愛され気質な逸般人の異世界奮闘記   作:Mat0Yashi_81

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 哀れな青年は、異世界に転生した。





序章:開演は虚無の手によって
1-1:転生


 

 

 

 ───俺は

 

 輪廻転生だとか、人の魂だとか、幽霊だとか・・・

 そんな与太話を信じる人間ではなかった。

 あくまでひとつのネタとして考え、宗教なんて意味のないものを信じる頭のおかしい人たちとは違った思考回路で生きてきた。

 むしろ、俺が暮らしていた国ならそれが普通だったはずだ。

 

「・・・・・」

 

 しかし、現実はどうだろう。

 

「ごほっ・・・ごほっ・・・」

 

 病気で死んだはずの俺は、どこかもわからない空の下で血だらけになっている。

 

「────」

 

 そして、遠くから微かに聞こえる叫び声が、今の俺が置かれている状況が───命に関わるほどに、非常に宜しくないモノであるということを伝えてくれる。

 

「ああ、くそったれ・・・」

 

 仮に───もし、これが本当に世間で言われていた『転生』だというのなら。

 

 ・・・随分と、絶望的すぎやしないだろうか。

 

 

 

 

 

 ─────── 一節:物語のはじまり

 

 

 

 

 

 先ず、俺はひとつの違和感を覚えた。

 この悪臭漂う地獄絵図の最中において、俺の思考がひどく冷静になれているということに。

 

「二、四、六、七」

 

 辺りに散らばる死体の、おおよその数。

 いつの事だか忘れてしまったが、こんな話を聞いたことがある。

 ニュース番組の報道の際に時折言われる、全身を強く打った状態で───だとか、性別不明の状態で発見だとか。

 そういった言葉には、オブラートに包んでいない真の意味があるのだと。

 

「・・・頭を踏みつけたような痕跡がある。

 これって本当にやったりするものなのか」

 

 例えば、前者なら身体の原型を留めていないという意味だったり、後者であれば性別がわからないほど死体が損傷している、という意味だったりするらしい。

 

「・・・・・」

 

 俺が、現在進行形で見ている状況。

 今まさに、俺の周りに散らばった死体の数々は、もし現代で発見されたのなら───恐らくは、そうして報道されることだろう。

 

「じっとしてるわけにも・・・いかないか」

 

 向こうから聞こえる叫び声が、一体なにが原因であったとしても、今この状況で、俺がそこに向かわない理由はない。

 俺は、血だらけになっている衣服の重みを感じながら、ゆっくりとその場で立ち上がる。

 

「があああっ!」

 

 ─────叫び声。

 いや、断末魔と表現した方が正しいだろうか。

 男の野太い声が、それも喉に液体が絡んだようなくぐもった音が、俺の耳に届いた。

 

 ・・・非常に嫌な予感がする。

 

 否、べつに嫌な予感そのものは地獄絵図の中で目が覚めた時点で感じていたのだが、今度はそれよりもっと直接的な、自分の命に直結するような寒気がした。

 まるで蛇に睨まれた蛙が感じるような、足がすくむ感覚。

 恐らくは既に捕捉されている。誰かも分からない、猟奇的な趣味を持っていそうな殺人鬼に。

 

「・・・・・」

 

 しかし、理由はわからないが、俺の体は不思議と恐怖を感じていなかった。

 というより、本能的な恐怖のようなものはあったのだが、肝心の感情的な恐怖───それこそ、頭の中がしっちゃかめっちゃかになったりだとか、この場から今すぐに逃げ出したくなったりとか。

 そんな衝動は一切なく、ただ、足はすくんだままで冷静に思考を巡らせることができる。

 

「───おい、貴様」

 

 だがしかし、どうやら向こうは俺に考える猶予をくれないらしい。

 瞬間移動だかなんだか知らないが、いきなり俺の後ろに現れた男は、その威圧感たっぷりの声で話しかけてくる。

 

「この手で殺してやっただろう。

 何故ここに立っている?」

 

 俺にはきっと、そのまま振り返らず、全速力で走って逃げるという選択肢もあったかもしれない。

 大方、そんなことをしたら得体の知れない力で首を飛ばされたりするのだろうが───ともかく、話をしてみなければと思った俺は、黙ってその男の方を向いた。

 

