愛され気質な逸般人の異世界奮闘記   作:Mat0Yashi_81

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 彼女は彼に、何を見た?





1-7:少女は新たな彼を見据えて

 

 

 

 前世の話だが。

 俺は、わりと朝に弱く───それこそ休日は夜十時に寝たのにも関わらず、昼の十二時に起きることなんてザラだった。

 その長時間睡眠を代償としてかは知らないが、身長が190センチくらいあったりしたものの、俺からしてみれば一生活かすことはできない無用の長物。

 事実、十七年間の人生のうちで、その身長を活かすことができたという実績は存在しないに等しい。

 言ってしまえば、それが俺の「身の丈に合わないものは身につけない主義」に繋がったとも言える。

 

「・・・・・」

 

 それで、ここまで自分語りをした俺は、果たして何が言いたいのかという話だ。

 

「六時半・・・」

 

 前世と全く同じ時刻が使われているであろうことはさておき、先程話したような人生を送ってきたわけだから、自分の思う通りに起きることができたなら、それ相応に嬉しい気持ちになる。

 そして、前世では正直な話微妙だった───あのクソデカ高身長でもないわけで、思っていたより体が軽い。

 モテはしないわ体が重いわで、せいぜい腰が高いおかげで服装を気にかける必要が無いという、ガチでちっぽけなメリットしかなかった俺の身長が無くなったのだ。

 そのうえ、今度はハチャメチャな美顔で、身長も低く体重も軽い。

 何より、行き過ぎた高身長なら一度は考える夢が叶ったのだ。

 

「〜〜〜っ!!!」

 

 ベッドから降り、思いっきり伸びをしても、手は天井に届かない。

 はっきり言って、大は小を兼ねるなんてとんでもない考えだと思う。

 世の中にはむしろ、大きいほうが使いにくいものだってあるものだ。

 だから俺は今、猛烈に感動している。

 それと同時に、これからを非常に楽しみにしている。

 

 果たして、この便利な身体で───これからいったい、どんな経験ができるのだろうかと。

 

 

 

 〇 〇 〇

 

 

 

 起床して二十分ほど経過したころ、俺はベッドに腰掛け、ナギが持ってきてくれた『魔道具入門書』という本を読んでいる。

 内容は挿絵付きのわかりやすいもので、俺自身はとくに魔道具を作ろうとは考えていないものの───これから活動していく上では必要なものなのだろうと考え、とりあえず知識として頭の中に入れている。

 ちなみに、ニアはベッドの上でお姉さん座りをしつつ俺を抱きながら、一緒に本を読んでいる。

 

「なあニア」

「どうかしましたか、マスター」

「俺がさ、チョーカーとか付けたら・・・似合うかな」

「デザインにもよりますが、少なくとも私は肯定します」

 

 チョーカーに通信魔法を仕込んだら便利だろうな、なんて思ったりしたのだが、既製品で存在していそうだし、自作は面倒くさそう。

 因みに、この本を読んでいる限りでは、魔道具制作はプログラミングのようなものだと解釈できる。

 そして生憎、俺はプログラミングが大の苦手だ。

 当時は何を説明されてもちんぷんかんぷんで、得意だった情報系の勉強では唯一頭が痛くなった項目だったと記憶している。

 

「じゃあ、とりあえずはファッションでっ・・・・・付けよっかなあ」

 

 ひと段落したところで、俺は本を置いて伸びをする。

 ニアは抱くものが無くなったので、ぽすんとベッドに身体を預けつつ、ぼけーっと天井を見つめ始めた。

 

「そろそろ着替えるか・・・」

 

 何もかもが面倒くさくなった時みたいな状態のニアはよそに、俺は畳んで置いておいた着替えに手を伸ばす。

 すると、図ったかのようなタイミングで近づいてきた足音が、スっとこの部屋の前で止まり・・・

 コンコンコンと三回、扉を叩いた。

 

「・・・んあ、今行きまーす」

 

