出立するのだ?」
「今からよ。行きましょう、バーサーカー!」
「だーかーらー、ドゥリーヨダナだと言っておろう!」
シトナイのサーヴァントらしからぬ小さな手がドゥリーヨダナの長い指先を掴む。本当は手を繋ぎたかったのだろう。そのまま走りだそうとする少女を、特別大サービスのつもりで片腕に掬い上げてやった。
「きゃ、バー、ドゥリーヨダナ?」
「お前の歩幅に合わせたら日が暮れてしまうわ。それと、人と手を繋ぐ時はしっかり握れ。わし様の偉大さに遠慮してしまうのはわからんでもないがな!」
「……うん」
この日のレイシフトはバーデン・バーデンを舞台にスパリゾートを満喫するというトンチキな小特異点の攻略。水もとい温泉を得た魚のように世界的保養地を満喫したドゥリーヨダナは、帰還間際のギリギリまでマスターと裸の付き合いをし、シトナイとは水着OKなプールで泳ぎまくったのだった。
とある転生者(本体)のモノローグ
英霊の座というのは、時間の経過を感じないようにできている不思議空間だ。俺が死んでここに召し上げられてから早三千年。その間に片手で数えるぐらいグランドセイバーとして出撃し、両手足で数えるぐらいサーヴァント・セイバーとして召喚された。
ビースト相手の戦いは最終的に殴る蹴るの肉弾戦で制したので、一緒に呼ばれたグランド仲間からセイバー?という目で見られてしまった。なんだよ、セイバーが一番まともな霊基なんだぞ! ランサーとアーチャーは丸太を数キロ先まで投げるというネタ宝具持ち。ライダーはカルナが御者として付いてくるけど現界と同時にマスターが干からびる。どっちも嫌だ。
サーヴァントとして呼ばれる時は大抵マスターこと魔術師の武器として戦う。たまに俺を殺しうる敵が現れるから興味深いんだ。まあ、サーヴァントとして出向く『俺』はこんな感慨抱いてないので、千里眼プラス伏兵プラス奇襲の通常運転でガンガン行くんだけどな。この間のアフリカの蠱毒もどきでは最後に気色悪い目をしたアサシンにやられそうになった。直死の魔眼だっけか。まあ、死の線をなぞられるより早く魔眼も頭蓋も砕いて勝ったが!
さて、ついさっき日本の聖杯戦争から戻ってきた『俺』の顛末でも確かめるか…… うおっ、ガーンダーリーがキャスターとして呼ばれてる! 大当たりじゃないか、すごい!! しかもたっぷりお楽しみでしたね! ああ、俺の奥さんが最高に美しくて可愛くてえっちだ…… げふんげふん、この記録は脳の片隅で永遠にループ再生させるとして、ドゥリーヨダナとカルナまでいるなんて、家族のバカンスみたいで最高じゃないか! 最後の呪詛の泥も興味深い。この記録はいいぞ!
ガーンダーリーに会えるならもっと聖杯戦争に出るのもありだな。一緒に呼ばれなくても、聖杯を使って彼女を一時的に呼び出したりできるか? 次回に是非試してみよう。もしマスターがハズレなら、冬木でしたみたいに別の魔術師に乗り換えてもいい。
つらつらと考えてるうちに、俺という存在の端っこの方を引っ張る感覚があって、サーヴァントとしてまたどこかに呼ばれた。今回の呼び声はずいぶん切実だ。もしや人理の危機とか?
いいだろう、力を貸してやるぞ、顔も知らないマスター。お前が俺と奥さんを合わせてくれる大当たりのマスターであることを祈ってるぞ!
後書き
アンケートで需要が確認できた盲目覇王in第五次聖杯戦争の蛇足です。
完結までに入れられなかった細かい点を補足しました。
最初の部分は、プロットに肉付けしたら長くなってあっぷあっぷしてるうちに書き忘れたエピです……
わし様とイリヤの部分はただの妄想、ラストは盲目覇王の本体からみた聖杯戦争やサーヴァント。
この次はバトル系じゃない番外編の予定です。
多分、いくつかの選択肢を掛け合わせた短編になります。
コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!
【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。
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