レンズ越しの君へ   作:怖いか?令和の時代のゆゆゆ二次が……

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神世紀300年。
この世の全てを掌握した大赦が年の瀬に放ったひと言は、四国中の人々を配信へと駆り立てた。

大赦「俺の税金か?欲しけりゃくれてやる……。探せ!国庫の全てをそこに置いてきた……」

世はまさに、大配信時代!
その動画サイトの名はShinTube‼︎


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 今から約二年前。

 幼馴染みの姉妹の両親が事故で死んだ。

 

 泣き虫だった妹が見たこともないぐらい泣いていたのを覚えている。

 陽気で気の良い姉が唇を噛んで涙を堪えていたのを覚えている。

 ちょっとした擦り傷をこさえたらぐずっていた妹が、それ以降一度も泣いていないことを知っている。

 妹を守るために妹が甘えられる母であろうとして、自分の少女としての時間を犠牲にし始めた姉を知っている。

 

 力になりたくて、二人の悲しみをどうにかしたくて、何もできなかった無力感を覚えている。

 

 あの日から今日まで。

 それを忘れたことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の子が一番美しくなる瞬間はなんだと思う? 

 俺は眼鏡をかけたときだと思ってる。

 レンズ越しの瞳とかグッとくるし似合ってる眼鏡をかけてる女の子を見ると素敵だなって感じる。

 ファッションセンスなんて言うようにコーディネートは服を中心に語られがちだけどちょっと待って欲しい。

 一般的に常時同じものを付けがちな眼鏡の方がどう考えてもセンスにおける比重が高いと思うのだ。

 これからは眼鏡センスと称して全人類眼鏡をかけるべき。

 最近はフレームのバリエーションを増えてきてカタログを見るだけで楽しい。レンズの形を加工するのは斬新な発想だったな。あれのおかげで眼鏡に更なる奥行きが生まれたのは間違いない。

 それに眼鏡はその形によって色んな属性を持っている。厚底瓶の底のような眼鏡は言うに及ばず、スリムなフレームは知的に見えるしプラスチックフレームは活発、奇抜な形のフレームはそれだけで「おお、この人は一味違う」と思わせる材料になる。眼鏡は人によってさまざまな変化を見せるポテンシャルを持っていることは明白なのである。

 つまり何が言いたいかっていうと。

 

「風、眼鏡かけない?」

 

「い・や・だ」

 

 幼馴染みが眼鏡をかけてくれない。

 

「ほんっとしつこいわね!」

 

 俺の幼馴染みであるところの犬吠埼風は、心底嫌そうに仏頂面を浮かべた。

 ふん。全く、どうやら分かっていないようだ。

 

「はあ……風。いいか? よく聞いてくれ」

 

「何回頼んでも嫌って言ってるでしょうが。あんたも諦めないわね……」

 

「風は眼鏡をかけてれば美少女だ」

 

「しばくわよあんた」

 

「ここに風に似合うと思って家から持ってきた眼鏡が十種類ある」

 

「制服から十個も眼鏡が出てくるのアタシじゃなかったらドン引きして逃げてるの自覚ある?」

 

「風は暖色系の色、それも黄色に近い色を選ぶ傾向がある。実際それも色素の薄い髪色とマッチして似合ってるけど、俺は風に似合う眼鏡はこのコバルトブルーのボストン型眼鏡だと思うんだ。青と緑って色の親戚で、風の綺麗な翡翠の瞳と調和する色合いでな。それにコレは軽量化も兼ねて全体的にスリムなデザインになってて、活動的な風の事も考えて煩わしさを極限まで減らすように工夫を凝らして作った逸品だ」

 

「勝手に人の眼鏡を発注して作ってるの幼馴染みのアタシじゃなかったら気持ち悪くて通報するから絶対他の人にやらないでよ」

 

「風は毎日料理をするからレンズには曇り防止加工も入れてみたよ。流行りのブルーライトカットも入れてあるから疲れ目になりやすい神世紀のネット生活でも安心安全。お風呂でもつけられるぜ! だから」

