愛され気質な逸般人の異世界奮闘記   作:Mat0Yashi_81

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 冒険者ギルド、その頂点。
 名だたる強者を統べる男との会合。





3-2:ギルドマスター

 

 

 

「・・・イア、グレイア」

 

 耳元で聞こえるティアの声と、体を揺さぶられる感覚。

 絶えず聞こえる、車輪が地面とぶつかる音。

 ちょうど良い時間帯と、ちょうど良い移動手段。

 そして、ここ3日はダラダラと過ごしていたしわ寄せがやってきたせいだろうか。

 遠出から帰ってくる際の車の中で感じる感覚にも似た、この心地よい揺れのお陰もあって、どうやら俺は寝てしまっていたらしい。

 

「起きて、グレイア」

「・・・・・ん」

 

 眠気に侵され、未だ重いままの瞼を頑張って持ち上げ───次に、ティアの肩に寄りかかっている上体の姿勢を正そうと、どうにか補正を試みる。

 

「・・・・・」

 

 しかし、どうにも眠気には抗えず。

 ゆらゆらと、自分でもわかるくらい安定しない姿勢で、どうにか意識をはっきりさせようと努力する俺。

 そんな間抜けな絵面を見かねたのか、ティアが俺の横顔に顔を近づけ、何かをしようとしている。

 

「・・・・・かぷっ」

「っ・・・」

 

 ・・・かと思えば、ティアは突然、俺の耳を甘噛みしてきた。

 

「・・・大胆なことするねえ」

 

 俺が目を開け、少し視線を上げると、そこには口角が天井に突き刺さるんじゃないかってくらいブチ上がった状態でこちらを向いている変態がひとり。

 その強烈なご尊顔のお陰で完全に目が覚めた俺は、意識がはっきりしてきてまず目に入ったニヤけ面がいたく気に障った。

 

「・・・・・ナギ、殴っていいか」

「どうして???」

 

 開口一番にそんなことを言われた上、それが全くの冗談でないことが理解できてしまうナギは、先程のムカつくニヤけ面とは打って変わり、なんだかもうとてつもないほどの困惑の色で顔を染めている。

 対して俺は、寝起きでテンションが整えられず、スンとした態度のままでティアに顔を向け、口を開いた。

 

「悪い、だいぶ熟睡だった」

「大丈夫。きみがあまりにも起きなかったから、少し荒っぽいことをしちゃったけど」

「叩き起してくれても構わなかったんだけどな」

 

 実際、俺は毎朝のように叩き起されていたから、今更何をされながら起こされようと構いはしないだろう。

 それこそ、相当なライン超えでない限りは。

 

「じゃあ、次は殴って起こした方がいい?」

「・・・限度って知ってるか?」

 

 相当なライン超えじゃない限りはって思考したろ。

 もしかして、ツッコミの具合で俺がちゃんと起きているかを確かめようとしたのか?

 

「ふふっ・・・ちゃんと起きてる」

「お陰で目が覚めた」

 

 これはまあ、肯定と捉えていいのだろうか。

 まだ感覚は掴めていないものの、ティア側から合わせに来てくれているので、裏のコミュニケーションは滞りなくできている。

 それに、忙しくならない程度の思考で一連の流れを掴めるおかげか、こちらとしても対応がイイ感じに楽しい。

 

「・・・・・なんか、僕とその子で対応の仕方が違くない?」

「野郎に甘えるなんて気持ち悪いことするかよ」

 

 我ながら完璧なジト目をしつつ、不安げな顔をしているナギに向けてそう吐き捨てた。

 

「・・・グレイア、なんかナギさんには当たり強くない?」

「そもそも俺は口調がキツい方。

 だからって誰彼構わず悪口を言う訳じゃないが」

 

 これまた嘘じゃないことがわかって、ナギは混乱していることだろう。

 ・・・と思ったら、ナギは怪訝な表情でこちらを向き、口を開いた。

 

