ドリタラーシュトラ・オルタ→ 番外「2026年版人類史上最強を語るスレ」
ヴリシャセーナ→ 番外「一分でわかる古代インド:ラクシュマニーとヴリシャセーナ」
うっすらカル→←ジナ風味です。
【Day 0: Kurukushetra】
は、と割れた唇が息を吐き出す。呼吸で膨らんだ胸が酷く傷んで、男は意識を取り戻した。
乾き切った眼球が瞬きするだけで軋む。息をするごとに血の味がする喉が引き攣れる。しかしどちらも全身の不具合に比べればどうということはなかった。脳から末端まで神経の伝達が届いていないのだ。内臓がほとんどシャットダウンして心臓さえ止まりかけ。『彼』を構成する数式が乱れに乱れ、数字があちこち散らばっていた。
あたりは静けさと死臭に満たされている。世界の数式は安定を欠いていて、ところどころ辻褄が合わない。他に生き物の気配がしないのは周りに死体しかないからだ。男は己が戦場に横たわっていることにやっと気づいた。
「戦があったのか」
男、ヴリシャセーナは何もかもがおかしいことを認めざるを得なかった。
ヴリシャセーナは英霊の写身だ。
「ああ、なるほど……」
徐々に全身を満たしていく魔力はひどく覚えがある。ラインを模る数式が体の外ではなく中につながっている。つまり、受肉して自力で魔力を賄っている。
どうしてこんな怪我をしているのか。なぜ戦場に倒れているのか。どういった経緯で生前の自分の中に呼び出されたのか。
あらゆる疑問を数値化して記録していく中で、ヴリシャセーナを突き動かしたものはたった一つ。彼が生前、自分という数式に組み込んだ
血だらけ泥だらけの体がみるみる整っていく。数字と記号があるべき位置にはまって最適の合理性を見出すと、肺まで達していた袈裟懸けの切り傷がなくなり、腹に突き立っていた数本の矢も掻き消えた。最後にほとんど砕け散っていた鎧が復元される。養父のそれを模したであろう金色の鎧は覚えがないはずなのに、妙に体に馴染んでいた。
ヴリシャセーナはゆっくりと体を起こし、腐臭漂う戦場を見渡した。何度も王都ハスティナープラとアンガ領都チャンパーを行き来して通ったクルクシェートラの平原は見る影もない。世界を数字として見ていなければ、ここがどこなのかわからなかっただろう。
血と臓物の泥濘を歩いているうちに見知った顔をいくつも見かけた。義理の叔父たちである百王子の凄惨な死体を見つけた時は弔うべきか迷ったが、彼らの姪である妻の安否を確かめることを優先して目を逸らした。
クルクシェートラの大戦の終戦から一日。悲しみと混乱に沈むハスティナープラでさらなる惨劇が繰り広げられていることなど露知らず。かつて妖精として生まれ人として死んだ男は、愛しい妻を求めて王都を目指した。
【Day 20: Chaldea】
ドゥリーヨダナは久しぶりの周回以外のレイシフトに割と浮き足立っていた。行き先が現代とはいえ旧アンガ領、さらに同行メンバーにカルナがいるのだから、気分は上々。朝食をともにしたアシュヴァッターマンやブリーフィング前に言葉を交わした父王に、浮かれすぎて油断しないよう注意されたほどであった。
「ドゥリーヨダナがメインアタッカー、ボス戦とフォーリナーが出てきた時はカルナにスイッチで。ガネーシャさん、マーリン、オベロンは適宜サポートを。マシュは今回同行しないけどナビゲータをしてくれる。質問がなければ、今から出発します!」
歴戦のマスターである藤丸立香と今回高い適性があったアタッカー二名を中心としたサーヴァントらによる小特異点の攻略が今回のミッションだ。聖杯の気配は極薄く、もしかすると欠片しかないかもしれないという程度。異聞帯どころか、たまによく起きるハプニングよりも難易度は低いと想定されている。
「現代のアンガが気になるのではないか、カルナ」
「ああ、楽しみだ、とても楽しみだ」
戦闘以外であまり動かないカルナの表情が藤丸も見たことがないような笑顔になっている。それでも満面の、といった風ではないのだが、いつもの口角を上げるだけの微笑未満ではなかった。しかも太陽神の血の影響か、わずかに後光がさしている。
「先輩、カルナさんが光っています!」