「・・・答えんか、まあいい。

 それに妙な能力まで使いよって」

 

 もしかしたら、俺の感じている時間と男の感じている時間軸が違うのではないか。

 そう感じるほどに早すぎる判断をした男は、俺の首を片手でガッと掴み、空中に掲げる。

 

 ───死ぬ。

 

 本能がそう判断した時には既に手遅れだった。

 ギリギリと締まる手が首を、喉を圧迫し、うまく言葉を発することができない。

 呼吸すら、できない。

 

「・・・・・」

 

 正直な話、今の状況に相対した俺の脳みその処理能力は、既に限界を迎えている。

 死んだと思えば意識があり、周りの様相は地獄絵図そのもの。

 その上、音のする方向を確認してみれば何者かが謀ったかのようなタイミングで殺され、その何者かを殺した何者かに俺は殺されかけている。

 ・・・というか、このままでは普通に殺される。

 

「・・・・・っあ───」

 

 とは言っても、これといった解決策が出てくるほどの知識があるわけではなく。

 かといって、俺は一度死んだ身でもあるため、とくに絶望するということもなく。

 なんだか妙な悟り方を開きそうになりながら、俺は二回目の死を迎えようとしていた。

 すると、次の瞬間─────

 

「く゛え゛っ」

 

 首が解放されたかと思えば、俺は腹のど真ん中を強く蹴られ、そのまま後方に吹っ飛んでいく。

 

「い゛っ・・・・・~~~ッ!?」

 

 打撃と摩擦のお陰でもう声が出ないほどに痛いが、命を落とさなかっただけマシだと思うことにして、俺を吹っ飛ばした男の方を見る。

 酸素不足で思考が上手く回らないが、状況から判断するに───あそこで両手に剣を持ち、あの男と切り結んでいる少女こそが、いまさっき奴に向けて何らかの攻撃を行ったのだと思う。

 だから奴はそれを避けるため、俺をここまで蹴り飛ばした、と。

 

「痛・・・」

 

 さて、どうすべきか・・・と頭を回そうとしたその時、おかしな頭痛が俺を襲った。

 衝撃による鈍痛や、偏頭痛っぽい側頭部の痛みなどの単純なものではなく、もっと脳の中心というか、確実に届かない場所が痛いという感覚が。

 

「なんだ───」

 

 瞬間、俺の脳内を存在しないはずの記憶が大量に駆け巡る。

 例えるなら、自分ではない誰かの人生を反芻しているかのような、それほど大量の記憶と知識が俺の脳内に流れ込んできた。

 

『自己証明』

 

『固有武器』

 

『魔法』

 

『戦闘』

 

『状況』

 

『死因』

 

 そして、それらの記憶が───俺の、今からすべきことを頭に叩き込んできた。

 

「は・・・まーじか」

 

 とどのつまり、俺の今するべきこと。

 それは、あの(殺人鬼)を殺すこと。

 

「冗談だろ・・・」

 

 口ではそう言いつつも、頭の中はカオスが極まり、攻撃の仕方とかいう物騒なもの(思考)がぐるぐると回り続けている。

 だがしかし、ようやくこの突飛すぎる状況にも慣れかけてきたというのもまた事実。

 いつもの調子に戻るためにも、今は深く考えず、流れに身を任せて行動をするべきだ。

 

千変万化(せんぺんばんか)───」

 

 この身体の本来の持ち主の記憶の中から、この世界における各個人が持っている武装───『固有武器』とやらを取り出す。

 俺が名前を呼び、右の手のひらを掲げると、()()はなんの前触れもなく空中にぱっと出現した。

 一見すると、それはどす黒い結晶の一欠片にしか見えない。

 

(スピア)

 

 しかし、ひとたび武器の形状を思い浮かべ、その武器の名前を口にすれば───それは、確実な意志を持って俺の言葉と思考に従い、イメージ通りの形に変化していく。

 その様子はまさしく、俺のような一般人が想像するようなファンタジー世界の代物と言って差し支えない。

 

身体強化・瞬発特化(ストレングス)

 

 短くそう唱え、俺は槍を逆手に持つ。

 記憶と本能の赴くままに発動した『魔法』により、俺の腕の力は何倍にも跳ね上がった。

 そして、俺は槍をぎゅっと握りこみ、流れるような動作で、かつ力をめいっぱいに込めて───

 