「・・・遺憾の意だよ。ホント」

「言ってろ、変わらんぞ俺は」

 

 罵倒なのか褒めてるのか自分でもよくわからない言葉を吐きつつ、俺は再び馬車に揺られるのだった。

 

 

 

 〇 〇 〇

 

 

 

 そこから10分ほどが経過した後。

 俺達は停止した馬車から降り、デカデカと「冒険者ギルド 王都支部」と書かれた看板が掲げられたデカい扉を通り、周りからの注目を集めながら奥へと案内されていく。

 目測だが、パッと見の大きさを見た時、この冒険者ギルドの建物の縦幅はだいたい10メートル超えで、横幅は30メートルくらいあるように見えた。

 じっくり見る暇がなかったのは残念だが、これは色々と事が済んだ時に1人で来れば良いだけだな。

 ますます、この立場から開放される時が楽しみになってきている。

 

「ほーん。お前さんが虚無の寵愛者かァ・・・・・」

 

 それでまあ、現在進行形で起こっていることの話だ。

 ナギに案内されてやってきた場所は、ギルドの建物の奥の方にある───恐らく、戦うことを想定しているであろう場所。

 

「なあナギさんよォ。

 俺ァあの配信を見てなかったから知らねんだが・・・こいつ、ホントに強ェのか?」

「それを知りたければ、後で街に出てアーカイブでも買ってくるといい。

 君のコレクションにする程度の価値はあるはずさ」

 

 組織のトップとは思えない、荒々しい口調。

 それに見合った容姿と形容すべきであろう、傷だらけの顔面と身体。

 ナギの言葉に不機嫌そうな態度を取るその顔には、まるで蛇のようで、睨まれたら足が竦んでしまいそうな瞳がたたえられている。

 

「チッ・・・今回はお預けってェことかよ。

 せっかく楽しみにしてたのになァ・・・・・」

 目測だが、身長は180前半ほどだろうか。

 シルエット的にも細マッチョって感じで、あまりガタイが良いという印象は抱かない。

 

「・・・んで、まさかとは思うが。

 俺が戦うの、このド綺麗な猫ちゃんだったりしねェよな」

「お生憎様、そのまさかだよ」

「ウッソだろお前・・・」

 

 若干だが育ちの良さを感じてしまう語彙を聞き流しつつ、会話の差し込みどころを伺っていた俺は、丁度よさそうな間を見つけたので口を開いた。

 

「───ナギ。俺たちはお偉いさん同士の井戸端会議に混ざりたくて、お前の後ろを歩いてきたわけじゃない」

 

 単純な催促。

 楽しそうな会話に水を差すようで悪いが、今の所、俺とティアは完全にハブられている状態だ。

 客人ならせめて挨拶くらいはしろと。

 なんで無視してだべってんだマジで。

 

「・・・ッハハ!

 おいおい、虚無の寵愛者サマってェのは、随分と薄情な物言いをするじゃねェか!」

「・・・・・お気に召したなら何よりだよ」

 

 何が薄情だとツッコミたいが、他にもツッコミどころは大量にあったから我慢。

 ここは大人しく言葉を続けて、返答から会話の流れを読もう。

 

「自己紹介すらせずに談笑。

 仮にもお偉いさんだってんなら、その辺りは弁えてほしいんだけど」

「言うなァ。てことはお前さん、自分にそれほどの価値があると思ってるってことで・・・いいんだよな?」

 

 ギルドマスターは俺の目の前に立ち、俺の眼前まで顔を近づけて、威圧感たっぷりの瞳をギラつかせながら、そう質問をしてきた。

 

「肯定する。俺は、それほどの価値がある人間だ」

 

 さも当然かのように、堂々と、曇りなく。

 俺は冷静にそう答え、相手の瞳を見つめ返す。

 例え俺が弱かろうと、転生者という肩書きには一定以上の価値が付与されると言って差し支えないはずだ。

 それに今は、その基礎価値を差し引いたとて───この国中すべてに配信された戦闘で正義の寵愛者に勝利した、という、世間に対して十二分に影響を与えられる要素も俺にはある。