「うわあ、こういうことあるんだ」
「行き先がアンガだってわかった時から、ずーっとあんな感じっス。朝からウッキウキでボクもう目が潰れそう」
カルナと大変親しいガネーシャが「ニートには眩しすぎるぅ」と両目を手で覆っている。両耳が少し赤いのは、見慣れない笑顔にやられているのかもしれない。藤丸は内心おやおや〜と思いつつ、特に指摘はしなかった。
上機嫌の大英雄二人のおかげでいつになく明るい雰囲気のレイシフトになりそうだ。この時は呑気にそんなことを考えていた。
【Day 20: Anga】
インドへのレイシフトは落下から始まり、藤丸はドゥリーヨダナにしがみつきながら「やっぱりこうなっちゃうんだ〜!?」と叫んだ。さらに現代インドに飛んだはずなのに、目下にビル一つない。あるのは手付かずの自然と点々とした集落らしきものだけだ。その風景にとても嫌な予感がする。少し離れたところで落下しているカルナも、出発前とは打って変わって真顔だ。ガネーシャのふくふくした腹に両手を回して彼女を捕まえていなければ、さらに緊迫した印象だっただろう。
「胡散臭い人外二人がおらんぞ、マスター」
「言い方! うーん、見える範囲にいないだけなのかな」
雲ひとつない空を落下しているのは四人だけ。マーリンが魔術で飛んだりオベロンが飛行したとしても、マスターを見つけたら寄ってくるだろう。つまり二人とは逸れたか、そもそものレイシフトから弾かれた可能性があった。
「これ着地どうすんの!? マスターに無敵かける!?」
「待て、ガネーシャ神。スキルは」
「わし様にかけてくれ! カルナ、マスターをパース!」
「わひゃあッ!?」
襟首を掴まれて投げられた藤丸がカルナの方へと飛んでいく。カルナはガネーシャを右腕に座らせるように抱え直し、藤丸を開いた左手でキャッチした。
「ドゥリーヨダナさん、ヴィナーヤカ!!」
「ふっはは、ご苦労! では下で待っておるぞ! カルナ、あとは任せた!」
ガネーシャのスキルが発動するなり、人悪の英雄は棍棒を取り出し、ダイビングするように頭を下にして急降下していった。ひと足さきに着地して安全を確保するのだろう。
「うひぃ、あの人落ちるの怖くないんスか?」
「お前(のスキル)に守られているのに何を恐れる必要がある?」
「そうだけどそうじゃなくてねっ」
青い顔をしているガネーシャをよそに、カルナは抱えた二人を焼かないよう加減した魔力放出で減速しながら高度を下げていく。その気になればジェット機のように空を飛べる男だが、生身のマスターと荒事に慣れない大事な仲間のために自重したようだった。
やがて大きな川の近くに着地した彼らはドゥリーヨダナに迎えられた。戦闘した様子はなく、あたりに敵性存在はいなさそうだ。
「ここは現代ではないが、アンガ領都チャンパーに近い場所ではある。レイシフト先の時代だけズレたようだぞ、マスター」
「ちょっと待ってね、カルデアに通信…… うわ、ノイズが強くて繋がらない」
「えっ、それってマズイんじゃ?」
「大丈夫。これまでも似たようなことがあったけど、あっち側からも働きかけてるはずだから、いずれ繋がるよ。マーリンとオベロンは近くにいなさそうだし、俺たちだけで調査を始めよう。あの二人もきてるなら絶対合流してくる」
藤丸とガネーシャが話す傍らで、ドゥリーヨダナとカルナも見知った地形を見回していた。
「チャンパーから二十里といったところか。カルナ、この時代は我らの前か後か、どちらだと思う?」
「無意味な問いだ」(長く国を治めていた義兄上にわからないのなら、私もお手上げです。しかし治水事業や水田の開拓の痕跡がないので、私たちの時代ではないでしょう)
「では民に聞き込みするしかないな。マスター、それでよいか?」
「うん、そうしよう。わし様、一番近い人里ってわかる?」
「空から見えたのはあっちの方角だ。一時間もかからんと思う」
「やった、近いね!」
「い、一時間……」
「ガネーシャ神、陸に上がったトドのようだが大丈夫か?」(ガネーシャ神、普段あまり歩かない貴方が慣れない場所で一時間も歩けるか心配です。よければ私が抱えて行きましょうか?)