「ぉ・・・らあっ!」

 

 あの男(殺人鬼)に向かって投擲した。

 

「っふー・・・」

 

 もし、この身体の本来の持ち主が、学んだことをすぐに忘れてしまうような阿呆であれば、俺はここで詰み───もしくは、あそこで戦ってくれている少女を見捨てて全力逃走する他なかっただろう。

 

「はー・・・・・」

 

 呼吸を整え、自然体に。

 結論から言えば、俺の攻撃は成功した。

 俺の投擲した槍は、凄まじい速度で殺人鬼の意識外から腹部のど真ん中をぶち抜き、遠方からでも目視で確認できるくらい大きな風穴を開けることができた。

 

「・・・・・」

 

 ・・・風穴を、開けることができた。

 ああ、そうだ。

 俺はこの瞬間、人を()()()のだ。

 状況から見るに、奴は子供をはじめとした一般人を惨殺しているが、それは殺人の免罪符になることはない。

 いくらか残酷になれたところで、俺はただの人間だ。

 相手がどんな屑であれ、罪悪感から逃れることはできない。

 

「───イア! 起きてっ! 目を・・・・・」

 

 人を殺した。

 その事実に動揺しきっていたことにより、完全に()()()()に行ってしまっていた俺に向かって───何度も何度も、この身体の名前を呼びかけてきていた少女の存在に気がつくのに、俺は十秒と少しを要した。

 

「───ああ」

 

 瞬間、立ち眩みのような感覚が俺の体を襲う。

 辛うじて目の前の少女の言葉には反応できたが、突発的に発生した目眩と重度の倦怠感には抗うことができなかった。

 

「・・・ぁ」

 

 気絶。

 一言で言うなら、確実にそうだった。

 何が原因かは分からないが、この身体は何かの拍子に意識を保つことすら難しくなり、俺の精神も暗闇の中へ消えていく。

 

 

 

「─────」

 

 

 

 ・・・とても、不思議な感覚だった。

 まるで熟睡して目が覚めた時のような、そんな時間の感覚。

 まったく寝ていない、気がついたら朝になっていたと───俺が前世で嫌というほど経験してきた現象が今、まさにここで起こった。

 

「・・・は?」

 

 そして、目を覚ました俺の口からは、疑問符のついた声がひとつ零れ出た。

 この意識が存在する空間が、俺の目の前に広がる空間が───果たして俺の見ている夢なのか、はたまた現実のものなのか解らない。

 

「嘘だろ」

 

 そう口にしたのも、俺からしてみれば当然のはずだった。

 なぜなら、ここは俺が暮らしていた家の、俺の部屋だからだ。

 否、俺の部屋だった場所・・・と表現すべきだろうか。

 今の俺が座っている場所も、紛れもない───俺が布団の乾燥を怠けたせいで、万年床と化した小上がりの上の布団。

 目の前にあるのは、文字通りに死ぬほど酷使し続けたパソコン。

 その奥には、整理がされず、もはや本棚の意味を成していない棚がひとつ。

 そして、少し左に首を回してみれば、ある時から全く使わなくなった勉強机がぽつんと佇んでいる。

 

「いったい、何が起きて・・・?」

 

 例えこれが、何者かが意図して創り出した空間だとしても。

 生前の、それも俺が病院に入院する前の状態の部屋を見て、それが俺の記憶の中から忠実に再現されたものであると、心のどこかで理解はしていたとしても。

 

 ・・・動揺するなと言うには、少しばかりの無理があった。

 

 

 









 注意点として、この作品は「内省・倫理葛藤多め、爽快無双少なめ、リアリティ追求のスロー長編」として進行する作品です。
 もし、この空気感が「合う」と感じていただけましたら、お気に入り登録や評価、コメントで応援していただけると、更新の大きな励みになります。


 また、文中に登場する記号の意味についても説明を置いておきます。
 どこを参考にしたかは失念してしまいましたが、内容は以下の通りです。

 〇 ← 作中で時間が空いた時や、場面転換の際に使っています。

 ▽ ← 視点が変わった時に使っています。一人称から三人称、文中で視点が変わった際など。
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