 そして無論、謙遜するつもりもない。

 

「嘘・・・じゃねェな。ここでハッタリかますようなヤツなら、ナギがここまで入れ込むはずがねェ」

 

 俺のしっかりとした口調による返答に対し、彼はどんな反応をするでもなく、冷静に思考を巡らせつつ姿勢を正した。

 そのまま暫く、彼は起立しているタイプの考える人みたいなポーズで思考を巡らせた後、少しニヤッと笑いながら俺の方を向き、言葉を発した。

 

「・・・・・へっ、気に入ったぜ。

 そう来るってェなら俺も、正義の寵愛者サマであるお前さん───グレイアと、ひとりの人間として、()()()()()()接してやろうじゃねェか」

「・・・安っぽい表現だね。相変わらずで安心したよ」

「るっせえぞナギ。嫉妬なら受け付けてねェよ」

 

 ナギのよくわからない合いの手を受け流すギルドマスター。

 こいつ、対等に話せる相手がいないとか言っていたが、それって自分で勝手に線引きしてしまっているからなのでは。

 べつに、今の会話の雰囲気を見る限りでは、彼とナギは友人だと言われても違和感はないだろう。

 陰キャを自称していたことと関係があるのだろうが───まあ、興味はないな。

 

「・・・さて、まずは俺から行こうかァ」

「どうぞ」

 

 気を取り直して・・・と言わんばかりに頭をかきつつ、彼は俺に向かってそう言ったので、俺は簡潔に返答をした。

 

「俺の名前はリベル。

 主要大陸郡部冒険者ギルドのトップをしてて、まあ、なんつーか・・・・・明確な呼び名で言うなら、ギルドマスターってヤツだ」

 

 彼───リベルは、なんだか役職に肯定的な感情を抱いてなさそうな言い方でそう話す。

 

「冒険者としてのランクはA、ポジションは前衛だ。

 ランクを見て分かると思うが、今んとこナギには勝ててねェ。だからお前さんの戦闘を参考にさせてもらうぜ」

「・・・参考になるといいな」

「へっ。じゃあ次はお前だぜ」

 

 順番を振られた俺は二ッと笑いながら返事をし、脳みそが勝手に作り出してくれた台本に目を通す。

 こればっかりは、前世で何度もやってきたことだ。

 ノリが軽い分、もっと気楽にやれて自由度も高いのは嬉しいな。

 

「───知っての通りかもしれないが、俺の名前はグレイア。

 歳は17で、元はただの趣味に生きる学生だった」

 

 趣味については割愛。

 自己紹介を続けていく。

 

「前世では運動ができなかったこともあって、今の戦闘技術の基本は貰い物だが・・・逆に言えば、それ以外のほぼ全てが持ち前の才能で構成されてる。

 どうやら、前世で生まれ持った個性が上手いこと、この世界の仕様と噛み合ったらしい」

 

 その個性は一切合切、俺の今までの人生に還元されることのなかったモノだけど。

 宝の持ち腐れとはよく言うものの、俺は本当にその言葉が良く似合う人生だった。

 せめて、クリエイターやらデザイナーやらを目指していれば・・・それを活用出来る今においても、こうして宝の持ち腐れを後悔することはなかっただろうに。

 

「つくづく、お前さんと戦えないことをつまらなく思うぜ。

 この融通効かせねえクソッタレのせいでよ」

 リベルはそう吐き捨てながら、真顔で突っ立っているナギを睨みつける。

 だが、表情がそこまできつくないのを見るに───その融通の効かなさの理由を把握しているのか、そこまで不機嫌、というわけでもなさそうだ。

 

「・・・・・はあ。

 まあ、今は大人しく仕事をするしかねェってことなんだろうけどな。いずれグレイア、お前さんとはぜっっったいにサシでやり合ってやるぜ」

「・・・わかった。楽しみにしている」

 