 

「一緒にお風呂入ろうって言ったらグーね」

 

「……今年の夏は眼鏡をかけてプールに行こう! 海でもいいぞ!」

 

「眼鏡はかけないけど今年もまた遊びに行くのはいいわよ。樹ぃ〜、聞こえてたー?」

 

 倒れない程度に背もたれに体重をかけた風が間延びした声で振り返る。

 俺たちから少し離れた作業机でタロット占いをしていた、幼馴染みで風の妹である犬吠埼樹は苦笑を零す。

 

「うん、聞こえてたよお姉ちゃん。分かった。今年の夏もオトくんと海だね!」

 

 顔を上げて、ぐっと小さく拳を作る樹ちゃん。

 可愛い。

 

「天使か」

 

「天使よ。目に入れても痛くない美少女だわ!」

 

「ああ。国宝級……いや神樹様級の眼鏡美少女だ」

 

「樹、オトが発情してるからその眼鏡取りなさい」

 

「発情はしてねえよ! 樹ちゃん眼鏡取らないでぇ!」

 

「あ、あはは……取らないよ、もう。せっかくオトくんにもらった眼鏡だし」

 

 そう言ってワインレッドのゆったりしたウェンリトン型のプラスチックフレームを指先でなぞる。

 風と同じ色素の薄い短めの髪に隠れるようにして、しかしその存在を確かに感じられる鮮烈な緋の眼鏡が『俺はここにいるぞ!』と言わんばかりに光を反射した気がした。

 

 あっっっっっっっ。

 今の結構ぐっときた。眼鏡のフレームを指先でなぞる女の子いいよね。

 

「見たか、あれが風にないものだ」

 

「樹が比類なき美少女なのは認めざるを得ないけど。オトが言うのどうせ眼鏡でしょ?」

 

「優しさだ」

 

「よし、しばく!」

 

「あちょっ、待ってお前見た目によらず結構力強っ、アーっ!? 指がこめかみにめり込むっ!?」

 

「アタシの女子力を見せたるわー!」

 

「お、お姉ちゃん! オトくんが死んじゃうから!?」

 

 樹天使の懇願で女子力(アイアンクロー)から解放された俺はお茶を啜って一息ついた。

 

 あー、まだくっそ痛えな……風のやつまた腕力が上がってやがる……。

 お、男して俺の立つ背がない。

 俺も筋トレとかやってるんだけどな……何食ったらそうなるんだよ。やっぱりうどんか? うどんなのか? 一回の食事でうどん三玉は余裕で食うからか? 

 

 俺がさらに開いた幼馴染みとの筋力差に軽くショックを受けていると、樹ちゃんが空気を変えるように話題を出した。

 

「でも、相変わらず予定決めるの早いよねオトくん。昨日入学式やったばかりなのにもう夏の予定を決めちゃうんだもん」

 

「俺は誰よりも速い男だからな。予定を決めるのも速い」

 

「見なさい樹。あれが誕生日が四月二日ってだけでそれをアイデンティティにした男よ」

 

「兄に素直になれない眼鏡妹……もちろんアリだ!」

 

「今さらっとアタシを妹枠に入れた上に眼鏡属性盛ったわね!? アタシとあんたは正真正銘血が繋がってないでしょうが!」

 

「よく考えてみてくれ風。俺と風は生まれたときからだいたい一緒……ほぼ双子みたいに育ってきた。俺の誕生日が四月二日。風の誕生日が五月一日。誕生に一日も差がない双子ですら兄弟姉妹の概念があるんだ、一月の差がある俺が兄で風が妹でも何もおかしくはないだろう?」

 

「言われてみれば……いや力技の理屈にも程ってもんがあるでしょ」

 

 惜しい。

 

「まあ冗談だ。ところで今度はこの山吹色のプラスチックフレームの眼鏡なんだが」

 

「樹、そろそろ帰ろっか。明日から勇者部だしね」

 

「待って!! せめて一瞬! 一瞬でもいいから!!」

 

「い・や・よ」

 

 いつもの事と言えばいつもの事だが、俺の懇願は見事にスルーされ風は讃州中学映像部の部室を去っていた。

 

 ばっさりである。一刀両断である。取り付く島もないのである。

 樹ちゃんの「お姉ちゃんも複雑なんだと思います」ってフォローが少しだけ心を癒してくれた。いやこれフォローか? 