「カルナさん、言いたいことがピコも伝わってないっス!」
圧倒的言葉たらず!と半眼で睨む依代を、カルナが再び子供抱っこして歩きだす。上擦った抗議の声など聞こえていないようだ。藤丸とドゥリーヨダナは顔を見合わせ、物知り顔で頷いてから元アンガ領主の後に続いたのだった。
【Day 20: Dwaraka】
西インドの海岸沿いに広がるヤドゥ国の王都ドゥヴァーラカー。パーンダヴァの従兄弟にしてヴィシュヌ神の化身であるクリシュナが築いた都は、大火に包まれ崩れ堕ちようとしていた。
「ラクシュマニー、しっかり捕まって」
「ああ、ああ、ヴリシャセーナ、なんて素敵な夢なんでしょう。私、私……ッ」
薄緑の髪に白い肌という珍しい色合いを外套と目深のフードに隠したヴリシャセーナは、横抱きにした女が己に強く縋りつくなり、全速力で駆け出した。インドア派とはいえ、カルナが存命の間はよく一緒に鍛錬していたので人並み以上に鍛えられている。さらに、召喚されて以来使っているこの体は生前の全盛期より強い戦士の肉体だった。戦場に倒れていたのだから、当然かもしれない。
あの日、戦場で目覚めたヴリシャセーナは妻を求めてハスティナープラへと向かった。王都にたどり着いたのは真夜中だったが、燃え盛る都市に照らされた辺りは日中のように明るかった。
逃げ惑う人々を無視して駆け込んだ王宮で、信じられない光景を目にした。破壊された数式と散らばった数字。それらが模るのは見知った者たちの残骸だ。玉座の間に転がるパーンダヴァの双子の体の部位と室内の惨状から、激しい戦いがあったことがわかる。問題は誰と誰が戦っていたのか。ここに来るまでに得た断片的な情報で、この時代はドリタラーシュトラがクル国王であることを知った。であれば、世界最強の戦士と戦ってこれだけの被害を出した敵がいたということになる。もし他のパーンダヴァも居合わせていたのなら、ドリタラーシュトラのみならず彼らまで双子の遺体を放置してこの場を去る羽目になったということだ。
火の手が回った王宮で魔術を駆使して探し回ってもラクシュマニーは見つからなかった。最初に確認した彼女の私室は記憶にあるものと異なっており、家具などの配置だけでなく、部屋の主の印象が全く違ったのだ。いくつか見覚えがある小物が置かれていなければ、彼女の部屋だとわからなかっただろう。
結局、ラクシュマニーも彼女の祖父母や両親も見つけられなかった。王宮には死体しか残っていなかったのだ。
次の日、まだ火が燻る王都で情報収集を行ない、ヴリシャセーナはやっと自分が呼ばれたこの世界のことを理解した。カウラヴァとパーンダヴァが敵対し、諸国を巻き込んだ大戦争を起こした世界。何の冗談かと思ったが、ドリタラーシュトラが覇を唱えず大遠征が行われなかった分岐の果てなのだと視点を変えれば、どうにか歪な数字の羅列として理解することができた。
その後、ラクシュマニーがクンターラではなくヤドゥ国の王クリシュナの息子サンバに誘拐され、そのまま娶られたという話を聞いてからの記憶はない。気がついたら、魔力がほぼ枯渇した酷い有様で、燃え盛るドゥヴァーラカーの近くに立っていた。
ヤドゥ国の王都はハスティナープラと同じような惨状で、王宮内はさらに酷かった。謎の襲撃者とクリシュナたちの戦いがまだ続いていたのだ。ヴリシャセーナは断末魔と破壊音が響いている方に近づかず、逃げ惑う使用人を捕まえて魔術で情報を抜き取ることを繰り返した。そうしてたどり着いた王子妃の部屋で、変わり果てた愛する人を見つけたのだった。
「みんな死んでしまったわ。貴方もお父様もカルナ様もお兄様も、あんなにいた叔父様たちも、みんなパーンダヴァに殺されたの。お母様は、お父様の後を追ったのですって」
ラクシュマニーの恐ろしい囁きはこの世界で起きた出来事だ。悪夢のような世界のヴリシャセーナは戦場で死に、英霊ヴリシャセーナはその体の中に召喚されたが、死者の記憶も思いも引き継がなかった。
「お祖父様とお祖母様はご無事かしら。ハスティナープラが焼けてしまったというのは本当なの?」
「本当だ。でも王宮に陛下たちはいなかった。死体がなかったから生きていると思う」
「……そう。ご苦労をされていなければいいのだけれど」
ラクシュマニーはそれだけ呟いて薄紫の頭を自分を抱く男の胸元に寄せた。俯いた視線は少しだけ膨らんだ腹に向けられている。ヴリシャセーナはどう返せばいいのかわからず、結局、駆ける足を止めないまま両腕に力を込めた。とっくに解いたはずの愛の計算式から抜け落ちた記号が、彼にしか聞こえない冷たい音を立ててどこかへと転がっていった。
後書き
原典マハバから分岐した世界での短いイベントになります。
全体的に暗い話の予定。トンチキなのはヴリシャセーナの数字数式フィルタぐらい。
カルデアからの登場人物はマスター+3人だけの予定(多分、通信で話したりはします)
連続で更新できるかわからないですがGW中までに完結させたいところ。
6〜7話編成で構成練ってます。
なお、配布鯖なしのこのイベントは、ヴリシャセーナが⭐︎3キャスター、ドリタラーシュトラ・オルタが⭐︎5アベンジャーで新キャラピックアップされてる設定。
他のマハバ組にレイシフト適性がなかったのはみんな行き先でまだ生きているからです。
コメント、ブクマ等大変嬉しいです!ありがとうございます!
【2026.2.28まで】 本シリーズについて、今後の更新の需要確認にご協力願います。ここにないネタの希望はメッセージ(コメント欄は不可)でアンケート〆まで受け付けます。パロ・Ifの分岐ルート・番外の続き等、何でもOKですが、レーティングはR15まで(R18は不可)、キャラ死亡はパロかIFのみでお願いします。 ★重要★あくまで需要の確認です。必ず書くとお約束できないことをご了承願います。
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第4次聖杯戦争の盲目覇王
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第5次聖杯戦争の盲目覇王
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