 出会って数分だと言うのに、彼が「戦い」にどれだけ情熱を向けているかがひしひしと伝わってくる。

 俺と1体1で戦う約束だなんてそんなこと、初対面でわざわざ宣言するくらいなのだから、本当に戦うことが好きなのだろうな。

 

「んじゃァ、リーダー同士の自己紹介も済んだことだし───俺達が今からすることの説明をするぜ」

 

 リベルはそれっぽい仕草で視線を誘導すると、そのまま身振り手振りを合わせながら説明をし始めた。

 

「冒険者になるには、自分に相応の「価値」があることを証明しなきゃならねェ。

 だから冒険者になることを望む新人は監督官に自分の得意を言って、それに関する軽い試験を受けてもらうんだが・・・・・」

「俺は免除と」

「あァ。国中に配信された時点で、もう証明は不要だろってナギが考えたんだ。

 まったく余計な判断をしやがってよォ」

 

 なんか隙があればすぐにナギを睨む。

 もう気に入らないことは分かったから、早く説明の続きをしてほしい───と思ったので、我ながら卑怯だと思いつつも、思っていることをめちゃめちゃ顔に出してみた。

 

「まあ、だから・・・今ここで実力を証明しなきゃならねェのは、お前さんの隣に立ってるド綺麗な猫ちゃんだけだってこった。理解したか?」

「理解した」

「・・・はい」

 

 わりかし効果はてきめんで、今度はナギに構わずすらすらと説明を続けてくれた。

 ティアも返事をしながら頷き、リベルはそれを見て言葉を続ける。

 

「んで、俺はお前さんの価値を見定めなきゃならねェから、お前さんの得意なことを知りてェわけだ。

 戦闘や治癒、援護でも何でもいいぜ」

 

 内容が自由というのは良いな。

 必ずしも、戦闘面での強さがなければならない・・・というわけでも無さそうだし。

 

「治癒職は先が狭くて微妙だが、援護職は進む先によっちゃ戦闘もできるし───」

「戦闘職で」

「・・・・・は?」

 

 ティアの言葉に、リベルは固まった。

 彼は恐らく、気を使っていたのだろう。

 だがティアは構わず、さも当然かのように自分の望みを言ってのける。

 

「戦闘職の試験でお願いします。ギルドマスター」

 

 やや煽るような、そんな言い方。

 なんだそれと思って彼女の方を向くと、彼女は少し微笑みながら俺の顔を見てから、再びリベルの方を向いた。

 

「・・・・・いいぜ、着いてきな。ルールを説明してやる」

 

 悪い笑顔。

 一言で表すなら、こんな感じ。

 何かに気づいたような表情と、期待に満ちた表情が混在しており───よく言う「ニチャア」という音がピッタリ当てはまりそうな表情になっている。

 

「わかりました」

 

 ティアは簡潔に返事をした。

 そして、無言のままでこちらを向くと───何やら口元に不安が垣間見える表情のまま、俺の目をしっかりと見つめながら、彼女は口を開いた。

 

「・・・これから私、はじめてきみの前で戦うね」

「無理はするなよ」

 

 何度か言われたことを、そっくりそのまま返す。

 もう既にティアは俺にとっての「大切な人」のうちに入っているし、怪我でもされちゃ心臓に悪い。

 自分は荒っぽくやるくせに───いかにも自己中で勝手な考えだが、人間のエゴなんてものは往々にしてそんなもんだろう。

 

「うん。それで、私からも1つ・・・お願いがある」

「・・・治癒なら門外漢だぞ」

「ううん、そんなことじゃない。

 私にとって最も重要で、危惧してること」

 

 真面目な表情をして、俺の目をじっと見つめながら。

 ティアは口元を震わせつつ、言葉を続けた。

 

「この戦いを、私の戦い方を見ても───君は私の事、嫌いにならないでね」

 

 

 

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