 無意味だとわかっていてもやりがちな反応をしつつ、俺は扉の取っ手を掴み、くいっと回して扉を押す。

 思っていたより重かった扉に苦戦しつつも、両手で開けることに成功した俺は、目の前に立っている人物に驚いた。

 

「おはよう。グレイア」

 

 扉を開けた先に居たのは、特徴的なエルフ耳と猫耳が共存した少女───ティアだった。

 

「・・・ああ、おはよう」

 

 てっきり何かの伝言をしに来た誰かさんだと思っていたため、俺はきょとんとしながら挨拶を返した。

 その様子があまりにも間抜けだったのか、それとも他の要因があるのかは知らないが、彼女はクスクスと笑いながら口を開く。

 

「ふふ・・・君ならそろそろ起きる時間だと思って」

「・・・把握してるのか」

 

 かなり驚いたが、それはそれとして。

 部屋の中にティアを入れて扉を閉めた俺は、その場にすとんと座りながら質問をする。

 

「それで、どんな用事でここへ?」

 

 何かの伝言かと思えば違うようだし、とくに理由もなく来たのだろうか。

 

「そう。理由もなく来た」

 

 俺の思考を読み取ったかのように、彼女はそう答えた。

 先日、あのクッソ気まずい空間の中でニアの自己証明が「視覚と聴覚を遮断している間は対象の感情を見ることができる」というものだと知ったが、これは同じタイプの自己証明か。

 

「ううん、私の場合は・・・何かを犠牲にすることじゃなくて、()()()()()()()()が能力の対価」

「なら、俺の思考を読んだってのは・・・・・」

「合ってる。驚いた?」

 

 それはもう、驚くだろう。

 驚くと同時に、なんだか親しみすら感じる。

 能力といえばこういうの・・・ってカンジだ。

 ・・・なんてお気楽に考えていることも、彼女には筒抜けなのだろうな。

 

「そりゃあもう、随分と」

「そう。

 じゃあ、君は自分を担当してる神様とは話したことがある?」

「ああ、まあ」

 

 話の動きがよく分からない。

 何を意図しているのか不明だが、隠したところで利益はないので正直に話す。

 

「器がどうのこうのとか、自己証明が云々だとか・・・・・色々なことを言われたが、ぶっちゃけ全部は覚えてない。

 というか、覚えてられるわけがない」

 

 現状、俺は自分の能力すら満足に把握できていない。

 この世界はステータスがわざわざ目の前に現れてくれるほど優しい世界ではないようだし、その辺は地道に把握していくしかないが・・・

 

「何より、俺は人との繋がりが欲しい。

 どんな状況においても例外なく、優先すべき事柄だ」

「じゃあ、ここで私が君の仲間になりたいって言ったら?」

「・・・歓迎と感謝を述べる。

 生憎と、俺は自分の意思で動いたときに限って運がない。

 だから、そっちから近づいて来てくれるのは嬉しいんだよ」

 

 かつての俺が、人間関係で能動的に動いた結果に得られたものは()()という、考えうる限りでは最悪の代物だった。

 俺の不幸も、あの人の不幸も・・・・・全て「運が足りなかった」の一言で片付けられたんだったか。

 くそったれめ、おかげで俺の思考はねじ曲がってしまったんだ。

 

「ふふっ、なら決まりだね」

 

 嫌悪の感情でいっぱいな俺の思考はよそに、彼女はきっぱりとそう言った。

 すると彼女は、さっきより少し笑顔になった表情をこちらに向け、ずいっと俺に近づく。

 

「私は、これから君と一緒に行動する。

 二言はない・・・でしょ?」

 

 随分と圧を帯びた、ぎらぎらと輝く瞳をこちらに向けながら、彼女はそう言った。

 何か酷く執着するほどのことが俺に対してあるらしいのが、わずかに察することができる。

 

「・・・二言なんてあるもんか」

「ありがと」

 

 まあ、とにかく、ありがたいことだ。

 まだ右も左も分からない俺と、こうして仲間になってくれる人間がいるなんて。

 