 俺はただ眼鏡をかけて欲しいだけだというのに……! 

 女心はよく分からない。

 

「……あ、もうこんな時間か」

 

 ふと時計を見てみれば短針が五を指そうとしていた。

 完全下校時間までまだまだ時間がある。

 風と樹ちゃんもう帰ったし、そろそろ始めるか。

 

 樹ちゃんがタロット占いをしていた作業机を床を擦りながら動かして、生徒会から捨てる奴を譲り受けたソファーの前にカメラとパソコンをセッティングしてと。

 そうそう、忘れずに部室の鍵も閉めとかないとな。こんなところ万が一誰かに見られたら男の子の心が死んでしまう。

 なら家でやれ? いやほら、お母さんとかいるし……。

 

 そうこうしてるうちに準備も完了。

 俺は準備も速い。

 ん、んっと咳払いを一つ。

 喉の調子よーし。

 マイクのミュートを解除して俺は元気よく声を出した。

 

 

 

 

 

『やっほー! めがねる〜ん!! 眼鏡系Vtuberの音見咲だよー! (裏声)』

 

 

 

 

 

 パソコンに移る薄い色素の長髪の眼鏡美少女。

 レンズの奥に覗く翡翠の瞳が溌剌とした印象を与える大きな目に行儀良く収まっている。

 稲穂のような薄黄色の髪に映えるシルバーフレームのシャープな眼鏡があまりにも素敵だ。

 俺が両手を振ると眼鏡美少女も手を振る。まるで鏡合わせのようだ。

 だがもちろんこの眼鏡美少女は俺の容姿ではない。

 

『いつもの時間よりちょっと早いけど定期配信始めちゃいたいと思います! そう、アタシは誰よりも速い女! (裏声)』

 

 神世紀三百年。

 人を殺し尽くす致死性のウイルスによって、人間が生きる事を許された土地は神樹様に守られた四国のみとなった。

 そんな四国で今空前のブームを巻き起こしているのが、動画配信サイトShinTubeで様々な動画を投稿して人を楽しませるShinTuberという職業である。

 その中でも所謂自キャラを作成し、そのキャラになりきって配信をする人たちのことをバーチャルシンチューバー、通称Vtuberと呼ぶ。

 

『眼鏡が可愛い? ありがとう〜! はい、初めましての人もめがねる〜ん! 今日は何するのって? ふっふっふ……今日は今香川で最もホットな【一時間RTA】に挑戦していきたいと思いまーす! 応援よろしくね! (裏声)』

 

 俺は風に隠していることがある。

 

 犬吠埼風の幼馴染み岬緒登は、Vtuber音見咲である。

 

 人気急上昇中のVtuberを上げれば十本の指には入り、自惚れではなくこの界隈ではそこそこの知名度を持っている。

 

『大丈夫大丈夫……何故ならアタシは誰よりも速いから! アタシのためのブームだと言っても過言ではないのだ! (裏声)』

 

 俺が音見咲だと風にバレるわけにはいかない。

 幼馴染みがバ美肉使って美少女やってるって言えるわけがない。

 というかそれ以前に男がバ美肉使って配信やってるとか知られたら社会的に死ぬ。

 クラスどころか讃州中学全体、下手したら香川中、いや四国中に「讃州中学の岬ってやつバ美肉で配信やってたんだって、ぷっ」とかいう噂広まったらうっかり自殺を考えるレベル。

 

 考えても見て欲しい。

 

