レンズ越しの君へ   作:怖いか?令和の時代のゆゆゆ二次が……

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 風を加えて軽く一悶着第二ステージをやったあと、俺と犬吠埼姉妹が幼馴染みであることに結城さんが驚く一幕を挟んで。

 俺たちは樹ちゃんの入れてくれたお茶を飲みながら、本来の用事である『勇者部配信』について話していた。

 

「詳しく聞けてなかったんだけど、配信つっても具体的に何やるつもりなんだ? 学校紹介?」

 

「それもあるけど、基本的には勇者部の活動を配信していく形になるわね。だから名前が『勇者部配信』なわけ」

 

 それで学校の宣伝になんのかよ。

 と一瞬思ったが、勇者部の活動は平たく言えば人を助けるということに終始する。

 今でも勇者部の名前は良い意味で周辺地域に知られてはいるが、『こんな良い人たちがいる学校』と広く知られるという意味では確かに讃州中学のイメージアップに一役買ってくれるだろう。

 

 ……加減をミスったらえらいことになりそうな気もするが。

 誰かが誰かを助けている所を撮影したものに心ない言葉がぶつけられることもある。

 まあ、その辺の調整は俺の役目だろう。

 念のためにNGワード設定はしておくか。

 

「風先輩、私たちはいつも通りに勇者部をやってると良いんですか?」

 

「ん〜、基本的にはそうなんだけど、そういうわけでもないのよね」

 

「先輩が来る前に見てた動画を思い出して、友奈ちゃん。動画配信には視聴者への反応が大事な場合が多いの」

 

「コメントでお話ししてたやつとかかな?」

 

「そうね。視聴者とのコミュニケーションは配信の特徴的な要素ね。でもそれだけじゃなくて、配信という環境にあった企画の考案や個性を出していくのも重要なの。そうね……例えば『めがっ」

 

「そこから先は俺が説明しよう!!!」

 

 今めちゃくちゃな不穏な単語が聞こえかけたぞ!? 

 東郷お前狙ってやってないか!? 

 え? 

 動画見てたっぽい事といい狙ってやってるのか? 

 え? え? え? 

 バレてる? 

 え? 

 

 いや落ち着け、冷静に、そうクールになれ俺。

 音見咲はありがたいことにそこそこ知名度のあるVtuberだ。

 東郷が俺とは関係なく音見咲を知っていてもおかしくはない。

 ……あいつ去年、配信者は興味ないって言ってなかったか? 

 

「まあとにかくだ。ShinTubeで動画を配信していくに当たって考えることはいくつかある。まず第一なのは『見てもらうための企画力』だな。ぶっちゃけ魅力のない動画は誰も見ない。『勇者部配信』を広報、宣伝の一環としてやっていくなら最低でも話題作り……フックが必要だ」

 

 しかしこれがなかなか難しい。

 多くの人に目に止まり、なおかつそれを見てみようと思うようなパワーを持った動画がポンポン作れたら苦労しないってもんだ。

 そう考えると、サムネっていう最も見られる可能性の高い場所にパワーのある情報を詰め込むのも、環境に適応していった結果なんだろうな。

 

「つまり見てて楽しい、そういう動画を作っていくんだね!」

 

 おお。結城さんは飲み込みが早いな。

 

「む、難しそうです……!」

 

「ああ、めちゃくちゃ難しい。だが既にクリアしてる課題とも言える」

 

「えっ……?」

 

 ふっ。

 樹ちゃん、君は既にその答えを掴んでるんだぜ。

 

 くいっくいっ。

 眉間の間を人差し指で擦るジェスチャー。

 それで樹ちゃんは「あっ!」と得心がいったようだ。

 

「眼鏡だねオトくん! ……眼鏡……?」

 

「そうっ! 眼鏡ッッッ!! いいか? アイドルがアイドルたり得るのは美しいからだ! 美しいものは美しいだけで『見る価値あるモノ』になる! 美しかったら水飲んでても歩いてても本読んでてもそれは『見ていたいモノ』になるんだ! そしてこの世で最も美しいもの……それは眼鏡をかけた女の子に他ならない!!!」

 

 これが案外バカにならない。

 美っていうのは、古今東西、人を惹きつけてやまないパワーがある。

 注目されるだけならそれだけでクリアしてしまえるのだ。

 

「だから……風」

 

「嫌」

 

「バカな! 動画を成功させたくないのか……!?」

 

「眼鏡の有無が関係するわけないでしょーが! もっと真面目にやんなさい!」

 

「いえ風先輩。確かに先輩の言うことも一理あると思います。何故ならこの界隈には眼鏡系V──」

 

「分かった!! 一旦これは置いておこう!!!」

 

「諦めはしないんだね」

 

「それがオトくんですから」

 

 東郷ぉおおおお!! 

 お前どっちなんだ!? マジでどっちなんだ!? 

 表情を読め、あの顔は……くそ! すげえ美人ってこと以外分からねえ! 眼鏡かけてくれ! 

