愛され気質な逸般人の異世界奮闘記 作:Mat0Yashi_81
だからこそ、彼はその勝負を受けてみせるのだ。
「・・・どう?」
「体の負担を考えたら・・・もう少し攻められるな」
「わかった。待ってる」
暇神様にお呼ばれして、現世に戻ってきてから1時間と少しが経った頃。
俺とティア、ニアの3人は訓練場を借り、俺の自己証明の調整を兼ねた模擬戦をしていた。
「・・・よし、オーケーだ」
「また動いてみる?」
「頼む」
模擬戦・・・と言っても、ティアにとっては軽い運動くらいのものだ。
ニアも俺の体の状態を把握するためのサポートに回りきっているため、言い訳ができないくらい頼りっぱなしだったり。
「今度は私から行くよ」
「了解。いつでもいい」
今やっている事自体は楽しいことをする為の準備段階であるため、基本的には淡々とした作業みたいなテンションだ。
体を動かす時は少し楽しいものの、把握しておかなければならない所が多くて忙しい。
まあ、そういうところも楽しいのだが。
「っ・・・!」
そんなことを考えていると、急接近してきたティアが突き出した拳が、ギリギリで顔を傾けた俺の頬を掠めた。
続く足払いからの中段蹴りをバク転で回避し、瞬間移動魔法を準備しておく。
思考を切り替えつつ、ティアが身体強化魔法で地面を蹴って俺の懐に入ってきたところで、俺は準備しておいた瞬間移動魔法を起動して彼女の頭上に瞬間移動する。
「ファイアボール!」
簡単な攻撃魔法を発動し、ティアの背中を狙い撃とうとすると、一瞬で反転した彼女が手刀で魔法を跳ね返してきた。
俺はそれを空中の姿勢制御で回避してから着地し、後ろに跳びながら魔法の準備をする。
「・・・逃がさない」
何らかの魔法を拳に込めながら、ティアは俺の背後に瞬間移動してきた。
ここから避けるのは間に合わないだろうと思った俺は空中で向きを反転し、彼女が繰り出す魔法を相殺しようと、彼女が突き出す拳目掛けて魔法を放つ。
「エクスプロージョンッ!」
「はあっ!」
方や小規模の爆発魔法が、方や拳に纏われた炎の魔法が至近距離で発動し、激しく激突する。
炎の魔法が爆発魔法を刺激したのか、拳と掌の間で激しくぶつかり合った魔法は一瞬だけ輝いたかと思うと───至近距離で鳴らされたクラクションに匹敵する凄まじい音と、強めの台風の時に吹くビル風並みの爆風を発し、俺とティアをそれぞれ反対方向に吹き飛ばした。
「っ・・・はは!」
この間、30秒もない。
ただの模擬戦だというのに、ここまでのスピード感があるとは。
下手なアクションゲームより目まぐるしい展開には、どうも気分が高揚してしまう。
『マスター』
「・・・・・?」
『今の運動で、問題はとくに見つかりませんでした。
マスターの主観ではどうでしたか?』
だいたい7メートルほど吹き飛ばされ、危なっかしい姿勢で着地したところで、ニアからの質問。
頭の中に直接流れ込んでくるニアの声を認識すると、俺は乱れた息を整えつつ、ゆっくりと立ち上がりながら質問に答える。
「俺の方も・・・とくに問題はない。
あとは動かし方を慣らしていけば、ある程度は戦えるようになるはずだ」
とは言っても、完全に問題がないわけではない。
今の俺が使っている身体強化は、本来のような魔法───もとい、非常に便利な物質である魔素を使用する身体強化ではなく、俺自身の肉体を改造し、通常以上の身体能力を得るものだ。
この世界の戦闘の原則である「位置把握と身体強化を同時に行うことはできない」という制限を完全に無視することは最大のメリットだが、肉体の改造によって肉体的なエネルギーのリソースが増えるわけではない。
どこぞの野菜人よろしく、必要なエネルギーが多いために腹が減って仕方がない。
「あら~。今の動き、やっぱりセンスあるね~」
「・・・キクさん」
全く重心がブレない歩き方で、キクさんが訓練場に入ってきた。
心做しか声色に違和感を感じるが、何も手がかりはないのでスルー。
木剣を携え、こちらに近づいてくる彼女は、とても俺のひとつ上だとは思えない雰囲気を漂わせている。
「もしかして、手伝ってくれるんですか?」
木剣を持っているのは、騎士団の訓練か何かがあったからなのだろう。
少し熱っぽい空気を纏っているのも、その訓練が長引いたからか。
「きみが望むならそうするけどね~。
あの子のほうが、きみと相性がよく見えるよ~?」
「合わせてもらってましたからね。
そんな最初っから動けるわけないですよ」
本人は言っていないが、ティアはおそらく、俺の思考を読みながら戦ってくれていたはず。
そうでなくとも、手加減をしてくれていたことくらいはわかる。
「それに・・・ちょうど今、自己証明に依存する身体強化の調整が終わったところです」
「自己証明を使った・・・?」
「ええ。ですが、どうにも避けられないデメリットが生まれてしまいまして。それを緩和する手段を探したいと思って・・・・・」
そこまで言ってから、キクさんの顔を見ると───なんというか「鳩が豆鉄砲を食らったような表情」を絵に書いたような表情を貼り付けていた。
「・・・どうしました?」
「きみさ~・・・今の言葉、よく理解してる?