『わー、大日本帝国万歳さんスパチャありがとうございます〜! めがねる〜ん! (裏声)』

 

 これ俺である。

 俺である。

 俺なのである。

 

 猛特訓の末獲得したミックスボイスできゃぴっきゃぴに「めがねる〜ん!」って言ってるの俺なんだよ。

 

 一度ネットに上がったものを完璧に抹消する事は事実上不可能だ。

 つまりこの動画は半永久的にネットに残り続け、それは半永久的に俺の人生に『音見咲』の影がついて回る事を意味する。

 残りの中学生活はもちろん、高校生になっても大学生になっても社会人になってもだ。

 俺のリアルの写真とセットで音見咲の動画が出回ったが最後、待っているのは地獄という表現すら生温い生き地獄。

 

 それに。

 

 薄い色素の長髪。

 活発な印象を与える大きな目に、吸い込まれそうな翡翠の瞳。

 全体的に黄色を多く使ったコーディネート。

 

 音見咲の外見は『誰かに』酷似している。

 狙ってそうなったわけではない。

 動画配信をする決意をして『俺が思う一番綺麗な女の子』をイメージして作った音見咲は、気がつけばどっかの誰かにそっくりで。

 ある理由から収益化に必死だった当時の俺がそれを理解したのは、もう動画を随分と投稿してしまった後だった。

 

 だからこそ。

 俺が美少女Vtuberをやっている事は誰にもバレてはいけないのだ!! 

 

 ……とはいえ。

 一番バレたくないというか、音見咲の存在すら知られたくない風は幸いなことに動画配信自体にさしたる興味はないご様子。

 学校のメンツにバレるのももちろん困るが、俺と一番関係が深い風にバレないのならそうそう気付く奴もいないだろう。

 

 勝ったなガハハ! RTAしてくる! 

 

 

 

 

 

 ──そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

「オト、動画配信をしたいんだけど」

 

「ぶふぉおッ!!?」

 

 翌日。

 風からのメールで勇者部の部室に呼び出された俺に告げられたのは、勇者部の新しい活動『勇者部配信』のお手伝いの依頼で。

 

「ちょ、大丈夫オト!?」

 

「だ、大丈夫大丈夫……いや待ってくれ、え?」

 

「何でそんなに動揺してるか分かんないんだけど……もう一度説明するわね?」

 

 ニヤリと、楽しげに笑う風の顔が『音見咲』と重なって見えたような気がした。

 

「元々は学校側からの案件だったんだけどね。勇者部からの依頼って形で映像部に動画配信のお手伝いをお願いする事になったわ。学校のPRも兼ねてるから拒否権ないわよ〜。というわけで……よろしくね? オト」

 

 勇者部の動画配信を手伝いつつ、俺が美少女Vtuberだという事をバレないよう配信活動をする。

 そんな日々の幕開けだった。

 

 

 

 

 

「オトに任せっきりにも出来ないしね。アタシも先駆者がどんな動画を作ってるのか調べようかな」

 

「待てッ!! 風! 早まるなッ!!?」

 

「うわびっくりした。どうしたのよオト、今日は本当におかしいわよ……?」

 

「おおおおおお俺は至って平常だが? そんなことより風、今日は眼鏡を忘れたみたいだな、これを使うといい」

 

「今日も昨日ももちろん明日も眼鏡はかけないからその眼鏡はしまいなさい」

 

「明日はわかんないだろ! とにかくだ、動画のことは俺に任せろ。風が劇の時に描いてる脚本みたいなのをくれたらこっちで調整するから。だから何もしなくていい。何もしないでください」

 

「あ、そういえば東郷からお勧めのVtuberリストが送られてきてたわね」

 

「東郷ぉぉおおおおおッ!!!」

 

「ねえオト、Vtuberってなに?」

 

「東郷ぉぉおおおおおッ!!!」




勘のいい方はお気付きかもしれませんが……。

実は、前書きは作品の内容とは1割くらいしか関係ありません。
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