 

「まあともかく、だ。一番最初の鬼門とも言える人の目に触れるって問題は現在の勇者部の知名度である程度カバーできる。勇者部がこの一年で多くの人たちの力になって来てた、その行いの報いだ。SNSも使えばそれなりに広まるだろう」

 

「うう、私は偶にしかお手伝いできてなかったので肩身が狭いです……」

 

「なーに言ってんのよ樹。休みのときに手伝ってくれたりしたでしょ。樹も立派な勇者部なんだから、胸張っときなさい」

 

 風の言葉に、結城さんも東郷もうんうんと頷いている。

 そもそもつい先月まで小学生をやっていた樹ちゃんが気にすることでもないしな。

 

「風、直近の勇者部の活動は?」

 

「小さな依頼が幾つかと……大きいのは再来週の幼稚園での人形劇ね」

 

「ああ、だから映画借りに部室来たのか。うーん……じゃあ、取り敢えず自己紹介動画だけでも撮っておくか?自己紹介だけなら学校のPCで直ぐに編集して仕上げられるし」

 

「え、アタシはドカンと一発派手なのからやると思ってたわ。最初が肝心って聞いてたし」

 

「それは一理あるな。でも今現在の勇者部のイメージを考えたら最初は手堅く勇者部のありのままを見せていく方が強いと思う。むしろウケを狙って転ぶ方が怖い」

 

 多くの人への広報のために、今の勇者部を好ましく思う人を裏切るのは違うし。

 それに、それは俺も嫌だ。

 

「だから最初はありのままで行こう。いつもの勇者部……それにちょこッとカメラが加わるだけだ。撮影と編集は俺がバッチリやってみんなに確認してもらう感じで。それでいいか?」

 

 みんなを見渡す。

 勇者部の四人中三人は俺のことを知っているからか、問題ない、と首肯。

 唯一初対面だった結城さんも、元気よく「よろしくお願いしまーす!」と任せてくれた。

 

 さてさて。

 いよいよ本格的に始まるわけだが。

 幼馴染みの姉妹も、友達以上友達未満の奇妙な後輩も、とても優しい女の子もいる。

 ……風が配信界隈に近づく事で音見咲がバレるのは非常に困るが。

 そういうのを抜きにして、そんな勇者部の良いところをいっぱい配信できるように俺も頑張らないとな。

 

 パンっと太腿を手で叩いて、俺は気合を入れ直した。

 

「ところで風、この眼鏡なんだがこれは最近流行の透明なサングラスから発想を得て作ったもので、眼鏡の外観を整えていても機能としてはサングラスとして使えるようになっててな、カメラがどうしても気になるならこれをかける事で──」

 

「しつこい」

 

 

 

 

 それから数日。

 

 ふう……。

 Vtuberとして自分の配信を終えた俺はカメラを切って配信を止めて、深く椅子に沈み込む。

 リクライニングチェアが軋んだ音を立てた。

 

 そのまま半ば日課になっている、流行りの把握のための動画漁りを始める。

 動画だけでなくSNSや様々なネット記事にまでアンテナを貼ってるので、何かが流行と見るや即乗るぐらいのフットワークの軽さはある。

 そうやって動画を見ていると、おすすめ動画の一覧、その中でも人気急上昇中とカテゴライズされた一群に目を引く動画を見つけた。

 それはつい昨日撮影した……。

 

「いやー、埋もれないとは思ってたけどまさかここまで伸びるとはな『勇者部配信』……」

 

 眼鏡かけてないのに……。

 最初視聴者が十三人しかいなかった音見咲とはえらい違いだ。

 眼鏡かけてないのに……。

 撮るとき風がえらい緊張してて笑ったなあ。

 

 そういえば、伸びや不適切なコメント対応のためにコメントの推移は確認していたが、自分の配信もありアップした動画をもう一度見直すことは出来てなかった。

 コメントを見てみるとやたらと『先輩』というワードが出てくる。まあ東郷あれだったしな……。東郷をオチに使った俺の采配は功を奏したらしい。

 

 俺が撮って俺が編集してるので中身は勝手知ったるものだが、伸びてるそれを見るとなんとなく感慨深くなってその動画を再生した。

 

 場所は勇者部の部室。そこに四人の女の子たちが並んでいる。

 

 

『……なんかタイミング掴めないわね』

 

『お、お姉ちゃん! もう始まってるよ!』

 

『えっ嘘!? ちょっとここカットしてよね!? あ、あーこほん。初めましての方もご存知の方もこんにちは! アタシたち讃州中学勇者部は、すったもんだあって動画配信を始めます! 勇者部の活動や讃州中学の良いところをガンガン配信していくから、見てくれると嬉しいわ! ……次なんだっけ?』

 

『自己紹介! 自己紹介です風先輩!』

 

『そうだった! ありがとね友奈。おっほん。アタシは勇者部部長の犬吠埼風よ! 特技とか好きなものは色々あるんだけど、せっかく配信をやるんだし動画の中で見せて行くとするわ。うどんによって高められたアタシの女子力を楽しみにしておいて! ……はい、次、樹よ』