「というかさ。私、てっきり仕方なくで承諾されるかと思ってた。

 自己証明もそうだし、昨日のこともあったから・・・」

 

 心外なことを言う。

 確かに、自分の思考を読み取られていると言われれば不気味に感じる人も居るだろうが、俺はとくに何も思わない。

 べつに、そうやましいことばかり考えてるわけでもあるまいし。

 

「───それに、昨日のことに関しては、俺が勝手にトラウマを思い出して鬱になってただけだし」

「勝手にって、それは私が・・・」

「どこの馬の骨ともわからん輩が、親密にしていた友人の体の中でよろしくやってるなんて状況・・・・・・もし、俺があんたと同じ立場だったとするなら、まったく同じ行動をしただろう」

 

 だから気にするな、ということだ。

 むしろ当該の事柄に関して気を負うべきは俺なのだが、ぶっちゃけた話、もう起こってしまった不可抗力の出来事に割ける脳のリソースはない。

 元も子もない話をするなら、べつに俺と親しい間柄にある人間が死んだわけでもあるまいし、できるだけドライに考えなければ。

 ただし、お気の毒に・・・とは思う。

 俺が経験したことの上位互換みたいな出来事が起こっているのだから、心の底から同情はする。

 

「まあ、俺がコミュニケーションをミスったのも事実だな」

「───私がサポートしたにも関わらず、ですね」

 

 ベッドの上に寝転がったまま、唐突に口を挟んできたニア。

 ティアは驚いたのか、体がびくんと跳ねた。

 狙ってやったのなら、かなりタチが悪い行動だが───彼女のことだから、たぶん狙ってやったわけではない。

 何となく、そんな気がする。

 

「唐突に会話に入るなよ。びっくりするだろ」

「入る隙がなかったもので」

 

 まあ、微妙な空気になりかけていたのを払拭してくれたと言えばそうなのだから、素直に感謝しよう。

 

「それで、結局ティアさんは何をしにここへ?」

「・・・理由は無いって言われたろ」

「否定。彼女は嘘をついています」

 

 まさに淡々とした物言い。

 現在は意図しないものだが、何か詰問をしたい時は頼りになる。

 

「まじ?」

「・・・・・」

 

 俺がティアに目線を合わせようとすると、彼女は()()()という効果音が出そうな表情をしながら、ゆっくりと目を逸らした。

 

「先程から、私に対して何か後ろめたい感情を抱いていたようですが・・・その理由は、嘘をついてまでここに居座っている事実に関連がありますか?」

 

 悪気はないのだろうが、まあ、酷い言い草だ。

 そんな淡々とした言い方のニアに対して、ティアは少し躊躇うような素振りを見せた後───俺から目線をそらしたまま、かなり遠慮をしながら口を開く。

 

「・・・監視役の思考が気持ち悪かったから」

 

 なんだ、事案か。

 他人の思考が見えてしまう能力を持っていると、どうしてもこういった出来事が起ってしまうわけだな。

 

「・・・だとしても、ここじゃ居場所がバレるんじゃないか?」

「昨日のことが把握されていないから、私がここに居ることはバレないと思った」

 

 ナギは情報を共有していなかったのか。

 まあ、そのうちバレるだろうが・・・今は問題ないらしい。

 

「他人事みたいに考えてるみたいだけど・・・」

「?」

「君も、キクさんの守備範囲内だよ?」

 

 ああ、嫌な予感がする。

 まさか、俺が守備範囲内なのを利用して、その人との親睦を深めさせようだとか、そんなことを考えてるわけじゃあるまいな。

 

「・・・・・たぶん、そうだと思う」

 

 かなりキツい、迷いに迷った思考が故に生まれたであろう間が開いてから、彼女は俺の考えを肯定した。

 俺は初対面でのコミュニケーションに関しては得意な方だと自負しているが、飛び抜けた変態との会話は普通に苦手だから勘弁してほしい。

 

「・・・適度なショタコンだといいが」

 

 ()()()()()()()()とかいう意味不明な単語はさておき、これは紛れもなく、切実な願いだった。

 

 

 

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