自己証明の内容を開示することが、どういう意味を持っているのか知ってて言ってるの~?」
「でなきゃ言わないでしょう」
「う~ん・・・」
困っているな。
俺とて馬鹿じゃないし、自己証明がこの世界の常識的にどういう代物なのか、それはもう検討がついている。
ティアづてで関連した事柄を知って以降、それらの常識を知る努力は怠っていない。
観察や盗み聞きなどは無論、褒められたようなことではないが───生憎、その褒められたようなことではないものこそ、俺の得意分野だ。
「信用してるってことじゃダメですか?」
少し微笑み、キクさんの瞳を見つめながら、そう口にする。
俺の山勘が言っているのだ。
変なこだわりを持っていないで、さっさと仮面を拵えろ・・・と。
「・・・はあ」
キクさんが深くため息をつく。
頭を抱え、さっき以上に困っている様子だ。
「───ねえグレイア。
結局、身体強化の調子はどうだったの?」
突然、俺の後ろからひょっこり顔を出したティアは、わざとらしく問いかけてきた。
尻尾で俺の背中を叩いているのは、たぶん言葉に気をつけろということだろう。
何せ今は、彼女に対して「知ってるくせに」なんて言いたくても、自己証明に関連したことは言うことができない。
「だいぶ腹の減りが速いのが問題になりそうだ」
「・・・お腹の減り?」
「そう、腹の減り。
ただまあ、その分だけ身体の能力は向上したわけだけどさ」
先程の説明の続きも合わせて言葉に出す。
まだ大方の性能だけしか試せていないが、それだけでも十分な能力が出せている。
腹が減るという問題も、調整完了した身体強化の程度を基準として、ちょうどいい塩梅に落とし込めれば緩和できるだろう。
刻むとしたら、だいたい20,50,80ってところか。
あとは・・・そうだな、もしもの状況に遭った時のために、体の負荷を考慮しない調整をしたいな。
「・・・・・」
しかしまあ、微妙な空気が漂っている。
何かまずいことを言ったか。
「そういえば、キクさんは何をしにここへ?」
彼女が俺の監視役であることは知っている。
ティアは監視が必要ないと判断されたようだし、特別目を付けなければならないと思われているのは恐らく───転生者である俺と、謎しかない存在であるニアだ。
「きみの監視だよ。可能なら、真の実力を知れだなんて言われたけど・・・」
「・・・言っていいんですか?それ」
「まあ、どうせ言っても変わらないから~。それにきみ、まだ慣れてないんでしょ~?」
キクさんはそう言うと、木剣を構えてこちらを向いた。
「それで〜・・・どうする〜?」
吹き付ける風のような圧を感じる。
妙な威圧感だ。
「慣らし、手伝ってくれるんですか?」
しかし、付き合ってくれると言うのなら話に乗らない手はないだろう。
俺が端的に問うと、彼女は木剣を握りながら、その威圧感に似合わない柔和な笑みを浮かべた。
「本気でやろうね~。私、手加減しないから」
煌々と輝く木剣の刃は、彼女の気配と合わさって、木剣にあるまじき威圧感を放っている。
そして、それに上乗せされる彼女自身の殺気や威圧感。
初めの頃、殺人鬼に補足された時と似た感覚。
蛇に睨まれた蛙のように、体が少し強ばってしまう。
「・・・千変万化、短剣」
しかし、怖がっていては楽しむものも楽しめない。
俺は短く唱え、固有武器を手に持つ。
結晶が集まって形成されたような、歪な形の片刃の短剣。
俺の体型も相まって、正面切っての勝負には向かない代物だ。
「グレイア、無理はしないで」
「わかってる」
ティアにはそう言われたが、俺は今の所、限りなく無理をするつもりだ。
この体は死なないし、キクさんもそれを見越して攻撃してくるだろう───というか、してきてほしい。
向こうから手加減をしないと宣言されたのであれば、こちらも手は選ばない。
全力で逃げて、全力で抵抗するだけだ。
「・・・やりましょう。キクさん」
俺はそう言い、刃をキクさんに向ける。
「俺は・・・そう簡単にはやられませんから」