 

『あ、えっと、わ、私は……勇者部部員の犬吠埼……樹といいます! 一年です! お姉ちゃんの妹で……あっ、お姉ちゃんって言うのは私の前に自己紹介をした方で、えっと、今はまだ小さいですけど、お姉ちゃんは背が高いから私だって、おっきくなれるって信じてます! 女子力……も、まだこれから……です!』

 

『樹ちゃん……? なんで私を見てるのかしら……?』

 

『あと、好物は天ぷらうどんで……それと、お姉ちゃんが作ってくれるオムライスが大好きです! 毎日のお弁当も、他にもお姉ちゃんが作ってくれるものはみんな大好きで……! 私のためにいっぱいいっぱい美味しい料理を作ってくれる……そんなお姉ちゃんが私は大好きです!』

 

『樹ぃ……樹ぃ〜〜!!』

 

『それから……それから……あっ、特技はタロット占いです! 結構当たるって評判です! ……えっと、次は友奈さんです!』

 

『うん! 私は讃州中学勇者部二年、結城友奈って言います! お花が好きで趣味は押し花なんですけど、キノコとか海藻とかの珍しい押し花も『勇者部配信』で見てもらえたらいいなーって思います! 押し花の作り方とかも動画にできるなら、みんなで好きなお花で押し花とか作れたらいいなあ。あとあと! 好きな食べ物はうどんです! どのうどんかって言うと……うーん、迷うな〜。でもでも、毎日違う味のうどんが食べられたらとっても幸せです! そして、うどんと同じくらい好きなものは東郷さんが作ってくれる和菓子です! 東郷さんは和菓子作りの天才で──』

 

『ふふ、友奈ちゃん。とっても嬉しいけれど私が紹介することがなくなってしまうわ』

 

『あっ!』

 

『ふふふ。じゃあ、次は私ね友奈ちゃん。んっんっ。讃州中学二年、勇者部所属、東郷美森と申します。僭越ながら、この場を借りて自己紹介をさせて頂きます。私は常日頃から国防の精神を尊び……え? 長くなるからやめろですって? 先輩! お国を護る日の本の──』

 

『東郷、それ長い奴?』

 

『風先輩まで!? 国防は一昼夜語り明かしても時間が足りないほどの──!』

 

『いいから今は自分の事にしてちょうだい。尺たんないから』

 

『──むぅ。こほん。そうね……趣味は……先程友奈ちゃんが紹介してくれたお菓子作りです。といっても和菓子に限ったことで、西洋菓子は友奈ちゃんにお願いされた時しか作りません。料理も得意です。あ、でも洋食は友奈ちゃんにお願いされた時しか作りません。友奈ちゃんは私の大親友で──』

 

『ん? え、なに? 長くなるからもう終わり? ……まあ、そうね……。はい東郷、もう終わり終わり。続きは後でアタシが聞いたげるから。うおっほん! メンバーはこの四人よ! アタシたちが配信する『勇者部配信』をよろしくね!』

 

 

 そして、手を振る勇者部の三人と不満げに頰を膨らませた東郷で動画は終わる。

 

 ……いやあ、改めて見てもぐっだぐだ、だな……。

 

 多少編集は入っているものの、大元は台本なしの一発撮りだ。

 当たり前といえば当たり前で動画の完成度としては減点を喰らってもおかしくはない出来映え。

 

「でも、これが一番"らしい"んだよな」

 

 勇者部メンバーの魅力を伝えるにはこれが一番だと思った。

 俺の感覚の成否は、動画の伸びが如実に物語っていた。

 

 さて、『勇者部配信』のスタートダッシュは実に好調と言えるだろう。

 正直この伸びは想定外だったが、注目度っていう最初の鬼門を突破したんだ、これからはそれを維持して行く段階だ。

 これから忙しくなるぞ。

 

 早いうちに次の企画を練るか──。

 

 

 

 

 

『そういえば、一つ伝え忘れていたことがありました』

 

 

 

 

 

 そこで俺は慌てて動画を止めた。

 

「なんだこれ!?」

 

 衝撃。驚愕。動揺。

 あり得ない。あり得ないことが今俺の目の前で起こっていた。

 

 終わりのはずの動画に、東郷が映っていた。

 

 東郷眼鏡かけてるじゃねえか! やっぱこいつあり得ないぐらい顔が良いな! 

 

 いやちげえ! 違う違う! 待て待て待て待て待て! 

 どういうことだ……? 

 場所は恐らく勇者部。車椅子に座った東郷を、恐らく机の上に置かれたハンドカメラが撮っている。

 東郷の他には誰も見当たらない。

 おかしい。

 俺はこんな映像を知らない──! 

 

『実は私、もう一つ趣味があるんです』

 

 そして、画面の中の東郷は。

 俺が渡した眼鏡をかけた東郷は。

 

『私、Vtuberとかよく見るんですよ、先輩』

 

 ゾッとするような美しい微笑みを浮かべて、そう言った。

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